監督・脚本:ロウ・イエ(『天安門、恋人たち』『スプリング・フィーバー』
撮影:ユー・リクウァイ(『長江哀歌』ジャ・ジャンク―監督)
出演:コリーヌ・ヤン、タハール・ラヒム(『預言者』ジャック・オーディアール監督)
北京からパリに恋人を追いかけてきた若い教師の花(ホア)。
恋人には捨てられてしまい、パリになじみのない彼女は小さなアパートから大学を行き来していた。
そんなある日、花はマルシェの屋台を解体中のマチューと出会い、戸惑いながらも恋に落ちてしまう。
ロウ・イエ監督作品は映画を観る力を試されるリトマス試験紙のようだ。
以前だったらきっと理解できない箇所もわかるし、わからないまでも想像がつく。
急に過去の思い出や、知り合ってすぐのアツアツ時代の画像が流れてくる(あ、流れてくると書いたが、ロウ・イエ監督カメラは、この「流れるような画像」が個性だ)と戸惑うが、すぐ理解できた。
でも、これでストーリーだけ理解したとは言い切れない不安もあったので、もう一度観てみることにした。
1ヶ月ほど後に2回目を観た。
えらく思い違いしていた。ちょっとがっくり・・・
若くて美しくて教養のある花がどうしてこんな男と、と思っていたが、ここは異国、ただ一人、恋人には捨てられた寂しさの3拍子が揃えば「恋する」ことが理解できたし、男にしても現実的な事情もあって「口ほどの純情な恋」ではないと感じた。
あ~、2度観てやっと私にも現実が見えてきた。愛は漂っている「不確かなもの」で、現実生活は「崩しようがない」を突きつけられた。
それを踏まえてもう一度観てみたくなったロウ・イエ作品。
『スプリング・フィーバー』もこの手に乗せられ3度も観てしまったことを思い出した。(美)
『スプリング・フィーバー』公開の折に来日したロウ・イエ監督にインタビューした時、次回作は『預言者』の主役タハール・ラヒムを起用してパリで撮ると伺って、完成を楽しみにしていた作品。(インタビュー:シネジャ80号に掲載) アルジェリア移民の両親を持つタハール・ラヒム。本作では、マルシェの解体作業員という、移民がなかなか労働者階級から抜け出せない役どころを担っている。アフリカ・ルワンダの女性と書類上の結婚をしているが、強制送還を救うためでもあり、本人もお金のためだったのだろう。登場人物の設定に社会派映画の側面も感じさせられる。
原作は、パリ留学経験のある女性リウ・ジエがインターネット上で発表した半自伝的小説「裸」。リウ・ジエは北京電影学院出身で、自ら映画化しようと脚本も書いたが、監督未経験で無理と判断。学生時代から感銘を受けていたロウ・イエ監督に託したという。赤裸々で過激な性描写が話題になった小説だが、人間の本能を描いた普遍的な物語。
男と女・・・出会って惹かれあい、関係を持ってしまった時、それが衝動的であればあるほど、妻子がいるのか、夫や恋人がいるのかといったことは気にしないだろう。本気になったとしても、隠していればわからない。知ってしまったとしても、深く愛してしまったら、なかなか身を引くことができない。
ホアが教養のある女性だとしても、男にフラれ自暴自棄になっている時に、マチューのような精悍ないい男が目の前に現われたら、ふら~っと寄り添いたくなってしまうのはよくわかる。それが、自分のことを知る人のいない本国から遠く離れた町ならばなおさらのこと。ホアの揺れる思いを、ユー・リクウァイのカメラがまさにふわふわと揺れるように捉えている。
なお、音楽を担当したのは、『天安門、恋人たち』『スプリング・フィーバー』に続いてイランのペイマン・ヤズダニアン。『天安門、恋人たち』の折に、彼の音楽を聴いただけで気に入って依頼。その後、北京で初めて会って、すごく古い友達のように意気投合し、『スプリング・フィーバー』の音楽も依頼。粗筋を伝えただけで、撮ったものも見せずにお願いし、欲しい雰囲気通りのものを作ってくださったと語っていた。(咲)
仏・中国/2010年/105分
配給・宣伝:アップリンク
◆特集 ロウ・イエ、雑踏の中の愛と孤独 ~『パリ、ただよう花』公開記念~
これまで一貫して「愛と孤独」という、人間の本質を、雑多な都市の日常の中で描いてきたロウ・イエ監督の珠玉の3作品『ふたりの人魚』、『天安門、恋人たち』、『スプリング・フィーバー』が特別上映されます。
日程:2014月1月4日(土)~1月10日(金)
会場:渋谷アップリンク
詳細:http://www.uplink.co.jp/movie/2013/21464
公式 HP >> http://www.uplink.co.jp/hana/
監督:クレイ・ホール
製作総指揮:ジョン・ラセター
原案:ジョン・ラセター、クレイ・ホール、ジェフリー・M・ハワード
脚本:ジェフリー・M・ハワード
ジュニアノベル:偕成社刊
吹き替え版声の出演:瑛太(ダスティ・クロップホッパー)/井上芳雄(エル・チュパカブラ)/山口智充(ブラボー)
農場で働く農薬散布機ダスティには大きな夢があった。それは大空を飛ぶ世界一周レースで優勝すること。しかし、彼はレース用飛行機でなく、スピードの出ない小さな散布機にすぎない。おまけに高所恐怖症で低空飛行しかできないという決定的な弱みがあった。それでもあきらめずに、猛特訓を続けるダスティ。農場の仲間たちの応援で地区予選に出場することになる。
ディズニー&ピクサーが送り出したアニメ、『カーズ』が好きな方、お待たせしました。今度は大空を飛び回る飛行機!小さな高所恐怖症の農薬散布用飛行機が、夢にむかって頑張っていくお話です。世界各国の飛行機のキャラも個性的で日本代表は「さくら」。
2D3D同時公開ですので、お子様連れなら吹き替え版で。夢をあきらめないダスティと仲間たちの友情、スピード感たっぷりの画面を大人もいっしょにお楽しみください。(白)
2013年/アメリカ/カラー/92分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
© 2013 Disney. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://www.disney.co.jp/planes/
監督:小中和哉
脚本:山野井彩心、小中和哉
CGIモーション監督:板野一郎
撮影:藍河兼一
衣装:照井真純
美術:櫻井陽一
出演:土屋太鳳(樹里)、秋本奈緒美(樹里の母親)、大杉漣(不気味な虫の声)、吉沢亮(潤也)、清水富美加(ミドリ)、有森也実(祥子/りんごの母)
自殺をした女子高生の樹里(土屋太鳳)は、生きている人にはわからない存在になっている。寂しさから、母親(秋本奈緒美)や学校の友人に声をかけるが誰もわかってくれない。
そんな樹里に不気味な蜘蛛のような怪物と声が聞こえて来た。生きている人には見えないようだ。それは心が弱った人を自殺に誘う虫で、樹里は虫男と呼ぶことにした。
ある日、公園で遊ぶ女の子と出会う。どうも樹里のことが見えるらしい。その子をりんごちゃんと呼び、喜んでいた樹里だったが・・・。
今、先のくらい世の中で自殺を少しも考えたことのない方はどんだけいるだろうか。
この樹里はどうして自殺したかは観てくださればわかるが、浮遊霊の辛さがわかりやすく描かれていた。
自殺しようとか暗い考えの人にたかる虫がいて、それは浮遊霊にしかわからず、樹里が一生懸命大声で払いのけて人を救おうとしていたが、誰もその声には気づかない…。
最後、自殺してしまった自分の部屋でぼんやりしているお母さんに向かって、聞こえないことを承知で「ごめんなさい」と泣き崩れた樹里は、もう浮遊霊ではなかった。
どうにもならない悲しさはあるが、観た後はとても優しい気持ちになった。
※『鈴木先生』のお気に入りの生徒を演じた土屋太鳳さん。おっとりお嬢様役がとってもいい。
※虫男は大きな蜘蛛と蚊が合体したような不気味なものだったが、声が大杉漣さんだからお顔を思い出して救われた気持ちになった。これが全然知らない恐ろしい声だったらこうはならなかったから、贅沢な使い方だが大杉さんにして正解だった。
(美)
2013年/日本/カラー/ビスタサイズ/83分
配給:アイエス・フィールド
公式 HP >> http://ssrr.jp/
監督:ザッカリー・ハインザーリング
撮影:ザッカリー・ハインザーリング
音楽:清水靖晃
出演:篠原有司男、篠原乃り子、篠原アレキサンダー空海
1932年東京生まれで「ボクシング・ペインティング」で有名な現代芸術家・篠原有司男。80歳を超えた今も創作に励んでいる。
妻の乃り子さんは、10代の後半に美術を学びにニューヨークにやってきて彼と知り合い、恋に落ち、結婚、男の子を生んで今に至っている。
ここにきて妻は一念発起して、自分を表現するものを見つけ出そうとしていた。
試写状を見てギョッとした。なんじゃ!外人?若いの?年寄り?えっ、芸術家?ボクサーにしては体が…など頭の中はクエッションマークでいっぱいになった。
試写を観た頃は、山形ドキュメンタリー映画祭から帰ったばかりで、たとえどんなものがこようとビクともしない…とは思っていたが、なんだか自信がない。
個性的といっても限度を越えている旦那様。この方をアシスタントしていたなんて大変だったろうと同情してしまう。でも、ずっと別れずにいたんだから「妻の我慢」だけじゃないはず。
自然児・旦那さまが「猫の目」のように奥様の言葉、行動に気をはっているのが面白かった。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/ビスタサイズ/82分
配給:サジフィルムズ、パルコ
公式 HP >> http://www.cutieandboxer.com/
監督:ジョゼッペ・トルナトーレ
脚本:ジョゼッペ・トルナトーレ
撮影:ファビオ・ザマリオン
音楽:エンリオ・モリコーネ
衣装:マウリツィオ・ミレノッティ
美術:マウリツィオ・サバティーニ
出演:ジェフリー・ラッシュ(ヴァージル・オールドマン)、シルヴィア・ホークス(クレア・イベットソン)、ジム・スタージェス(ロバート)、ドナルド・サザーランド(ビリー)、フィリップ・ジャクソン(フレッド)、ダーモット・コロウリー(ランバート)、リヤ・ケベデ(サラ)
ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は一流のオーク鑑定士。オークションのお立ち台で瞬時に買い手との落札交渉をしている。
独身の彼は人間嫌いで、唯一の楽しみが自宅の隠し部屋に飾った女性の肖像画収集とお一人様鑑賞だ。
自分がほしい女性肖像画が出ると、絵画仲間の友人のビリー(ドナルド・サザーランド)に頼み、名画を安く落札するよう仕向け、自分のコレクションに加えていた。
そんな彼のところに、クレア・イベットソン(シルヴィア・ホークス)という女性から電話が入り、亡くなった両親が遺した家具や絵画を鑑定してほしいと依頼された。
忙しい彼は相手にしなかったが、あまりに悲痛な声なので哀れみを覚え、やむなく引き受けて指示された邸宅に向かったが、彼女は姿を見せなかった。
これは面白い!!
『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』の監督さんと音楽のモリコーネさんが仕掛ける極上サスペンス映画。
絵画オークションの様子、美術鑑賞(女性肖像の名画ばかり!)、そして中年男の遅まきの初恋が絡んだサスペンスだから観逃すわけにはいかない。
感想は「観てのお楽しみ」なんていうひと言で片付けては申し訳ないが、1回観た私も、もう一度観たい作品。
入り組んだ人間関係のからくりを(人形からくりも出てきて、それも必見内容だ)知ったあとだが、役者たちの騙しテクニックをどんな涼しいお顔で演じているか、次はそこのところをじっくり観てみたい。
(美)
2013年/イタリア/カラー/シネスコ/131分
配給:ギャガ GAGA★
公式 HP >> http://kanteishi.gaga.ne.jp/
監督:キム・ソンス(『英語完全征服』『MUSA-武士―』
出演:チャン・ヒョク、スエ、パク・ミナ、ユ・ヘジン、マ・ドンソク、イ・ヒジュン、イ・サンヨブ、チャ・インピョ
ソウル近郊の盆唐(ブンタン)市。地下鉄工事現場が陥没し、救助隊員のジグ(チャン・ヒョク)は現場に落ちた車から女性イネ(スエ)を助け出す。下に落ちてしまった車の中から鞄を取り出して届けてほしいという彼女にジグは一目惚れ。イネは感染内科の専門医で、娘ミルを育てるシングルマザーだった。
イネの勤務する病院に風邪で運び込まれた患者が死亡する。盆唐市内のあちこちで死者が続出。呼吸しただけで瞬時に感染し、36時間以内に死亡するという最悪の新型ウィルスだった。政府は盆唐市を閉鎖し拡散を防ぐ対策に出る。そんな中でイネは、娘ミルをジグに託し、ウィルスの抗体を持つ人物を懸命に探し出そうとする・・・
ウィルスを持ち込んだのは、コンテナに詰め込まれて運ばれてきた密入国労働者たちでした。コンテナの中で死んでしまった人たちを見て、運転手は逃げ出してしまいます。ここで通報していれば、これほどまで事態は悪化しなかったでしょう。外来種の流入を防げないことがふっと頭をよぎります。
感染が広がる中、政府が町を封鎖しただけでなく、地球規模の感染を恐れたアメリカ軍が町を消滅させるための攻撃を始めようとします。なんというエゴ!
極限状態の中で母親が子を守ろうとする思い、そしてそんな中で育まれる男女の愛。なにより印象的だったのは、顔は悪いけど愛嬌たっぷりのユ・ヘジン演じる救助隊員が、常にユーモアを忘れず場を盛り立てている姿。こういう人の存在が、パニック状態に陥りそうな人たちを救うことを感じました。なにがあっても笑顔を忘れないでいたいものです。(咲)
2013年/韓国/カラー/シネスコ/5.1chサラウンド/121分
配給: CJ Entertainment Japan
公式 HP >> http://flu-movie.jp/
監督:モーガン・ネヴィル
製作:ジル・フリーセン、ケイトリン・ロジャース
出演:ダーレン・ラヴ、メリー・クレイトン、ジュディス・ヒル、リサ・フィッシャー、クラウディア・リニア、タタ・ヴェガ、ミック・ジャガー、ブルース・スプリングスティーン、スティング、スティーヴィー・ワンダー、ベット・ミドラー
マイケル・ジャクソン、ミック・ジャガー、スティーヴィー・ワンダー、デヴィッド・ボウイ、ベット・ミドラー等々・・・。60~90年代の名だたるミュージシャンたちを支えたバックシンガーの女性たちに焦点を当てたドキュメンタリー。
バックシンガー出身でソロ歌手として認められたダーレン・ラヴやメリー・クレイトン、映画『This Is It』でマイケル・ジャクソンとの「キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」のパフォーマンスが印象的だった日系人シンガー ジュディス・ヒルなど、後に日の目を浴びた人たち、そして、バックコーラスとしてスポットライトを浴びることもなく無名のまま終わった多くの女性たちの人生に迫った作品。
スーパースターとして名を馳せることのできる人は、ほんの一握り。もちろん、彼ら自身の努力は並大抵のものではない。その成功の蔭には、多くの人の支えがあることを忘れてはならないだろう。大物アーティストたちが語る言葉に感謝の思いを感じる。
バックシンガーからソロを目指して成功した人もいれば、挫折した人もいる。人それぞれ、向き不向きがあって、人を支えることで力を発揮する人もいる。有名、無名にかかわらず、それぞれの人生がその人自身にとって充実したものであることが何よりも大事なことだと思う。さて、私の人生は? (咲)
私にとってコンサートにおけるバックコーラスというのは、ずっと気になる存在だった。だからコンサートに行くと、いつもバックコーラスの人に目が行っていた。
中島みゆきのコンサートで、バックコーラスの宮下文一さんが「宙船(そらふね)=TOKIOに提供された曲」の数小節をソロで歌ったとき、「すごい!この人ソロでやっていける人だ!」と思ったんだけど、バックコーラスと言っても、ソロの人と実力は変わらないとつくづく思った。
この映画でも、ソロと変わらぬ実力を持つバックコーラスの人たちがたくさん出てきたが、けっこう知っている曲も出てきたので、この曲のバックはこの人たちが歌っていたんだと、けっこう感慨深かった。
バックコーラスの人たちに光をあてた、貴重な作品だと思うので、ぜひ皆さん観てくださいね。(暁)
2013年/米/英語/カラー/90分/ドルビーデジタル
配給:コムストック・グループ 配給協力:クロックワーク
公式 HP >> http://center20.com/
監督:ジャッキー・リーム・サッローム
製作:ラムズィ・アラージ、ジャッキー・リーム・サッローム、ワリード・ザイタル
出演:DAM、マフムード・シャラビ、PR、ARAPEYAT、アビール・ズィナーティ
ナレーション:スヘール・ナッファール(DAM)
パレスチナのヒップホップ・アーティストたちを追ったドキュメンタリー。
“DAM”は、イスラエル国内に住むパレスチナ人による初めてのヒップホップ・グループ。彼らの住むリッダは、まるで難民キャンプ。1948年のイスラエル建国で元々住んでいた町を追い出された人たちの町だ。ここで政治の話をしたら人生終わり。誰も政治を歌ってなかった。そんな町でヒップホップにのせて占領による貧困や差別を歌っている。
リッダで生まれ育った女性アビール・ズィナーティは、イスラエル国内に住むパレスチナ人の女性にふりかかる様々な困難に立ち向かうため、芸術による自己表現をめざすようになった。DAMとコラボレーションを組んで歌う彼女は、「パレスチナR&Bのファーストレディ」と呼ばれている。両親は彼女の活動を誇りに思っているが、従兄弟たちが一族の恥と脅すため、舞台に立てないでいる。
PR(パレスチニアン・ラッパーズ)は、ガザで暮らすパレスチナの若者たちが、日々直面する困難に対して抱く気持ちを表現したいとの思いから生まれたグループ。
イスラエル、ガザ、ヨルダン川西岸に分断されたパレスチナのラッパーたちが、ヨルダン川西岸のラーマッラーで一堂に会してパレスチナのヒップホップショーを開く。最初の機会には、ガザのPRは許可を取ったのに来られなかった。ようやくPRの西岸滞在が3日間だけ認められる。抱き合うPRとDAMのメンバーたち。この世もまだ捨てたもんじゃない・・・
監督のジャッキー・リーム・サッロームは、パレスチナ人の母とシリア人の父のもとアメリカで生まれ育ったアラブ系アメリカ人女性。
ラジオで耳にしたDAMのヒップホップに触発されて、イスラエルに行き、彼らを追い始める。5年間にわたって、パレスチナのヒップホップ・アーティストたちの取材を続け、本作をまとめた。
10代の頃には、アラブ系であることを隠したいと思うこともあったが、報道によって植え付けられたアラブに対するネガティブなイメージを払拭したいと、様々な形で活動を続けている。
ヒップホップは実は苦手だが、本作はヒップホップを通して、分断されたパレスチナの人たちの思いを描いた作品で、興味深く観ることができた。ヒップホップというと若い人たちのものというイメージがあったが、家族ぐるみで楽しんでいる様子が微笑ましかった。また、女性のラッパーたちが生き生きと自分たちの思いを歌っていることにも驚いた。その姿は希望を感じさせてくれる。そうはいっても、パレスチナの人たちの抑圧されている苦悩をずっしり感じさせられる作品である。心から喜びを歌える日はいつ来るのだろう。(咲)
パレスチナにヒップホップシーンがあるとは思わなかったので、観た時はびっくりした。そしておじいさん世代の観客がいるということも驚きだった。おばあさんがいたかどうかは記憶にないから、やはり女性はなかなか外で音楽を楽しむということは少ないのかもしれない。
それにしても、女性が歌うことに対して、両親は反対していないのに、まだ若い男の従兄弟が規制するということからも、まだまだイスラム圏での女性の立場は弱いのだと思った。でも、彼女たちがそれを打ち破っていくのではないかと期待を持った。
2008年に作られてから5年もたってから日本で公開されるこの作品。
作品を作るにも5年くらいかかったそうだから、この作品に関わって約10年もたっているという監督。粘り強くこのテーマにそってやってきたのだろう。(暁)
『スリングショット・ヒップホップ』の原題で、2010年の難民映画祭で上映されている。
2008年/パレスチナ・アメリカ/HDCAM/カラー/アラビア語・英語・ヘブライ語/86分
配給:シグロ
監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド、リーム・アブドゥラ
厳格なワッハーブ派イスラームの戒律が国是のサウジアラビアの首都リヤド。10歳の少女ワジダの夢は近所の男の子アブドゥラと自転車競走すること。雑貨店の店頭にある緑の自転車が欲しいけど、「女の子が自転車なんてとんでもない」とお母さんは相手にしてくれない。800リヤルする自転車をなんとしても欲しい! そんな折、コーランの暗誦コンテストの優勝賞金が1000リヤルだと知る。ヒジャーブ(髪の毛や身体の線を隠すこと)にも無頓着なワジダだったが、宗教クラブに入って、一生懸命コーランを美しく詠唱できるよう練習する。
そんなワジダの一方で、お母さんは悩みを抱えていた。男の子が出来ないからと、夫の母親が夫に第二夫人を娶らせることにしたのだ。自宅のバルコニーから見える夫の実家から聞こえてくる結婚式の宴の音に涙する母の姿にワジダもつらい。
さて、いよいよコーランの暗誦コンテストの日。ワジダは優勝して、自転車を手に入れることができるのだろうか・・・
サウジアラビアで女性監督が映画を撮ったと知って、ほんとに驚いた。社会で家族以外の男女隔離が厳しく守られている国。そして、女性が自動車の運転を認められていない国。今回の映画を通じて、自転車の運転に制限があることも知った。さらに、映画館の設置が認められていない国でもある。
「アラブ映画祭2007」(国際交流基金主催)でサウジアラビア初の長編映画『沈黙の影』(2005年)が上映された時のこと、沙漠を女性が運転して走る姿があり驚いた。来日されたアルムヘイセン監督に伺ったところ、シリアで撮影したとのことだった。英国で映画製作を学んで帰国するも、長編映画を作るまでに30年かかったとおっしゃっていた。そんな映画産業のほとんどない国で女性が映画の撮影を敢行したのだ。街頭での撮影は、車の中から指示を出したという。
注目したのは、室内で女性がスカーフを被っていないこと。当たり前と思うかもしれないが、同じイスラーム政権のイランでは、公の場所で女性が頭髪を見せることは禁じられているので、映画では家族しかいない室内でも女性がスカーフを被っている。嘘は描きたくないから室内の場面を撮らないという監督もいる。本作では、客人の料理を用意し応接間の手前に置き合図する場面があって、女性が決して客に姿を見せないことも描いている。
自転車は、漸く最近女性も乗ることが認められたけれど、公園等で男性親族が同行し、全身を覆っていることが条件で、交通手段としては認められてない。
そんな国で、颯爽と男の子と自転車競走するワジダの姿は、まさに希望の星。夢でもある。一歩一歩、女性たちが自由をものにしていくことを願ってやまない。(咲)
★シネマジャーナル89号に、ドイツでのハイファ・アル=マンスール監督インタビューを掲載しています。
2012年/サウジアラビア・ドイツ/アラビア語/97分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アルバトロス・フィルム
公式 HP >> http://shoujo-jitensha.com/
監督:鈴木卓爾
脚本:大石三知子
原作:中沢けい「楽隊のうさぎ」新潮社刊
撮影:戸田義久
出演:川崎航星(奥田克久)、宮崎将(森勉)、山田真歩(うさぎ)、寺十吾(柴田弘)、小梅(小田康子)、徳井優(魚勝)、井浦新(奥田久夫)、鈴木砂羽(奥田百合子)
一人っ子の克久が中学生になった。おとなしくて引っ込み思案な克久は、小学校からの友達にサッカー部に誘われるが、自分で選んだのは吹奏学部。すでに上手な子もいれば、克久のように初めての子もいる。打楽器の担当になり、一から先輩の指導をうける。楽器店に行ってお小遣いで必要なものを買うのもなんだか楽しい。
吹奏楽の盛んな音楽の街・浜松市が、市民の協力を得て作った映画。「音楽を通して成長していく子どもたち」を描いています。主人公の克久をはじめ、すべてのキャストがオーディションで選ばれ、ほとんどが浜松在住の子どもたちだそうです。初めて演技をする子、初めて演奏をする子、みんながオーディションから約一年間練習したそうです。映画の進行と共に、だんだん上手になっていくのがほほえましい作品。克久にだけ見えるうさぎは、何にも言わないけれど克久に大丈夫とパワーをくれるようです。形は違っても誰もが持っていた特別な友達なのかもしれません。(白)
2013年/日本/カラー/97分/HD作品
配給:太秦
©2013『楽隊のうさぎ』製作委員会
公式 HP >> http://gakutainousagi.com /
監督:朝原雄三
脚本:柏田道夫、山室有紀子、朝原雄三
撮影:沖村志宏
音楽:岩代太郎
出演:上戸彩(舟木春)、高良健吾(舟木安信)、西田敏行(舟木伝内)、余貴美子(舟木満)、夏川結衣(お貞の方:真如院)、成海璃子(今井佐代)、柄本佑(今井定之進)、緒形直人(大槻伝蔵)、鹿賀丈史(前田土佐守直躬)
浅草の料理屋に生まれた春は、幼いころ火事で家も家族もなくしてしまった。長じて加賀藩主前田吉徳の側室・お貞の方に仕え、親譲りの料理の腕をふるっていた。縁あって嫁いだものの、家風にあわず出戻り、またお貞の方に仕えることになった。たまたま台所方の舟木伝内に、味覚の確かさを認められ「ぜひ息子の嫁に」と懇願される。伝内の息子、安信は剣の腕はたつが、料理はさっぱり。兄が継ぐものと思っていたので、やる気もないのだった。
『釣りバカ日誌』シリーズ中7作を手がけている朝原監督、江戸時代の加賀藩を舞台に夫婦のドラマを撮りました。ハマちゃんの西田敏行さんが包丁侍の伝内さん。高良健吾&上戸彩の若夫婦を支えます。
実際に代々加賀藩の台所方を勤めた舟木家が残したレシピが遺されているそうです。作品に登場する料理も、加賀の郷土料理の専門家の監修を受けて作られているそうです。とてもおいしそうなので、すきっ腹で観るのは厳禁。和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたそうですが、迅速な輸送手段も、冷蔵庫もレンジもない時代、知恵と工夫で作り出した料理の数々を観るのも一興です。(白)
2013年/日本/カラー/121分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:松竹
©2013「武士の献立」製作委員会
公式 HP >> http://www.bushikon.jp/
監督:伊藤俊也
脚本:伊藤俊也
撮影:鈴木達夫
音楽:大島ミチル
出演:田中泯、石原淋
人間は生まれて来て死ぬ。しかし、誕生が始まりで死が終わりであろうか。客観的に見ればそうかもしれぬ。
しかし、当の本人つまり人間自身にとっては、誕生の時も死の時も認知することはできない。そう見ると、人間はこの世(界)に<投げ出されている>だけではないだろうか。
<投げ出され、そこに在る>だけではないだろうか。
<始まりも終わりもない>のだ。(プレス資料より)
会場は最終試写とあって満員。
伊藤監督が来場され、「批判でもいいから宣伝してください、無言だけはしないでほしい」と切々と訴えられた。
今年一番の「変わった作品」。
12月6日公開の『47RONIN』で浅野内匠頭を重厚に演じる田中泯さんと、沼地、山奥、川、都会の雑踏を、沈黙の中で這いずり回る姿が一致しない・・・。
どういう感想と考えあぐねて、パントマイムをしていて少し縁のある娘に聞いてみたら、
「それ自体に深い意味を持った舞踏だし、泯さんの日頃の活動を知っている方ならまた違った見方ができるよ。私の知ってる石原さんという女の人はどうだった?」と聞かれ、ハッとした。
その女性舞踏家はとても美しい肢体と優雅なたたづまいだった。この人と効果音が印象的だった。
(美)
2013年/日本/カラー/デジタル/ビスタサイズ/95分
配給:マジックアワー
公式 HP >> http://hajimarimo.com/
監督:ソフィア・コッポラ
脚本:ソフィア・コッポラ
撮影:ハリス・サヴィデス、クリストファー・ブローヴェルト
音楽:ブライアン・レイツェル
衣装:ステイシー・バタット
出演:エマ・ワトソン(ニッキー)、ケイティ・チャン(レベッカ)、クレア・ジュリアン(クロエ)、イズラエル・ブルサール(マーク)、タイッサ・ファーミガ(ニッキーの妹・サム)、レスリー・マン(ニッキーやサムの母親・ローリー)
ハリウッドスターや人気モデルが数多く暮らす、ロサンゼルス郊外の高級住宅地。
その近くに住み、セレブリティの生活に憧れるニッキー(エマ・ワトソン)は学校に行かず、血のつながらない妹のサム(タイッサ・ファーミガ)や幼い妹エミリーと、自宅で母親自ら教師になって授業を受けている。
一方、学校を退学し1年間の自主学習の後に新しい学校へ転入したマーク(イズラエル・ブルサール)は、レベッカ(ケイティ・チャン)とファッションやブランドの話で気があって友人になる。マークにとって始めての親しい友人だった。
レベッカつながりでその後、クロエ(クレア・ジュリアン)、ニッキー、サムの5人はある事に夢中になってしまう・・・。
これは2008年10月から翌年の8月にかけて、パリス・ヒルトン、オーランド・ブルーム、リンジー・ローハン他多数の屋敷に入り洋服、靴、現金、時計、絵画などを盗んだ若者グループの実話。
ま、私らの年代なら「あんな子と付き合ってしまったのが運が悪かった。うちの子はそんな悪いことできる子じゃない!」と嘆くだろう。
あんな子とはレベッカ、うちの子とはマーク。
レベッカは手癖の悪い女の子。こともなげに鍵のかかっていない車から現金を手にしてしまう。マークは親は留守がちだが、いいとこのボンボン。NO!と言えないいくじなし。
この5人組窃盗団は遊び感覚でやってくれる!もうハラハラを通り越して喉がかわいて、ぜいぜいと息があがってしまった。
泥棒させたパリス・ヒルトンも無防備すぎる。映画に全面協力しているが(外観屋敷は違うが、内部はばっちり協力して撮影させている)いったい何回目で気付いたのかお聞きしたい。
2008年なら監視カメラがあるはず。監視カメラでできた映画だってあるという現代に、アメリカ・セレブ街の闇を見たような気がする。ばれては困るから、ヤバイものがあったからと盗まれても届けない有名人たちがいたようだ。
監視カメラはあまり用は足さなかったが、インターネットやブログはここでは諸刃の剣になっていた。
※若い人はブランド物に目が行くだろうけど、私は「自宅教育」ってのに俄然興味を持った。アメリカでは、・親が教師の資格がある・一年に一回テストや審査・教科書の提出 などの決まりはあるが、かなり広がっているようだ。
一見、自由ではあるが親は大変だと思う。ずっとじゃなくても、家庭に介護が必要な1年間だけ申請して、子らと力を合わせて介護を含む生活や勉強をするのも悪くない・・・と空想している。
(美)
2013年/アメリカ、フランス、イギリス、日本、ドイツ/カラー/アメリカンブスタ/90分
配給:アークエンタテインメエント
公式 HP >> http://blingring.jp/
監督・脚本:ベン・リューイン
原案:”On Seeing A Sex Surrogate” byマーク・オブライエン
出演:ジョン・ホークス、ヘレン・ハント、ウィリアム・H.メイシー、ムーン・ブラッドグッド、アニカ・マークス、ロビン・ウェイガート
カリフォルニア州バークレー。38歳になるマーク・オブライエン(ジョン・ホークス)は、6歳の時に罹ったポリオが原因で、首から下が全く動かない。カプセル型の呼吸器の中で横たわったままの人生だが、大学も卒業し、詩人、そしてジャーナリストとして自活し、人生を謳歌している。そんな彼が美しい女性に一目惚れ。人並みに女性と関係を持ちたいと願うようになる。神父に相談して何もためらうことはないと勇気づけられたマークは、セラピストにセックス・サロゲート(代理人)を紹介してもらい、手ほどきを受けることにする。担当はシェリル(ヘレン・ハント)という成熟した美しい女性。お金は受け取るが売春婦とは違うこと、セッションの回数は6回までと説明を受ける。ホテルの一室を借りて、カプセルからベッドに身体を移しての手ほどき。マークは無事初体験を迎えることができるのだろうか・・・
詩人でジャーナリストのマーク・オブライエンの実話をもとに描いた物語。
重度の障害者でも、人生を諦めずに前向きに生きている姿にまずは感銘を受けました。そして、障害者であっても、誰しも人間としての欲求を持っていることを忘れてはならないと思いました。健常者の私自身が、夢を忘れかけていることも思い起こしました。なにごとも前進あるのみ! 勇気をもらえる映画です。(咲)
2011年/アメリカ/95分/カラー
配給: 20世紀フォックス映画 R18+
FOXサーチライト・ピクチャーズ日本公式facebookページ >> https://www.facebook.com/FoxSearchlightJP
監督:カール・リンシュ
脚本:クリス・モーガン、ホセイン・アミニ
撮影:ジョン・マシソン
音楽:イラン・エシュケリ
衣装:ペニー・ローズ
出演:キアヌ・リーブス(カイ)、真田広之(大石内蔵助)、浅野忠信(吉良上野介)、菊池凛子(ミヅキ)、柴咲コウ(ミカ)、赤西仁(大石主税)、田中泯(浅野内匠頭)
大石内蔵助率いるサムライたちは、吉良上野介と魔性の女ミヅキのたくらみによって主君・浅野内匠頭が切腹した後、赤穂の領地を追われてしまう。
主君の敵を討とうと集まった47人の浪士たちは、混血青年カイの不思議な力を助けにして、明らかに戦力に差のある戦いに命を賭けるのだった。
アメリカ風アレンジの「忠臣蔵」。
全編英語(日本語吹き替え版もある)で2Dと3Dの上映。試写は2Dで観たが、ファンタジーの要素が多いので3Dでも観たくなった。
元々、カイは浅野内匠頭(田中泯)に助けられて城内の外れの小屋でただ一人で暮らしていた。浅野の娘ミカ(柴咲コウ)とは、もちろん身分の差はあったが幼馴染だった。
この二人の純愛を軸に「忠臣蔵」が描かれていて、アクション、妖術など、一風変わった設定だが楽しめた。
※カイ役のキアヌ・リーヴスの整った顔立ちがハーフの青年そのもので、生い立ちは謎だから神秘性もあった。12月6日に日本公開だが、アメリカでどんな反響があるか楽しみだ。
(美)
2013年/アメリカ/スコープサイズ/ドルビーSRD/121分
配給:東宝東和
公式 HP >> http://47ronin.jp/
監督:伊藤めぐみ
プロデューサー:広瀬凉二
出演:高遠菜穂子、今井紀明
2003年3月20日、米国の攻撃で始まったイラク戦争。ブッシュ大統領の早期終結の思惑は外れ、戦争は長引いた。日本も「人道復興支援」のためとして自衛隊派遣を閣議決定し、2004年1月に派遣する。4月上旬、米軍は反米拠点とみなした町ファルージャの掃討作戦を実施する。そんな中、ファルージャ近郊でイラク支援に個人で訪れていた日本人3人が武装勢力の人質となり、自衛隊撤退を求められる。日本政府は撤退拒否を表明するが、人質3人は拘束9日目に解放される。自由の身となった彼らを待っていたのは、国に迷惑をかけたとして「自己責任」を問う非難の嵐だった。
本作は、人質となった3人のうちの二人のその後を追ったドキュメンタリー。
高遠菜穂子さんはバッシングの嵐によるPTSDを乗り越え、今も個人でイラク支援を続けている。ファルージャの病院に泊り込んで新生児の先天異常の調査を行い、外出する時にはイラク女性に見える服装と濃い化粧だ。今後、北部クルド地区のアルビル経由モスルに入って次のプロジェクトに取りかかりたいという。
もう一人、今井紀明さんは5年もの間、対人恐怖症に苦しんだ。それを思えば9日間の人質はたいしたことではなかったという。現在、大阪で不登校やひきこもり経験のある通信制高校生を支援するNPO代表として活動している。
伊藤めぐみ監督は、イラク戦争当時、高校生。「みんなが反対したら戦争を止められる」と本気で思って反戦デモに参加したり、イラクの子どもたちの支援活動をしたりし、イラク戦争は社会に対して何かしたいという出発点だった。人質事件の一連の報道で、人と違う意見を言う怖さを感じる。本作は、「高遠さんと今井さんの二人の10年を追いながら、自分自身がイラク戦争や人質事件で感じた疑問を解く10年越しの挑戦だったかもしれません」と、監督は語る。
28歳という若い女性監督が、しっかりとした反戦の意識を持って、このような素晴らしい映画を作られたことに感銘を受けました。
米国が仕掛けたイラク戦争。土足でよその国に上がりこんだ米国に、またか・・・と怒りを覚えたものです。日本政府が無駄な戦争に加担したことが一目瞭然にわかる映画で、今後ますますその危険性が高いことを思わせてくれました。化学兵器使用の後遺症が今もなお続いていることも突きつけてくれました。
また、当時、自己責任という言葉でバッシングを受けた高遠さんたちが、それこそ自己責任という形で活動を続けておられる姿をまざまざと拝見することができ、自分ははたして意義ある人生をおくっているのだろうかと反省させられました。(咲)
あの当時、「自己責任」と言い出した人たちのことを「何言っているんだろう」と思い、憤りを感じていた。また、イラク戦争への加担に対する抗議行動に参加したりしていたので、あのバッシングに対して、「言っている人たちは、この戦争に日本が加担していることをどう思っているんだろう。そっちはそのままでいいのか、イラクの人たちへの思いはないのか」と、強く思っていた。
べ平連世代の私は、高校生3年生の1969年頃、ベトナム戦争の反戦デモに参加していたけど、あの頃けっこう高校生、中学生もデモに参加していたので、最近の中学生や高校生は、そういうのには参加しないのかと思うことも多かったけど、この作品を見て、監督の伊藤めぐみさんは「高校生で、あのイラク戦争への抗議活動に参加していたんだ」と、若い世代にもこういう人材が育っていることを心強く思った。
なによりもこの映画は、高遠さんと今井さんが事件のことを引きずりながらも、自分の信念を曲げずに、今も「自己責任」で活動している姿を見ることができたし、イラク戦争はまだ終わっていないということを伝えてくれた。
そして、あのとき「自己責任」と言っていた人たちの、言うだけ言って今は知らん振りという無責任ぶりもあぶりだしていた。やはり一方だけへの取材では信用性が薄くなってしまうからね。
若い女性監督の奮闘振りが映画から伝わってくる。
それにしても、秘密保護法案が議会を通ってしまい、日本がどうなってゆくのか心配な状況になってきた。戦争への道を歩まねばいいのだけど…(暁)
予告編:http://www.youtube.com/watch?v=IbunyebOJLE
◆トークイベント
12月13日(金)
映画上映:21:30~23:15
トークイベント:23:15~23:45
登壇:原 一男(映画監督)、高遠菜穂子、伊藤めぐみ監督
2013/日本/カラー/HD/95分
配給:有限会社ホームルーム
公式 HP >> http://fallujah-movie.com/
監督:田中光敏
原作:「利休にたずねよ」山本兼一(PHP文芸文庫)
脚本:小松江里子
撮影:浜田毅
美術:吉田孝
衣裳:石倉元一
音楽:岩代太郎
出演:市川海老蔵(千利休)、中谷美紀(宗恩)、伊勢谷友介(織田信長)、大森南朋(豊臣秀吉)、成海璃子(おさん)、福士誠治(石田三成)、クララ(高麗の女)、川野直輝(山上宗二)、袴田吉彦(細川忠興)、黒谷友香(細川ガラシャ)、市川團十郎(武野紹鴎)、特別出演/檀れい(北政所)、大谷直子(たえ)、柄本明(次郎)、伊武雅刀(千与兵衛)、中村嘉葎雄(古渓宗陳)
天正19年、千利休の屋敷を3000の兵が取り囲んでいる。天下統一をなしとげた秀吉に気に入られ、茶匠としての名声を誇っていた利休であったが、秀吉の逆鱗にふれ、切腹を命じられていた。利休は長く連れ添った妻宗恩と最期の茶を楽しむ。利休の脳裏にはこれまでの人生が走馬灯のように現れる。己の美を求め続けたそのよりどころとなったもの・・・天下人の秀吉が望んでも手に入れられなかったものは今も自分の懐のうちにある。
日本の美しいものがたくさんつまっている作品。利休が生きた時代の権謀術数はさておき(それも大事な要素ではありますが)ひたすら自分の「美」を追求していった茶人の生き方、秘められた恋を描いています。原作者が熱望したという利休役の海老蔵さんは破天荒な10代から自刃をせまられる70代をまでを演じました。さすがに歌舞伎界のプリンス、やはり所作が美しいです。
作中には茶の名器をはじめ、小道具もこだわりの「本物」が使われているそうです。興味のある方には目の保養になります。そして2月に亡くなられた市川團十郎さんが利休の師・武野紹鴎として最後の親子共演を果たしています。まにあってよかったこと、としんみりしてしまいました。
着物ブームで若いお嬢さんたちの和服姿を見ることがありますが、すそを翻して闊歩するのを観ると目を覆いたくなります。この映画を観て歩き方を考えてくれないかしら。(白)
2013年/日本/カラー/123分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:東映
©2013「利休にたずねよ」製作委員会
公式 HP >> http://www.rikyu-movie.jp/
監督:ディーン・パリソット
脚本:ジョン・ホーバー、エリック・ホーバー
撮影:エンリケ・シャディアック
プロダクションデザイン:ジム・クレイ
音楽:アラン・シルヴェストリデビッド・レディ
出演:ブルース・ウィリス(フランク)、ジョン・マルコビッチ(マーヴィン)、メアリー=ルイーズ・パーカー(サラ)、イ・ビョンホン(ハン)、アンソニー・ホプキンス(ベイリー)、ヘレン・ミレン(ヴィクトリア)、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(カーチャ)
スパイ活動から引退して、恋人のサラと穏やかに暮らしていたフランクのところにかつての相棒マーヴィンが現れる。そんな生活は似合わない、とフランクを誘うが断り続けていた。しかし彼らが関わって32年前に失敗し、封印されたはずのプロジェクトが浮上してきた。それは冷戦時代に核爆弾を秘かに製造し隠匿するというものだった。おまけにフランクを狙って最強の刺客が放たれているという。
「RED」とはRetired(引退した) Extremely(超) Dangerous(危険人物)のこと。第一弾の『RED/レッド』に続き、新たにイ・ビョンホン、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アンソニー・ホプキンスまで加わって、映画2,3本分を詰め込んだような映画になりました。展開は速いけれど、絡まってしまうようなことはありません。
元カノと今カノにはさまれるフランクを演じるブルース・ウィリスをはじめ豪華俳優陣もなんだか楽しそうで、これはシリーズで続いてほしい。またまたハリウッド・メジャー作品に登場のビョンホンは期待通りに脱いで(笑)、アクションのキレもよろしいです。英国女王を演じたヘレン・ミレンが、作中で女王様になるところは必見。この方はほんとに上手くて貫禄があるのに可愛いですよね。(白)
2013年/アメリカ/カラー/116分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
© 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://disney-studio.jp/movies/red/
監督:ステファヌ・ブリゼ
脚本:ステファヌ・ブリゼ、フロランス・ヴィニョン
撮影:アントワーヌ・エベルレ
音楽:ニック・ケイヴ
出演:ヴァンサン・ランドン(アラン)、エレーヌ・ヴァンサン(イヴェット)、エマニュエル・セニエ(クレメンス)、オリヴィエ・ペリエ、リュドヴィック・ベルティロ
いつもと変わらぬ朝。いつもと違う母の顔。
残されたわずかな時間が、静かに流れていく…。
出来心で麻薬の運搬に手を出してしまった中年男のアラン、出所して行く当てもなく母親の家に転がり込む。リサイクル工場に職を見つけるが、長続きせず辞めてしまう。夫を亡くしてからも一人毅然と生きてきた母親のイヴェットは、この不肖の息子に苛立ちを隠せない。なにかと衝突してばかりの日々の中、アランは母親が尊厳死を望んでいることを知る。イヴェットの脳腫瘍はすでに治療不可能なところまで進んでいたのだった。
48歳になってもフラフラと定まらないアランに、母親ならずともイラッとします。でも勝手に大きくなったのではなく、親が育てたのですから怒っても遅いのよ>イベットさん。母がしっかりしている分、息子は大人になりきれなかったのかとも思います。逆に駄目な母なら息子がしっかりせざるを得ません。どっちも駄目っていうのも多そうですが。これは不和な母子が、死期が近づいてやっと和解していく話です。遅いけど、しないよりまし。
作中、イヴェットが尊厳死の契約をするのはフランスの法人で、施設があるのはスイスになっています。尊厳死が認められているスイスまで行き、最期のときを迎えるのです。それが映画では淡々としていてあまりにあっけないのに驚きました。実際にはもう少し時間をかけるのだそうです。日本人の問い合わせもあったそうですが、そこまでやってきて実行した例はないとか。(白)
2012年/フランス/カラー/108分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ドマ=ミモザフィルムズ
©TS Productions - Arte France Cinema - F comme Films - 2012
公式 HP >> http://www.hahanomijimai.com/
監督 アリソン・クレイマン
撮影 アリソン・クレイマン
編集 アリソン・クレイマン ジェニファー・フィンラン
音楽 イラン・イサコフ
プロデューサー アダム・シュレシンジャー
製作 UNITED EXPRESSION MEDIA
出演 艾未未(アイ・ウェイウェイ)、顧長衛(クー・チャンウェイ)他
艾未未(アイ・ウェイウェイ)は、北京オリンピックのスタジアム「鳥の巣」の設計にも参加した中国の現代芸術家。2009年に日本(六本木の森美術館)で開催された彼の個展は、46万人もの来場者があったという。
現代美術家、建築家、キュレーター、文化評論家、社会評論家という様々な活動をする彼の作品は、破天荒でユニーク。
様々なジャンルで活躍をしてきた彼だが、2011年4月、香港行きの飛行機に搭乗するために向かった北京空港で中国当局に拘束され、81日後に保釈。
なぜ、彼は拘留されることになったのか? 芸術家として海外での評価も高くなったが、保釈後も軟禁状態が続く。軟禁中、ツイッターで「発信」し続け、世界の人々が彼を支援している。
そんな彼のアーティストとして生きるパワフルな日々を追ったのがこの作品。
表現の自由制限への批判を続けてきた彼は、08年5月の四川大地震での校舎倒壊と、5000人以上の学童の死を独自に調査し、発表したことで、中国政府と決定的に対立。警官から暴行を受け、脳外科手術を受けることになった。しかし、そんな圧力にもめげず、警察を訴える姿が映し出される。
政府の監視が厳しくなっていった08年から撮影され、本人以外に、彼の家族や芸術家仲間や支援者たちが次々と登場し証言する。
政府に挑み、芸術作品を生み出し続けるアイ・ウェイウェイと、いまだ司法や言論の自由が強い統制下にある中国の姿が描かれる。
国の将来を憂い、表現の自由を求めて闘うアイ・ウェイウェイと仲間たちの姿が力強い。
2009年の東京国際映画祭期間中、六本木に通った時、艾未未の展覧会をしていたのを覚えている。でも映画祭に走り回っていて、結局映画祭期間中に行かなかったら行きそびれてしまった。前衛美術はあまり好きでないということもあって、どうしても行っておきたいとは思わなかったのだけど、この作品に出てきた艾未未のユニークでスケールが大きな作品を見て、あの時見に行っておけばよかったと後悔した。
この作品を見て、顧長衛(クー・チャンウェイ)監督が出演していたので、なんでかな?と思ったのだけど、艾未未と北京電影学院で同期だったからだった。1978年入学で、同期に陳凱歌(チェン・カイコー)、張芸謀(チャン・イーモウ)らがいる。
艾未未は「伝えるべきメッセージと、その伝達方法を持っていること――これがとても大事なんだ。いまの時代、僕らは全く違った世界に生き、幾つもの新しい可能性を持ち、万人のために世界をより良くすることができる。この映画を観た人々が、そのことに気付けることを願っている」と語っている。(暁)
2012年/アメリカ/91分/カラー/デジタル/ビスタ/5.1ch/中国語・英語
配給:キノ フィルムズ
宣伝:FTF
宣伝協力:フリーマン・オフィス
★11月30日 シアター・イメージフォーラムにて公開
TEL:03-5766-0114
公式 HP >> http://www.aww-ayamaranai.com/
期間:2013年11月30日(土曜)~12月6日(金曜)
会場:ユーロスペース
今年の東京国際映画祭では、スウェーデン映画『ウィー・アー・ザ・ベスト』(監督:ルーカス・ムーディソン)が東京サクラグランプリを受賞しました。また、『ミレニアム』シリーズや『催眠』などミステリーが日本でも大ヒットしました。古典も根強い人気があり、「イングマール・ベルイマン3大傑作選」が全国の劇場で順次公開中です。
この度、スウェーデン映画をもっと知ってほしいとの思いから、スウェーデン大使館、スウェーデン文化交流協会が中心となって、スウェーデン映画祭が企画されました。新作だけでなく、スウェーデン映画史を飾る旧作も含めて、スウェーデンの映画文化を紹介するプログラムが組まれています。日本で初めて、そして、世界でも最大級のスウェーデン映画祭に是非足をお運びください。
なお、期間中にはノーリング監督のトークショー、柳下美恵さんによるピアノ演奏、女性監督たちによるシンポジウムが開催されます。
共催:スウェーデン大使館、スウェーデン文化交流協会
公式 HP >> http://www.swedenabroad.com/ja-JP/Embassies/Tokyo/4/-sys2/
11月30日(土)‐12月13日(金)2週間限定
渋谷シアター・イメージフォーラムにて開催!
昨年、好評だったポーランド映画祭。今年も、ポーランドを代表する監督イエジ―・スコリモフスキ監督監修のもと、新旧含め22本の作品が上映されます。2014年に最新作『ワレサ』(仮題)の公開を控えるアンジェイ・ワイダ監督の特集も組まれます。
作品内容やスケジュールなど詳細は公式サイトをご覧ください。
http://www.polandfilmfes.com/
世界を震撼させた、ポーランド映画の魅力を味わえる企画です。
予告編はこちらからご覧ください。
http://www.youtube.com/watch?v=f5UBs7VBPC8
主催:ポーリッシュ・フィルム・インスティテュート/ポーリッシュ・フィルムメーカーズ・アソシエーション ポーランド広報文化センター/スコピャ・フィルム
後援:駐日ポーランド大使館
配給:マーメイドフィルム 宣伝:VALERIA 配給協力:(社)コミュニティシネマセンター
公式 HP >> http://www.polandfilmfes.com/
待ちに待った中国インディペンデント映画祭2013が渋谷のオーディトリウムで開催されます。ここで上映される作品は、公開されている中国映画や中国へ旅しても見るこができない国情が赤裸々に描かれている作品ばかりです。ほとんどがこの映画祭のみの上映となるはずです。 期間も2週間(11月30日~12月13日)と長めです。是非お出かけください。
★会場では、2011年に上映された全作品の感想や質疑応答が掲載された「シネマジャーナル84号」を特別価格700円(定価800円)で販売しております。
紹介:白井美紀子
詳しくは下記のHPを検索してください。
>>
http://cifft.net/
監督:ブラッド・アンダーソン
脚本:リチャード・ドヴィディオ
撮影:トム・ヤツコ
音楽:ジョン・デブニー
出演:ハル・ベリー(ジョーダン)、アビゲイル・ブレスリン(少女ケイシー)、モリス・チェスナット(フィリップス警官)、マイケル・エクランド(マイケル)
「911緊急通報指令室」のベテラン・オペレーター・ジョーダン(ハル・ベリー)は、市民の命を救うため電話を通して的確に指示を出すという仕事に就いていた。
いつも冷静な彼女だが、不法侵入者に脅える少女からの通報で、一瞬の判断ミスをして、少女の命は殺人鬼に奪われてしまうという忘れられない過去があった。
その事件から半年後、研修生たちが911緊急通報指令室の仕事内容を見学する中で、ジョーダンは偶然に何者かに誘拐され、車のトランクに監禁された少女ケイシー(アビゲイル・ブレスリン)からの通報を受ける。
私好みの作品。緊急通報指令室の様子がとても現実的だった。危なっかしい事件が多発する中で的確に判断してやる仕事は大変だ。
日本でもきっと同じだと思うが、今は携帯が位置を知らせるなど便利な反面、変な事件が起こったりして大変な世の中だ。
この作品、最後が問題。私は胸のすく思いがして満足だったが、ちょっと過激。賛否両論あると思う。
※アメリカ緊急通報事情
911番はアメリカの緊急通報用の番号だが、日本のように警察と消防に分かれていない。また日本はすべて受答えは警察職員がしている。
アメリカでは911のコールセンター職員はみんな訓練を受けた民間人で、通報を受けたオペレーターの判断がとても重要になっている。(美)
2013年/アメリカ/カラー/ビスタサイズ/94分
配給:東京テアトル
公式 HP >> http://call911.jp/
監督:ヤスミン・サムデレリ
脚本:ヤスミン・サムデレリ、ネスリン・サムデレリ
出演:ヴェダット・エリンチン、リライ・ヒューザー
1960年代にドイツ政府の出稼ぎ呼びかけに応じてトルコからやってきたイルマズ家の主フセイン。惜しくも100万人目を逃した100万1人目の移民だった。その後、家族を呼び寄せ、今では孫にも恵まれ、おばあちゃんの希望でドイツに帰化も果たした。そんなある日、おじいちゃんはトルコの故郷に家を建てたと言って、夏休みに一家全員でトルコに行こうと皆を誘う。故郷に旅立つ前にメルケル首相から100万1人目の移民としてスピーチして欲しいとパーティの招待状が届く。おじいちゃんは6歳の孫とスピーチの練習をしながら故郷の町に向かう・・・
ドイツのトルコ移民二世の姉妹が脚本を五十回も書きなおし、姉が監督を務めて作り上げた自分たちのルーツを描いた物語。
原題『Almanya - WILLKOMMEN IN DEUTSCHLAND』は、トルコ語とドイツ語の合体。(Almanyaはトルコ語でドイツのこと)トルコの人たちが、どんな風にドイツに溶け込んでいったかの話に違いない。これはもう早く観たい!と、9月3日、1回目のプレス試写に馳せ参じました。この日は「あいち国際女性映画祭」での上映にあわせて来日したヤスミン・サムデレリ監督に会場でお会いできるというのも楽しみでした。
一家でトルコに向かう長い道中、おじいちゃんがおばあちゃんと略奪婚だったことや、ドイツに移民してきた頃のことなどが語られます。
ドイツといえば清潔そのもののイメージ。それが、入居したアパートの洋式トイレが不潔だとして、お母さんは必死になって磨き上げるのです。そばで男の子が漏れそう・・・と泣き出しそうなのも笑えます。(ちなみにトルコ式トイレは和式と同じ)
また、帰化した時の条件の一つが週2回ハム(ムスリムにとって禁忌の豚肉)を食べること笑わせてくれますが、郷に入っては郷に従えの象徴でしょう。
そして、6歳の孫チェンクはお父さんがトルコ人でお母さんはドイツ人。トルコ対ドイツのサッカーの試合でどっちを応援すべきか悩んでしまいます。移民三世のアイデンティティの問題もユーモアたっぷりに描かれています。
映画を観終わって、監督にトルコ語で「ようこそ!」と挨拶。その後、片言のトルコ語で質問してみました。私の言いたいことを察知してくださって、なんとか会話が成り立ち、トルコでの撮影地はイズミールの近くだけど、監督の祖先の故郷はアンカラよりさらに東のアナトリア高原の方ということは確認できました。頭が切れて、とてもチャーミングな方でした。ドイツで生まれ育ってドイツ語が母語とのこと。映画の中で、家族がドイツ語交じりのトルコ語で話していたので、社会の中ではドイツ語で生活しながらも、家ではトルコ語で話すように心がけているのか伺いたかったのですが、語学力が伴わず。
もう一つお伺いしたかったのが、増えすぎた移民を排斥する動きの現状。1960年代に出稼ぎ要請に応じて各国から単身で来た男性たちが、後に家族呼び寄せを許されたのですが、家族の絆を大切にするトルコ人の多くが家族を呼び寄せました。(2008年の統計でトルコ系は250万人。移民の中で最大の民族集団)
その後、不況でドイツ人の働く場を奪う存在として嫌われ、さらに9・11のテロ事件以降はトルコ人などムスリムに対する風当たりが強くなっていると聞いています。実際、監督が、どう肌で感じていらっしゃるのか是非知りたかったのですが、残念。
本作は、ドイツで150万人を動員する大ヒット。トルコ人が国策として移民して定着したことへの理解が深まることを願ってやみません。(咲)
2011ドイツ映画大賞最優秀脚本賞・銀賞
2011シカゴ国際映画祭観客賞
ドイツ/2011/101分/デジタル/カラー
配給:パンドラ
公式 HP >> http://ojii-chan.com/
監督:本木克英
脚本:橋部敦子
撮影:橋本尚弘
音楽:池頼広
主題歌:ゆず 劇中歌:JUJU
出演:玉木宏(黒山和樹)、高梨臨(佐々木玲子)、木村文乃(山口雪奈)、東出昌大(津村拓実)、本田翼(大友菜摘)、市川実和子(岸本千春)、甲斐恵美利(寺井茜)、時任三郎(宮崎正行)、大塚寧々(宮崎沙織)、山崎竜太郎(宮崎幸治)、倍賞千恵子(大島琴子)、小林稔侍 (松浦泰三)
多くの人々が行きかうメガステーション、東京駅。大切なひとの幸せを願うクリスマスも間近になった。
「イヴの恋人」女性不信の若き経営者、和樹は玲子と最悪の出会いをする。夢をあきらめて故郷に帰る予定の玲子は、東京の思い出に洒落たレストランに一人で来ていた。
「遠距離恋愛」雪奈の恋人卓実は仙台建設会社に転勤中だ。東京のドレスメーカーに勤めて、ショーも間近で忙しい雪奈だが卓実へのモーニングコールは欠かさない。急に東京出張が決まった卓実に会えるのを楽しみにしていたが・・・。
「クリスマスの勇気」菜摘のクリスマスの予定はケーキ店でアルバイトだけ。友達から憧れの先輩が彼女と別れて、カラオケに来ると知るが、とても告白する勇気なんかない。店のオーナー琴子は、沈んでいる菜摘に昔の恋バナをうちあける。
「クリスマスプレゼント」母親と別れて養護施設で暮らしている茜はいつも元気な女の子だ。職員の千春は、そんな茜が寂しさをじっと耐えているのをよく知っている。
「二分の一成人式」新幹線の運転士の正行は不治の病にかかり、余命は3ヶ月。退職して残りの日々を妻や息子の幸治と過ごそうと決めた。10歳の幸治はまだ本当のことを知らない。
「遅れてきたプレゼント」琴子がケーキ作りを始めたのは49年前の大失恋がきっかけだった。親に反対されて駆け落ちの約束をした夜、東京駅で待つ琴子の前に相手は現れなかった。その後、傷ついた心を癒したのは絶品のケーキ。以来40年間、東京駅の近くの小さな店でケーキを作り続けてきた。
東京駅開業100周年の記念映画として製作されました。10人の男女・家族が、クリスマス間近の東京駅を舞台に織り成すラブストーリーです。駅は人が旅立ち、帰ってくる場所、出逢い別れの場所でもあり、毎日いくつものドラマが生まれています。6つの物語の登場人物たちもそこここで、すれ違ったり、関わったりしています。どの年代の人が観てもきっと気持ちが重なるところがあります。
東京駅周辺の夜景がとても綺麗で、デートムービーにもぴったり。(白)
2012年/日本/カラー/106分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ワーナー・ブラザース
©2013「すべては君に逢えたから」製作委員会
監督:スティーヴン・チョボスキー
脚本:スティーヴン・チョボスキー
撮影:アンドリュー・ダン
音楽:マイケル・ブルック
衣装:デヴィッド・C・ロビンソン
美術:インバル・ワインバーグ
出演:ローガン・ラーマン(チャーリー)、エマ・ワトソン(サム)、エズラ・ミラー(パトリック)、メイ・ホイットマン(メアリー・エリザベス)、
高校に入学したチャーリー(ローガン・ラーマン/『パーシー・ジャクソン』)は、誰からも相手にされず孤独な学園生活を送っていた。
彼の文才を感じた国語のアンダーソン先生(ポール・ラッド)と、思い切って話しかけてみた上級生のパトリック(エズラ・ミラー/『少年は残酷な弓を射る』)だけが、チャーリーと口をきいてくれた。
そこに同じく上級生のサム(エマ・ワトソン/『ブリングリング』)が現れる。
サムとパトリックは親同士が再婚した血のつながりにない兄妹(姉弟かな)で、その友人であるメアリー・エリザベス(メイ・ホイットマン『コレクター』)も加わり、ともに過ごす楽しい毎日をおくっていた。
ひと言でいうと「お一人様用の青春映画」
これを観て、一人、青春を振り返るとほろ苦さが蘇ること確実。
ワケあり青春映画で現実的な着地もいい。とにかく若者俳優が新鮮。
清純派?と思っていたエマ・ワトソンが、この作品では繊細だが活発な女の子、次の『ブリングリング』(12月22日公開)では「本当に、あなたはエマ・ワトソン?」というぐらいバリバリになっていたから『ウォール・フラワー』がちょうど中間点になっていたからよかったのかな。
エズラ・ミラーも個性的風貌とチャーリーとは正反対の役柄がぴったりで、シャープな表情で釘付けにされた。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/ビスタ/103分
配給:ギャガ GAGA★
公式 HP >> http://wallflower.gaga.ne.jp/
監督・脚本:前田司郎
原作:前田司郎「ジ、エクストリーム、スキヤキ」集英社刊
撮影:平野晋吾
音楽:岡田徹
エンディングテーマ曲:ムーンライダーズ「Cool Dynamo, Right on」
出演:井浦新(洞口)、窪塚洋介(大川)、市川実日子(京子)、倉科カナ(楓)、岡田徹
フリーターの大川を大学時代の先輩洞口が訪ねてくる。15年も絶縁状態だったのになんで?と訝る大川に、洞口は「つないだんだよ」「取り戻したいんだ」と大川にはよくわからないことを言う。秋葉原に行くつもりが仏壇屋の並ぶ街に行ってしまう二人。そしてなぜかスキヤキ鍋を持って、海へ行くことになってしまった。大川と同棲中の楓、洞口の元カノの京子も一緒に。これは“エクストリーム(特別)”な旅になる・・・のかもしれない。
作家、劇団主催、俳優、脚本家といくつもの顔を持つ前田司郎が、自身の小説を映画化した初の監督作品です。出てくるのはほぼ男女4人だけ、その会話の面白さが新鮮です。最初バラバラだった4人が、短い旅の過程を経て和やかになっていくところがなんとも良い感じです。力の抜き加減が絶妙なおかしさをかもし出していて、登場人物が好きになりました。あまりに自然なやりとりなのでアドリブが入っているかと思いきや、一言半句アドリブなし、すべて脚本どおりだそうです。どれだけ緻密な脚本だったのでしょう。前田司郎監督の次の作品が観たい!
キャストに高良健吾、沖田修一監督(友情出演)とあり、「え、あれ??」と後で思い出しました。どこに出てくるか画面にご注目ください。(白)
2012年/日本/カラー/110分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:スールキートス
©2013「ジ、エクストリーム、スキヤキ」製作委員会
公式 HP >> http://www.ex-sukiyaki.com/
監督:マルコ・マク
脚本:バリー・ウォン
撮影:ミウ・キンファイ
アクション監督:コリー・ユン
出演:サモ・ハン(ロン捜査官)、ジェニファー・ツェー(フェニックス/メイシー)、アンキー・バイルケ(セリーナ)、アンディ・オン(サム捜査官)、フィリップ・ン(ブラック・ドラゴン)、エレン・チャン(マダム・ローズ)、アンソニー・ウォン(麻薬王パワー)
香港に派遣されていたインターポールの捜査官ロンは、大きな麻薬取引の現場をおさえ、大量の物件を摘発した。アメリカに戻って家族との団欒を楽しんでいたとき、何者かの襲撃を受け唯一生き残った娘メイシーも連れ去られてしまう。大損害をこうむった麻薬組織の女ボス、ローズが報復したのだ。メイシーはローズによって洗脳、記憶も消され、組織の中で暗殺者として育てられる。そして15年が経った。
香港のエンタメ作品といったらバリー・ウォン監督。今回は製作と脚本に当たっています。マク監督は日本公開作品がなく、これで初めて名前を観ましたが、長くアクション作品の編集をやってきた方だそうで『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』(91) 、『風雲 ストームライダーズ』(98)で香港電影金像奬の最優秀編集賞を受賞しています。サモ・ハン、アンディ・ウォンのアクションの見せ場が多いのはもちろんですが、初主演作となったジェニファー・ツェーも頑張っています(編集の力?)。手足が長いので、ハイキックができるともっと綺麗に決まりそうです。兄のニコラス・ツェーにそっくりなのが良かったような、残念なような・・・。(白)
2012年/香港/カラー/95分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:彩プロ
©2012 See Movie Limited. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://nakedsoldier.ayapro.ne.jp/
監督:山下敦弘
脚本:向井康介
撮影:芦澤明子
美術:安宅紀史
出演:前田敦子(坂井タマ子)、康すおん(坂井善次)、伊東清矢(仁)、富田靖子(曜子)
タマ子(前田敦子)は東京の大学を卒業後、父親がひとりで暮らす甲府の実家に戻ってくる。就職もせず、自営のスポーツ店も手伝わず、毎日父親の作る料理を食べては、漫画を読んだり昼寝したり、友だちとも遊ばず引きこもりのような生活を送っていた。
「就職する気があるのか?」と父が怒っても「いつか動く! でもそれは今じゃない!」と意味不明な言葉を返すタマ子。
そんなある日、写真を撮ったり、履歴書を書いたりしていたが、応募先はなんと芸能プロダクションだった。
『ばかのハコ船』など田舎映画を撮らせたら、とても上手い山下監督。
今作も実家依存のぐーたら娘を主役に、何にもない甲府の町並みを舞台に大人の一歩を歩みだそうとするタマ子をゆっくり描いている。
前田敦子さんの普段の顔、よそ行きの顔(写真屋に飾られたお顔、素敵だった)、そしてぐねっとした身体の動きなど見事。
お父さんの手料理は手抜きなし!それを見ていて「奥さんが出て行った」ことも「タマ子がお父さんが大好き!」の両面がちゃんと分かった。
※これを観て『国道20号線』(富田克也監督)と同じ空気がながれていると感じた。
『国道20号線』も山梨・甲府。無目的で生きるどうしようもない若者がだらだら生きている映画だ。
どこか似ていると言ってもここだ!というものはないが、山梨・甲府から東京を感じる距離感、そして身体自体が相容れない都会の空気感、緊張感から地元に戻ってくる若者。
他の遠い田舎から東京に出てきた人とはちょっと違う微妙な感じが、タマ子の身体の動きに表れていた。
(美)
2013年/日本/カラー/78分
配給:ビターズ・エンド
公式 HP >> http://www.bitters.co.jp/tamako/
監督:アダム・ウィンガード
脚本:サイモン・バレット
撮影:アンドリュー・ドロス・パレルモ
プロダクションデザイン:トーマス・S・ハモック
出演:シャーニ・ビンソン(エリン)、ニコラス・トゥッチ(フェリックス・デビソン)、ウェンディ・グレン(ジー)、AJ・ボーウェンクリス(ピアン・デビソン)、ジョー・スワンバーグ(ドレイク・デビソン)
両親の結婚35周年を祝うため、郊外の別荘に家族が久しぶりに集まった。息子や娘それぞれのパートナー総勢10人。食卓を囲んだとき、窓の外に人影を見つける。不審に思って近づいた一人がボウガンに撃たれて倒れた。これを手始めに、お祝いのパーティは血に彩られた阿鼻叫喚の地獄に変わってしまった。ヒツジ、キツネ、トラのマスクをかぶった男たちが次々と家族を手にかけていく。
トロント映画祭で脚光をあびた作品。ホラー作品は苦手なのだけど、いきなり一人は死んだ後、あれあれというまにスピーディにことが運んで思わず犯人は誰?何の目的で?と見入ってしまいました。そして中盤から始まるヒロインの反撃がすごい!「倍返し」どころではありません。想定外でしたね>犯人達。爽快感覚えるとは、人間って鬼畜の部分を誰もが持っているのかも。ラストで爆笑していいのでしょうか、これ。(白)
2013年/アメリカ/カラー/94分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:アスミック・エース
©2011 SNOOT ENTERTAINMENT, LLC
公式 HP >> http://surprise.asmik-ace.co.jp/
監督:リュック・ベッソン
製作総指揮:マーティン・スコセッシ、タッカー・トゥーリー
原作:「となりのマフィア」トニーノ・ブナキス(文春文庫刊)
脚本:リュック・ベッソン、マイケル・カレオ
撮影:ティエリー・アルボガスト
出演:ロバート・デ・ニーロ(フレッド・ブレイク)、ミシェル・ファイファー(マギー・ブレイク)、トミー・リー・ジョーンズ(スタンスフィールド)、ダイアナ・アグロン(ベル・ブレイク)、ジョン・ディレオ(ウォレン・ブレイク)、ジミー・パルンボ(ディ・チッコ)、ドメニク・ランバルドッツィ( ドメニク・ランバルドッツィ)
フランスノルマンディーの田舎町に引っ越してきたブレイク一家。フレッドとマギー夫妻と娘と息子は、ごく普通のアメリカ人家族に見えたが、フレッドは泣く子も黙るマフィアの元ボス。一家はFBIの証人保護プログラムにより、偽名を使ってフランス各地を転々としていた。FBIの監視人たちに見守られながらも何かと問題を起こしてしまう彼らを、ついに敵対するマフィアがキャッチしてしまった。
マフィアから足を洗いつつ、昔の血が騒ぐパパ。キレると火をつけるママ。美人の娘は同級生など目じゃなく教師を翻弄、商才のある息子は学園内で荒稼ぎ・・・こんなマフィア映画観たことありません。お目付け役のFBI捜査官をトミー・リー・ジョーンズが演じ、2大俳優のかけひきの面白さが味わえます。スコセッシ&デ・ニーロの名作『グッドフェローズ』をネタにしたシーンには、試写会場大笑いでした。「マラヴィータ」とはイタリア語で「裏社会」の意味、活躍する愛犬の名前でもあります。(白)
2013年/アメリカ、フランス/カラー/111分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ブロードメディア・スタジオ
©EUROPACORP - TF1 FILMS PRODUCTION - GRIVE PRODUCTIONS Photo : Jessica Forde
公式 HP >> http://www.malavita.jp/
監督:森﨑東(もりさき あずま)
原作:岡野雄一
脚本:阿久根知昭
撮影:浜田毅
美術:若松孝市
音楽監督:大川正義
主題歌:一青窈「霞道(かすみじ)」
出演:岩松了(岡野ゆういち)、赤木春恵(岡野みつえ)、原田貴和子(若き日のみつえ)、加瀬亮(岡野さとる)、竹中直人(本田)、大和田健介(岡野まさき)、松本若菜、原田知世
離婚して子連れで東京から故郷の長崎に戻ったゆういち。漫画や音楽の趣味にうつつを抜かし、仕事はてきとーな駄目サラリーマンだ。家事を引き受けてくれていた母だったが、父が亡くなった後認知症が進んでしまった。一人で留守番させることもできなくなったため、ゆういちは悩んだあげく介護施設に預けることにする。
岡野雄一さんが自費出版した同名漫画が原作。2012年に西日本新聞社から出版され重版を重ねベストセラーとなりました。森﨑東監督、『ニワトリはハダシだ』以来10年ぶりの作品。映画は原作を忠実に再現、母子の絆や老いることが描かれます。主演の岩松了さん、ペコロス(小タマネギ)頭の岡野さんご本人にそっくりです。認知症になったみつえさんは現世のしがらみから解き離れ、過去を自由に行き来しています。幼馴染と遊んだ子どものころ、しっかり女房だった若い日、飲んだくれの亭主に泣かされたことなどなど。辛かった日々は想い出になり、逝ってしまった人が会いにきてくれます。「ぼけるとも悪かことばかりじゃなかかもしれん」というのに頷きます。義母を介護した日々を思い出しながらあったかい気持ちで観終わりました。(白)
2013年/日本/カラー/113分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:東風
©2013『ペコロスの母に会いに行く』製作委員会
公式 HP >> http://pecoross.jp/
監督:リドリー・スコット
脚本:コーマック・マッカーシー
撮影:ダリウス・ウォルスキー
音楽:ダニエル・ペンバートン
出演:マイケル・ファスベンダー(カウンセラー)、ペネロペ・クルス(ローラ)、キャメロン・ディアス(マルキナ)、ハビエル・バルデム(ライナー)、ブラッド・ピット(ウェストリー)
若い敏腕弁護士カウンセラーは美しい恋人ローラと結婚するため、大金を得ようと闇のビジネスに手を染める。実業家のライナーは、カウンセラーに裏社会とのパイプ役ウェストリーを紹介する。ウェストリーは「関わりを持つと危険なことになる。後戻りはできない」と警告するが、これまで挫折を知らないカウンセラーは、自分は大丈夫とたかをくくっていた。
豪華キャストが出演。笑顔がトレードマークのキャメロン・ディアスが、あの口を閉じると怖いのだとしみじみわかりました。ペットが豹で、ボディにも豹柄のタトゥー入り。ハビエル・バルデムでさえ彼女の言うがままなのであります。一方ペネロペ・クルスは婚約者をひたすら信じる純な役どころ。マイケル・ファスベンダーがダイヤの一つも買ってやりたいと思う愛らしさです(ハビエル・バルデムの奥様にして2児の母なんですが)。みんな役の上ですよ。ブラッド・ピットがメジャーとなったのは、リドリー・スコット監督の『テルマ&ルイーズ』 (1991)がきっかけだったようですが、あの爽やかな笑顔そのままに今回はお洒落な役です。
脚本のコーマック・マッカーシーは、アメリカを代表する作家でもあるそうで、『すべての美しい馬』『ノーカントリー』『ザ・ロード』がこれまでに映画化されています。オリジナル脚本の本作はセリフに含みがあり、魔がさしてしまった男の行く末を冷徹に描き出しています。なんといってもキャメロン・ディアスのマルキナが怖いです。関わっちゃいけません。(白)
2013年/アメリカ/カラー/118分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:20世紀FOX
©2013 Twentieth Century Fox.
