台北に舞う雪~Snowfall in Taipei(原題 台北飄雪)
監督:霍建起(フォ・ジェンチイ)
2009年 中国・日本・香港・台湾
*ストーリー*
大陸出身の新人歌手メイ(童瑶)は、台北でヒット歌手になるという夢をつかみかけていたが、新曲発表を前に声が出なくなり姿を消した。たどり着いたのは山あいの町青桐(チントン)。そこで、天涯孤独の青年モウ(陳柏霖)と出会った。モウは失踪した母が戻ってくると信じ、町の仕事を手伝いながら暮らしていた。それは、自分を育ててくれた人たちへの恩返しの気持ちだった。
そんなやさしい青年と出会ったメイは、宿を斡旋してもらい、ここで生活を始めた。モウが紹介してくれた漢方医のおかげで少しづつ声が出るようになり、元気を取り戻していった。回復したら元の世界に戻っていくだろうと思いつつモウはメイに淡い恋心をいだくようになる。正月に願い事を書いた天燈を一緒に空に放つ約束をしていたが、再スタートをするためメイは町を去っていった。
心休まるこの作品を撮ったのは、中国の霍建起監督。今まで『山の郵便配達』『故郷の香り』『ションヤンの酒家』『初恋の思い出』などの作品が日本で公開されている。中国の監督が台湾で映画を撮るということ自体が画期的だが、原案・脚本は、日本の韓流ブームの立役者でもある田代親世さん。脚本は監督の妻の思蕪さん。
東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、霍建起監督、陳柏霖(チェン・ボーリン)、童瑶(トン・ヤオ)、楊祐寧(トニー・ヤン)、莫子儀(モー・ズーイー)の五名が来日。監督と莫子儀さんの二人に個別インタビューの時間をいただいた。
(>> 莫子儀インタビュー)
★シネスイッチ銀座2月20日公開
名古屋伏見ミリオン座他 全国順次公開
公式サイト http://taipei-snow.jp/main.php
― 中国と台湾の両岸交流が続いていますが、大陸の監督が台湾で撮るのは初めてではないでしょうか? 経緯をお聞かせください。
監督:台湾で撮影したのは、元々原作が台湾を舞台にしていたからです。私に監督の依頼があったのは日本の投資側の希望です。資金の多い順で、製作国が書かれています。
― 天燈に思いを託すラストが印象的でした。台湾映画『シーディンの夏』(鄭有傑監督)で、天燈が出てきた時に、秋田の旧・西木村(現・仙北市)にも同じものがあるので、台湾にもあるのだと驚いたのですが、その後、『墨攻』や『レッドクリフ』にも出て来ました。天燈のことも原作に書かれていたのですか?
監督:天燈を映画に取り入れようと思ったのは私です。天燈は、もともと福建省など中国南方の風習です。諸葛孔明が発明したとされ、「孔明灯」とも呼ばれています。華人のいるところでは、新年12時になる時に飛ばします。台北近郊のピンシー(平渓)とチントン(青桐)は特に有名で、普段から観光用に飛ばしています。初めて台北で撮るので、自然にストーリーに取り入れると面白いと思いました。
― キャスティングは監督が台湾で行ったとか
監督:去年の東京国際映画祭の前に、1週間ほどでロケハンとキャスティングをしました。その後また台北に行って、旧正月に撮り終えて、今年に入ってポスプロを行いました。
― 撮影は早く終ったのですね?
監督:台北の町は小さくて、チントンまでも近いですから。『故郷の香り』の時は、滞在している町からロケ地まで2時間かかりました。
― ヒロインのメイが、大陸出身で苦労した経緯をあえて描かなかったのは?
監督:今は中国と台湾の文化交流も盛んで、今や大陸出身の歌手やスタッフが台湾で活動するのは普通のこと。それよりも、台北って、こんなに雨が多い所だとか、雪が降らないといったことが新鮮でした。
― 脚本を原案の田代親世さんと監督夫人の思蕪(ス・ウ)さんのお二人が担当されていますが、二人の分担は?
監督:最初に田代さんの脚本があって、日本の投資側が訪ねてきて、中国の製作会社が妻に書き加えるように依頼してきました。
― 監督とも相談しながら?
監督:脚本段階で話はしますが、妻が主導して、人物やストーリーは書きました。天燈など、細かなことは私がアイディアを出しました。
― メイとプロデューサーのレイとの対面シーンは、無断で出て行ったのだから、もっと怒ったシーンがあってもいいと思いましたが…
監督:もし怒ってしまったら、メイが台北に帰らないでしょ。会社の社員じゃなくて、タレントとしてメイは自由な立場なので、縛り付けられないのですよ。
― カフェのウェンディ役のテレサ・チーも印象的でした。
監督:新人の女優で、会ってみたら天然で可愛くて。クォーターですが、生き生きとしていて直感的にいいなと。単純にストレートで、地でやれていいなと。三人の女の子と男の子、それぞれ個性が違う人を選びたかったのです。
― それぞれがいいですね。
監督:マネージャー、リサ役のジャネル・ツァイは、モダンな感じですしね。
― 6人の中で、トニー・ヤンが一番今までとイメージが違いました。
監督:トイトイトイ(そうそうそう!)
また今、元に戻って若くなっていますよ。ちょうど彼に会った時、髪の毛を長くしてパーマをかけていて、音楽プロデューサーのイメージにあうなと。
― モー・ズーイーさんにインタビューしたら、演出が今までの監督の中で一番優しかったとおっしゃっていました。怒らないのですか?
監督:怒るとダメになるので出来るように持っていくのが大事。モー・ズーイーは真面目で、プレッシャーもあったから、特にそのように感じたのでしょう。役者はもろいものですから。
― 次回作は?
監督:どれにするか決めていないのですが、いくつか作品を考えています。
― 次回作も楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。
本誌78号「霍建起監督インタビュー」より転載
取材 景山咲子 撮影 宮崎暁美
記者会見等で監督の印象を尋ねられた俳優たちの言葉から、監督の素顔を探ってみます。
陳柏霖:これまで仕事をした中で、一番優しい監督。声を荒げたことがなかったです。
童瑶:子供っぽい面もあって、好奇心も旺盛で、役者の個性を見事に捉えてくださる方。
楊祐寧:初対面で「台北で一番面白い所は? 美味しいものは?」と聞かれました。仕事が終わると、いつも「さぁ~食べに行こう」と。
莫子儀:人の心の一番いい部分を掴んでくださる。一緒にいて楽しくて心地いい方。