2003年11月12日(水)7:15〜7:50 銀座東武ホテルにて
2月7日よりシャンテシネにてロードショー
→ 作品紹介
→公式HP http://www.syonyan.com/
本作は『ライフショー』のタイトルで2002年9月有楽町朝日ホールにおいて開催された中国映画祭で初上映され、2003年9月のアジアフォーカス・福岡映画祭で 『ションヤンの酒家』としてデビュー。監督には、2002年の中国映画祭の折に合同インタビューを行なっているが、公開を前に主演女優陶紅と共に来日したのを機に、ヒロインの女としての心の動きに重点をおいてお話を伺った。
→ 『ライフショー』霍建起監督 合同インタビュー(中国映画祭2002)
ー 日本での『山の郵便配達』の大ヒットおめでとうございます。また、 『暖〜ヌアン』の東京グランプリ受賞おめでとうございます。 さっそく質問に入らせていただきますが、『ションヤンの酒家』を観たときに一番疑問に思ったのが、 ションヤンが結婚を望んだのに、男が好きなときに会う関係でいいと言ったところなのですが、 これは男と女のセリフが逆じゃないかと。男が一年間お店に通って、 ようやくデートにこぎつけ結婚を申し込むのかなと思ったのですが、 原作がそうなっているのでしょうか?
監督: 小説でも別れることは別れるのですが、理由ははっきりしていませんでした。 映画の中でションヤンの方が結婚を望んだのに対し、男は愛人でいいと思っています。 私が映画として練り直して、こういう結論にしました。映画的に別れた理由をはっきりさせる為に、 結婚に対する二人の考え方の違いを明確に出してみました。 中国では今、古風な考え方と新しい考え方の間での心理的葛藤や衝突があります。 そこを別れの場面でも充分に描いたつもりです。
ー 逆に、今、女の人の方が自由な関係を望むのじゃないか、 いくらションヤンが再開発で店をたたまざるを得ないという先行きが暗い状況でも、 結婚を望んだのが私自身はしっくりこなかったのですが、 陶紅さんご自身、そういう女の選択にすんなりと感情移入できましたか?
陶紅: 私が演じるに当って、男と女の考え方の違い、女性の悲しみを表してみたいと思いました。 女性は、ほんとに好きになったとき、いつも一緒にいたい、結婚したいと思うのが自然だと思います。 でも、男は好きでも必ずしも結婚という形を考えないような気がします。 そこに女性の悲しみを見た気がします。ションヤンは結婚したいのに、男の方がそうではないので、 愛人関係でいようと言われたとき、きっぱり「別れよう」と雨の中、 男がすがるのも振り切ったところに女性としてのしたたかさや強さを充分に出したと思います。
ー 監督にお伺いしたいのですが、結婚を断るチュオ・シオンチョウ役に、 失礼な言い方かもしれませんが、こんなオヤジに断られるなんて・・・ という風貌の陶澤如(タオ・ザール)をあえてキャスティングして効果をねらったのでしょうか? それとも、こういうタイプが中国では渋いタイプなのでしょうか?
監督: この男は経済改革の波に乗って一気に金持ちになった男。 商売をやっている男でそんなにカッコいい男はいないと思うし、 もしアラン・ドロンのようにカッコよかったら、 一年も通わなくても一週間もあれば彼女は落ちるでしょう。 離婚を経験していて、外見でなく、より成熟した大人の男を選びたいという思いがあると思います。 ションヤンはあんなに綺麗な女性で店の看板女性。 その綺麗な彼女が1年通い詰められて、あの男とベッドを共にする決意をしたのに、 たまに会うだけでいいじゃないかと言われ、高いところに登ったと思ったら、 一気に墜落したという思い。何度も男が止めるのを振り切って、別れる、もうあの男はどうでもいい、 死んだ蝿を食べた感じ (くやしさや裏切られたという思いがお腹の中にたまったという中国でよくいう言い方)。 (こう監督が語る横で、陶紅さんは、笑う笑う!)
ー あの雨の中、振り切って行く場面は、 新たに決意をして生きていくという感じが良く描かれていましたね。一番の盛り上がりだったと思います。
陶紅: 監督のうまい演出でしたね。
監督: 上手く演じてくれたんだよ。
ー 兄嫁との喧嘩の場面も迫真の演技ですごかったのですが、何かエピソードは?
陶紅: すごいでしょ(笑)! あの場面を撮るために、前日から充分なリハをしていました。 二人の立ち位置も決めて、一晩で取り終えたのですが、野次馬がいっぱいいて、 みんな演技じゃなくて本当に喧嘩をしていると思って、やめろ!やめろ!とうるさかったのですよ。 二人ともハイヒールを履いていましたし、大変でした。
ー 中国映画で女どうしの口喧嘩はよくあったと思うのですが、 つかみ合いは珍しいですよね?
監督: あれ、まだ優しい方ですよ(と、真顔)。女性たちの喧嘩は髪をつかみ合ったり、 それはもう怖いですよ。
陶紅: そう、私たちは比較的見慣れているという感じですよ。 この映画で描かれているような社会の低層にいる人たちが、 ちょっとのことで喧嘩になってしまったというのは、数年前までよく見られた光景です。
ー 重慶の町が印象的でしたが、撮影中のエピソードがありましたら、お聞かせください。
監督: 夜が更けるころから撮影を始めました。食べ物屋さん街で人が多くて、 撮影をしていると野次馬が多くて録音がしにくいのです。酔っ払いが大声で騒いだりするものですから。 夜中を過ぎると比較的静かになるので、いつも朝方まで撮っていた感じです。 陶紅さんがとっても有名なので、サインを下さいとせがまれることが多かったのですが、 ある日、酔っ払いが「陶紅さんを出せ!」と騒いで、記録をしている女性に 「ニーハオ、ニーハオ!あなたが陶紅さんですか?」 と迫っているので、彼女に陶紅だって言っちゃえよとお願いしたことがあります。
陶紅: 一人、女の人でボランティアで現場に毎日やってきて、通行人になってくれたりしたのですが、 彼女は毎日服が違うんですよ。上から下まで赤とか、白とか、緑とか毎日変えてきて、 お化粧も綺麗にしていて、とても不思議な方でした。どんな役でもいいからというので、 通行人になってもらったけど、写っているかどうか・・・ 毎日差し入れをしてくれたりして、いねむりしながらも全然帰らないんです。 この女性は男に捨てられたのか、悲しい人なのか、よくわからないのですが、とにかく不思議な人で、 重慶では有名な人のようでした。
ー ところで、監督は、同じスタイルのものは撮らないとのことで、 舞台も都会や山の中と変化に富んでいますが、 どの映画も底に流れる人に対する暖かさは共通していると感じます。 今後も奥様が脚本を書くという形で、二人三脚で映画を作っていくおつもりですか?
監督: 妻と一緒に仕事をするかどうかは状況によりけりです。妻がいい脚本を書けば使いますし・・
次回作については、今、大体の構想を考えているところです。冬は寒いので外で撮影はしないで、 家でじっと考えて、暖かくなったら撮影に入ります。
終始真面目な顔で語る監督の隣で、ケラケラよく笑う陶紅さんが対照的でした。 そして次作は、また全く違ったスタイルの映画をみせてくれることと期待させてくれる監督の言葉でした。
(本誌 60号にも掲載 )