前日上映時の舞台挨拶には間に合わず、作品の頭も見そびれてのインタビューとなりました。ご夫婦での共同監督で映画を作り続けておられると聞いて、そのへんから質問が始まりました。3社合同の切れ目のない質問にとても明確に答え、それにまつわるエピソードなども加えて話してくださる監督は、とても知的で魅力的な方でした。
Q:いつから監督をされて何本くらい作られたのですか? また、塞夫(サイ・フー)監督との役割分担をお聞かせください。
82年から始めて、10本撮りました。夫はシナリオ科卒、私は監督科でした。共同監督をする時は、現場では私が主導で演出をし、シナリオとその他、全体の掌握は夫です。
Q:ご夫婦だからやりやすいこと、逆にやりにくいことがあるかと思いますが。
モンゴルと日本の夫婦関係は、似ているのではと思います。夫を常に前に、妻はどちらかというと一歩ひいた感じです。家庭と同じように、仕事でもそうしているので特に問題はありません。夫婦で同じ定まった目標がありますので、問題があれば常に話し合って解決できます。他人とだったら、同じ人と10本も作れなかったかもしれません。
Q:OKを出す時はどんな風にされるのですか?二人一緒に出されるんでしょうか?
「停!」と私が出します。編集するときも私ですが、全体を見るのはやはり男性が優れていますので、彼が最終的にまとめます。
Q:どういうきっかけでこの映画を作られたのですか?まず原作・シナリオがあったのか、監督の構想があってシナリオを作ってもらったのですか?
この原作というものはありません。これまでも草原を舞台に撮って来ましたが、ずっと歴史ものでしたので、今度は現代の話を撮りたいと思いました。そういうシナリオを探していて出会いました。それをもとに、自分が作りたいものを付け加えていきました。
Q:今回は北京語吹き替えのものでした。政府の方針などいろいろ問題があるかと思いますが、モンゴル語だけの映画を作りたい、というお気持があるでしょうね。
原版はナレーションが北京語、あとは全てモンゴル語の会話なのです。それに中国語字幕をつけて上映しました。他の国に出品したときも全てその方式でした。映画局が協力してフィルムを提供してくれたのですが、なにか手違いで吹き替え版がきたようです。言葉はたいへん重要ですから、その土地の言語を使いたいのはもちろんです。
Q:日本の侵略から草原を守るという、91年の『騎士風伝』(原題『悲情布魯克』)どのような映画ですか?
全然見たことはありませんか?「抗日」がテーマの映画です。この友好的な雰囲気の中で話すのは避けたいと思いますが…。商業的な映画に、芸術的な要素を加えていった感じのものです。これは、中国の金鶏賞、バルセロナ、東南アジア映画祭などで、いくつかの映画賞を受けました。映画自体の評価というより、高い乗馬技術に対しての評価を受けたのです。男優賞を1人にでなく、騎手全体に対していただきました。
Q:それも監督が指導されるのですか? 今回の映画もですが、非常に男性的なタッチを感じましたが。
はい。私もいい乗り手ですよ。(一同「おおー!」)
Q:ナーダムの場面が大変重要な意味(喋れなかった子どもが初めて言葉を発します)を持っていますが、馬に乗れるということであの子役の少年を選んだのですか?
彼は映画では漢族の少年役ですが、実はモンゴル族です。彼は馬の競技でトップだったのです。また、北京語は全くわかりませんので、北京語を話すスタッフの中にいても一言も理解できません。映画の中では、漢族の少年がモンゴル族に溶け込んでいきますが、状況は同じです。映画の役を演じるのに役立ったと思います。
Q:美しいモンゴルの四季が出てきますが、ロケにはどのくらいの時間がかかったのですか?
合計1年です。特に大変だったのは、狼とのシーンです。4匹の狼を使って馬で追うシーンを作ったのですが、それを1匹に見せるためにとても苦労しました。弟が投げ縄で狼を捕らえるシーンはワンテイクで撮りましたが、大変高い技術が必要なので、そこはスタントを使いました。野外シーンは現地ですが、パオの中のシーンは北京のスタジオで撮っています。
Q:映画の中の黒山羊のシーンはどういう意味だったのでしょうか?
酔っ払った人は身体の中に毒素を持っていると考えられています。その毒気を吸うと死んでしまうので、山羊に吸い取ってもらうわけです。黒山羊でないといけないんですよ。だから女性は酔った男性と寝てはいけません(笑)。
Q:日本の観客へメッセージをお願いします。
モンゴル族と日本人は、文化や性格など共通したものがあると思います。日本に来ても距離を感じません。この作品を日本で上映できるのが嬉しいです。自然や人間に対するモンゴル族の感覚をわかっていただけると思いますので。日本をとても愛しています。
美しく厳しい自然の中での生活、純朴な人達の濃密な愛憎が描かれています。 モンゴル族のシェリガンは5年の懲役を終え、監獄仲間の漢族の子フーズを預かります。 フーズは母親に捨てられてから、ものを言わなくなっています。 妻のポリマーは夫を受け入れようとはしませんが、義弟のテングリと二人、 フーズを可愛がります。次第に心を開いていくフーズと3人の、 「モンゴル結び」に似た「ほどけそうでほどけない」繋がりの生活が始まります。
マイ監督のお話では、日本でまた上映の可能性もありそうとのこと。 再び劇場で観られる日が待たれます。