監督:フィッシャー・スティーヴン
脚本:ノア・ヘイドル
撮影:マイケル・グレイディ
音楽:ライル・ワークマン
主題歌:ジョン・ボン・ジョヴィ「Not Running Anymore」
出演:アル・パチーノ(ヴァル)、クリストファー・ウォーケン(ドク)、アラン・アーキン(ハーシュ)、ジュリアナ・マルグリーズ(ニーナ)、アディソン・ティムリン(アレックス)、ルーシー・パンチ(ウェンディ)、マーク・マーゴリス(クラップハンズ)、ヴァネッサ・フェルリト(シルヴィア)
―どう死ぬべきか。それが問題だ。―
仲間の罪を被って、28年間も刑務所暮らしをしたヴァルがようやく出所した。迎えに来たのは昔のギャング仲間のドクただ一人。ドクはヴァルのために酒場や娼館へ繰り出し、ヴァルは久しぶりのシャバに大はしゃぎ。しかし、ドクは彼らの元ボスにヴァルを始末するという難題を与えられていた。期限は明朝10時。ドクはどうしても手を下すことができず、ヴァルに真実を打ち明けた。ヴァルはもう一人の仲間、ハーシュを老人ホームに訪ね、もう一花咲かそうとけしかける。
アカデミー賞受賞のベテラン俳優3人が老ギャングたちに扮し、友情のため死に花を咲かせるストーリー。70代~80代の名優たちが今もこうしてお元気なのはまことに喜ばしい限り。自分たちの命を惜しむのでなく、それぞれの大切なもののためにというのが王道ですな。このテイストといい、スローモーションといい、この監督さんはジョン・ウー作品のファンかも??(白)
2012年/アメリカ/カラー/95分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2012 LAKESHORE ENTERTAINMENT GROUP LLC, KIMMEL DISTRIBUTION, LLC AND LIONS GATE FILMS INC.All Rights Reserved
公式 HP >> http://midnight-guys.jp/
監督:フェルナンド・トルエバ
脚本:フェルナンド・トルエバ、ジャン=クロード・カリエール
撮影:ダニエル・ヴィラール
録音:ピエール・ガメ
衣装:ラーラ・ヒュート
美術:ピラール・リベルタ
出演:ジャン・ロシュフォール(マーク・クロス)、クラウディア・カルディナーレ(クロス妻リー)、アイーダ・フォルチ(メルセ)、マーティン・ガメット(ピエール)、ゲッツ・オットー(ヴェルナー)
1943年夏。占領下のフランス南西部のスペイン国境近くの山里に住む彫刻家のマーク・クロス(ジャン・ロシュフォール)は創作する意欲がわかず行き詰まっていた。
80歳になろうとする彼には、もう作品はできないだろうと思われていた。
街ではドイツ軍の取締りがきつくなり、次々と収容所へ連行されて行く日々だった。
そんなある日、クロスの妻リー(クラウディア・カルディナーレ)は、市場で出会った浮浪者のような娘メルセ(アイーダ・フォルチ)に目をとめ、家に連れて帰る。
スペインから命からがら逃げてきたという彼女に、リーは夫のモデルにならないかと持ちかけた。リーは、その昔、夫のモデルをしていたので、マークの好みを知り尽くしていた。
名古屋の試写会場が満員になり、もう一度上映することになった。だからその2回目のおかげで観られたのだが、こんなことは初めてだ。
作品よりクラウディア・カルディナーレさん見たさじゃなかったのかと思っていた。
ところがそれは間違いだった。
もちろんかの大女優は良いお歳を重ねていて、お声にも深みがあり、長年愛する夫をいつくしんでいる様子が身体全体から出ていた。出番は少ないのが残念だったがストーリーからいえば当然と頷ける。
さて一番の驚きは、近年、制作意欲が衰えて使っていなかったアトリエ(壊れそうな古い家)が、彫刻家の意欲が湧くにしたがって光りの当て方や置いてある塑像や古びたデッサンがはっきり見えるようになったことだ。
途中、思いがけない訪問者や逃亡者が来るが、下界(街)で起こっていること、この国で起こっている忌まわしいことが、このモノクロの作品にしっかり織り込まれている。
※メルセの豊かな裸体が、自然な風景の中で「何でも包み込んでくれる幸せ」そのものに感じた。
(美)
2012年/スペイン/モノクロ/シネスコ/105分
配給:アルシネテラン
公式 HP >> http://www.alcine-terran.com/Atorie/
脚本・監督:外山文治
原案:外山文治「燦燦」(ユナイテッド・シネマ主催 第六回シネマプロットコンペティション グランプリ・SKIPシティ賞W受賞作品)
出演:吉行和子 山本學 / 宝田明
キャスティング協力:彩の国さいたま芸術劇場
鶴本たゑ(吉行和子)、77歳。10年におよぶ介護の末、最愛の夫に先立たれ、それ以来ずっと独り暮らし。老人クラブ「燦燦会」に顔を出すのが日課だけど、年寄りじみた活動にはあまり気が乗らない。ある日、ショーウィンドーに飾られたウェディングドレスに目を惹かれ、「人生の花道を輝かせたい!」と、結婚相談所へ。さっそく何人かの同世代の男性たちを紹介されて会ってみるが、なかなか心を動かされない。そんな中で、やっと白馬の王子様が現れる。その彼、能勢雄一郎(山本學)は、定年と共に熟年離婚した、いかにも実直な仕事一筋だった男性。お互い、人生の最後を共に過ごしたいと惹かれあい、デートを重ね、「燦燦会」のテニスにも一緒に参加したりする。そんなたゑに、「燦燦会」会長で、たゑの夫・修一の親友でもあった森口慎二(宝田明)が「天国で修一が悲しむぞ」と口をはさむ・・・
2013年7月12日(金)、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭10周年のオープニングを飾った『燦燦-さんさん-』。外山文治監督は、『星屑夜曲』で2007年の同映画祭短編部門奨励賞と川口市民賞を受賞。2011年に短編部門に出品された『此の岸のこと』は、後にモナコ国際映画祭で最優秀作品賞以下5冠に輝きました。まさに、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭が世界に送り出した監督。
舞台挨拶には外山監督をはじめ、出演した吉行和子さん、宝田明さん、蜷川幸雄氏率いる平均年齢74歳の演劇集団「さいたまゴールド・シアター」のメンバーが登壇。年齢と共に自己紹介。外山監督は、「現在32歳。公開の時には、33(さんさん)になっています」と挨拶。吉行和子さんは、「32歳のくせに、高齢者のことがよくおわかり。いくつになっても、ちゃんと心が動いていることを描いていて素晴らしい。この映画を観れば、高齢者の婚活もありと納得していただけると思います」と若い監督を絶賛しました。
宝田明さんは、「59年に東宝に入社以来、すべてフィルム撮影でしたが、今回はデジタル。海外にDVDを持っていって、はい、これで上映してと、自分の出演作を見せることができる」と、Dシネマの利点をアピール。
フォトセッションでは、主演の二人が仲睦まじい姿で婚活の行方をほのめかしてくれました。
77歳の女性が、人生をもう一度輝かせようと婚活する姿に勇気づけられた1作でした。
私もまだまだこれから~!(咲)
SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザの若手映像クリエイターシエンプログラム<D-MAP>により映画化された作品。監督の希望のキャストが奇跡のように集まったのは、若い監督さんを応援しようというだけではなく、高齢者への愛のある脚本の力なのでしょう。団塊の世代の私にはまったく他人事ではなく直球ストライクな作品です。未亡人ではありませんが。枯れるばかりが行く道ではないでしょう、まだまだ出逢いたい、輝きたい人も多いはず。
主演の吉行和子さんの今年の公開作は2本で、来年早々にはまた2本が公開されます。お元気でますますご活躍ください。(白)
2013年/日本/81分/カラー/ビスタサイズ
製作:埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:東京テアトル/デジタルSKIPステーション
公式 HP >> http://sansan-eiga.com/
監督:深川栄洋
脚本:深川栄洋
撮影:石井浩一
音楽:冨貴晴美
美術:松本知恵
出演:八千草薫(柴田トヨ)、武田鉄矢(柴田健一)、伊藤蘭(柴田静子)、檀れい(柴田トヨの若い時代)、芦田愛菜(柴田トヨの幼い時代)、上地雄輔(上条医師)、ピエール瀧(藤巻)、鈴木瑞穂(柴田貞吉/トヨの夫)、池脇千鶴(ハローワーク担当者)、でんでん(競輪場のおじさん)
夫に先立たれたトヨ(八千草薫)は一人暮らしをしている。
小説家を目指していた一人息子の健一(武田鉄矢)は仕事にもつかないでふらふらしている。
嫁の静子(伊藤蘭)はそんな健一を愚痴を言いながらもどうにか支えている。
トヨは不甲斐ない息子が苦労の種だったが、嫁は精いっぱい尽くしてくれる毎日に感謝していた。
そんなある日、白内障の手術を受けて弱音をはいたトヨに、健一が「詩を書いたら」と勧めてくれた。
90歳を迎えてから詩を書くようになった主人公トヨさんの人生は「おしん」そのままだった。辛い半生だったが、この人生の最終章で「詩」に巡り合い、パァっと花咲かせた。
それだけではない。トヨさんの「詩」はいろんな方の応援歌となって、それぞれの迷いや悩みから抜け出す救いの手となっている。詩の持つ力を強く感じた作品だ。
八千草薫は言うまでもないが、武田鉄矢&伊藤蘭の夫婦もいい。『少年H』の本物ご夫婦に負けないくらいいい!
※八千草薫さんの美しい立ち居振るまいや所作さに心うたれた。
※娘の住んでいるシドニーで、今月中旬に日本映画祭があり、この『くじけないで』がかかり、なんと八千草薫さんが来てくださるそうです。
(美)
2013年/日本/カラー/ビスタサイズ/128分
配給:松竹
公式 HP >> http://www.kujikenaide.jp/
監督:熊澤尚人
脚本:まなべゆきこ、熊澤尚人
撮影:藤井昌之
音楽:安川午朗
出演:ヒョミン(ユン・ジホ)、清水くるみ(楓)、山﨑賢人(雄介)
韓国から日本に短期留学に来たユン・ジホ(ヒョミン)は、日本の大学で、楓(清水くるみ)と雄介(山崎賢人)と考えや習慣などの違いを確認しながら、だんだん親しくなっていく。だが、ジホには親しくなった2人にも言えないことがあった。
T-ARA のヒョミンが主演と聞いても知らないが、初対面から片言の日本語を大声で元気なキムチパワーをふりかけられては、みんな引いてしまうだろう。
始めこそ「うるさいなぁ」と見ていたが、だんだん片言の日本語に慣れてきて、ジホの一生懸命に恋を後押しして、同時に自分の喪失感を埋めていく展開に引き込まれてしまった。
これを観るのは若者が多いだろうし、年配者はあまり観ない?と思うが、日本と韓国の恋愛のお作法に「こんなに違うのか」とわかって面白かった。
韓国は付き合って百日目には記念のプレゼントや驚かすようなちょっとした工夫をやるらしい。全然知らない周りの人にも、「百日目だから」と呼びかけ通行人も協力している。
何回も恋愛していたり、二またをかけていたりしたら、百日目慣れしてしまったなんてないのかな。
面白いのは具体的な映画をDVDで見せてセリフやシーンをアレンジして実行させるのだ。『ラブ・アクチュリー』『エターナル・サンシャイン』が候補にあがった。
映画好きには「こんなピュアな使い方があるのか・・・」と楽しめるし、これから観る映画に「いい題材」を見つけることもできる(見つけるだけで活用はできないが)。
※リストの「愛の夢」を辻井伸行さんが弾いていた。独特な音色が映画にピッタリだった。
(美)
2013年/日本/カラー/122分
配給:ティ・ジョイ
公式 HP >> http://jinx-movie.com/
監督:金井純一
脚本:金井純一
撮影:清村俊幸
音楽:吉田トオル
出演:吉倉あおい(木下はつ実)、柳楽優弥(野口隆太郎)、新木優子(マリ)、朝加真由美(木下恵子/はつ実の母)、ダンカン(警官)
高校生の木下はつ実(吉倉あおい)は、引越しの前に交通事故で突然父を失い、弁護士の母親と2人で郊外の家に引っ越して来た。
新しい高校では陸上部に入り、マリ(新木優子)と仲良しになり、順調な高校生活だった。
一方、家庭では母親(朝香真由美)が教育ママではつ実とは合わず、父親のいない喪失感のせいか孤独だった。
そんなある日、はつ実は古紙回収の仕事をする野口隆太郎(柳楽優弥)と出会う。
親に捨てられたという隆太郎とはつ実はお互いに好ましく思うが、隆太郎と会うために塾を無断で休んでいたことが母親にわかってしまい、「携帯を見せなさい!」という喧嘩の末、携帯を壊してしまう。
素晴らしい作品だ。監督さんはこの作品が長編デビューとお聞きした。構想から脚本・編集までやっている。
主役の吉倉あおいさん、素直さと感の良さがあり、声に自然な幼さが残っていて清潔さが滲み出ていた。期待の新人女優さんだ。
作品は『さよなら渓谷』を思い出したが、痛さは別物(種類は同じでも深さが違う)であるし、痛いストーリーの中に救いがあり、新鮮な気持ちで観終えることができた。
最後に交わす二人の会話は、含みもあって痛いが温かみを感じた。(ここで大泣き寸前だった)
※試写場内には若くて美しい女の子たちがいっぱい。主演でモデル出身の吉倉あおいさんのお友だちだろう。後から出口で吉倉あおいさんが立っていらした。細くて背が高くて見上げてしまった。
(美)
2013年/日本/カラー/107分
配給:S・D・P
公式 HP >> http://yuru-ai.com/
監督・脚本:ジャン・チンミン
撮影:釘宮慎治
音楽:ウォン・ウィンツァン、ウォン・美音志
出演:倍賞千恵子(五十嵐君江)、チン・ハオ(吉流)、中泉英雄(五十嵐翔一)、チャン・チュンニン(奈菜子)、ティエン・イエン(美加)、窪塚俊介(名取)、風間トオル
天才棋士の中国人青年吉流(よしりゅう)は、囲碁の修練のために東京にやってくる。仕事もなく囲碁もできないまま、数ヶ月が過ぎてしまう。道に落としてしまった碁石を拾っていると、手伝う人があった。千葉から野菜の行商に来ているという五十嵐君江だった。吉流の話を聞いてホテルの掃除の仕事を世話し、千葉の家にも招いてくれた。君江の孫の翔一とも仲良くなり、初めて日本人の友達ができる。
ジャン・チンミン監督は92年に来日して日本映画学校監督科卒業。2000年には日大の映画学科に学び、修士号を取得しています。第15回の東京国際映画祭で『天上の恋人』で芸術貢献賞を受賞。記者会見で自分の経験を重ねた作品を、倍賞千恵子さんで撮りたいとおっしゃっていたのを思い出します。それが11年前のこと、ようやく作品となってお目見えしたことをお祝いしたい・・・と思いつつ紹介が遅くなってしまいました。とてもまじめに撮られた監督の思いのこもった作品。農婦姿も似合った倍賞さんが、いったん和服に着替えると凜とした空気をまとい、その道を極めた人に変わるのに見惚れました。(白)
2013年/日本・中国/カラー/100分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アークエンタテインメント
©2013「東京に来たばかり」製作委員会
公式 HP >> http://tokyonikitabakari.com/
監督・製作・脚本:グザヴィエ・ドラン
出演:グザヴィエ・ドラン(ユベール・ミネリ)、アンヌ・ドルヴァル(シャンタル・レミング)、フランソワ・アルノー(アントナン・ランボー)、スザンヌ・クレマン(ジュリー・クロウティエ)
カナダのケベック州。17歳のユベールは母親と二人暮らし。子どものころは大好きだった母親が疎ましくてならない。センスの悪い服やインテリア、食事のしかたもいやだ。ほったらかしているかと思えばうるさく干渉してくる。離れて暮らすすべはないかと苦悩する毎日だ。
カナダの新鋭監督グザヴィエ・ドラン19歳のデビュー作。日本では『わたしはロランス』(2012年)が先に公開されています。アップになる眉や長い睫に縁取られた目に、予備知識なく綺麗な男の子!と観ていました。後で脚本・監督・主演と知ってびっくり。脚本は17歳のときに書き上げたものだそうで、セリフも構成も初の作品とは思えません。天は二つも三つも彼に与えてくださったわけです。思春期の誰もが一度は陥る親への愛憎を鮮烈に描いて、共感します。2作目の『胸騒ぎの恋人』(2010年)も2014年2月1日(土)公開決定!(白)
2012年/カナダ/カラー/110分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ピクチャーズデプト
©2009 MIFILIFILMS INC
公式 HP >> http://www.ikilledmymother.net/
監督・脚本:緒方貴臣
撮影:堀之内崇
音楽:田中マコト
出演:伊澤恵美子(由希子)、土屋希乃、土屋瑛輝、辰巳蒼生、仁科百華
若くして結婚し、二人の子どものいる由希子。夫の帰りはいつも遅く、ようやく戻ると他に女性ができたと一方的に別れを告げられてしまう。シングルマザーとなった由希子はパート仕事に出て、資格取得の勉強をし、子育てをしなければならない。まだ手のかかる子どもたちに留守番させることも多くなる。そんな生活が続くわけもなかった。
大阪で起こった若い母親による2児放置死事件を題材にしています。良きママだった由希子が、生活に押しつぶされて次第に変わっていきます。幼子たちに事情がわかるはずもなく、おなかをすかせながら無心に帰りを待っているのがたまりません。なすすべもなく見守るのが辛い映画でした。なぜこんなことになったの、ここまで孤立するものなの、誰も助けられなかったのと頭の中に疑問がぐるぐるします。
緒方貴臣監督はこれまでも『終わらない青』(2009年)、『体温』(2011年)など、重いテーマの作品を作ってきました。淡々とした映像ですが、怒りの炎が燃えているようです。胸に楔が打ち込まれ、忘れられない印がつけられた気がします。(白)
2013年/日本/カラー/95分/ステレオ
配給:エネサイ
©2013『子宮に沈める』All Rights Reserved.
東日本大震災の映像記録として、酒井耕・濱口竜介監督が、体験者の言葉を捉えた3部作。
予告編 https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=X-VH9F_K-NA
津波被害を受けた三陸沿岸部に暮らす人々の「対話」を撮り続けたドキュメンタリー映像。友人、家族、仕事仲間など親しいもの同士が震災について語り合う。
『なみのおと』から1年。新地町と気仙沼での対話を記録。「被災者」の声ではなく、現実にそこに生きる「一人ひとり」の声として。
昔話・伝説・世間話など東北地方に伝わる民話の語り部たち。そしてそれを聞く人たちの姿を収めた1作。
東日本大震災を体験した人たちの声を、100年後にも伝えようという思いで作られた3部作。『うたうひと』を観て、遠野を訪れた時に語り部の方たちから民話を聞いたことを思い出しました。テレビも映画も録音機もなかった時代から伝わる物語の数々。その中には、いろんな真実が込められていることを感じたものです。先人の体験から学ぶことも多いのも感じます。この3部作が、100年後の人たちにどのように捉えられるのかも楽しみです。(咲)
下記日程でトークが行われます。
「東北記録映画三部作」いずれかの作品ご鑑賞のお客様は半券のご提示にてどの日程のトークもご入場いただけます
11月11日(月)17:40-18:40 三浦哲哉さん(映画批評)、酒井耕監督、濱口竜介監督
11月12日(火)17:40-18:40 佐々木敦さん(批評家、早稲田大学教授)、酒井耕監督、濱口竜介監督
11月13日(水)17:40-18:40 港千尋さん(写真家)、酒井耕監督、濱口竜介監督
11月14日(木)13:10-14:10 小野和子さん(民話研究者)/芹沢高志(『なみのこえ』『うたうひと』プロデューサー)、酒井耕監督、濱口竜介監督
11月15日(金)13:10-14:10 大塚英志さん(批評家)、酒井耕監督
11月21日(木)12:30-13:20 ヤン・ヨンヒさん(映画監督)、酒井耕監督
配給:サイレントヴォイス
監督・原作・脚本:吉浦康裕
アニメーション制作:パープルカウスタジオジャパン
キャラクター原案:茶山隆介
動画監督:大谷久美子
作画監督:又賀大介
CG監督:安喰秀一
コスチュームデザイン:杏仁豆腐
美術監督:金子雄二
色彩設計:井上あき子
音響監督:山岡晃
音楽:大島ミチル
声の出演:藤井ゆきよ(パテマ)、岡本信彦(エイジ)、大畑伸太郎(ポルタ)、ふくまつ進紗(ジィ)、加藤将之(ラゴス)、安元洋貴(ジャク)、内田真礼(カホ)、土師孝也(イザムラ)
手を離したら、
彼女は空に落ちていく。
かつて大異変のために多くの人々が空に落ちていった。エイジの住むアイガは空を忌み嫌う世界だった。地下世界の集落に住む少女パテマは、立ち入りを禁じられている危険区域で、巨大な竪穴に落下してしまう。無限に続くかと思った闇を抜けたパテマが見たのは「真逆な世界」だった。空を見上げていたエイジはフェンスにさかさまでぶら下がっているパテマを見つけ、驚愕する。
『イヴの時間 劇場版』の吉浦康裕監督の最新作。「さかさまの世界」といえば9月に公開された『アップサイドダウン 重力の恋人』があります。双子惑星が接近して存在しているため、2重引力が働くというものでしたが、富裕層と貧困層が住み分けているこの世界は互いに認識されている設定です。こちらの作品は全く知らされないまま、少年と少女が出会ってしまいます。自分の世界の引力に準じるので、二人には真逆の引力が働くというのが『アップサイド~』でした。しかし、パテマは地下世界から落ちてきて、アイガではさかさまになり、手を離すと空に落ちる・・・ええ~どうなってるの?と単純な私の頭は大混乱。図でも描いてみてください。こんな世界を考えつく吉浦監督ってどんな方なんでしょう?
東京国際映画祭の特別招待作品になり、監督と主演の声優さんの舞台挨拶がありました。ラッキー!この日はエイジ役だった岡本信彦さんの誕生日。サプライズのバースデイケーキに大喜びの岡本さん、初主演で涙ぐんだパテマの藤井ゆきよさん、クールな吉浦監督の画像をお披露目します。(白)
2012年/日本/カラー/99分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アスミック・エース
© Yasuhiro YOSHIURA/Sakasama Film Committee 2013
公式 HP >> http://patema.jp/
監督:マイケル・ウィンターボトム
脚本:ローレンス・コリアット、マイケル・ウィンターボト
撮影:ジェームズ・クラーク、ショーンボビット他
音楽:マイケル・ナイマン
出演:シャーリー・ヘンダーソン(カレン)、ジョン・ジム(イアン)、ステファニー・カーク(長女ステファニー)、ロバート・カーク(長男ロバート)、ショーン・カーク(次男ショーン)、カトリーヌ・カーク(次女カトリーヌ)
ステファニー、ロバート、ショーン、カトリーナの兄妹は、毎朝シリアルを食べ、学校へ通う。母親のカレンは子供たちを学校に送ってからスーパーで働き、夜は子供たちをシッターにみてもらい居酒屋で働いている。
どこにでもある毎日の生活だが、父親はいない・・・この家の主人は刑務所に入っている。
家はあるが車がないので、面会日に電車やバスを乗り継いで子どもをかわりばんこに連れていく。
そんな毎日を淡々と描いているが、刑務所面会日の様子がとってもリアルで、刑期満了まで一日外出やお泊りできる外出で自宅へ、そして最後は刑期を終えて無事帰ってくるなどイギリスの刑務所事情がよくわかった。
子ども4人は本当の姉弟、5年の月日をかけている。この作品の主人公は「時間」だ。
音楽は『ひかりのくに』で印象的だったマイケル・ナイマン。
4人の子どもの父母役も『ひかりのくに』のシャーリー・ヘンダーソンとジョン・ジム。
シャーリー・ヘンダーソンのお顔、違っちゃったなぁ。でもいいお母さん、幸せになってほしい。
※欲をいえばご夫婦のセックスシーンが後5秒長かったら・・・と思った。
(美)
2012年/イギリス/カラー/ビスタ/90分
配給:クレストインターナショナル
公式 HP >> http://everyday-cinema.com/
監督:古澤健
脚本:古澤健
撮影:浜田毅
音楽:安川午朗
衣装:小林身和子
美術:清水剛
出演:北川景子(萩尾春海)、深田恭子(西村麗子)、高良健吾(工藤謙介)、尾上寛之(長谷川信一)、大塚千弘(安藤リカ)、筒井真理子(萩尾喜恵)、蛍雪次朗(松井宗雄)、田口トモロヲ(山崎徹)
派遣社員として働いていた若い女性・萩尾晴海(北川景子)は交通事故で意識不明になってしまった。しばらくして意識は回復し、足を引きずって退院することができた。
入院中、とても親切にしてくれて意気投合した看護師・西村麗子(深田恭子)と、退院をきっかけにルームシェアをすることになった。
住むところは晴海の古いマンション。二人の共同生活は順調に始まったかに見えたが…。
配給さんにしっかり「ネタバレ禁止」とお願いされた。
最初の5分が緊張の連続。これが最後に通じるのでしっかりみておかないとダメ。
最後のどんでんは「まさか!」と驚いたが、試写室で一緒にいた方が「途中でわかった!」と言っていたが、私はわからなかった!悔しい!
こんな美しい女優さんが共演するんだから男性はもちろん、女性だって大切なお友だちと今、流行っている「ルームシェア」がしたいなら・・・この作品をみてほしい。
決め事の勉強になるかもしれない。(美)
2013年日本/カラー/110分
配給:東映
公式 HP >> http://www.roommate2013.com/
監督:タナダユキ
脚本:黒沢久子
撮影:近藤龍人
音楽:周防義和
出演:永作博美(高岩百合子)、石橋蓮司(熱田良平)、岡田将生(ハル)、二階堂ふみ(イモ)、原田泰造(高岩浩之)、淡路恵子(珠子)
妻・乙美の突然の死で熱田良平(石橋蓮司)はこの先どうしたらよいのか呆然としていた。
そこへ突然、ど派手なファッションの若い女の子・井本(二階堂ふみ)が飛び込んできた。
「イモです!」と名乗った彼女は家に上がり込み、掃除、布団干し、お風呂場で良平の背中を流すなどをどんどんして行く。
亡くなった乙美が更生施設でボランティアをしていた時の生徒だった。
イモは乙美が生前に作っていた「暮らしのレシピ」カードを取り出し、四十九日の法要は大宴会で盛大にやろうと言い出す。
そこに、愛人に子どもまで作った夫と離婚を決意して、父一人暮らしの実家に娘の百合子(永作博美)が帰ってきた。
洋服も声も(甘ったるいがつい耳を傾けたくなる)超ステキな二階堂ふみちゃんの天然ぶりと、妻に先立たれ一人遺された頑固親父の男の対比がとてもよかった。
口うるさい親戚のおばさん(淡路恵子)のポンポン飛び出す「田舎的常識本音」が面白い。
気持ちの「区切り」をつけ、そして「前に進む」がこの映画の言わんとするところだ。
結末の付け方が歯痒いと思ったが、女性監督らしくその後の選択について考えさせるものが用意されている。
(美)
2013年/日本/カラー/ビスタ/129分
配給:GAGA★
公式 HP >> http://49.gaga.ne.jp/
監督: セルジオ・カステリット
出演: ペネロペ・クルス、エミール・ハーシュ、アドナン・ハスコヴィッチ、サーデット・アクソイ,ジェーン・バーキン
ローマで暮らすジェンマのところに、サラエボに住む旧友ゴイコから電話がかかってくる。ボスニア紛争時代の写真展が開かれていて、そこには16年前、紛争で生き別れになってしまったジェンマの元夫で報道カメラマンのディエゴの撮った写真もあるという。ジェンマは16歳の息子ピエトロを連れてサラエボを訪ねる。写真展でジェンマはディエゴが撮った写真の中に、人肌に刻まれた不思議な花模様のアップに目を留める。
ジェンマはかつてサラエボ留学中に、ゴイコが主宰するアーティスト集団のパーティでアメリカ人報道カメラマンのディエゴを紹介され、一瞬で恋に落ち結婚したのだった。ジェンマの故郷ローマで新婚生活を送るが、ジェンマは子供が出来ない身体であることが判明する。ボスニア紛争が勃発しディエゴは戦場の記録を撮りたいとサラエボに向かう。ジェンマも後を追う。どうしても子供が欲しい二人は代理母になってくれるアスカという女性を見つける。戦闘の激しくなる中、やがてアスカは男の子を出産。生まれたばかりの赤ちゃんを連れて、二人は軍の用意した救援機でイタリアに帰国することを決めるが、ディエゴはパスポートを持っていない為、搭乗できなかった・・・
人肌に刻まれた花模様の秘密が最後に明らかになります。凄惨を極めたボスニア紛争を象徴する花模様・・・ その裏には、ディエゴのジェンマに対する深い愛と、代理母アスカへの思いやりの心が隠されていて、涙を誘います。真実が明らかになるまで、ディエゴという男性、お調子者というイメージだったので、思わぬ展開に戸惑いました。
ペネロペ・クルスの女子大生はちょっと無理があるかなぁと思いつつ、紛争に翻弄された過去を持つ気丈な母親を熱演。私が注目したのは、代理母アスカを演じるトルコの女優サーデット・アクソイ。トルコ映画『卵』『ミルク』(セミフ・カプランオール監督)や、ブルガリア映画『ソフィアの夜明け』などに出ていた方。今後の活躍が楽しみです。
そして、もう一人、精神分析医役でジェーン・バーキンが出てきたのも嬉しかったです。
アーティスト集団を演じるサラエボのボスニア人俳優グループや、監督夫妻の実の息子のピエトロが実名で出演していることにも注目です。
『サラエボの花』(ヤスミラ・ジュバニッチ監督)や『最愛の大地』(アンジェリーナ・ジョリー監督)などにも通じるところのある作品ですが、主人公二人が無理に代理母まで使って子供が欲しいということには感情移入できませんでした。(咲)
2012年/イタリア・スペイン/ 129分/カラー
配給:コムストック・グループ /クロックワークス
公式 HP >> http://www.aru-ai.com/
監督:バルタザール・コルマクール
脚本:ブレイク・マスターズ
撮影:オリヴァー・ウッド
音楽:クリントン・ショーター
衣装:ローラ・ジーン・シャノン
美術:ベス・ミックル
出演:デンゼル・ワシントン(ボビー・トレンチ)、マーク・ウォールバーグ(マイケル・スティグマン)、ポーラ・ハットン(デビー)、ビル・パクストン(アール)、ジェームス・マースデン(クインズ少佐)、フレッド・ウォード(トゥーイ少将)
調達屋のボビー(デンゼル・ワシントン)と悪賢いマイケル(マーク・ウォールバーグ)は裏社会で生きている。息のあったコンビだが、お互いにそれは表向きだけ。
実はボビーは麻薬の潜入捜査官で、同僚のデビー(ポーラ・ハットン)を愛人兼連絡員としている。かれこれ三年になる。
一方、マイケルの正体は海軍情報部の将校。麻薬カルテルのボスを潰して隠し金を押収しようとしていた。
だが二人はお互いの真実の姿は、今のところ知らない。
デンゼル・ワシントンとマーク・ウォールバーグの会話がとても歯切れよく楽しい。
冗談をいいながら火事や爆発、それに銀行強盗などホイホイとしてしまう。
だれがこの様子をみて「仮の姿」と思う?デンゼル・ワシントンは隠れ捜査官かな?とは微かに思ったけど、マークまでとは。
でも裏には裏があって一筋縄では終わらない。久しぶりに笑ったし、ハラハラもした作品。
※荒野のカーチェイスがよかった。街中のカーチェイスは、いったい何人が死んだ?怪我人は何人?壊れた車や店はいったいどうするじゃ~とついつい心配になるが、荒野ならどんどんやれ!と安心して楽しめた。(美)
2013年/アメリカ/カラー/スコープサイズ/109分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンターテインメント
公式 HP >> http://www.2guns-movie.jp/
監督:トール・フロイデンタール
脚本:マーク・グッゲンハイム
撮影:シェリー・ジョンソン、A.S.C
音楽:アンドリュー・ロッキングトン
衣装:モニク・プリュドム
出演:ローガン・ラーマン(パーシー・ジャクソン)、ブランドン・T・ジャクソン(クローバー)、アレクサンドラ・タダリオ(アナベス・チェイス)、ジェイク・アベル(ルーク)、ダグラス・スミス(タイソン)、スタンリー・トゥッチ(ミスターD)
ニューヨークに暮らすパーシー・ジャクソン(ローガン・ラーマン)は、ギリシャ神話に登場する海の神ポセイドンと人間の間に生まれた半神で、水を自在に操れるという特殊能力を持っている。
ポセイドンと全能の神ゼウスが封印した前代の神々の王クロノスが復活を目指していた。
世界を破滅へ導くクロノスを止めることができるのは「魔の海に隠された黄金の毛皮」と知り、パーシーは自分の異母兄弟と名乗る一つ目のタイソン(ダグラス・スミス)と共に魔の大海原バミューダ・トライアングルに行く。
前作をみていなくても、忘れていても全然OK。
わかりやすく面白くできている。それに3D効果も楽しめた。3Dもどんどん技術が高くなっていくから嫌いなどといっていられない。
パーシー・ジャクソンのお相手は『飛びだす 悪魔のいけにえ~』で生き残りの娘役を演じたアレクサンドラ・ダダリオさん。ここでは自信さなげのパーシー・ジャクソンを励ましている。
そして気に入ったのが、一つ目のタイソン・ダグラス・スミス。
中央に目が一つなのにサングラスは通常の形。
それじゃ見えないんじゃないのか?ゴーグルタイプじゃないとダメじゃない?などと心配しながら観たが、なかなかの美形!
※日本にも神話があるが、外国にもいろんな神々がいて、とっても行動的で個性的だ。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/3D、2Dデジタル/106分
配給:20世紀フォックス映画
公式 HP >> http://www.foxmovies.jp/percy/
監督:ジョシュア・マイケル・スターン
脚本:マット・ホワイリー
撮影:ラッセル・カーペンター
音楽:ジョン・デブニー
出演:アシュトン・カッチャー(スティーブ・ジョブズ)、ダーモット・マロニー(マイク・マークラ)、ジョシュ・ギャッド(スティーブ・ウォズニァック)、ルーカス・ハース(ダニエル・コトキ)、J・K・シモンズ(アーサー・ロック)、アマンダ・クルー(ジュリー)
1976年、スティーブ・ジョブズ(アシュトン・カッチャー)は、自分の機械いじりの好きな友人やそのまた友人を集めて自宅のガレージに「アップルコンピューター」を設立した。
数年後には製品が売れて株式を上場し、ジョブズは大金と名声を手に入れた。
だが、彼の性格から意見が違う社員や立ち上げ当時の友人ですら冷遇したり、首を切ったりして孤立していくのだった。それと開発優先で湯水のごとくお金を使うため自分の会社から追放されてしまう。
2年前の秋に銀座を歩いていて歩道が通れなくなるほど花束が飾られていた。人がいっぱい集まっていた。なんだろう?と様子を見ていたら「ジョブズ氏」の死亡のニュースが張ってあった。そこはアップルの会社前だったのだ。
伝説の人だ。私もアイパッドを使っている。斬新な「説明書」が紙切れ一枚には驚かされた口だ。
お亡くなりになって2年で公開ってことは企画されたのは一年前。ちょっと早すぎ?と思わないではないが、この方を「彼が試行錯誤して作った製品を使っても、彼のまわり10メートル以内には入らないほうがいい」と思う人物に感じてしまった。
彼の偉業の出発点の行動力や成功した時に不意に襲われる孤独感には、真実の「ジョブズ氏」を見たような気がする。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/127分
配給:ギャガ GAGA★
公式 HP >> http://jobs.gaga.ne.jp/
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:マイケル・ダグラス、マット・デイモン、ダン・エイクロイド、スコット・バクラ、ロブ・ロウ、トム・パパ、ポール・ライザー、デビー・レイノルズ
リベラーチェ。1950年代から80年代初頭まで、ラスベガスを中心に舞台やテレビで活躍し、大人気を博したピアノ・パフォーマー。きらびやかな衣装に身を包み、クラシック、ポップス、ジャズなどを織り交ぜ独自のアレンジで弾きまくり、観客を魅了させ、“世界が恋したピアニスト”“世界で最も稼ぐエンターテイナー”と称された。
本作は、リベラーチェの華麗な表舞台の裏に迫る物語。
1977年夏、リベラーチェ(マイケル・ダグラス)のもとに、友人の元振付師ボブ(スコット・バクラ)がハンサムな青年スコット・ソーソン(マット・デイモン)を連れてやってくる。テレビCM用の動物の世話を仕事にしているスコットに、リベラーチェは愛犬のために目薬を探してほしいと頼む。それは一目惚れしたスコットに近づく口実。やがて、住み込みの個人秘書になって欲しいという申し出を受けたスコットは、ラスベガスの豪邸で一緒に暮らし始め、急速に恋愛関係に発展する・・・
リベラーチェとスコットの熱烈な関係から、その破たん、そして1987年、死の床でのリベラーチェの告白まで、二人の心の動きを丁寧に描き出した本作。性的マイノリティへの差別意識が強かった時代に、同性愛であることを必死に隠そうとしたリベラーチェの苦悩もひしひしと伝わってきます。華麗なショービジネスの世界にくらくらしながら、人を愛することの本質をずっしり感じた一作です。(咲)
マイケル・ダグラスとマット・デイモンに心底たまげた!俳優魂の真骨頂だ!
この時代、芸能界でもゲイはご法度。人気の命取りだから、内々では暗黙の了解でバレバレでも「知らぬ存ぜぬ」で逃げ切れた時代。
人気の秘密はトークとピアノ技術だ。幼いときから鍛錬していないとここまで指がまわらない。「世界が恋したピアニスト」と呼ばれていたらしいが納得できる。
衣装は今で言う紅白歌合戦の「小林幸子のど派手な衣装」の先駆者だ。
目を覆うばかりの愛の終焉だが、最期は「リベラーチェのひと言」でとてもいい終わり方をしている。
2013年/アメリカ/英語/118分/カラー/ハイビジョン/ドルビーデジタル
配給:東北新社
特別協賛:スター・チャンネル
公式 HP >> http://www.liberace.jp/
監督・脚本:モーリス・ピアラ
撮影:エマニュエル・マシュエル、ジル・アンリ
美術:フィリップ・パリュ、カティア・ヴィシュコフ
出演:ジャック・デュトロン(ゴッホ)、アレクサンドラ・ロンドン(マルグリット)、ベルナール・ル・コク(テオ)、ジェラール・セティ(ガシェ)、コリーヌ・ブルドン(ヨー)
精神を病んで病院に入り、退院してからパリ郊外のオーヴェルの街で療養生活を送ることになったゴッホ。紹介されたガシェ医師の診察を受け、美術品コレクターの彼と親しくなる。娘のマルグリットをモデルに肖像画を描くことになり、毎日訪ねるようになった。
特集上映「モーリス・ピアラ」のうちの1本。恵まれなかったゴッホの生涯は、ほかの伝記映画でも観てなんとなく知ってはいました。オーヴェルでは、こんなに穏やかな生活をしていたこと、生活の援助をしていた弟のテオが、ゴッホの絵画をそう支持していたわけでもないことが描かれていて、ほ~と思いました。物事は見る方向で様々に変わるので、これもまた真実なのでしょう。絵が何枚も画面に登場するのがとても興味深く、風景とともに楽しみました。
特集では、ほかに『愛の記念に』(1983年)、『ポリス』(1985年)、『悪魔の陽の下に』(1987年)の3本を上映。いずれも高い評価を得た作品で、『ポリス』は日本初公開です。お見逃しのないよう。(白)
1991年/フランス/カラー/160分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ザジフィルムズ
公式 HP >> http://www.zaziefilms.com/pialat/
監督・脚本:マーティン・マクドナー
撮影:ベン・デイヴィス
音楽:カーター・バーウェル
出演:コリン・ファレル(マーティ)、サム・ロックウェル(ビリー)、ウディ・ハレルソン(チャーリー)、クリストファー・ウォーケン(ハンス)、トム・ウェイツ(ザカリア)、アビー・コーニッシュ(カーヤ)、オルガ・キュリレンコ(アンジェラ)
脚本家のマーティは悩んでいた。「セブン・サイコパス」とタイトルだけ決まっているが、登場人物のイメージがわかず1行も書けない。刻々と時間が過ぎ、締め切りが近づいてくるばかり。様子を見に来た売れない俳優ビリーが助けるつもりで「イカれた奴(サイコパス)、募集!」の広告を出す。やってきたのは、あぶないヤツばかり。おまけにビリーがマフィアの愛犬を連れてきてしまい、もっと危険なマフィアに追われるはめになった。脚本はできるのだろうか?いや、それまで命があるのだろうか??
イギリス発のブラックコメディ。劇作家として高い評価を受けているマーティン・マクドナー作品。アメリカのコメディはシモネタとばかばかしいのに辟易することがありますが、イギリスのは黒すぎて笑えないことがあります。これも15+です。人がバタバタ死ぬわ、することなすこと過激だわで、観客もマーティと一緒に振り回され、ひそめた眉がつながります(嘘)。出演者も豪華。クリストファー・ウォーケンの今年の公開作はこれで4本です。御年70歳ですが、若手に負けていません。嬉しいな。(白)
2012年/イギリス/カラー/110分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:クロックワークス
© 2011 Blueprint Pictures (Seven) Limited, The British Film Institute and Film4
公式 HP >> http://7-psychopaths.jp/
監督:吉田恵輔
脚本:仁志原了、吉田恵輔
撮影:志田貴之
音楽:かみむら周平
美術:吉村昌吾
出演:麻生久美子(馬淵みち代)、安田章大(天童義美)、岡田義徳(松尾健志/みち代の元彼)、山田真歩(マツモトキヨコ)、清水優(亀田大輔)、秋野暢子(天童育子)、松金よね子(馬淵絹代)、井上順(馬淵治)
34歳の馬淵みち代(麻生久美子)は毎回脚本コンクールに応募するが、一次審査すら通過しない。
彼女と同じシナリオスクールで出会った26歳の天童義美(安田章大)は、自分ではまだ一度も(一行も)作品を書いていないのに、ひどい毒舌でみち代や他の人のシナリオを批評するのだった。
数回喧嘩ごしで言い合いをしただけだったが、天童はみち代にほれてしまう。
「ちょい辛&遅咲き青春ラブコメディ」といえる。
田舎から大志を抱いてがむしゃらに歩んで来たが、おやっと思うと早や30歳・・・といって諦めて帰るには格好がつかない。
「もう少し頑張ってみるか!」とまた歩みだすと「いつ見切りをつけるのか分からなくなってくる」という方は東京にはうんざりするほどたくさんいらっしゃるはずだ。
早々に見切りをつけて介護施設で働く元彼も「こんなはずじゃなかった」を心の隅に追いやって、毎日老人たちの介護をしている。「希望」を追いかけ続けているみち代を羨ましかったに違いない。この世代の方が観るときっと泣けてくるだろうなぁとしんみりしてしまった。
『机のなかみ』『純喫茶磯辺』『さんかく』と吉田監督はいい作品で着実にご自分の道を歩まれているのを観せてもらったが、監督さんにも、この作品に似た感情で落ち込んだり、やめようと思ったりしたことがおありなのかなぁ~。
(美)
2013年/日本/カラー/119分
配給:東映
監督:中村義洋、鶴田法男、上田大樹
企画・原案:加藤隆生
脚本:堀田延、中村義洋、鶴田法男
撮影:今井孝博、川越一成、三村和弘
出演:川口春奈(マダム・マーマレード)、高畑淳子(マダム・バルサミコ)、山崎一(田中)、池田成志、オクイシュージ、井口恭子
30年前に亡くなった映画界の巨匠、藤堂俊之介。妻に残した最後の言葉と未公開の短編映画が3本。その謎を解くために、マダム・マーマレードが藤堂家に招かれた。「この世で解けない謎はない」と豪語する彼女は、さっそくフィルムを映写機にかけさせる。『つむじ風』『鏡』『やまわろわ』の3本を観終えるとマダム・マーマレードが口を開いた。「さあ、謎解きを始めましょう」。
リアル脱出ゲーム、映画化。というキャッチに何!何?と興味津々で出かけました。解答用紙と筆記用具を手に、ドキドキ。今までもいろいろな場所で、催行されてきたのだそうですが、映画では初ではないでしょうか?初めての方も説明をよく聞いて、メモを忘れず、と解説を聞いてやってみましたが・・・が~~ん!めっちゃ難しいではないですかっ! 最初の問題が解けても、第2、第3の波状攻撃。それも前に戻らなくては答えがわかりません。戻りたくても映画では無理。あれもこれも、これもあれも、怪しそうなのを片っ端からメモしても、どれだけ解けるのでしょう。正解率はとっても低そうです。【解答編】は11/22から公開。【出題編】とのセット券もあります。チャレンジ!(白)
2013年/日本/カラー/110分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:テレビ東京
©ナゾトキネマ「マダム・マーマレードの異常な謎」製作委員会
公式 HP >> http://nazotokinema.jp/
監督:ニールス・アルデン・オプレヴ
脚本:J・H・ワイマン
撮影:ポール・キャメロン
音楽:ヤコブ・グロート
出演:コリン・ファレル(ヴィクター)、ノオミ・ラパス(ベアトリス)、ドミニク・クーパー(ダーシー)、テレンス・ハワード(アルフォンス)、イザベル・ユペール(ヴァレンタイン)
裏社会の大物アルフォンスのところに次々と脅迫状が届き、手下のダーシーたちは何者かと躍起になる。寡黙なヒットマンのヴィクターは、ボスの右腕として一目おかれている。高層アパートの一室で標的の始末をつけているのを、たまたま向かいのマンションのベアトリスが見てしまった。彼女は交通事故で顔に酷い傷跡が残り、加害者の男を恨んでいた。ヴィクターを裏社会の人間とあたりをつけたベアトリスは、通報しない代わりに復讐してくれと持ちかける。
『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09年/デンマーク)のニールス・アルデン・オプレヴ監督が、再びノオミ・ラパスを主演にしたハリウッドデビュー作。八の字眉のコリン・ファレルが無口なヒットマン、ノオミ・ラパスと向かい合った高層ビルの部屋に住んでいて出会います。映画の中でよく窓の中が見えるシーンがありますが、高いところに住んでいる方々は、あんなに無防備にカーテンも閉めずにいるものですか?『裏窓』のように、この作品も物語の進行上必要なのでしょうけど、暗殺者がそれではまずいでしょ。ともあれ、出逢いはそこから始まります。娘を案じる母親ヴァレンタイン役のイザベル・ユペールが、殺伐とした物語の中でふんわりとしたいい空気をかもし出しています。(白)
2012年/アメリカ/カラー/118分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:プレシディオ
©2012 DMD PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式 HP >> http://deadmandown.jp/
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
脚本:パム・カッツ、マルガレーテ・フォン・トロッタ
撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
出演:バルバラ・スコヴァ(ハンナ・アーレント)、アクセル・ミルベルク(ハインリヒ・ブリュッシャー)、ジャネット・マクティア(メアリー・マッカーシー)、ユリア・イェンチ(ロッテ)、ウルリッヒ・ノエテン(ハンス)
大学で教鞭をとる哲学者のハンナ・アーレントは、ナチス戦犯のアドルフ・アイヒマンが逃亡先で逮捕されたのを知る。ハンナは第2次大戦中、ナチスの強制収容所から脱出して生き延び、アメリカへ亡命したドイツ系ユダヤ人だった。ザ・ニューヨーカー誌に記事を書くことを約束し、イスラエルで開かれる裁判を傍聴できることになった。長い時間をかけて書き上げ、ハンナが発表した傍聴記録は大きなセンセーションを巻き起こす。
ハンナの学生時代からのちに哲学教授として功成り名を遂げながら、レポートを発表したとたん激しいバッシングに遭うまで。信念を曲げることなく毅然とした彼女の姿がすがすがしいです。学生を前にしたスピーチが圧巻。演じるバルバラ・スコヴァは、ドイツの革命家の半生を描いた『ローザ・ルクセンブルク』(1985年)でもマルガレーテ・フォン・トロッタ監督とタッグを組み、カンヌ国際映画祭の主演女優賞を獲得しています。大柄なメアリーをどこかで観たわと思ったら、『アルバート氏の人生』(2012年)でレズビアンのヒューバート役の女優さんでした。今回もテキパキとした男前?な親友役。
ヘビースモーカーであったハンナの紫煙が絶えることがないのが少し気になりますが、喫煙の害が今ほど知られていない当時、学生や文化人にとってタバコはアクセサリー以上のものであったようです。裁判傍聴のレポート「イェルサレムのアイヒマン」の刊行から50年、ハンナ・アーレントの思想と足跡を記した、ユダヤ論集全2巻「反ユダヤ主義」「アイヒマン論争」の日本語訳がみすず書房から出ています。(白)
2012年/ドイツ、ルクセンブルク、フランス/カラー/114分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:セテラ・インターナショナル
©2012 Heimatfilm GmbH+Co KG, Amour Fou Luxembourg sarl, MACT Productions SA, Metro Communicationsltd.
公式 HP >> http://www.cetera.co.jp/h_arendt/
監督:祷映(いのり あきら)
企画:福田智穂
脚本:南えると、祷映
撮影:葛西誉仁
音楽:渡邊崇
出演:大竹しのぶ(弓枝)、松田美由紀(ゆり子)、杉田かおる(春美)、西尾まり(俊恵)、ブラザートム(晃司)、遠藤憲一(徹也)、中村有志(昭一)、長山藍子(徹也の母)
熊本県天草牛深(うしぶか)。かつては炭鉱と漁業で栄え、屈強な男たちが繰り出した賑やかな色町があった。いまや炭鉱が閉じ、漁獲量が減り、若者の働く場もなく、衰退都市ナンバー1と囁かれている。全然嬉しくもありがたくもない。
ウツボ屋の晃司と弓枝夫婦は、熊本の大学へ出した一人娘の美香を案じている。マザコンの徹也と結婚10年の俊恵は子供を授からず、姑と一触即発の状態だ。アネさんと頼られるゆり子は、独身のままトウが立ってきた。離婚して東京から戻った晴美に、独り者の昭一は心ときめかす。町おこしの集まりと称して、昼間から飲んでいる口ばかりの男たちに業を煮やした女たちは、男なんてそがんもんよ~と立ち上がる。まずは空き家となっていた元遊郭「三浦屋」を料亭として復活させよう!芸者は?集めればよか!
男たちに期待せず、「肥後もっこす」のメンツだけは立ててやる女たちは大人で、一枚も二枚も上手だ。今できることをすぐ行動に移し、障害があっても決してあきらめない。大竹しのぶや松田美由紀ら女優陣が揃って、そんな「肥後猛婦」をリアルに見せる。
ダメダメながら憎めない中年トリオが笑いの種を蒔く。嫁がほしい親の下ネタに参る中村有志、強面役の多い遠藤憲一がマザコン男、妻に甘えながらも威張っていたいブラザートム。妻は夫を「ちゃん」付けで呼ぶ。この夫婦たちは、ずっとここで育った幼馴染同士で結婚したのだろう。今も一緒にお風呂に入るほど仲がいい。どんなにやりあっても観客の気持ちが冷えることはない。試写室ではたびたび笑い声が上がり、住民あげてのハイヤ踊りで盛り上がった上映終了後、拍手が起こった。
祷監督は『パッチギ! LOVE&PEACE』などのプロデューサーをつとめ、2作目の監督作品。「ワッゲンオッゲン」はドイツ語ではなく、天草弁で「お前んち 俺んち」の意味。(白)
2012年/日本/カラー/103分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:映画24区=アルゴピクチャーズ
©2012「ワッゲンオッゲン」製作委員会
公式 HP >> http://www.jaijai-movie.com/
監督:岸本司(「琉神マブヤー」「ハルサーエイカー」)
出演:丞威、小池唯(「海賊戦隊ゴーカイジャー」)、八木明人(『黒帯 KURO-OB I』)、比嘉恭平、島袋寛之、村山靖、内田周作、知念臣悟、打越陽二朗、當間清・子、子安慎悟、新垣正弘
究極のダンスを求めて放浪するストリートダンサー沢村拳。沖縄に降り立った拳は、畑の中で琉球舞踊を踊る老人に出会う。広場でダンスを披露し始めた拳を地元のチンピラたちが叩きのめす。意識を失った拳を助けたのは、さっきの踊る老人だった。実はその老人、琉球空手道場の家元、新城厳だった。道場は孫娘の美沙子が館長を継いでいたが、美沙子には空手経験がなく、門下生もいない。廃館寸前の道場をライバルの与那嶺道場の館長が譲り受けようと狙っていた。美沙子は、琉球空手史において伝説となっている「嫁取りバトル」を与那嶺に持ちかける。それは、意中の女性との勝負に勝てば、その女性を嫁に出来るというもの。美沙子に勝った男と結婚し、道場もあげるというものだった。拳は、新城厳から孫娘と闘って欲しいと頼まれる・・・
空手の発祥の地が実は沖縄であることを、本作を観て知った。薩摩藩に支配されていた時代、武器を持つことを禁じられた琉球の人々が、素手で戦うために武術「手(てぃ)」を生み出した。武術の練習と悟られないよう、踊りの動きに空手の技を隠したと伝えられている。「踊りのうまい男は、空手も強い」と言われる所以である。
今年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で福岡観客賞に輝いた香港映画『狂舞派』でも、太極拳とヒップホップダンスを融合させていた。いずれも武術と舞踊の秘めた関係を感じさせてくれる楽しい作品。
沢村拳を演じているのは、ロサンゼルス出身のダンスパフォーマー丞威(じょーい)。みごとなダンスを披露している。(咲)
2013年 /日本 /78分 /カラー /ビスタ /5.1chサラウンド
製作・配給:東映ビデオ・アマゾンラテルナ
協賛:守礼堂、正道会館/助成:(一財)沖縄観光コンベンションビューロー/撮影支援: OCVB沖縄フィルムオフィス( JFC)/協力:沖縄県、オリオンビール
公式 HP >> http://www.rbr-movie.com
監督:ラッセ・ハルストレム
原作:ニコラス・スパークス
脚本:ダナ・スティーヴンス、ゲイジ・ランスキー
撮影:テリー・ステイシー
音楽:デボラ・ルーリー
出演:ジュリアン・ハフ(ケイティ・フェルドマン)、ジョシュ・デュアメル(アレックス・ウィートリー)、コビー・スマルダーズ(コビー・スマルダーズ)、デヴィッド・ライオンズ(ケヴィン・ティアニー)
土砂降りの雨の中、逃げるように長距離バスに乗り込む女がいた。朝になってバスが立ち寄った南部の港町で、一休みに下りた彼女はそのままとどまることにした。仕事と住む家を見つけ、新しい生活が始まった。ケイティ・フェルドマンと名乗り、あまり話したがらなかったが、いつしか友人ができる。妻と死別し一人娘を育てている雑貨店主のアレックスと、ケイティの近所に一人暮らしをしているというコビー。ケイティが誰にも言えずにいた秘密を、ある日アレックスは知ることになる。
人気作家ニコラス・スパークスの原作+ヒットメイカーのラッセ・ハルストレム監督の作品は『親愛なるきみへ』(2010)についで2作目。俳優たちはあまり馴染みがないのですが、その分物語に入りやすいです。ロケ地となったノースカロライナ州サウスポートの自然が美しく、そこで妻を亡くしたシングルファーザーと、謎めいた美人が出会えばそりゃロマンスの一つや二つ。『メッセージ・イン・ア・ボトル』(1999)や『きみに読む物語』(2004)など、8本もが映画化されているニコラス・スパークスにはお茶の子さいさい(死語か?)でしょう。今回はこれにサスペンス色を加えています。闖入してくるデヴィッド・ライオンズが怖い。さて、何者なのかは劇場でご覧下さい。(白)
2013年/アメリカ/カラー/116分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ポニーキャニオン
©2013 Safe Haven Productions, LLC All Rights Reserved.
公式 HP >> http://safehaven-movie.net/
監督・脚本:リョン・ロクマン、サニー・ルク
撮影:ケニー・ツェー、ジェイソン・クワン
アクション監督:チン・ガーロゥ、ウォン・ワイファイ
音楽:ピーター・カム
出演:レオン・カーファイ(M・B・リー)、アーロン・クォック(ショーン・ラウ)、チャーリー・ヤン(フェリックス・リョン)、ラム・ガートン(アルバート・クォン)、チン・ガーロ(ビンセント・ツイ)、アンディ・オン(マイケル・シェック)、テレンス・イン(マン・トウ)、エディ・ポン(ジョー・リー)、アンディ・ラウ(フィリップ・ロク)
香港最大の繁華街モンコックで爆破事件が起こり、その直後5人の警官が車両ごと消えてしまった。「行動班」を率いる副長官のリーの息子ジョーもそのうちの一人。リーは各組織の人員を総動員し人質救出作戦「コードネーム:コールド・ウォー」を指揮する。だが「保安管理班」の副長官ラウは、リーと対立する。犯人からの連絡で、ラウが身代金を持って現場に向かうが失敗してしまう。混乱を極める中「廉政公署」の捜査が入り、リーとラウ両方に汚職容疑がかかる。
2012年の香港映画で興行収入№1、春の香港アカデミー賞では、作品賞、監督賞・脚本賞など最多9部門を制したメガヒット作がいよいよ公開です。香港映画ファンなら豪華スター競演とアクションに喝采。特にファンでなくとも、緻密な脚本とスピード感あふれる演出に時間を忘れることでしょう。テロと誘拐事件が、警察内部の汚職事件へと進み、さらに二転三転するストーリーです。この短い時間にみっちりとつまった香港警察のエピソードはちょっとわかりにくいかもしれませんが、1度でなく2度3度見直すのも良いかも。長く映画界にいたとはいえ、初の長編監督でこれだけの作品を創ったお二人には感心するばかりです。シネジャスタッフ(暁)が来日した監督お二人にインタビューしています。ウェブと本誌両方でご紹介しますのでお楽しみに。アンディ・ラウとアーロン・クォックが四大天王と呼ばれていたころから、もう20年になるのでしょうか。当時ドラマや映画で警察モノに出ても、若手のペーペーだった彼らが「長官」やら「副長官」…出世しました。そして今もトップで活躍しているのを思うと本当に感慨深いです。(白)
2012年/香港/カラー/102分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ツイン 宣伝:アルシネテラン
©2012, Irresistible Delta Limited, Edko Films Limited, Sil-Metropole Organisation Limited. All Rights Reserved
公式 HP >> http://coldwar-movie.com/
監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
脚本:スティーヴン・ジェフリーズ
撮影:ライナー・クラウスマン
音楽:デヴィッド・ホームズ、キーフス・シアンシア
衣装:ジュリアン・デイ
美術:ケイヴ・クイン
ヘアメイク:渡辺典子
出演:ナオミ・ワッツ(ダイアナ)、ナヴィーン・アンドリュース(ハスナット・カーン)、ダグラス・ホッジ(ポール・バレル)、ジェラルディン・ジェームズ(ウーナ)
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20歳でチャールズ皇太子と結婚。その後、二人の王子を出産したダイアナ妃。
しかし、夫の不倫や王室との確執、マスコミとの攻防で傷つき、疲れ果て別居して3年の月日がたっていた。二人の王子とは5週間の1回しか会うことができなかった。
頼るのは治療師で親友であるウーナだけ。そんな時にウーナの夫が倒れたと聞き病院に駆けつけたダイアナは、その病院の心臓外科医ハスナット・カーンと巡り合うのだった。
悲劇のプリンセス・ダイアナがお亡くなりになる前の2年間を、地雷廃絶運動の人道的支援に邁進する姿と、偶然知り合った心臓外科医ハスナット・カーンとのロマンスに焦点をあてて描かれている。
世界中の人に愛され、そして傷ついたプリンセス・ダイアナを演じるナオミ・ワッツのプレッシャーは相当なものだろう。それをはねつけて見事に演じきっている。
監督は『es「エス」』『ヒトラー ~最期の12日間~』のオリヴァー・ヒルシュビーゲル。
人間本来の生への渇望と、追い詰められた環境の心理的描写を、実に丁寧にそして深く描くことできるドイツ人監督だ。
ヘアメイクにも注目していただきたい! アメリカで活躍する渡辺典子さんが担当している。号泣する姿やうち沈んだお顔の喜怒哀楽を、髪の1本1本に表情を込めているように感じた。
(美)
2013年/イギリス/カラー/ビスタ/113分
配給:ギャガ GAGA★
公式 HP >> http://diana.gaga.ne.jp/
監督:ロベルト・シュヴェンケ
脚本:フィル・ヘイ&マットマンフディ
撮影:アルウィン・カックラー
音楽:クリストフ・ベック
出演:ジェフ・ブリッジス(ロイ)、ライアン・レイノルズ(ニック)、ケヴィン・ベーコン(ヘイズ)、メアリー=ルイーズ・パーカー(プロクター)、ステファニー・ショスタク(ジュリア)、ジェームズ・ホン(ニックのアバター)、マリサ・ミラー(ロイのアバター)
ボストンのエリート警官ニック・ウォーカー(ライアン・レイノルズ)は、美しい妻ジュリアと幸せな生活を送っていたが、薬の売人を逮捕中に拳銃で撃たれて死んでしまう。だが犯罪組織に撃たれたのではなかった。相棒のボビー(ケヴン・ベーコン)にやられたのだ。
原因は犯行現場の麻薬を自分たちの物にしようとしたがニックが反対したのが原因だった。
だが、あの世に行っても、休む暇もなく下界におりて仕事をしなければならなかった。
この作品、3Dで観てほしい。
あまり3Dでオススメしないが、試写で2Dを観た時、「この場面、もっと奥行きがあったらいいな」とか「これを3Dみたらどんなふうだろう」が度々あったからだ。
なんといってもゴーストの世界にも元警察官、元刑事、元鑑識官がわんさかいて「死なすにはもったいない」方ばっかり!でも下界に行くのには顔は選べない。ニックは中国の中年男。
だから妻に話しかけてもつれなくされる。だが、そう悪い終わり方はしていない。<br/>
※ケヴィン・ベーコンの悪役ぶり! 板についている。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/96分/ドルビーSRD
配給:東宝東和
公式 HP >> http://ghostagent-ripd.com/
監督:マルコ・ベロッキオ
脚本:マルコ・ベロッキオ
撮影:ダニエーレ・チプリ
音楽:カルロ・クリヴェッリ
衣装:セルジョ・バッロ
出演:トニ・セルヴィッロ(ウリアーノ・ベッファルディ)、イザベル・ユベール(ローザの母)、マヤ・サンサ(ロッサ)、ピエール・ジョルジョ・ベリッキオ(パッリド医師)、ミケーレ・リオンディーノ(ロベルト)、ファブリツィオ・ファルコ(ピピーノ)
2009年。昏睡状態が続いて何年にもなる続く少女の尊厳死がイタリア全土を揺るがしていた。21歳で事故にあって以来17年間も昏睡状態のエルアーナ・エングラード。
彼女の家族は延命治療の停止を求めていたが、カトリック教会を始めとする強い反発をうけていた。その事件を基にしてベロッキオ監督は作り上げたもの。
マルコ・ベロッキオ監督の『夜よこんにちは』『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』は歴史的な背景を見事に捉えている。この『眠れる美女』もある意味「今を的確に現した歴史の一部」だと思う。
生と死、そして人間それぞれの立場を、同時展開の3つの話で生々しく描かれている。
登場する一人一人の気持ちの変化がとても丁寧に分かりやすくなっている。
問題は深い。その難しさに挑戦した佳品。(美)
2012年/イタリア/カラー/110分/スコープサイズ/115分
配給:エスパース・サロウ
公式 HP >> http://nemureru-bellocchio.com/
監督:阪本順治
脚本:福井晴敏、阪本順治
音楽:安川午朗
出演:佐藤浩市(真舟雄一)、 香取慎吾(M)、 森山未來(石優樹)、 観月ありさ(高遠美由紀)、 石橋蓮司(北村刑事)、寺島進(酒田忠)、 オダギリジョー(鵜沼英司)、豊川悦司(ハリー遠藤)、 ヴィンセント・ギャロ(ハロルド・マーカス)、 ユ・ジテ(遠藤治)
1945年、東京湾越中島の埠頭。暗闇の中で船に積まれた木箱を開ける軍服姿の男たち。中には金の延べ棒総重量600トンの金塊は敗戦を認めたくない反乱兵によって持ち出された。
日本軍の秘密資金だ。その回収に出向いた笹倉大尉は、それを軍に戻さず一部を海に沈めた。
時代は移り、2014年。
M資金詐欺を繰り返して生きている男・真舟雄一(佐藤浩市)は、相棒のヤクザ・酒田(寺島進)といつものように交渉をしていたが、現場を刑事に取り押さえられてしまう。
そんな真舟に石優樹(森山未来)という男が現れ「財団の人間があなたを待っている」といって同行を求められた。
なになに?この俳優陣の顔ぶれは?と豪華、異色、混沌という文字が浮かんだ。
観ていくうちにこの異色の組み合わせが画面上で「これでもか」とばかりに納得させられた。
確かに戦後、この「M」資金は詐欺事件で耳にしたのは一つや二つではない。頭文字Mは何を表しているかも色々と噂されていた。
この映画は事実を明確にしているワケではないが、じゃぁ、全然、見当違いだよとまでは言えない何かが潜んでいそう…。
佐藤浩市、香取慎吾、森山未來をはじめユ・ジテやヴィンセント・ギャロ。
海外からのキャスト陣を含む豪華な顔ぶれ。彼らが見せる演技はもちろんだが、壮大で緻密な展開を、豪華国際スターに目を奪われないよう、心して観たい作品。
(美)
2013年/カラー/ドルビーデジタル/140分
配給:松竹
公式 HP >> http://www.jinrui-shikin.jp/
監督:マイク・ミルズ
撮影:ジェイムズ・フローナ、D.J.ハーダー
出演:タケトシ、ミカ、ケン、カヨコ、ダイスケ
日本人の15人に1人は罹っているといわれる「うつ病」。
2000年くらいまでは「うつ」という言葉は精神科以外ではあまり聞かれなかった。なぜ、わずかな年数で「うつ」が蔓延したのか。
『サムサッカー』『人生はビギナーズ』のマイク・ミルズ監督は、その理由の一つに製薬会社の「うつは心の風邪」という広告が元と考えその実態を追った。
監督が選んだ撮影地は、急速に「うつ」が広がった日本。
条件は「抗うつ剤を飲んでいる」「ありのままの生活を撮らせてくれる」の2つ。
2000年頃にはあまり聞いてなかったという「うつ」という言葉だが、私は今から20年以上前に友人の旦那様、同僚の方が罹っていた。
ちゃんと「うつ病」と聞いていた。その方たちは責任ある仕事や一家の大黒柱の人で若い方ではなかった。傍で見たり聞いたりしていても深刻な問題だった。
それから10年以上たったころか、「ウツは心の風邪」という言葉を耳にするようになった。「う~ん、うまいこと言うなぁ~」と感心した覚えがある。
その宣伝文句が功をそうしたのかウツの薬は爆発的に使われるようになった。
だが「ウツより怖いウツの薬」。
映画中で、始めこそ人生が明るくなったように感じた薬も、慢性的になって改善されないので、薬をやめたいと思って実行したが、3、4日で根をあげてしまった。という方がいた。
私の周りに、これと同じ体験をした方がいた。薬は怖い、本当に怖い・・・飲んだら最後、やめられない怖さが付きまとう。
そんな怖い薬を「自己申告」と簡単な問診で出してしまう日本の精神科医師。もちろん、薬があるからやっと生活できている人、仕事が続けられている人もいる。
この作品を観て、正直思ったことは、映っている方々には悪いが本当に「ウツ」で苦しんでいる人がカメラに耐えられるだろうか?この作品はに出てくる方は若者ばかり。条件に合う中年はいなかったのか?年寄りはいなかったのか?と少し不満に思った。
監督さんが日本人だったら、この撮り方はできなかったのではと思うところがあったことと、画面の切りとり方がとてもうまいカメラだった。
私的には少し不満もあったが、是非観ていただきたい作品。
(美)
2007年/アメリカ/カラー/84分
配給:アップリンク
公式 HP >> http://uplink.co.jp/kokokaze/
監督:レスト・チェン
脚本:ジャン・ウェイ
オリジナル脚本:野島伸司
撮影:ジャン・ミンチュアン
音楽:ベンソン・チェン
出演:リン・チーリン(イエ・シュン)、ホアン・ボー(ホアン・ダー)、チン・ハイルー(タオズ)、カオ・イーシャン(シュー・ジュオ)、武田鉄矢(特別出演/星野達郎)
上海で内装工事の仕事をしているホアン・ボー。人が良くて掛取りもなかなか回収できない。99回目の見合いの日、ホアンは待ち合わせ場所でイエ・シュンに声をかけた。見合い相手ではなかったが、彼女も人との約束があり、なりゆきで一緒に店を出ることになった。お見合いがうまくいかないとしょげているホアンを励ますシュン。その後も偶然の出逢いが重なり、ホアンは美人でやさしいシュンに心惹かれていき、シュンも不器用だが誠実なホアンが気にかかる。しかし、シュンには結婚式当日相手が交通事故に遭ったまま、行方不明になっている辛い過去があった。
1991年、月9ドラマとして大ヒットした「101回目のプロポーズ」のリメイク。チャゲ&飛鳥の主題歌と武田鉄也のセリフ、あの「僕は死にません!」が耳に残っています。日本国内だけでなく中国、台湾、韓国でも放映され、大きな反響があったそうです。今回日中合作で映画化、当時主演した武田鉄也さんも特別出演しています。チェロ奏者であるシュンの恩師薫の夫・達郎を歓待するという設定です。武田さんを知らない人はいない、というほどヒットした作品なので、現場がおおいに緊張したとか。主演の二人がなんだか嬉しそうで、熱の入ったシーンとなっています。
主演のホアン・ボーは出演作が続く味のある俳優さん。この作品でも愚直で愛すべきホアンを体現しました。リン・チーリンとカオ・イーシャンは、どちらもモデルとして活躍した美男美女で似合いのカップルですが、ホアンに肩入れしてしまうのです。ストーリーの流れはほぼ同じですが、こうなるとわかっていても感動する映画になっていました。(白)
2013年/日本・中国/カラー/106分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ポニーキャニオン
©2012 NCM FUJI VRPA HAM
公式 HP >> http://www.101propose.jp/
監督:アレン・ヒューズ
脚本:ブライアン・タッカー
撮影:ベン・セレシン
音楽:アッティカス・ロス
出演:マーク・ウォールバーグ(ビリー・タガート)、ラッセル・クロウ(ニコラス・ホステラー市長)、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(キャサリン・ホステラー)、ジェフリー・ライト(コリン・フェアバンクス)、バリー・ペッパー(ジャック・バリアント)、アロナ・タル(ナタリー・バレア)、カイル・チャンドラー(ポール・アンドリュース)
7年前に警察官を辞職、今は私立探偵で糊口をしのいでいるビリー・タガート。市長選を控えた現・市長ホステラーから、妻キャサリンの浮気調査を依頼される。ギャラも高額で断る理由もない。さっそく調査を開始すると、キャサリンが会っていたのは対立候補ジャック・バリアントの右腕ポール・アンドリュースと判明する。ビリーはキャサリンに警告されるが、かまわず市長に報告を終えた。数日後アンドリュースが路上で射殺され、ビリーは愕然とする。
アメリカの政治と経済、最新のカルチャーの発信地でもあるニューヨーク。人の集まるところには金と欲と犯罪も集まるのが道理。警察と政治は切っても切れない間柄にあるらしく、映画でもしばしば題材に取り上げられます。この作品ではニューヨーク市長選が発端となり、現職市長で再選を狙うのがラッセル・クロウ。この人白にも黒になれて、最近は悪代官や裏で糸をひく豪商の雰囲気があります。…と最初っから色メガネで観る私。対する、製作にも加わっているマーク・ウォールバーグは何事も一生懸命というのが似合って、つい贔屓しています。しかし何やら冒頭で死ぬ人がいるではありませんか。これがいつまでも尾を引く上、あっちもこっちも怪しく目が離せない展開となります。誰が一番得をしているかと考えると面白いです。(白)
2012年/アメリカ/カラー/109分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
©2012 Georgia Film Fund Seven LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l.
