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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

2010年9月14日 トロントにて
キム・ジウン監督『悪魔を見た』第35回トロント国際映画祭 (1)北米プレミア
<キムチ・リベンジ・スリラー> 観客の喝采を受ける

<FINECUT 提供 映画祭用パンフレット>

8月12日の韓国公開から一ヶ月後、現地時間の9月14日午後20時、第35回トロント国際映画祭のスペシャルプレゼンテーション部門で、北米プレミアとして公式上映された。韓国では映像物等級判定により、いくつかのいきすぎた残酷シーンの削除を強いられたが、トロントではオリジナル編集バージョンを観ることができた。


美しい歴史的建造物であるWINTER GARDEN THEATERで、劇場の2階の隅まで満員になった観客の大歓声に手を上げて答えながらキム・ジウン監督が登壇した。「今日これから上映されるフィルムは、韓国で削除編集をして上映されたバージョンよりも残酷なシーンが多く含まれています」と挨拶をした。「ここにいる映画祭Co-DirectorのCameron Bailey氏が 2008年の作品『Good Bad Weird』を<キムチ・ウェスタン>と紹介してくれましたが、『悪魔を見た』は<キムチ・リベンジ・スリラー>です。キムチのように辛くてぴりっとした感覚を味わえるはずです」と紹介して、会場を沸かせた。1ヶ月前に韓国封切り直前に味わった大変な苦労から開放された晴れやかな表情の監督に会うことができて、私もとても嬉しかった。

気になるオリジナル編集バージョンは、韓国封切バージョンと並べて検証したわけではないので正確かどうか自信が無いが、監督が語ったところの「わさび」を抜かない寿司になったのを実感した。いくつかの暴力以外の場面が削られて、韓国で問題となった人体の扱いのシーンや、犯人に苦痛を与える復讐シーンがより長めに詳細に描かれていたようだ。ストーリーラインや感情の動き(ネタの味)は変わらないが、より強烈な印象が残る映像(わさび)が効いていた。

筆者は、何度目かの鑑賞なので冒頭の衝撃シーンにめげない余裕が出てきていた。ぴったりした白いシャツ姿のイ・ビョンホンが、フィアンセと通話する携帯電話を頬にはさんだまま、上着をはおる動作に見とれていたのだが、トロントの観客達はすでにここから爆笑で反応しはじめていた。その後、とうてい有り得ない残忍な方法で苦痛を与える暴力シーンと、これでもかというようなグロテスクな情景が次々と襲ってくる。そのたびに手で顔を覆う女性もいたが、多くの観客からは、そのたびにあちらこちらから「Oh~」っと歓声があがり笑いと拍手が起こった。映画祭の観客はあまりに激し過ぎる復讐をブラックコメディーとして消化していたようだった。しかしラストシーンでは、しばらくクローズアップされたままスクリーン一杯に映し出されるイ・ビョンホンの表情に、劇場全体が静まり返った。

エンドロールが流れはじめ、司会の「皆さん悪魔を見つけましたか? 今回の映画祭のラインアップの中でも最も質が高く重要な作品のひとつです。」との紹介に始まり、上映後のQ&Aのため監督が再び登壇した。


マイクの用意が足りなくて質問者も舞台に上がるようになった。ある地元の男性は監督がトロントまで来てくれたことに感謝して、ジウン監督と作品の長年の大ファンであると握手を求めた。また在カナダ韓国人の若い男性は質問よりも、監督のすべての作品をどれだけ愛しているかを語り、韓国に住んでいたら決してお会いする機会がないだろう素晴しい監督が目の前にいることに感極まって、監督に抱擁する微笑ましい光景も見られた。前の週に訪れたベネチアには北野武監督マニアがいたが、この週のトロントではたくさんのキム・ジウン監督マニアに遭遇した。

「もっと残酷さを強くしてもよかったのではないか?」とのコメントに「これ以上激しいものを撮ったら訴えられるだろう」と笑いを誘った。「オールドボーイで強烈な復讐する側を演じたチェ・ミンシクをいったいどうやって反対に悲惨に復讐される側に変貌させたのか?」という質問には、「トロントの気候のせいではなく、難しい質問を受けたときに咳が出る」と咳払いをして、「チェ・ミンシク氏は復讐する役を希望していたが、『オールドボーイ』から5年が経過していて体型も変わっていらっしゃった(笑)。私としては、復讐者にはクールでスマートなイメージが欲しかった。結果的には、彼以上に残忍に殺人鬼を演じられる俳優は韓国にはいないという良い評判となった」そして「チェ・ミンシク氏の炎のようなカリスマのエネルギーと、イ・ビョンホン氏の洗練された繊細なディティールにまでこだわる演技スタイルの好対照なコントラストがこの作品に力を与えている」と答えた。映画の中の台詞に関する細かい質問もあり観客の興味の深さも特別だった。そして「次の新しい作品を持ってまたトロントに帰って来たい」と締めくくった。

近くに座っていた観客に聞いてみたが、「おもしろかった」「すばらしい」というだけでなく「美しい」という感想が何人もから聞かれた。「監督作品の中で最高!」と言った映画祭関係者もいた。会場出口で待っていたジウン監督のファンだけでなく、ちょうど同時間の上映でゲスト来場していたキアヌ・リーブスのファンからもサインを求められるなど、楽しいトロント国際映画祭の夜は更けていった。


キム・ジウン監督は、2008年の同映画祭でイ・ビョンホン、チョン・ウソンと一緒に参加した『GOOD BAD WEIRED』の派手なレッドカーペットとGALA上映が記憶に新しく、過去作品とともに地元の映画ファンにも良く知られた人気監督だ。

参照 : シネマジャーナル本誌76号 2008年トロント国際映画祭『Good Bad Weird』北米プレミア上映レポート


<関連記事のリンクはこちらです>
キム・ジウン監督『悪魔を見た』 韓国封切初日 (8月12日)
    한국어 번역 => 2010_0812_ISawTheDevil_Seoul_JP_KR.pdf
キム・ジウン監督『悪魔を見た』 第35回トロント国際映画祭 (1)北米プレミア (9月14日)
    한국어 번역 => 2010_0914_ISawTheDevil_Toronto_1_NA_Premiere_JP_KR.pdf
キム・ジウン監督『悪魔を見た』 第35回トロント国際映画祭 (2)監督インタビュー (9月14日)
    한국어 번역 => 2010_0914_ISawTheDevil_Toronto_2_KJW_Interview_JP_KR.pdf
『悪魔を見た』ジャパンプレミア&キム・ジウン監督インタビュー


(取材・文 : 祥)

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