公式 HP >> http://brokencity.jp/
監督:ホアキン・オリストレル
脚本:ホアキン・オリストレル、ヨランダ・ガルシア・セラーノ
音楽:ジョセ・マス、サルバドール・ニエブラ
出演:オリビア・モリーナ(ソフィア)、パコ・レオン(トニ)、アルフォンソ・バッサベ(フランク)、カルメン・バラゲ(ロレン)、ロベルト・アルバレス(ラモン)、ヘスス・カステホン(ペペ)
バルセロナの小さな街、食堂を営む両親の娘としてソフィアは生まれ、育った。食堂を手伝ううち、ソフィアの夢は「一流のシェフ!」になる。理髪店の息子のトニとプレイボーイのフランクはソフィアの幼馴染。大人になったトニはソフィアにプロポーズし、フランクはシェフの修行に出ようと誘う。トニと婚約して幸せなソフィアだったが、子供の頃からの夢を諦められない。
なんて明るくて自由な女性なんでしょ、が観終わった感想。ソフィアは料理の才能があり、入院した父親に代わって厨房を切り盛りする力量もあります。それでもまだ女性シェフが少なかった時代のようで、彼女の夢はなかなか叶いません。まじめなトニと、プレイボーイで自分の店を持ちたいフランクの間で迷うのですが、えっと思うような解決方法を見出します。いや、そうそうできるもんじゃありません。贅沢だ。奔放なのはフランスかと思ったら、陽光輝くスペインも似合うのでした。夢に向かう女は美しい!この映画前売り券がないんだそうですが、チラシの裏に500円引きクーポンがあります。1300円で観られます。忘れずにゲットしてください。(白)
2012年/スペイン/カラー/100分/HD/ドルビーデジタル
配給:Action Inc.
©Messidor films Production
監督:ロレーヌ・レヴィ
原案:ノアム・フィトゥッシ
脚本:ノアム・フィトゥッシ、ナタリー・ サウジョン、ロレーヌ・レヴィ
プロデューサー:ヴィルジニー・ラコンブ、ラファエル・ベルドゥゴ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベ、ジュール・シトリュク(『ぼくセザール 10歳半 1m39cm』)、マハディ・ザハビ、アリーン・ウマリ、ハリファ・ナトゥール、マフムード・シャラビ
イスラエル海辺の町テルアビブで暮らすフランス系ユダヤ人一家。将来歌手になることを夢見る息子ヨセフは18歳。兵役義務を果たすべく入隊検査を受けたところ、血液型が両親と合致しない。調べた結果、湾岸戦争の混乱の中、ハイファの病院でパレスチナ人の赤ちゃんと取り違えられたことが判明する。ユダヤとパレスチナの家族が一堂に会する。本来の自分であるパレスチナ人のヤシンは、フランスの大学医学部に合格した秀才だった。兵役免除になったヨセフを友人たちはうらやましがるが、心境は複雑だ。通行許可証を交付されたヤシンは時折ヨセフに会いにきて、ビーチでアイスクリーム売りのバイトを手伝う。 ある日、ヨセフは分離壁を越えてパレスチナの両親に会いに行く。一生懸命覚えたアラビア語の歌を披露するヨセフ。帰りの遅いヨセフを心配して、ユダヤ人の育ての両親が分離壁を越えて迎えにいく・・・
昨年の東京国際映画祭で東京サクラグランプリと監督賞をダブル受賞した感動作。
長年、イスラームとユダヤ絡みの作品を追ってきた私にとって、数行の紹介文を読んだだけで心惹かれ、観る前から個別取材を決めた作品。(シネマジャーナル86号にインタビュー記事掲載) 人種や宗教の違いを超えて共存を願う監督の思いの籠った映画に、多くの人が関心を示し、記者会見も熱気に溢れた。
本作は、プロデューサーのラコンブさんのところにユダヤ系のフランス人男性から持ち込まれた数ページのアイディアをもとに、ナタリー・サウジョンさんに脚本を書いてもらった上で、ロレーヌ・レヴィさんに監督を依頼。さらにパレスチナの人たちのアドバイスも貰って脚本を仕上げている。ユダヤ、パレスチナの双方に配慮した内容になっていると私の目には見えるが、アラブ諸国ではなかなか上映の許可が出ないという。ただ、facebookなどでは、アラブの人たちからの好感を持った書き込みも多く、「ノーベル平和賞を貰うべき」との言葉もあり、励まされていると監督は語っていた。
主役ヨセフを演じたジュール・シトリュクさんは、2004年フランス映画祭で出演作『ぼくセザール 10歳半 1m39cm』が上映された折に来日した時にもお会いしているが、当時はまだ少年。素敵な青年に成長した。ヘブライ語にアラビア語やギターの弾き語りも猛練習して撮影に臨んだそうだ。ジュールさん本人もユダヤ人で、本作に出演して、自身のアイデンティティについても考えさせられたという。
折りしも、同じく新生児の取り違えを題材にした『そして父になる』(是枝裕和監督)が、カンヌ審査員賞を受賞し話題になっている。かけがえのない子どもの取り違えはあってはならないことだが、『もうひとりの息子』での取り違えは、宗教が絡むだけにさらに複雑だ。
イスラム教徒には、「アラーのほかに神はなし」と唱えれば誰でもなれるが、ユダヤ人は母親がユダヤ人であることという原則がある。単なる信仰でないのだ。実母がユダヤ人でないことが判明したユセフはユダヤ人ではない。改宗も可能だが手続きはかなり複雑だ。祖母が亡くなった時に、シナゴーグの手前で中に入るのをためらうユセフ。それでも、ユセフは、本来のパレスチナ人の兄ビラルから「アイデンティティを取り戻す?」と言われたときに「育った環境も大事」と答える。宗教や民族以前に、家族として過ごした時間がなにより大切だと感じさせられる言葉である。
(咲)
2012年/フランス/105分/フランス語・ヘブライ語・アラビア語・英語/Scope 2.35/カラー
配給:ムヴィオラ
公式 HP >> http://moviola.jp/son/
監督:三上康雄
脚本:三上康雄
殺陣:久世浩
撮影:岡田賢三、大淵博道
美術:長島慎介
音楽:飛鳥峰英
出演:平岳大(原田大八郎)、若林豪(荒木源義)、目黒祐樹(松宮十三)、仲原丈雄(舟瀬太悟)、さとう珠緒(香川由紀)、栗塚旭(西崎隆峰)
享保の大飢饉(ききん)から3年後、山陰の因幡藩は一応の平静さを取り戻していた。
だが、城代家老の荒木源義(若林豪)の耳に、幕府から来た剣術指南役の松宮十三(目黒祐樹)が、藩の至るところを内密に調べまわっているという知らせが届く。
映画内容より自力で作ったと言う作品に観る前からワクワクして試写室に入った。
「この映画、ご自分の会社を売って作られたんでしょう?現代ものならともかく時代劇なんてすごいお金がかかるのに・・・」と配給の方に話しかけたら、後ろから「そんなにかかっていませんよ。うまくやりましたから」 !? 後ろに監督さんが!
すごいエネルギー満々の社長さんタイプの監督さんで、お話も面白く、映画が終わってからも10人くらいの方が残られて話が弾んだ。こんなことは珍しいことだ。
※男優さん選びはさすが!平岳大、若林豪、目黒祐樹、中でも栗塚旭の侍姿が絶品!
※つい最近、沢島忠監督、中村錦之助主演『家光と彦左と一心太助』を観たが、ちゃんばらシーンで『蠢動-しゅんどう-』の雪原での斬り合いのシーンが思い出された。
時代も作りも違うが、三上康雄監督の目指す「質」の高さを感じた。
(美)
2013年/カラー/102分
配給:太秦株式会社
公式 HP >> http://www.shundou.jp/
監督・脚本:トッド・ロビンソン
撮影:バイロン・ワーナー
美術:ジョナサン・カールソン
音楽:ジェフ・ローナ
出演:エド・ハリス(デミトリー・ズボフ)、デビッド・ドゥカブニー(ブルニー)、ウィリアム・フィクトナー(アレックス)、ランス・ヘンリクセン(マルコフ)、ショーン・パトリック・フラナリー
1968年。世界が米ソの冷戦に固唾を呑んでいたころ。カムチャッカの原潜基地に任務から戻ったばかりのデミことデミトリー・ズボフ艦長が、旧式の潜水艦B-67 の指揮を取るよう命ぜられていた。フランクリン司令官は家族に会う時間もなしにまた出航するデミをねぎらう。新しくとりつけた試作装置「ファントム」の技術者二人も加わる。いつものクルーたちと違う雰囲気のブルニーとガーリンに、副長アレックスは疑念がわく。デミたちが港を離れたころ、基地では1発の銃声が鳴っていたが、彼らはしるよしもなかった。
狭い、暗い、怖いのが苦手なので、潜水艦ものは観るたび息が詰まる気がします。それでも観た本作は、正体の知れない男と、とんでもないものを搭載してしまった潜水艦の危機を描いてハラハラさせられました。俳優たちも敵に回せば怖い、味方であれば心強い男たちばかり。
実際にハワイ沖でソ連の潜水艦が消息を絶った史実を元に、大胆に脚色されて真実を追究しています。現在こうして暮らしていることを思うと、このときの危機は回避されたのだとわかりますが、現存している潜水艦を撮影に使用。リアリズムにこだわった映像は迫真の効果を生んでいます。第3次世界大戦にならなくてほんとに良かった!(白)
2012年/アメリカ/カラー/99分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:角川書店
©2012-2013 RCR Media Group. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://phantomww3.jp/
監督:ジェフリー・フレッチャー
脚本:ジェフリー・フレッチャー
撮影:ヴァンヤ・ツァーンユル
美術:パトリッィア・フォン・ブランデンスタイン
音楽:ポール・カンテロン
出演:シアーシャ・ローナン(デイジー)、アレクシス・プレデル(バイオレット)、ジェームズ・ガンドルフィーニ(マイケル)、ダニー・ドレホ(ラス)、マリアンヌ・ジャン=バプティスト(アイリス)
ニューヨークで割と簡単な殺しだけを請け負うバイオレットとデイジーは、彼女たちの憧れの「バービー・サンデー」の新作ドレスほしさに「殺し」を引き受けてしまう。
簡単だと思った仕事はあてが外れて、窮地に追い込まれてしまう。
ティーンエイジャーの可愛い殺し屋…アルバイト感覚の殺し屋…顔はとびっきり可愛い、心もピュアなのに殺しのテクニックは有無も言わせない早業。
なんでとびっきり魅力的な女の子がこの「生活費とちょっとオシャレしたいぐらいのお金」のために殺しをしているんだろう??なんて考えちゃ楽しめない。
この監督の前作品は『プレシャス』だ。
この作品もすっごい不幸「子持ち(確かそれも実父の子)で貧乏×エイズ」の不幸満載なんだけど、それを誇示するような描かれかたはしていなかった。
年寄りの私は、この「ど不幸満載」には真剣に心配したけど・・・。
だから、新作を観る前から「どんな設定でも真剣になっちゃ身がもたないよ」と言い聞かせた。やっぱり、それは正解だった。
※自分を殺してくれという淋しい中年の俳優ジェームズ・ガンドルフィーニさんは心臓発作で今年お亡くなりになった。この作品が最後だったのだろうか。とても印象的な俳優さんだった。
※『秘密と嘘』のマリアンヌ・ジャン=バプティストさんが個性的な役で頑張っていた。
(美)
2011年/アメリカ/88分/ドルビーデジタル
配給:コムストック・グループ
公式 HP >> http://www.angel-vd.com/
監督:松居大悟
原作:山内泰延
脚本:小峯裕之 松居大悟
撮影:塩谷大樹
音楽:浅田秀之
主題歌:「マジ感謝」チームしゃちほこ
出演:菅田将暉(タダクニ)、野村周平(ヨシタケ)、吉沢亮(ヒデノリ)、岡本杏理(りんご)、山本美月(ヤナギン)
タダクニ、ヨシタケ、ヒデノリは男子校に通う仲良し3人組。いつもタダクニの部屋に集まってはマンガを見たり、くだらない話で盛り上がったりしている。テストもなんとかやりすごしたころ、大事件が持ち上がった!なんと今年の文化祭は女子高との共催なのだっ!非モテ系の男どもはみんな舞い上がり、打ち合わせにやってきた女子高生たちに大騒ぎ。グダグダな日常がキラキラに変化してキター!
大人気コミックがテレビアニメになり、ついに実写映画となりました。「ほんとにもうバカなんだから~」と言いたくなる愛すべき男子高校生たち。全身全霊で部活に打ち込んだり、ましてや勉強に励んだりなどは全然ありません。タイトルどおり、うだうだと過ごす日常を描いています。非行もなければゲームもケータイも出てこない、リアルな情けない男子と強くて怖い女子が出てきます。のんびりまったり、ちょっとだけ切ない日々を懐かしく思い出したり、共感したりの作品。3人が一生懸命バカをやってもやっぱりカッコ良いのが難。モテナイわけないでしょ、と思ってしまうのです。その分(?)佐藤二朗さん扮する先生がすご~く変で笑えます。(白)
2013年/日本/カラー/85分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
公式 HP >> http://dannichi-movie.com/
監督:清水浩
原案:ビートたけし
脚本:益子昌一、清水浩
撮影:鍋島淳裕
音楽:遠藤浩二
出演:平岡祐太(シンジ)、三浦貴大(マサル)、倉科カナ(マナミ)、中尾明慶(ユウジ)、市川しんぺー(松本)、小倉久寛(小林)、池内博之(崎山)、杉本哲太(室沢)、ベンガル(沢田会長)
高校の同級生シンジとマサル、一人はボクサーに、一人はヤクザになった。10年後、シンジはボクシングへの情熱を失い、ジムをやめてアルバイトでなんとなく過ごしていた。刑務所から出所したマサルはヤクザに戻るしかなかったが、勢力範囲も変わり、かつてのやり方は通用しなくなっていた。くすぶった思いを抱えた二人が偶然再会し、「見返してやろうぜ!」というマサルの声に、シンジはもう一度リングに戻ろうと決心する。
北野武監督・脚本の『キッズ・リターン』(1996年)のその後のストーリー。北野武・原案をもとに、長く北野監督の助監督をしていた清水監督がメガホンをとりました。シンジの平岡祐太さん、特訓を重ね吹き替えなしでボクシングシーンを撮り終えています。マサルの三浦貴大さん、キレやすいヤクザとして暴力シーンも多くこなしました。二人ともに今までにない役柄で、力強い演技を見せて優しげな印象を覆しました。『キッズ・リターン』を見直したくなります。(白)
2013年/日本/カラー/107分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
配給:東京テアトル、オフィス北野
© 2013『キッズ・リターン 再会の時』製作委員会
公式 HP >> http://kidsreturn-saikai.com/
監督・脚本:ルバ・ナッダ
原案協力:アトム・エゴヤン
出演:パトリシア・クラークソン、アレクサンダー・シディグ、エレナ・アナヤ
エジプト・カイロの空港に降り立った女性誌編集者のジュリエット。国連職員としてパレスチナのガザ地区で働く夫マークと落ち合って休暇を一緒に過ごす予定だった。でも、迎えに来たのは、夫の元警備担当のエジプト男性タレク。マークはガザが落ち着き次第やって来るとの伝言だ。翌日、時間をもてあましたジュリエットは、タレクが親から引き継いで経営しているスーク(市場)の中のコーヒーハウスを訪れる。男ばかりの世界。タレクは民族衣装のガラベーヤ姿でチェスに興じている。市場を案内し、困ったときには声をかけてと別れるタレク。好意に甘えて、ナイルでの舟遊びやカイロの町歩きに連れていってもらったりして気を紛らせる。が、なかなかガザの任務から解放されない夫に会いに行こうとジュリエットはガザ行きのバスに乗る。隣の席は大学で観光学と英語を学んでいる若い女性。でも、もう学業を続けられないという。そんな話をしている折、検問で止められる。降ろされてしまうことになったジュリエットに隣の席の女性は手紙をある男性に渡してほしいと託す。結局タレクに迎えに来てもらうことになったジュリエット。手紙を届けに行きたいというと、開封して内容をチェックするタレク。むやみに引き受けて、自分の立場が危なくなることもあると注意する。
翌日もまだ夫は来ない。再び、タレクの案内でモスクや絨毯工房を訪ね、カイロの人々に触れるジュリエット。その翌日には、タレクの友人女性ヤスミンの娘の結婚式のため、アレキサンドリアに列車で向かう。実はヤスミンは、タレクがかつて恋した女性。キリスト教徒のアルメニア人であるヤスミンとの恋は成就しなかったのだ。独身でいるタレクの思いを知るジュリエット。カイロに戻り、ギザのピラミッドで夕陽を眺める二人の間には、ほのかな恋心が芽生えていた・・・
ホテルの窓の眼下に流れるナイル河、カイロの町のすぐそばにそびえたつピラミッド・・・ まさしくエジプトを代表する光景だけど、この映画には、それだけではない、カイロ歴史地区(イスラミック・カイロ)の伝統住宅やモスク、ハン・ハリーリー・スーク、白砂漠といった魅力ある場所が次々に出てきて心惹かれました。でも、観た直後の印象は他愛のない人妻のひと時のよろめき。いかにも映画の王道を行く物語というだけでした。それが、振り返ってみると、意味を感じる言葉の数々が蘇ってきました。
ジュリエットがカイロに到着して、「中東に来られて嬉しい」と言うと、タレクが「中東って?」とつぶやきます。中東という言葉、もちろん、西欧から見た呼び方。
ガザに向かうバスの中で、「夫は国連職員」と言うと、隣の席の女学生は「国連は役に立たないわ」とばっさり。
ストリートチルドレンや、絨毯工房の幼い織り子たちにジュリエットが心を痛めると、「その国にはその国の事情がある」と諭すタレク。
思えば、この映画の撮影は2009年の「アラブの春」直前のこと。民衆が集まったタハリール広場も出てきます。よもや、こんな状況になるとは思わずに撮影されたことと思います。
この映画を観れば、魅力溢れるカイロの町に行ってみたくなること間違いなしなのに、今やいつ行けるやらの悲しい状況なのは皮肉です。エジプトにとって、観光は国一番の稼ぎ頭。だからこそ反政府派は代々外国人観光客を狙ってきました。映画の中でも、アメリカ人二人が殺されたという言葉が出てきますが、私が1990年にエジプトを訪れた2年後くらいから観光客を狙ったテロ事件が増え、1997年にはルクソールのハトシェプスト女王葬祭殿で日本人観光客も犠牲になった事件がありました。今の状況は、単発的なテロ事件を恐れるだけではすまないもの。早く落ち着いてほしいものです。
私にとっては、かつてエジプトを訪れたときに、カイロのイスラーム地区を散策できなかったのが心残り。いつか訪れたいと思っていた気持ちを、『カイロ・タイム』の美しい映像は募らせてくれました。エジプトが生んだ偉大な歌姫ウム・クルスームの歌声をジュリエットが一声聴いて気に入って、それがその後も映画の重要なポイントとなっているのも嬉しい。
それにしても、ジュリエットの肌を大胆に出したドレスはないでしょう! もう少し、わきまえた服装で訪れてほしいものだと思いました。ルバ・ナッダ監督は、シリア人の父とパレスチナ人の母の間に生まれた女性。それだけにもう少し配慮できたのではと思う次第。でも、欧米の人たちがイスラーム圏を訪れる時に、配慮しないのも現実?(咲)
☆トロント国際映画祭:最優秀カナダ映画賞
2009年/カナダ・アイルランド/カラー/90分/シネマスコープ/35ミリ/デジタル/ドルビーデジタル
公式 HP >> http://www.cinematravellers.com/
監督:ジル・ブルドス
原作:ジャック・ルノワール
脚本:ジェローム・トネール、ジル・ブルドス
撮影:マーク・リー・ピンビン
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:ミシェル・ブーケ(ピエール=オーギュスト・ルノワール)、クリスタ・テレ(アンドレ)、バンサン・ロティエ(ジャン・ルノワール)
1915年。南フランスに移り住んでいた印象派の巨匠、ピエール=オーギュスト・ルノワールのもとに「奥様からモデルを探していると聞いて」と若い娘アンドレが訪ねてくる。妻アリーヌが生前アンドレに出逢い、夫のモデルにぴったり!と声をかけていたのだ。陽光に輝く彼女の肌は、病に冒され意欲を失いつつあったルノワールに、もう一度絵筆を握らせることになった。負傷した次男のジャンも療養のため戦地から戻り、ルノワールの周囲はにわかに活気づく。
日本にも早くから紹介されて馴染み深い画家のルノワール、その最後のモデルとなったアンドレとの日々を描いています。重度のリウマチにかかり満足に絵筆も握れなかった状態から、毎日創作にいそしむようになったそうなので、モデルが画家に与える力の大きさはたいしたものです。息子のジャンは、その後アンドレと結婚して映画監督となり、妻の出演作を発表しています。
アンドレ役のクリスタ・テレはこの作品で初めて観ました。波打つ髪や豊満な肉体、ロケーションも素晴らしくルノワールの絵画そのままでした。光あふれる窓辺や農場で描く場面を始め、一つ一つのシーンが美しいことといったら!思わず誰の撮影なのか確かめると、マーク・リー・ピンビン(李屏賓)でした。台湾出身でホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督とのタッグで知られ、いまやアジアだけでなく世界へと活躍の場を拡げています。絵画が生まれる瞬間を見るような作品。(白)
2012年/フランス/カラー/111分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:クロックワークス、コムストック・グループ
©2012 FIDELITE FILMS / WILD BUNCH / MARS FILMS / FRANCE 2 CINEMA
公式 HP >> http://renoir-movie.net/
監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ
オリジナル脚本:アラン・コルノー脚本:
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ
音楽:ピノ・ドナッジオ
出演:レイチェル・マクアダムス(クリスティーン)、ノオミ・ラパス(イザベル)、カロリーネ・ヘルフルト(ダニ)、ポール・アンダーソン(ダーク)
広告会社の重役のクリスティーンは、美貌と才気を十二分に生かしてこの地位まで上り詰めた。ほしいものは全て手にしている彼女を、部下のイザベルはまぶしい思いで見つめていた。イザベルが新しい広告のアイディアを出して、プレゼンを成功させると、クリスティーンは本社に自分のもののように報告し、栄転を勝ち取ってしまった。当然のように「私達はチームでしょ」と笑いかける彼女にイザベルは黙るしかなく、アシスタントのダニは憤慨する。
最先端の広告会社でのパワハラと愛憎を描いたクライム・サスペンス。女性中心で男性は付録であります。女って怖いと思うでしょうか。人の上昇志向や悪意に性差はないのかも。有能で頭も切れるイザベルが、クリスティーンに騙され、嘲られていると知った瞬間、こみ上げる殺意にわれを忘れてしまいます。それでいて自分もアシスタントに同じことをしているとは気付かないのです。この二人、他人の痛みへの想像力がないのも同じでした。
ブライアン・デ・パルマ監督は、バレエの舞台と殺しのシーンを同調させて、一つの画面を分けて入れ込んでいます。バレエに詳しい方はその意味がよくわかるはず。『ラブ・クライム 偽りの愛に溺れて』(2010/フランス/劇場未公開)のリメイク。そちらはリュディヴィーヌ・サニエとクリスティン・スコット・トーマスの共演。(白)
2012年/フランス、ドイツ/カラー/101分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ブロードメディア・スタジオ
©2010 SBS FILMS - FRANCE 2 CINEMA - DIVALI FILMS
公式 HP >> http://passion-movie.jp/
監督:リズ・ガーバス
撮影:マリース・アルヴェルティ
出演:ユマ・サーマン、マリサ・トメイ、リンジー・ローハン、エイドリアン・ブロディ、エレン・バースティン、グレン・クローズ、ベン・フォスター、ポール・ジアマッティ、エヴァン・レイチェル・ウッド
永遠のアイコン、マリリン・モンローの実像にせまるドキュメンタリー。没後50年に公開された多くの書簡、メモ、日記に残る言葉を、マリリンをリスペクトする俳優たちが彼女になりきって伝える。
あの独特の歩き方、話し方、ブロンドの髪、すべてはノーマ・ジーンが「マリリン」になるためだった。華やかな世界にいながら孤独で、たくさんの本を読み、もっと勉強したいと思っていた彼女の姿が浮かびあがってくる。
これまでイメージしていたのと違うマリリン・モンローがいました。いろいろな人がマリリンを演じても、外見はそのまま、セリフだけなので少々違和感あり。残された貴重な本人の映像は、初めて観るものあって価値大でした。上映を前に「マダム・タッソー東京」のマリリン像が新宿ピカデリーにお目見えしています。初めての館外の展示だそうです。この機会にぜひマリリンに会いに行ってみてください。(白)
2012年/アメリカ、フランス/カラー/108分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
©2012 Diamond Girl Production LLC. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://marilyn-movie.jp/
監督・撮影:西倉めぐみ、高木ララ
プロデューサー:西倉めぐみ
共同プロデューサー:高木ララ
エグゼクティブプロデューサー:スピッツミラー・ジラン
編集:三宅愛架
テーマ顧問 :リゼ・マーシャ・ユミ
作曲:ホワイト・雄一郎・ウィントン
厚生労働省の統計によると、今や日本の新生児の49人に1人が、日本人と外国人の間に生まれた子だという。人々の往来が便利になり、日本でも国際結婚が珍しくない時代になったが、まだまだマイノリティのハーフの人たち。本作では、日本に暮らす4人のハーフの男女、1組の国際結婚家族を取り上げ、彼らの生い立ちを紹介し、複雑な心情やアイデンティティの問題までをも掘り下げる。
*登場する人たち
ソフィア(オーストラリア x 日本) :シドニーで生まれ育つ。27歳の時、東京に移り住む。日本語を学びながら、日本人の血を確認すべく日本式の生活に馴染もうと努力中。
デービッド(ガーナx 父):ガーナの小さな村で、ガーナ人の母親と日本人の父親の間に生まれ6歳までガーナで育つ。その後東京に移り住むが、10歳の時、両親は離婚。二人の兄弟と共に養護施設で過ごす。20代になってガーナに帰り現状を目にして、日本で育った事を幸運と思い、ガーナに学校を建てる基金集め運動をしている。
大井一家(メキシコ x 日本) :アメリカ留学中に出会って結婚したガブリエラ(メキシコ人)と大井哲也(日本人)。現在、名古屋で9歳の息子アレックスと7歳の娘サラと4人で暮らしている。子どもたちは日本の小学校に通っているが、ガブリエラは、子供たちがスペイン語、日本語、英語の3カ国語をどうしたら維持できるかを考え、名古屋のインターナショナルスクールに行かせるべきかどうか検討中。
エド(ベネズエラ x 日本) :母子家庭で育つ。神戸のインターナショナルスクールで教育を受け、周りの日本人社会から疎外感を感じ、アメリカの大学に行く。その後、老いた母の世話をするために日本に戻る。日本でも多人種の人たちのネット上のコミュニィティーが活発なのを知り、ミックスルーツ関西(MRK)を立ち上げる。
ふさえ(韓国 x 日本):神戸で、日本に帰化した韓国人の父親と日本人の母親の間に生まれる。完全な日本人と信じて育ったが、15歳の時、自分の戸籍を見て韓国ルーツがあることを知りショックを受ける。事実を知った後、日本と韓国の文化の違いに強い関心を持ち始める。現在、ミックスルーツ関西に参加して、活発な活動を続けている。
監督・プロデューサー・撮影の西倉めぐみ(日本人の父xアイルランド系アメリカ人の母)と高木ララ(スペイン人の父x日本人の母)をはじめ、主なスタッフもハーフの人たちで構成されている。
日本は島国で単一民族の国と小さい頃から聞かされてきたけれど、長い歴史の中で、「日本人」の中にいろいろな民族の血が流れていることをだんだん知ることになりました。そうした潜在的な他民族の血と違って、この映画で語られるのは、片方の親が外国人のケース。登場する人たちは、完全な外国人に見える人、混血と見える人、日本人と変わらない人と様々。日本社会において、外見が違うことでいじめられたり、疎外感を感じたりする現実があることも率直に描いています。一方、ハーフであることをバネにして活動するデービッド、エド、ふさえたちの姿を通して、ますます多文化社会になる日本のあり方を考えさせられました。
先日、ハーフの芸人たちが大集合した番組を偶然目にしました。ハーフではなく、ダブルと言おうという彼らの主張に、まさにそうだ!と相槌を打ちました。自分の血に流れる複数の文化を育みながら、国と国の相互理解に貢献できる素敵な存在。大手を振って活躍してほしいと願います。
それにしても、私には、どんなご先祖さまの血が流れているのでしょうか・・・ 朝鮮? それとも、遠く胡の国(ペルシア)?(咲)
2013年/日本/カラー/ブルーレイ/16:9/87分
公式 HP >> http://www.hafufilm.com/
監督・脚本:スコット・ウォーカー
撮影:パトリック・ムルギア
音楽:ローン・バルフェ
出演:ニコラス・ケイジ(ジャック・ハルコム)、ジョン・キューザック(ロバート・ハンセン)、バネッサ・ハジェンズ(シンディ・ポールソン)、マイケル・マグレディ(ジョン・ジェンティル)、ディーン・ノリス(ライル・ホーグスベン)ラダ・ミッチェル、カーティス・“50 Cent”・ジャクソン
1983年、アラスカ州アンカレッジの警察にまだ10代の娼婦シンディが保護される。客になった男に監禁され、殺されそうになったという。その犯人と思われたのが模範的な市民のボブ・ハンセンだったことから、警察はシンディの訴えを重く考えず、握りつぶそうとした。彼女を保護した警官は納得できず、上司に黙って州警察に調書を送付する。
退職間近になった州警察のジャック・ハルコム刑事は、身元不明の少女がたて続けに無残な遺体で発見され、同一犯の仕業ではないかと考えていた。ちょうど届いた調書を読み、ハンセンに疑念がわいてくる。ハルコムはシンディに直接会って話を聞くことにした。
12年間に渡り20人以上の女性を拉致監禁して暴行、殺害に及んだ、実際にあった残忍な連続殺人事件です。映画化にあたって脚色は施していますが、被害者となった女性達の写真が使われ、余計胸が塞がりました。人の悪意は底知れず、つくづく恐ろしいものです。実在の犯人は服役中。
善良な表の顔と、凶悪な裏の顔を使い分けて暮らしてきた犯人役はジョン・キューザック。甘い顔立ちの青春スターでしたが、幅広い役柄をこなすベテランになってきました。一方ニコラス・ケイジが観客の期待を背負って殺人鬼を追い詰める刑事役。『バッド・ルーテナント』(2009)のような悪徳警官ではなくてホッ。『ハイスクール・ミュージカル』のバネッサ・ハジェンズが娼婦役ですが、もう7年も経っていてすっかり大人の女性なのでした。
『キック・アス』のイカれたパパが面白かったケイジですが、続編には名前が見当たりません。最近の出演作はアクションものばかり、またコメディが観たくなりました。(白)
2012年/アメリカ/カラー/105分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ブロードメディア・スタジオ
©2012 GEORGIA FILM FUND FIVE, LLC
公式 HP >> http://www.frozenground.jp/
監督:ダン・ブラッドリー
原案・オリジナル脚本:ケヴィン・レイノルズ
脚本:カール・エルスワース、ジェレミー・パスモア
撮影:ミッチェル・アムンドセン
音楽:ラミン・ジャヴァディ
出演:クリス・ヘムズワース(ジェド・エッカート)、ジョシュ・ペック(マット・エッカート)、ジョシュ・ハッチャーソン(ロバート・キットナー)、エイドリアン・パリッキ(トニ・ウォルシュ)、イザベル・ルーカス(エリカ・マーティン)
ワシントン州のある街。高校のアメフト部に所属するマットは試合で負けてしまい、彼女のエリカと気晴らしにパブに寄る。イラクから一時帰国していた海兵隊員の兄ジェドもいて、エリカの親友のトニが声をかける。突然停電になり、復旧しそうもないのでみなしぶしぶ帰宅した。アメリカ北西部全土という大規模な停電だった。翌朝大きな音と振動で飛び起き、外に出た二人は信じられない光景を目にする。空一面を覆う戦闘機、次々と降下してくるパラシュート部隊。なんの情報ももたらされないまま、街は戦闘状態に入っていた。
『若き勇者たち』(1984年)のリメイク。冷戦時だった当時の敵とされたのは、ソ連・キューバ・ニカラグアの共産圏連合軍。今回はロシアをバックにした北朝鮮に突然占拠されたという設定です。現代に置き換えて情報網を遮断され、敵の手に落ちた国を取り戻そうと若者たちが団結してゲリラ戦を展開して抵抗する映画です。ピンポイントで核ミサイルを命中させられる今日この頃、いくらなんでもよその国にアメリカが陸海空すべて制圧されてしまうというのはなさそうな気がしますが、こういうストーリーも受けるのでしょうか。電気が止められ、情報も届かずという困難な状況下、軍隊での経験を生かしてリーダーとなる兄ジェドはクリス・ヘムズワース。孤軍奮闘の彼にマイティ・ソーの武器をあげたかったです。(白)
2012年/アメリカ/カラー/115分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:クロック・ワークス
©2012 UNITED ARTISTS PRODUCTION FINANCE LLC. ALL RIGHTS RESERVED. RED DAWN IS A TRADEMARK OF METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.AND USED WITH PERMISSION. ALL RIGHTS RESERVED.
公式 HP >> http://reddawn-film.com/
監督・脚本:松本人志
プロデューサー:竹本夏絵、小西啓介
共同プロデューサー:奥山和由
製作総指揮:白岩久弥
製作代表:岡本昭彦
撮影:田中一成(J.S.C)
音楽:坂本秀一
美術デザイナー:愛甲悦子
出演:大森南朋(片山貴文)、大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、冨永愛、佐藤江梨子、渡辺直美、前田吟(片山の義父)、YOU(妻・節子)、西本晴紀(息子・嵐)、松本人志(警察官)、松尾スズキ(支配人)、渡部篤郎(岸谷)
都内有名家具店に勤める片山貴文には秘密があった。妻は植物状態で入院したまま、声をかけても反応することはない。“M”の片山は古びたビルにある「ボンデージ」という謎のクラブを訪ねる。「一度入会したら取り消せません。いいですね」という支配人の確認にうなずいてしまう。以来片山のところにさまざまなタイプの「女王様」が現れる。至福の思いをするが、とき・ところおかまいなしで、次第にエスカレートしていく。あまりのことに退会を申し出るが聞き入れられない。契約は1年間、支配人の言葉どおり途中退会はできないのだった…。
松本人志監督4作目。「ムチャクチャやる!」のをコンセプトに始まった企画、それには「緻密に構築すること」と、台本も今までになくきっちり完成させ、「一流のプロフェッショナルな俳優に演じてもらうこと」。監督が熱望した要となる大森南朋さん始め、豪華キャストが勢ぞろいしました。上の出演者で(役名)がないのは「女王様」、みなデザインの違うボンデージに身を固め、大森さんをいじめたおします。どんな女王様プレイが飛び出すかは見てのお楽しみ。最初に登場する冨永愛さんが強烈!「R100」の意味するところも映画を観れば判明。
公式HPには自分がSかMか申告しないと入れません。ちょっと悩みました(笑)。今のところ「ドS」申告者が9千人ほど多いようです。あなたはどっち?(白)
松本人志監督の作品を観る時の姿勢がいつもと違う。腕組みして「次はどんなことして驚かせてくれるのかな」と物見高い気分になってしまうのだ。
この作品でもストーリーを読んで「きっとこんな感じかな?」と想像しながら観たが、全然違う「想像外れ」で楽しませてくれた。
今までの中で一番いいと思う。主役の大森南朋さんがいい。彼の三世代の男所帯がいい。
けったりぶったりするおねぇちゃんもいい。
でも、もっともっといいのは、叩かれ小突かれした時にビ、ビ、ビと快感を感じたら、大森南朋さんのお顔がぶよぶよっとたるんで・・大好きなソン・ガンホさんそっくりのお顔になる!!だからファンとしてはちょっと複雑だ。(美)
2013年/日本/カラー/100分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ワーナー・ブラザース
©吉本興業株式会社
公式 HP >> http://www.r-100.com/
監督:ロバート・レッドフォード
原作:ニール・ゴードン「ランナウェイ/逃亡者」ハヤカワNV文庫
脚本:レム・ドブス
撮影:アドリアーノ・ゴールドマン
音楽:クリフ・マルティネス
出演:ロバート・レッドフォード(ジム・グラント/ニック・スローン)
シャイア・ラブーフ(ベン・シェパード)
ジュリー・クリスティ(ミミ・ルーリー)
スーザン・サランドン(シャロン・ソラーズ)
ニック・ノルティ(ドナル・フィッツジェラルド)
クリス・クーパー(ダニエル・スローン)
テレンス・ハワード(コーネリアス捜査官)
リチャード・ジェンキンス(ジェド・ルイス)
スタンリー・トゥッチ(レイ・フラー)
アナ・ケンドリック(ダイアナ)
ブリット・マーリング(レベッカ・オズボーン)
ジャッキー・エヴァンコ(イザベル・グラント)
サム・エリオット(マック・マックレオド)
ブレンダン・グリーソン(ヘンリー・オズボーン)
ベトナム戦争反対を訴え、連続爆破事件をおこした過激派グループ「ウェザーマン」のメンバーは行方をくらませてから30年になった。そんなある日、元メンバーの1人が突如逮捕される。駆け出し新聞記者のベンは、その事件を追ううちにある人物にたどり着いた。アメリカの模範的な市民であり、幼い娘と暮らす弁護士のジム・グラントだった。調べるうちに30年間の逃亡の裏に隠された驚愕の真実が分かってくる。
東京試写で観たときはウトウトしながら・・・本格的に寝てしまった。名古屋の試写で観直した。なんでこんなに面白い作品なのに寝てしまったのだろう。大人の骨太映画だ。
難を言えば、ロバート・レッドフォードが60歳くらいと考えても老けすぎだと感じたことだが、この感想に「過去を隠して生活していると毎日が緊張の連続だから、その分老けるんじゃない?」と、言ってくれた方がいた。納得。
※ 新聞記者のベン(シャイア・ラブーフ)のめがねを、時々手でフイッとあげる癖がよかった。ずっとかけていればいいのに外している時もあって、そんなときはコンタクト?と思った。あのめがねの手癖ならずっとかけているような手ぶり。編集長(スタンリー・トゥッチ)の落着いた鼻めがねと対照的だ。そこがとても印象的でいいシーンだった。(美)
映画が何本もできそうな豪華メンバー。レッドフォード監督の人脈でしょうか。アップになったときのレッドフォードには、やはり寄る年波(1936年生まれ)を感じ、「ハンサムな人ほど時間は容赦ないなぁ」と思いながら試写室を出たら、あちこちから同じような感想が聞こえました(女性)。娘というより孫のようなイザベル役のジャッキー・エヴァンコ(2000年生まれ)は、テレビのオーディション番組を勝ち抜いてきた子で、動画サイトにたくさんそのときの様子が残されています。歌がうまくて、初めて出したCDがミリオンセラーという凄さ。ベテラン俳優に混じっても臆さず、これからの活躍が楽しみです。
60~70年代に政治活動をしていた活動家たちの絆が描かれていますが、日本でも多くの人々がいたはず。今どうしているのだろうとふと思いました。(白)
2012年/アメリカ/カラー/122分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
©2012 TCYK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
公式 HP >> http://www.runnaway.jp/
監督:奥田瑛二
脚本:奥田瑛二
撮影:灰原隆裕
音楽:稲本響
出演:安藤サクラ(今日子)、柄本佑(修一)、和田(今日子の同棲相手の男で風俗スカウトマン)、カンニング竹山(今日子の勤めていた生命保険会社の上司)、平田満(修一の父親)、宮崎美子(修一の母親)、和音匠(修一の同僚/音大志望)、小篠恵奈(修一を支える少女)
東北からひとり事情を抱えて上京してきた今日子(安藤サクラ)は、身体を売りながら、文学好きでしょうもないヤクザまがいの男と同棲している。
一方、修一(柄本佑)は刑務所を出てきたばかり。そこに入った事情は母親を助けるために父を殺害からであるが、母の住む東北には帰らず保護司さん経営の鉄工所に住み込みで働くことにした。
題名から受けた印象とは随分違う。だけどなにも知らずに題名だけで「きっと今日子と修一は運命の恋か運命の出会いで・・・」と想像してギャップを楽しむ?っていうのも悪くない。
この2人、共通するのは「若いし見た目も普通以上」「健康な身体で中肉中背」「おおっぴらにはできないものを抱えている」「地震が起きなくても元々不幸だった」ということだ。
「なんて自分は不幸なんだ!」と怒る前に、「生きている」そして「若いし見た目も普通以上」「健康な身体で中肉中背」・・・今、腹を立てて怒っている自分がどんなに恵まれているかを知るべき作品だと思う。
※奥田監督の前作品に、音大の声楽で受験をする娘(安藤サクラ)が出てきて歌うが、受験曲になる歌曲だった。この作品でも同じ鉄工所仲間が「ピアノで音大を受けたい」と宣言してからの選曲に工夫がほしかった。受験曲になるバッハの平均率やベートーベン、モーツァルトのソナタでいい曲がたくさんあるから残念だ。
(美)
2013年/日本/カラー/135分/ビスタサイズ
配給:彩プロ
公式 HP >> http://kyokoandshuichi.ayapro.ne.jp/
監督・脚本: 油谷誠至
脚本: 安井国穂、友松直之
音楽: 宇崎竜童
出演:比嘉愛未、窪田正孝、柄本明、ベンガル、洞口依子、中村久美、芳本美代子、螢雪次朗、園ゆきよ、マーク・チネリー、ディーン・ニューコム他
昭和21年1月14日午後4時頃、佐渡島高千村の海岸に英国軍輸送機・ダコタが不時着する。終戦から5ヶ月、東京で開かれる連合国会議に出席する上海のイギリス総領事ら8名がダコタに乗っていた。かつては敵だったイギリスの人たち。村人たちは様々な思いを抱えながら、突然舞い込んできたよそ者を誠心誠意もてなした。そして砂に埋もれた機体の引き揚げや修理を手伝い、再びダコタが大空に飛び立てるよう、海岸に滑走路を作り上げた・・
67年前に実際に起こった不時着事故を元にした物語。
飛び立つまでの40日、村長が営む旅館で過ごした一行の世話にあたった村長の3女・千代子のモデルとなった千世子さんは、今も87歳で健在。当時、ダコタの前で撮った記念写真に着物姿の若かりし日の姿が写っている。なんとか言葉を交わしたいと英語の辞書を片手に奮闘したそうだ。
この映画を観て思い出したのが、1890年、オスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が和歌山県・串本沖で台風に巻き込まれ遭難した事件。この時にも串本の人たちは、言葉の通じないトルコの人たちを必死になって手助けしたという。
いずれも後世に語り継がれる美談。困った人を助けるのに国境も言葉も関係ない。でも、つい数ヶ月前まで敵国だったイギリスの人たちを助けるには心の葛藤のあった人たちもいたことだろう。そんな思いも『飛べ!ダコタ』は包み隠さず丁寧に描いている。(咲)
配給:アステア
2012年/日本/109分
公式 HP >> http://www.tobedakota.com/
監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:ミシェル・ゴンドリー&リュック・ポッシ
撮影:クリストフ・ボーカルヌ
音楽:エティエンヌ・シャリー
衣装:フィレンツェ・フォンテーヌ
美術:ステファン・ローゼンボーム
出演:ロマン・デュリス(コラン)、オドレイ・トトゥ(クロエ)、オマール・シー(コランの料理人)、ガッド・エルマレ(コランの友人)
働かなくても暮らしていける財産を持ち、自由に生きているコラン(ロマン・デュラス)はパリに住む男。そんなコランがこれまた浮世離れした娘クロエ(オドレイ・トトゥ)と恋に落ちる。
結婚して幸福そのものの日々を送っていたが、クロエが病に倒れる。その病はクロエの肺の中に睡蓮の花が芽吹くという不思議なものだった。
今までの贅沢のせいで金庫の中も乏しくなり、高額な治療費もあって、始めて働き出したコランの人生は狂い出してゆく。
素晴らしい異空間映画だ。
お金のあるうちは地の足がつかないくらいウキウキで、それを表す画像は「アニメを雰囲気を壊さず実写」にしたような作品だ。
お金がなくなると、画面の質感が現実味を帯びてくるなど、ミシェル・ゴンドリー監督の「現実からほんのすこーし浮いた」作風が、この作品ではより色濃くなっていた。
一夜のうちに、いい夢と悪い夢を見て、目覚めたらほとんど忘れてはいるが、ロマンティックでちょっぴり切ない気分だけ残っているような、そんな不思議な作品だった。
俳優さんはみんな◎。『最強のふたり』の介護師役・オマール・シーさんも出ていた。
※日本映画でも『シャニダールの花』は女性の胸に花が咲く映画だった。
(美)
2013年/フランス/カラー/125分
配給:ファントム・フィルム
公式 HP >> http://moodindigo-movie.com/
監督・脚本:李玉(リー・ユィ)『ロスト・イン・北京』
プロデューサー・共同脚本:方励(ファン・リー)『ロスト・イン・北京』
撮影:曾 剣(ツォン・ジエン)
美術:劉維新(リウ・ウェイシン)
音声:杜篤之(トゥ・ドゥチー)
録音:杜則剛(トゥ・ツーカン)
編集:曾 剣(ツォン・ジエン) カール・リエドル
音楽:ペイマン・ヤスダニアン(Peyman Yazdanian)
出演:張艾嘉(シルヴィア・チャン)、范冰冰(ファン・ビンビン)、陳柏霖(チェン・ボーリン)、肥龍(フェイ・ロン)、方励(ファン・リー)
四川大地震後の省都成都を舞台に、無軌道に生きてきた3人の若者が、引退した京劇の花形女優の家に間借りすることになり、世代を超えて理解しあうようになるまでを描いている。
一人息子を交通事故で亡くしたユエチンは、寂寥感から立ち直れないでいた。劇団内でも指導方法が時代遅れと言われ孤独だった。そんな彼女の家に間借りすることになった3人は、それぞれ父親との確執を抱え刹那的に生きている。世代の違うユエチンと3人は、ことごとく違う生活から反発しあう。しかし共同生活を続けるうちに、少しづつ心を寄せ合えるようになっていった。そんなある日、ユエチンは手首を切って自殺を図った。それを発見した3人は急ぎ病院に運び込び一命を取り留めた。そして、彼女の深い絶望感を知った。
3人は、以前に行った観音山にある寺にユエチンを連れて行く。そこには地震で崩れた寺と仏像があった。4人はユエチンの息子が運転していた車を修理し、それに乗って観音山の寺と仏像の修復手伝いに通い始めた。仏像の修復を手伝ううちにユエチンの心は癒されてゆく。
中国の経済成長の波は山奥の古都にも押し寄せ、そんな雑踏の中で生きる若者と、伝統に生きる女性との対比は、現代の中国の姿を垣間見せてくれる。
四川大地震の復興にことで、仰圧された心を解放してゆく元花形女優ユエチンを演じるのは台湾のベテラン女優張艾嘉(シルヴィア・チャン)、3人組の若者の中でも、とんがった演技をするのは中国の女優范冰冰(ファン・ビンビン)。瓶を頭にぶつけて割り、凄みをきかすシーンもある。この作品で、第23回東京国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞している。
そして3人組のあと二人は、台湾の陳柏霖(チェン・ボーリン)と、中国の劇団で活躍しているという肥龍(フェイ・ロン)。
李玉監督は、これまでの中国映画界にはいなかった多様なセクシュアリティを描く女性監督。『ロスト・イン・北京』『二重露光』などが、日本では映画祭などで上映されている。この作品で、第23回東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞を受賞している。
2010年/中国/カラー/1:1.85/ドルビーSR/109分
配給:オリオフィルムズ/キノ・キネマ
提供:オリオフィルムズ/キノ・キネマ/マクザム
協力:LAUREL FILMS INTERNATIONAL
(C)LAUREL FILMS
★9月28日(土)よりユーロスペース、K's cinemaほか全国順次ロードショー
公式 HP >> http://www.buddha-mountain.com/
*シネマジャーナル88号では、この作品の日本公開を記念して、「気になるあの人 范冰冰」を掲載している。
監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
美術:三ツ松けいこ
出演:福山雅治(野々宮良多)、尾野真千子(野々宮みどり)、真木よう子(斎木ゆかり)、リリー・フランキー(斎木雄大)、二宮慶多(野々宮慶多)、黄升げん(斎木琉晴)、風吹ジュン(野々宮のぶ子)、國村隼(上山一至)、樹木希林(石関里子)、夏八木勲(野々宮良輔)
一流企業に勤め、都心のマンションで妻子と何不自由ない暮らしをしてきた野々宮良多。ある日かかってきた電話で、一人息子の慶多(けいた)が産院で取り違えられていたと知る。6年間育ててきたのは他人の子供だった…受け入れがたい事実を確かめるため、夫妻は産院を訪れ、もう一組の夫婦と引き合わされる。群馬で電器店を 営む斎木夫婦の子供は琉晴(りゅうせい)。おとなしい慶多と違って活発な子供だった。「これまでの取り違え事件では100%血のつながりを取る。交換するならできるだけ早いほうが」という産院の説明に、それぞれの家族は苦しみながらも、子供が馴染むように交流することになった。
全く違う二家族にせまられる究極の選択、主に父と息子の関係から描き出しています。二組の違うタイプの夫婦、その子供たちの配役も二重丸。いつも思うことですが、是枝監督は子供を生かす演出が上手です。おとなしくて良い子の慶多、やんちゃではみ出している琉晴、全く地ではないようですがどちらも自然でした。アテガキしていても現場でもっと良くならないか、と考えるという監督。初めての父親役の福山さんのクールなところと、初めて躓いてうろたえるところを見せてくれました。取り違えていなくても、父と息子の関わりは母親よりも努力がいるのでしょう。血の繋がりだけでなく、一緒にいる時間の長さも大きく関わります。観た後にもっと子供と一緒に遊ぼう、と思う親御さんが多いはずです。第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞しました。
新生児取り違え事件が多発したのは、第2次ベビーブームのころでした。産院または病院での出産数が多く、人手不足が主な原因であったようです。新聞を賑わしたのをよく覚えています。この試写の後、7年後に取り違えが発覚した家族を長期間取材した「ねじれた絆」というノンフィクションを読みました。これもなかなか興味深い本でした。(白)
2013年/日本/カラー/120分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
©2013『そして父になる』製作委員会
監督:フィリップ・ベジア
製作:フィリップ・マルタン
演奏:ロンドン交響楽団
合唱:エストニア・フィルハーモニー室内合唱団
出演:ナタリー・デセイ、ジャン=フランソワ・シバディエ、ルイ・ラングレ
名作は舞台のたびに生まれ変わる
ヴェルディの名作オペラ「椿姫」の舞台裏を追ったドキュメンタリー。2011年春、夏のエクサン・プロヴァンス音楽祭での公演に向けリハーサルが開始された。歌手と演出家が持てる力をぶつけ合い、試行錯誤を繰り返す。名作を新たに生まれ変わらせていく過程を見せる。
小柄に見えるナタリー・デセイが全身で歌い上げる姿に圧倒されました。ひとつの物語が舞台にのるには、歌と演技ばかりでなく、演奏、美術、衣裳などなど全てが連なり融合していく、というのをじっくり見ることができます。何でも裏側はとても面白いものですが、オペラには本当に縁遠いので「へぇ~、ほぉ~」と感心しつつ楽しみました。(白)
2012年/フランス/カラー/112分/ビスタサイズ/
配給:熱帯美術館
©LFP - Les films Pelleas, Jouror Developpement, Acte II visa d'exploitation n°129 426 - depot legal 2012
公式 HP >> http://traviataetnous.jp/
監督・脚本:ウォン・チン(バリー・ウォン)
製作:アンドリュー・ラウ
撮影:ジェイソン・クワン、アンドリュー・ラウ
音楽:コンフォート・チャン
美術:エリック・ラム
出演:チョウ・ユンファ(チェン・ダーチー/壮年期)、ホァン・シャオミン(チェン・ダーチー/青年期)、サモ・ハン(ホン・ショウティン)、ユアン・チュアン(イエ・ジーチウ)、フランシス・ン(マオ将軍)、ユアン・リー(ホウ夫人)、倉田保昭(西野少佐)
1913年の江蘇州。チェン・ダーチーは青果店で働く貧しい青年だが、京劇学校の娘イエ・ジーチウとの将来を夢見ていた。あるときトラブルに巻き込まれ、それまでの暮らしを捨て上海へ出奔することになった。黒社会の大物、ホン・ショウティンの傘下に入ったダーチーはホン夫人に気に入られ、頭角を現していく。
1937年。中年となったダーチーは、初恋の相手ジーチウと思いがけず再会した。そんな折、日本軍と通じるマオ将軍から地下組織の名簿を入手するよう頼まれる。
久しぶりのチョウ・ユンファ主演。そしてサモ・ハンとの初共演。楽しみにしないではいられません。ウォン・チン監督とのタッグは、もしかして『ゴッド・ギャンブラー完結編』(1994年)以来??コメディ得意の監督ですが、今回は正統な裏社会ものアクション大作。銃撃戦もたいへんに派手!ユンファの役柄は渡辺謙さんが出演した『シャンハイ』での役と似ています。今や中国若手トップのシャオミンを観た後なので、若さが遠くへ行った感は否めませんが、その風格と情の細やかさはユンファならでは。
第32回香港電影金像奨最優秀美術賞、最優秀主題歌賞(「定風波」、歌神ことジャッキー・チュン)を受賞しました。(白)
2012年/中国/カラー/119分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
配給・宣伝:フリーマン・オフィス
©2012 Bona Entertainment Company Limited All Rights Reserved.
フリーマン・オフィスHP >> https://sites.google.com/site/2007freemanoffice/home/
監督:ロブ・ゾンビ
脚本:ロブ・ゾンビ
撮影:ブランドン・トロスト
美術:ジェニファー・スペンス
音楽:ジョン・5、グリフィン・ボイス
衣装:リーアー・バトラー
出演:シェリ・ムーン・ゾンビ(ハイジ・ホーソーン)、ブルース・デイヴィソン(フランシス・マサイアス)、ジェフリー・ダニエル・フィリップス(ハーマン・ホワイティ・サルバドール)、ケン・ホリー(ハーマン・ジャクソン)、ジュディ・ギーソン(レイシー・ドイル)、パトリシア・クィーン(メーガン)
1962年。アメリカのマサチューセッツ州セイラムである裁判が行われた。それは「ロード・オブ・セイラム/セイラムの領主」と名乗る女たちが、悪魔を呼びだした容疑で行われた裁判で、彼女たちは死刑を宣告される。その中の一人が死刑執行直前に、判事とその末裔に呪いをかけた。
それから数百年後の現代のセイラム。
ラジオDJを務めるハイジ(シェリ・ムーン・ゾンビ/監督の奥様)に、「ザ・ロード」という人物から1枚のレコードが届く。そのレコードをかけたところ、不気味な低音やうめき声が聴こえてきた。
美しくて優しいハイジは、死に追いやった判事の末裔なのだ。あ~可哀相・・・。
この事件は本当にあった有名な「魔女裁判」らしい。さっそく調べてみた。
セイラム魔女裁判は、米マサチューセッツ州セイラム村(現在のダンバース)で1962年3月1日に始まった恐ろしい裁判で、200人近い村人が魔女として告発され19名が処刑され、1名が拷問中に圧死、5名が獄死した。まったく根拠のないおぞましい裁判だ。
どの画面においても、人の表情や小道具一つ一つに怨念がこもっていそうで、その雰囲気を問題のレコードの音が倍増させてくれた。
その鳥肌が立つような音楽だが、なぜか「もう一度」聴きたくなる「音」で、その中で再度、身震いしてみたくなった。公開が待ちどおしい。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/101分
配給:ショウゲート
公式 HP >> http://www.salem.jp/
監督:園子温
脚本:園子温
撮影:山本英夫
証明:小野晃
美術:稲垣尚夫
出演:國村隼(ヤクザの組長・武藤)、二階堂ふみ(武藤の娘ミツコ)、長谷川博己(平田鈍・若手監督)、星野源(橋本公次)、友近(武藤の妻・しずえ)、堤真一(池上組の組長)
ヤクザの組長・武藤(國村隼)は、もうすぐ出所する妻・しずえ(友近)の夢をかなえようと、娘ミツコ(二階堂ふみ)を主演にした映画を作るために一心不乱になっていた。
もちろん、ミツコも協力して、駆け落ち相手を監督に無理やり仕立て上げるが失敗。
ひょんなことから知り合った男・橋本(星野源)と、これも偶然に出合った若手監督(長谷川博己)と、もう一人、子役時代からミツコの大ファンであり、敵対する池上組の組長(堤真一)にも協力してもらい、本物のヤクザ抗争をバックに、それこそ命がけの映画作りがスタートしたが・・・。
この映画は、ストーリーが入り組んでいて、どう説明してよいか分からない作品。
どこでどう繋がりができるやら、その偶然の面白さに吸い込まれるように観てしまった。
高校生たちの映画作りとヤクザの世界の切った張ったの世界、家族の再生の願い(?)それと10年ほどの時間軸の中で、糸がもつれる様に入り組んで作られているが、一端、ほどけてくるとスルスルと分かってくる。
その納得の展開がスピードを落とさず、たたみ掛けてくるので、あれよあれよのうちに終盤を迎える。時々血の雨が降りかかるジェットコースターに乗っている気分!
二階堂ふみの決断&艶やかさ、堤真一の純真&猪突猛進が残暑を吹っ飛ばしてくれる!
※ちょっとしか出てこないが岩井志摩子、でんでん、成海璃子たちが超激辛風味を緩和してくれる。
(美)
2012年/カラー/129分
配給:キングレコード/ティ・ジョイ
公式 HP >> http://play-in-hell.com/
監督:古厩智之(ふるまや・ともゆき)
脚本:加藤淳也
原作:喜多川泰「また、必ず会おう」と誰もが言った。(サンマーク出版)
音楽:遠藤浩二
出演:佐野岳(香月和也)、イッセー尾形(柳下吉治)、杉田かおる(田中昌美)、嶋田久作(島津純)、塚本晋也(秋山荘介)、徳井優(警官・太田)、水木薫(一枝)、戸田昌宏(和田聡)、唯野未歩子(幹由紀恵)、瀧澤翼(柳下亮平)、角替和枝(柳下富江)、古村比呂(香月夕子)、国広富之(香月道彦)
熊本の高校生の和也は、ときどき自分を守るために嘘をつく。今日もクラスで「東京に行った」と嘘をつき、証拠写真を見せることになってしまった。つじつまを合わせるために、母親に「大学の下見に行く」と嘘をついて小遣いをせしめた。安い航空券で東京へ出かけるが、財布を盗まれたあげく帰りの飛行機に乗り遅れた。返金もきかず空港で夜明かしするほかはない。見かねた売店のおばちゃん昌美が声をかけ、一人暮らしの家に泊めてもらえることになった。和也は酔っ払った昌美に「今のあんたは零点!」と、お説教をくらい「居候の心得」をさとされ、別れた息子へのお使いを頼まれる。忘れられない旅が始まった…。
数日間の一人旅をするはめになった高校生が、厳しい大人たちと現実に出逢い成長する物語。中高生に読んでもらいたい、と書かれた原作は12万部のベストセラーとなりました。著者の喜多川泰さんは塾の先生で作家。日々身近で接する中高生がよくわかるのでしょう。和也の甘ったれなところをズバズバとついてくる大人たちは、思いがけない旅だからこそ出会えた人たち。初めは内心反発している和也も素直に受け止めていきます。まるで「子供に旅をさせよ」のお手本のようです。説教くさくなりがちなセリフが、ベテラン俳優により、すっかりこなれて沁みる言葉に変わっていました。ジュノン・スーパーボーイ出身の佐野岳くんも俳優として成長した作品になったはずです。(白)
2013/日本/カラー/113分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:BS-TBS
© 2013「またかな」製作委員会
公式 HP >> http://matakana.jp/
監督:フレデリック・フォンテーヌ
出演:フランソワ・ダミアン、セルジ・ロペス、アンヌ・パウリスヴィック、ジャン・アムネッケル、サガリー・シャセルオ、マリアーノ・チチョ・フルンボリ
J.Cは、刑務所の看守。単調な生活の中で、楽しみは週一回のタンゴ教室。ある日、教室にやってきた30代の女性アリスと踊ることになったJ.C。15歳の息子がいるとは思えない彼女にちょっとときめく。その後、刑務所の面会日、面会人の中にアリスを見つける。夫のフェルナンと面会室で手を取り合うアリス。別の面会日、アリスが別の男ドミニクと戯れている姿を見つける。ドミニクは愛人で、夫のフェルナンと共に事件を起こして収監されていたのだ。アリスに心惹かれるJ.Cだが、看守が受刑者の家族と親しく付き合うことは禁じられていた。夫フェルナンはJ.Cがアリスとタンゴ教室で知り合ったことに気付いてしまう。フェルナンとドミニクは自分たちもタンゴを学びたいと、収監者の中にアルゼンチン出身者を見つけ、男たちばかりのタンゴ教室を開く・・・
囚人服の男たちが集団でタンゴを踊りだす光景は圧巻。
アリスの夫と愛人、さらに彼女に心を寄せる看守・・・ 物語はどこへ行くのか? さらに、15歳の息子の出生の秘密も。思いもかけない結末は是非劇場で! (咲)
2012年/ベルギー・フランス・ルクセンブルク/カラー/シネマスコープ/97分
配給:ファインフィルムズ
公式 HP >> http://www.finefilms.co.jp/tango/
監督:ハーマン・ヤウ(『イップ・マン 誕生』)
出演:アンソニー・ウォン、ジリアン・チョン、ジョーダン・チャン、エリック・ツァン、 アニタ・ユン
中国広東省佛山の名家に生まれ、裕福な暮らしをしていたイップ・マン(アンソニー・ウォン)。1937年、日本軍に全財産を接収され邸宅は日本軍の司令部となる。1949年、内戦が激化し、国民党に属していたイップ・マンは身の危険を感じて、妻子を残して香港に亡命する。縁あって労働組合のビル屋上で詠春拳の教室を開き、年齢も職業も様々な人たちに指導することとなる。弟子の中には女性たちもいた。後にブルース・リーも彼の門下となる。
妻ウィンセン(アニタ・ユン)は時折夫に会いに香港に来ていたが、1951年、中国と香港の国境管制が実施され行き来できなくなってしまう。寂しさを募らせながらも、弟子たちや友人となった白鶴派宗師ン・チョン(エリック・ツァン)と武術に励む日々だった。
1960年、妻ウィンセンが佛山でこの世を去る。死に目に会えなかったイップ・マンはショックから精神を病んでしまう。そんな彼の気持ちを癒したのが、知人のクラブ歌手ジェニー(チョウ・チュウチュウ)だった。1961年、息子のイップ・チュンが香港にやってくる。イップ・マンと暮らすジェニーを弟子たちは疎ましく思っていたが、息子は彼女を「田舎娘」と呼んで父のプライベートに立ち入ることはなかった。
そんなある日、弟子の一人ウォン・トンが生活費のため悪の巣窟・九龍城の首領ドラゴンの主催する格闘技大会で横暴なガイに挑むと聞いて、イップ・マンは弟子を率いて九龍城に向かう・・・
本作は、実在の武術家イップ・マンの晩年を描いたもの。
イップ・マンというとドニー・イェンのイメージを植えつけられていた。今年、ウォン・カーワイ監督の『グランド・マスター』でトニー・レオンが演じているのを観て、武だけでなく文も重んじたイップ・マンの人物像を知ることとなった。そこへきて、アンソニー・ウォンがイップ・マンを演じているという。意外な気がしていたが、本作の最後に本物のイップ・マンが黙々と詠春拳の練習をする映像が出てきて、ハーマン・ヤウ監督がアンソニー・ウォンの起用を熱望したのを納得した。知らなかったがアンソニー・ウォンのカンフー歴は20年。また、本作のために詠春拳を1年2か月にわたって学んだという。
本作には、イップ・マンの長男イップ・チュンが出演しているが、製作にあたって父の所作について助言したのはいうまでもない。
歴史に翻弄されて香港で晩年をおくったイップ・マンの憂いまでをも体現したアンソニー・ウォンに惚れ惚れ。(咲)
香港映画は、ひとつ当たるとブームになり、何作も続いて作られる。イップ・マン(葉問)はブルース・リーの師匠として昔から有名だったが、ここ数年、そのイップ・マンを主人公にした作品が何作も作られてきた。武術の師匠ということで、ブームの最初のころはアクションを見せる作品が続いたが、この作品はイップ・マンの晩年を描いたということで、武術だけでなく文武両道の姿を描いていた。最近は『グランド・マスター』でもそのように描かれていたし、アクションだけではないイップ・マンの姿を知った。
それでも黄秋生のカンフーは様になっていた。香港では演劇学校で、必ずカンフーの実技も習うと聞いたことがあるけど、子供の頃からカンフー映画も見ているし、TV番組もカンフーものが多いので、アクション俳優でなくてもある程度身についているのだなと感心した。(暁)
2013年/香港/カラー/スコープサイズ/5.1chデジタル/100分
配給:日活
公式 HP >> http://ipman-final.com/
監督:ニール・ブロムカンプ
脚本:ニール・ブロムカンプ
撮影:トレント・オパロック
音楽:ライアン・エイモン
編集:ロドルフ・プロカン
美術:フィリップ・アイヴィ
出演:マット・デイモン(マックス)、ジョディ・フォスター(デラコート)、シャールト・コプリー(クルーガー)、アリス・プラガ(フレイ)、ディエゴ・ルナ(フリオ)
21世紀末から地球は環境汚染と人口増加で荒廃が一層進んでいた。
一握りのお金持ちは地球から400キロ離れた宇宙空間に造られた「エリジウム」に移り住んでいた。
2154年ロサンゼルス。
地球住民である若者マックス(マット・デイモン)は犯罪に走り、刑務所に入っていたが、心を入れかえて「アーマダイン社の工場」で組立ラインに従事していた。
だがなんとしてでも、エリジウムに行かなければならないことが起こり、決死の覚悟で潜入を試みるが、不法入国者を阻止してエリジウムを守るデラコート高官(ジョディ・フォスター)が立ちはだかっていた。
『第9地区』の監督作品。
エリジウムとは「理想郷」という意味だ。地球は全体が悪臭漂うスラム街。エリジウムではあらゆる病気は医療用の機器に入るとすべて治してくれる。まさに完璧な天国だ。この差を嫌と言うほど見せ付けられる。映っていないが日本もきっと天国と地獄のようになっているに違いない。
映画は大袈裟に未来を描いているが、今の世の中と変わらない。金持ちと貧乏。落ちるのは簡単だが、どんなにあがいてもはい上がるのは難しい。
小さな最新式機械のひとつ一つに工夫と愛着があるのは『第9地区』と同様で、それにプラスしてダイナミックになっている。が、手作り感がちょっと足りないと思ったのは無いものねだりだろうか。
マット・デイモンが無謀な青年(もう43、4歳のはず)を違和感なく演じていたし、傲慢で鼻持ちならないデラコート高官を演じるジョディ・フォスターも、強い意志力をお顔に漲らせて好演していた!
(美)
2013年/アメリカ/スコープサイズ/109分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式 HP >> http://www.elysium-movie.jp/
監督:ゲレオン・ヴェツェル(『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』)、ヨルグ・アドルフ
出演:ゲルハルト・シュタイデル、ギュンター・グラス、カール・ラガーフェルド、ロバート・フランク、ジョエル・スタンフェルド
本に魅せられた男、ゲルハルト・シュタイデル。1950年、ドイツ・ゲッティンゲン生まれ。1967年にデザイナー、出版者としてのキャリアをスタートさせる。生家のすぐそばで営む小さな出版社。量より質と、会社を大きくするより丁寧に仕上げたいとこだわる彼のところには、世界各地から注文がくる。「会って打ち合わせするのが一番。2~3ヶ月かかる仕事が4日間で終る」と語り、ニューヨーク、ロサンゼルス、パリ、カタル・・・と、各地の依頼人のもとに赴く。扱うのは、ノーベル賞作家の文学作品、シャネルのカタログ、著名写真家の写真集と多彩だ。
密着取材を許された監督たちが、1年間、彼に寄り添って仕事ぶりや人となりをカメラに収めた1作。
印刷し終わったばかりの紙を一枚一枚、手触りや匂いまでをも確認する姿は、まさに職人そのもの。ちょっと神経質そうにも見え、うちに篭った人物なのかと思えば、フットワーク軽く、世界各地にいる顧客の元へ飛んでいく。個々の作品を収める器を、その作り手たちの個性に合わせて作り上げていく。本そのものが芸術品に仕上がって、中の作品価値がさらに高まる。もう、お見事!と唸るしかない。著名な写真家や作家たちが、「世界一美しい本を作る男」にどんなに待たされてでも依頼したい気持ちに触れることができた。
中でも興味を惹いたのが、「iDubai iPhoto」というアラブのお金持ちがiPhoneで撮った写真集。iPhoneで見るのと同じサイズで3枚並べた小ぶりの本。表紙の色はアラブ人好みにフェラーリの赤のようなはっきりした色。名前はゴールドで。しかも本物の金で!
ほかにどんなユニークな作品があるのか、実際に目にしてみたい。(咲)
2010年/ドイツ/88分/カラー
配給:テレビマンユニオン
公式 HP >> http://steidl-movie.com/
監督:ヴァレンティン・トゥルン
撮影:ロラント・ブライトシュー
音楽:プルラモン
食品の3割から5割は食卓に届く前に捨てられている!!
毎年世界中で生産される食料が最大半分の20億トンも廃棄されている驚愕の事実。8人のうち1人は飢餓状態にあるというのに。4つの大陸をまたいで取材したドキュメンタリー。
数字を聞いただけでも驚きますが、画面で観るとさらに絶句。「もったいない!」という感覚はごく真っ当なのに、なぜか軽視されているような気がしてなりません。見栄え重視の指導がなされる野菜、生産過剰で価格調整のため、出荷もされず畑に放置され、つぶされてしまったりする場面も幾度となくニュースで見て来ました。そのたびに生産者と消費者が直結したらいいのにと思ったことです。スーパーや小売店で厳しく管理される「賞味期限」は「消費期限」ではないのに、少しでも新しいものを選ぶ顧客のために棚から食品が消える速度を速めています。家庭から出る食品ゴミも少なくありません。冷蔵庫を過信して食べられなくして捨てた経験は誰にでもあるでしょう。さまざまな取り組みも始まっていますが、今からすぐ自分ができることもあります。いろいろと気付かされ、反省させられたドキュメンタリーでした。学校で生徒たちにも見せてくれないかなぁ。
“MOVIE FOR TWO”
映画『もったいない!』を劇場で鑑賞すると、映画チケット1枚につき20円が寄付金となって、NPO法人「TABLE FOR TWO」を通じて開発途上国の学校給食1食分として贈られます。新しい形の社会貢献活動です。※開発途上国の給食1食分の金額が20円。(白)
日本は廃棄食料の世界一と聞いていたので、このドキュメンタリーは見逃せなかった。
食料の3~5割は食卓に届く前に、生産の現場で、流通の途中で、お店の店頭で、そして家庭で捨てられる。
世界各国の食料に関わるあらゆる専門家の話から、驚愕の現実と問題の原因を知り、一人ひとりに何ができるか考えるきっかけになる作品だ。
観ながら「わあ、もったいない!」「えぇ!それも捨てちゃうの」とつぶやいてしまった。
それと毎日映画を観ていて、このところ変なことに気づいていた。
それは食事するシーンで明らかにまだ食べきってないのに「ごちそうさま」と言う台詞が入る。レストランでもちゃんと食べきってないのに相手が帰るのに合わせて席をたつというシーンが多い。
家庭なら「まだ残ってるわよ、ちゃんと食べなさい」とか、後片付けしながら「またこんなに残して」とぶつぶつと言ってない。
レストランなら「おっ、食べてしまうから、ちょっと待って!」とか、慌てて食べきるシーンがない。言ってほしい・・・。
これ、本当に気になってから2年ぐらいたっている。映画ですら「食べる」シーンがおざなりになっている。
反対に、とことん食材から作り方まで「こだわり」を持っている映画もあるから、両極端というか、「食」の域で「食べ残す」だけ忘れられた存在らしい。(美)
2011年/ドイツ/カラー/88分/
配給・宣伝:T&Kテレフィルム
© SCHNITTSTELLE Film Koln,THURN FIL
公式 HP >> http://www.mottainai-eiga.com/
監督:ジョナサン・レビン
脚本:ジョナサン・レビン
撮影:ハビエル・アギーレサロベ
音楽:マルコ・ベルトラム
出演:ニコラス・ホルト(ゾンビR)、テリーサ・パーマー(少女ジュリー)、ジョン・マルコヴィッチ(グリジオ大佐、ジュリーの父)
ゾンビと人間が戦い続けている近未来。
ゾンビのR(ニコラス・ホルト)は、仲間と一緒に食料である「人間」を探しに街へ行き、人間の一団と激闘するが、自分に銃を向けた美しい人間の少女ジュリー(テリーサ・パーマー)に心を奪われてしまった。
仲間のゾンビに襲われる彼女を救い出して、こっそり自分の居住区へ連れ帰るR。
彼の好意をはねつけていたジュリーだったが、徐々にRの純粋さや優しさに気付き、やがて思いを寄せ合うようになる。
純愛ゾンビ映画。
監督さんは『50/50 フィフティ・フィフティ』のジョナサン・レヴィン。
人間とゾンビと骸骨ゾンビ(この骸骨さんは完全ゾンビでもう後戻りできない設定)の世界だ。壁で覆いつくされて特別な警護なしでは行き来できない。
そのゾンビ区域は「元飛行場」という設定になるほど!と感心した。広い地域、都市からかなり離れている、一応、生活必要な空間はある。
話はハッピーで終わっているが、骸骨さんが人間からはもちろんのこと、ゾンビからも「悪」とされているのに納得できなかった。
骸骨さんもゾンビさんも同じことやってるのに、それに偶然、運悪く何度も噛まれたりしてゾンビから骸骨さんになったと思うから「悪」と描くのはかわいそうだ。
これ、3層の社会は今の金持ち、普通と思っているが不安な人、底辺で暮らしている人など、今の人間社会にもあてはまるから、骸骨ゾンビさんに肩入れしてしまった。
※主演のニコラス・ホルト。次第に人間の顔つきになってくるので観ていて嬉しかった。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/98分
配給:アスミック・エース
監督:白石和彌
脚本:高橋泉、白石和彌
撮影:今井孝博
衣装:小里幸子
美術:今村力
出演:山田孝之(藤井修一)、ピエール瀧(須藤純次)、リリー・フランキー(木村孝雄)、池脇千鶴(藤井洋子・修一の妻)、白川和子(牛場百合枝)、吉村実子(藤井和子)
月刊誌の記者・藤井(山田孝之)は、死刑囚の須藤(ピエール瀧)から来た手紙を持って刑務所に面会にいく。
手紙の内容は、自分の余罪を告白すると同時に、悪仲間から「先生」と呼ばれていた男(リリー・フランキー)の罪を告発する衝撃的なものだった
藤井は上司の忠告も無視して、事件解明に深く関わっていく。
『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(これもいい作品だった)の白石和彌監督作品。
もう15年くらい前から月刊誌「新潮45」は読んでいる。だからこの映画の内容は頭に入っていた。驚くべき埋もれていた事件なのに「記事」には、すぐ出来なかったいきさつが興味深い。
この時「新潮45」は女編集長で、ちょっと難しい今までの方向と違って、やわらかH路線になった。堂々と電車の中で表紙を見せられないほど、きわどい言葉が表紙に踊っていた。でも、その女編集長の時代は発刊日が待ち遠しかった。
映画の話をしよう。
ゾクゾクっとする映画ではダントツのNo.1。
園子温監督の作品『冷たい熱帯魚』にもあった人体をバラバラにしたり、なぶり殺しにしたりするシーンは、手順良さとしては『凶悪』が◎、狂気の部分は『冷たい熱帯魚』の死体を焼く時に焼肉のタレをかけるなどに軍配があがる。
「悪魔は天使の顔でやってくる」と言われるが、本当、そのとおりだ。
騙して、その気にさせて、その人を「金」をちらすかせてうまく使う・・・今のいろんな「詐欺事件」だって、皆、このパターン。
それに乗ってしまう人間の弱さ。特殊な世界か?と思えない「普遍的」なものが潜んでいる作品だった。
※ソフトな笑顔で冷血ぶりを発揮する「先生」ことリリー・フランキーがいい。
この作品が公開された一週間後に『そして父になる』が公開されるが、リリー・フランキさんの仰天変化、話題になるのは確実。
※山田孝之はもちろんだが、池脇千鶴の地味だが納得させる演技に底力を感じた。
(美)
2013年/日本/カラー/128分
配給:日活
公式 HP >> http://www.kyouaku.com/
監督:アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラ監督
脚本:アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラ監督
撮影:ティモ・サルミネン、ペドロ・コスタ、レオナルド・シモンイス、バレンティン・アルバレス、フランシスコ・ラグリファ・オリヴェイラ
出演:イルッカ・コイヴラ(レストランの支配人)、ヴェントーラ(兵士)、リカルド・トレパ(ガイド)
ポルトガルの北西部にある古都ギマランイス。初代国王アフォンソ1世の生誕地である。この地は「ポルトガル発祥の地」、今も「ギマランイス歴史地区」として世界遺産に登録されている。
そんな街が2012年にEUの提唱する「欧州文化首都」に指定され、記念行事として、この国と深い関わりのある巨匠たち4人が、その呼びかけに応え製作されたオムニバス映画。
第1話「バーテンダー」
フィンランド生まれだが20年以上ポルトガルに住んでいるアキ・カウリスマキ監督。
レストランの支配人らしき男が主役だ。自分の店には客は来ない。向かいのレストランには人がいっぱいだ。
彼はその店に行き、客に混じりスープを注文する。「なかなかうまい!」と、表情にも表さないが、早速、自分の店のそっけないメニューの品名を、今風のおしゃれ調に変える。
彼の朝から晩までの一日が、カウリスマキらしいユーモアで語られている。
第2話「スウィート・エクソシスト」
ポルトガル・リスボン出身のペドロ・コスタ監督。
「コロッサル・ユース」に出てきた俳優ヴェントゥーラが、1974年の「カーネーション革命」に参加した兵士を演じているが、生きているのか死んでいるのかわからない。中間点を浮遊する存在になっているようだ。
どこにいくか分からないエレベーターの中で死んだ戦友と会うシーンが印象的。
第3話 「割れたガラス」
隣国スペイン出身のビクトル・エリセ監督
昔は大きな紡績工場だったが今は廃墟となり「割れた窓ガラス工場」と呼ばれている。
当時の賑わった労働者の食堂風景を撮った大きな写真の前で、かつての労働者が思い出を語る…これが一番わかりやすく当時の国の状況もあらわになっていた。
第4話「征服者、征服さる」
ポルトガル出身、御歳104歳のマノエル・ド・オリヴェイラ監督
ギマランイスの発祥のエピソードを語るガイドだが、観光客はそんなことは聞いていなくて、一生懸命カメラを撮っている。
知識を持って「この発祥の地区」に来ているわけではない皮肉が効いていた。
ユネスコ世界遺産に登録されていて城壁には「ここにポルトガル誕生す」と刻まれている。
※最後に流れたグレン・グールドによる「イタリア協奏曲」がなぜ演奏されたのかわからないが、この作品の色合いにぴったりな選曲だった。
(美)
2012年/ポルトガル/カラー/アメリカン・ビスタ/96分
配給:ロングライド
公式 HP >> http://www.guimaraes-movie.jp/
会期:9月13日(金)~16日(月)
会場:
【水上音楽堂 野外ステージ】 台東区上野公園
【東京都美術館 講堂】台東区上野公園
【浅草公会堂】 台東区浅草1-38-6
【コシダカシアター】 台東区浅草1-25-15 ROX4F
【浅草文化観光センター】 東京都台東区雷門2-18-9 6F・7F
■パンダバス(上野=浅草 連絡バス)
9月15日(日)・16日(月・祝)2日間
映画祭期間中、上野・浅草間を無料バスが運行しています。
チケット:チケットぴあにて発売中
上映作品:
●オープニングセレモニー&上映『地獄でなぜ悪い』監督:園子温
●特別招待作品『マッキー』『ウォーム・ボディーズ』『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』『ロスト・イン・タイランド』『FILTH(原題)』
●短編コンペティション したまちコメディ大賞2013
●コメディ栄誉賞 堺正章特集&関連企画
●クロージングセレモニー&イベント 堺正章リスペクトライブ
ほか映画秘宝まつりなど盛沢山です。スケジュールほか詳細は公式HPでお確かめください。
http://www.shitacome.jp/
監督:李 相日
脚本:李 相日
撮影:笠松則通
音楽:岩代太郎
衣装:小川久美子
美術:原田満生
出演:渡辺 謙(釜田十兵衛)、佐藤浩市(大石一蔵)、柄本 明(馬場金吾)、柳楽優弥(沢田五郎)、忽那汐里(なつめ)、小池栄子(お梶)、國村隼(北大路正春)
江戸から明治への転換期。開拓が進められている北海道に「人斬り十兵衛」と恐れられていた幕府の残党・釜田十兵衛(渡辺謙)がいた。
十兵衛は愛するアイヌ女性と出会い、子どもも生まれたが妻は3年前に死んでしまった。妻との約束で刀を持たない、人を切らないと誓い、極寒の地で父子は貧しく暮らしていた。
そこへ、かつての仲間・馬場金吾(柄本明)がやって来て、「女郎を殺した2人の男を殺してくれと女郎仲間が大金を工面した。金を折半するから手伝ってくれ」と頼まれる。
それまで亡き妻との約束を守っていた十兵衛だが、貧しい暮らしに食べるものも満足にないために、やむなく仕事を請合うのだった。
クリント・イーストウッドの監督・主演の作品は観ていないので比べようがないが、音楽の使いようが抜群によかった。
緊迫する場面では作為的な物音一つ無く、その場面で「次、どう出るのか」と相手の探りを一緒に味わうことが出来た。
渡辺謙の孤高のヤサグレ感、柄本明の駆け引きの思惑、佐藤浩市のふてぶてしい物言い、アイヌ青年を演じる柳楽優弥の顔の筋肉を酷使した表情が見事だった。
(美)
2013年/日本/カラー/135分
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:菅原和彦
音楽:川上ミネ
出演:ベニシア・スタンリー・スミス、梶山正他
京都大原、山裾の古民家で四季折々の草花に囲まれて暮らすイギリス人女性ベニシア・スタンリー・スミスさん。実は英国貴族の家系に生まれ、お城で育ったお嬢様だった。華やかな社交界では心の安らぎを感じられず、19歳の時、ほんとの幸せを見つけたいと世界放浪の旅に出る。トルコからインドを経て最終的に落ち着いたのが日本だった。 ハーブを育てながら自然と調和して暮らすベニシアさんは、とても穏やかな人生をおくっているようにみえる。だが、彼女のたどってきた道は波乱に満ちたものだった。日本人男性と出会い、3人の子どもを授かるが離婚。異国の地でシングルマザーとして子育てするため、京都で英会話教室を開講する。その後、山岳写真家の梶山正さんと運命的に再婚。息子を授かり、京都大原の古民家に移り住む。やっとつかんだ幸せな日々だったが、夫がロッククライミング中の事故で生死の境をさまよう・・・
ベニシアさんのことは、テレビ番組で観た記憶がありました。NHK BSで2009年4月から4年間、「猫のしっぽカエルの手 京都大原ベニシアの手づくり暮らし」というドキュメンタリー番組が放映されていたのですが、そんな長寿番組だったとは知りませんでした。
試写の折に、製作関係者の方からテレビ番組の映画化ではなく、“テレビ番組で人気のベニシアさんのことが映画になった”と強調されました。
その折に登壇したプロデューサーの神部恭久氏は、「5年程ベニシアさんと付き合ってきました。痛みのわかる人は自分も傷ついたことのある人。心優しい人」と彼女を賞賛。菅原監督からは、「4年前にテレビ番組が始まった時に、テレビではガーデニングや古民家での暮らしに焦点をあてて、ベニシアさんの人生そのものは紹介しないことにしました。彼女は自分の人生を諦めていないところが凄い」と語りました。
ベニシアさんの穏やかな笑顔に、自分の信念を貫いて生きてきた人は素敵だなと感じ入りました。私にとっての自分らしい暮らしとは? 何が人生の幸せ? まだまだ模索が必要な私です。(咲)
日本に住んで43年になるというベネシアさん、NHKの番組でご存知の方も多いかと思います。ハーブに彩られた四季の庭、好きなものに囲まれ、手作りを楽しむ丁寧で穏やかな暮らし…憧れてしまいますね。このドキュメンタリーでは番組では触れられなかった、ベネシアさんの波乱の人生も紐解き、率直なベネシアさんの素顔も見せています。いろいろあったからこそ、家族と今の暮らしをより大切にしている気持ちが伝わり、ほっこりして帰りました。
ベネシアさんの庭の一部を再現し、出会った人たちの作品を並べた展覧会も上映時期に合わせて開催されます。そちらにも足を伸ばしてはいかがでしょうか。
★「ベニシアと仲間たち展 ~猫のしっぽ カエルの手 京都大原ベニシアの手づくり暮らし~」
9月11日(水)-9月24日(火)
松屋銀座 8階イベントスクエア
<最終日17:00閉場・入場は閉場の30分前まで>
(白)
ベニシアさんのことは、去年会社をリタイアして、平日の昼間にTVを見ることができるようになって知りました。私は「猫のしっぽカエルの手 京都大原ベニシアの手づくり暮らし」は知らないのですが、NHKの番組「あさイチ」でベニシアさんの生活を数回見たことがあります。
その京都大原で花やハーブに囲まれた生活を見て、とてもうらやましく思いました。先日もベニシアさんが沖縄を訪ねる番組を見たので、少しは知っていたつもりだったのですが、これまでの番組で知ったベニシアさんというのは現在の姿であって、どのように生きてきて、今の自然や花に包まれた生活に至ったのかということは知りませんでした。
この映画では、彼女の今の生活に至るまでの歩み、波乱万丈の人生が語られ、彼女をめぐる人々との交流が語られます。
アジアを放浪して日本にたどりついた欧米人で、京都に住んでいる人はけっこういますが、やはりベニシアさんと同じように都会ではなく、少し都会から離れたところに住んでいる人が多いように思います。東京とは違った京都の田舎の魅力が、彼らを惹きつけるのでしょう。
それにしても、日本流と英国流をミックスさせた生活、独自の生活を作り出した彼女の自然流に拍手を送りたい。植物好きな私としては、少しでもベニシアさんのように植物に囲まれた生活をできたらと思っています。(暁)
2013年/日本/デジタル/カラー/16:9/98分
製作:NHKエンタープライズ/テレコムスタッフ/ 朝日新聞社
配給:テレコムスタッフ/NHKエンタープライズ
公式 HP >> http://www.venetia.jp/
監督・脚本・製作:アリソン・アンダース、カート・ヴォス
撮影:カート・ヴォス
音楽:J・マスシス
出演:フランネリー・ランスフォード(ブレット・ピアース)、ダンテ・ホワイト・アリアーノ(デイモン・ウォルシュ)、エリース・ホランダー(クレオ)、クレイグ・スターク(フランク)、ルアナ・アンダース(ルー・ピアース)
ブレッドは恋人のジャスティーンに突然去られてしまった。それも新しい相手は彼のリスペクトしているデイモンらしい。さっそくデイモンの経営するレコード店に行くが、本人を目の前にするとなにも言えず、高いレコードを買って帰ってきてしまった。おまけにブレッドがボーカルで熱を入れているバンドも解散の危機にある。母親の家に転がり込むと、よりを戻した元彼のフランクがいた。どん底のブレッドは自分を見守るクレオの優しさにも気付かない。そのうちにフランクとブレッド、恋敵だったデイモンは一緒に砂漠のツアーに出ることになった。
ロック好きで成功したい青年が、失恋やバンド解散から立ち直っていく青春ムービー。ネットで資金を広く募って出来上がった低予算の作品で、モノクロの画面でドキュメンタリーのような趣きがあります。ロックには全然詳しくないので、出てくるミュージシャンもエピソードも知らない(わかる人にはわかる)のですが、それでも楽しく観られました。ちょっとだけの出演でも、この人はきっと有名なのに違いないとわかります。(白)
2012年/アメリカ/モノクロ/87分/B&W/DCP
配給:フルモテルモ×コピアポア・フィルム
©012 Alison Anders and Kurt Voss
公式 HP >> http://strutter-the-movie.com/
高知県西部の港町、黒潮町。カツオ一本釣り漁師の明神勝雄(那波隆史)は、バツイチ子持ちの40歳。知的障害者の息子・雄介(松澤匠)の世話は母のセツ(高山真樹)に任せてきたが、その母も認知症の症状が出てきたようで心配だ。さらに、折からの不漁や新造船の支払いで経済的にも精神的にも窮地に追いやられた勝雄は、思わぬ行動に出る・・・
不安定な漁業を捨てていく仲間が多い中、一本釣りに賭ける勝雄。知的障害を抱えた息子に認知症の母と、八方塞りの彼の気持ちが痛いほど伝わってくる物語。
一方で、本作は土佐の港町の伝統や粋も感じさせてくれた。冒頭、暗い中から聴こえてくる渋い声の舟歌。海に向かって立つ神社、美しい砂浜・・・ 物語は、天満宮の大祭でクライマックスを迎える。生きることの大変さと共に、明日への希望も感じさせてくれた。
奥村監督は、高知大学卒業後、2001年から8年間、高知新聞社の記者を務めていた。退社し、映画美学校で映画製作を学び、長編第一作として、記者時代に縁のあった黒潮町を舞台に本作を製作。岡山県出身だが、現在、高知県観光特使も務める。
決して明るくはない物語なのに、しっかり黒潮町に行きたくなった。
ちなみに主人公の明神という名字、エンドロールの協力者の中にも散見されたので、監督に伺ってみたら、代々漁業を営む家に多い名字なのだそうだ。(咲)
2013年/日本/カラー/デジタル/16:9/ステレオ/96分
配給:シネフォリア
後援:高知県幡多郡黒潮町、高知県漁業組合、高知新聞社、RKC高知放送
推薦:高知県
公式 HP >> http://tsuki-movie.com/
監督:ギデンズ・コー(九把刀)
出演:クー・チェンドン(柯震東)、ミシェル・チェン(陳妍希)
1994年、台湾中西部の彰化。コートンことコー・チントン(柯景騰)は、ごく平均的な高校生。仲間5人でつるんで、馬鹿ばかりやっている。ある日、教室の一番後ろの席で、勃起こと許博淳と、どっちが先に果てるか競争しているのを女教師に見つかってしまう。コートンは、クラス一の優等生の女の子シェン・チアイー(沈佳宜)の前の席に移動するよう命じられる。チアイーは何かあると後ろから青いボールペンでコートンを突っついて注意する。(映画冒頭、大写しされる白いシャツに注目!)
普通よりちょっと可愛い優等生のチアイーは、実は仲間5人皆の憧れの女の子。5人それぞれの個性でアプローチしている。コートンは素直に気持ちを表わせず、監視されているのを疎ましいと装っている。
ある日、チアイーが教科書を忘れ、教師から叱責を受けそうになったのを察知したコートンは、とっさに身替りになる。少し距離の縮まった二人。チアイーはコートンに補習を申し出て、コートンも猛勉強し始める。次のテストで自分の方がいい点数なら、チアイーは1ヶ月間ポニーテールに、自分が負ければ丸坊主になると賭けをする。果たして、結果はチアイーを超えることはできず丸坊主になるコートン。そんな彼の前に、ポニーテールのチアイーが現われる。めちゃ可愛い!
時は流れ、別々の大学に進学した二人。毎日、大学の寮の公衆電話からチアイーに電話するコートン。クリスマスの日に久しぶりに会い、コートンは思い切って気持ちを伝える。デートの最後に天燈(ランタン)に願いごとを書いて空に上げる。手を離す前に「自分の気持ちを書いたの。なんて書いたか知りたい?」と問うチアイー。振られたと思ったコートンは「やめておく」と書いた文字を見ないで手を離してしまう。(映画の最後にチアイーの書いた文字が明かされる。あ~切ない!) 二人が別れたことは、かつての悪がき仲間に伝わり、我先にとチアイーのもとに駆け付ける・・・
映画は思わせぶりに結婚式の日に始まる。チアイーを射止めたのは誰?
一昨年の東京国際映画祭で観て、高校時代に憧れの君を追いかけたことを思い出し、胸がキュン! 誰がなんと言おうと、「今年のベスト」と観終わった時に決めた作品。昨年、アジアフォーカス福岡国際映画祭でも上映されて、またまた観に駆けつけた。楽しくて、可笑しくて、そして切なくて、きっと誰しもが自分の青春時代を懐かしく思い出せる素敵な作品。一般公開が決まって、ほんとに嬉しい。
彼らが高校時代を過ごした1990年代半ばに人気のあった張學友、阿妹(張恵妹)、張雨生などの名前が出てくるのも懐かしい。携帯もネットもない時代、それでもちゃんとデートしてたなぁと思い出すのも楽しい。
本作は監督の自伝的小説を自ら映画化したもの。監督の本名は本作の主人公と同じ柯景騰(コー・チントン)。演じた柯震東(クー・チェンドン)は監督にくらべたら格好良すぎ!? とぼけた雰囲気なので、まぁ許そう。そして、チアイーを演じたミシェル・チェンがきらきら輝いて、ほんとにキュート。実は撮影当時28歳だったと聞いてびっくり。無理なく高校生に見えたからすごい。10年後の花嫁姿のチアイーの方が実年齢に近いけど、これまた素敵! 昨年、東京国際映画祭で彼女の出演作『パンのココロ』を楽しみに観てみたら、精彩がなくてがっかり。もっと彼女を活かした演出をしなくっちゃ。今後の作品に期待!(咲)
一昨年の東京国際映画祭で見逃し、(咲)さんからは学生時代を思い出す胸キュンの作品と言われていたのだけど、なかなか観るチャンスがなかった。
そして、この作品を観ないまま、去年、香港電影金像奨授賞式の取材に行った。金像奨取材の最大の目的は『桃(タオ)さんのしあわせ/桃姐』だったのだけど、この作品も見事、中国・台湾映画賞を受賞した。レッドカーペットでは『あの頃、君を追いかけた/那些年,我們一起追的女孩』組は、監督、プロデューサー、出演者の総勢8人が登場。
スタッフ、出演者がたくさん参加したのは、姜文(チアン・ウェン)監督の『さらば復讐の狼たちよ/讓子彈飛』、 徐克(ツイ・ハーク)監督の『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝/ 龍門飛甲』組。『あの頃、君を追いかけた』は、それにつぐ参加者の多さだった。監督の力の入れようもわかる。去年、台湾についで、香港でも大ヒットした作品だった。受賞式の部隊には全員が登場した。みんな嬉しそうに受賞の言葉を述べていた。
そして、舞台上では九把刀(ギデンズ)監督が、主人公を演じた柯震東(コー・チェントン)にキスをするというハプニングも!会場では観客に大うけ、大笑い。でも、作品を観ていない私には、その時には意味がわからず、なんでかな?と、思っていた。
「映画を観ればわかる」と言われたけど、実際の映画を観たのは1年半たってから。
この映画は、高校生の報われない恋を描いた青春物語だったけど、高校生の思いや行動というのは台湾も日本も同じだなと思った。高校生たちの、気持を伝えることが出来ない、せつなる思い。人はこんな経験をたくさん積んで大人になる。(暁)
また、この香港電影金像奨授賞式での発言詳細は、特別記事に掲載していますので、ぜひお読みください。
http://www.cinemajournal.net/special/2012/hkfa/index.html
2011年/台湾/110分/カラー/シネマスコープ
配給:ザジフィルムズ /マクザム /Mirovision
公式 HP >> http://u-picc.com/anokoro/
23回目を迎えたアジアフォーカス。長らく天神を中心に開催されていましたが、この2年は、新装なった博多駅直結のT・ジョイ博多をメイン会場としていました。今回は、初めてキャナルシティ博多 で開催されます。ビルの谷間に人工の運河が作られたキャナルシティは、都会のオアシスのよう。近くには博多の氏神さま櫛田神社もあります。
アジアフォーカスでしか観られない作品も多数。監督や俳優などゲストのQ&Aやサイン会など交流の場も貴重です。協賛企画もバラエティに富むアジアマンスの福岡。ぜひ、遠くからもお出かけください。
9 月13 日( 金)
★オープニング上映: 香港ナイト『狂舞派』17:00~
◆公式招待作品
沈黙の夜 Night of Silence 2012年 トルコ 監督:レイス・チェリッキ
サイの季節 Rhino Season 2012年 イラク/トルコ 監督:バフマン・ゴバディ
パルウィズ Parviz 2012年 イラン 監督:マジド・バルゼガル
悲しみを聴く石 The Patience Stone 2012年 フランス/アフガニスタン 監督:アティグ・ラヒミ
ゲーマー Gaamer 2011年 ウクライナ 監督:オレグ・センツォフ
血の抗争 Part1, Part2 Gangs of Wasseypur 2012年 インド 監督:アヌラーグ・カシャプ
聖者の谷 Valley of Saints 2012年 インド/アメリカ 監督:ムーサー・サイード
シャンハイ Shanghai 2012年 インド 監督:ディバーカル・バナルジー
死者の村からこんにちは Pee Mak 2013年 タイ 監督:バンジョン・ピサンタナクーン
シンガポール・グラフィティ That Girl in Pinafore 2013年 シンガポール 監督:ツァイ・ユィウェイ
スター誕生 Already Famous 2011年 シンガポール 監督:ミシェル・チョン
聖なる踊子 The Dancer 2010年 インドネシア/フランス 監督:イファ・イスファンシャ
タクシードライバー日誌 Something in the Way 2013年 インドネシア 監督:テディ・スルヤットマジャ
ティモール島アタンブア39℃ Atambua 39°Celsius 2012年 インドネシア 監督:リリ・リザ
果てしなき鎖 Shackled 2012年 フィリピン 監督:ローレンス・ファハルド
夢にかける女 A Fallible Girl 2012年 イギリス/中国 監督:コンラッド・クラーク
狂舞派 The Way We Dance 2013年 香港 監督:アダム・ウォン
すこし恋して、ちょっと愛して Together 2012年 台湾 監督:シュイ・チャオレン
ウィル・ユー・スティル・ラブ・ミー・トゥモロー? Will You Still Love Me Tomorrow? 2012年 台湾 監督:アーヴィン・チェン
結界の男 Man on the Edge 2012年 韓国 監督:チョ・ジンキュ
未熟な犯罪者 Juvenile Offender 2012年 韓国 監督:カン・イグァン
No.10ブルース さらばサイゴン Number 10 Blues Good Bye, Saigon 2012年 日本/ベトナム 監督:長田紀生
主 催 アジアフォーカス・福岡国際映画祭実行委員会、福岡市
公式 HP >> http://www.focus-on-asia.com/
監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:スコット・Z・バーンズ
美術:ハワード・カミングス
衣装:スーザン・ライアル
出演: ジュード・ロウ(ジョナサン・バンクス)、ルーニー・マーラ(エミリー・テイラー)、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ(ヴィクトリア・シーバート)、チャニング・テイタム(マーティン・テイラー)
ウォール街の金融マン、マーティン(チャニング・テイタム)と結婚したエミリー・テイラー(ルーニー・マーラ)の未来は幸せに満ちたものになるはずだった。だが結婚式の直後にマーティンはインサイダー取引で逮捕される。
財産のすべてを没収されたエミリーは4年間の孤独に耐えて、刑期を終えたマーティンと質素なアパートで生活を再スタートさせた。
その直後、エミリーは地下駐車場で激突事故を起こし病院に運び込まれる。怪我は軽傷だったが、偶然担当した精神科医ジョナサン・バンクス(ジュード・ロウ)は、彼女の様子や激突する事故などから自殺を図ったのではないかと感じて、患者エミリーの病歴にある鬱病が再発したのでは?と思い抗鬱薬を出して、カウンセリングを受けることを条件に退院させた。
騙された!完璧騙された作品。女は恐い!そのひと言に尽きる。ウツとか精神の病は自己申告のみだ。だから詐病するのは簡単かもしれないが、この作品では相当思い切ったことをする・・・ネタバレになっちゃうからここまで。
主役だと楽しみに観ていたマーティン(チャニング・テイタム)が早々といなくなってしまう残念さはあるが、是非ご覧いただきたいサスペンス映画!
(美)
2013年/アメリカ/カラー/106分
公式 HP >> http://www.side-effects.jp/
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
1989年、カナダ、モントリオール。小説家で国語教師のロランスは、35歳を迎えた日、恋人のフレッドに「僕は女になりたい。この身体は間違って生まれてきてしまった」と打ち明ける。フレッドはこれまで彼とはぐくんできた関係が否定された思いにかられ激しく非難する。でも彼とは別れたくない。フレッドは彼の思いを尊重して一緒に生きていくことを決意する。女として装う手助けもする。だが、人々の好奇な目や偏見で、やがてロランスは教師の職を失ってしまう。鬱状態に陥ったロランスは、同じトランスセクシャルの人たちと集うようになる。フレッドはロランスの元を去り、結婚し子供ももうける。
10年の時が経ち、ロランスはシャーロットという女性と暮らしているが、いまだにフレッドを忘れられないでいた。詩集を出版したロランスはフレッドに本を贈る・・・
冒頭、アラブ系、東洋系、西洋系・・・と、様々な民族の人の顔がアップで映し出される。移民も多く暮らすモントリオール。そんな中でも、女を装う男は異端視される。ロランスは偏見の目にさらされ、殴られたりもする。それでも自分らしく生きたい!という思いが切ない。
『美輪明宏ドキュメンタリー~黒蜥蜴を探して~』(8月31日(土)より東京都写真美術館ホール、渋谷アップリンクにて公開中)で、美輪明宏さんが若い頃から堂々と自分らしく生きてきた姿を拝見した。
性同一性障害が、決して異常なことでないと流布してきた昨今でも、まだまだ好奇な目があるのは否めない。私の友人が娘さんから「実は自分は気持ちは男」と打ち明けられ、今は男性として暮らしているけれど、「息子」となってしまった我が子に戸惑っている。本人にとっては、自分の気持ちに正直に生きることができて、どんなに幸せなことか。
思い出すのは、レスリー・チャンの「我」という曲。I am what I am(私は私)、逃げ隠れする必要なんてない 自分で望んだように生きよう・・・
『君さえいれば/金枝玉葉』の中でのレスリー演じるサムの名台詞「君が男でも女でもかまわない。君を 愛している」という言葉も思い出す。
ロランスは自身が女の気持ちといいながら、フレッドという女性のことを深く愛している。それはもう男女の関係を越えた人間としての思い。この作品、実に普遍的な愛の物語だと感じる。これほどまで愛することができる相手がいないのが寂しくなった。(咲)
2012年カンヌ国際映画祭特別招待出品
2012年/カナダ=フランス/168分/カラー/1.33:1
配給:アップリンク
公式 HP >> http://www.uplink.co.jp/laurence/
監督・脚本:フアン・ソラナス
撮影:ピエール・ギル
美術:アレックス・マクダウェル
音楽:ブノワ・シャレスト
出演:キルステン・ダンスト(エデン・ムーア)、ジム・スタージェス(アダム・カーク)、ティモシー・スポール(ボブ・ボルショヴィッツ)
真反対に引力が作用する双子の惑星。山頂が触れ合うほど接近した世界の上には富裕層、下には貧困層が暮らしていた。二つの世界の交流は法律でかたく禁じられている。あらゆる物質はそれが産まれた星の重力にひきつけられ、反対側の星の「逆物質」に長時間接触すると燃え出すという法則があった。
下の星の住人アダムは両親を亡くした少年、立ち入りを禁止されている山に登り、上の世界の少女エデンと出会った。成長した二人は恋に落ちるが、警備隊に見つかって急いで戻ろうとしたエデンは落下、アダムは法律を破った罪で叔母の家を焼かれてしまう。
10年後、アダムはエデンが生きていて巨大企業の「トランスワールド」社で働いていることを偶然に知った。幸い、二つの世界をつなぐ建物の中にある。アダムはエデンに会うために同じ会社で働こうと画策する。
ロミオとジュリエットばりのロマンチックなストーリーが、摩訶不思議なSFの世界で進んで行きます。さかさまの世界に入るために、アダムは苦心惨憺。なにしろ長い間あちらの世界にいると燃え出してしまうのですから。いろいろな工夫が涙ぐましくもおかしいです。
重力が真逆に働くという条件下で、ほかの人間に疑われずにいるには、どうしたらいいか?彼らの恋を成就させるには?とスタッフは頭を悩ましたに違いありません。上下の世界のビジュアルも、境界の重力やお天気など、どれだけのアイディアが出たかと想像するのも楽しいです。見上げた空の向こうに街が見えるってどんな感じでしょう?(白)
2012年/カナダ、フランス/カラー/109分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:角川書店
© 011 / UPSIDE DOWN FILMS- LES FILMS UPSIDEDOWN INC -ONXY FILMS - TRANSFILM INTL -STUDIO37 - KINOLOGIC - FILMS -(UD)-JOUROR PRODUCTIONS -FRANCE 2 CINEMA
公式 HP >> http://upside-down.jp/
監督:クリスチャン・ヴァンサン
脚本:クリスチャン・ヴァンサン、エチエンヌ・コマール
撮影:ローラン・ダイヤン
音楽:ガブリエル・ヤーレ
出演:カトリーヌ・フロ(オルタンス・ラボリ)、ジャン・ドルメッソン(大統領)、イポリット・ジラルド(ダヴィッド・アズレ)、アルチュール・デュポン(ニコラ)
南極基地にやってきた取材チームは、シェフが女性なのを知って驚く。もうじき任期満了でみんなに惜しまれて去る彼女は、かつてフランス大統領のプライベート・シェフだったというのだ。
フランスの片田舎で小さなレストランを経営していたオルタンス・ラボリが、大統領に請われてプライベート・シェフとなった。大統領にオルタンスを推薦したのはミシュランのスターシェフ。その「お墨付き」あればこそ初の女性シェフだった。エリゼ宮のキッチンは男性ばかり。旧態依然とした規律と食事のスタイルに辟易していた大統領は、素材を生かしたシンプルで美味しい料理を望んでいた。プライベート・キッチンを任されたオルタンスに周囲の嫉妬や無理解の風が吹き付ける。オルタンスと助手のニコラは、素材を吟味し、大統領に喜ばれる料理を毎日作り続ける。
お料理が次々と登場しますので、空腹状態のまま観ないこと。思わずキュルルル~と鳴るかもしれません。カトリーヌ・フロ演じるオルタンスの頭の回転の速さと手際の良さ!ほんの少しでも見習いたいものです。経費がかかり過ぎると、注意を受ける場面がありました。オルタンスは、素材については絶対に譲りません。後に良いトリュフを求めてニュージーランドで仕事を始めたりするのですから、特にトリュフにはなみなみならぬこだわりがあったのでしょう。少し残念なのは私にはみな縁遠い料理のせいか、味の予想がつかないことです。『かもめ食堂』では、音もあいまってすごく美味しそうだったのはお馴染みのメニューだったせいもあるかも。
上映期間中さまざまなタイアップ企画があり、登場したお料理やデザートを食べることができます。公式HPをご参照ください。大統領がキッチンで美味しそうにほおばる「黒トリュフのタルティーヌ」、バゲットにトリュフバターをたっぷり塗り、スライスした黒トリュフを並べたものです。これをトリュフ専門店で再現しました!(一皿¥60000。小さいサイズを組み込んだコース料理は\15000)とても高価な食材なんですね。お財布に余裕のある方はぜひお試しを。
本作の主人公のモデル、ミッテラン大統領の料理人だったダニエル・デルプシュさんが、日本テレビ「世界一受けたい授業」に出演決定![9月7日(土)19:56~]に放送予定だそうです。(白)
映画の最初のシーンが「荒海」だったので、女料理人の先行きが多難だったことがわかった。
男の領域に「女」で「田舎の料理」とくれば、描かれない嫌な思い出がたっぷりあったはずだ。
でもその仕事も2年間という短期間で「逃げるが勝ち」とばかりに、彼女はもう一つの男の世界「南極基地」に料理人として赴くのだ。この判断が凄い!と思う。普通なら元の田舎レストランでのんびりするだろうに・・・。
もちろん料理の映画としても内容もいいし、見せ方もセンスがあったが、男の世界に入って仕事をする困難さを、一人の女性を通して描いている貴重な作品だと感じた。(美)
2012年/フランス/カラー/94分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
Les Saveurs du Palais(C)2012-Armoda Films- Vendome Production-Wild Bunch-France 2 Cinema
公式 HP >> http://daitouryo-chef.gaga.ne.jp/
監督:クォン・ホヨン
脚本:イ・ヨンジョン、ハン・ジュニ
撮影:クォン・ヒョクチュン
音楽:キム・ナミュン
出演:キム・ガンウ(ヤン・チュンドン)、キム・ボム(キム・ジュン)、パク・ヒョックォン(イ・ジュンヒョク)
ヤン・チュンドンは刑事になって3年目。熱血なのはいいが、麻浦署の問題児だ。管轄内でおきた幼女連続殺人事件を追ううち、一風変わった壁の落書きを見つける。幼女の遺体が発見された現場に行くと、落書きに書かれた風景と同じだった。チュンドンは落書きを描いたものが真犯人と思い込み、必死で探し出す。ようやく探し当てたキム・ジュンに触れたとたん、チュンドンが胸の底にしまっていた秘密を口にする。ジュンは物に残っている人の思念を読み取るサイコメトラーだった。
陰惨な事件の解決に大きく関わるのが、熱血刑事チュンドンと超能力少年ジュン。チュンドンを演じるキム・ガンウは2012年『蜜の味 ~テイスト オブ マネー~』『外事警察』、2010年『男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW』などで知られてきました。今までハードな役柄が多かったのですが、今回は少々三枚目テイストもあり。ジュンと初め対立しますが、次第に保護者のように変わっていきます。能力を使うたびに消耗するジュンが気の毒になってしまうのは、キム・ボムがイケメンなだけでなく、自分の力を呪っているジュンを繊細に体現しているから。警察の捜査の甘さには目をつぶり、メインの二人にご注目ください。
『デッド・ゾーン』(スティーヴン・キング原作、1983年映画化)では物や人に触れることで、過去・現在・未来の「断片」が見えるというものでした。こちらは過去だけで未来は読めません。それでもやはり重荷になりそうです。あなたならどうする??(白)
2012年/韓国/カラー/108分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:CJ Entertainment Japan
©2013 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved
公式 HP >> http://psychometry.jp/
監督:パトリス・ルコント
脚本:パトリス・ルコント
音楽:エディエンヌ・ペルション
編集:ロドルフ・プロカン
美術&グラフィック・デザイン:レジス・ヴィダル、フロリアン・トゥレ
声の出演:ベルナール・アラヌ(ミシマ)、イザベル・スパド(ルクレス)、ケイシー・モッテ・クライン(アラン)、イザベル・ジアニ(マリリン)、ロラン・ジャンドロン(ヴァンサン)
不景気風が流れ、人々が生きる希望を見出せず、街全体が灰色のような大都市。だが一軒の店だけは繁盛していた。
そこは、トゥヴァッシュ一家が経営する老舗「自殺用品専門店」。店内には首つりロープに腹切り刀セット、毒薬などが並んでいる。
こんな商売だから、一家は笑うということも忘れていたが、可愛くて無邪気な男の子が生まれたことから変化していく。
ミシェル・ブラン主演の『仕立て屋の恋』の監督さんだ。
映画をたくさん観るようになってすぐに『仕立て屋の恋』をDVDで見た。偶然にもその数日後、横浜のフランス映画祭にミシェル・ブランが来日した。そんな思い出深い監督さんのアニメでびっくりする。アニメから一番遠い監督さんのように勝手にイメージしていた。
この作品は題名や設定はブラックだがストーリーはさほどでもない。人生の苦しみや死を描きつつも、人生は素晴らしいと思わせてくれる映画で、どちらかというと「ほのぼの系」。
個性的なキャラクター、ピリ辛&ユーモアな台詞、部分的だがミュージカルにもなっているのが面白い。
※ミシマと腹きりと刀がまるでセット言葉のように出てくるので笑ってしまった。
(美)
2012年/フランス、ベルギー、カナダ/カラー/79分
配給:コムストック・グループ キノフィルムズ
公式 HP >> http://suicideshop.jp/
監督・原案・脚本:橋口亮輔
撮影:上野彰吾
出演:中嶋歩、篠原篤、森優太、比佐仁、八木橋努
六つの短編からなるオムニバス・コメディ。メンバー不足に悩む草野球チーム、スーパーのオープンに集められたコンパニオン、居酒屋での発泡酒談義、レジ店員に総口撃をくらうパートの主任、ゼンタイ愛好者のオフ会、行き違いから仲間にネットで罵られた主婦のエピソードが微妙に繋がってラストへ。
「ゼンタイ」とは全身タイツの略でした。ショッカーの皆さんとか、モジモジくんとか(あっ、たとえが古い!)を思い浮かべていたら、なんとカラフルで様様な形態があること。ネット販売もありました。アメコミのヒーローも「ゼンタイ」着用ですね。
若手俳優たちのワークショップ(実践型演技講座)で即興を元に作られたせいか、なんだかドキュメンタリーのようにリアルでした。それぞれのエピソードに登場した人たちが、自分を包み込んでしまうことで、いろんなしがらみから開放されて楽しんでいます。「ゼンタイフェチ」はまた少し違うようです。ちょっと痛くておかしい橋口ワールドをお楽しみください。(白)
2013年/日本/カラー/62分/
配給:テンカラット
©2013映画『ゼンタイ』を応援する会
公式 HP >> http://zentai-movie.com/
監督:パスカル=アレックス・ヴァンサン
撮影:アレクシ・カヴィルシン
出演:美輪明宏、横尾忠則、深作欣二、北野武、宮崎駿
戦後から現在にいたるまでの美輪明宏の足跡をたどるドキュメンタリー。美輪さんが自宅のソファでゆったりと思い出を語り、関係者の言葉が紡がれる。交流の広さ深さが垣間見られる貴重な証言、映像も多々。
パスカル=アレックス・ヴァンサン監督は、フランスで日本映画の配給会社に勤めていたときに『黒蜥蜴』を観て感銘を受け、美輪さんに撮影したいと申し込んだのだそうです。自宅に招かれて撮影したインタビューが10時間分。
美輪さんは元祖ビジュアル系(若いときの美しいことと言ったら!)、俳優、シンガーソングライター、マルチ人間・・・どの言葉も当てはまって、それだけでは収まりません。唯一無二の存在感のある不思議な方ですねぇ。東京都写真美術館ホールでは『黒蜥蜴』(1968年/深作欣二監督)も特別上映されます。(白)
2010年/フランス/カラー/63分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アップリンク
©KIREI
公式 HP >> http://uplink.co.jp/miwa/
監督:長井龍雪
演出:吉岡忍
原作:超平和バスターズ
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
撮影監督:森山博幸
音楽:REMEDIOS
声の出演:入野自由(宿海仁太/じんたん)、茅野愛衣(本間芽衣子/めんま)、戸松遥(安城鳴子/あなる)、櫻井孝宏(松雪集/ゆきあつ)、早見沙織(鶴見知利子/つるこ)、近藤孝行(久川鉄道/ぽっぽ)
じんたん、めんま、ゆきあつ、あなる、つるこ、ぽっぽは、いつも一緒の仲良し6人組だった。なんにも怖いものなんかなかった子供時代。あの夏の日までは・・・。めんまが事故で死んで、残った5人はそれぞれの後悔を抱えながら離ればなれになってしまった。5年たったある日、“じんたん”こと仁太の前に成長した姿でめんまが現れる!中味は子供のままで、戻った理由をなぜか覚えていなかった。しかも仁太しか見えないらしい。
テレビの深夜アニメ枠ノイタミナで放送されていたアニメーション(全11話)の劇場版。
子どもと「死」は一番遠くにあるもので(そうでなくちゃいけません)、友だちが死ぬなんて思ってもみません。この「超平和バスターズ」の5人は、マスコット的存在だった“めんま”こと芽衣子を突然失ってしまいました。ばらばらになった彼らは、芽衣子が戻った(ってことは幽霊なのですが、可愛すぎる)ことで、自分たちも避けていた“あの日”に立ち返り、ほんとの気持ちと向き合います。この展開がもう「ツボ」でしょう。アニメのキャラだからできる表現+出せるいろいろな感情が無理なくせまってきます。来場者特典(限定数)の「泣いてもいいんだよボックスティッシュ」を存分にお使いください。(白)
2012年/日本/カラー/99分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アニプレックス
©ANOHANA PROJECT
公式 HP >> http://www.anohana.jp/
監督・脚本:中尾浩之
撮影:小川ミキ
美術:吉田透
音楽:戸田信子
出演:要潤(沢嶋雄一)、夏帆(細野ヒカリ)、杏(古橘ミナミ)、時任三郎(矢島権之助)、上島竜兵(島井宗叱)、小島聖(志乃)、カンニング竹山(谷崎勉)、山中崇(吉家章人)、宇津井健(一ノ瀬忠文)、[特別出演]嶋田久作(伴山三郎兵衛)
タイムスクープ社は、タイムワープの技術を駆使してあらゆる時代へジャーナリストを派遣、その時代の人々の暮らしを映像に記録し、保管するアーカイブ計画を進めている。本能寺の変後混乱が続く京都へ、時空ジャーナリストの沢嶋雄一と新人の細野ヒカリが飛んだ。二人は取材中に身をやつした侍に出会い、彼が護衛をするという豪商の島井宗叱と同行することになった。幻の茶器“楢柴”をひそかに博多まで持ち帰る旅の途中、明らかに未来の武器を持つ山賊に遭遇する。
2009年にNHK総合テレビで放映され、2013年4月の第5シーズンまで続いているシリーズの映画版。今回は安土城の消失の謎にせまります。
時代考証にこだわったリアリティと、時空ジャーナリストと密着し、一緒に走り回っているような臨場感が楽しめます。歴史にゆがみを生じさせないためのフリーズガン、タイムワープ装置、ジャーナリスト必携のカメラなど小物も面白いです。ただ気になったのが、明らかにその時代にないものを無造作に脱ぎ捨てたりする場面。テレビシリーズは未見ですが、後で自動的に消えるんでしょうか?タイムスリップやワープもの好きとして「そ、それは回収しなければ!」と突っ込みを入れていました。(白)
2013年/日本/カラー/102分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
©2013 TSH Film Partners
公式 HP >> http://timescoop.jp/
監督・脚本:サリー・ポッター
撮影:ロビー・ライアン
出演:エル・ファニング(ジンジャー)、アリス・イングラート(ローザ)、アレッサンドロ・ニヴォラ(ローランド)、クリスティナ・ヘンドリックス(ナタリー)、ティモシー・スポール(アーク)、アネット・ベニング(ベラ)
冷戦時代に突入した1960年代のロンドン。母親たちが隣り合うベッドで同じ日に出産。一緒に生まれたジンジャーとローザは、ずっと親友として育ってきた。授業を抜け出して遊びに行ったり、お洒落をしたり、反核運動に参加したり、青春を謳歌していた。髪型も着る物も同じ、何をするのも一緒だったが、自由奔放なローザとまじめなジンジャーは少しずつ違っていく。父親のいないローザは、ジンジャーの父親のローランドに憧れ、恋するようになる。
思春期の痛みが伝わってくる作品。核の恐怖が身近に思える時代であったのに加え、家庭の不和、親友との軋轢。子供から大人に変わる通過儀礼にしては痛すぎて、この父親に後ろから蹴りを入れたくなってしまいました。思想家で自由人だとて、やってはいけないことがあります。屈託ない笑顔だったジンジャーが、悩み、苦しみ、ぽろぽろと泣くのを観て揺さぶられない人はいないでしょう。エル・ファニング好演です!ローザを演じるアリスは、ジェーン・カンピオン監督の娘だそうです。初の映画出演とは驚きです。
作品の中でジンジャーがおびえている核戦争は、1962年10月のキューバ危機のことです。革命後アメリカに敵視されていたキューバのカストロ首相は、アメリカと冷戦下にあったソ連との接触を図りました。ケネディ大統領はキューバ侵攻作戦を準備し、ソ連のフルシチョフ首相はキューバの要請に応じて核ミサイルを配備しようとしていました。小国キューバの頭越しに大国が一触即発の攻防となり、核時計は零時1分前。全面核戦争突入か!!と世界中が騒然としたはずです。小学生だった筆者、翌年のケネディ暗殺ニュースは覚えているのに、キューバ危機のほうは全く記憶にありません。う~む…(白)
2012年/イギリス、デンマーク、カナダ、クロアチア/カラー/90分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:プレイタイム
© BRITISH FILM INSTITUTE AND APB FILMS LTD 2012
公式 HP >> http://gingernoasa.net/
監督:金子修介
脚本:高橋美幸
原作:雛倉りさえ「ジェリー・フィッシュ」新潮社刊
撮影:鏡早智
美術:福田宣
出演:大谷澪(宮下夕紀)、花井瑠美(篠原叶子)、川田広樹、川村亮介、奥菜恵、秋本奈緒美、竹中直人
女子高生の宮下夕紀はクラスに馴染めず孤立していた。校外学習でやってきた水族館で一人クラゲを眺めていると、クラスメイトの篠原叶子がそばにきて手をつなぐ。いきなりキスされて驚く夕紀に叶子は微笑んで去っていく。それ以来叶子に強くひかれた夕紀は毎日のように会っていた。男子高生の告白を受け入れて付き合い始めたと、あっけらかんと報告する叶子に心をかき乱される。
“女による女のためのR-18文学賞”応募作の映画化シリーズの第2弾。最終選考に残り、受賞は逃したものの映像関係者の目にとまりました。16歳で書き上げたという本作は、女子高生のピュアで棘も併せ持つ恋愛がみずみずしく描かれています。「少女時代」ファンで、女の子を見る目が確か(インタビューで伺いました)な金子修介監督が撮り上げたラブシーンは危うくて綺麗です。大谷澪はミスマガジン出身、すでにいくつかの作品に出演しています。花井瑠美は元新体操選手、怪我で断念した後モデルに転進。演技はこれが初だそうです。試写室での挨拶にいらしてました。ほんとうに細くて可愛くて、こんな子が仕事とはいえ人前で肌をさらすのか…とちょっと痛ましくなりましたが、彼女たちは仕事で必要ならと勇気を持って割り切っているようで、まさに老婆心でした。水に漂う透明な「ジェリー・フィッシュ(クラゲ)」に似た彼女たちの一番美しい時間を切り取った作品です。(白)
2013年/日本/カラー/92分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
©2013「ジェリー・フィッシュ」製作委員会
公式 HP >> http://r18-jellyfish.com/
監督:熊切和嘉(『海炭市叙景』)
脚本:宇治田隆史
原作:「夏の終り」瀬戸内寂聴(新潮文庫刊)
音楽:ジム・オルーク
出演:満島ひかり 綾野剛、小林薫、赤沼夢羅、安部聡子、小市慢太郎
昭和30年代。年の瀬も迫ったある日、染色家の相澤知子(満島ひかり)が帰宅すると、週の半分を一緒に暮らしている年上の売れない作家・小杉慎吾(小林薫)から、「木下くん(綾野剛)が訪ねてきたよ」と告げられる。木下涼太は、12年前に知子が夫と子どもを置いて駆け落ちした相手だった。木下とは別れ、その後知り合った小杉との半同棲生活が8年ほど続いている。
大晦日になり、小杉は「6日には来るよ」と風邪で寝込んでいる知子に告げて、妻子の住む海辺の町に帰っていく。年が明け、木下から電話がかかってくる。病み上がりで気弱になっていた知子は会いに来てほしいと言ってしまう。それ以来、小杉が妻の元に帰っている時には木下と過ごす日々が始まった。次第に木下は知子への思いを募らせ、「いつまでも小杉さんに知られずに、この関係が続けられると思うのか」「小杉さんは、愛があるならなぜ妻と別れない?」と詰め寄るようになる。そんなある日、知子は、小杉の机を整理していて、妻からの愛に満ちた手紙を見つける・・・
小田原駅前での待ち合わせの場面で、小田原特産の薬「ういろう」と並んで『カルメン故郷に帰る』(1951年)の看板。まわりの看板の中には、右から左に横書きしたものもあって、当時はまだ戦前の看板が残っていたのを教えてくれる。
そこかしこに昭和30年代の香りがするのに、ヒロイン知子は染色家として自立していて、当時としては実に飛んだ女性だ。男にすがることなく、かといって、二人とほどよく愛を交わして生きている。小杉の妻の手紙を読んでからの知子の行動にちょっと驚かされる。
瀬戸内寂聴さんの原作は読んでいないが、自分の気持ちに素直に生きる瀬戸内寂聴さんらしい女性像を描いていてすがすがしい。
満島ひかりさんは、役作りのため染色の技術を一生懸命学んだという。秘めた強さを感じさせてくれて好印象。そして、小林薫が演じる、ちょっと情けない作家は絶品! (咲)
2012年/日本/114分/アメリカン・ビスタ/DCP5.1ch
配給:クロックワークス
公式 HP >> http://natsu-owari.com/
監督:小林政広
出演:仲代達矢、北村一輝、大森暁美、寺島しのぶ
東京・葛飾、木造平屋の古い家。妻に先立たれた不二男は、息子と二人暮らし。肺癌で、手術をしなければ余命3ヶ月と宣告された不二男は手術を拒み、無理矢理退院してくる。自室のドアや窓にクギを打って閉じこもり、自分はミイラになると宣言する。リストラで失業し妻と子に去られた息子は父の年金を頼りに生活していた。息子が毎日扉越しにやめるように告げるが、不二男の決心はかたい。妻の遺影の前に正座する不二男の脳裏に、これまでの人生のさまざまな場面が蘇ってくる・・・
父親の年金が生活のよりどころだった長女が父親の死後もその死を隠し続け、年金や給付金を不正に受け取っていたという事件(2010年7月)に衝撃を受けた小林政広監督が、“遺書を書くような気持ち”で脚本を書き上げた渾身の作品。
私自身、10数年前、会社の希望で退職(つまりリストラ!)、まさに父親の年金のお陰で悠々と暮らしているので、実に切実な内容! どんな映画なのか、ドキドキしながら8月7日のマスコミ最終試写に伺いました。
上映前に、小林政広監督が挨拶に立ちました。「重い気持ちでそのまま帰っていただきたいのですが、今日はサプライズがあります」とおっしゃっていたのですが、上映後に監督と共に仲代達矢さんが登壇! 信念を持って自分の最期を決めた不二男を体現した仲代達矢さんに、拍手が鳴りやみませんでした。
仲代達矢さんは、現在80歳。「これまでに100本以上の映画に出演し、500本以上のシナリオを読んできたけれど、こんなホンに出会ったのは初めてで、即、出演を決めました」と語りました。
不況、貧困、孤独死、震災後の立ち直れない現状など、今、日本が抱える問題をずっしりと感じさせてくれる作品。仲代達矢さんの言葉を借りれば、「どうやって生きたらいいかを投げかける映画」です。
一方で、余命宣告されたとき、自分はどうするだろうということも考えさせられました。つい先日、癌と闘っていた同い年の友人男性が亡くなりました。癌が再発したとき、死んでたまるかと悔しそうに叫んでいたのを思い出します。最後の最後まで生きたいと思っていたに違いないと涙です。(咲)
2012年/日本/カラー・モノクロ/DCP/5.1ch/101分
製作: モンキータウンプロダクション
配給:太秦
監督:カトリーヌ・コルシニ
脚本:カトリーヌ・コルシニ、ブノワ・グラファン
撮影:クレール・マトン
音楽:グレゴワール・エツェル
衣装:アンヌ・ショット
美術:マチュー・ムニュ
出演:ラファエル・ペルソナーズ(アラン)、クロチルド・エム(ジュリエット)、アルタ・ドブロシ(ヴェラ)、レダ・カテブ(フランク)、アルバン・オマール(マルタン)、アデル・ハネル(マリオン)
アランは自動車ディーラーの社長令嬢との結婚を10日後に控えていた。
人生の成功を手に入れる直前だったが、友人たちと飲んだ帰り道、深夜の街角で男を轢いてしまう。友人たちに唆されたり促されりして、男を置き去りにして逃げたアラン。
だが、一部始終を向かいのアパートに住むジュリエットは目撃。
翌日、被害者の容態が気になり病院を訪れたジュリエットは、そこで男の妻ヴェラに会う。
ヴェラと夫はフランスに不法滞在のモルドヴァ人だった。
その時、ジュリエットは病院の廊下で若い男の後ろ姿を見かけた。その男は、罪の意識にさいなまれて様子を確かめに来たアランだった。
「アラン・ドロンの再来」といわれているラファエル・ペルソナーズ。
「えっ、そんなに?・・・」と比べられるこの男優さんが可哀相。
ラファエル・ペルソナーズ主演の『恋のベビーカー大作戦』も観てるから保証するが、アラン・ドロンとは違う魅力のある方。
だが、最後の髭面のお顔はアラン・ドロン様を彷彿させてくれた。
さてと、作品は◎。悪に徹しきれない男の破滅人生まっしぐら。それをテンポよくまとめ切っている。私好みのサスペンス作品だ。
原題が「Trois mondes」で意味を調べると「3つの世界」だ。
交通事故の加害者アランはお金持ち社会の人、被害者は不法移民の貧しい人、目撃者の女性は普通のレベルの人。
目撃者の女性は経済的には普通の人だが、意外な行動に一番興味を覚えた。加害者アランが醜い男だったり、年寄りだったらどうなっていたか・・・。
(美)
人は一瞬にして、加害者にも被害者にもなりうることを突きつけられた一作。そして、目撃者にも。自分がその立場になった時、どう行動するだろうか?
アル(アラン)は、ごく普通の善良な人物だから、交通事故を起こしてしまった時、うろたえながらもちゃんと対処しようと思ったはずだ。それが、友人たちに促されて、結果的に轢逃げ犯になってしまう。そのことが彼の心にずっしりと重荷になっていることを、ラファエル・ペルソナーズは表情一つで実にうまく演じている。その呪縛から解き放たれた時の顔がまたいい。
被害者であるモルドヴァからの不法移民、恋人とうまくいってなかった目撃者であるジュリエット、そして、結婚を目前に控えながら加害者になってしまったアル。それまで接点のなかった3者の人生が交差する。思えば、人生はその繰り返し。一瞬先は闇。これからどんな人生が待ち受けているだろう・・・ (咲)
2012年/フランス=モルドヴァ/スコープ/101分
配給:セテラ・インターナショナル
公式 HP >> http://www.cetera.co.jp/kurosuits/
監督:ユン・ジョンビン
脚本:ユン・ジョンビン
撮影:ゴ・ナクソン
音楽:チョ・ヨンソク
出演:チェ・ミンシク(チェ・イクヒョン)、ハ・ジョンウ(チェ・ヒョンベ)、チョ・ジヌン(キム・パンホ)、マ・ドンソク(イクヒョンの義弟キム)、クァク・ドウォン(ボクソム検事)
1982年のプサン。賄賂で自分だけが運悪く首になった元・税関職員チェ・イクヒョン(チェ・ミンシク)は、裏社会の若きボス・チェ・ヒョンベ(ハ・ジョンウ)が縁戚であることに気づき、そこコネを使って裏社会でのし上がろうとした。
二人の結束でうまくいったが、1990年のノ・テウ大統領の犯罪組織一掃宣言によって二人の仲に亀裂が入る。
韓国映画を二本続けてみた。アン・ソンギ主演の『折れた矢』と、このチェ・ミンシク主演の『悪いやつら』だ。前作は法曹界の闇を描いていて、この作品は警察内部とやくざ世界の闇を撮っている。
チェ・ミンシク、ハ・ジョンウ共々文句なしの役者だ。特にチェ・ミンシクの声、ハ・ジョンウの目の表情が良かった。
それと縁戚関係、先輩後輩などの上下関係がやたら出てきて、「えっ、こんな遠縁でもキキメがあるのか!」と驚いてしまう。
対人関係が(親戚、先輩)サラサラしている日本と比べるといいのか悪いのか…。
迫力があり、とても面白い韓国映画だった。
(美)
2012年/韓国/カラー/133分
配給:ファインフィルムズ
公式 HP >> http://waruiyatsura.com/
監督・脚本:トリーシャ・ジフ
スペイン内戦時にロバート・キャパ、ゲルダ・タロー、デヴィッド・シーモア“シム”の3のユダヤ人カメラマンが撮影した4500枚もの写真のネガが、メキシコで見つかった。内戦から70年もの時を経た2007年のことである。
撮影日時と場所を記録したネガからは、歴史が鮮明に蘇る。キャパたちが前線で危険と隣りあわせで撮った写真の数々。兵士だけでなく民間人もが内戦に翻弄されたことが克明に浮かび上がってくる。
それにしても、これら<メキシカン・スーツケース>と呼ばれる写真は、なぜメキシコに渡ったのか? メキシコ在住のトリーシャ・ジフ監督は、写真を保管していた人物の信用を得て、ロバート・キャパの弟であるコーネル・キャパが創設した国際写真センター(ICP・在ニューヨーク)に橋渡しする。そして、写真の辿った運命を映画化することを許される。
フランコ将軍の台頭で、祖国を捨てるしかなかった共和派の人々。ヨーロッパ各国が受け入れを拒む中、当時のメキシコ大統領が亡命希望者に手を差し伸べる。実に20万人ものスペイン人がメキシコに渡った。
実は、ジフ監督にとっても、スペイン内戦は人事ではない。彼女の息子の父親はスペインからの亡命者なのだ。亡命者の子孫は、メキシコで生まれた理由を知るべきだと監督は語る。
当時、スペインの人ならどの家族も内戦に巻き込まれた。右派も左派も心穏やかでなく、当事者たちは口をつぐむ。孫の世代が祖父の埋葬されているらしい墓地を掘り起こす姿が映し出される。まだ内戦の傷は癒えていないのだ。亡命者と同じ運命を辿ったネガは、当時を知る生存者も少なくなった今、歴史の真実を語りかけてくれる。
ロバート・キャパ、ゲルダ・タロー、デヴィッド・シーモアの3人は、ハンガリー、ドイツ、ポーランドとそれぞれ出身地は違うが、パリで出会い、国を追われたユダヤ人という共通点で行動共にしたのが興味深い。ロバート・キャパとゲルダ・タローが恋人どうしだったのは有名だが、彼らの友人であるデヴィッド・シーモア“シム”のことは本作で初めて知った。シムは共和派の人たちがメキシコに向かう船に同乗して写真を撮っている。船の中での様子や、メキシコで岸壁にあふれんばかりの人が船を出迎えた様子も船の上からおさめている。歴史的瞬間がこうした写真家たちの自らの命も惜しまぬ行動のお陰で後世に残されていることをずっしりと感じさせてくれる一作である。(咲)
ロバート・キャパ、ゲルダ・タロー、デヴィッド・シーモアなどの写真は、繰り返し展示されたり、写真集で見てきた。でも、あらたなスペイン戦争の写真が出てきたとは驚きだった。しかも、スペインとメキシコとの意外な関係、スペインからメキシコに20万人にも及ぶ人たちが亡命していたことを知り、びっくりした。そして、知られてこなかった歴史を教えてくれた。ほんとに映画は知識の学校だと思う。映画で知ったことはたくさんある。(暁)
スペイン・メキシコ合作/2011年/86分/16:9/Color・B&W
配給:フルモテルモ×コピアポア・フィルム
公式 HP >> http://www.m-s-capa.com/
監督:林雅行(『友の碑~白梅学徒の沖縄戦~』『風を聴く~台湾・九分物語』)
語り:三宅真衣
テーマ音楽:「Leela~かみさまの庭~」作曲・演奏:彩愛玲(ハーピスト)/楽曲提供:クリストファー・ハーディ(パーカッショニスト)
台湾、金門島。中国・厦門(アモイ)からわずか10㎞の位置にある150km2の小さな島。
第2次世界大戦後、金門島は中国共産軍と国民党軍の戦いの最前線となる。国民党軍は10万の兵を金門島に配備する。1958年8月23日、共産軍は対岸から600門の大砲で金門全域を砲撃。共産軍は数週間に渡って50万発の砲弾を撃ち込んだ。「823砲戦」と呼ばれる戦いだ。国民党軍も応戦。1978年まで双方の軍は宣伝弾を撃ち合っていた。
この砲弾を材料にして作った包丁が、金門島の名産になっている。発案した父を継いだ呉増棟さん。砲弾を切り取り、20分ほどで包丁に仕立ててしまう。大陸から船で1時間の金門島には、現在、大勢の中国人観光客が訪れて、お土産にこぞって包丁を買って帰る。大陸からやってきた人たちに、呉さんは言う。「包丁の材料は毛沢東からの贈り物ですよ」と。
冒頭、美しい閩南(びんなん)建築の家並みや、華僑の人たちの建てた瀟洒な館に目を引かれる。次に、みごとな包丁さばきで出来上がる美味しそうな料理の数々。最初の数分で、ぜひ金門島に行ってみたいとそそられてしまった。それが、映画の内容は、呉さんという包丁職人の人生を軸に、台湾・中国・日本の歴史的関係をわかりやすく語ったもの。位置的に金門島が辿ることになった苦難の歴史が浮き彫りにされる。1992年まで軍事管制が敷かれ、島から逃げ出した島民も多い中、砲弾から包丁を作ってしまった呉さんのお父さん。生き抜くアイディアに脱帽! 戦時体制下の少年時代をひょうひょうと語る呉さんも素敵だ。
公開を前に、林監督にお話を伺う機会をいただいた。「包丁の材料が毛沢東からの贈り物だというのを聞いて、大躍進の時代の手記を読んだ時に、子どもたちが学校の行き帰りに釘を拾って歩いたことや、鍋釜を供出したという話を思い出しました」とお伝えしたら、「砲弾は鍋釜からできたわけじゃありません」と監督は笑われた。
インタビューの模様は特別記事でお届けします。(咲)
この作品のことを知ったのは、一昨年の台湾エンタメ談議で林監督の話を聞いた時。
砲弾から包丁を作っているということを知り、びっくりした。しかも金門島の観光みやげとして名産になっているという。それからずっと気になっていた。
林監督は、金門の歴史とともに「砲弾から包丁」のいきさつを語っていく。
この映画の主人公、呉さんがまた魅力的。この砲弾からの包丁で作った料理も出てきて、とてもおいしそう。この映画を観ると金門島に行ってみたくなるし、包丁もほしくなる(笑)。
林監督の『老兵挽歌』もぜひ、早く観てみたい。(暁)
2013年/日本/120分/カラー
配給:クリエイティブ21
■ 会期 2013年8月24日(土)~9月1日(日)
(映画館での上映は8月30日(金)まで)
■ 会場 シネマ・ジャック&ベティ+横浜パラダイス会館
〒231-0056横浜市中区若葉町3-51-3
■ 交通 京浜急行「黄金町」駅より徒歩5分
市営地下鉄「阪東橋」駅より徒歩5分
JR「関内」駅より徒歩15分
【いつでもどの映画でも割引が適用されます】
・夫婦50割引:どちらかお一人様でも50歳以上のご夫婦は、2人で2,000円
・高校生友情プライス:高校生3人以上で1人1,000円
・しょうがい者割引:障害者手帳ご提示で、ご本人と付添の方1人1,000円
・レディースデイ:毎週水曜日女性1,000円
・メンズデイ:毎週木曜日男性1,000円
・映画の日:毎月1日だれでも1,000円
■ 作品、スケジュール詳細 http://downtownart.hama1.jp/
監督:J・J・エイブラムス
脚本:ロベルト・オーチー、アレックス・カーツマン、デイモン・リンデロフ
撮影:ダン・ミンデル
美術:スコット・チャンブリス
衣装:マイケル・カプラン
音楽:マイケル・ジアッキノ
出演:クリス・パイン(ジェームズ・T・カーク)、ザッカリー・クイント(スポック)、ベネディクト・カンバーバッチ(ジョン・ハリソン)、ゾーイ・サルダナ(ウフーラ)、サイモン・ペッグ(モンゴメリー・スコット)、カール・アーバン(レナード・マッコイ)、アリス・イヴ(キャロル・マーカス)、アントン・イェルチン(パヴェル・チェコフ)、ジョン・チョウ(ヒカル・スールー)、ブルース・グリーンウッド(クリストファー・パイク)、ピーター・ウェラー(マーカス提督)
人類最大の弱点は、愛だ。
西暦2259年。ジェームズ・T・カークが艦長として率いるUSSエンタープライズ号は未開の惑星ニビルを探査中に、重大な規律違反を犯してしまう。無事に帰還したものの、虚偽の報告をよしとしないスポックは正直に報告書を提出し、カークは艦長を解任されてしまった。亡き父の盟友でもあるパイクにさとされるが気持ちは晴れない。そんな折、基地の爆破事件が起こり、首謀者はジョン・ハリソンと判明する。
まず驚いたのはチラシ(試写状も同じ)。ベネディクト・カンバーバッチが一人だけ、キッとこちらを見据えています。観る前から、これはどーなるの??とわくわく。テレビシリーズや前作(2009年)を観ていなくても、十二分に楽しめます。余裕のある方はおさらいしてください。
本編の始まりでカークとスポックの性格の違いを際立たせ、エンタープライズのクルーをざっと紹介してくれます。カンバーバッチ演じるジョン・ハリソンはもうしばらくたって出てきますが、展開が速いので頑張ってついていってください。3Dで字幕を読むのに疲れる方は日本語吹き替え版をお勧め。細かいところまでよくわかります。血気盛んでまだまだ未熟な感じのカークが、辛い経験を経て成長する過程や、複雑なダーク・ヒーロー、ジョン・ハリソンの過去など、ぎゅっと心を掴まれる要素がたくさんです。観終わってすぐ次が楽しみになりました。(白)
2012年/アメリカ/カラー/2時間12分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:パラマウント
©PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. STAR TREK and related marks and logos are trademarks of CBS Studios Inc.
公式 HP >> http://www.startrek-movie.jp/
プロデューサー・監督・編集:楠山忠之
朗読:石原たみ
聞き手:石原たみ、渡辺蕗子、宮永和子、楠山忠之
ナレーション:楠山忠之
出演:陸軍登戸研究所に関わった方々
陸軍登戸研究所。戦前、秘密兵器の開発拠点として、最盛期には1000人に及ぶ所員によって殺人光線、毒物・爆薬の研究、風船爆弾、生物・化学兵器、ニセ札製造など、多岐にわたる研究が進められていたという。戦後、証拠隠滅のため歴史からその存在が抹消される。いったい、そこで何が行われていたのか? 本作は、当時を知る関係者からの証言を集め、研究所の真実に迫ったドキュメンタリー。
研究に携わった人をはじめ、学業途中で兵士や兵器製造要員として借り出された中学生や女学生が当時を振り返って証言する。無駄な時間だったと、今だからこそ言えるが、戦争中にはたとえ思っても口に出来なかったことが伝わってくる。
8月9日、公開記念イベント<風船爆弾・生物兵器の闇を追う>が明治大学駿河台キャンパス・リバティタワーで開かれた。証言者の中でも印象的だった小岩昌子さんが登壇。当時女学生だった小岩さんは、風船爆弾の紙をこんにゃくのりで貼りあわせる作業に従事。のりで衣服はてかてかに光っていたという。紙しか見ていないので、それがどんな形になるのか知る由もなかったそうだ。何枚貼れたかグループごとに成績が黒板に出るので、皆、競争心に燃えて頑張ったと笑う。昭和3年生まれだった私の亡き母も、女学生時代、勉強したいのに、竹やり演習と石綿をはがす作業で毎日が終ったと嘆いていたのを思い出す。
もう一人、証言者として千葉・一宮で風船爆弾を飛ばす作業に従事した太田圓次さんが登壇。生田の近隣に住んでいた太田さんは、18歳の時、陸軍登戸研究所に就職。陸軍から月給約80円を貰っていたという。この日のイベントに一緒に行った私の父は、昭和18年秋に学徒出陣。海軍の特攻隊に所属していて、月給200円だったという。危険度が高いほど手当も高かったことがわかるが、命を落とした人も多い。前途ある若者たちの未来を奪った戦争。平和な時代に育ったことを感謝しつつ、世界から戦争がなくなることを願うばかりだ。(咲)
2012年/日本/カラー/デジタルSD/180分
製作:「陸軍登戸研究所」製作委員会/アジアディスパッチ
配給:オリオフィルムズ
公式 HP >> http://www.rikugun-noborito.com/
監督・脚本:デビッド・エアー
撮影:ロマン・バシャノフ
音楽:デビッド・サーディ
出演:ジェイク・ギレンホール(ブライアン・テイラー)、マイケル・ペーニャ(マイク・ザヴァラ)、アナ・ケンドリック(ジャネット)、ナタリー・マルティネス(ガビー・ザヴァラ)、アメリカ・フェレーラ(オロスコ巡査)、フランク・グリロ(巡査部長)、デヴィッド・ハーバー(ヴァン・ハウザー)
白人のブライアン・テイラーとメキシコ系のマイク・ザヴァラは強い絆で結ばれ、高い検挙率を誇っている警官コンビだ。ロサンゼルスの中でも屈指の犯罪多発地区、サウス・セントラルの巡回をしている。ストリートにはヒスパニック系、アフリカ系のチンピラたちがたむろしている。二人はヒスパニック系ギャングのテリトリーに踏み込み何人も救い出すが、背後にある巨大な麻薬組織から命を狙われるようになる。
パトロール巡査の日常をリアルに描いたクライム・アクション。実際にサウス・セントラル地区で育ったデビッド・エアー監督(アイルランド系)は、海軍に入ったことで、ここの住民が主に陥ってしまうような生活(ギャングになるか、撃たれて死ぬか!?)から抜け出たそうです。ギレンホール扮するテイラー巡査がパトカーにすえつけるビデオカメラの映像を使ったりするので、ドキュメンタリーのような臨場感を味わいました。ロス市警の協力を得て、主役の二人はパトカーでの体験をし、元パトロール巡査の指導のもと、リアルなドラマを作り出すのに成功しています。その迫力はチラシのギレンホールの表情でも一目瞭然。最初誰かわかりませんでした。(白)
2012年/アメリカ/カラー/109分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:プレシディオ
©2012 SOLE PRODUCTIONS, LLC AND HEDGE FUND FILM PARTNERS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式 HP >> http://gacchi.jp/movies/eow/
監督:キム・ジフン
脚本:キム・サンドン
撮影:キム・ヨンホ
音楽:キム・テソン
出演:ソル・ギョング(カン・ヨンギ)、ソン・イェジン(ユニ)、キム・サンギョン(デホ)、キム・イングォン(ビョンマン)、ト・ジハン(ソヌ)、アン・ソンギ(署長)
地上108階建ての超高層複合ビル「タワースカイ」には1700世帯が住み、多くの商業施設や展望レストランがある。誇りを持って働くデホは、愛娘ハナを男手一つで育ててきた。クリスマス・イブの今日はハナとの約束がある。フードモールのマネージャーのユニは忙しいデホに代わってハナの相手をしてくれている。
「伝説の消防士」の異名を持つカン・ヨンギ隊長は結婚後初めて迎えるイブを妻と祝うためにケーキを予約する。隊員たちもヨンギが早く帰れるように気遣ってくれている。しかし、タワースカイの上層階で火災が起きてしまった。駆けつける消防士たちもうかつに近づけないほど、炎は大きく拡がっていく。
高層ビルの火災というと『タワーリング・インフェルノ』(1974年/アメリカ)を思い出します。はしご車の及ばない高さでの火災の怖さを十分に見せ付けられました。この韓国作品も、愛する人を必死に守ろうとする人々と、命を賭して火の中へ飛び込む消防士たちを描いています。CGの技術が進んだ分、迫力もハンパではありません。高いところの苦手な人にはドキドキの場面多し。
ソル・ギョングは前に観た出演作が『TSUNAMI』(2009年)だったもので、パニック映画続きかと思っていましたら、2011年に行定勲監督のオムニバス映画にも出演していました。『冬の小鳥』(2009年)は後姿だけだったし、もすこし映画に出てほしいです。(白)
108階建ての「タワースカイ」は、ほんとに汝矣島(ヨイド)に新しく出来たのかと思うほど! VFXの映像技術の素晴らしさに唸ります。
そして、映画やテレビでお馴染みの俳優さんたちが大勢出ているのもお楽しみ。天候が悪いのにビルの周りに雪を降らせようと無理にヘリを飛ばさせる会長を演じるチャ・インピョ。我が儘いっぱいでまさにはまり役。アン・ソンギは消防署長として存在感を示しますが、出番が少なくてちょっと残念。そのほか、パク・チョルミン、イ・ハンウィ、チョン・インギといったドラマの脇役として活躍する人たちがどんな役で出てくるかもぜひ見てください。(咲)
2012年/韓国/カラー/121分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ツイン
公式 HP >> http://www.thetower-movie.info/
監督:レジス・ロワンサル
脚本:レジス・ロワンサル、ダニエル・プレスリー&ロマン・コンパン
撮影:ギョーム・シフマン
音楽:ロブ&エマニュエル・ドーランド
衣装:シャーロット・デヴィッド
美術:シルヴィー・オリーヴ
出演:ロマン・デュリス(ルイ・エシャール)、デボラ・フランソワ(ローズ・パンフィル)、ベレニス・ベジョ(マリー・テイラー)、ショーン・ベンソン(ボブ・テイラー)、メラニー・ベルニエ(アニー・ルブランス・ランゲ)
1950年代末。女性たちも社会へ飛び出した時代。
ノルマンディーの田舎から街の保険会社の秘書に、強引な手口で雇とってもらった若い女性ローズは、不器用で秘書には向かなかったが、タイプライターの早打ち(それも右左一本ずつで)を見た社長が、タイプライターの早打ちコンテストに出場させようと、自宅に住み込ませて特訓を始める。
タイプライターの早打ちの技を磨くためにピアノの練習をしたり、体力をつけるためにジョギングをしたり、もう大変だ。
面白かったのは主役のローズは、始め一本指か二本指で器用にタイプライターを早打ちしているのだ。まるで私のパソコンみたいで、思わず笑ってしまった。
ローズ役のデボラ・フランソワはダルデンヌ兄弟の『ある子供』の新米ママを心配顔でやっていた方。ちょっと苦味のあるボス役にはロマン・デュリス。
ビジネスでは世界一のアメリカを破り、初の世界一になれるかどうか、最後までハラハラドキドキさせてくれる。
チラシやポスターを見ていただくとわかるが、可愛くておしゃれで懐かしい感じのする作品。デートにチョイスすると得点が上がることは請合う。
(美)
今のパソコンしか知らない若い世代の方には想像できないだろうけど、この映画に出てくるタイプライターを打つのには、腕と指の両方の力が必要。大学生の時に、母がイタリア・オリベッティ製のタイプライターを買ってくれて、すぐにブラインドタッチはできるようになった。昭和50年、商社に入社して、さっそく手紙を打つことになったものの、カーボンを入れて3~4枚の紙に均等に字を打つのは至難の業。小指で打つ文字はどうしても薄くなったりする。途中で何度も打ち間違えて、何枚紙を無駄にしたことか。まさに、ミスタイピストを自認していた私。そんな時代を思い出して懐かしかった。
そして、1950年代を舞台にした本作は、なんとも懐かしい香りのする映画。オードリー・ヘプバーン風のポニーテール姿のデボラ・フランソワがほんとにキュート。フランス人はやっぱり恋に生きるのねという最後のオチも楽しい。(咲)
2012年/フランス/シネスコ/111分
配給:ギャガ GAGA
公式 HP >> http://typist.gaga.ne.jp/
監督:ファティ・アキン
撮影監督:ブンヤミン・セレクバサン、エルヴェ・デュー
音楽:アレクサンダー・ハッケ
トルコ系移民二世としてドイツ・ハンブルグで生まれ育ったファティ・アキン監督。
2005年、ドイツとトルコを舞台にした3組の親子の物語『そして、私たちは愛に帰る』の撮影準備をしていた頃、ボブ・ディランの祖母がトルコ東北部トラブゾン出身と知る。監督の父方の祖父母と同郷! 俄然ご先祖様の地を訪れたくなる。
結婚を反対され駆け落ちした祖父母。父の生まれ故郷となったトラブゾン近郊のチャンブルヌを訪れる。茶畑の広がる緑豊かな黒海沿いの美しい村。「ここは天国だ!」と叫ぶ監督に、村人が言う。「もうすぐゴミ処理場ができる」。
発端は1990年代半ば。黒海沿いの広範囲な地区のゴミを一手に引き受ける処理場として、村の銅鉱山跡地に白羽の矢が立ち、住民の同意を得られないまま建設が進んでいた。
監督は、美しい村でゴミ処理施設反対を悲痛な思いで叫ぶ人々の姿に触れる。男どもが怠ける権利を持つ風土。茶摘みも茶の運搬も女性の仕事。抗議デモを先導するのもスカーフ被った女性たち。政治的圧力に欠ける反対運動では建設阻止は難しい。ご先祖の地の一大事を救おうと監督はデモを組織し、テレビクルーを連れてくる。
そして、故郷の美しい自然と風景を映像に残すべく、『そして、私たちは愛に帰る』のラストシーン、海を見つめて座っている男の姿をチャンブルヌの浜辺で撮影する。
その後、村に常駐できない監督は、地元写真家にカメラの扱い方を特訓し、5年にわたってゴミ処理場の出来事を撮らせる。操業開始5日後に汚水が漏れ出す。悪臭は住宅地にも漂い、窓も開けられなくなる。2010年、汚水処理層の壁が倒壊。数年後の処理場閉鎖が決まる・・・
監督は、自身の祖先の故郷を救いたいというエゴで本作を作ったわけでは勿論ない。科学技術の進歩と大量消費社会が生み出すゴミの多くが自然にかえらないどころか、自然を破壊している現状。毎日排出されるゴミはどこかで処理しなければなりません。人は、自身に影響が及ばない限り問題意識を抱かないもの。今からでもいい、地球に住む人の一人一人が、いかにゴミを出さないかを意識しないと取り返しのつかないことになるということを監督は警鐘しているのだと感じました。
チャンブルヌ村で抗議デモに率先して参加しているのが、だぶだぶのモンペにスカーフ姿の女性たちなのを見て、山口県祝島での原発反対デモも、先導しているのは鉢巻をした女性たちだったなぁと思い出しました。(咲)
2012年カンヌ国際映画祭特別招待出品
2012年/ドイツ/98分/デジタル/1:1.85
配給:ビターズ・エンド
監督:三上智恵
プロデューサー:謝花尚
撮影・編集:寺田俊樹
沖縄北部、東村(ひがしそん)・高江。5年前、隣接するアメリカ軍基地に新型輸送機「オスプレイ」着陸帯(ヘリパッド)建設を知った住民たちは、高江の自然を守るため建設を阻止しようと道路に座り込む。これを国は「通行妨害」で訴える。国策に反対する住民を国が訴える「SLAPP(Strategic Lawsuit Against Public Participation)裁判」だ。その場にいなかった子どもまでもが訴えられていた。
ベトナム戦争時、高江に隣接する米軍基地内には訓練用にベトナム村が作られていた。飛び回る米軍のヘリに、自分たちは、またしても「標的」なのかという思いがよぎる。
2012年、10万人が結集した県民大会の直後、日本政府は電話一本で県に「オスプレイ」配備を通達する。強硬配備前夜の9月29日、沖縄の人たちは怒りを爆発させた。台風17号の暴風の中、米軍普天間基地のすべてのゲート前に車を並べ身を投げ出して22時間にわたって完全封鎖したのだ。座り込んだ人たちを強制排除しようとしたのは米軍ではなく、日本の警察だ。この一部始終を地元テレビ局・琉球朝日放送の報道クルーたちが記録していた・・・
この作品は、沖縄の基地とオスプレイ配備に反対する沖縄県東村高江の住民たちの姿を記録したドキュメンタリーだが、このヘリの墜落事故が続いていたことに対する不安が大きな要因。オスプレイ配備に反対する住民が普天間基地を封鎖するシーンは、力強さと無念さが滲み出ていたが、この「沖縄県民が普天間基地を封鎖したこと」は全国版のニュースではほとんど報道されていない。この地元のTV局、琉球朝日放送の取材で知ったという状態。知らなかったことが恥ずかしかったが、どうしてこういうことが全国で大きく放送されなかったのか疑問を感じた。
オスプレイがさらに追加で12機配備されるため7月30日に岩国基地に到着。8月3日に2機が普天間に配備されたが、そのオスプレイ追加配備のさなか、8月5日にアメリカ空軍のヘリコプターが沖縄本島北部のアメリカ軍キャンプハンセンの敷地内に墜落した。今回は敷地内の山林に墜落したとのことだったけど、人々が暮らしているところに墜落したらと思うと、そこに暮らす沖縄県民の怒りは計り知れない。
さすがに、追加配備作業は中断しているとのことだが、いつ再開されるかわからない。
これまでに何回も米軍機の墜落事故は発生しているが、その中でも、1959年、沖縄県石川市(現・うるま市)で発生したアメリカ空軍機の墜落事故は、小学校に墜落し、死者17人、負傷者210人と多くの犠牲者が出た。この事故のことを描いた映画『ひまわり~沖縄は忘れない あの日の空を~』(及川善弘監督)は今年始めに公開されているし、去年は藤本幸久、影山あさ子監督の『ラブ沖縄@辺野古・高江・普天間』も公開されている。
そして、8月10日『標的の村』が公開される。この映画でも沖縄県民の怒りを知ってほしい。そして、沖縄の基地問題を、沖縄県民の心情を考えてほしい。(暁)
8月5日に起こった沖縄北部米軍キャンプハンセンでのヘリコプター墜落事故。『標的の村』公開直前に、またもかという事故。日本にあるアメリカ軍基地・専用施設の74%が密集する沖縄。危険と隣り合わせで沖縄の人たちが暮らしていることを思い起こさせる出来事だった。でも、普段はそのことを忘れている自分がいる。『標的の村』の中で印象に残ったのが、真っ先に座り込む老人たちの姿。地上戦を体験した人たちの必死の思いに涙が出る。もう一つ深く印象に残ったのが恩納村から週に2~3日のペースで座り込みに参加している池原さん母娘。基地問題、原発問題など理不尽なことがあちこちで起こっていて、問題意識を持っても、自分に火の粉がかからないと行動に移すことはなかなかできないものだ。座り込みしながら泣くしかないと語っていた20代のお嬢さんの姿に私も涙が出た。日本に住む皆が、他人事と思わずに支援することが、阻止する力になると感じた。ぜひ『標的の村』を観て、それを感じてほしい。(咲)
2013年/HD/16:9/日本/91分/ドキュメンタリー
製作・著作:琉球朝日放送
配給:東風
公式 HP >> http://www.hyoteki.com/
監督・脚本:廣原暁(ひらはら さとる)
撮影:下川龍一
音楽:トクマルシューゴ
出演:郭智博(沢北健二)、金田悠希(ころ助)、舩崎飛翼(ヤタロー)、本間翔(オッチ)、奥田恵梨華(村山のぞみ)、諏訪太朗(社長)
塗装会社に勤める健二30歳。ある朝出勤すると社長が夜逃げして、無職になってしまった。母親はとうの昔に家を出て行き、父親は辺鄙な田舎でペンションを経営、妹は世界を放浪中。家族が暮らしたこの家は再開発でじきに取り壊される。不動産屋の村山のぞみはかつての同級生。明け渡しを迫られてカギを渡したのに、健二は次にすることも行くあても見つからず今も居座っている。
いつもピンポンダッシュをしているいたずらな小学生3人組が水風船を投げつけ、ヒマだった健二はホースで応戦する。健二は水魔人と呼ばれてなぜか懐かれてしまい、3人はなにかと家にやってくるようになった。
ゆとり世代の次の世代、堅実で身の丈に会った暮らしを望み、欲しがらない若者達を「さとり世代」というそうです。しらけているのとも違う草食系。ひたすら消費を拡大してきた親を見てきた子供達です。そんな一人が突如進入してきた小学生にかきまわされます。無職になったのに何も始めようとしない健二に親世代の私はいらつき、心配し、3人組と触れ合った健二がちょっとずつ変わり、ころ助との約束も果たそうとするのにほっとしました。電話だけの父親、手紙だけの妹とも縁が切れたわけではありません。一緒に過ごした時間や、気にかけ、かけられたことは記憶に残っていくのですから。オーディションで選ばれたという3人組と、郭智博さん演じる健二が遊ぶ場面がとても楽しいです。(白)
2012年/日本/カラー/98分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:マジックアワー
© PFFパートナーズ/東宝
公式 HP >> http://homesick-movie.com/
監督:ジョン・シェンク
音楽:レディオヘッド
出演:モハメド・ナシード
モルディブのモハメド・ナシード元大統領の就任1年目を追ったドキュメンタリー。
インド洋に浮かぶ島国モルディブ。海面が1m上昇すると国土の80%が水没するといわれている。地球温暖化の影響で2100年までに国土消滅もささやかれる中、2008年、41歳にして大統領に就任したモハメド・ナシード。気候変動という大きな問題に立ち向かうには、世界全体で対処するしかないと国際舞台に投げかける。2009年、コペンハーゲンで行われた第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)。温室効果ガスの排出規制に関する合意を取り付けるため、世界の大国を相手にロビー活動を繰り広げる大統領の姿を映し出す。彼のスピーチは会議に参加していた多くの人を感動させる・・・
島国モルディブには、空港の島や、ゴミ処理専用の島があるというのは知っていたけれど、刑務所の島も! 島ならば簡単には逃げられないと思うのに、ちゃんと独房もある。拷問に耐え、独裁政権に反対する民主化運動を地道に20年以上にわたって進めてきたモハメド・ナシード氏。大統領に就任するやいなや、国家が抱えている一大事に立ち向かう姿が凛々しい。
理想的とも思えるモハメド・ナシード大統領だが、2012年2月、大統領を辞任。前ガユーム大統領に忠誠を誓う警察当局が企てたクーデターで、辞任するよう脅迫されたからだと言われている。
本作を観て、国家の指導者に必要なのは、的確な判断と迅速な行動、そして国民を思う気持ちだということをつくづく感じた。いつかまたモハメド・ナシード氏が大統領に返り咲いてモルディブの為、地球の為に活躍してくださることを願ってやまない。そして、日本にもこんな政治的リーダーが大勢出現してくれることを!(咲)
モルディブといえば高級観光地だ。
この南の島が水没の危機に直面している。
水没の危機と聞いて、すぐ思い浮かぶのはイタリアのベニスだが、ベニスもモルディブも大観光地だから打撃は大きい。
そこで立ち上がったのがモルディブヴ大統領モハメド・ナシードさん。
モルディブは有数のリゾート地でもあるが、過去に独裁政治が30年も続いた歴史があり、2008年にやっと民主主義になった国だ。
この若きナシード大統領の行動力はたいしたもの。大国を相手に粘り強く意見を交わして水没寸前の美しいモルディブを守ろうと必死。
その必死さが真っ直ぐに伝わってくる力強いドキュメンタリー。
第25回東京国際映画祭「natural TIFF」部門で上映された折に拝見。(美)
2011年/アメリカ/カラー/HD/101分
配給:浦安ドキュメンタリーオフィス
監督・製作・脚本:ジャニック・ファイジエフ
主演:スベトラーナ・イヴァーノヴナ、エゴール・ベロエフ、マクシム・マトヴェーエフ
2008年8月、モスクワ。クセーニアは離婚して5歳の男の子チョーマを一人で育てている。恋人エゴールを新しい父親として受け入れて貰おうと必死だが、チョーマは父親が忘れられないのか、空想の世界でロボットたちと遊んでいる。そんなある日、元夫で南オセチアのシダモンタ村で平和維持軍の任務についている軍人のザウールから「シダモンタ村の自然の中で息子を過ごさせてあげたい」と電話がかかってくる。恋人とのバカンスを楽しみたいという気持ちも重なって、クセーニアは息子を現地に赴く人に託して元夫のところに旅立たせる。ところが、翌日、グルジア軍が南オセチアに侵攻したというニュースが飛び込んでくる。ザウールに連絡するも、彼のところにはまだ事態が伝わっておらず、取り合ってくれない。恋人エゴールも冷ややかだ。もう、自分で息子を助け出しに行くしかない! クセーニアは南オセチアを目指す・・・
2008年8月8日、グルジア共和国からの独立を主張する南オセチアにグルジア軍が侵攻、それに対しグルジアに圧力をかけるべくロシアが軍事介入した。本作は、実際のグルジアとロシアの紛争を舞台にしているが、ロシア軍全面協力による戦闘機や戦車など本物の兵器に加え、その戦車が巨大ロボットに変身してしまうというSFスペクタルに仕立てている。何より、わが子を助けたい一心で戦闘地域に飛び込んでいく母親の姿に圧倒される。
思い出すのは、当時南オセチアで小学生たちが大勢犠牲になったこと。子どもたちまでをも巻き込む戦争の悲劇が今も繰り返されていることに心が痛む。国家が権力ではなく、人々を慈しむ心を持ってくれるものであってほしい。(咲)
2012年/ロシア/ カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル/2時間12分
配給:ブロードメディア・スタジオ
公式 HP >> http://www.augustwars.com/
監督・脚本:アンジェリーナ・ジョリー
出演:レード・セルベッジア、ザーナ・マリアノヴィッチ、ゴラン・コスティック
1992年、ボスニア・ヘルツェゴビナ。
ムスリム人の画家アイラ。週末の夜、彼女が恋人のセルビア人の警官ダニエルと愛を語らいながら過ごしていたライブハウスで爆発騒ぎが起こる。内戦が勃発したのだった。やがて、セルビア系兵士がムスリム系住民を男女に分けて強制連行する。男性は即座に銃殺。若い女性たちは性暴力を受ける。セルビア軍の将校となっていたダニエルが捕虜の中にアイラを見つけ、画家としての彼女に自分の肖像画を描かせるという任務を与えて匿う。やがてそのことがダニエルの父である将校の耳に届く・・・
女優アンジェリーナ・ジョリーの初監督作品。
最近は乳癌予防の為、乳房を切除したことで一躍話題になったアンジェリーナ・ジョリー。10年程前に、出演作をほとんど観たことがないにも関わらず、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の親善大使として果敢に紛争地帯で人道支援する女優として、私の記憶に深く植えつけられた。一過性に終らず、その後も彼女は様々な形で人道支援を行っている。実際に各地で人権を蹂躙された人たちの声を聞いてきた彼女が、映画というツールで、内戦の悲惨さを世界に訴えたのが本作である。
舞台となったボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は、チトー大統領の求心力で5つの民族が共存していたユーゴスラビア連邦共和国の中でも、ムスリム人(イスラーム教徒)の割合が多い地域での凄惨な戦いだった。本作に出てくる性暴力は、『サラエボの花』でも描かれた民族浄化の目的で行われた蛮行だ。
1988年春 まだユーゴスラビアだった時代に旅したことがある。ベオグラードのチトー元大統領のお墓には大勢の人が訪れていた。ユーゴスラビアの海岸線をドヴロブニクから北上してイタリアに越えたのだが、穏やかで風光明媚な地で、その後、国がばらばらになるような激しい内戦が起こるとは夢にも思わなかった。
紛争の起こった時には、勤務していた商社の経済協力部門でボスニア・ヘルツェゴビナへの地雷除去や物資援助などを担当。25年以上ベオグラードに駐在していた方が、多民族が共存していた国の内戦を嘆いておられたのを思い出す。
隣人が敵同士になるという内戦の悲劇は、今も世界の各地で起こっている。内戦が終結しても、わだかまりを抱えたまま、口を閉ざして暮らしている人たちのことを思うとつらい。(咲)
2011年/アメリカ/127分/シネマスコープ/英語/R-15+
配給:彩プロ
後援:国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所
協力:朝日新聞社
公式 HP >> http://saiainodaichi.ayapro.ne.jp/
期日:2013年8月7日(水)~11日(日)
会場:調布市グリーンホール
東京都調布市小島町2-47-1
京王線調布駅 南口より 徒歩1,2分
世界三大映画祭の一つ、ベルリン国際映画祭児童映画部門の協力を得て1992年にスタートしたこどもたちのための映画祭も今年で21回目を迎えました。 すっかり名物となったライブ吹き替え上映や、中国・韓国のショートフィルムを特集上映する「アジアプログラム」、イギリスアニメ界の名匠の作品を特集上映するプログラムなど盛りだくさん。また、今年から「映画をみる」だけでなく、「映画をつくる」ティーンズをバックアップするために「ティーンズ・フィルム・コンペティション」も開設されました。映画のまち調布での映画祭、ぜひお子さまと共におとなもお楽しみください。
◆8月7日 オープニングセレモニー
登壇者(予定):
戸田恵子、中山秀征、内田恭子、ルー大柴、ジョン・カビラ、吉岡竜輝、花田優里音
主催:一般社団法人キンダー・フィルム
公式 HP >> http://www.kinder.co.jp/
監督:ゴア・ヴァービンスキー
脚本:ジャスティン・ヘイス、テッド・エリオット&テリー・ロッシオ
撮影:ボジャン・バゼリ,ASC
音楽:ハンス・ジマー
衣装:ペニー・ローズ
出演:ジョニー・デップ(トント)、アーミー・ハマー(ローン・レンジャー/ジョン・リード)、トム・ウィルキンソン(レイサム・コール)、ウィリアム・フィクトナー(ブッチ・キャベンディッシュ)、バリー・ペッパー(キャプテン・フラー)、ルース・ウィルソン(レベッカ・リード)、ヘレナ・ボナム=カーター(レッド・ハリントン)
東部の都市で法律を学び、若き検事として8年ぶりに故郷テキサスのコルビーに帰るため、列車に乗っていたジョン・リード(アーミー・ハマー)。その列車には二人の囚人が護送されていた。
一人は不思議ないでたちのコマンチ族の男・悪霊ハンターのトント(ジョニー・デップ)と、残虐な無法者・ブッチ・キャベンディッシュ。そのキャベンディッシュを奪還しようと手下が列車を襲う。
「願ってもいないチャンス」と、トントはキャベンディッシュに銃を向ける。だが「法のもとで裁く」とジョン・リードが立ち塞がる。そんな中、キャベンディッシュは鮮やかに列車から脱出した。
楽しめた!被り物がお似合いのジョニー・デップの頭には大きな鳥、相棒のアーミー・ハマーは黒マスク。この2人、やることなすこと正反対!だけどとってもいいクール・コンビだ!
お馴染の♪「ハイヨ~!シルバー」のかけ声と共に聴こえてくる「ウィリアム・テル序曲」で、もう体全体ウキウキ気分で映画を楽しんだ。
※白塗りが砂漠の乾燥でガサガサになったトントの、老醜とは一味違うメイクは必見。
※「キモサベ」という意味は「頼りになる友人」。今こそキモサベがほしい時代だ。今年後半の流行語にしたい。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/シネスコサイズ/150分
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
公式 HP >>
http://www.disney.co.jp/loneranger/
>> Web版特別記事 7月17日 『ローン・レンジャー』記者会見
監督・脚本・編集・製作:吉野竜平
撮影:平井英二郎、井上塁
音楽:佐藤みえこ
出演:朴璐美(園部佳子)、亜蓮(園部保)、Vlada(カノン)、鯨井和幸(林貞一)、藤井かほり(林清美)
夫が突然蒸発し、原因もゆくえもわからない佳子は途方にくれ、精神が不安定になっていく。5年生の保は、家事も手につかない母を精一杯支えようと明るくふるまっている。佳子は、たまたま出会った園部夫妻に優しく声をかけられ、彼らの「しるべの星」という新興宗教に居場所を見つけていく。保を連れての勧誘活動で良い成績をあげた佳子はますます活動にのめりこみ、一方級友に宗教活動がばれた保へのいじめは、ますますひどくなっていった。
この作品で初めて朴璐美(ぱくろみ)さんを知りました。声優としてたいへん有名な方だったんですね。出演作リストを観て、あれにもこれにも出ていたんだ!とびっくり。女優として初の主演作ですが、精神のバランスを崩してしまう危うい母を演じて存在感あります。身内がいても助けにはならず、他人の中に居場所をやっと見つけた佳子がそこを失いたくないばかりに、あがく姿に胸が痛みます。共演の方々にも馴染みがなかったのですが、劇団に所属している演技の確かな方々ばかり。保役の亜蓮くんも蜷川幸雄演出の舞台経験があり、こわれかけた母を支えるけなげな息子を演じて涙を誘いました。(白)
2012年/日本/カラー/135分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:エネサイ
公式 HP >> http://akaboshi-movie.com/
監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:リード・キャロリン
撮影:ピーター・アンドリュース
音楽:フランキー・パイン
衣装:クリストファー・ピーターセン
美術:ハワード・カミングス
振り付け:アリソン・フォーク
出演:チャニング・テイタム(マジック・マイク)、マシュー・マコノヒー(バーのオーナー・ダラス)、マット・ボマー(ケン)、アレックス・ペティファー(アダム)
小規模だが実業家でもあるマイク(チャニング・テイタム)は、昼は仕事に、夜は華やかなストリップ・ショーを行うクラブ「エクスクイジット」で、女性たちを熱狂させる人気№1のストリップ・ダンサー。
「マジック・マイク」として呼ばれている。
ある日、偶然知り合った19歳のアダム(アレックス・ペティファー)に、女性をひきつける魅力があると感じたマイクは、彼をクラブに連れてゆく。
マイクの予想どおり、アダムは素人ながら即興で踊ったのがうけてクラブの一員になる。
よっぽどのことがないと見ることのできない「若い男たちが華やかに踊るストリップ・ショー」を楽しんだ。
8月16日公開の『ホワイトハウス・ダウン』で主役(ワシントンD.C警官ジョン・ケイル)をやるチャニング・テイタム。ここではほとんど裸で体を見事にくねらせていた。
細~いパンティ(?)の紐にお客の女性がドル札を挟み込んでキャーキャー言っていた。始めて見る光景に驚くと共に、あんなに激しく踊るのに、うまく「肝心なもの」が見えないように工夫してあるので2度びっくり!
マイクは本当の恋に目覚め、瞬く間にスターになったアダムは堕落していく人生模様が現実的に描かれていた。
目の保養?+人生の転び方、そして再生もたっぷり堪能できた。
※主演のチャニングが駆け出し俳優だった頃に、フロリダで男性ストリッパーとして生計を立てていた実体験からアイデアを得た作品だとか、どおりで鮮やかな動きだった!
※『リンカーン弁護士』『ペーパーボーイ 真夏の引力』のマシュー・マコノヒーが、最後、見事に自らの作詞作曲の歌で踊るシーンは観逃せない。
※公開されるシネスイッチ銀座、Bunkamura ル・シネマはお金持ちで映画好きの奥様御用達の映画館(と、思っているが)で上映で3度目のびっくり!いい企み(ラインナップ)だ。
(美)
2012年/アメリカ/シネマスコープ/110分
配給:カルチュア・パブリッシャーズ、ブロードメディア・スタジオ
公式 HP >> http://magic-mike.jp/
監督:メアリー・ハロン
脚本:メアリー・ハロン
撮影:デクラン・クイン
出演:リリー・コール(エネッサ)、サラ・ガドン(ルーシー)、サラ・ボルジャー(レベッカ)、スコット・スピードマン(デイビス先生)
森に囲まれた全寮制のブラングウィン女学校。詩人である父親が自殺したトラウマから抜けきれない優等生のレベッカ(サラ・ボルジャー)は、親友のルーシー(サラ・ガドン)の明るさにいつも助けられていた。
だが転校生のエネッサ(リリー・コール)がルーシーに近づき親しくなってしまう。
心穏やかでないレベッカは、若い英語教師デイビッド(スコット・スピードマン)と親しく話すようになり、吸血鬼小説「カミール」を借りて読む。
そして次第に「エリッサこそ吸血鬼」だと信じるようになった。
ゾンビ映画の括りに入るが、それがメインではない。少女たちの持つ嫉妬、同性愛的な友情と憧れ、異性の興味が妄想をまじえて美しく儚く描かれている。
美しい3人の少女を見ているだけでも◎、演技もしっかりしている。
サラ・ボルジャーの知的な眼差しが、「嫉妬に狂う」「探求したい欲望」「自分を苦しめる過去」でさまざまに変わる表現力には驚く。
(美)
2011年/カナダ、アイルランド/カラー/ビスタ/82分
配給:コムストック・グループ
公式 HP >> http://www.mothdiary.com/
監督:デヴィッド・フランケル
脚本:ヴァネッサ・テイラー
撮影:フロリアン・バルハウス
音楽:セオドア・シャピロ
出演:メリル・ストリープ(ケイ・ソームズ)、トミー・リー・ジョーンズ(アーノルド・ソームズ)、スティーヴ・カレル(バーナード・フェルド医師)
全部吐き出したら、愛だけが残った。
弁護士のアーノルドと妻のケイは結婚31年目を迎えた夫婦。子供たちは独立し暮らしに不自由はないが、ケイはベッドも共にしない夫に寂しさを感じていた。思い切ってカップルを対象にした泊りがけのセラピーに内緒で申し込み、アーノルドに「行きますから」と宣言する。アーノルドは断固拒否するが、珍しく頑ななケイのようすにしぶしぶ参加することになった。リゾート地に到着し、精神科医のバーナードのセラピーが始まった。二人は顔を合わせたばかりの相手に、夫婦生活を微に入り細に入り話すことになる。個人的なことだと仏頂面のアーノルドだったが、ケイは初めて自分の心のうちを切々と訴える。
1946年生まれのトミー・リー・ジョーンズ、1949年生まれのメリル・ストリープ、二人ともアカデミー賞受賞のハリウッドきっての名優です。夫婦役での共演は初めてではないでしょうか。シッカリ者の役柄の多いメリル・ストリープが、頑固な夫に従順についてきたけれど、これからの人生がこのままでは嫌!と気付いてしまった奥様役。ピンクや花柄の衣裳も似合い、少女の気持ちの残る可愛いこの人に共感します。セラピーがまた仰天の内容で、アーノルドの腹立ちもごもっとも。夫婦を振り回す医師のスティーヴ・カレルが淡々として、笑いの種を蒔いています。似たような夫は日本人にも多そうだけれど、関係を修復するためにこんなに一生懸命になる奥様は少ないのではと思いました。それに全部吐き出したら離婚してしまいそう(爆)。(白)
2012年/アメリカ/カラー/100分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
©2012 GHS PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://31years.gaga.ne.jp/
監督:ピエール=アンリ・サルファティ
出演:セルジュ・ゲンスブール、ジェーン・バーキン、シャルロット・ゲンスブール、ルル・ゲンスブール、ジュリエット・グレコ、ブリジッド・バルドー、アンナ・カリーナ、エディット・ピアフ、ヴァネッサ・パラディ他
セルジュ・ゲンスブール(1928.4.2~1991.3.2)。
作詞作曲家/シンガー/画家/映画監督/小説家/カメラマン・・・と、多彩な顔を持っていたゲンスブール。本作は、ゲンスブールが生前テレビやラジオに出演した折の発言や未発表コメントを紡いで綴ったドキュメンタリー。心の内を語りかけてくるゲンスブール本人の姿や声で、没後20年経った今も語り継がれる彼の魅力を探る。また、ジェーン・バーキン、ブリジッド・バルドー、ジュリエット・グレコ、バンブーなど、ゲンスブールの愛した女性たちの秘蔵映像や発言が彩りを添える。
私がセルジュ・ゲンスブールの名前を認識したのは、ジェーン・バーキンがフランス映画際の団長として来日した時の記者会見で、「私のフランス語はセルジュの胸の中で覚えたもの」と語った時のこと。残念ながら多彩な彼の業績を何も知らなかった。その後、ゲンスブールを描いた映画『ゲンスブールの女たち』を観て、幅広い活動と共に、女性遍歴も知ることとなった。でも、その映画では、なぜこんな男が女性に持てるのか理解できなかった。(ゲンスブール役の がただの醜男にしか見えなかったから?) でも、今回、ゲンスブール本人の動く姿や声を聞いて、彼のかもし出す不思議な魅力になるほど!と納得。
また、本作から、ゲンスブールがロシアからパリに移民してきたユダヤ人の子であることが、彼の人格に多大な影響を与えていることを感じて、興味深かった。ここに抜粋して紹介したい。
本名 ルシアン・ギンズブルク。
1928年、ユダヤ系ロシア人でダンスホールのピアノ弾きの父ジョセフと、オデッサで声楽を学んだスラブ美人の母オリアのもと、パリで生まれる。
第二次世界大戦中、ヴィシー政権がユダヤ人に黄色い星をつけることを義務付ける。13歳だったゲンスブールは母に目立つところに星を縫い付けてくれと頼む。先生から「森に逃げろ。見つかったらキコリの息子と言え」と言われ、森には友達が食料を届けてくれたという。
星を付けていた時代への厄落としに書いた曲が1975年の「ロック・アラウンド・ザ・バンカー」。1981年には、「神とユダヤ人」などを収録するアルバム「星からの悪い知らせ」を発表している。
セルジュと名乗ったのは、ロシアへのノスタルジー。ルーツはロシア系ユダヤ人でも、知性の面ではフランス人だと語る。
2011年/フランス/99分/カラー/HD
配給・宣伝:アップリンク
提供:キングレコード
公式 HP >> http://uplink.co.jp/nocomment/
監督:ピーター・ウェーバー
脚本:デヴィッド・クラス、ヴェラ・ブラシ
撮影:スティアート・ドライバーグ
音楽:デイブ・ジョーダン
衣装:ナイレ・ディクソン
美術:グランド・メジャー、アレックス・ヘッフス
出演:トミー・リー・ジョーンズ(ダグラス・マッカーサー元帥)、マシュー・フォックス(ボナー・フェラーズ准将)、初音映莉子(アヤ)、西田敏行(鹿島大将)、中村雅俊(近衛文麿)、片岡孝太郎(昭和天皇)、故・夏八木勲(関屋貞三郎)
第二次世界大戦で降伏した日本に、GHQを引き連れたマッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)が降り立った。
悠然とパイプをくわえた姿は国民に戦争が終わったことを知らしめるためだった。
直ちにA級戦犯の容疑者たちの逮捕を命じられる。
すべては、マッカーサーが日本文化の専門家でもある部下のボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)に極秘調査を命じた。
マッカーサーが飛行機から降り立った有名な映像は何度か見ているが、飛行機の中から(アメリカ側)の映像は初めて。
そういえば最初のシーンはエノラ・ゲイから落とされるリトルボーイ(原爆)シーンだった。これもアメリカ側の事実の映像だ。
マッカーサーが部下のボナー・フェラーズ准将に秘密裏に命令したことは、
・戦争の真の責任者
・パールハーバーの奇襲するまでの経緯
・誰が戦争を終わらせたか
等を探すことだった。
その命令を遂行しながら、ボナー・フェラーズ准将の過去の恋愛を絡めて作られている。
難しいテーマのアメリカ占領軍の内部事情や昭和天皇をめぐる思惑がわかりやすく描かれていた。
※キャスティングがよかった。
ボナー・フェラーズ准将役のマシュー・フォックスは見なれない方だが、知性的な眼差しの俳優さん。
西田敏行はどっしりと肝の据わった演技を見せてくれた。彼の英語がとってもこなれていて見事だった。
若き日本女性のあや役の初音映莉子さんの日本語の発音もよかった。
(美)
2012年/アメリカ/107分
配給:松竹
公式 HP >> http://www.emperor-movie.jp/
監督:ジュリー・デルピー
脚本:ジュリー・デルピー、アレクシア・ランドー
撮影:ルボーミール・バックチェフ
音楽:ジュリー・デルピー
衣装:レベッカ・ホファー
美術:ジュディー・リー
出演:クロス・ロック(ミンガス)、ジュリー・デルピー(マリオン)、アルベール・デルピー(ジャノ)、アレクシア・ランドー(ローズ)
ニューヨークで恋人ミンガス(クリス・ロック)と互いの連れ子と4人で生活しているマリオン(ジュリー・デルピー)の住まいに、彼女の父親と妹、妹と交際中の「マリオンの元恋人」がフランスから訪ねてくる。
マイペースな彼らにマリオンは振り回され、やがてミンガスにも我慢の限界が来る。
「なんと騒々しいフランス映画だぁ~」と、普段ならそう書いて終わりだが、つい先日までフランス映画祭で、かの国の「柔軟さ」のドツボにはまっていたから「こんな感じ、わかる、わかる」と寛大な気持ちで観られた。
いつもの彼氏彼女が、その親族の中に入ると違った面が出てきてしまうのは、私も経験がある。
新婚時代(なんと40年以上まえ。主人の親類が2DKのアパートに突然どどっと来なさった時、主人が今までに知らない男になっていた。「え?この人、いつもと違う?どうなっちゃった?」とすごくショックを受けた。
この作品で、夫が妻の親兄弟が来て「違うテンションになっていく彼女」に驚くのは理解できるし、自分の立場のなさや疎外感も感じられた。
笑いにセンスがあって、幸せ気分で楽しめる&ウディ・アレン調のフランス映画。
(美)
2012年/フランス、ドイツ、ベルギー/カラー/ビスタサイズ/95分
配給:アルバトロス・フィルム
公式 HP >> http://newyork-2days.com/
監督:リー・ダニエルズ
脚本:リー・ダニエルズ、ピート・デクスター
撮影:ロベルト・シェイファー
音楽:マリオ・グリゴロフ
衣装:キャロライン・エスリン
出演:マシュー・マコノヒー(兄・新聞記者ワード・ジャンセン)、ザック・エフロン(弟・ジャック・ジャンセン)、ニコール・キッドマン(シャルロット・ブレス)、ジョン・キューザック(死刑囚・ヒラリー・ヴァン・ウェッター)、デヴィッド・オイェロウォ(ライター・ヤードリー・エイクマン)、メイシー・グレイ(家政婦さん・アニータ)
1969年、フロリダ。マイアミ・タイムスの記者であるワード・ジャンセンは、ライターのヤードリー・エイクマンと共に生まれ故郷の町に帰ってきた。
そこに、死刑囚と文通を通して婚約中の女性シャルロットが依頼でやってきた。
「決定的な証拠もないのにヒラリー・バン・ウェッターは死刑執行される」というシャルロット。
二人は、ワードの弟で新聞配達人のジャックを運転手兼助手として、ヒラリー・バン・ウェッターが起こした事件について調査を始める。
時代設定としては今から30年前くらいだと感じた。異様な作品だった。
依頼にやってきたニコール・キッドマンを見て、彼らたちは一瞬で魅力にとりつかれたはず。
私も「え!これキッドマン・・・蓮っ葉なキッドマン、いや、それとも違うなぁ、男たらしキッドマンかな(すみません)」と思うくらいだ。
まだ二十歳前後のジャック(注目若手ザック・エフロン/新聞配達をしているが昼間はぶらぶらしている)なんて彼女との妄想シーンまで入っていた。
死刑囚を演じるジョン・キューザックはもう「壊れているセックス狂」としか言えない。
ジャンルとしてはサスペンス映画だが、ドロっとした不気味さが漂う「想像セックス場面」など興味深い場面がある。
と、書いたのはシドニーで観た(英語95パーセントわからない)時の感想。
まあ、大体の所は理解していたが、字幕で観た時「ジャックと黒人家政婦さんとの人間味のあるやり取り」が理解できていなかった。
じめっとした沼地が事件の場所だからっていうわけじゃないが、全体的に湿度が高い作品。
このところジョン・キューザックさん主演のホラー映画『コレクター』『殺しのナンバー』を続けて観たが、ホラーよりこちらの壊れたキューザックさんの方がリキが入っていた!
(美)
2012年/アメリカ/シネマスコープ/107分
配給:日活
(C)2012 PAPERBOY PRODUCTIONS,INC.
公式 HP >> http://www.paperboy-movie.jp/
監督:フローラン=エミリオ・シリ
出演:ジェレミー・レニエ、ブノワ・マジメル、モニカ・スカティーニ、サブリナ・セイヴク、アナ・ジラルド、マルク・バルベ
フランク・シナトラの名曲「マイ・ウェイ」。元はフランスの国民的大スター“クロクロ”ことクロード・フランソワが作った曲だった!
本作は、アメリカ進出目前に39歳で急逝したクロードの劇的な生涯を描いた物語。
1939年2月、エジプト・イスマイリア生まれ。フランス人の父はスエズ運河の通行管理をしていた実業家、母はイタリア人。一家は裕福な暮らしをしていたが、1956年、運河国有化と第二次中東戦争勃発で父が失業。モナコへ逃れるが、一転して貧しい暮らしに。クロードは銀行に勤めて家計を支えるが、仕事に夢を持てず、楽団のオーディションを受ける。ドラマーに抜擢され、ヴォーカルとしても注目を集め、クラブ歌手として成功する。しかし、家長としての絶対権力を持つ父は、死ぬまで息子の芸能活動を認めず会おうともしなかった。
1961年、父が亡くなり、クロードはパリに進出する。フィリップス・レコードに通い詰め売り込みをかけるが、フランク・シナトラを真似た歌唱法は時代遅れと酷評される。めげずにフィリップスに通い、ようやくレコード・デビュー。1曲目は全く売れなかったが、自ら歌詞を書き直したセカンド・シングル『ベル! ベル! ベル!』が200万枚を超える大ヒット。ジョニ-・アリディに次ぐフィリップスの看板スターとなる。
私生活ではアイドルのフランス・ギャルと交際するも、彼女の「恋するシャンソン人形」が大ヒットしたことを機に二人の恋は破局する。その失恋の思いを綴った「コム・ダビチュード(いつものように)」を、なんと、尊敬するフランク・シナトラが「マイ・ウェイ」のタイトルでカバーしてくれたのだった・・・
英語の歌として、あまりにも有名な「マイ・ウェイ」の曲が、元はフランス人が作ったものだったとは、この映画を観るまで知らなかった。
クロード・フランソワの名前も知らなかったけれど、ジェレミー・レニエが体現したクロクロは、実にエネルギッシュで、興味深い人物だった。(そばにいたら、きっと嫌な奴!)
「ドナドナ」のフランス語版をヒットさせたり、フランス流ロックンロールである“イエイエ”でスターの座を得たというから、小中学生時代に彼の歌声を聴いたことがあるのかもしれない。もっとも、フランスでは誰もが知るクロクロのことを、日本ではほとんど紹介されることがなかったそうなので、可能性は低い。
私の一番の関心事は、クロクロがエジプトで生まれ育ったことが、どんな風に彼の音楽人生に影響を及ぼしたかということ。映画の最後に流れた軽快な曲「アレキサンドリ、アレキサンドラ」の詞をじっくり噛み締めてみたい。(咲)
2012年/フランス/149分/カラー/スコープサイズ/ドルビーSR-D
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
後援:フランス大使館
公式 HP >> http://saigono-myway.jp/
監督・撮影・録音・編集:奥谷洋一郎
整音:黄永昌
制作協力:映画美学校ドキュメンタリー・コース研究科 江波戸遊土 遠藤協 風姫 筒井武文 畠山容平 Love Art Puff
取材協力:徳山四郎
宣伝協力:石井トミイ 久保田桂子 佐藤杏奈 シネトニウム 松久朋加 百石企画 吉田孝行 吉本伸彦 渡辺賢一
東京・多摩川の東京湾に流れ出る河口、モーターボートの修理をしながら、捨てられた船で暮らす一人の老人がいた。
いつも犬を傍らに、川岸で近所に住む人達と語らっていた。 老人はその犬をソレイユと呼んでいた。
ソレイユとはフランス語で太陽。ソレイユを家族のように慈しむ老人の姿を映し出すカメラ。
その老人は時折カメラに向かって話しかけるようになっていく。
東京の片隅に暮らす老人と犬たちを見つめるまなざしは、いつしか、忘れられた東京という街の記憶とも重なっていくのだった。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2011 アジア千波万波部門 特別賞 受賞
フランス シネマ・デュ・レエル2012 新人コンペティション部門出品
なら国際映画祭2012 新人コンペティション部門出品
故障したモーターボートなら、修理するよりも買い換えたほうが手軽だ。 ワイヤー一本の単純なことでも、自分の手で修理できる人はそうそういなくなってしまったし、 製造業者も、修理よりも買い換えを勧めるだろう。その方がお金は廻り、経済は発展する。 万事そんなふうにして、みんなが豊かになり、ちょっと忙しいけどこぎれいな暮らしを みんなが楽しんでいる…らしい。そういうところから見れば、おじさんとソレイユたちの暮らしは、 あんまり凝視すべからざるもので、あいまいに目をそらし、足早に通り過ぎなければならないような、 ちょっと危険な感じがするだろう。意識から遠ざけ、早く帰宅してテレビでも見て安心しなければならない。 おじさんは船の修理だけではなく、いろんなことをよく知っている。魚だってさばけるし、野菜だってつくっている。 スーパーやコンビニがなくなれば生きていけない人たちは、何でも自分でやろうとするこのおじさんよりも、 自分たちの方がよっぽど「危ない」ことに気づかない。たとえ胸がざわついても、こうしてカメラが凝視してしまった以上、 映画に付き合って、私たちはこのおじさんの暮らしを、その表情を、じっくりと観ることになった。 そこから先は…。うっかり時間どろぼうに大切な時間を盗まれないように、ときどきおじさんとソレイユのこどもたちのことを 思い出したいと思います。生きている時間が映し込まれている、稀有な映画だと思いました。(せ)
友人が映画美学校のドキュメンタリーコースに通っていたので奥谷君とも、そこで知り合いました。 (シネジャ本誌83号参照)。私も学生時代に新宿の見世物小屋の写真を撮っていたのです。 奥谷君の視線は本当に温かく丁寧だと思う。この作品は、まるで1冊の写真アルバムを見ているような綺麗な風景と時間が流れていた。光、そして命を見つめる映画です。(千)
2012/日本/カラー/デジタル/104分
配給:スリーピン
★7月20(土)~ 新宿K’sシネマにて2週間限定レイトショー ほか順次公開予定!
公式 HP >> http://www.cinetonium.com/
監督:キム・ジュホ
出演:チャ・テヒョン(『猟奇的な彼女』『永遠の片想い』『ハロー!?ゴースト』)、オ・ジホ(『寵愛』「チュノ~推奴~」「シングルパパは熱愛中」「僕の妻はスーパーウーマン」)、ミン・ヒョリン、ソン・ドンイル、コ・チャンソク
朝鮮王朝後期の1700年代。ドンム(チャ・テヒョン)は右議政イ・ソンホの庶子でありながら、学問に身を入れず、西洋かぶれの師匠とつるんでお気楽な日々を送っていた。そんなある日、ドンムと師匠は氷の独占を企む左議政チョ・ミョンスの策略にはまり反逆罪の汚名を着せられてしまう。拷問の末、師匠は死亡。さらに父ソンホもドンムの釈放と引き換えに朝廷を追われ、流罪となる。一方、採氷を取り締まる西氷庫別監ペク・トンス(オ・ジホ)は、生真面目な性格から左議政の目論む横流しに手を貸すことができず、反発を買って無実の罪で捕らえられてしまう。獄中にいるトンスの元にドンムが訪れ、左議政チョ・ミョンス一派への復讐として、氷の強奪計画を持ちかける。かくして二人は、様々な分野のプロ9名を仲間に引き入れる。耳の遠い爆弾製造のプロ、屁をこきまくる伝説の盗掘犯、変装・詐欺・引ったくりの達人など総勢11名。強奪決行は第22代王・正祖の即位式前夜。さて、彼らは計画通り作戦を実行できるのだろうか・・・
冬の間に作った氷を貯蔵しておいて、夏に庶民も含め、国民に氷を配るというのが王様の意向。それなのに、権力者である左議政一派は、横流しして自分たちの蓄財を図っていたのだ。ドンム率いる強盗一派は正義の味方という次第。飄々としたチャ・テヒョンと、妙に真面目な男が似合うオ・ジホの二人の掛け合いが楽しい。「トキメキ☆成均館スキャンダル」『私のオオカミ少年』で一躍人気のソン・ジュンギがカメオ出演しているというので、楽しみにしていたのに、寝てました・・・ どうぞお見逃しなく! (咲)
2012年/韓国/121分/カラー/シネスコ
配給:オリオフィルムズ、マクザム
公式 HP >> http://www.maxam.jp/tgh/
監督:イルマル・ラーグ
出演:ジャンヌ・モロー、ライネ・マギ、パトリック・ピノー
エストニアの田舎町。夫と離婚し、2年間介護した母も旅立ち、放心状態のアンヌに、パリで暮らすエストニア出身の老婦人宅の家政婦の仕事が舞い込む。パリの空港には、依頼人で、カフェを経営する中年男性のステファンが出迎えにきていた。瀟洒な高級アパルトマンに案内されると、老婦人フリーダはすでに就寝していた。夜のパリの町を散策するアンヌ。翌朝、朝食を出しながらエストニア語で話しかけるも返事はフランス語。しかも、アンヌが調達したのは本物のクロワッサンじゃない、とご機嫌斜めだ。
アンヌは、新聞の切抜きからフリーダが以前エストニア福音教会の合唱団に所属していたことを知って、教会を訪ね、かつての仲間の人たちを家に招待する。フリーダを喜ばせようと思ってのことだったが、思わぬ結果になる・・・
『クロワッサンで朝食を』という邦題からは、おしゃれなパリの暮らしを想像してしまうが、本作はそんな甘いものじゃない。フリーダはパリ在住のエストニア人とも断絶し、故国の兄とも縁遠くなっていたが、人生の終焉を迎え、故郷の母の隣に眠りたいと願う日々なのだ。『パリのエストニア女性』という原題が感じさせてくれる異邦人の味わう孤独や望郷の念が映画全体に流れている。でも、人生を謳歌する光も感じさせてくれる。アンヌに心を許し始めたフリーダは、自分のシャネルのコートを彼女にあげて一緒にカフェに繰り出したりもするのだ。
ジャンヌ・モロー演じる裕福で我儘な老婦人フリーダは貫禄たっぷり。若い頃からの男性遍歴も感じさせてくれて、歳を取ってもいつまでも女として輝いていたいと思わせてくれた。
一方、エストニアから傷心の思いを抱えて出てきたアンヌが、異国で様々な経験をするうちに少しずつ人生に前向きになっていく姿も素敵だ。実は監督のお母様がアンヌのモデル。パリでの経験でお母様は孤独から立ち直ったそうだ。エッフェル塔を観ながらクロワッサンを頬張るアンヌに監督のお母様の姿が重なった。(咲)
2012年/フランス、エストニア、ベルギー/フランス語、エストニア語/95分/ヴィスタ
配給:セテラ・インターナショナル
公式 HP >> http://www.cetera.co.jp/croissant/
監督:フローラン=エミリオ・シリ
出演:ジェレミー・レニエ、ブノワ・マジメル、モニカ・スカティーニ、サブリナ・セイヴク、アナ・ジラルド、マルク・バルベ
フランク・シナトラの名曲「マイ・ウェイ」。元はフランスの国民的大スター“クロクロ”ことクロード・フランソワが作った曲だった!
本作は、アメリカ進出目前に39歳で急逝したクロードの劇的な生涯を描いた物語。
1939年2月、エジプト・イスマイリア生まれ。フランス人の父はスエズ運河の通行管理をしていた実業家、母はイタリア人。一家は裕福な暮らしをしていたが、1956年、運河国有化と第二次中東戦争勃発で父が失業。モナコへ逃れるが、一転して貧しい暮らしに。クロードは銀行に勤めて家計を支えるが、仕事に夢を持てず、楽団のオーディションを受ける。ドラマーに抜擢され、ヴォーカルとしても注目を集め、クラブ歌手として成功する。しかし、家長としての絶対権力を持つ父は、死ぬまで息子の芸能活動を認めず会おうともしなかった。
1961年、父が亡くなり、クロードはパリに進出する。フィリップス・レコードに通い詰め売り込みをかけるが、フランク・シナトラを真似た歌唱法は時代遅れと酷評される。めげずにフィリップスに通い、ようやくレコード・デビュー。1曲目は全く売れなかったが、自ら歌詞を書き直したセカンド・シングル『ベル! ベル! ベル!』が200万枚を超える大ヒット。ジョニ-・アリディに次ぐフィリップスの看板スターとなる。
私生活ではアイドルのフランス・ギャルと交際するも、彼女の「恋するシャンソン人形」が大ヒットしたことを機に二人の恋は破局する。その失恋の思いを綴った「コム・ダビチュード(いつものように)」を、なんと、尊敬するフランク・シナトラが「マイ・ウェイ」のタイトルでカバーしてくれたのだった・・・
英語の歌として、あまりにも有名な「マイ・ウェイ」の曲が、元はフランス人が作ったものだったとは、この映画を観るまで知らなかった。
クロード・フランソワの名前も知らなかったけれど、ジェレミー・レニエが体現したクロクロは、実にエネルギッシュで、興味深い人物だった。(そばにいたら、きっと嫌な奴!)
「ドナドナ」のフランス語版をヒットさせたり、フランス流ロックンロールである“イエイエ”でスターの座を得たというから、小中学生時代に彼の歌声を聴いたことがあるのかもしれない。もっとも、フランスでは誰もが知るクロクロのことを、日本ではほとんど紹介されることがなかったそうなので、可能性は低い。
私の一番の関心事は、クロクロがエジプトで生まれ育ったことが、どんな風に彼の音楽人生に影響を及ぼしたかということ。映画の最後に流れた軽快な曲「アレキサンドリ、アレキサンドラ」の詞をじっくり噛み締めてみたい。(咲)
2012年/フランス/149分/カラー/スコープサイズ/ドルビーSR-D
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
後援:フランス大使館
公式 HP >> http://saigono-myway.jp/
監督・撮影・録音・編集:奥谷洋一郎
整音:黄永昌
制作協力:映画美学校ドキュメンタリー・コース研究科 江波戸遊土 遠藤協 風姫 筒井武文 畠山容平 Love Art Puff
取材協力:徳山四郎
宣伝協力:石井トミイ 久保田桂子 佐藤杏奈 シネトニウム 松久朋加 百石企画 吉田孝行 吉本伸彦 渡辺賢一
東京・多摩川の東京湾に流れ出る河口、モーターボートの修理をしながら、捨てられた船で暮らす一人の老人がいた。
いつも犬を傍らに、川岸で近所に住む人達と語らっていた。 老人はその犬をソレイユと呼んでいた。
ソレイユとはフランス語で太陽。ソレイユを家族のように慈しむ老人の姿を映し出すカメラ。
その老人は時折カメラに向かって話しかけるようになっていく。
東京の片隅に暮らす老人と犬たちを見つめるまなざしは、いつしか、忘れられた東京という街の記憶とも重なっていくのだった。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2011 アジア千波万波部門 特別賞 受賞
フランス シネマ・デュ・レエル2012 新人コンペティション部門出品
なら国際映画祭2012 新人コンペティション部門出品
故障したモーターボートなら、修理するよりも買い換えたほうが手軽だ。 ワイヤー一本の単純なことでも、自分の手で修理できる人はそうそういなくなってしまったし、 製造業者も、修理よりも買い換えを勧めるだろう。その方がお金は廻り、経済は発展する。 万事そんなふうにして、みんなが豊かになり、ちょっと忙しいけどこぎれいな暮らしを みんなが楽しんでいる…らしい。そういうところから見れば、おじさんとソレイユたちの暮らしは、 あんまり凝視すべからざるもので、あいまいに目をそらし、足早に通り過ぎなければならないような、 ちょっと危険な感じがするだろう。意識から遠ざけ、早く帰宅してテレビでも見て安心しなければならない。 おじさんは船の修理だけではなく、いろんなことをよく知っている。魚だってさばけるし、野菜だってつくっている。 スーパーやコンビニがなくなれば生きていけない人たちは、何でも自分でやろうとするこのおじさんよりも、 自分たちの方がよっぽど「危ない」ことに気づかない。たとえ胸がざわついても、こうしてカメラが凝視してしまった以上、 映画に付き合って、私たちはこのおじさんの暮らしを、その表情を、じっくりと観ることになった。 そこから先は…。うっかり時間どろぼうに大切な時間を盗まれないように、ときどきおじさんとソレイユのこどもたちのことを 思い出したいと思います。生きている時間が映し込まれている、稀有な映画だと思いました。(せ)
友人が映画美学校のドキュメンタリーコースに通っていたので奥谷君とも、そこで知り合いました。 (シネジャ本誌83号参照)。私も学生時代に新宿の見世物小屋の写真を撮っていたのです。 奥谷君の視線は本当に温かく丁寧だと思う。この作品は、まるで1冊の写真アルバムを見ているような綺麗な風景と時間が流れていた。光、そして命を見つめる映画です。(千)
2012/日本/カラー/デジタル/104分
配給:スリーピン
★7月20(土)~ 新宿K’sシネマにて2週間限定レイトショー ほか順次公開予定!
公式 HP >> http://www.cinetonium.com/
監督:キム・ジュホ
出演:チャ・テヒョン(『猟奇的な彼女』『永遠の片想い』『ハロー!?ゴースト』)、オ・ジホ(『寵愛』「チュノ~推奴~」「シングルパパは熱愛中」「僕の妻はスーパーウーマン」)、ミン・ヒョリン、ソン・ドンイル、コ・チャンソク
朝鮮王朝後期の1700年代。ドンム(チャ・テヒョン)は右議政イ・ソンホの庶子でありながら、学問に身を入れず、西洋かぶれの師匠とつるんでお気楽な日々を送っていた。そんなある日、ドンムと師匠は氷の独占を企む左議政チョ・ミョンスの策略にはまり反逆罪の汚名を着せられてしまう。拷問の末、師匠は死亡。さらに父ソンホもドンムの釈放と引き換えに朝廷を追われ、流罪となる。一方、採氷を取り締まる西氷庫別監ペク・トンス(オ・ジホ)は、生真面目な性格から左議政の目論む横流しに手を貸すことができず、反発を買って無実の罪で捕らえられてしまう。獄中にいるトンスの元にドンムが訪れ、左議政チョ・ミョンス一派への復讐として、氷の強奪計画を持ちかける。かくして二人は、様々な分野のプロ9名を仲間に引き入れる。耳の遠い爆弾製造のプロ、屁をこきまくる伝説の盗掘犯、変装・詐欺・引ったくりの達人など総勢11名。強奪決行は第22代王・正祖の即位式前夜。さて、彼らは計画通り作戦を実行できるのだろうか・・・
冬の間に作った氷を貯蔵しておいて、夏に庶民も含め、国民に氷を配るというのが王様の意向。それなのに、権力者である左議政一派は、横流しして自分たちの蓄財を図っていたのだ。ドンム率いる強盗一派は正義の味方という次第。飄々としたチャ・テヒョンと、妙に真面目な男が似合うオ・ジホの二人の掛け合いが楽しい。「トキメキ☆成均館スキャンダル」『私のオオカミ少年』で一躍人気のソン・ジュンギがカメオ出演しているというので、楽しみにしていたのに、寝てました・・・ どうぞお見逃しなく! (咲)
2012年/韓国/121分/カラー/シネスコ
配給:オリオフィルムズ、マクザム
公式 HP >> http://www.maxam.jp/tgh/
監督:イルマル・ラーグ
出演:ジャンヌ・モロー、ライネ・マギ、パトリック・ピノー
エストニアの田舎町。夫と離婚し、2年間介護した母も旅立ち、放心状態のアンヌに、パリで暮らすエストニア出身の老婦人宅の家政婦の仕事が舞い込む。パリの空港には、依頼人で、カフェを経営する中年男性のステファンが出迎えにきていた。瀟洒な高級アパルトマンに案内されると、老婦人フリーダはすでに就寝していた。夜のパリの町を散策するアンヌ。翌朝、朝食を出しながらエストニア語で話しかけるも返事はフランス語。しかも、アンヌが調達したのは本物のクロワッサンじゃない、とご機嫌斜めだ。
アンヌは、新聞の切抜きからフリーダが以前エストニア福音教会の合唱団に所属していたことを知って、教会を訪ね、かつての仲間の人たちを家に招待する。フリーダを喜ばせようと思ってのことだったが、思わぬ結果になる・・・
『クロワッサンで朝食を』という邦題からは、おしゃれなパリの暮らしを想像してしまうが、本作はそんな甘いものじゃない。フリーダはパリ在住のエストニア人とも断絶し、故国の兄とも縁遠くなっていたが、人生の終焉を迎え、故郷の母の隣に眠りたいと願う日々なのだ。『パリのエストニア女性』という原題が感じさせてくれる異邦人の味わう孤独や望郷の念が映画全体に流れている。でも、人生を謳歌する光も感じさせてくれる。アンヌに心を許し始めたフリーダは、自分のシャネルのコートを彼女にあげて一緒にカフェに繰り出したりもするのだ。
ジャンヌ・モロー演じる裕福で我儘な老婦人フリーダは貫禄たっぷり。若い頃からの男性遍歴も感じさせてくれて、歳を取ってもいつまでも女として輝いていたいと思わせてくれた。
一方、エストニアから傷心の思いを抱えて出てきたアンヌが、異国で様々な経験をするうちに少しずつ人生に前向きになっていく姿も素敵だ。実は監督のお母様がアンヌのモデル。パリでの経験でお母様は孤独から立ち直ったそうだ。エッフェル塔を観ながらクロワッサンを頬張るアンヌに監督のお母様の姿が重なった。(咲)
2012年/フランス、エストニア、ベルギー/フランス語、エストニア語/95分/ヴィスタ
配給:セテラ・インターナショナル
公式 HP >> http://www.cetera.co.jp/croissant/
期 間:2013年7月12日(金)~7月21日(日)10日間
会 場:SKIPシティ(映像ホール・多目的ホールほか) 〔埼玉県川口市上青木3-12-63〕
アクセス:会期中、JR川口駅東口キャスティ前臨時バス停より、SKIPシティまで直行の無料シャトルバスが20分間隔で運行されます。(所要:約12分)
http://www.skipcity-dcf.jp/access.html
車でお出かけの方には、上映チケットの半券提示で駐車料無料のサービスもあります。
デジタルシネマの新しい才能を発掘する目的で2004年にスタートした「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」も10周年を迎えました。長編・短編部門のコンペティション作品をはじめ、10周年特別企画として「ロッテルダムDAY」、「過去ノミネート監督新作上映」、過去3年の短編作品から「あなたが選ぶベスト3」など世界中から選りすぐりの秀作が集結します。また、映画以外にもSKIPシティ夏祭りなどイベントも盛りだくさん用意され、家族ぐるみで楽しめる映画祭です。
◆長編部門(国際コンペティション)
*国内作品
神奈川芸術大学映像学科研究室(2013年)
震動(2012年)
ロマンス・ロード(2012年)
*海外作品
セブン・ボックス(2012年/パラグアイ)
チャイカ(2012年/スペイン、グルジア、ロシア、フランス)
アメリカから来た孫(2012年/中国)
ぼくと叔父さんとの事(2012年/アメリカ)
オールディーズ・バット・ゴールディーズ―いま、輝いて―(2012年/チェコ)
フロントライン・ミッション(2012年/イスラエル、フランス)
ロシアンディスコ(2012年/ドイツ)
隠されていた写真(2012年/ポーランド、ドイツ、ハンガリー)
狼が羊に恋をするとき(2012年/台湾)
◆Dシネマの潮流2013 (オープニング作品)
燦燦-さんさん-(監督: 外山文治)
◆シネマ歌舞伎
籠釣瓶花街酔醒(2010年2月上演の収録版)
◆SKIPシティ・セレクション
Livespire グラインドボーン音楽祭 『ドン・ジョヴァンニ』
2010年7月(イギリス)上演の収録版
★10周年特別企画
◆ロッテルダムDAY<「ロッテルダム国際映画祭」特集上映>
ソルダーテ・ジャネット(2012年/オーストリア)
ザ・リザレクション・オブ・ア・バスタード(2013年/オランダ)
春夢(2012年/香港)
◆過去ノミネート監督新作上映
おだやかな日常(内田伸輝監督/2012年/日本)
THE FUTURE(ミランダ・ジュライ監督/2011年/ドイツ、アメリカ)
リルウの冒険(熊坂 出監督/2012年/日本)
◆傑作短編WEB投票「あなたが選ぶベスト3」上映
主 催:埼玉県、川口市、SKIPシティ国際映画祭実行委員会、 特定非営利活動法人さいたま映像ボランティアの会
公式 HP >> http://www.skipcity-dcf.jp/
>> Web版特別記事 祝10周年! SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
監督:日向寺太郎
脚本:原田裕文
原作:青来有一「爆心」(文春文庫刊)
撮影:川上皓市
音楽:小曽根真
出演:北乃きい(門田清水)、稲森いずみ(高森砂織)、柳楽優弥(廣瀬勇一)、北条隆博(山口光太)、渡辺美奈代(門田晶子)、佐野史郎(門田守和)、杉本哲太(高森博好)、宮下順子(高森瀧江)、池脇千鶴(高森美穂子)、石橋蓮司(高森良一)
長崎大学3年の門田清水は父母と3人家族。陸上部にうちこみ、医学生の恋人もいて青春を謳歌している。出掛けに母と口げんかをした日、デート中にかかってきた電話を無視して、気になりながら夜に帰宅すると母は心臓発作を起こし、ソファで亡くなっていた。「あの電話に出ていれば」と、清水は自分を許すことができない。
高森砂織は可愛い盛りの一人娘沙耶香を亡くして1年になるが、喪失感が大きくいまだ立ち直れない。クリスチャンの両親は悲しみながらも、孫の死を「神の思し召し」と乗り越えようとしてきた。砂織は再び妊娠するが、またわが子を失うのでは、という恐れに囚われる。母を亡くした清水と、娘を亡くした砂織は浦上天主堂近くで偶然出会い、心を通わせていく。
芥川賞受賞作家、青来有一氏の短編集「爆心」が原作。終戦から早68年にもなり、直接に戦争を知る世代がどんどん少なくなっていきます。映画では砂織の父が重い口を開いて当時のようすを語る場面があります。積極的に体験を語り続ける方もいらっしゃいますが、わが子にも話したくない方々も多いことだろうと思います。辛い記憶を呼び覚ましたくない、けれど言っておかなければ、という気持ちの間で揺れることでしょう。いろいろな世代の思いが少しずつ明らかになる映画でした。
主演の北乃きいさんの舞台挨拶を観たのは2006年の『幸福な食卓』(2006年)高校生だった北乃さんが、すっかり大人の女性になっていました。柳楽優弥さんが『戦慄迷宮』(2009年)より大分スリムになっていて一安心。
昔、転勤で3年間長崎に住みました。子供が通ったのは爆心地近くの小学校、原爆投下後たくさんの遺体が焼かれたそうです。知り合ったお母さんたちの中には被爆者のご家族もおられました。理不尽に家族を奪われてしまった怒りは、静かに胸の中に燃えているように思いました。(白)
2013年/日本/カラー/98分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:パル企画
©2013「爆心 長崎の空」パートナーズ
公式 HP >> http://bakusin-movie.com/
監督:山田大樹
脚本:坂上かつえ
撮影:小松原茂
音楽:吉川清之
出演:大地康雄(立石銀三郎)、佐藤B作(高峰庄太)、中井貴恵(高峰聡子)、村田雄浩(井上浩司)、中田喜子(小山昌子)、小宮孝泰(小山眞一郎)、宮田沙世(佐々木奈々)、小松美咲(日下部彩香)、井上正大(高峰健)、絵沢萠子(水沢志乃)、若村麻由美(水沢由紀江)、板尾創路(日下部民雄)、手塚理美(日下部和子)
立石銀三郎はバツイチの大道芸人。一人娘がいたが、別れて以来一度も会っていない。再婚した妻が娘と会うことを拒んだため、銀三郎の記憶の中で6歳の姿で止まったままだ。銀三郎の幼馴染の庄太は北海道で牧場を営んでいる。毎年里帰りと称しては出かけて一騒ぎしてくるが、今年は女子高生が農業体験に訪れてますます賑やかだ。仕事柄のせるのがうまい銀三郎は、彼女たちとすっかり仲良くなるが、その中で日下部彩香ひとりがうちとけない。彼女にはそれだけの理由があった。
主演の大地康雄さんが、北海道上川郡剣淵町を訪れた際、「絵本の館」での読み聞かせに感動して企画した物語。全国のイベントを巡る旅、人情家でいい女に弱い、と来ると寅さんを思い出します。寅さんと違うのは、一度は結婚して娘もいること。人と人の触れ合いやロケ地の自然、結婚引退後、読み聞かせを続けている中井貴恵さんが熱心な懇願を受けて、女優に復帰したのも見所。
大ポカをやってしまった銀さんが没頭する絵本の原画、とても印象的なポスターや題字は、あべ弘士氏によるもの。元旭山動物園の飼育係として長年勤務し得意の絵で動物園に大きく貢献しました。退職後は絵本作家として活躍しています。(白)
2013年/日本/カラー/129分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:『じんじん』全国配給委員会
©2013『じんじん』製作委員会
公式 HP >> http://www.jinjin-movie.com/
監督・脚本:リュ・スンワン(『生き残るための3つの取引』)
武術監督:チョン・ドゥホン(『G.I.ジョー バック2リベンジ』)
出演:ハ・ジョンウ(『チェイサー』)、ハン・ソッキュ(『シュリ』)、チョン・ジヒョン(『猟奇的な彼女』)、リュ・スンボム(『容疑者X 天才数学者のアリバイ』)
ドイツの首都ベルリンの高級ホテル。ロシア人ブローカーを通じてアラブ系組織幹部に新型ミサイル売り込みを図る北朝鮮の秘密工作員。CIAにも記録のない“ゴースト”と呼ばれる男ピョ・ジョンソン(ハ・ジョンウ)だ。その取引の様子をモニターで監視していた韓国の国家情報院の要員チョン・ジンス(ハン・ソッキュ)は、現場を取り押さえようと部下に突入を命じるが、イスラエル情報機関モサドの横やりが入り、取り逃がしてしまう。
なぜ、武器取引の情報が漏れたのか? ゴーストには北朝鮮大使館に通訳として勤める妻(チョン・ジヒョン)がいて、彼女が二重スパイではないかと疑われ、ゴーストも妻に疑いの目を向ける・・・。
かつては東と西の接点として緊迫した町だったベルリン。壁のなくなった町を背景に、対立する北朝鮮と韓国に加え、CIA、アラブ、イスラエル、ロシア等々、様々な組織の思惑が交錯。もう、何がなんだか・・・ ハ・ジョンウ演じる北の秘密工作員とチョン・ジヒョン演じる二重スパイを疑われる通訳の夫婦が、どんな運命をたどるのか、ハラハラドキドキ。追われる夫婦にハン・ソッキュ演じる韓国・国家情報院の凄腕ジンスが絡み、豪華なキャストにくらくら。・・・なのですが、何しろ、よ~く観ていないと、何がなんだか・・・なので筋を追うのが大変でした。(咲)
2013 年/韓国/カラー/シネスコ5.1chサラウンド/120分
配給:CJ Entertainment Japan
公式 HP >> http://berlinfile.jp/
監督:藤澤勇夫
プロデューサー:馬場民子
撮影:植田和彦、青木淳二、山田淳一
出演:早苗さんとお母さん、木村秋則さん、入り江さん一家ほか
早苗さんは新築された自宅でシックハウス症候群になった。近くのゴルフ場の農薬散布で重態となり、あちこちの医者を回る。「化学物質過敏症」という病気だとわかるまでに6年もかかった。水すら飲めない早苗さんの口に入るものをお母さんは必死で探す。ようやくめぐりあったのが、無農薬・無肥料で育てられた木村秋則さんの林檎だった。
1994年、大阪の入江さん一家も新築の自宅でシックハウス症候群を引き起こし、瞬く間に一家5人が化学物質過敏症となった。当時通学していた二人の息子さんは、周囲の無理解のためさらに症状が重くなり辛い道を歩む。
「化学物質過敏症」という病名は聞きかじっていましたが、それがどんなにたいへんな病気なのかこのドキュメンタリーで初めて知りました。私たちの周りには化学物質が10万種類もあるそうです。それは日々身体に取り込まれ蓄積されていき、ある限界を越えるとドッと反応するのだそうです。花粉症みたいですね。花粉症より怖いのは、日常にある多くのものが(ほんの微量であっても)呼吸困難や頭痛の原因になり、しかもまだあまり知られていないので、周りに苦しみが理解されないことです。便利な生活、または富を得るために開発されてきた化学物質が人間や環境にどんな影響を及ぼすのかわかるのは、使われてからずっと後のこと。単一でなく複合して現れる影響もあるでしょう。未来を想像すると怖いです。
木村さんが無農薬・無肥料で林檎を育てようとしたきっかけは農薬で体調を悪くした奥様でした。努力が形にならず無収入の日々が続き自殺しようと山に入った木村さんは、果樹園とは違うふかふかの土に驚きます。本来の土の力を取り戻すことに気付きます。できあがった林檎は早苗さんの口に入りました。早苗さんとお母さんは今、山で「呼吸のできる家」に住んでいます。
早苗さんは木村さんに林檎のお礼を言いたいそうです。けれど青森までの距離よりも、間を隔てるあまたの化学物質が問題。いつか実際に会えるときが来ますように。(白)
2012年/日本/カラー/115分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アークエンタテインメント
公式 HP >> http://www.inochinoringo.com/
監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター、スキップ・ホランズワース
撮影:ディック・ポープ
音楽:グレアム・レイノルズ
出演:ジャック・ブラック(バーニー・ティーディ)、シャーリー・マクレーン(マージョリー・ニュージェント)、マシュー・マコノヒー(ダニー・バック・デヴィッドソン)
テキサスで起こった
嘘みたいな
ほんとうの話
テキサス州の小さな町、カーセージ。葬儀屋で働くバーニーは、陽気で親切。社会活動にも熱心で誰からも好かれている。資産家の葬儀の世話をした彼は、その未亡人のマージョリー・ニュージェントを慰めに行く。気難しくて誰にも心を開かないマージョリーは町の嫌われ者、心遣いをする人などいない。突っぱねるマージョリーに寂しさを見て取ったバーニーは諦めずに訪問をくりかえし、ついに招き入れられる。誰にもバーニーを渡したくないマージョリーは、葬儀屋をやめさせて自分の世話係にした。まじめで優しいバーニーはできるだけ彼女に尽くしたが、あるときついに爆発してしまう。
本当にあった事件を元に脚色し、二人を知る住民のインタビューも登場させたブラック・コメディ。『スクール・オブ・ロック』のリチャード・リンクレイター監督、主演のジャック・ブラックが再びタッグを組みました。嫌われ者の老婦人にシャーリー・マクレーン、町全体を敵に回す地方検事にマシュー・マコノヒーが扮し、3人が3人とも好演。ジャック・ブラックは何をやっても憎まれず儲け役。いくらうざくても撃ったらダメでしょ(殺人です)、×××に隠しているし(死体遺棄?)、おまけにその後お金使いまくっているし(目的は良くても横領です)…それでも町の人はバーニーに好意的。本物バーニーは服役中で、ジャック・ブラックが面会する場面がエンドロールで流れますので、お見逃しなく。(白)
2011年/アメリカ/カラー/99分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:トランスフォーマー
©2011 Bernie Film, LLC and Wind Dancer Bernie, LLC. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://bernie-movie.com/
監督・脚本:ミゲル・ゴメス
出演:テレサ・マドゥルガ(『アブラハム渓谷』)、ラウラ・ソヴェラル、アナ・モレイラ(『トランス』)、カルロト・コッタ(『ミステリーズ 運命のリスボン』)
第一部「楽園の喪失」
ポルトガル、リスボンの町。一人暮らしの女性ピラールは、定年後、カトリックの団体に所属して社会活動を行ったり、平和の祈りに参加したりしている。12月28日、キリスト教集会に参加するポーランド女性を空港に迎えに行くが、肩すかしを食わされる。なんともやるせない気分で家に帰ると、彼女の隣に住む我がままな老女アウロラが、アフリカ人メイドのサンタに呪いをかけられていると被害妄想を起こして騒いでいる。いつものことと、サンタは静かに女主人を見守っている。
花火があがり、新年を迎える。アウロラが倒れ、病院に運びこむ。アフリカの夏を思い出しワニを見張らなくちゃとうなされるアウロラ。もう長くはないと悟った彼女は、ピラールにベントゥーラという男を連れてきてほしいと頼む。ベントゥーラを見つけ出し、車で病院に行く道々、彼は、若い頃、アフリカで出会ったアウロラとのことを語り始める・・・
第二部「楽園」
アウロラの父親は、アフリカのポルトガル植民地であるタブー山麓にやってきて、ダチョウの羽の枕で成功をおさめるが、若くして脳卒中で逝ってしまう。母親はアウロラを生んで直ぐに他界していて、一人残された彼女はメイドと家庭教師と共に優雅に暮らしていた。大学の卒業パーティーで出会った理想的な男と結婚し、幸せな日々をおくっていたが、ある日、流れ者的にタブー山麓にやってきたベントゥーラとお互いに惹かれあい、恋に落ちてしまう・・・
第一部の現代は35mm、第二部のアフリカ時代は16mmで撮影。いずれもモノクロだが、第二部は、登場人物自身の声は聴こえず、ベントゥーラが語る形で描かれている。50年前のポルトガル植民地戦争が始まった頃を背景にした燃えるように熱い恋物語は、まるでサイレント映画のよう。二人の恋のあやうい熱気がしっとりと伝わってくる。
翻って、前半は人生の終焉を迎えた女性の気持ちが静かに伝わってくる物語。
死を目前にして、最後に一目会いたい人・・・ あ~誰を呼んでもらおうかしら?(咲)
第62回ベルリン国際映画祭 アルフレッド・バウアー賞、国際批評家連盟賞受賞
2012年/ポルトガル・ドイツ・ブラジル・フランス/118分/b&w/スタンダード
配給:エスパース・サロウ
公式 HP >> http://neppa.net/
監督:ジョン・ラッセンホップ
脚本:アダム・マーカス
撮影:アナスタス・N・スミス
音楽:ジョン・フリッゼル
出演:アレクサンドラ・ダダリオ(ヘザー)、 ダン・イェーガー(レザーフェイス)、 トレイ・ソングス(ライアン)、タニア・レイモンド(ニッキ)、 トム・バリー(フーバー保安官)、 ポール・レイ(バート・ハートマン)
狂気の猟奇食人一家が村人たちに惨殺されてから20年後。
ヘザー・ミラー(アレクサンドラ・ダダリオ)に一通の手紙が届いた。
手紙には財産を相続するよう書いてあり、不思議に思ったヘザーは、両親に聞くと実の娘でないことを打ち明けられる。
突然の告白に驚くヘザーだが、出生の秘密が隠されたテキサス州ニュートへと向かう。
その頃に、友人たちとバカンス旅行を予定していたので、その旅に付き合ってくれることになる。途中、ガソリンスタンドでヒッチハイクをする男を同乗させ、5人の男女は相続される古びた大きな屋敷に到着した。
1974年に公開されたトビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』(この事件は実際に起きた農夫エド・ゲインの猟奇殺人が基)の続編。
今年、公開されたイライジャ・ウッド主演の『マニアック』では、頭皮(もちろん美しい髪の毛つき)を剥ぎ、ここでは顔皮をベリベリと・・・。
だが、5月に公開されたサム・ライミ監督の『死霊のはらわた』よりは血の量は少ない。
映画の冒頭で20年前の事件の発端が描かれているので、知らない方もストーリーがわかる様になっているからご安心を。
納得のストーリー展開で、いちゃもん無しホラー作品!
着地も成功している。まだ続きができそうな気がする!
う~ん、長生きするぞぉ~
※20年後という設定だが、2000年少し前にしては携帯がちと進歩しすぎ?と思ったが、公開されたら、もう一度観て確かめたい。
完全に現代とするなら、当時の赤ちゃんは40歳だし・・・。中年オバでは絵にならない。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/DCP/92分
配給:日活
公式 HP >> http://ikenie.jp/
監督・脚本:スコット・スチュワート
撮影:デヴィッド・ボイド
音楽:ジョセフ・ビシャラ
出演:ケリー・ラッセル(レイシー・バレット)、ジョシュ・ハミルトン(ダニエル・バレット)、ダコタ・ゴヨ(ジャシー)、ケイダン・ロケット(サム)
郊外の住宅地で平凡に暮らしているバレット一家。主人のダニエルは不況のあおりで失職し求職活動中。今は妻のレイシーが家計を支えている。ある晩レイシーは家の中に何かの気配を感じる。冷蔵庫が荒らされたり、食器がありえない形に積み上げられたりして警察に届けるが、真剣にとりあってもらえない。息子のジャシーとサムが疑われるが、二人にも覚えはない。その後も怪現象が続き、ダニエルは防犯ビデオカメラをあちこちに取り付けた。そして再生して見えたものは・・・。
『パラノーマル・アクティビティ』『インシディアス』のスタッフが作った新作ホラー。『リアル・スティール』(2011年)で、ヒュー・ジャックマンの息子役だったダコタ・ゴヨがすっかり大きくなって出演しています。サム役のケイダン・ロケットは実父がマジシャンなので、もっと小さなころから一緒に舞台に出ているんだそうです。とても落ち着いてみえるのはそのせい?
スピーディに展開するストーリーに、うまく挿入される驚きの場面。暑い日にお出かけください。ゾ~ッとして涼しくなりそうです。最近は一人でなく、グループでキャーキャーとお化け屋敷に入るようなノリで観るんですね。映画に行く前に公式サイトの「あなたも“何か”に選ばれている自己診断」テストをちょっとお試しを。(白)
2013年/アメリカ/カラー/96分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
©2013 ALLIANCE FILMS (UK) DARK SKIES LIMITED All Rights Reserved.
公式 HP >> http://ds-movie.jp/
監督:酒井充子
前作『台湾人生』で、台湾が日本の統治下にあった時代(1895年~1945年)に、日本語で教育を受けた「日本語世代」の老人たちを追った酒井監督。あれから4年、今回は、日本が台湾を去った後、228事件、白色テロの時代を生き抜いてきた彼らの長い道のりを描いている。
【映画に登場する6人の日本語世代の人たち】
◆高菊花(日本名:矢多喜久子/ツオウ族名:パイツ・ヤタウヨガナ)
1932年(昭和7年)生まれ。戦前は日本人と同じ小学校に通う。戦後、米国留学準備中の1952年、ツオウ族のリーダーで日本統治時代、警察勤めをしていた父・高一生(日本名:矢多一生)が逮捕され、その後処刑される。一家の生活を支えるため歌手となるが、国民党による尋問が続いた。1971年、自首証を提出し、17年ぶりにほぼ自由の身となる。
子供時代は日本式の生活で、母は和服、自分は日本人だと思っていた。戦後生まれの妹さんも彼女とは日本語で会話する。
◆鄭茂李(日本名:手島義矩、ツオウ族名:アワイ・テアキアナ)
1927年(昭和2年)生まれ。高菊花(喜久子)の父方の大叔父。18歳で海軍に志願、兵隊は名誉、完全な日本人と思っていた。兄も皆、日本のために働いた。阿里山郷の原住民族で最初に始めた茶の栽培が成功、何度も日本に旅行した。日本語を話したくなると、軽トラックを運転して喜久子に会いに行く。
◆黄茂己(日本名:春田茂正)
1923年(大正12年)生まれ。旧制中学卒業後、神奈川県にあった高座海軍工廠で飛行機製造に携わる。挺身隊員だった妻と知り合い、敗戦直後に日本で結婚。台湾には帰らないつもりだったが、1945年暮れ、父が病気に罹り台湾に帰る。小学校教員として定年まで勤めた。白色テロ時代は「本当の民主主義はこんなもんじゃない」と子供たちに伝え続けた。
◆呉正男(日本名:大山正男)
1927年(昭和2年)生まれ。東京の中学に進学し、在学中に陸軍特別幹部候補生に志願。現在の北朝鮮で敗戦。中央アジアの捕虜収容所で2年間、強制労働の後、1947年7月に日本へ戻るが、228事件後の台湾へは帰ることができなかった。日本で大学卒業後、横浜華銀に就職。日本人の妻との間に一男をもうけたが、帰化はしていない。横浜市在住。
◆宮原永治(台湾名:李柏青、インドネシア名:ウマル・ハルトノ)
1922年(大正11年)生まれ。インドネシア・ジャカルタ在住。1940年、18歳で志願。戦場を転々とし、戦後はインドネシアで過ごす。約千人の日本兵、インドネシアの青年たちとともに、オランダからの独立戦争を戦った。戦後、インドネシア国籍を取得。残留日本兵は現在、宮原氏ともうひとりの二人だけ。
◆張幹男(日本名:高木幹男)
1930年(昭和5年)、台湾人の父と日本人の母の間に生まれる。新竹工業学校在学中に日本敗戦。1958年、台湾独立派の日本語の冊子を翻訳しようとして「反乱罪」で逮捕され、28歳から36歳までの8年間、火焼島(現・緑島)の政治犯収容所で過ごす。出所後、日本語ガイドの仕事を見つけ、1970年に自ら旅行会社を立ち上げて、島帰りの政治犯を受け入れた。会社は、ガイドと事務スタッフ計150人の規模に成長した。
国民党による弾圧で父を失った方、政治犯として収容された経験者、シベリア抑留者、インドネシアの残留日本兵、日本で長年暮らすも帰化できない方・・・。戦後の台湾の人たちが経験した様々なパターンをバランスよく取り上げていて、日本が引き揚げたあとの台湾の現代史を垣間見ることのできるドキュメンタリー。また、日本統治時代を経験した人たちが、日本時代を懐かしむ思いもよく伝わってくる。まさに教育の力だと感じた。
前回、『台湾人生』の折に監督にインタビューさせていただいた折に、次は日本語世代の孫の世代が日本に対してどう感じているかを描きたいとおっしゃっていたが、続編という形で、日本語世代を取り上げられたのは、生き証人の方たちがどんどん旅立たれるという中で、時間との勝負という意味で正解だったと思う。(咲)
★酒井監督インタビューを、シネマジャーナル88号に掲載しています。
2013年/日本/102分
配給:太秦
監督・脚本:山口秀矢
撮影:山崎裕
音楽:関口知宏
出演:板倉俊之(竹内哲)、堤下敦(阿部弘)、きたろう(八木さん)、遠藤久美子(竹内純子)、烏丸せつこ(小森茂子)、関口知宏(近藤医師)、長谷川初範(制作会社社長)、新井康弘(金井プロデューサー)、藤田弓子(供養する主婦)
中村敦夫(阿部勇)
歩く道が違えば、人生の答えも変わる。
テレビ番組制作会社で、フリーディレクターとして仕事をしている竹内哲と阿部弘。自分の作りたい番組と実際の仕事とのずれに悩んでいたところ、富士山の樹海での自殺志願者多数という新聞記事に目を奪われる。新しいドキュメンタリー企画として独自に取材することにした。樹海の広さに驚き、いつ現れるともしれない対象を待ちつつ日が過ぎてゆく。ようやく出来上がった番組は高視聴率を獲得し、金一封が手渡される。周囲が次回作を期待し、二人は樹海の取材を続けていく。しかし進めていくにつれ、自殺志願の人々の背景に目をむけるようになる。彼らもまたそれぞれの家庭で悩み事や心配をかかえていた。
山口秀矢監督はテレビのドキュメンタリー番組を作って評価の高かった方。長編劇映画は初ですが、実際にあったエピソードに肉付けして脚本を作っていかれたようです。そういえば、以前樹海を扱ったテレビ番組を見たことがありました。モデルとなったそのディレクター氏たちが作っていたのかしら。
初主演となるインパルスのコントは知らなかったのですが、板倉さんは『ニセ札』など他の映画で観ていて印象に残っていました。この作品では自分の生活でも苦労をかかえながら、お金にころばず1本芯の通った生き方をしている哲を演じて好感度高し。 検索したらコントの動画がたくさんあったので、つい次々と観て、夜中に一人吹きだしていました。芸人さんたちは生の舞台でいろんな役割を演じているので、俳優はそう遠くないのでしょうか。コントでは厳しい突っ込みをしている堤下さんですが、この阿部役では熟女烏丸せつ子さんに誘惑されるすこし気弱で純情な青年。
自閉症の哲の長男が描いたという絵画がとても気になりました。資料に説明はありませんでしたので、監督ブログをチェックしなくちゃ。(白)
2013年/日本/カラー/127分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アーク・フイルムズ
公式 HP >> http://www.jukai-futari.com/
監督:ダン・スキャンロン
製作:コーリー・レイ
音楽:ランディ・ニューマン
声の出演:ビリー・クリスタル(マイク)、ジョン・グッドマン(サリー)、スティーヴ・ブシェミ(ランディ)、ヘレン・ミレン(ハードスクラブル学長)、アルフレッド・モリナ(ナイト教授)
子供の頃から“怖がらせ屋”になることが夢だったマイクは、名門のモンスターズ・ユニバーシティに入学した。勉強熱心なマイクは知識では誰にも負けなかったが、モンスターには大きなハンデとなる「可愛い」という欠点があった。怖がらせやの名家サリバン家の御曹司サリーは、そんなマイクがなにかと面白くない。二人は大事な授業中にとんでもない事件を起こし、学部を追放されてしまった。さあ、どうする?
2001年のヒット作『モンスターズ・インク』の前日譚。マイクの子供のころと、最恐の相棒となったサリーと出会った学生時代が描かれます。『モンスターズ・インク』ではサリーの「人の良さ」が存分に発揮されていましたが、学生時代のサリーはちょっと違いました。1作目を観なおしてからでも、こちらを観てからでも、両方観るのがおすすめです。
字幕版には錚々たるメンバーが声優として出演しています。お子様といっしょに3D版を観るなら字幕を追わずにすむ吹き替え版を。以前に引き続きマイクを田中裕二さん、サリーを石塚英彦さんが担当してぴったりです。声には体型も大きく関わるからか、アニメのキャラと日米の声優さんも似ているのがほほえましいですね。上映時間には短編『ブルー・アンブレラ』も含まれています。(白)
2012年/アメリカ/カラー/111分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
© 2013 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://monsters-univ.disney.co.jp/
監督:ブリランテ・メンドーサ
脚本:ブリランテ・メンドーサ、パトリック・バンカレル他
撮影:オデッセイ・フロイヤ
音楽:テレサ・バロッソ
出演:イザベル・ユベール(テレーズ・ブルゴアン)、ラスティカ・カルピオ(ソルダッド)、キャスリーン・ムルヴィル(ソフィ)
2001年5月、世界有数のリゾート地・フィリピンのパラワン島。
世界から集まった観光客が滞在する高級ホテルで夜中、イスラム原理主義アブ・サヤフグループが押し入り、観光客21人が誘拐された。
フランス系非営利団体のソーシャルワーカーのテレーズ・ブルゴワンと老齢の同僚ソルダットも事件に巻き込まれてしまう。
小さなボートに乗せられミンダナオ島に向かう。その途中、イスラムの教えや、それぞれの身分を聞き「いくら身代金が出せる」かを問い詰められる。
9月11日の同時多発テロの3ヶ月前にフィリピンでこんな事件が起こっていたとはこの作品をみるまで知らなかった。
ジャングルの中を人質の出身国と身代金の交渉をしつつ、密林の中をさまよう1年以上の人質生活は、筆舌に尽くせないだろう。
フランスを代表する女優イザベル・ユベールが命懸けで役に挑んだ様子が手足の傷を見てもわかった。 密林で襲い掛かるはヒル、蟻、蜂の大群、スコール…に救出を希望の光とする気持ちも日々の疲れが肉体や精神を蝕んでいく。
真っ正面から捉えているので、観ているこちらも「囚われ」ているように感じた。
書ききれないほど一場面一場面、監督さんの「気」が入っている。
この事件の起こるまでの差別の歴史やいまだに解決を見ていないこの事件を改めて注目したいと思った。
(美)
いきなり、誘拐場面から入り、後はほとんど海やジャングルの中を連れまわす場面、そしてフィリピン国軍からの銃撃と抵抗という場面ばかり。各自の事情に応じた身代金要求額を出したりという場面があったり、人質を手荒に扱うシーンばかりでないように表現した場面もあったけど、自分たちは何のためにこういう行動を起こしたかの場面がなく、なんだか消化不良だった。せめて、彼らの主義主張を語る場面が、もう少しあればと思った。そうすれば、彼らのことをもう少し理解できたかもしれない。
『チェ 28歳の革命』 『チェ 39歳 別れの手紙』にしても、ただ、彼らの行軍シーンばかりの映画だったけど、こういう映画を撮るときには、もう少し、彼らの考え方がわかる風に作ってくれないものかなと、いつも思う。世界は欧米の考え方が支配している。そうでない人の考えや行動を、ぜひ伝える映画がほしい。昨日、池上彰がやっている番組で、エジプト現政権のムスリム同胞団のことが紹介されていたが、出席者の中から、「イスラム過激派というのは怖い存在」という言葉が出てきた。世間一般にはこういう風に思われているのだろう。
それにしても、心情は理解できても、誘拐して人質を取るやり方は、どうにも理解できない。いい加減、こういうやり方は間違っているということ気がついてほしいと思う。この間のアルジェリアの事件のこともまだ記憶に新しい。(暁)
2012年/フランス、フィリピン、ドイツ、イギリス/カラー/ビスタサイズ/120分
配給:彩プロ
公式 HP >> http://captive.ayapro.ne.jp/
監督:想田和弘(『選挙』『精神』『Peace』『演劇1』『演劇2』)
出演:山内和彦
想田監督 観察映画第5弾
2005年、自民党公認候補として川崎市議会議員補欠選挙で当選した山さんこと山内和彦さん。2007年の統一地方選挙では自民党の公認が得られず不出馬。その後は政治からは遠ざかり、主夫として子育てに専念していた。
東日本大震災直後の2011年4月1日に告示された川崎市議会選挙。福島第二原発の事故で放射能汚染の不安が広がる中、候補者の誰もが原発問題に消極的なことに怒りを感じた山さん。公示日の4日前に、脱原発をスローガンに突如立候補を決意する。完全無所属での出馬。組織も資金も準備期間もなし。選挙カーでの連呼もしない。タスキや白い手袋も封印。選挙の総予算はポスターとハガキの印刷代8万4720円のみ。ポスターには、山さんが叫ぶ姿を中心に政策がびっしり書かれ、にっこり笑う他候補のポスターの中で異彩を放っている。山さんは179ヶ所に貼ったポスターを見回りがてら、想田監督と選挙区を車でまわる。さて、山さんは当選できるのか・・・
前作『選挙』は、自民党公認候補として白羽の矢を立てられ、組織ぐるみの選挙運動で、政治にはド素人だった山さんが当選するまでを描いたもの。こうして代議士は作られると、実に興味深い観察映画だった。今回の『選挙2』では、従来型の選挙運動を斜に構えてみながら、その対極にある候補者の姿を映し出している。選挙のたびに、さて誰に投票すべきかと悩む私。選挙運動はどうあるべきなのだろう・・・
投票日前日、初めて駅前広場での演説に挑む山さん。主要候補者たちが時間差で場所を確保していて、山さんは人通りの少ない駅の裏へ。放射能防護服にガスマスクを装着して脱原発を叫ぶ姿に、思わずエールをおくりたくなった。(咲)
都議選が6月、国政選挙は7月にあるというこの時期、タイムリーなドキュメンタリー。
どぶ板、連呼、握手など、既成の選挙運動を否定し、ポスターと葉書のみ、最終日に防護服で街頭演説というスタイルで戦った山さん。山さんと、他の候補の選挙戦を描くことで、日本の選挙制度の奇妙さについて、有権者が日頃感じている違和感が浮き彫りになってくる。これを見て、ぜひ日本の選挙のあり方に疑問を持つ人が増えてほしいと思う。
6月23日にあった東京都議選では自民党が圧勝したが、この選挙戦を通じて、今まで思ってきた私の疑問がよけい大きくなった。私の住んでいる武蔵野市は1人区。大田区や世田谷区など人が多い区は8人区だが、1人区というのは少数意見が抹殺される。1人区になってしまうところは2、3の市や区を一緒にして、せめて最低でも2人区からにするべきなのではないかと思う。得票率と各党当選者数率が、こんなに違うのではひどすぎる。これで民主主義といえるのだろうか。国政選挙は余計そういう状況で小選挙区制には疑問がある。
ちなみに、私が今まで投票してきた人はほとんど当選したことがない。それに投票したい人は他の選挙区で、入れてあげることができないということが多い。これでは選挙に行く気もなくなる。今回も投票率が低かったというが、きっと、投票に来なかった人の中には、こんな思いの人もいるでしょう。今回、しょうがないから今まで入れてこなかった党に入れたけど、やっぱりだめだった。今回はその党に頑張ってほしかったんだけど…。
ニュースを見ると、菅直人元首相や、安部晋三首相も地元に来たらしいけど、私は一度も見なかった(笑)。 (暁)
2013年/日本・アメリカ/2時間29分/HD
配給:東風
公式 HP >> http://senkyo2.com/
監督・脚本:ヤーロン・ジルバーマン
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、マーク・イヴァニール、キャサリン・キーナー、クリストファー・ウォーケン
結成25周年を迎えた弦楽四重奏団フーガ。記念演奏会の曲目は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番嬰ハ長調(作品131)。7楽章を休みなく演奏し続ける“アタッカ”奏法の異色の名曲だ。練習に励む最中、チェリストでリーダー役のピーターがパーキンソン病の告知を受ける。今季で引退を宣言し、残される3人に動揺が走る。チェリストの後任は? リーダーは誰に? 不協和音が鳴り響き始め、はたして演奏会はどうなる?
長年築き上げてきた人間関係が崩れるのをみて、人それぞれ調和を保ちながら生きていることをあらためて感じました。
また、思いもかけない発病。人生に永遠はないこと、いつしか英断しなければならないことも考えさせられました。
本作に使われたのが、休みなく演奏し続ける「アタッカ」奏法の曲であることが重要な鍵。(咲)
2012年カンヌ国際映画祭特別招待出品
2012年/アメリカ/106分/カラー/スコープ・サイズ/ドルビーSRD
配給:角川書店
公式 HP >> http://25years-gengaku.jp/
監督・脚本:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
撮影:カルロス・カタラン
音楽:ローラ・ロッシ
主題歌:セリーヌ・ディオン
出演:テレンス・スタンプ(アーサー)、ヴァネッサ・レッドグレイヴ(マリオン)、ジェマ・アータートン(エリザベス)、クリストファー・エクルストン(ジェームズ)
ガンコ者で無口なアーサーと、人付き合いが好きで陽気なマリオンは、正反対の性格ながら仲良し夫婦。マリオンはロックやポップスを歌うちょっと変わった合唱団で歌うのが楽しみだった。その名も「年金ズ」を指導するのは、若くて美人なのに恋愛ベタのエリザベス。コンクールのオーディションに出場することになった矢先、エリザベスのガンが再発した。「代わりに練習してきて」と愛する妻に頼まれたアーサーは、しぶしぶ合唱団に参加する。個性的な仲間たちとの出逢いは、アーサーの生活と性格を変えていく。
このところシニアの俳優さんたちが主演する映画が続いています。映画を観るのは若い観客ばかりでなく、日本でも4分の1を占めるだろうこの世代が観る映画は多くなくっちゃ。この「年金ズ」たちが抱える問題はひとごとではないので、感情移入しやすいはず。名優テレンス・スタンプとヴァネッサ・レッドグレイヴが劇中で披露する歌声に心震えます。セリーヌ・ディオンの“Unfinished Songs”は、この作品のための書き下ろした新曲。(白)
2012年/イギリス、ドイツ/カラー/94分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アスミック・エース
©Steel Mill (Marion Distribution) Limited 2012 All Rights Reserved.
公式 HP >> http://encore.asmik-ace.co.jp/
監督:佐久間宣行
脚本:オークラ、佐久間宣行
撮影:風間誠
音楽:岩崎太整
出演:川島省吾、小木博明、矢作兼、設楽統、日村勇紀ほかたくさん
川島省吾が撮影のため呼び出された山の中の温泉。どこからともなくおぎやはぎ、バナナマンたちの声が聞こえてくる。
「キス我慢選手権のスタートです!」
テレビと違って大勢のクルーがスタンバイする中、状況がまったくわからない川島省吾の24時間の旅が始まる。行く手に待ち構えるのは、セクシー美女軍団、暗殺者、ゾンビ、刑事たちほか多数。
土曜深夜の人気バラエティの名物企画だそうですが、テレビ番組を知らず展開の予想も全くつかないまま見始めました。目的が「24時間キスを我慢し続ける」っていうところがしょうもないですが、劇団ひとりの川島省吾が、相手の出方を観ながら全てアドリブで進めていく設定が新鮮でした。質問などは一切なしで、相手のセリフに頭をフル回転させている劇団ひとり(まさに孤軍奮闘です)を観る面白さ。スタートとゴールと、大筋が決まっているけれど、プレイヤーの働き次第で少し自由に動けるロールプレイングゲームみたいなものかな。これは反応によって、ロケ場所に行くのが早かったり遅かったりするでしょうから、スタッフは調整大変ですね。意外な人が意外な役で登場するのもお楽しみ。(白)
2013年/日本/カラー/112分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:東宝映像事業部
©2013「キス我慢選手権 THE MOVIE」製作委員会
公式 HP >> http://www.god-tongue.com/
監督:ジョン・ヒルコート
脚本:ニック・ケイヴ
撮影:ブノワ・ドゥローム
音楽:ニック・ケイヴ、ウォーレン・エリス
出演:シャイア・ラブーフ(ジャック・ボンデュラント)、トム・ハーディ(フォレスト・ボンデュラント)、ゲイリー・オールドマン(フロイド・バナー)、ミア・ワシコウスカ(バーサ・ミニクス)、ジェシカ・チャステイン(マギー・ボーフォード)、ジェイソン・クラーク(ハワード・ボンデュラント)、ガイ・ピアース(フロイド・バナー)、デイン・デハーン(クリケット)
1931年、禁酒法時代のアメリカ。バージニア州のフランクリンでは密造酒がさかんに作られ、ボンデュラント兄弟も密造酒で生計をたてている。腕自慢の長男ハワード、手堅い商売をする次男フォレスト、野心家の三男ジャック。ジャックは牧師の娘バーサに一目ぼれし、男を上げるためギャングとの取引を望んでいた。ハワードは都会から流れてきたマギーに心穏やかでない日々。そこへ新しい取締官レイクスが赴任し、これまでどおり密造に目をつぶるかわりに高額な賄賂を要求する。ガンとしてはねつけるフォレストだったが、冷酷なクレストは従わない者へ執拗な制裁を加え始めた。
原作は三男ジャックの孫マット・ボンデュラントが書いています。原題は「LAWLESS(無法)」。そんな時代に「絶対に死なない」という確信(?)のもと、武勇伝を残した圧倒的人気の三兄弟は、バージニアの「伝説」となって記念館まであるそうです。この復讐劇がほんとにあったことというのに驚きます。三兄弟とそれに絡む女性二人に人気・実力を備えた俳優をそろえて見ごたえのあるドラマを作っています。出色なのが取締官レイクスを演じたガイ・ピアース。そりゃ反則でしょ、と言いたくなるほどの外見&悪役っぷりです。あのぺったりした髪型に加瀬亮さん(役の上ですよ)を思い出しました。
もう一人、強い印象を残すのがクリケット役のデイン・デハーン。ボンデュラント家の使用人という配置ですが、ジャックはこのまじめで控えめな親友の言葉に耳を貸さず、悲劇の発端を作ります。ちょうど同じ時期に試写が回っていた『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』にもデイン・デハーンが出演していて、やはりおとなしめの高校生役なのに光っていました。要注目~!(白)
次男フォレストが筋の通った男で、ギャングと手を結ぶことも、取締官への賄賂も断るので、陰湿な脅迫や暴力が兄弟を襲うが「俺たちはどんなことがあっても死なない!」の強い確信が3人を貫いていた。
思いようによったら「馬鹿なヤツ」だが、実生活も平穏なうちに老歳になって病死したので、どこからそんな確信が生まれるのか不思議だった。
あまり光りがあたらないが、乱暴者で喧嘩に強い長男が酒びたりだったが、一番頷けた。
俳優さんは皆◎、特に密造酒の機械を工夫したり、修理したりしていたジャックの友人クリケット(ディン・デハーン)は良かった。
ねっとりした音楽、屋根のついた橋など、魅力いっぱいの作品だ。(美)
2012年/アメリカ/カラー/116分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
©MMXI by BOOTLEG MOVIE LLC. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://yokubou.gaga.ne.jp/
制作・脚本・監督:アモール・グプテ
出演:パルソー、デイヴィヤ・ダッタ、ラジェンドラナート・ズーチー
ムンバイのカトリック系ホーリーファミリー校。明るい性格でお話上手なスタンリー少年はクラスの人気者。でも、お昼になると彼は一人でどこかに行ってしまう。お弁当を持ってこられないことを知った級友たちは、少しずつ自分のお弁当をわけてあげる。ところが、そこに国語のヴァルマー先生がやってきて、生徒たちのお弁当をつまみ食い。おまけに、「お弁当を持ってこられない奴は学校に来る資格はない!」とスタンリーに言い渡す。翌日から学校に来なくなってしまうスタンリー。折りしも、学園対抗のコンサートが開かれることになり、スタンリーが出てくれればと、級友たちは彼を探しにいく・・・
ムンバイでお弁当と聞いて真っ先に思い出すのが、家庭から仕事場へのお弁当配送サービス。もう100年以上も続いている一大事業。ちょうどお昼時に届くように、配達先ごとに分類されたステンレス製の標準3段重ねのお弁当箱が列車や車に乗せられて運ばれていく。毎日175,000個以上のお弁当の家庭からの集荷と、事務所への配達を担うダッバーワーラー(ダッバー:お弁当箱 ワーラー:~する人)は、5000人近くもいるそうだ。お弁当箱がいくつも入ったケースを天秤棒のように担いで職場へ向かう様はお見事。お弁当箱には印が付いていて、愛妻弁当が夫の元に届けられるという次第。そこで、ふっと思った。子どもたちのお弁当を無理やりつまみ食いする国語のヴァルマー先生。彼にお弁当を作ってくれる家族がいない事情を映画は語らないけれど、子どもたちに意地悪するほど彼の人生は寂しいものなんだなぁと。あんな先生ありえない!と思ったけれど、スタンリーに両親がいなくてお弁当を持ってこられないのと同様、人それぞれ事情がある。
グプテ監督の母校で1年半の間、毎週土曜日に4時間を限度にワークショップを開いて撮影。子どもたちと遊ぶようにして自然な形で作り上げたという。主役のスタンリーを務めたのは、監督の実の息子パルソー君。小さい時からパパの短編に出ていたので、まさか長編映画の主役だとは思わなかったそう。とにかく可愛い!
歌も踊りも出てこないけれど、心のこもった手料理や友達の絆の大切さを感じさせてくれる素敵なインド映画。(咲)
2011年/インド/96分/カラー/16:9/ドルビーデジタル
配給: アンプラグド
公式 HP >> http://stanley-cinema.com/
監督:廣木隆一
脚本:高橋泉
撮影:鍋島淳裕
主題歌:関ジャニ∞「涙の答え」
出演:大倉忠義(藤井秀一)、桐谷美玲(沢村美佳)、ともさかりえ(中村夏子)、忍成修吾(ムース/武藤圭介)、波瑠(バッハ/小川恵子)、村上淳(南雲)、宮崎美子(藤井和代)、大杉漣(沢村康彦)
藤井秀一はバイク事故にあって、その前一年間の記憶が消えてしまった。事故から4年後、当時の恋人だった美佳と、共通の友人の結婚式で再会を果たす。しかし美佳の存在も秀一の記憶から抜け落ちている。なぜか周囲の友人も美佳本人もそのことを秀一に知らせなかった。そうとは知らず、秀一はもう一度美佳に惹かれていき、プロポーズするまでになる。
2005年中村航さんが発表した同名小説が原作。事故、記憶喪失、病気となんだか韓流映画みたいですが、そんなに濃くなく、2度恋に落ちる若い二人を静かに描いています。私はどうしても親のほうの気持ちになってしまうので、大杉漣さんの父親の辛さに泣けました。若い観客の方々は二人の気持ちにもっと寄り添っていけるんじゃないでしょうか。二人の住む家のインテリアや光の使い方などよかったです。ともさかりえさん演じる夏子のぶっきらぼうな暖かさも好き。(白)
2013年/日本/カラー/116分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
©2013中村航・小学館/「100回泣くこと」製作委員会
公式 HP >> http://100kai-movie.com/
製作:ソニー“Livespire”
映像提供:株式会社三波クリエイツ、株式会社東阪企画
制作協力:株式会社三波クリエイツ、株式会社テイチクエンタテインメント
出演:三波春夫
昭和の大歌手三波春夫の13回忌にあたる今年、生前のリサイタル映像をデジタルリマスターし、特別シネマ公演として再編された。収録されているのは1976年の「歌手生活20周年リサイタル 終り無きわが歌の道」、1994年の「芸能生活55周年記念歌舞伎座リサイタル」2公演の映像。
三波春夫さんは1923年7月生まれ。存命でしたら90歳。残念ながら2001年4月に亡くなられ、今年は13回忌となりました。
新潟県三島郡(現:長岡市)で誕生、13歳で家族と上京。築地の魚河岸に勤めながら浪曲学校に入学、16歳で浪曲師南篠文若として初舞台を踏みました。陸軍に入隊、終戦後、シベリアで捕虜生活を送ります。帰国後浪曲界に復帰。
1957年三波春夫として歌謡界に。デビュー曲の「チャンチキおけさ/船方さんよ」が大ヒットしました。和服姿で歌った男性歌手のさきがけです。歌手が座長の劇場1ヶ月公演の先鞭をつけた方でもあります。長編歌謡浪曲を自ら手がけ、新しい音楽とのコラボにも熱心でした。この作品では脂の乗り切った力強い50代、円熟味の増した70代の三波さんを観ることができます。初期の股旅物の名曲や、よく知られた「東京五輪音頭」「世界の国からこんにちは」がもちろん入っています。歌謡浪曲「元禄名槍譜 俵星玄蕃」では50代と70代での両方で聞けたのがとても嬉しかったです。張りのある三波さんの歌声を楽しみにお出かけください。(白)
2012年/日本/カラー/120分(休憩あり)
配給:ソニー“Livespire”
写真提供:三波クリエイツ/ソニーPCL
監督:J・A・バヨナ
原案:マリア・ベロン
脚本:セルヒオ・G・サンチェス
撮影:オスカル・ファウラ
美術:エウヘニオ・カバイェーロ
音楽:フェルナンド・ベラスケス
出演:ユアン・マクレガー(ヘンリー)、ナオミ・ワッツ(マリア)、トム・ホランド(ルーカス)、ジェラルディン・チャップリン(老女)、サミュエル・ジョスリン(トマス)、オークリー・ペンダーガスト(サイモン)
2004年12月、多くの人で賑わうスマトラ島。イギリス人のヘンリーとマリア、3人の息子たちもクリスマスのバカンスを楽しんでいた。突然海が膨れ上がり、大きな津波が全ての人を襲った。マリアと長男のルーカスは濁流に飲まれながらも、二人生き延びるがマリアは足に大怪我を負う。地元民に助けられ、病院に運ばれると目を覆うばかりの遺体と重傷者であふれていた。一方ヘンリーは次男三男とともにいた。子供たちを高台へ移し、ヘンリーは行方のわからないマリアとルーカスを捜し歩く。
東北を襲った大津波の惨状は今も目に焼きついています。この作品でも津波の襲う瞬間、泥とガレキに覆われたその後が描かれ(これでもかなり割り引いた描写だと思われます)、いやおうなく辛い記憶を呼び覚まされる人が多いことでしょう。驚くことにこの作品は奇跡的に再会を果たした家族の実話をもとにしています。どんなときにも希望を捨てず、より弱い人に手を差し伸べる母マリアにはぐっときました。ナオミ・ワッツ好演です。まるで洗濯機に放り込まれたような水中撮影はさぞ大変だったはず。
エンドロールにモデルとなったご家族の写真が出てきて、大きくなった素敵な男の子たちに、親戚のオバサンのように嬉しくなってしまいました。
命を奪われてしまった方々のご冥福を祈ります。(白)
2012年/スペイン、アメリカ/カラー/114分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:プレシディオ
©2012 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://gacchi.jp/movies/impossible/
監督:エイトール・ダリア
脚本:アリソン・バーネット
撮影:マイケル・グレイディ
音楽:デビッド・バックリー
出演:アマンダ・セイフライド(ジル)、ダニエル・サンジャタ(パワーズ)、ジェニファー・カーペンター(シャロン・エイムズ)、セバスチャン・スタン(ビリー)、ウェス・ベントリー(ピーター・フード)、ニック・サーシー(ミスター・ミラー)
一年前何者かに拉致・監禁され、辛くも逃げ出すことのできたジル。警察は犯人を追うが痕跡も見つけることができず、ジルは昔から持っている重い心の病からの虚言症と判断された。以後自分ひとりで、監禁された場所を探し続けていたが、常に誰かに狙われている感覚があった。ある朝、夜勤から帰ると妹モリーの姿がなく、とうとう犯人が戻ってきたと戦慄する。
被害者になった自分の主張が誰にも信じてもらえず一人証拠を探し続けるジル。二人きりの家族の大切な妹も自分と同じ目に遭ったのでは、と半狂乱になるジル。アマンダ・セイフライドが笑顔も見せず、テンション高く演じていて、これは彼女の妄想なのか、真実なのかと観客も半々の状態。
アメリカでは失踪者数が多く、誰もが手にする牛乳パックに写真入で「行方不明の子どもたち」の広告が載っているのを動画で見たことがあります。日本でも失踪届が出されて、未発見のままの人が年間1万人ほどいるとウィキペディアにありました。たまに見かける尋ね人の広告に、悲痛なアマンダの表情が浮かびました。無事でありますように。(白)
2012年/アメリカ/カラー/94分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
©2012 LAKESHORE ENTERTAINMENT GROUP LLC All Rights Reserved.
公式 HP >> http://findout-movie.jp/
監督:パルダザール・コルマウクル
脚本:アーロン・グジコウスキ
撮影:バリー・アクロイド
音楽:クリントン・ショーター
衣装:ジェニー・イーガン
美術:トニー・ファニング
出演:マーク・ウォールバーグ(クリス)、ケイト・ベッキンセール(ケイト)、ベン・フォスター(セバスチャン)、ジョヴァンニ・リビシ(ブリッグス)
かつて「世界一の運び屋」と言われた男クリス(マーク・ウォールバーグ)は、家族のために裏社会から足を洗い、平穏な日々を送っていた。
だが裏社会に出入りしていた妻の弟がコカインの密輸に失敗したことで、平穏な家庭に突然危機が迫った。
クリスは愛する家族を守るための唯一の方法「ニセ札の密輸」の実行を決意する。
クリスは以前の仲間と大型貨物船でパナマへ向かう。彼の行動に疑いを抱く船長や警察を相手に究極トリックを仕掛ける。
『テッド』の俳優さんだ。
昔、名うての悪人で、今は足を洗って家庭人、だけどやむにやまれない義理のために悪の道に舞い戻る…よくあるパターン。
話には新鮮味はないし、アクションが特別派手でもないが、世界一の運び屋と言われただけあって、先へ先へと手を打っていく頭の良さ、手際よさが心地好い。
義弟のせいで、子どもの前で撃ち合いになったり、妻(ケイト・ベッキンセール)は殺されそうになったりで大変な目に合う。子どもたちはトラウマになるのは確実。
だけど、頭の良くて目利きのクリスは、この騒動のなかでもしっかり「ある超高価なもの」を行きがけの駄賃に失敬していく場面は見事!
すっごく高くて一生地味になら暮らしていける値段。
カメラ◎、スピード感たっぷり、船の中もうまい具合に撮られている。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル/109分
配給:東京テアトル
公式 HP >> http://hardrush-movie.com/
監督:福田雄一
原作:青野春秋「俺はまだ本気出してないだけ」(小学館IKKICOMIX刊)
脚本:福田雄一
撮影:早坂伸、工藤哲也
音楽:ゴンチチ
美術:松塚隆史
出演:堤真一(大黒シズオ)、橋本愛(大黒鈴子)、生瀬勝久(宮田修)、山田隆之(市野沢秀一)、濱田岳(村上政樹)、石橋蓮司(大黒志郎)
バツイチの大黒シズオ(堤真一)は42歳。高校生の一人娘・鈴子(橋本愛)、父親の志郎(石橋蓮司)と3人暮らし。
「本当の自分を見つける」と勢いで会社を辞めてから1ヵ月たつが、朝から寝転んでゲームばかりしている。志郎はそんなシズオに毎日イライラして喧嘩が絶えない。
ある日、本屋で立ち読みをしていたシズオは突然「俺はマンガ家になる!」と宣言。
どこでどう自信をつけたのかわからないが、持ち前の図太さで出版社に持ち込みを続け、担当者の村上(濱田岳)に、妙なはげまし方をされて雑誌の掲載を目指していた。
すごく面白い! 何をやっても中途半端で、アルバイト人生のダメダメ親父(堤真一)と清純娘(橋本愛)、そして、いつもそんな息子を叱咤激励する小言お祖父さん(石橋蓮司)の三人家族。
そのダメダメお父さんが漫画家になると発奮するのだ。うまく行くわけない! と太鼓判おした私。でも、意外や意外…と言うわけで、これはオススメ!
ついでにこの監督さんの『変態仮面』(もう終わってしまったかな)も是非観ていただきたい。この変態仮面の身体のひねり方が、駄目オヤジ・堤真一がうまく中年の身体でこなしていたので驚いた。観ていない方にはわからないが、一人で大笑いしてしまった。
(美)
2013年/日本/カラー/ドルビーデジタル/105分
配給:松竹
公式 HP >> http://www.oremada.jp/
監督:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール(『ボヴァリー夫人』『8人の女たち』『愛、アムール』)、 ユ・ジュンサン(『黒く濁る村』『よく知りもしないくせに』『ハハハ』『次の朝は他人』「棚ぼたのあなた」)、チョン・ユミ(『よく知りもしないくせに』『教授とわたし、そして映画』『トガニ 幼き瞳の告発』)、 ユン・ヨジョン(『火女』『ハウスメイド』『ハハハ』)、 ムン・ソリ(『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』)、 クォン・ヘヒョ(『ラスト・プレゼント』「冬のソナタ」「私の名前はキム・サムスン」)、 ムン・ソングン(『冬の小鳥』『教授とわたし、そして映画』)
借金取りから逃れるため母親と一緒に海辺の町モハンへやって来た映画学校の学生ウォンジュ。時間を持て余した彼女は、フランス人女性アンヌを主人公に3つのパターンでひと夏の物語を書く。
青いシャツのアンヌは、有名な映画監督。赤いワンピースのアンヌは、映画監督と浮気中の人妻。そして、緑のワンピースのアンヌは、夫と離婚したばかりの女性。
それぞれのシチュエーションでモハンにやってきたアンヌの物語が繰り広げられる・・・
必ず登場するのが、オレンジ色のシャツを着たライフガード。英語でのやりとりは、どの物語もどこかちぐはぐで可笑しい。「ぼくはライフガードです。あなたを守ります」と熱く語るライフガード。また彼が登場した!と、ワンパターンなのだが、それぞれのアンヌが彼とどんな関係を結ぶのかが面白い。
ライフガード役のユ・ジュンサンは、テレビドラマ「棚ぼたのあなた」(2012年)で、キャリアウーマンの妻を暖かく支える理想的な夫役を演じて、韓国では「国民の夫」と大人気になった方。私自身、彼の出ている映画やドラマは今までにも観ていたのに、認識したのは「棚ぼたのあなた」が初めてだった。そこへきて、昨年秋、「ホン・サンス 恋愛についての4つの考察」として上映された4作品のうち、『よく知りもしないくせに』(09)、『ハハハ』(10)、『次の朝は他人』(11)の3作品にユ・ジュンサンが登場。『3人のアンヌ』は、ホン・サンス監督がユ・ジュンサンを起用した4作目の作品で、息のあったところをみせている。監督から海辺で撮影と聞いたユ・ジュンサンが持参したギターにやテント、そして小さな灯台型のランタンが、物語の鍵となる小道具となって出てくるのも楽しい。(咲)
2012 年/韓国/カラー/ドルビーSRD/ 89分
配給:ビターズ・エンド
公式 HP >> http://www.bitters.co.jp/3anne/
監督・脚本・編集:福間雄三
製作:福寿祁久雄
プロデューサー:櫻井陽一
原作: 太宰治
撮影:根岸憲一
美術:畠山和久
録音:田邊茂男
音楽:原將人 高野浩一
整音・音響編集:田邊茂男
衣装:佐藤真澄
メイク:貴島貴也
宣伝協力:吉田孝行 ほか
出演者:柴田美帆/川原崎未奈/真砂豪 ほか
女性の語りで書かれた太宰文学の名作を映画化。
「燈籠」「女生徒」「きりぎりす」「待つ」の四作品は1937年7月、日中戦争から1941年12月、真珠湾攻撃・太平洋戦争に執筆されさらに終戦、戦後までの太宰治の目を通し、少女たちが時代を感じ、いま、ひとりで生きていく決意の光と影の中で、「社会=世間」に対する抵抗と諦念が繊細な言葉となって紡がれていく。
自由に映画をつくる・見せるシステムづくりを横浜から発信する「幻野映画プロジェクト」という試みはたいへんすばらしいと思います。 プロとかアマチュアとかいう枠を超えて、映画を主体的に創造し、共有する時代が来ることを期待しています。監督も悩まれたようですが、「なぜ、今、太宰治か」という問いは、終映後も問いのまま残ったという印象です。中2病からなかなか抜けられなかった私は(笑)、大人になってからもけっこう太宰治も読んでいましたが、震災後の今、戦前戦中の文学を映像化するならば、太宰治よりも木山捷平がよかった。あるいは芹沢光治良がベストだと私は思います。(せ)
なんとなく見覚えのある風景は今住んでいる古河市の近く、栃木市で撮影された美しいシーンでした。字幕や声、音楽、着物など女子だったら「カワイイ!!」と思うこと必須。そして、この作品を見ながら「きっとIさんだったら、この映画ダイスキになるだろうなあ」なんて思っていたら、なんと、Iさんの経営する古本ギャラリー喫茶・点滴堂でも桜桃忌に合わせて“女生徒展”を開催するとのご案内が・・ 偶然にも二つの女生徒作品に囲まれ嬉しい私でした。(千)
2013年/日本/HDデジタル/カラー/106分
配給:マルパソ事務所
★6月15日(土)より横浜シネマジャック&ベティ、立川シネマシティにてロードショー! 順次全国公開予定。
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監督ナム・テクス
出演イ・ホンギ、マ・ドンソク、イム・ウォニ、ペク・ジニ、シム・イヨン
トップアイドルのチュンイ(イ・ホンギ)は、人の見ていないところでは無愛想で超我がまま。些細なことで通りすがりの男と暴力沙汰を起こしてしまい、社会奉仕活動としてホスピスに行かされる。家族に看取られ息を引き取る老女の姿にさっそく衝撃を受けるチュンイに、指導役のアンナ(ペク・ジニ)は容赦なくハードな仕事を命じる。彼女の「よくできました」のハンコをためないと奉仕活動から解放されないのだ。余命宣告を受けた末期癌の人たちが過ごすホスピスだが、若い人も多い。ヘビースモーカーの刺青男ムソン(マ・ドンソク)、夜の町に繰り出すボンシク(イム・ウォニ)、チュンイの写真を撮りまくる少女ハウン(チョン・ミンソ)・・・ おおよそ患者らしくない彼らはフェニックスというバンドを組んでいた。折りしもホスピスが資金難だと知ったチュンイは、皆のために曲を作り、オーディションで資金を獲得しようと奔走する・・・
ホスピスで、治療もせずに死を待っていることを疑問に思うチュンイ。実は父が母の延命治療を拒否したことにずっと反発の思いを抱えていたのです。死期が目の前に迫っている人たちが、一日一日を精一杯に過ごしている姿をみて、自分の夢を見つけることが一番大事だと気付くチュンイ。
幼い息子のために童話を書いている若いお母さんが出てきます。演じているシム・イヨンさんは、ドラマ「棚ぼたのあなた」で、年上の禿男の夫をひたすら慕っている純真な心を持つ女性を好演していた方。本作でも、幼い息子を置いて旅立たなければいけない母親の切ない思いをかもしだしていました。
もうかなり長い間生きてきて、好きなことをしてきた私ですが、さて、余命宣告を受けたらどうするだろうと考えさせられました。残された時間がどれだけあるのかわからないけれど、悔いのないよう、毎日楽しくをモットーに過ごそうと思います。(咲)
「余命宣告受けたら銀行強盗をしてみたい」と答えたイ・ホンギの笑いに満ちた記者会見レポートもあわせてお読みください。
→ 特別記事 『フェニックス~約束の歌~』イ・ホンギ来日記者会見
2013年/韓国/100分
配給:東宝東和
公式 HP >> http://phoenix-band.jp/
監督:市井昌秀
脚本:市井昌秀、田村孝裕
撮影:相馬大輔
音楽:高田漣
出演:星野源(雨雫健太郎)、夏帆(今井奈穂子)、平泉成(健太郎の父)、森山良子(健太郎の母)、大杉漣(奈穂子の父)、黒木瞳(奈穂子の母)、穂のか、柳俊太郎、竹内郁子、古舘寛治
市役所に勤める雨雫健太郎は35歳、独身。いまだ実家住まいで、昼食は毎日家に戻って食べている。内気で友だちはなく、ペットの蛙と格闘ゲームだけが楽しみ。彼女いない歴も35年、もちろん童貞。結婚するようすのない健太郎を心配した両親は、親同士がお見合いをする「婚活」を始めた。そこで出会ったのが今井夫婦。一人娘の奈穂子は、子供のころの病気がもとで今は全く目が見えなくなっていた。両親はそんな奈穂子を溺愛し、父親は「市役所勤め」という健太郎のプロフィールを一瞥しただけで、雨雫夫婦から離れていってしまう。
健太郎は土砂降りの中、雨宿りしている女性に自分の傘を差し出したことがあった。両親が持ち帰った資料の写真に健太郎は驚く。口には出さなかったが、件の傘の女性は奈穂子だった。奈穂子の母も傘に貼られた健太郎の名前に気づき、その心根に好感を持っていた。
試写を観てからネットで捜してみると、親の代理見合いをサポートする会やネットがたくさんありました。決断するのは本人だけれど、それまでを親や会が応援しようというのは、ずいぶんと過保護です。しかし、子供の数が減り、学歴と結婚年齢が上がり、独身者同士の出逢いの機会が減っているこのごろ。もともとお見合いの習慣があった日本ですから必要に応じて生まれてきたもののようです。
大事に育ててきた一人息子と一人娘の結婚騒動を描いたこの作品、絶妙のキャストを得て、親と子、どちらの世代にも共感できるはず。星野源さんは俳優、音楽、文筆にとマルチな才能のある方ですが、私はこの作品で初めて認識しました(テレビを殆ど観ないので)。どんな背景にも溶け込んでいきそうな、どんな色にも染まりそうなその「個性」は俳優としてとても貴重ではないでしょうか。可憐な奈穂子に初めて恋して、前半と後半ですっかり変わる健太郎がすごく説得力ありました。爆発する健太郎を思わず応援し、号泣する夏帆さんに貰い泣きしてしまいました。ただ「婚活の勝負写真」に、あれはありえないでしょう、監督~。(白)
2012年/日本/カラー/117分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:キノフィルムズ
© 2013「箱入り息子の恋」製作委員会
公式 HP >> http://www.hakoiri-movie.com/
監督:ジャン=ポール・ジョー
製作:ベアトリス・カミュラ・ジョー
ナレーション:フィリップ・トレトン
2009年、フランスである動物実験が極秘に開始された。それはラットのエサに遺伝子組み換えトウモロコシ、農薬(ラウンドアップ)を、いくつかの組み合わせで混ぜて与えた長期実験だった。実験期間は、ラットの寿命に相当する「2年」である。市場に流通している遺伝子組み換え食品の安全基準は、ラットに遺伝子組み換え作物を「3ヵ月間」与え続けても問題がないという実験結果をもとにしている。しかし4ヶ月目から影響が現れ、実験を終えるまでに腫瘍が肥大していくラットが多数出現する。遺伝子組み換え作物を作る人、運ぶ人、食べる人はどうかカメラが追っていく。
もうひとつ人類が作り出した命を脅かすもの「原子力」と、この「遺伝子組み換え」は密接に関係している。米国は原爆につぎ込んだ金と技術者を使って、ヒトゲノムの解析を始め、そこから遺伝子組み換え技術が誕生したのだから。この二つに共通するのは「後戻りができないこと」「すでに世界中に拡散していること」「体内に蓄積されやすいこと」。では私たちはどうしたらいいのだろうか? 未来へ何が残せるのか? 作品は問いかける。
スーパーで「遺伝子組み換え食品は使用していません」と書かれたものを見たことがあるでしょう。あまり話題にならずその危険性を知らない人が多いかと思います。『未来の食卓』(2008年〕『セヴァンの地球のなおしかた』(2010年)で警鐘を鳴らしてきたジャン=ポール・ジョー監督は、今回“遺伝子組み換え”と“原発(原子力)”を同じ俎上に並べました。
フランスの実験結果を見ると、安全基準が信じられなくなります。意図的に、悪い結果が出る前で期限を切ったのではないか、と勘ぐってしまいます。遺伝子組み換え作物と農薬は同じ大企業が作っています。種のできない作物を作り出して毎年種を買わせ、農薬もたっぷり使用。企業利益が優先です。その恩恵を受ける政治家は、法律を作れます。どこかの何かの図式と似ていないでしょうか?
世界に津波の恐ろしさと「フクシマ」の名を浸透させた原発事故の地へも監督は訪れます。自分も被曝する恐怖と戦いながら、そこから逃げ出さない人々と話します。どれだけの真実に蓋がされているのか?
福島に住んでいない私たちが日々記憶を薄れさせていけば、一時盛り上がった気分は立ち消えとなり原発は再開されるでしょう。ただ、知ってしまった以上、なかったことにはできません。大きな視点で考え、小さなことから行動するのが大事と気付かされました。(白)
2012年/フランス/カラー/118分/
配給・宣伝:アップリンク
公式 HP >> http://www.uplink.co.jp/sekatabe/
監督・脚本:ウディ・アレン
撮影:ダリウス・コンジ
出演:ウディ・アレン(ジェリー)、アレック・ボールドウィン(ジョン)、ロベルト・ベニーニ(レオポルド)、ペネロペ・クルス(アンナ)、ジュディ・デイヴィス(フィリス)、ジェシー・アイゼンバーグ(ジャック)、グレタ・ガーウィグ(サリー)、エレン・ペイジ(モニカ)
その1:ニューヨーカーのヘイリーは、夏休みを利用してローマにやってきた。通りかかった男性に道を尋ね、まるで映画のような恋に落ちる。唐突に婚約したという娘のため、ヘイリーの両親ジェリーとフィリスがローマに飛んできた。相手の男性ミケランジェロの家を訪ねると、素晴らしい美声が聞こえる。葬儀屋を営む父親はオペラ好きだった。元オペラ演出家としてのジェリーの血が騒ぐ。
その2:新婚カップルのアントニオとミリーは、田舎からローマに着いたばかり。アントニオの親戚に就職口を頼んでこちらで暮らすつもりだ。ミリーが出かけている間に、手違いでコールガールのアンナが訪ねてくる。仰天するアントニオが追い返そうと躍起になっているところに、折悪しく親戚一同が現れる。アントニオは思わずアンナを妻だと紹介してしまう。そのころ道に迷ったミリーは、映画のロケ現場に遭遇、憧れのスターのサルタに出会って舞い上がっていた。
その3:著名な建築家のジョンは30年前に住んだ横丁を散歩していて、建築家志望のジャックと知り合う。ジャックは恋人サリーと同居中だったが、サリーの親友の売れない女優モニカが転がり込んできて、小悪魔のような彼女に心がかき乱されていく。
その4:平凡な中年サラリーマンのレオポルド。突然マスコミやパパラッチに囲まれ、あれよあれよというまに有名人になってしまった。わけがわからないまま、レオポルドは夢のような日々を送る。
『恋のロンドン狂騒曲』、『ミッドナイト・イン・パリ』ときて、今回はイタリアのローマが舞台。ウディ・アレンの三都物語の締めくくりなのか、前にもまして豪華な出演陣です。それぞれ1本の映画にもできそうな4つの物語が少しずつ繋がって、最後に大団円を迎えます。4つに共通する「人に認められたいという欲望」、アレン監督らしく皮肉な目線で描いています。こういうストーリーは編集が命だろうと見ると、アリサ・レプセルターという方、監督とのタッグが14本だそうです! きっとすっかり息が合っているんだと想像がつきます。
久しぶりにウディ・アレン本人がオペラ演出家に扮し、お馴染みの早口で期待どおりに何かやらかしてくれます。出ないほうがいいような気もするけれど、出てみるとこれは他の人じゃなく、やっぱり本人がいいわと思えます。ペネロペ・クルスが娼婦のアンナ役で、ぴったりしたミニワンピースでダイナマイト・ボディを見せ付けて貫禄。現役オペラ歌手のファビオ・アルミリアートがオペラ好きの葬儀屋役で、思いがけない場所でテノールを聞かせますのでお楽しみに。ローマの観光地がくまなく登場し、ロケ地めぐりをしたら楽しそうです。行きたいなぁ~!(白)
2012年/アメリカ、イタリア、スペイン/カラー/111分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ロングライド 宣伝:ザジフィルムズ
©GRAVIER PRODUCTIONS,INC.photo by Philippe Antonello
公式 HP >> http://romadeamore.jp/
監督:ジョン・M・チュウ
脚本:レット・リース
撮影:スティーヴン・ウィンドン
音楽:ヘンリー・ジャックマン
出演:チャニング・テイタム(デューク)、ブルース・ウィリス(ジョー・コルトン司令官)、ドウェイン・ジョンソン(ロードブロック)、エイドリアンヌ・パリッキ(レディ・ジェイ)、レイ・スティーヴンソン(ファイヤーフライ)、D・J・コトローナ(フリント)、イ・ビョンホン(ストームシャドー)、レイ・パーク(スネークアイズ)、ジョナサン・プライス(大統領)、RZA(ブラインドマスター)、エロディ・ユン(ジンクス)、ファラン・タヒール(コブラコマンダー)、アーノルド・ヴォスルー(ザルタン)
世界最強の極秘チーム“G.I.ジョー”が訓練中に奇襲攻撃を受け、メンバーが次々と倒れていった。あろうことか抹殺の指令を出したのはアメリカ大統領だった。生き残ったのはデューク、ロードブロック、レディ・ジェイらわずか数名。彼らは誰が味方かわからない今、自分たちは死んだものとして姿を消し、秘かにその真相をさぐることになった。あらたな司令官として、ジョー・コルトンに白羽の矢をたてる。カレは初代G.I.ジョーと呼ばれ、伝説となった男だった。一方、暗殺者ストームシャドーが復活し、テロ組織“コブラ”は再び勢力を拡大していった。
映画が開始していきなり壮絶なバトル、5分で壊滅してしまった“G.I.ジョー”に、ど、どうなるの~? いいメンバーが残ったうえ、この人しかいません、と引っ張り出されるジョー・コルトン司令官(ブルース・ウィリス御大)。引退したはずなのに、家に隠し持つ武器の数々に唖然。強大な助っ人も加えて、第1作(2009年)にも増して派手なアクションの連続に、瞬きするヒマもありません。舞台も武器も車もめいっぱいお金かけています。前作での人気をうけて(たぶん)復活したストームシャドーのイ・ビョンホンはまたまた脱がされて綺麗な筋肉を見せ(びらかし)ています。そのおかげで火傷しちゃうのですが。とってもいい役どころで見せ場も多いので、ファンはお楽しみに。
今回から参戦したドウェイン・ジョンソン〔1972年生まれ〕は、ひときわ目立つ大男。祖父から三代続いたプロレスラーだったそうで、史上最年少26歳でWWF世界王者決定トーナメントを制してもいるそうです。ほ~。その後映画に進出し半端ない存在感をかもし出しています。今後も注目!
ジョン・M・チュウ監督作品はこのほかに『ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー』(2011年)が公開されていますが、ほかにはダンス映画のようですし、これまでと全く違う大掛かりなアクション映画をよく作り上げたものと感心しました。(白)
2013年/アメリカ/カラー/111分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:パラマウント
© 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://www.gi-j.jp/
今年で11回目となる「EUフィルムデーズ」。欧州連合(EU)加盟27カ国中21カ国と、7月1日加盟予定のクロアチアの計22カ国の作品が一挙上映されます。映画祭でしか上映されていない作品や、日本初上映の作品も多く、ヨーロッパ諸国の多様な映画を楽しめる貴重な機会です。
出品国 | 作品名 | 監督 | 製作年 |
アイルランド | 『メン・アット・ランチ』 | ショーン・オ・クーローン | 2012年 |
イタリア | 『やがて来たる者』 | ジョルジョ・ディリッティ | 2009年 |
エストニア | 『マゴット・フィーダー』『ヴィラ・アントロポフ』他 | 複数 | 2008年 ~ 2012年 |
オーストリア | 『呼吸』 | カール・マルコヴィックス | 2011年 |
オランダ | 『旅の始まり』 | マルヒン・ロハール | 2011年 |
クロアチア | 『沈黙の戦場』 | クリスチアン・ミリッチ | 2007年 |
スウェーデン | 『悔やむ人々』 | マルクス・リンデーン | 2010年 |
スペイン | 『マルティナの住む街』 | ダニエル・サンチェス・アレバロ | 2011年 |
スロヴァキア | 『アプリコット・アイランド』 | ペテル・ベビヤーク | 2011年 |
チェコ | 『新しい毎朝をありがとう』 | ミラン・シュタインドレル | 1994年 |
ドイツ | 『ドイツの空から』 | ペトラ・ヘーファー/フレディー・レッケンハウス | 2012年 |
ハンガリー | 『死と乙女という名のダンス』 | アンドレ・ヒューレス | 2011年 |
フィンランド | 『ハートビーツ』 | サーラ・カンテル | 2009年 |
フランス | 『ラブ・イズ・イン・ジ・エアー』 | レミー・ブザンソン | 2005年 |
ブルガリア | 『砂上の足跡』 | イヴァイロ・フリストフ | 2010年 |
ベルギー | 『HASTA LA VISTA -オトコになりたい-』 | ジェフォリー・エントホーヴェン | 2009年 |
ポーランド | 『他人の手紙』 | マチェイ・J・ドルィガス | 2010年 |
ポルトガル | 『アマリア』 | カルロス・コエーリョ・ダ・シルヴァ | 2008年 |
ラトビア | 『ドリーム・チーム1935』 | アイガルス・グラウバ | 2012年 |
リトアニア | 『再会』 | クリスティヨナス・ヴィドジューナス | 2010年 |
ルーマニア | 『ファンタム・ファーザー』 | ルチアン・ジェオルジェスク | 2011年 |
ルクセンブルク | 『ミッドナイト・アングル』 | クリストフ・ヴァグナー | 2012年 |
過去に映画祭で観た作品の中からピックアップして紹介します。
◆『旅の始まり』 オランダ 監督:マルヒン・ロハール
*SKIPシティ国際Dシネマ映画祭(2012年)上映作品
3週間のバカンスに出ようとしていた一家。おじいさんが末期癌を宣告され、旅を取りやめる。「死んだらどこに行くの?」と聞く孫娘をおじいさんが葬祭場に連れていくシーンが絶妙。葬儀が終わると棺はボタン一つで地下に降りていく。「そのあとは焼く」と聞いて目をぱちくりする孫娘。人はいつか死ぬことを子供にも直球で伝えるところが凄い。最近はオランダでも宗教色のない葬儀や火葬が増えていることも垣間見せてくれる興味深い作品。
映画祭には、脚本を書いたタイス・ファン・マーレさんが来日。7歳の孫娘を演じたスカイラーちゃんが、コンピューターのごとく台詞を正確に覚え、自分の言葉として発信できる天才的な少女だったことを明かしてくれた。(咲)
公式 HP >> http://www.eufilmdays.jp/
監督・原作・製作:ジョセフ・コシンスキー
製作:ピーター・チャーニン、ディラン・クラーク
脚本:カール・ガイダシェク、マイケル・デブライン
撮影:クラウディオ・ミランダ
プロダクションデザイン:ダーレン・ギルフォード
音楽:M83
出演:トム・クルーズ(ジャック・ハーパー)、モーガン・フリーマン(ビーチ)、オルガ・キュリレンコ(ジュリア)、アンドレア・ライズブロー(ヴィクトリア)、ニコライ・コスター=ワルドー(サイクス軍曹)、メリッサ・レオ(サリー)
2077年。60年前地球はスカヴ(ハゲタカ)と呼ばれるエイリアンに侵略された。長い戦いを続けたが地球は壊滅。生き残った人類は他の惑星へ移住し、新たな文明を築こうとしていた。無人となった地球にはまだ水資源が残されていて、無人偵察機ドローンが縦横に飛び回ってパトロールしている。ジャックは、妻のヴィクトリアとともに地球に残り本部の命を受けて地球を監視、ドローンの管理をしている。ジャックの5年間の任務も残りわずかとなったとき、墜落していく宇宙船を目撃する。ヴィクトリアの反対を押して現場に行ったジャックは、カプセルの中に眠る女性を発見した。ジャックの夢の中に繰り返し出てくる女性と酷似しているが、誰なのかどうしても思い出すことができない。任務についたときに以前の記憶は消去されていたのだ。目覚めた女性は「ジャック…」と呼びかける。
先日『アウトロー』を観たばかりなのに、早くも新作公開。この後も予定が詰まっているようで、トム・クルーズほんとによく働きます。宣伝のために続けて来日したトムが「とても美しい映画」と紹介していました。『トロン:レガシー』のジョセフ・コシンスキー監督が原作も兼ね、戦争で人が住めなくなり、荒廃した地球をとても美しく描いています。科学が進歩していて、人類はほかの惑星に移住し、ジャックは妻と二人、1000m上空のスカイタワーから地球の監視をしているという設定。この住環境もジャックが乗り回すバブルシップやバイクの造形がシャープ&クール。衣裳も含めて青や灰色の限られた色使いのせいでしょう。映像に見とれているうちにストーリーがどんどん進み、え?ええぇ~?と驚くこと必至。観終わってもう一度確かめたくなりました。ノベライズが出たら読みたいものです。タイトルの“OBLIVION”は「忘却」の意味。(白)
2013年/アメリカ/カラー/124分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:東宝東和
©2013 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
公式 HP >> http://oblivion-movie.jp/
監督:パク・チャヌク
脚本:ウェントワース・ミラー
撮影:チョン・ジョンフン
音楽:クリント・マンセル
出演:ミア・ワシコウスカ(インディア・ストーカー)、マシュー・グード(チャールズ・ストーカー/チャーリー)、ニコール・キッドマン(イヴリン・ストーカー)、ダーモット・マローニー(リチャード・ストーカー)、ジャッキー・ウィーヴァー(ジン叔母さん)
広大な敷地の屋敷に住む娘インディア・ストーカーは18歳の誕生日に最愛の父を交通事故で亡くす。葬儀には長い間行方不明だった父の弟チャーリー叔父が現れ一緒に暮らすことになる。
ニコール・キッドマン(インディアの母で未亡人)とミア・ワシコウスカ(その娘)の共演とも知らずに行った。
その共演だけでもすごいのに、ミステリータッチだからぐんぐん引き込まれた。
娘の誕生日にはいつも広大な庭園のどこかに父から靴のプレゼントが隠されているのだ。今までの幸せが父の不慮の事故で急にさびしくなった娘だが、母親とはしっくり行ってなかったみたいだ。
父の弟チャーリー叔父と母親の関係も謎めいている。召使の人も、親戚の叔母様もみんな行方不明で消えていくのだ。
誰が犯人かまるっきりバレバレなんだけど、それでもこの作品、スリル度が落ちない。
それは「これだけじゃぁ、絶対終わらないぞ」という期待感だ。その期待を最後まで裏切らず楽しませてくれる。
※『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』『渇き』などでダブーやバイオレンスを描いているパク・チャヌク監督のハリウッドデビュー作品だ。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/99分
配給:20世紀フォックス映画
監督:ウォン・カーウァイ
脚本:チョウ・ジンジ、シュー・ホーフェン、ウォン・カーウァイ
撮影:フィリップ・ル・スール
武術指導:ユエン・ウーピン
プロダクションデザイン:ウィリアム・チャン、アルフレッド・ヤウ
衣装デザイン:ウィリアム・チャン
音楽:梅林茂
出演:トニー・レオン(イップ・マン)、チャン・ツィイー(ゴン・ルオメイ)、チャン・チェン(カミソリ)、マックス・チャン(マーサン)、ワン・チンシアン(ゴン・バオセン)、ソン・ヘギョ
1930年代の中国。北の八卦掌の宗師(グランドマスター)、宮宝森(ゴン・バオセン)は引退を決意し、その生涯をかけた南北拳統一の使命を託す後継者を探していた。候補は一番弟子の馬三(マーサン)、南の詠春拳の宗師で人格的にも優れた葉問(イップ・マン)。実の娘の宮若梅(ゴン・ルオメイ)には奥義六十四手をただ一人継がせたが、娘には人並みの幸せな生活を望んでいた。マーサンは恩師であるバオセンを殺害し、ルオメイは秘かに慕っていたイップ・マンへの想いを封印し、父の望みに背いて復讐を誓うのだった。
ウォン・カーウァイ監督久々の新作は初のカンフーアクション映画です。『ブエノスアイレス』(1997)の撮影で南米アルゼンチンに行ったとき、ブルース・リー表紙の本を見たのがきっかけなのだそうです。それ以来中国武術の研究を続けて構想が拡がり、ブルース・リーのただ一人の師匠であるイップ・マンを中心に中国武術の歴史とドラマを描いた作品になりました。アクションと結びつかないトニー・レオンですが、イップ・マンの最後の直弟子に特訓を受け、演技力もあいまって高潔なイップ・マンが誕生しています。チャン・ツィイーのアクションはこれまでもたびたび観ていますが、今回驚いたのはチャン・チェンです。作中では一線天(カミソリ)と呼ばれる達人を演じて目を引くカッコ良さですが、2012年中国吉林省で開催された八極拳の全国大会で優勝しているのだとか。いつのまにそんなに!?(白)
2013年/中国/カラー/123分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
©2013 Block 2 Pictures Inc. All rights reserved
公式 HP >> http://grandmaster.gaga.ne.jp/
監督:羽田澄子
製作:工藤 充
製作協力:佐藤斗久枝
撮影:宗田喜久松、河戸浩一郎
ピアノ:高橋アキ(サティ・ピアノ音楽全集)
出演:アキコ・カンダ
「ダンスが私にとっての哲学だったと言えたら、最高に幸せね」アキコ・カンダ
2010年秋、モダン・ダンスの第一人者アキコ・カンダの楽屋を羽田監督が訪ねる。1985年の前作『そしてAKIKOは… AKIKO あるダンサーの肖像』の後、また撮影することをアキコさんと約束していた。公演を終えて肺がんのために入院したアキコさんは、翌年秋の公演に備えて放射線治療を受ける。ダンスへの意欲は衰えることなく、新作の振り付けの構想を練っていく。一時快方に向かったかと思われたが再び悪化。病院から公演会場に向かう日々の中、みごと最後まで踊りきる。そのわずか13日後、ダンスに命を燃やし尽くしたアキコさんは、人生の幕を静かに下ろして旅立たれた。享年75歳。
前作の映像もまじえ、何よりもダンスが好きで最後まで踊り続けたアキコさんの最後の記録となったドキュメンタリーです。「ダンス以外のことはできない」アキコさんを支えてきたご家族はじめ、たくさんの方々に愛された方でした。ダンスカンパニーで見せる仕事への厳しい姿勢、痛々しいまでに痩せた身体から放射されるエネルギーにはっとしました。
10歳年上の羽田監督をアキコさんは「お母さん」と呼んでいました。そんな監督であればこそ遺せたアキコさんの屈託ない笑顔やその言葉、最後の公演記録となった映像、間に合って良かったとの思いでいっぱいになりました。(白)
若い頃マーサ・グラハムに師事し、独自のダンス表現を生み出してきたアキコが、自らの老いと肉体的な衰えに対峙しながらダンスを生み出し、最後まで創作し、踊り続けた姿に感動した。監督は「細いからだの体力の極限まで振り絞って踊っている姿は、人間でありながら、人間を超えて神に近づく姿のように思えた」と語っているが、ほんとに神々しいと私も思った。
アキコの最後の公演記録となった本作は、芸術家としてのアキコの姿を見事に表現しているが、羽田監督が円熟期を迎えた40代のアキコを撮った作品、『AKIKO~あるダンサーの肖像~』(1985)もぜひ観てみたい。あの当時、岩波ホールに観に行ったけど、観客がいっぱいで入れず、とうとう観ることができなかった。ぜひ再映してほしい。(暁)
2012年/日本/カラー/120分/HD/
配給:自由工房
公式 HP >> http://www.jiyu-kobo.com/AKIKO/
監督:及川拓郎
脚本:小林弘利、及川拓郎
撮影:早坂伸
音楽:石川光
出演:三浦貴大(亮太)、夏菜(アカネ)、津田匠子、村杉蝉之介、甲本雅裕
全ての謎が解けるまで、
この部屋から出られない。
向かいのアパートの窓を見つめる亮太は、その中の異変に気づいてかけつけた。女性が血を流して倒れていてすでにこときれている。そこへ女性の友人「アカネ」が現れ、亮太を殺人犯だと誤解する。しかたなくアカネを自分の部屋に連れ帰って監禁、無実であることを証明するため真犯人を探すことにした。朝になると遺体は見つかってしまう。それまでにわずかな時間しか残されていない。あせる亮太にアカネは協力するという。パソコンの使い方も堂にいって、彼女にいつのまにか仕切られていく。
覗いている男が殺人を目撃、となにやらヒッチコック映画を思い出す始まり。普通は匿名にしてでも警察に通報すると思うのですが、そうできない理由があり、監禁されたアカネも逃げようと思えば逃げられるのに、亮太と犯人探しをします。犯人探しのほかに、この二人は本当は何者?という興味で引っ張っていきます。ほぼアパートの一室を舞台に二人のやりとりで進んでいくので、亮太とアカネ役は緊張を強いられますね。観ているほうはそんなにドキドキすることはありません。誠実だけど要領が悪そうに見える亮太、可愛い見た目の割りに強そうなアカネ、俳優の地も出ているのかも。なんだか似合いのいいコンビなので、テレビの連続ドラマで続けると良さそう。ミステリー作家の我孫子武丸原作の同名コミックから実写映画化されました。(白)
2013年/日本/カラー/103分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ファントム・フィルム
©2013『監禁探偵』製作委員会
公式 HP >> http://kankintantei.com/
監督:原恵一
脚本:原恵一
撮影:池内義浩
音楽:冨貴晴美
美術:西村貴志
出演:加瀬亮(木下恵介/正吉)、田中裕子(母/たま)、濱田岳(便利屋)、ユースケ・サンタマリア(木下敏三/恵介の兄)
第二次世界大戦中、木下惠介監督(加瀬亮)が病身の母(田中裕子)を疎開させるために、リアカーにのせて、兄の敏三(ユースケ・サンタマリア)と便利屋(濱田岳)の3人で山を越えたという実話が描かれている。
その頃監督は、映画『陸軍』で、会社(松竹)から最後の部分が国の検問にひっかかり、直せ、直さないで、上司と揉めて辞表を出して来たばかりの帰郷だった。
だが、この里帰りは無駄ではなかった。
木下惠介監督生誕100年記念映画として作られた。原恵一監督は『河童のクゥと夏休み』『カラフル』の方で、はじめての実写作品。
失意の中の帰郷や、母親を疎開させる道中で、これ以後、監督が手がける作品の構想の基になったシーンや数々の名場面が出てくる。
根っからの田舎もんを濱田岳(便利屋)が好演していた。この無学な便意屋さんが時代に合わないと不評に終わった『陸軍』の最終場面を一生懸命語りだすのだ。語っている相手が監督さんとは知らずに・・・。このシーンには泣けた。
※2012年のベストテンでこの『陸軍』を福岡のFさんがあげていらっしゃった。
そのとき『陸軍』のことなど、恥ずかしいが何も知らなかった。チャンスがあれば、木下恵介の作品をたくさん観たいと思う。
※上京の帰り道、浜松で途中下車して駅から歩いて15分の「木下恵介記念館」に立ち寄った。監督さんは高校卒業までこの地(浜松市中区)にお住みになっていた。数々の監督作品のハイライト上映がDVDで見られるようになっていて、小1時間楽しんだ。
(美)
2013年/カラー/ビスタサイズ/ドルビーデジタル/96分
配給:松竹
公式 HP >> http://www.shochiku.co.jp/kinoshita/hajimarinomichi/
監督・撮影:宍戸大裕
プロデューサー・構成・編集:飯田基晴
東日本大震災では人間だけでなく、多くの犬、猫、動物たちも被災した。すぐ戻れると思って避難所行きのバスに乗ったまま戻ってこられず、飼い主を待って繋がれたまま死んで行った命も数え切れないほどだ。宮城県出身の宍戸監督は、変わり果てた故郷の風景を前に茫然としつつも、懸命に生きる動物たちと彼らに手を差し伸べる人たちにカメラを向ける。600日にわたって撮影した映像が映画にまとめられた。
2009年の『犬と猫と人間と』は泣き泣き観た作品でした。当時、飯田基晴監督にインタビューしながら、その映像が目に浮かんで思わず落涙したのも恥ずかしながら思い出します。その飯田監督の主催する映像サークル「風の集い」で映像制作を学んだのが宍戸監督。飯田監督も優しい方でしたが、それに輪をかけてやさしい方という印象です。そんな監督が捕らえた映像はどこまでも優しく、何かを大声で糾弾することはありません。でもやさしいことは強いのです。
こんな厳しい状況ではどうしても自分たちの生活が先になり、動物のことは二の次になってしまいます。そんな中でも「出会ってしまったから」と動物たちの世話を続ける人がいます。亡くしてしまった動物たちを大切に胸にしまう人がいます。自分のできることを考えるきっかけになる作品です。(白)
2013年/日本/カラー/104分/HD
配給:東風
©宍戸大裕
公式 HP >> http://inunekoningen2.com/
監督:ローラン・ブースロ
出演:ロマン・ポランスキー
インタビュアー:アンドリュー・ブラウンズバーグ
1933年にフランス・パリで生まれ、『ローズマリーの赤ちゃん』『戦場のピアニスト』など数々の作品で知られているポランスキー監督。
ポーランド系ユダヤ人の家庭に生まれ、自身の生い立ちから現在に至るまでを赤裸々に語るドキュメンタリー。
第二次大戦時にアウシュビッツで母親がナチスに殺害されたこと。
妻だった女優のシャロン・テートがチャールズ・マンソンに惨殺された事件。
1977年には少女へのわいせつ容疑で自身が逮捕されたのちアメリカ国外に出るという波乱に満ちた人生を語っている。
少女へのわいせつ事件の影響でスイスの自宅で軟禁生活を送っていたポランスキーに長年の友人であるアンドリュー・ブラウンズバーグさんがインタビューしている。
ポランスキー監督の栄光と悲しみに彩られた半生はほぼ知っていることだが、聞きにくいことも信頼関係のある聞き手のお陰で意外とすんなりと語ってくれている。
それは、きっと80歳にならんとする今でも、『ゴーストライター』『おとなのけんか』などの上質な作品を作り続けている自信がそうさせるのだと思う。
※ポランスキーの過去の四作品が渋谷シアターイメージフォーラムで上映される。『ローズマリーの赤ちゃん/ニュープリント版』『水の中のナイフ』『反撥』『袋小路』の4本。『ローズマリーの赤ちゃん』以外は観ていないので楽しみだ。
(美)
2011年/イギリス、イタリア、ドイツ/カラー/ヴィスタ/90分
配給:マーメイドフィルム
公式 HP >> http://mermaidfilms.co.jp/rp/
監督:乾弘明
撮影:長塚史視
音楽:井内竜次
ナビゲーター:ユン・テヨン
ナレーション:小宮悦子
今から約600年前に朝鮮半島から命懸けの航海で、43年の間に40回以上来日した外交官がいた。彼の名前は李藝(日本語読みで りげい、韓国読みでは イ・イェ)。
地方の小役人だったが、後には世宗(セジョン)王の信頼を得て立派な外交官になる。
だが、彼には8歳の時、母親が倭寇に連れ去られるという悲しい出来事があった。
総合プロデューサーの益田祐美子さんが試写室に来られた。上映が決まるまでの日韓の事情を話してくださる。今、関係が揺らいでいるが、そんな時こそ意義がある作品だからと力強く話してくださった。
ナビゲーターをつとめる韓国俳優ユン・テヨン氏は李藝のお顔にどことなく似ている。
それに誠実な方だ。ユン・テヨンさんが真摯に日本の人々と触れ合っていくシーンが温かく、この作品に出られたことを心から嬉しいという感情がこちらに伝わって来た。
当時は外国人など見たこともない日本の人が、各地で盛大な歓迎をしたそうだ。
このドキュメンタリーは問題を真っ正面から追ってはいるが、観た人を優しい気持ちにさせてくれる。
(美)
2013年/日本、韓国/カラー/71分
配給:平成プロジェクト
公式 HP >> http://rigei.pro/
監督・脚本:チョン・ビョンギル
出演:パク・シフ(「完璧な恋人に出会う方法」「逆転の女王」「王女の男」)、チョン・ジェヨン(『黒く濁る村』『トンマッコルへようこそ』『シルミド』)、チョン・ヘギュン
1990年、女性ばかりを狙った連続殺人事件が起こる。刑事チェ・ヒョングは犯人を逮捕寸前で取り逃がし顔に深い傷を負う。15年が経ち、事件は時効を迎える。時効から2年後の2007年、連続殺人事件の犯人だと名乗る美青年イ・ドゥソクが、著書「私は殺人犯だ」の出版記者会見を華々しく開く。美貌と話題性でもてはやされるドゥソクを刑事ヒョングは苦々しく眺める。一方、殺人事件の遺族たちは、結束してドゥソク誘拐を企てる・・・
ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(2003)の題材になっている10人の女性が殺害された“華城連続殺人事件”にヒントを得た作品。「公訴時効となった後に犯人がベストセラー作家になったら?」とアイディアが膨らんだそうです。ユーモアも交えたスピーディな展開で、謎解きを飲み込むのは大変。
「“ブラウン管の皇太子”パク・シフの映画初主演作」との歌い文句で、颯爽と登場するパク・シフは確かに魅力的なのですが、深く印象に残ったのは、執拗に犯人を追う刑事を演じたチョン・ジェヨンのほう。実に渋いです。それにしても、パク・シフは強姦で訴えられていたのが、告訴取り下げになって一件落着。これからもテレビドラマだけでなく、映画でも活躍してほしい人材。頑張ってほしい。(咲)
2012年/韓国/カラー/デジタル作品/ドルビーSR/ビスタサイズ/119分
配給:ツイン
公式 HP >> http://satsujin-kokuhaku.net
監督:ウォーター・ヒル
脚本:アレッサンドロ・ケイモン
撮影:ロイド・エイハーン
音楽:スティーブ・マッツァーロ
衣装:ハー・グエン
美術:トビー・コーベット
出演:シルベスター・スタローン(ジミー・ボノモ)、サン・カン(刑事・テイラー)、サラ・シャヒ(リサ)、ジョン・セダ(ルイス)、ジェイソン・モモア(キーガン)
元・海兵隊員のジミー・ボノモ(シルベスター・スタローン)は生きるために裏社会で殺し屋を長年やってきた男。今日の仕事も彼にとって簡単なものだった。標的は元警官のグリーリー。
その殺しの現場にいて、彼の顔も見られてしまった娼婦は殺せなかった。娼婦の体に彫ってあるタトゥーが、娘(確か、妻の連れ子)を思い出させたからだ。
だが、この事件の不可解な流れで長年の相棒・ルイスが謎の男に襲われて死んでしまう。
復讐を誓うジミー・ボノモの前にワシントン警察の刑事・テイラー(サン・カン)か現れる。
テイラーは、ジミー・ボノモが元警官のグリーリー殺しの実行犯と知りつつも、この事件の背後に潜んでいる巨大な悪をかぎつけていて、それに協力してほしいとジミー・ボノモに頼む。
アーノルド・シュワルツェネッガーの復帰作『ラストスタンド』とくらべてしまった。二つともオススメ。
『ラストスタンド』は素人集団一致団結の頑張り+お笑い。この『バレット』は一対一の決闘となんと言っても「いい男」揃いだ。
主役シルベスター・スタローンには「がんばってぇ~」と声援をおくり、韓国系アメリカ人俳優サン・カンにはうっとり。悪者キーガンのジェイソン・モモアの肉体美に釘付け。
終盤のジミーとキーガンの決闘はシルベスター・スタローンの老いを感じさせないように考えられているのか、意外とあっさり短い時間で終わっていた。
シュワちゃんやスタローンさんの頑張っている姿に、おばぁも元気の元をいただいた。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/92分
配給:松竹
公式 HP >> http://bullet-movie.jp/
監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ
撮影:ナイジェル・ブラック
音楽:グレゴリー・ヘッツェル
出演:シャルロット・ゲンズブール(ドーン)、モルガナ・デイヴィス(シモーン)、マートン・ソーカス(ジョージ)、クリスチャン・ベイアーズ(ティム)
4人も子どもがいるのだからもっとしっかりしなきゃ・・・と言いたくなるほど家事をしなくなって育児放棄寸前のドーン。
高校生の長男ティム(クリスチャン・ベイアーズ)は父のやっていった仕事場(大きな大きなトラックで平衡感覚を駆使しながら、家をそのままの形で運ぶ仕事)に自分が出来る仕事はないかと訪ねて行き、そこでアルバイトを始める。
一方、同乗していて父の死を敏感に感じ取っていたシモーンは、「木からパパの声が聴こえる」といつも大木にに登って何か語りかけている。
「死んだ」事実を一番間近で見ているのに、この少女には「死」の意味がわかっていなかったのだろう。と、ありがちな「詩」的な映画かなと思っていたが、話が進むにつれて「木」がまるで生き物のように、家や家族の行動に呼応するようになってくる。
やっぱり死んだ「パパの木」か?と不気味にも感じた。
パパが死んでも遺された家族の人生は続く・・・そんな苦しい中で光りを見つけ再出発するシャルロット・ゲンズブールの泥まみれの顔が美しかった。
※監督さんは『やさしい嘘』の女性監督さん。
(美)
2010年/オーストラリア=フランス/カラー/シネスコ/100分
配給:エスパース・サロウ
公式 HP >> http://papanoki.com/
監督:フランク・カルフン
脚本:アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・リヴァスール
撮影:マキシム・アレキサンドル
出演:イライジャ・ウッド(フランク)、ノラ・アルネゼデール(アンナ)、ジェヌヴィエーヴ・アレクサンドラ(ジェシカ)、ジャン・ブロバーグ(リタ)
ロサンゼルスで長くて美しい髪を持つ若い女性のみが襲われ殺される事件が多発していた。犠牲者はみんな毛髪ごと頭皮をはがされていたのだ。
犯人はマネキンの修復師フランク(イライジャ・ウッド)で、誰にも言えない秘密とトラウマを抱得ていて、生身の女性を愛することができなかった。
そんなある日、彼はマネキンの芸術的見方を理解してくれる美しい女性カメラマン・アンナ(ノラ・アルネゼデール)とめぐり合う。
私にとってイライジャ・ウッドは『ロード・オブ・ザ・リング』じゃなく『僕の大事なコレクション』の彼こそイライジャ・ウッドだ。
その彼(『僕の大事なコレクション』では純真一途だったが、『マニアック』はその一途さをうまく使っている)が、またまた私を狂喜に震わせてくれた作品に登場!
職業が古いマネキンの修復師ってのも気に入った。全編、もう夢見心地で観入ってしまった。
※監督さんは『P2』の方。たしかその年のベスト10に入っていたはず。この『マニアック』はベスト5には必ず入る!
※一部残酷なシーンがあるのでご注意。
(美)
2012年/フランス、フランス/シネマスコープ/89分
配給:コムストック・グループ
公式 HP >> http://www.maniacthemovie.com/
監督:セブン・リー
脚本・音楽・編集:ジミー・ハン
エグゼクティブ・プロデューサー:サモ・ハン
プロデューサー:ジミー・ハン、エリック・トゥー、ヴァネス・ウー
出演:ヴァネス・ウー、ジミー・ハン、ディーン・フジオカ、エリック・トゥー、クリス・ルン
特別出演:サモ・ハン
音楽で成功する夢を叶えようとアメリカから台北に到着したジミー。レコード会社を紹介すると言っていたリーは迎えに来ていない。ギター片手に町を彷徨っていたジミーは、突然数名の青年に襲われ、ギターを盗まれてしまう。襲ってきた青年たちは、ロックバンドSMASHのメンバー。ギター担当のタカはもともとベースが専門でギターがいやで盗まれたと言ったことからの誤解だとわかり、ジョーはギター担当としてSMASHのメンバーに加わる。ようやく会えたリーからレコード会社のプロデューサーを紹介してもらい、実力を認められ契約する。最初は彼らのステージに耳を傾ける観客も少なかったが、上海公演を機にファンも増える。アルバム賞も獲得し、人気絶頂となった頃、ボーカルのマイクが酔って交通事故を起こし、同乗の女性に怪我をさせてしまう。呼び出されたジミーは酔っ払い運転を隠すため、自分が運転していたことにして処理する。が、その一部始終を隠し撮りされていた。映像を観たマイクは、ジミーが自分を陥れるために撮ったものと誤解し、ジミーと殴り合いになり、はずみでギターが壊れてしまう。二人の仲が修復しないまま、屋外で撮影中、マイクが突然倒れる・・・
香港の名俳優、サモ・ハンの息子である洪天祥(ジミー・ハン)が脚本・音楽・編集・プロデュースを手がけ、プライベートでも仲の良い呉建豪(ヴァネス・ウー)、ディーン・フジオカ、涂百鋒(エリック・チュウ)、隆宸翰(クリス・ルン)と共に製作した音楽映画。
皆でわいわいがやがや楽しそうに映画を作り上げた姿が目に浮かぶ。貫禄たっぷり濃いイメージの父サモ・ハンと対照的に、すらっと長身で線の細いジミーの親子共演も貴重。
ヴァネス・ウーは、十数年前、F4の一人と知った時、ほかの3人の甘いマスクと違って、意地悪そうな突っ張った印象で、なぜこの子がF4のメンバー?と思ったものです。その後、香港のイベントで目の前で見る機会があり、色気むんむんの姿に胸を鷲掴みにされました。本作でも、突っ張った役柄なのは、本人も自分の見た目の印象を自覚しているからこそでしょうか・・・ SMASH メンバー役5人のほか、アラン・コー、モー・ズーイー、ジル・シューが本人役でカメオ出演しています。中華圏の音楽が好きな人には、たっぷり楽しめる青春映画。(咲)
2011年/台湾映画/中国語/90分/35㎜/ヴィスタ/ドルビーSRD
配給:ワコー
公式 HP >> http://www.yumeno-mukougawa.com/
監督:印南貴史
語り:谷原章介
原作:ザ・ノンフィクション「ラーメンより大切なもの」(フジテレビ)
音楽: 高田耕至
エンディングテーマ曲: 久石譲
出演:山岸一雄
東京・東池袋。都電荒川線が走る近くの2階建て店舗付アパート1階にあった行列のできるラーメン屋「大勝軒」。16席しかない決して綺麗とはいえない店に、長蛇の列が出来たのはなぜ? 食べきれないほど山盛りにされた麺の中に隠れた肉厚のチャーシュー。それは、店主・山岸一雄のお客様を満足させたいという心。
老朽化し、ほかの飲食店が出て行ったあとも、1軒だけ店を守り続けたのにはワケがあった。同い年の従妹の二三子さんと結婚し、二人で切り盛りしてきた大勝軒。奥様が52歳の時、余命1ヶ月と告げられ、逝ってしまう。奥さんが亡くなった時から何一つ変わっていない店内。一番楽しい場所が一番切ない場所に変わってしまった。奥様と過ごした奥の部屋を封印し、店内の椅子に板を乗せて寝る山岸。黙々と朝早くから仕込みをし、「仕事に幸せを感じる。いつ死んでもいい」と語る・・・
冒頭、素朴なハーモニカで奏でられる「ふるさと」の曲。山岸一雄さんの故郷、長野県中野市の野山を唄った詞。従妹である奥様と幼い頃から遊んだ思い出の地。新婚旅行で訪れて以来、帰ってないという。ハーモニカは山岸さんご本人の演奏。切なく響く。
過去3回にわたりフジテレビのドキュメンタリー「ザ・ノンフィクション」で放送されたものを、1本にできないかとの山岸さんからの希望で映画化。つけ麺の元祖と言われ、テレビで行列のできる店として紹介されていたのを思い出した。映画は、ラーメンの味に迫るものではなく、山岸さんの人生そのものを追ったもの。
足を悪くして9カ月休んでいる間に客足が落ちる。一度復帰して盛り返すも、再開発で店は閉めることに。店のあった場所はエアライズタワーという図書館や商業施設も入ったビルに生まれ変わった。(有楽町線東池袋4丁目駅直結! ついこの間もサンシャインビルにある古代オリエント博物館に行く時に通ったところだ!) 山岸さんは、今、そのビルに住んでいる。52階建なのが、奥様の享年52歳に通じるものがあるとしみじみ語る。亡くなって30年経った今も、思い続けてもらっている奥様が羨ましくなった。(咲)
2013年/90分
配給:ポニーキャニオン
公式 HP >> http://ramen-eiga.jp/
監督・脚本:三木聡
原作:「俺俺」星野智幸(新潮社刊)
撮影:小松高志
美術:磯見俊裕、露木恵美子
音楽:上野耕路
主題歌:KAT-TUN 「FACE to Face」
出演:亀梨和也(永野均)、内田有紀(サヤカ)、加瀬亮(タジマ)、キムラ緑子(永野マサエ)、高橋惠子(大樹の母)、ふせえり(南さん)、小林きな子(安西)、中谷竜(ヤソキチ)、岩松了(村野刑事)、松重豊(阿久根刑事)ほか
郊外の街に住む永野均28歳。勤務先は家電の量販店、何かにつけ嫌味を言う上司のタジマ、ちゃっかりした同僚、面倒くさいがとりたてて何事もない毎日を送っていた。ある日ハンバーガーショップで隣に座った男の携帯電話を持ち帰り、なりゆきでその母親と電話で話して息子と勘違いされてしまった。気づけばATMで現金を手にしていた均。もしかして「オレオレ詐欺」やっちまった?!それから均の周りに奇妙なことが起こっていく。
部屋に戻ると知らないオバサンがいて、自分を「大樹」と呼ぶ。電話の母親らしい。あわてて実家に帰ってみれば、自分と同じ顔のもうひとりの「俺」がいた。母親はスーツ姿のそいつを「均」と呼び、ほんものの俺を胡散臭げな目で見た。その「均」は、実は「大樹」で、大樹は「俺」がほかにもいるという。
自分がどんどん増殖していくという不条理ドラマ。KAT-TUNの亀梨くんがサラリーマン、大学生、おたく…はては巨乳の女性までありとあらゆるスタイルの33人もの「俺」に扮します。ファンは必見ですよ。内田有紀が謎めいた年上美女として登場、『ばかもの』路線になるのかちょっと期待させます。人付き合いはなにかと面倒なもの、一人じゃ暮らせないけど自分がたくさんいたら、ツーカーで楽じゃん?と思ってしまうアナタ、ご覧下さいまし。それにしてもよく映像化できましたね~。(白)
2012年/日本/カラー/119分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ジェイ・ストーム
©2012 J Storm Inc.
公式 HP >> http://ore-ore.jp/
監督:ワン・ビン(王 兵)(『鉄西区』『無言歌』)
中国・雲南地方、標高3200メートルの高地にある洗羊塘村。
暗くじめじめとした家で暮らす三姉妹。長女 英英(インイン)10歳、次女 珍珍(チェンチェン)6歳、三女 粉粉(フェンフェン)4歳。大人の姿は見えない。長女が甲斐甲斐しく妹たちの面倒を見ている。時折、現れる大人は近所に住む親戚。三姉妹は、農作業や家畜の世話をしてなんとか自活している。出稼ぎから父親が帰り、久しぶりの一家団欒。だが、父親は下の二人の娘を連れて出稼ぎに戻ってしまう。一人残された長女。学校に通うが、お祖父さんは勉強より仕事の方が大事と諭す・・・
冒頭で両親不在の理由を語ることなく(もしかして見逃したのか?)、ひたすら三姉妹の日常を映し出す。シラミ胎児に奮闘する姉妹。お父さんが出稼ぎに行ってから何年も身体を洗ってないと幼いフェンフェンが自慢する。一旦、二人の娘を連れて出稼ぎに戻った父親が、出稼ぎに見切りをつけて村に帰ってきた時、若い女性を連れてくる。新しい妻かと思ったら、子守り役。それでも、三姉妹にお母さん代わりができてほっとする。
三姉妹の母親がいない理由が特に語られなかったが、どうやら娘しか生めなかったことを理由に家出したらしい。(追い出されたのか?)そもそも一人っ子政策の中国で三姉妹?と思ったのだが、男の子が生まれることを願って次々に産んだのでは?と思い当った。
三姉妹の住む村は、過酷な環境から低地への全村移住が決まっているという。経済発展著しい中国で拝金主義に走る人たちがいる一方で、あまりにも貧しく非人間的な暮らしぶり。なのに、なぜか逆に寄り添って暮らす家族の間に流れるほのぼのとしたものを感じた。(咲)
仏・香港合作/2012年/ドキュメンタリー/153分
配給:ムヴィオラ
2012年ベネチア映画祭オリゾンティ部門グランプリ
2012年ナント三大陸映画祭 グランプリ&観客賞 ダブル受賞
公式 HP >> http://moviola.jp/sanshimai/
監督:李闘士男
脚本:田中大祐
撮影:永森芳伸
音楽:小林亮太
フードスタイリスト:飯島奈美
出演:優香(春野菜々子)、浜野謙太(谷田幸之助)、草刈正雄(谷田卯之助)、宮崎吐夢(丸山)、小林きな子(福原)、草野イニ(太田)、壇密(看護士)
世界で初めて体脂肪計を開発した健康機器メーカーのタニタ。社長・谷田卯之助(草刈正雄)はやり手だが、二代目副社長の幸之助(浜野謙太)は気弱でなんとも頼りない男だった。
健康機器メーカーなのに幸之助も社員も肥満気味。モニターからの評判もあまりよくない。
そんな時、社長・卯之助が病に倒れ、幸之助に新商品発表会を成功させるよう命令される。
困った幸之助は、社員がダイエットをしてその経過を発表するという企画を考え、高校時代の同級生だった栄養士の菜々子(優香)を仲間に呼び入れて、体脂肪率40%を超える社員を選んでダイエット・プロジェクトを開始させた。
ムリムリ太っちょの映像がちょっと変だったけど、観てよかった。
これは本がベストセラーになり、テレビのドキュメンタリーでもやっていたらしい。
すごく勉強になった。内緒だけど私も相当○○だ。「体重≒年齢≒一ヶ月に観る映画本数」だから想像して。
「野菜から食べる・ゆっくり食べる・薄味にする」は、頭に叩き込んでおきたい。
※500カロリー以内のランチがたくさん出てきたが、どのメニューも美味しそうだった。
娘が管理栄養士だが「タニタ食堂」は仲間うちでも評判らしい。ゆっくり食べるためにタイマーが置いてあったり、量りが置いてあったりするそうだ。一般でも入れるので是非行ってみたい。
(美)
2013年/日本/カラー/100分
配給:角川映画
公式 HP >> http://www.tanitamovie.jp/
監督:金子修介
脚本:港岳彦
撮影:釘宮慎治
音楽:中村由利子
出演:木南晴夏(神高涼香)、ミッキー・カーチス(安藤行人)、中村ゆり(若き日の氏部由紀乃)、木内晶子(安藤美咲)、鈴木裕樹(溝渕建冶)、近江陽一郎(若き日の安藤行人)、岩田さゆり(菅原優/京子)、宍戸開(嶋田賢三)、水野久美(氏部由紀乃)、井上順(神高邦男)
高松市美術館の新米学芸員の神高涼香は、憧れの芸術家 安藤行人の回顧展を企画し、担当になって張り切っている。ところが、ようやく会えた行人は回顧展どころか、約束した新作にも消極的で涼香は落胆する。行人は昔見知らぬ女性(中村ゆり子)からもらったという古い時計を見せ、その女性を探してほしいと言う。行人の意欲が出るならと、晴香はわずかな手がかりをもとに人探しに奔走する。
香川県を走る琴平電気鉄道「ことでん」の創業100周年を記念した映画。ことでんを舞台に、少し前の時代と今を生きる人々を描き、大切な人と幸せなときを過ごしているか問いかけます。木南晴夏さんがわがままな芸術家に翻弄される学芸員、明るい現代娘を伸びやかに演じ初主演。かたや中村ゆりさんが旧家に納まりきれない若い人妻を演じてひときわ色っぽいです。大正・昭和のレトロ電車が登場しますので乗り物好きな方にもお勧め。
金子修介監督インタビューは本誌88号に掲載いたします。(白)
2012年/日本/カラー/105分/HD(16:9)DCP/5.1ch/
配給:太秦
©さぬき地産映画製作委員会/真鍋康正 小松尭 大久保一彦 金子修介 金丸雄一
公式 HP >> http://100watch.net/
監督:リー・トランド・クリーガー
脚本:ラシダ・ジョーンズ、ウィル・マコーマック
撮影:デヴィッド・ランゼンバーグ
音楽:サニー・レヴィン、ザック・カウイー
出演:ラシダ・ジョーンズ(セレステ)、アンディ・サムバーグ(ジェシー)、クリス・メッシーナ(ポール)、アリ・グレイナー(ベス)、エリック・クリスチャン・オルセン(タッカー)、レベッカ・デイアン(ヴェロニカ)、ウィル・マコーマック(スキルツ)、イライジャ・ウッド(スコット)
セレステとジェシーは学生時代からの恋人でそのまま結婚して30歳を過ぎた。セレステは会社を共同経営していて毎日忙しいのに、アーティストのジェシーにはあまり仕事がなく、家計はセレステが支えている。ジェシーのことは大好きだけれど、夫婦でないほうが腹も立たないはず、とセレステは離婚して親友に戻ろうと提案する。
才色兼備で自信満々に生きてきたセレステ、別れても親友のままの関係に満足していたのですが…と「が」がつきます。彼女が初めて惨めな思いをするあたりから親近感がわいてくるでしょう。主演のラシダ・ジョーンズが自分の体験をおりこんで脚本にも参加しているので、リアルでちょっとほろ苦い作品になっています。ジェシーのアンディ・サムバーグがやさしくてユーモアがあってないのは生活力だけ、という母性をくすぐる役どころ。いい味を出しているポール役のクリス・メッシーナが、ラシダ・ジョーンズの元カレなんだそうです。別れて親友に戻って一緒に仕事をしているなんて、なんだか羨ましいですね。(白)
2012年/アメリカ/カラー/92分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:クロックワークス
©C & J Forever, LLC All rights reserved.
公式 HP >> http://celeste-and-jesse.com/
監督:デレク・シアンフランス
脚本:デレク・シアンフランス、ベン・コッチオ
撮影:ショーン・ボビット
出演:ライアン・ゴズリング(ルーク)、ブラッドリー・クーパー(エイヴリー)、エヴァ・メンデス(ロミーナ)、レイ・リオッタ(デルカ)、ベン・メンデルソーン(ロビン)、マハーシャラ・アリ(コフィ)、デイン・デハーン(ジェイソン)、エモリー・コーエン(AJ)
移動遊園地でバイクショーのライダーとして気ままに暮らしているルーク。かつての恋人ロミーナに再会して、彼女が一人で自分の子供を産み育てていたのを知る。すでにロミーナには新しいパートナーがいたが、息子ジェイソンを自分の胸に抱いたルークは旅暮らしをやめてとどまることにした。生活のために銀行強盗となり、得意のバイク技術で追っ手を振り切るが、正義感の強い警官エイヴリーが彼を追い詰めていった。15年後、エイヴリーは順調な人生を歩んでいたが一人息子のAJには手を焼いていた。転校してきたAJはジェイソンと親しくなる。親同士のいきさつなど知る由もない二人だった。
孤独なライダーのルーク、警官のエイヴリー、それぞれのストーリーが一つずつ。3つ目は15年後二人の息子たちが出会ってからのストーリー。しょっぱいというか厳しいストーリーです。突如父親の自覚を持ったまではいいけれど犯罪に走ってしまうルーク。どこかひ弱に見えるライアン・ゴズリングがタトゥーだらけ(!)の流れ者。ルークを追い詰める熱血警官エイヴリーをブラッドリー・クーパー、『世界にひとつのプレイブック』では丸刈り+無精ひげだったけれどこの作品ではかなりお洒落。出てくると絶対なんかするよね、と思ってしまうレイ・リオッタは予想通り。
高校生になったジェイソン役のデイン・デハーンに「この子はだ~れ?」と目をひかれました。童顔なのでティーン役も無理なくできますが、87年生まれで既婚者。製作中の『アメイジングスパイダーマン2』のハリー・オズボーン役に抜擢されています。注目です!(白)
2012年/アメリカ/カラー/141分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ファインフィルムズ
©2012 KIMMEL DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.
公式 HP >> http://finefilms.co.jp/pines/
監督:モーガン・オニール、ベン・ノット
脚本:モーガン・オニール
撮影:ジェフリー・ホール
サーフ撮影:リック・リフィチ、リック・ジャコヴィッチ
衣装:マリオット・ケア
出演:マイルズ・ポラード(アンディ・ケリー)、ゼイヴィア・サミュエル(ジミー・ケリー)、サム・ワーシントン(JB)、ロビン・マルコム(キャット・ケリー)、レスリー=アン・ブラント(ラニ)、
1960年オーストラリア。子どもの頃から波に親しんできたアンディとジミーの兄弟は、暴力をふるう父親から逃れて母親と3人で海辺の町で貧しく暮らしていた。
ある日、町に流れてきたJBという旅暮らしのサーファー・カメラマンと出会い、兄はサーフショップ経営者、弟はサーファーとして生きるきっかけとなる。
実話だ。波乗りシーン+生きていく辛さ+家族の再生がバランスよく描かれていて、人生も大波小波を乗り越えていくんだと感じた青春映画でもある。
母親役のロビン・マルコムさんが息子たちを見守る眼差しや生活感あふれる姿、ほとんどノーメイクのお顔に役者魂を感じた。
(美)
ドリフトとは、「漂うこと、流されること、駆り立てる力、衝動、情熱の赴くままに」というような意味があるという。
オーストラリアの西海岸が舞台で、兄弟がサーフショップ経営を成り立たせていく物語。
私はサーフィンはやったことはないが、サーフィン映画は好きでけっこう観ている。
サーフィンというとハワイなどが有名だが、この映画で、オーストラリアの西海岸もいい波が来るのだということを知った。
ヒッピー流れのサーフィン写真家とか、波を求めて渡り歩くサーファーとか、1970年代のオーストラリアの雰囲気とかがよく出ていて、サーフィンに興味がない人にも楽しめる。
なにより、あの時代、DV夫から逃れるため、自分で車に最低限の荷物を詰め込み、他の街目指して流れていったお母さんの心意気が偉いと思った。(暁)
2012年/オーストラリア/カラー/シネマスコープ/デジタル/114分
配給:日活
公式 HP >> http://drift-movie.net/
監督・脚本:チョ・ソンヒ
出演:ソン・ジュンギ(『ちりも積もればロマンス』「トキメキ☆成均館スキャンダル」「根の深い木~世宗大王の誓い~」)、パク・ボヨン(『過速スキャンダル』)、チャン・ヨンナム、ユ・ヨンソク
外国に住むキム・スミのもとに韓国から電話が入り、かつて住んでいた家を売りに出すと聞き、スミは久しぶりに里帰りする。孫娘と共に、47年前に病気療養のために移り住んでいた静かな村を訪ね、スミは当時のことを思い出す。 病気で心を閉ざしていたスミだったが、人を警戒し言葉も理解しない人間離れした少年の存在に気づき、家で世話をするようになる。チョルスと名付け、食事の仕方や服の着方、さらには文字の読み書きを教えるうち、これまで周りに心を閉ざしていたスミもチョルスもお互いに心を開き、淡い恋心が芽生える。ところが、ある晩、大家の息子ジテがスミに迫る姿を見て、チョルスは動物的本能をむき出しにする・・・
オオカミ少年との恋というファンタジーラブロマンス。少女との純粋な触れあいが観る人の心を揺さぶり、韓国で700万人を動員し、ラブロマンス映画NO.1の記録を塗り替える大ヒット。
“オオカミ少年"を演じたソン・ジュンギは、いかにも良家で育ったお坊ちゃんという雰囲気の好青年。オオカミの習性を動物園に行ったりして観察し、見事にオオカミ少年になり切っています。ピュアなソン・ジュンギを観ているだけで幸せな気持ちになれる映画でした。(咲)
2012年/ 韓国/125分/カラー/ビスタ/5.1chサラウンド
配給:CJ Entertainment Japan
公式 HP >> http://ookami-shounen.jp/
監督・原案:スサンネ・ビア
脚本:アナス・トーマス・イェンセン
出演:ピアース・ブロスナン(フィリップ)、トリーヌ・ディルホム(イーダ)、キム・ボドゥニア(ライフ)、セバスチャン・イェセン(パトリック)、モリー・ブリキスト・エゲリンド(アストリッド)、パプリカ・スティーン(ベネディクテ)
コペンハーゲンに住む美容師のイーダは乳がんの手術を終え、急ぎ自宅に戻ってきた。ところが妻はまだ帰らない、とたかをくくっていた夫の浮気現場に遭遇してしまう。ショックにうちひしがれるイーダだが、娘アストリッドの結婚式のためイタリアへ向かわなければならない。気もそぞろで運転し、駐車場で追突事故を起こしてしまった。怒鳴られてもめた相手は娘の結婚相手パトリックの父親フィリップだった。彼ははやり手の実業家でイーダとは何かと食い違うが、一緒に結婚式の行われるフィリップの別荘へと向かう。そこへ集まってきたのは不倫相手を連れた夫、義兄のフィリップに気のあるベネディクテとその娘。パトリックの友人たちも準備の手助けにやってくる。結婚式をひかえ幸せの絶頂のはず二人がなぜか怪しい雲行きに…。
『未来を生きる君たちへ』(2010)のスザンネ・ビア監督の最新作。脚本のアナス・トーマス・イェンセンとタッグを組むのはこれで5回目。多くのエピソードがありながら散漫にならず、悲劇の中にもユーモアをたたえたヒューマンドラマを作り出しています。自分を裏切った夫を許すイーダ、妻を亡くした痛手から抜けられないフィリップ、気持ちの通じ合わない父と息子など、問題は多々あるけれど南イタリア、ソレントの陽光に包まれて解決の道が少しずつ見えてきます。高台にある別荘、海岸、レモン畑とロケーションが良くて、ふわふわと旅に出たくなります。
明るく前向きなイーダ役のトリーネ・ディアホルムは、『未来を生きる君たちへ』で5度目のデンマーク批評家協会賞を受賞、この記録は破られていないそうです。つい先日公開された『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』では実権を握る皇太后を演じて貫禄を見せていました。ベネディクテ役のパプリカ・スティーンが強烈で、007のブロスナンもたじたじ。(白)
2012年/デンマーク/カラー/116分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ロングライド
© Zentropa Entertainments29 ApS 2012
公式 HP >> http://aisaeareba.jp/
監督:マイケル・ホフマン
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
撮影:フロリアン・バルハウス
音楽:ロルフ・ケント
出演:コリン・ファース(ハリー・ディーン)、キャメロン・ディアス(PJ・プズナウスキー)、アラン・リックマン(シャバンダー)、トム・コートネイ(ネルソン少佐)、スタンリー・トゥッチ(マーティン)
学芸員のハリーは雇い主の億万長者シャバンダーにいつも無能呼ばわりされている。自分の仕事に少しも敬意を払わない彼にいっぱい食わせようと、ある計画を思いついた。シャバンダーがのどから手が出るほどほしがっているのが、印象派の巨匠モネの幻の名作「積みわら」。行方知れずのこの作品が見つかれば10億円は下らない。超一流の贋作を描くネルソン少佐が用意した絵画をどうやって売り込むか?ハリーは名画の最後の目撃者の孫がテキサスにいることを突き止めた。金儲けに一枚噛んだこのPJ・ブズナウスキーは陽気なカウガールで、超のつく怖いもの知らず。ロンドンにやってきてたちまちシャバンダーのお気に入りとなった。しかしハリーの計画は次々とピンチに見舞われる。
プロデューサーのマイク・ロベルがこの作品の元となった『泥棒貴族』(1966)のリメイクを決定。新たに脚本を依頼されたコーエン兄弟はオリジナルの詐欺事件を軸に残し、学芸員と富豪の攻防、カタブツのハリーと天然なアメリカ娘PJとの文化摩擦で笑わせます。ハリー・ポッターシリーズのスネイプ先生の印象がいまだ強いアラン・リックマンが、いやみな大富豪を楽しそうに熱演。りゅうとしたタキシード姿を見せたかと思えば、一糸まとわぬヌードもお披露目しています。一方コリン・ファースはロンドンの高級ホテル、サボイでトランクス姿(スーツのズボンが脱げてしまった)で歩きまわるシーンを撮影しています。ホテルは通常営業を続けたままだったので、撮影とは知らない泊り客が驚いたようです。豪華キャストのライトなコメディ作品。(白)
2012年/アメリカ/カラー/90分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
©2012 Gambit Pictures Limited
公式 HP >> http://monetgame.gaga.ne.jp/
監督:キム・デスン
脚本:キム・ミジョン、キム・デスン、ファン・ユンジョン
撮影:ファン・ギソク
音楽:チョ・ヨンウク
出演:チョ・ヨジョン(ファヨン)、キム・ドンウク(ソンウォン大君)、キム・ミンジュン(クォニュ)、パク・チヨン(大妃)、チョ・ウンジ(クモク)、イ・ギョンヨン(キム・ゲジュ内侍監)、パク・チョルミン(薬房内侍監)
王の異母弟ソンウォン大君は狩りに出かけて、シン参判の娘のファヨンの美しさに心奪われ、后として娶りたいと願う。ソンウォンの思いを知った大妃は、ことが進展しないうちにファヨンを世継ぎのない王の側室にと画策した。ファヨンには相愛の恋人クォニュがいたが、命令に逆らうことはできず二人は引き裂かれ王宮に連れ去られてしまう。ファヨンは世継ぎをもうけるも、やがて王は病気のため崩御。大妃の思惑通り王の座には実子のソンォン大君がつき、実権は大妃とその恋人が握った。大妃は反対勢力の粛清を進め、ファヨンの実父のシン参判を処刑。無用となったファヨンをも亡きものにしようとする。
『血の涙』から6年ぶりにメガホンを取ったキム・デスン監督は、架空の王宮を舞台に権力を求めて渦巻く欲望と、それに巻き込まれながら生きる男女を描きました。サスペンス劇に眠気のさすひまもありません。
子作りに励んで世継ぎを作らねばならないのが王の勤めの一つですが、戸を隔てて待機している何人もの従者が聞き耳を立てるわ助言するわ。ソンウォン大君もしまいには切れてしまい、観ているこちらも官能シーンであるのに気の毒やらおかしいやら。『王になった男』や『私は王である!』で、プライバシーなどない王の暮らしぶりを観ましたが、王宮とは不自由なものです。そういえば『大奥』での将軍(菅野美穂)の叫びも悲痛でしたっけ。
キム・ドンウクが一途にファヨンを思い続けるソンウォン大君を熱演。チョ・ヨジョン(小手川祐子さんに似ています)が肢体を惜しげもなくさらしていますが、その肌を輝かせる照明、カメラアングルなど、一流のスタッフが集結したのでしょう。すばらしく綺麗です。控えめな美術や衣裳も登場人物を際立たせていました。(白)
2012年/韓国/カラー/122分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ツイン 宣伝:アルシネテラン
©2012 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
公式 HP >> http://www.koukyu-movie.com/
監督:イ・ヨンジュ
出演:オム・テウン、ハン・ガイン、イ・ジェフン、スジ(Miss A)
ソウルの建築事務所。徹夜で仕事をして机の上で寝ていたスンミンのところに、美女がスンミンご指名で済州島の実家の建替えを依頼しにくる。下っ端で引き受けられないというスンミンに、「昔約束したでしょう」という彼女。にわかに彼は15年前の大学1年生の頃を思い出す。その美女ソヨンと知り合ったのは、「建築学概論」の講義。教授が建築学はまず自分の住む地域を知ることからと、学生たちに住む場所を尋ね、スンミンは音楽学科のソヨンが自分と同じチョンヌンに住んでいることを知る。二人でチョンヌンの町を巡るうちに淡い恋心が芽生える。だが、奥手の彼が打ち明けることもできないうちに、彼女は違う町に引っ越してしまったのだった・・・
15年ぶりに再会した二人。ソヨンは3年前に医者と結婚したけれど、余命宣告を受けた父と実家で暮らして人生をリセットしたいということが明かされます。一方、スンミンには婚約者がいて、結婚式も間近。あ~ボタンの掛け違い。よく同窓会などで、実は初恋の人だったと明かされて、「その時に言ってくれていれば」という会話が飛び交うことがあります。恋に恋した頃の思い出は、胸にしまっておく方が美しいと思う一方、当時告白していればと欲が出ることも。『建築学概論』は、きっと誰しもが自分の初恋を思い出して切ない思いにかられる物語。韓国では、男性が一人で観に行くケースも多かったとか。
ところで、二人が探索したチョンヌンは、韓屋(ハノク)も点在する庶民的な町。どのあたり?と思っていたら、漢字で貞陵洞と出てきました。実は、この地名、初めて韓国に旅をした1995年2月の下調べのノートに古い町並みとして書き残されていたのを、ついこの4月にソウルに行った時に見ていたのでした。当時、韓国観光公社で行き方を尋ねたものの、「遠いし、行くほどのところでないですよ」と言われ、行きそこねていました。調べてみたら、大好きなドラマ「ソル薬局の息子たち」のロケ地でもあることも判明。次回には是非散策みたい町です。
そして、済州島の家。ソヨンは建替えを考えていたのですが、スンミンは古い家の一部を取り入れた設計をします。生まれ育った家の思い出を損なうことのない素敵な家。こんな建築士に出会いたいと思わせてくれました。撮影後取り壊されたのを惜しむ声が多く、再度建てられ、今はカフェとなっているとのこと。こちらもいつか訪れてみたいところです。
大人になったスンミンとソヨンをオム・テウンとハン・ガイン、大学生の頃をイ・ジェフン、スジというダブルキャスト。ソヨンは、整形して目を二重にしたと思えば納得かも。私には大人になったオム・テウンとハン・ガインが深く印象に残りました。
初雪が降ったら、空き家になっている韓屋で会おうと約束していた二人。1994年に大ヒットした曲「記憶の習作」がおさめられているフォークユニット展覧会のCDが素敵な鍵になっています。何度も観たくなる映画です。(咲)
☆5/4~5/24韓国映画 ~初恋セレクション 3weeks
2012年、韓国純愛映画で大ヒット作となった『建築学概論』(5/18~)と『私のオオカミ少年』(5/25~)の同時期公開を記念して、5/4より新宿シネマカリテで、珠玉のラインナップによる“韓国映画 初恋セレクション3weeks”のレイト特集上映。
■5/4~5/10『サニー 永遠の仲間たち』
■5/11~5/17『ラブストーリー』
■5/18~5/24『オオカミの誘惑』
料金:1000円。
更に、『建築学概論』か『私のオオカミ少年』の前売り券を窓口で提示すると、料金は500円に!
(3作品共通20:45~/全作品フィルム上映)
またイベント開催時、新宿シネマカリテで『私のオオカミ少年』にちなんだ水槽が、新宿武蔵野館では『建築学概論』に登場する建築の模型が展示されます!!
2012年/韓国/カラー/韓国語/117分/シネスコ/ドルビーSRD
配給:アット エンタテインメント
公式 HP >> http://www.kenchikumovie.com/
監督:リチャード・ブレス
撮影:トニー・セニコラ
編集:ライアン・デンマーク
出演:ビル・カニンガム、アナ・ウィンナー、トム・ウルフ
1929年に生まれのビル・カニンガムは、ハーバード大学を中退してニューヨークに移り住み広告業界で仕事に就く。
その後、帽子のブランドを立ち上げ繁盛するが、兵役のために辞める。除隊後、再びニューヨークでファッション関連の記事を執筆するようになる。
やがて、ニューヨーク・タイムズ紙で人気ファッションコラムと社交コラムを担当する名物フォトグラファーとなる。
ビル・カニンガムさんの半生を追ったドキュメンタリー。
ニューヨークの街角で50年以上も道行く人々のファッションを撮り続けてきたビル・カニンガムさん。だが彼自身は青い作業着で雨の日には安物の合羽を着て(破れたところはガムテープで修繕していた)、自転車で街に繰り出している。
ニューヨークって個性的な方々がたくさんいらっしゃるなぁ。
『ミリキタニの猫』のジミー・ミリキタニ、『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』のクェンティン・クリスプ、『ミルク』のハーヴェイ・ミルク・・・個性豊かな方々が、まるで水を得た魚のように生き生きと生活できる唯一の場所だ。
それに、この方のお住まいが、かのカーネギーホールの上ってのにビビビィ~ンと感応した。小さい時からスパルタでバイオリンを教え込まれ、親バカのわが子可愛さから出る父のお題目「お前をカーネギーホールで演奏させる!」で育った身からすれば、このホールは芸術の神様が宿るところ。だからビビビィ~ンときちゃったわけだ。
それに「台所なんていらない」にもビビビィ~ン。
いいわぁ~、この方の住まい感覚、私に似てるところがある。
物をあんなにためて置くのは嫌いだが、私も台所はいらない!湯沸しポットがあればOK。
試写でいただいたプレス資料は、多分上映時に売るパンフレットだと思う。これがとってもいい。含蓄のある言葉や個性的なファッションが厳選されて載っている。「是非、映画の記念に」なんて宣伝になっちゃったけど、嘘ではありません。
※彼の言葉の中で、日本人デザイナーでコム・デ・ギャルソンの創始者・川久保 玲さんが語った「(確か)ニューヨーク一番のベストドレッサーはホームレスだ」の言葉に目から鱗だったと語っていた。なんだかそのひと言で嬉しくなって、よりランクアップした作品。
(美)
『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』(2013年4月6日公開)で、ロック・ミュージッシャンたちを追いかける写真家アントン・コービンの魅力に酔いしれたばかりのところに、今度はニューヨークの街角でファッションに焦点を当てて写真を撮り続けているビル・カニンガムだ。「私のしていることは仕事ではなく喜び」と語るビル。好きなことをとことん突き詰めている人たちの顔は素敵だ。
部屋から自転車を出し、颯爽とニューヨークの街に繰り出す84歳のビル。自転車は何度も盗まれ29台目。毎日着ている青い上着はパリの清掃作業員のものらしい。雨の日には、安物のビニールのポンチョを、どうせすぐ破れるからと楽しそうにビニールテープで補修する。ビルは街角に身を置いて被写体が語りかけてくるのを待つ。楽園の鳥を探しだすのだという。捉える被写体は、有名人や一般人を区別しない。大スターもファッションがビルの目に止まらなければ被写体にならない。でも、パリには、1951年以来半年置きに通っている。ファッションショーで嬉しそうにシャッターを切るビル。パリコレは、ファッションを学ぶ教室なのだ。
ニューヨーク・タイムズ紙に二つのコラムのコーナーを持つビル。金を貰わないかわりに口出しさせず好きなだけページを貰う。自由より価値のあるものはないという次第。だからって、カラー写真満載のコラムを何十ページにもわたって毎週出すことを許す編集部もすごい。
日曜日には教会に懺悔しにいく。宗教・信仰について問われたビル。しばし沈黙。「人生を導いてくれるもの」と語る。小さい頃は女性の帽子を眺めるのが教会に行く楽しみだったという。若い頃、カーネギーホールのスタジオで帽子サロンを開いたのも、そんなことがきっかけだったのか。その後、カーネギーホールのスタジオに長年住み続けたというのもすごい。退去命令が出るまでずっと隣人だったエディッタ・シャーマン。彼女は著名人のポートレート撮影が専門の写真家。エディッタの人生も面白そうだ。
リチャード・プレス監督は、ビルを撮りたいと思ったものの、許可を貰うまで8年かかったという。写真家って、被写体になるのをためらうものかも。そうして実現した本作。ビル・カニンガムという人物の魅力を200%描き出している。こんな素敵な人生を歩みたいと思わせてくれた。監督、ありがとう!(咲)
2010年/アメリカ/カラー/84分
配給:スターサンズ、ドマ
公式 HP >> http://www.bcny.jp/
監督:宮藤官九郎
脚本:宮藤官九郎
撮影:田中一成
音楽:向井秀徳
衣装:伊賀大介
美術:小泉博康
出演:草彅剛(下井辰夫)、平岡拓真(円山克也)、遠藤賢司(井上のじいさん)、ヤン・イクチュン(パク・ヒョンホン)、坂井真紀(円山ミズキ)、仲村トオル(円山克之)
思春期を迎えエッチなことばかり考えている中学生・円山克也(平岡拓真)は、ある目的のために体を柔らかくする必要があって、自主トレにはげむ毎日だ。
トレーニング中に瞬時痛みを感じると「妄想の世界に」入り込んでしまう。
そんなある日、同じ団地に謎めいたシングルファーザーの下井辰夫(草彅剛)が引っ越してくる。そのころから近所で殺人事件が起こるが、克也は下井が犯人ではないかと妄想する。
さすが宮藤官九郎!めちゃくちゃ面白い!
生真面目さ50%、不気味さ50%をミックスした草彅剛。
韓国スター・ヨン様ならぬヒョン様50%、電気修理屋パクさん50%をミックスしたヤン・イクチュン。
徘徊ボケ老人50%と爆発ミュージシャン50%をミックスした井上・・・。
人間がそれぞれが隠し持った「何か」がこぼれ出す不思議さがたまらなく愛しく感じた。
そして、主人公・円山の妄想の中で彼らが繰り広げる「妄想ワールド」もプラスされる。今年(今日までの)最高の傑作邦画だ!
(美)
2013年/日本/カラー/119分
配給:東映株式会社
公式 HP >> http://maruyama-movie.jp/
監督:吉田康弘
出演:三吉彩花、大竹しのぶ、小林薫、ひーぷー、普久原明
♪アバヨーイ アバヨーイ
♪島ぬ面影 肝に染み・・・
ここは南大東島。沖縄本島の東360kmにある孤島。
島に高校がなく、子どもたちは15歳で島を出て家族と離れて暮らさなければならない。
少女民謡グループ“ボロジノ娘”は、毎年別れの唄「アバヨーイ」を歌って島を旅立っていく。
中学3年生になった優奈(三吉彩花)は、ボロジノ娘としての最後の年を迎え、リーダーの役目を担うことになる。優奈の母(大竹しのぶ)は兄や姉の進学にあわせて那覇に移り住み、優奈はサトウキビ畑を営む父(小林薫)と二人暮らし。1年後、父を一人残して島を離れるのが心配だ。姉も嫁いだので、ほんとうは母に島に帰ってきてほしい。ある日、優奈はボロジノ娘の公演で赴いた那覇で、進学して住むことになるであろう母のアパートに行き、母に恋人がいることを知る。思わず夜の町に飛び出す優奈・・・
クレーンに吊り上げられて船に乗り込む人たちの姿に、一気に映画に引き込まれてしまった。南大東島というと、台風の接近情報でよく耳にした名前だけれど、実際にどんな島なのか、特に観光で訪れる目的地として語られることもないのでイメージがまったくなかった。約110年前まで無人だった島。1820年、ロシアの艦船ボロジノ号が発見した時に「ボロジノアイランド」と名付けたそうだ。1900年、八丈島から23名の開拓者が移住してサトウキビ畑を作り、製糖の島となる。八丈島と沖縄、そして製糖会社のもたらした大和の文化が融合した独特の文化を持つ。
外海に囲まれた島の周りは浅瀬で船が接岸できず、人も物資も檻のようなカゴをクレーンで吊り上げて船に乗せるそうだ。
日本各地の離島や僻地でも、同じように子どもたちが高校進学と共に家族と離れるケースは多いだろう。たった15歳で独り立ちしなければならない心情が、「アバヨーイ」の歌からしっとりと伝わってくる素敵な物語だ。(咲)
2012年/日本/114分/カラー
配給:ビターズ・エンド
公式 HP >> http://www.bitters.co.jp/shimauta/
監督:高雄統子
原作:中村光「聖☆おにいさん」講談社モーニングKC
脚本:根津理香
キャラクター・デザイン:浅野直之
音楽:鈴木慶一、白井良明
声の出演:森山未来(イエス)、星野源(ブッダ)
ブッダ様(声・星野源)とイエス様(声・森山未來)は、世紀末も無事に終わったので、下界に降臨して自由な日々を送っている。
なぜか、お住みになっているのが東京の立川市。古いアパートでなぜかお二人様は共同生活をなさっている・・・。
アニメと聞いて迷ったが、続きで試写があったので、ついでに観た作品。
こんな風変わりで面白いアニメとは思いもしなかった。設定もいいし、大笑いじゃなくてクスッと笑う箇所が多い。後から「思い出し」笑いも何回も出てしまった。
ブッダ様はお金にシビア、イエス様は衝動買いしてしまうなど、お互い相手に気を使っているが性格は正反対。
そんなお二人が仏や神様だとばれないように生活する。
気軽になんていったらバチがあたりそうだけど(彼らは優しいから大丈夫だと思う)是非観て楽しんでほしいアニメ作品。
宗教間でイザコザが絶えない世の中だが、こんなふうにいけたらいいなぁ・・・。
(美)
2013年/日本/カラー/89分
配給:東宝映像事業部
© 中村 光・講談社/SYM 製作委員会
公式 HP >> http://www.saint023.com/
監督:スコット・デリクソン
脚本:スコット・デリクソン
撮影:クリストファー・ノア
音楽:クリストファー・ヤング
美術:デイヴィッド・ブリスビン
出演:イーサン・ホーク(エリソン・オズワルド)、ジュリエット・ライランス(トレイシー・オズワルド)、フレッド・ドルトン・トンプソン(保安官)、ジェームス・ランソン(副保安官)、クレア・フォリー(アシュリー)、ヴィンセント・ドノフリオ(ジョナス教授)
ペンシルベニア州キング郡に越して来たミステリー作家エリソン・オズワルドと妻、子ども二人は、ここ10年あまりベストセラーが出ていないオズワルド家の経済状態の悪化からこの辺鄙な村の古びた広い家に越してきたのだ。
かつて有名だった作家オズワルドに土地の保安官は「この家に関しての事件を蒸し返さないでほしい」と釘をさされてしまう。
この家で、かつて少女は行方不明、他の家族は全員、ある方法で殺されていた。オズワルドがこの家に移ったのは、次回作の手がかりにしたいと家族に内緒で引っ越してきたのだ。
フッテージ試写会と思ったら映画題名が『フッテージ』だった。5本の8mmフィルムそれぞれに一部分しか殺人の顛末が映ってないので、この題名になったのだ。
内容は、名付けて「曰く因縁の家・渡り鳥的・ホラー映画!」と勝手に命名。
イーサン・ホークが自分でこの家を好んで借りたのに、その日に「曰く因縁の古いフィルム」を見つけてびびっている表情には笑ってしまったが、笑っておられるのは始めだけ。
言葉で説明するととっても簡単なことだけど、映像的には非常に手の込んでいて、「あ~、そうか・・・」となるまでが、とっても恐くて面白い。
でもネタがばれちゃうと「いつか破綻しないか」とホラー好きには心配だ。
犯罪小説を書くために犯罪現場に住む、というのは見上げた根性だけど、付き合う家族は大迷惑。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/スコープサイズ/110分
配給:ハピネット
公式 HP >> http://www.footage-movie.jp/
監督・脚本:ジュリー・ベナスラ
出演:クリスチャン・ルブタン、マノロ・ブラニク、ジョヴァンナ・フェラガモ、ピエール・アルディ、ブルーノ・フリゾーニ、ファーギー、ディタ・フォン・ティース、ケリー・ローランドほか
足元を彩る靴を様々な角度から検証するドキュメンタリー。靴の歴史から、靴に魅了される女性たちの心理、どんな高さのヒールが足を美しく見せるのか・・・等々。有名な靴デザイナーたちへのインタビューや、セレブな女性たちに聞く靴へのこだわりも。女性と靴の素敵な関係が語られる。ジュリー・ベナスラ初監督作品。
靴といえば元フィリピン大統領夫人イメルダ・マルコスを思い出す。逃亡したあとに残された膨大な靴のコレクション! 贅沢の極み。韓国ドラマ「アイドゥ・アイドゥ~素敵な靴は恋のはじまり」では、「私の名前はキム・サムスン」でお馴染みの女優キム・ソナ演じる靴デザイナーが、自宅の優雅な部屋で綺麗にディスプレイされた靴に囲まれてくつろぐ姿が印象的だった。私の友人にも靴好きで、つい買ってしまうという女性がいるけど、私自身は必要最低限の気に入った靴があれば事足りる。そんな靴に無頓着の私が観ても、存分に楽しめるドキュメンタリー。
ファッションショーで、高いヒールで颯爽と歩くモデルたち。彼女たちがずっこけるシーンを集めた箇所がある。歩く姿を美しく見せるヒールの高さは危険も伴うもの。若い頃は多少高いヒールの靴で少しでも背を高く見せようとしたこともあったけれど、最近は安全第一。楽な靴に限る。この映画に出てくる靴たちには縁遠い。
赤いハイヒールの写真を観ていたら、にわかにレスリー・チャンを思い出した。普段は履かないハイヒールでのステージ。ちょっと得意げなレスリーの顔! 男の人がハイヒールを履いてみる気持ちは格別だろう。 もう一つ思い出したのは、『猟奇的な彼女』で、チャ・テヒョン演じる主人公が、彼女のハイヒールを履いて歩けと命令された場面。あれはほんとに辛そうだった。(咲)
2011年/フランス・アメリカ/70分/カラー/デジタル
配給:アルシネテラン
公式 HP >> http://www.alcine-terran.com/shoes/
監督: ジェイソン・コーン ビル・ジャージー
出演:ルシア(チャールズ・イームズの娘)、イームズ・デミトリオス(イームズの孫)、ポール・シュレイダー、リチャード・ソウル・ワーマン(TED 設立者)、ケヴィン・ロシェ(建築家)、ジェニーン・オッベウォール(イームズオフィス・デザイナー)、デボラ・サスマン(イームズオフィス・デザイナー)
1939年、画家を目指すレイ・カイザーと、当時既婚者だった建築家チャールズ・イームズが出会い、恋に落ちる。1941年には結婚してロサンゼルスへ。お互いの才能を生かす“イームズ・オフィス”を開く。“イームズ・チェア“の名で世界で愛され続ける椅子のデザインをはじめ、家具やおもちゃ、さらには建築、映画と二人は多彩な作品を生み出していく。画家、建築家という肩書きに捉われず様々な分野に挑戦した二人の軌跡を、二人の手紙や写真、さらには家族や二人を知る関係者の証言で紡いだドキュメンタリー。
第二次大戦後の米ソ冷戦の時代、二人がソ連に見せるために作ったアメリカの生活を映し出した映画が紹介される。明るい笑顔で登校する子どもたち、高速道路、快適な住環境・・・。 星を映し、ソ連からもアメリカからも同じ星が見えると語り、最後に忘れな草。フルシチョフがこの映画を見て涙したという。
二人三脚で仕事にまい進してきた二人だが、チャールズが浮気して危機を迎えたこともあったと明かされる。1978年8月21日、チャールズが亡くなり、事務所は閉鎖に追い込まれるが、その後はレイが表舞台に躍り出る。そして、10年。1988年8月21日、チャールズの命日にレイが亡くなる。一心同体だった証に同じ日に旅立ちたかったのだという。なんという夫婦愛! (咲)
2011年/アメリカ/英語/カラー&モノクロ/HDCAM/84分
配給: アップリンク
公式 HP >> http://www.uplink.co.jp/eames/
監督:チャン・ギュソン
脚本:キム・ドンチョン
音楽:キム・ジュンソク
出演:チュ・ジフン(チュンニョン/ドクチル)、イ・ハニ(スヨン)、イム・ウォニ(護衛兵士ヘグ)、キム・スロ(護衛兵士ファング)、キム・ソヒョン(ソルビ)
国王の三男に生まれた王子チュンニョンは、王位など関わりないこととのんきに読書三昧の日々を過ごしていた。ところが、行状の良くない長男を世継ぎにするのをやめた父王が、三男のチュンニョンを王位継承者と決める。長兄には恨まれ、これまでと全く違う重圧に耐え切れず、チュンニョンはあとさき考えずに王宮から逃げ出すことにする。塀を乗り越えたとき、外にいた奴婢にぶつかり失神させてしまった。これ幸いと着物を取り替え、街へと走る。護衛のファングとヘグは外に倒れていた奴婢のドクチルを連れ帰る。なんと他人の空似か、ドクチルは王子とそっくりだったのだ。やがて本人でないことがわかり、二人は大慌て。早く捜し出さねば首が飛んでしまう。ファングは付きっ切りでドクチルに王子の代役をさせ、ヘグは必死でチュンニョンの行方を追う。一方チュンニョンはドクチルに間違えられ、わけがわからないまま生まれて初めて辛い目にあっていた。
韓国版「王子と乞食」といった物語。最も偉大な国王と讃えられている世宗大王が王位につくまでの3ヶ月間だけ、なぜか記録が残っておらず、その間何があったのかを想像+創造で描いています。王の身替わりという筋立てでは先に公開された『王になった男』がありますが、あちらは初めから王に似た男を捜して身替わりとするもの。こちらは偶然似た人間と入れ替わってしまい、どちらにも覚悟がないために騒動が巻き起こるもので、シリアスな『王になった男』とは違うコメディとなっています。しかしながら思いがけず置かれた世界で鍛えられていく成長物語でもあり、これはこれで気軽に楽しめます。兵役から戻ったチュ・ジフンが、初めヘタレな王子が民を思いやる賢帝の片鱗を見せるまでと、全く違う身分の奴婢の二役を演じて、ファンは必見でしょう。(白)
2012年/韓国/カラー/121分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ポニーキャニオン
© 2012 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
公式 HP >> http://oudearu.com/
監督:フェデ・アルバレス
脚本:フェデ・アルバレス、ロド・サヤゲス、サム・ライミ脚本『死霊のはらわた』に基づく
撮影:アーロン・モートン
出演:ジェーン・レヴィ(ミア)、シャイロー・フェルナンデス(デビッド/ミアの兄)、ルー・テイラー・プッチ(エリック/デビットの友人/教師)、ジェシカ・ルーカス(オリビア/友人/看護師)、エリザベス・ブラックモア(ナタリー/デビットの彼女)
薄暗い森を一人の少女が逃げ惑っている。身体全体には血のようなものが滴り落ちている。
だが、男たちによって捕まえられてしまう。連れていかれた場所には何と少女の父親がいた。
娘が助けを求める叫びも空しく父親にガソリンをかけられメラメラと燃え上がる。
が、その途端少女は悪魔の声を発し焼け死んでいく。
それから時代は移り・・・現代へ。
若者5人が同じ森の小屋にやってきて数日間暮らす。どうもその小屋はミアとデビット兄妹が幼い時に母親と住んでいたところ。
ここに来た目的はミアの薬物中毒を仲間の力で治そうとしているのだった。
自称恐怖ものなんでもござれの私が言うんだから、気を悪くしないで読んでほしい。
気に入らなかったことから書くが、怖くしよう、恐がらせようという映像のオンパレード。それも半端じゃない。ある意味「力作」だろうが、あまりそれが続くと麻痺してしまう。それに音楽が映像に寄り添いすぎ。
試写が終わったあと、音楽の不満を言うと、「それがあったから私はよかった。次、怖いぞと教えてくれたから、すぐ目をつむったし」と若い女性の方が言っていた。
気に入ったところは、俳優さんはあまりお名前を知らない方ばかり。だけど一生懸命さがビシバシ伝わってくる。悪魔にとりつかれる瞬間など見事な身体表現で、酷いシーンに迷いがない。
ホラー好きが冷静な目から見ても「おいおい、ここまでやるんかい?」的面白さがある。気に入らない音楽も空襲警報のようなサイレン音はこの作品にぴったり。
こういう作品を観るとメイキング映像を見たくなる。
どんな工夫、どんな苦労、俳優さんたちの努力などみたいものだ。
どなたか「ホラー・メイキング映像祭」なんてやらないかなぁ・・・。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/スコープサイズ/91分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式 HP >> http://www.harawata.jp/
監督・脚本:エラン・クリーヴィー
撮影:エド・ワイルド
音楽:ハリー・エスコット
出演:ジェームズ・マカヴォイ(マックス・ルインスキー)、マーク・ストロング(ジェイコブ・スターンウッド)、アンドレア・ライズブロー(サラ・ホークス)、ピーター・ミュラン(ロイ・エドワーズ)、ジョニー・ハリス(ディーン・ウォーンズ)
若手捜査官のマックス・ルインスキーは強盗事件に出くわし、銃もないまま一人追跡するが主犯のジェイコブ・スターンウッドに膝を打ちぬかれ取り逃がしてしまう。3年後スターンウッドの消息がわかる。息子ルアンが事件にまきこまれ、アイスランドに潜伏していた父親に宴楽を取ったのだった。千載一遇のチャンスがきたマックスは同僚のサラとともに捜査にあたる。しかし巨大な組織の存在があり、マックスとスターンウッドはともに危険にさらされることになった。
最近の犯罪映画は末端のドンパチを派手に見せるだけでなく、さらにその後ろにある組織(警察だったり政界だったり)との攻防が組み込まれていることが多いようです。将棋やチェスだって大物はずっと後ろにいてなかなか実践には参加しません。そこまでをどう見せていくかが観客を引き込むカギになります。2005年の『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』でのタムナスさん役がいまだ目に焼きついているジェームズ・マカヴォイが一度挫折した主人公を、冷徹な敵役がはまっているマーク・ストロングが大物犯罪者を演じて、追いつ追われつを緊張感たっぷりに見せています。老練なピーター・ミュランがさすがの存在感、紅一点のアンドレア・ライズブローが花を添えます。(白)
2013年/イギリス、アメリカ/カラー/99分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ファインフィルムズ
©The British Film Institute 2013
公式 HP >> http://www.finefilms.co.jp/betrayer/
監督・製作・撮影・編集:土井敏邦
整音:藤口諒太
福島県飯舘村。原発から30km以上離れているにも関わらず、地形や風向きの関係から高濃度の放射能が降りそそぎ汚染されてしまった。線量の高さがわかったのは原発事故の数ヵ月後。それまで村民は知らずに生活していたのだ。全村民が村を捨てての避難生活を余儀なくされる。第1部では前作『飯舘村 第一章・故郷を追われる村人たち』に引き続き家族を中心にまとめた。酪農や農業に従事していた二家族は家畜や農地を諦め、家族離散の憂き目に遭っている。第2部では除染作業とその結果を提示する。巨額の費用をつぎ込んでも元の生活を取り戻す数値になるのは程遠い。
避難生活は2年に及んでいます。いくばくかの保証金が入っても元の生活に戻れる見通しは立っていません。遠目にはのどかな農村と見える飯舘村も近づけば、田畑は雑草に覆われ、人一人いない異常な風景とわかります。目に見えない放射能にもし色がついていたなら、どんな風に映るのでしょう。地震や津波の自然災害は人智の及ぶところではありませんが、原発事故は人災。まったく余計であったと私でも思います。未体験のこの事故に、政府は想定外といいわけするのでなく、チェルノブイリの事故を教訓にし今後にあたろうと思わないのでしょうか? 私も含め人は時がたつにつれ忘れてしまいがちです。土井監督が丁寧に取材した本作で、故郷と穏やかな暮らしを奪われてしまった人々の悲痛な思いを知って胸に刻んでください。(白)
土井監督は今まで、パレスチナの人々、ビルマから日本に避難し、暮らしている人たちなど、「自分の意志ではなく、やむを得ず故郷を離れざるを得なかった人々と、帰郷への思い」をテーマに作品を撮ってきた。この作品もその思いで撮影した作品ということで、放射能によって故郷を追われた避難民の人たちに取材している。帰りたくても帰れない故郷。帰れるためにはどのようにしていくのがいいのか。まだまだ模索中だけど、チェルノブイリの状態を見てもわかるように、25年たっても帰れないでいる人たちがいる現状、数年たってから癌などの症状がでてきている状態を見れば、原発を続けることがいかに人類の未来を危うくさせているのかがわかる。どうして、政権を担う政治家はそれがわからないのか。経済にばかり目が行っている。こんな原発を輸出しようとしているなんて信じられない。(暁)
2013年/日本/カラー/119分/HD/
配給:浦安ドキュメンタリーオフィス
公式 HP >> http://doi-toshikuni.net/j/iitate2/
監督:三池崇史
原作:木内一裕「藁の楯」講談社文庫刊
脚本:林民夫
撮影:北信康
音楽:遠藤浩二
出演:大沢たかお(銘苅一基)、松嶋菜々子(白岩篤子)、岸谷五朗(奥村武)、伊武雅刀(関谷賢示)、永山絢斗(神箸正貴)、藤原竜也(清丸国秀)、山崎努(蜷川隆興)、余貴美子、由里千賀子
財界の大物 蜷川隆興の孫娘が惨殺された。犯人は8年前にも少女の暴行殺人で服役していた清丸国秀。仮出所中にまた少女に手をかけたのだった。必死に捜索する警察の目を逃れて福岡に潜伏していた。事件から3ヵ月後、大手新聞に蜷川の依頼した全面広告が掲載される。清丸の顔写真と「この男を殺した人に10億円支払う」という前代未聞の内容だった。身の危険を感じた清丸は警察に自首し、警視庁は東京まで護送するため、SPの銘苅一基をリーダーにチームを組んで福岡へ赴かせた。あらゆる手段を使って近づいてくる懸賞金を狙う人間から、殺人犯を保護しなければならない。送検までのタイムリミットは48時間。
懸賞金をかけて犯人を殺せというのは誇張されてみえますが、実際被害者の親族の方はそんな思いだろうと胸がつまります。護送チームとなるメンバーにはそれぞれ事情があり(それはおいおい明らかになりますが)、清丸を守ることに矛盾を感じながらも使命を全うしようとするのが痛々しいです。ほかに方法はないのかと思いながら、傷つき倒れていくのを観ることになり後味がよくありません。「人間のクズ」と呼ばれる清丸役の藤原竜也くんもよくこんなリスキーな役を受けたものです。可愛い顔立ちと残忍な犯罪というアンバランスなところが不気味で、いいキャスティングなのでしょう。大沢たかおさん哀切、松嶋菜々子さん男前でした。(白)
2012年/日本/カラー/125分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ワーナー
©木内一裕/講談社映画 ©「藁の楯」製作委員会
田口ランディさん、鈴木邦男さん、小森陽一さんなど豪華ゲスト来場!!
「憲法の話をしよう。」と題した特別企画が、東京・ポレポレ東中野、大阪・シアターセブンにて開催されています。シグロからの情報を転載します。
※ 上映期間延長のおしらせ
『映画 日本国憲法』の上映は、10日までの予定でしたが24日まで延長されました。
[5/11(土)~5/24(金)] 10:30~「映画 日本国憲法」のみ一日一回上映
施行から66年を迎える5月3日の憲法記念日に合わせ、憲法とは誰のためのものか、憲法制定や平和憲法の意義について、改めて考える契機とするべく、ジャン・ユンカーマン監督作品『映画 日本国憲法』を再上映いたします。
また、『映画 日本国憲法』にも出演されている、ベアテ・シロタ・ゴードンさんが昨年12月30日にすい臓がんで逝去されました。ご冥福をお祈りするとともに、追悼の意を表して『ベアテの贈りもの』(藤原智子監督)の同時上映も行います。
今回の企画を通して、憲法のことを考え、憲法のことを語る、そんな時間をみなさまと共有していきたいと思っております。
みなさまのご来場、心よりお待ちしております!!
『映画日本国憲法』公式サイトはこちら
http://www.cine.co.jp/kenpo/
東京・ポレポレ東中野での上映期間中、 劇場イベントを開催致します。イベントは本企画のチケット半券を ご提示下されば、どなたさまでもご参加いただけます。
なお、公式サイトではお得な前売り券も好評発売中です。
[東京]
○会場:ポレポレ東中野(TEL.03-3371-0088)
○日程:4/27(土)~5/10(金)
○上映時間:12:50~(A)/14:45~(B)/16:50~(A)
※(A)映画 日本国憲法(B)ベアテの贈りもの
○料金<『映画 日本国憲法』『ベアテの贈りもの』2作共通>
当日:1回券 一般、シニア(60才以上)1,500円
中学・高校・大学・専門1,000円/小学700円
2回券 2,500円(2回券は別日でもご利用頂けます)
前売:1回券 1,200円/2回券 2,000円
※鑑賞券1枚で上記2作品のうち、いずれか1作品を鑑賞できます。
※前売券は公式サイト[http://www.cine.co.jp/kenpo2013.html]、劇場窓口で好評販売中!
○上映延長[5/11(土)~5/24(金)] 10:30~「映画 日本国憲法」のみ一日一回上映
4/27(土)田口ランディさん(作家)
4/28(日)鈴木邦男さん(「一水会」顧問)
4/29(月・祝)ジャン・ユンカーマンさん(「映画日本国憲法」監督)
4/30(火)伊藤千尋さん(朝日新聞記者)
5/1(水)小森陽一さん(九条の会事務局長、東京大学教授)
5/2(木)アーサー・ビナードさん(詩人)
5/3(金・祝)班忠義さん(作家、映画監督)
5/4(土)アサダワタルさん(日常編集家)
5/5(日)ジャン・ユンカーマンさん(『映画 日本国憲法』監督)
×山上徹二郎(『映画 日本国憲法』製作、シグロ代表)
※全て12:50の回、上映終了後となります。
※既に<憲法の話をしよう>をご覧になられた方も、半券のご提示でトークのみをご覧頂けます。(場内が混み合っている場合は、トークのみのご入場をお断りする場合もございます。何卒ご了承ください。)
[大阪]
○会場:シアターセブン(TEL.06-4862-7733)
大阪市淀川区十三本町1-7-27 サンポードシティ5階
○日程:5/4(土)~5/10(金)
○上映時間:11:30~『ベアテの贈りもの』
13:20~『映画 日本国憲法』
○料金<『映画 日本国憲法』『ベアテの贈りもの』2作共通>
当日のみ:1回券 一般、シニア(60才以上)1,500円
2作連続鑑賞券 2,000円
☆上映作品の詳細などは公式サイトをご覧下さい。
公式サイト>[http://www.cine.co.jp/kenpo2013.html]
なお、現在シグロではチラシ配布にご協力頂ける方を大募集しています。各種イベント、ご家族や友人の集まりなど、様々な場で本企画をご紹介頂けますと幸いです。
ご協力頂ける方は下記まで、必要部数と送り先をご連絡下さい。
*なお、シネマジャーナルでは、本誌65号
にて『映画 日本国憲法』を紹介しています。
また、『ベアテの贈りもの』については63号にて作品紹介、64号にて、
藤原智子監督、ベアテ・シロタ・ゴードンさんへのインタビュー記事を掲載しています。
これはシネマジャーナルHPからの転載です。
また、ベアテ・シロタ・ゴードンさんの追悼記事が87号に掲載されています。
『ベアテの贈りもの』シネマジャーナルHP 藤原智子監督、ベアテ・シロタ・ゴードンさんインタビュー記事はこちらから
http://www.cinemajournal.net/special/2005/beate/
監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:ミシェル・ゴンドリー、ジェフリー・グリムショウ、ポール・プロック
撮影:アレックス・ディセンホフ
出演:マイケル・ブロディ(マイケル)、テレサ・リン(テレサ)、レイディーチェン・カラスコ(レイディ・チェン)、レイモンド・デルガド(リトル・レイ)、ジョナサン・オルティス(ジョン)、ジョナサン・ウォーレル(ビッグ・T)、アレックス・バリオス(アレックス)
ニューヨーク、ブロンクス。明日から夏休み、開放感いっぱいの高校生たちは校門前から郊外に向かうバスに乗り込んで家に帰る。一般乗客もいる車内では、小学生を立たせてそれぞれの定位置の座席を陣取り我が物顔だ。いつもつるむグループ、カップルで噂話やパーティの相談にと盛り上がっているが、停留所に着くたびに一人降り、二人降りして少しずつ空気が変わっていく。
ミシェル・ゴンドリー監督が自らの高校生時代の体験をもとにした新作。俳優ではなくブロンクスのコミュニティ・センターに集まる高校生たちがそのままの呼び名で出演しています。監督は3年にわたってコミュニティ・センターに通い、彼らに綿密なリサーチを重ねたそうです。いまどきの高校生たちの日常や本音を映し出して、ドキュメンタリーかと思うようなリアルさでした。ところどころに回想シーンが入りますが、ほぼバスの中だけでストーリーが進みます。大騒ぎしていた高校生たちが、仲間が減っていくにしたがって違う顔を見せていくのに惹きつけられました。ディティールは違っても、どの世代にも共通する感覚があります。(白)
何の予備知識もなく観始め、この高校生たちのあまりな傍若無人な行動に腹が立ち、思わず「こんな映画、観たくない!」と、投げ出して帰りたかったけど、試写室の中ほどの位置に座っているし、立つに立てず、イライラしながら観ていた。寝てしまいたいと思ったのに、そういう映画に限って眠れない(笑)。参ったなと思いながら、半分がすぎ、だんだん生徒の数が少なくなってくると映画のトーンが変わり、最後はなんだかホッとして終わった。集団だと強がっているけど、個人になれば普通の高校生たちがいた。でも、これってこわいこと。個人だとしないことも、集団だとやってしまうってことだよね。監督は、高校生たちの生態ということだけを現わしたかったのかな? それとも深い意味があったのか…。
これを観て、以前、ヤン・イクチョン監督の『息もできない』を観た時にも、監督自身が演じるチンピラのあまりに汚い言葉と乱暴さに嫌気がさして、映画を観ながら、何度も途中で出ようと思ったけど、最後に来て、「ああ、観てよかった」と思ったのをふと思い出した。(暁)
2012年/アメリカ/カラー/103分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:熱帯美術館
©2012 Next Stop Production, LLC
公式 HP >> http://www.weandi.jp/
監督:ニコライ・アーセル
脚本:ニコライ・アーセル、ラスマス・ヘイスターバング
撮影:ラスムス・ヴィデベック
衣裳デザイン:マノン・ラスムッセン
出演:マッツ・ミケルセン(ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセ)、アリシア・ヴィキャンデル(王妃カロリーネ・マティルデ)、ミケル・ボー・フォルスゴー(デンマーク王クリスチャン7世)
18世紀後半のデンマーク。英国王太子の娘カロリーネ・マティルデは、15歳でデンマーク王クリスチャン7世に嫁いだ。精神的に不安定な若い王は、カロリーネを人前で侮辱し、愛せないと言い放つ。結婚に絶望した王妃は王子を出産したものの、夫と親しむことはなく孤独な日々を送ることになった。
2年後、旅先で病に伏したクリスチャン7世を治療したドイツ人医師ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセが侍医に任ぜられた。秘かに啓蒙思想の本を出版し、政治への野心を持つ彼は王のお気に入りとなって、王宮での地位を固めていく。天然痘が広がり、予防接種の必要性を説くストルーエンセに王妃が協力する。距離が縮まった二人が相愛となるのに時間はかからなかった。
デンマークでは誰もが知っている史実を映画化。国王夫妻を虜にした野心家が権力を握り王宮を牛耳っていくさまは、「大奥」に置き換えても全く違和感ありません。演じるマッツ・ミケルセンがただの悪人でなく魅力的なので、せっかくの改革をなぜもっと時間をかけてできなかったのかと、つい肩入れしてしまいました。
今でいえば「統合失調症」と思われるクリスチャン7世の奇矯な行動も、遡れば教育係の暴力から発していると知ると哀れです。王役に抜擢された新人のミケル・ポー・フォルスガードの品と繊細さが国民には愛されたというのを納得させます。泰西名画を見るようなロケと衣裳・美術も◎。
ニコライ・アーセル監督は『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の脚本家でもあります。第62回ベルリン国際映画祭で2つの銀熊賞(脚本賞、男優賞)を獲得しました。(白)
2012年/デンマーク/カラー/137分/シネマスコープ
配給:アルバトロス・フィルム
©2012 Zentropa Entertainments28 ApS, Zentropa International Sweden and Sirena Film Prague
公式 HP >> http://www.royal-affair.net/
監督:キム・ジウン
脚本:アンドリュー・クノア
撮影:キム・ジヨン
衣装:ミシェル・ミッチェル
美術:フランコ・カポーネ
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー(レイ・オーウェンズ)、フォレスト・ウィテカー(バニスター捜査官)、ジョニー・ノックスヴィル(ルイス・ディンガム)
ロサンゼルス市警察の麻薬捜査の元敏腕刑事オーウェンズ(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、今ではめったに事件など起きない国境付近の小さな町で保安官をしていた。
そんなある日、FBIから電話が入り、「移送中の極悪犯罪者が脱走し、すごいスピードが出る新型武装車でメキシコ国境のその町に向かっている」という。
警察の応援も間に合わず、武器もほとんどない中、オーウェンズは地元の素人同然の仲間を大急ぎで集め、極悪集団に立ち向かう。
めちゃくちゃ面白い。ストーリーに無駄がなく、俳優さんもみんな言うことなし!
カリフォルニア州で知事さんやっていた7年間がもったいなく感じたくらいだ!
正義の味方、皆で一致団結、それにハラハラ・ドキドキ付きだからばっちり楽しめた。
すごい最新鋭の車が300~400キロのスピードで向かって来るシーンはまるで小型新幹線。
その猛スピードと最新式の銃と、俄仕立ての仲間と銃オタクのお宝で飾ってあった武器で始まるその対決は・・・ここからはやはり観ていただくしかない。
公開はGW。これをご覧になって弾みをつけてほしい。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/107分
配給:松竹 ポニーキャニオン
公式 HP >> http://laststand.jp/
監督:ダスティン・ホフマン
出演:マギー・スミス、トム・コートネイ、ビリー・コノリー、ポーリーン・コリンズ、マイケル・ガンボン
「乾杯の歌」(オペラ《椿姫》)が高らかに聴こえてくる。ここは、英国の田園の中にたたずむビーチャム・ハウス。引退した音楽家たちが寄り添って余生をおくっている老人ホームだ。資金難のホーム存続をかけてコンサートを開くため、皆、猛練習中。取り仕切るセドリックが、コンサートのトリをどうしようかと思い悩んでいたとき、ソプラノ歌手ジーンが入居してくる。ホームには、彼女がかつてカルテット(四重唱)を組んでいたテノールのレジー、メゾソプラノのシシー、バリトンのウィルフの3人がすでに住んでいた。セドリックは、英国オペラ界の往年の4大スターのカルテットを復活させようと思いつく。だが、ジーンはもう人前で歌いたくないと頑なだ。実はジーンとレジーはかつて結婚した仲だったが、ジーンが結婚直後に浮気したことを告白し、すぐに離婚したのだった。そのわだかまりもあってカルテットは組めないというのだ。さて、コンサートはどうなる? そして、ジーンとレジーの関係は修復できるのか?
『卒業』で鮮烈なデビューをしたダスティン・ホフマンが75歳にして初監督した作品と聞いただけで、もうワクワク。映画の最初から年老いた人たちへの暖かい眼差しを感じる作品でした。
公開を前にダスティン・ホフマンが21年ぶりに来日。4月9日、記者会見が開かれ、いそいそと参加してきました。素敵に年を重ねたダスティン・ホフマン。ユーモアを交えながら、映画への思い、人生への思いをたっぷり語ってくださいました。
脚本が気に入り監督を引き受け、主役4人のほかのキャストも、実際引退した音楽家たちを起用してドキュメンタリータッチにしたいとこだわったそうです。出演依頼をしたところ、20年ぶり30年ぶりに仕事を貰ったと喜んでくれた方たちも多数。朝6時ごろから撮影に参加してくれて、現場でどんどん若返りしていく光景を見ることができたのは素晴らしい経験だったと感慨深く語りました。さらに、「自分も老いるということに、若い頃は気づかない。誰しもどこか悪くなって、ある日、老いを感じることになります。でも、仕事を引退したとしても、これで人生終わりじゃない」との言葉に、年を取ってもいつまでも輝いていたいものだと勇気付けられました。映画もまさに、年を取っても好きな仕事や趣味に励み、恋もしてと、元気になれる物語。
ところで、ダスティン・ホフマンが一番なりたかったのは、ピアニストだったとか。才能がないと諦め、第二志望の俳優になったそうです。舞台に立ちながらも、映画の撮影前日までウェイターをしていたと明かしてくださいました。こんなに有名になるとは、ご本人もびっくりではないでしょうか。これからまた、どんな顔を見せてくださるか楽しみです。
記者会見に駆け付けた樹木希林さんとの爆笑トークの様子は、スタッフ日記でどうぞ!
http://cinemajournal.seesaa.net/article/354948262.html
(咲)
音楽家のためのホームは実在しているそうです。同じ業種の方ばかりが集まるというのは難しくないかなと思いますが、みなさま恵まれた余生を送る芸術家、きっとアンサンブルも楽しいのでしょう。実際の歌姫の素晴らしい歌声を聴かせてもらい、誠実な思いが何十年もの時間を経て届く場面も観られました。マギー・スミスは腰が悪く、映画と同じように杖が手放せないそうです。でも、歳をとることはマイナスばかりではありませんよ、とホフマン監督からのメッセージがこもっている作品。
日本でもシルバー世代の俳優さんが活躍するこんな映画をたくさん送り出してほしいと思います。待っている観客はいっぱいいますよ。(白)
2012年/イギリス/99分/英語/カラー/シネマスコープ
配給:ギャガ
公式 HP >> http://quartet.gaga.ne.jp/
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
衣装:ジョアンナ・ジョンストン
出演:ダニエル・デイ=ルイス(エイブラハム・リンカーン)、サリー・フィールド(メアリー・トッド・リンカーン)、ウィリアム・スワード(デヴィッド・ストラザーン)ハンタイ、ジョセフ・ゴードン=レヴィッド(ロバート・リンカーン)、トミー・リー・ジョーンズ(タデウス・スティーヴンス)
1865年1月、エイブラハム・リンカーンが大統領に再選されて2ヶ月後、彼は大きな壁にぶつかっていた。
奴隷解放の賛否を巡り国を二分する南北戦争はすでに4年目になり、多くの若者の命が失われていた。
「すべての人間は自由であるべき」の信念を持つリンカーンは、奴隷解放を実現するには、憲法改正が必要であると考えていた。
丁寧に作られている。
映画中のリンカーンは、話し好きでユーモアがあるやさしい方だ。
国の情勢を見極め、まわりに政治家たちの意見を聞き、そして家族の時間のどの場面も一定の冷静さ、我慢強さを持って接していた。人間が出来た方だったのだと思う。
リンカーンの本当に疲れきった後ろ姿に「国」の「歴史的大事」を背負った希望と苦しみが表れていた。この後姿こそ、今年のアカデミー賞主演男優にふさわしい実力だと感じた。
※静かな秒針の音がリンカーンに寄り添って慰めているようだった。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/2Dデジタル/150分
配給:20世紀フォックス映画
韓国唯一のインディーズ・アニメーション映画祭「インディ・アニフェスト」の最新ノミネート作品のうち、選りすぐりの短編28本や韓国長編アニメーションとして初のカンヌ国際映画祭出品を果たした『豚の王』(ヨン・サンホ監督)が上映されます。
Aプロ:恋?愛!サラン!!(78min/9作品)
Bプロ:世界は万華鏡(77min/9作品)
Cプロ:心の扉をノック(77min/10作品)
長編特別上映「豚の王」
トーク:日韓作家をゲストに迎えて
水江未来氏とインディ・アニフェスト2012大賞ストップモーション作家キム・ジンマン氏
日程:2013年4月20日(土) ~ 4月21日(日)(2日間)
場所 :アップリンク・ファクトリー(渋谷)
アクセス: http://www.anikr.com/2013/m_tokyo.html
主催:UPLINK、韓国インディペンデント・アニメーション協会(KIAFA)
後援:大韓民国文化体育観光部、韓国文化院、日本アニメーション学会、日本アニメーション協会
*東京後、大阪、名古屋と巡回予定(ゲストは異なります)
■大阪:5月11日(土)~16日(木)
■名古屋:5月18日(土)・19日(日)
公式 HP >> http://www.anikr.com/
インドが日本にやってくる!ボリウッド最高の4作品が集結!
シネマート新宿にて公開、順次全国ロードショー
4月20日(土)~5月17日
『タイガー 伝説のスパイ』
『闇の帝王DON ベルリン強奪作戦』
『命ある限り』
5月18日(土)~
『きっと、うまくいく』
配給:日活
http://www.bollywood-4.com/
監督・脚本:カビール・カーン
出演:サルマーン・カーン(タイガー)、カトリーナ・カイフ(ゾヤ)
インドの諜報局RAWの敏腕スパイ、タイガーは敵国パキスタンと通じていた同僚をクールに始末する。次のミッションで訪れたアイルランドでとびきりの美女ゾヤと出逢い、生まれて初めての恋に落ちてしまった。このうえなく幸せな日々を送るタイガーだったが、ゾヤがパキスタンのスパイだということがわかる。禁断の恋と組織・国との間で苦悩する二人の行く道は?!
インド版007というキャッチがぴったりのこの作品、本家顔負けのアクションがたっぷりです。車はもとより、市電や飛行機のアクションシーンにはドキドキ。スパイ同士のロマンスにからめて、二人がさまざまな場所で繰り広げるダンスシーンが圧巻。2012年のナンバー1ヒットとなりました。タイガー役のサルマーン・カーンは『ミモラ 心のままに』(99)のころは細かったのですが、すっかりマッチョになっています。強そうでいいか。ヒロインのカトリーナ・カイフはスタイルが良いうえにすっばらしく美人でダンスも上手。インド人の父、英国人の母の間に生まれたハーフで、ファッションモデルから俳優に転身。今やトップ女優となりました。「マーシャーッラー♪」と繰り返す歌とダンスのシーンがとっても楽しいです。(白)
2012年/インド/カラー/132分/
© 2012 YASH RAJ FILMS PVT.LTD.
監督:ファルハーン・アクタル
出演:シャー・ルク・カーン、プリヤンカー・チョプラ
闇社会の帝王となったDON。新たなターゲットは、ドイツ中央銀行の地下金庫に保管されているユーロ紙幣の原板。自ら出頭して刑務所に入るのもその下準備なのだ。かつての宿敵に近づき、手を組んでことに当たろうと説得する。用意周到なDONの計画通り、二人はまんまと脱獄に成功して着々と準備を進めた。DONに逃げられたインターポールはますます逮捕に執念を燃やす。インターポールの追撃をかわしながらの金庫破りは成功するのか??
『DON(ドン) 過去を消された男』(06)の続編。監督、主演も同じ。シャー・ルク・カーンが珍しく悪人に扮していますが、極悪非情ではなくほとんどルパン3世のような雰囲気。DONを追うのは銭形警部ならぬインターポールの美人捜査官。2000年のミス・ワールドの栄冠を得たプリヤンカー・チョプラ。クールなクライム・アクションがアメリカでもうけ、インド映画興行収入の記録を塗り替えたそうです。(白)
2011年/インド・ドイツ/カラー/148分/
監督:ヤシュ・チョプラ
脚本:アディティヤ・チョプラ
音楽:A・R・ラフマーン
出演:シャー・ルク・カーン、カトリーナ・カイフ、アヌシュカ・シャルマ
ストリートミュージシャンのサマルと、実業家の娘ミラはロンドンで運命的に出逢う。ミラには父親の決めた婚約者がいたが、二人は深く愛し合うようになった。しかしサマルが交通事故に遭って意識不明になったとき、ミラはサマルの命を助けてくれたらもう彼とは会わない、と神に誓いを立ててしまう。
過去と現在を交錯させ、悲恋の恋人たちを浮き彫りにするストーリー。インド映画ではラブシーンの規制が厳しいそうですが、シャー・ルク・カーンの珍しいラブシーンがあります。美しいカトリーナ・カイフが着こなす色とりどりの衣裳もみどころ。ヤシュ・チョプラ監督はラブロマンスに定評のあるインド映画界の大御所ですが、昨年10月に亡くなられ、この作品が遺作となりました。明るく愛らしいアヌシュカ・シャルマは助演女優賞を獲得しています。(白)
2012年/インド/カラー/175分/
監督:ラージクマール・ヒラーニー
出演:アーミル・カーン Rマーダヴァン シャルマン・ジョーシー カリーナー・カプール
名門工科大学を卒業して10年。ファルハーン(マドハヴァン)とラージュー(シャルマン・ジョシ)は、卒業後行方不明になっていたランチョー(アーミル・カーン)が母校にやってくると聞いて駆けつける。3人は大学時代いつも一緒に馬鹿騒ぎをして、卒業目前に退学まで言い渡された仲間。ランチョーはエリート校出身のエンジニアとしての成功した人生よりも、自分の好きなことにまい進するタイプ。そんなランチョーが、優等生チャトゥルを差し置いてトップの成績を取ったことから、チャトゥルに目の仇にされる。チャトゥルはどちらが成功しているか、10年後に母校で再会して確認しようと言い渡したのだ。ところが、ランチョーは約束の場所に現れない。さて、彼はどこで何をしているのか? ランチョー探しの旅が始まる・・・
息子として生まれた瞬間から父親からエンジニアとしてエリート人生を歩むことを期待される男の子たち。向き不向きに関係なく親の引いたレールを歩む苦しみを味わってほしくないという監督の切実な願いが楽しく伝わってくる物語。
2010年「したまちコメディ映画祭in台東」の特別招待作品として『3バカに乾杯!』のタイトルで上映。
歌って踊っての場面のない珍しい映画と思っていましたが、少しですが、ちゃんとありました。いつも反発していた宿敵の教授の娘とは知らずに恋に落ちるパーティでの場面など、ボリウッド映画お約束の楽しみもちゃんと入れ込んでの人間ドラマ。チベット文化圏のラダック地方の美しい景色も楽しめます。(咲)
2009年/インド/170分
監監督: パン・ウンジン
原作:東野圭吾 「容疑者Xの献身」(文藝春秋刊)
出演: リュ・スンボム(『生き残るための3つの取引』)、イ・ヨウォン(『光州5・18』「善徳女王」「外科医ポン・ダルヒ」)、チョ・ジヌン(「ソル薬局の息子たち」「根の深い木」『ホームランが聞こえた夏』『高地戦』)
アパートでひっそりと暮らす数学教師のソッコ。楽しみは好きな数学を解く以外はフリーダイビング(無呼吸潜水)ぐらいだ。そんな彼が隣の部屋に幼い姪を連れて引っ越してきたファソンに一目惚れ。彼女が勤めるお弁当屋で毎朝ランチを調達するのが日課になる。ある夜、ただならぬ物音に隣の部屋へ駆けつけたソッコは、ファソンが偶発的に男を殺してしまったことを知る。男はファソンの元夫で、彼女は暴力を振るう夫から逃れて引っ越してきていたのだった。ソッコは完璧なアリバイ工作をファソンに提案する。ファソンは姪を守るため、ソッコの指示に従うことにする。一方、刑事ミンボムは暴力夫の妻だったファソンが犯人に違いないと執拗にアリバイを問いただす。聞き込みしようと隣の部屋を訪れたミンボムは、隣人が高校の同級生で天才的に数学のできるソッコだと知る。捜査は忘れ、再会の酒を交わす二人。その後、ファソンは嘘発見器にかけられるが、ソッコのアリバイ工作のお陰で無事捜査から解放される。翌朝のお弁当の包みに「この恩は忘れません」のメモを添えるファソン。一方、刑事ミンボムは諦めきれずにファソンを見張り続ける。そんなある日、ミンボムはソッコの部屋でファソンのメモを見つける・・・
ネクラな天才数学者になり切ったリュ・スンボム、暴力夫に怯えながら姪を守ろうとする女性を体現したイ・ヨウォンの二人が確かな演技をみせる。そして何より、刑事ミンボムを演じたチョ・ジヌンが光る。「ソル薬局の息子たち」ではアメリカ帰りの英語交じりのハングルをしゃべるアンちゃん、「根の深い木」では、凛々しい武官と、作品ごとに違った顔を見せてくれる。本作では、自然体で人のよさそうな刑事を演じていて、これが素に近いのかもと思わせてくれた。
あっというアリバイ工作は、原作を知らなかった私には新鮮だった。でも、こんな男には思われたくない・・・ さっさと警察にほんとのことを打ち明けたほうが、その後の人生をすっきり暮らせそう!(咲)
2012年/韓国/スコープサイズ/119分/ドルビーSRD
配給:ツイン
公式 HP >> http://www.yougisha-x.net
監督:石川寛(『好きだ、』)
出演:宮﨑あおい、忽那汐里、安藤サクラ、吹石一恵、風間俊介、後藤まりこ、韓英恵、安藤政信
大学時代からの友達、ジンコ(宮﨑あおい)と素子(安藤サクラ)は、故郷に帰った同級生のミキ(吹石一恵)が海に飛び込んで自殺を図ったらしいという噂を聞く。一命を取りとめたミキに会いに行こうと、二人はジンコが図書館で知り合った原木(忽那汐里)に運転手を頼んで、北の果ての町をめざす。思えばミキには、もう6年会っていない。何があったのか・・・
『セデック・バレ』(2011年、台湾映画)で、日本人警官役を好演していた安藤政信さんが出演しているというので楽しみにしていたのに、ふっと寝ている間に出番が終っていてがっくり。北の町に行くために借りた車の持ち主が安藤政信さん演じる素子の元ダンナだったという次第。
冒頭、男友達に不意にキスされたジンコが、「はしょったね」という。友達のつもりだったのに、いきなり恋人気取りという意味なのか? 言われた本人にはわかるのか?と、ちょっと違和感。
『ペタル ダンス』は、まさに4人の若い女優さんたちの映画。ペタルとは花びらのこと。彼女たち4人がふわふわと舞う姿が花びらのよう。それぞれの思いを抱えて海を見つめている。このシーンを観て、ふっと思った。友達の存在は大事だけど、悩みはやっぱり自分で解決するしかないなと。石川寛監督は何を語りたかったのだろう・・・(咲)
2013年/日本/カラー/90分/5.1ch/16:9
配給:ビターズ・エンド
公式 HP >> http://www.petaldance.jp/
監督・脚本・編集:ウェイ・ダーション(『海角七号/君想う、国境の南』)
製作:ジョン・ウー、テレンス・チャン、ホァン・ジーミン
プロダクションデザイン:種田陽平
出演:リン・チンタイ、ダーチン、安藤政信、ビビアン・スー、木村祐一
1930(昭和5)年10月27日、日本統治下にあった台湾中部にある山間の集落・霧社。セデック族マヘボ社の頭目モーナ・ルダオを指導者として6つの社(集落)の男たち約300名が武装蜂起。霧社各地の警察官駐在所を襲って武器弾薬を奪った後、霧社公学校で行われていた連合運動会を襲撃し、参加していた日本人134人を殺害する。女性や子どもも無差別に殺されたが、台湾人の被害は、着物を着ていた為に日本人と間違えられた2名のみであった。
1895年から50年続いた日本の台湾統治。事件が起こったのは統治から35年が経った時である。台湾原住民族であるセデック族が日本人をターゲットに武装蜂起に至るには、その間、何があったのか?
本作は、「霧社事件」と呼ばれる日本統治時代後期の最大規模の抗日暴動を、徹底した時代考証をもとに2部構成で描いた歴史大作である。
第一部『太陽旗』
1895年に台湾が清から日本に割譲されたところから始まり、1930年の霧社事件に至るまでのセデック族と日本軍部や警察との関係が描かれる。
日本統治時代、台湾人は二等国民として扱われ、いくら優秀でも決して日本人を追い抜くことは許されなかった。さらに原住民族は「蕃人(野蛮人)」として扱われた。一方で、日本人として生きるよう教育され、独自の文化や風習は禁じられた。
台湾中部の山岳部に住むセデック族は、虹を信仰し動植物と調和を保ちながら生きる誇り高き狩猟民族だった。狩り場をめぐって部族間で熾烈な争いがあり、戦った相手の首を狩るという古くからの習慣も残っていた。マヘボ社のモーナ・ルダオは、初めての首狩りで2つの首を狩り、その名を内外にとどろかせた。やがてマヘボ社の頭目となるが、先祖から受け継いだ狩り場が日本統治下で徐々に奪われていくことに心を痛める。そんな折、セデック族の結婚式の場での日本人警官とのいざこざをきっかけに、ついに蜂起することを決意する。
第二部:虹の橋
セデック族の男たちは、民族のために命を賭けて敵の首を狩り、魂を血で洗い清めて虹の橋を渡って永遠の狩り場に行き“真の人”になることを名誉としていた。「セデック・バレ」とは“真の人”を意味するセデック語である。
決死の思いで運動会を襲撃したセデック族に対し、即座に日本政府は1000名の部隊で鎮圧にあたる。山岳地帯を知り尽くしたセデック族を相手に苦戦するが、圧倒的な武力を誇る日本軍は、武装蜂起をした部族と仲の悪かった部族の力も借りて、蜂起した者たちを追い詰めていく。
ウェイ・ダーション監督は、霧社事件を扱った漫画を読み、血が沸きあがるような思いにかられ映画化を決意したという。1999年に脚本を書き始めるが、『海角七号/君想う、国境の南』(2008年)のヒットで、ようやく資金の目処がつき製作に漕ぎ着けた。
監督は歴史の中での文化と信仰の衝突として、広い視野で霧社事件を取り上げている。セデック族の側からは、「反乱」や「暴動」ではなく、民族の誇りを取り戻すための戦い、先祖への敬意を示すための戦いとして描いている。死も恐れぬ精神は当時の日本人にも通じるものがあるのではないかという。
キャスティングにもこだわりを見せ、原住民族の人を多く採用。壮年時代のモーナ・ルダオを演じたリン・チンタイはタイヤル族の牧師さん。青年時代を演じたダーチンもタイヤル族で、本作で役者初体験後、映画やテレビドラマで活躍している。
戦前の日本統治時代、母が基隆、父方の祖父母が台南に住んでいた身として、台湾は親しみを感じる地。一方で、日本の文化を押し付けた統治時代のことを思うと、とても心が痛みます。本作からは、原住民族の人たちの伝統文化をないがしろにされたことへの悲痛な思いがひしひしと伝わってきました。歴史の中で繰り返されてきた勝者が自分たちの言葉や文化を押し付ける行為。互いの文化を敬いあい、平和共存する世界であってほしいと切に思います。(咲)
3月上旬に来日したウェイ・ダーション監督と主演のダーチンさんの記者会見およびインタビューを、特別記事にしました。
>> こちら
2011年/台湾/カラー/セデック語・日本語/第一部「太陽旗」144分・第二部「虹の橋」132分・計276分/HD
第48回台湾金馬奨 グランプリ・観客投票賞ほか、第7回大阪アジアン映画祭 観客賞
提供:マクザム、太秦
配給:太秦
公式 HP >> http://www.u-picc.com/seediqbale/
監督 ジャッキー・チェン
脚本 ジャッキー・チェン、スタンリー・トン、エドワード・タン
製作総指揮 ジャッキー・チェン、スタンリー・トン、バービー・タン
撮影 ン・マンチン
編集 ヤウ・チーワイ
美術 オリバー・ウォン トーマス・チョン・チーリョン
出演 ジャッキー・チェン(JC) クォン・サンウ(サイモン) ジャン・ランシン(ボニー) ヤオ・シントン(ココ) リアオ・ファン(デビッド) ローラ・ワイスベッカー(キャサリン) アラー・サフィ(ハゲタカ) オリバー・プラット(ローレンス)
製作年 2012年
製作 香港・中国合作
配給 角川映画
ジャッキー・チェンが監督、製作、脚本、主演を務め、伝説の秘宝をめぐり繰り広げられる冒険を描いたアクションアドベンチャー。
19世紀の清朝時代、イギリス軍など諸外国の侵略により、略奪されてしまった中国・清王朝時代の秘宝「十二生肖」(12支の動物の頭部を模ったブロンズ像)。
アンティークディーラーのマックスプロフィット社は、行方不明のブロンズ像を収集するため、「アジアの鷹」と呼ばれるトレジャーハンターのJC(ジャッキー・チェン)を雇う。JCは特殊チームを率い、世界を股にかけ秘宝を探すが、行く先々で強敵と戦うことになる。
ジャッキーが『サンダーアーム 龍兄虎弟』(1986)、『プロジェクト・イーグル』(91)などでも演じた冒険家「アジアの鷹」に扮する。
ジャッキー・チェンがローラーブレードスーツを装着し、道路(それも山道!)、車の下、壁、天井などを自由自在に疾走するシーンから始まり、秘宝を探して世界各地で繰り広げるカンフーバトルや、ジャッキー風コメディタッチアクションなど、見所満載。次から次に、出てくるアクションは、さすがジャッキー・チェン。なかでも最後、燃えたぎる火山に飛び込んでいくスカイダイビングは息を呑む。手に汗にぎるシーンの連続だが、単なるアクション映画ではなく、自国の秘宝と、それらを略奪した歴史についても考えさせられる作品に仕上がっている。世界各国で、そういう歴史が繰り返されてきた。
ジャッキー・チェン、最後のアクション大作と称されているけど、これだけアクションができるのだから、まだまだアクション作品を撮り続けてほしい。(暁)
★『ライジング・ドラゴン』は、4月13日から全国で公開。
公式 HP >> http://www.rd12.jp/
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラバーティ
撮影:ロビー・ライアン
音楽:ジョージ・フェントン
出演:ポール・ブラニガン(ロビー)、ジョン・ヘンショウ(ハリー)、ゲイリー・メイトランド(アルバート)、ウィリアム・ルアン(ライノ)、ジャスミン・リギンズ(モー)
仕事もなくケンカの絶えない毎日を送るロビー。ガールフレンドの妊娠がわかってまっとうに暮らそうとするが、悪い仲間がつきまとい相手に怪我をさせてしまう。更生を期待されて刑務所で服役する代わりに300時間の社会奉仕を命じられた。奉仕活動先で指導にあたったのがスコッチウイスキー好きのハリーだった。ハリーは父親になるロビーをとっておきのウィスキーで祝福してくれた。ハリーに連れられてウィスキーのテイスティングに参加すると、ロビーは見事にウィスキーの特徴をつかみ、名前を言い当てた。ハリーは大喜び、ロビーの隠れた才能に磨きをかけようとする。
不況の出口が見えず、若者の働く場所もなかなか見つからない…日本も似た局面ですよね。鬱憤を暴力で発散していた主人公がやっと本気になれることを見つけて歩き出すストーリー。自分に親身になってくれ、尊敬できるハリーに出会えてよかったです。ロビーを演じたポール・ブラニガンは、演技経験はなく、これが映画初出演です。実際に職を失ったばかりの若い父親で、ケン・ローチ監督によってこの役に大抜擢されたのだとか。まさに人生の大逆転。
それにしてもウィスキーの値段があんなに高額とは! 3人の仲間も一緒にここ一番の起死回生にかけるロビーですが、ほんとにいいのかなぁ、これで?と思わないでもありません。しかし誰も傷つけず損もさせず、欲にかられた大人たちを見事に出し抜く痛快さに拍手。テイスティングしたウィスキーに注目した方はタイアップの詳細を公式HPでご確認を。(白)
2012年/イギリス・フランス・ベルギー・イタリア合作/カラー/101分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ロングライド
©Sixteen Films, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve, Urania Pictures, France 2 Cinema, British Film Institute MMXII
公式 HP >> http://tenshi-wakemae.jp/
監督・原案・脚本:フランチェスコ・ブルーニ
撮影:アルナルド・カティナーリ
出演:ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ(ブルーノ)、フィリッポ・シッキターノ(ルカ)、バルボラ・ボブローヴァ(ティナ)、ヴィニーチョ・マルキオーニ(詩人)
元教師で独り者の中年男ブルーノは、今は伝記本のゴーストライターと自宅での補習塾で生計を立てている。豊かではないが、悠々自適の毎日。やんちゃな教え子ルカの母親から、自分のいない6ヶ月間息子を預かってくれるよう頼まれる。「何で自分が?」といぶかるブルーノに、「私がわからない?」という彼女は15年前の短い恋の相手だった。ルカが生まれたことを知らせずに一人で育ててきたという。半信半疑ながら、今までは気の合う少年だったルカがわが子だと思うと突如教育熱心になるブルーノ。ルカはこのままでは落第してしまうのだ~。
ローマの街が舞台、原題の「Scialla!(シャッラ)」はローマっ子の間で流行ったことばで、「まあ、いいから」とか「なんとかなるさ」な意味だそうです。軽くて楽しい主題歌がくりかえし耳に入るので、帰り道で歌ってしまいそう。ルカ役のフィリッポ君はサッカーのデビッド・ベッカム似のイケメン。オーディションに友人の付き添いで来て、監督に大抜擢され、この作品のヒットで一躍アイドルになってしまったそうです。
ブルーノとルカの2人のストーリーも良いですが、周りのユニークな人々が物語をさらに彩ります。ポルノ女優のティナが素敵。彼女の優秀な息子にちょいと対抗心を燃やしてしまうブルーノの親心もほほえましいです。これが初監督作と思えない仕上がりの心温まる作品でした。(白)
2011年/イタリア/カラー/95分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アルシネテラン
公式 HP >> http://www.alcine-terran.com/bruno/
監督:舩橋淳(ふなはし あつし)
脚本:舩橋淳、村越繁
撮影:古屋幸一
音楽:ヤニック・ドゥズインスキー
出演:臼田あさ美(佐生栞)、三浦貴大(森匠)、高橋洋(佐生研次)、松本まりか(翔子)、三浦力(戸高卓)、張天翔(李さん)、柳憂怜(橘)、小澤雄志(隅田)、テイ龍進(周さん)、諏訪太郎(木村)
同じ鉄工所に勤める研次と栞は幸せな新婚生活を送っていたが、研次は出張先で突然事故死してしまう。一人残された栞は失意の中勤めを続けている。工場の要であった研次を失って、出向していた森が戻ってくる。森は研次が目をかけていた後輩で、事故の加害者でもあった。森の謝罪を栞はどうしても受け入れることができない。同僚のいやがらせを受けながらも、一人黙々と作業を続ける森の姿を見るうちに栞の心も少しずつほぐれていく。
ドキュメンタリー『フタバより遠く離れて』の舩橋淳監督が、日立市の全面協力を得て作りました。加害者の寡黙でまじめな青年を三浦貴大が演じて好感度高し。被害者の妻、栞が彼の真摯な態度に徐々に心が近づいていくのも、無理はないかなと納得。観ていると栞がはっきりしなくてじれったいですが、実際ひとの気持ちが揺れ動くのが当然で、それもまたリアルなのでしょう。ただ、夫が期待し可愛がっていた後輩のことを妻が全く知らないというところ、ちょっと不自然に感じました。普通話題に上るんじゃないかな。出張先にいるのだし。(白)
2012年/日本/カラー/119分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:東京テアトル,オフィス北野
© 2012 『桜並木の満開の下に』製作委員会
監督:石井裕也
原作「舟を編む」三浦しをん(光文社刊)
脚本:渡辺謙作
撮影:藤澤順一
出演:松田龍平(馬締光也)、宮崎あおい(林香具矢)、オダギリジョー(西岡正志)、池脇千鶴(三好麗美)、渡辺美佐子(タケ)、小林薫(荒木公平)、宇野祥平(宮本慎一郎)
玄武書房の営業部に勤める馬締光也(松田龍平)は、名前もマジメ、気性も真面目すぎて職場で浮いていた。
しかし言葉に対して卓越したセンスを持っているのを評価され、新しい辞書『大渡海(だいとかい)』の辞書編集部に異動となった。
見出し語が24万語という大規模なもので、馬締は営業部とはうって変わって、一心不乱に仕事にのめり込んだ。
ある日、下宿屋の親戚の娘(宮﨑あおい)に一目惚れ。自分の思いを伝えたいがふさわしい言葉が出てこない馬締だった。
これは面白い。オススメ作品!だけど、だけど、だけど、こわかった。
ちょっとでも編集に携った方なら、きっと「冷や汗経験」を思い出すはず。
映画の題名間違えたり・・・俳優さんの名前間違えたり・・・あ~、これみんな私のやらかしたこと・・・。
あんな大きな大きな辞書に間違いが一つも無いなんて・・・信じられない。きっと神経が衰弱し不眠になってしまうぐらい大変な作業だろう。だからすごく長く感じた。
これは冷や汗かきながら、こっそり一人でもう一度観たい作品だ。
(美)
2013年/日本/ヴィスタ・サイズ/133分分
配給:松竹 アスミック・エース
公式 HP >> http://fune-amu.com/
監督:ムン・ヒョンソン
卓球コーチ:ヒョン・ジョンファ
出演:ハ・ジウォン(『恋する神父』『デュエリスト』「ファンジニ」「シークレット・ガーデン」)、ベ・ドゥナ(『ほえる犬は噛まない』『空気人形』『クラウド アトラス』「グロリア」)、ハン・イェリ、チェ・ユニョン(「私の娘ソヨン」)、イ・ジョンソク(「シークレット・ガーデン」)、バク・チョルミン、キム・ウンス(『カフェソウル』「太陽を抱く月」)
1991年4月、千葉・幕張で開催された第41回世界卓球選手権大会。史上初めて韓国と北朝鮮の南北統一チーム「コリア」が結成された。日本で顔合わせする北と南の選手陣。きびきびした北の選手たちと対照的に、のどやかな雰囲気の南の選手たち。育った環境から考え方や生活スタイルは違っても、共に目標は強敵・中国に打ち勝つこと。韓国で空前の卓球ブームを巻き起こしたスター選手ヒョン・ジョンファと、北朝鮮の実力トップ選手リ・プニの二人がダブルスのチームを組む。最初は練習方法や戦術の違いに戸惑うが、次第に意気投合する。順調に勝ち進んでいた中、南の選手たちが北の選手たちに好意でプレゼントした物品が北の監視たちの目にとまり、準決勝の日、北の選手たちは出場できなくなる・・・
南のヒョン・ジョンファ選手を演じたハ・ジウォンと、北のリ・プニ選手を演じたベ・ドゥナの二人が、まさにはまり役。機敏な動きで試合に臨む姿に、二人がどれほど練習を重ねたことかと惚れ惚れする。卓球の指導をしたのはヒョン・ジョンファ選手ご本人だ。
本作は、実話に基づいた物語。南北統一チームが実現したのは、当時、国際卓球連盟の会長だった故・荻村伊智朗氏の功績。まだ30代のムン・ヒョンソン監督は当時を知る人たちの話や、在日同胞の方が制作したチーム・コリアの46日間の記録ドキュメンタリーを参考に本作を作り上げた。北の監視の描き方は極端にも思えるが、それが現実なのだろう。北の男性選手と南の女性選手の間に淡い恋も芽生える。別れの日がくる。恋心を抱いた二人も、ダブルスで共に闘ったヒョン・ジョンファ選手とリ・プニ選手も、再会が叶うかどうか難しい状況での別れ。いつの日か、南北が一つ(ハナ)になることを願ってやまない監督の思いがじわ~っと伝わってくる。(咲)
2012年/韓国/カラー/HD/127分
配給:スモモ 配給 協力:スブリングハズカム
公式 HP >> http://hana46.jp/
監督:サーシャ・ガヴァン
脚本:ジョン・J・マクロクリン
撮影:ジェフ・クローネンウェス
衣装:ジュリー・ワイス
特殊メイク:ハワード・バーガー、グレゴリー・ニコテロ
出演:アンソニー・ホプキンス(ヒッチコック)、ヘレン・ミレン(アルマ)、スカーレット・ヨハンソン(ジャネット・リー)、トニ・コレット(ペギー・ロバートソン)
1959年。作品の評価とは裏腹にアカデミー賞に縁遠かったアルフレッド・ヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)は、サスペンス映画の最高傑作となる『サイコ』の製作に着手。
しかし監督独特のこだわりから資金繰りは難航してしまう。さらに、彼を支え続けてきた理解者である妻アルマ(ヘレン・ミレン)との関係まで危うくなる。
何十年も前、テレビで「ヒッチコック劇場」という番組があり、それだけは録画装置もない時代に絶対見逃せないとしゃかりきになっていた。
う~ん、そうか…その頃からサスペンスやスリラーが好きだったんだぁ~といまさらになって思い出す。
毎回毎回「すごい、なんでこういう恐いのを思いつくんだろう。このヒッチコックさんは頭がいいのは承知だが、きっと性格が恐いんじゃないか、きっと捻くれ者だよ」と内心ひそかに思っていた。
やっぱり奥様は苦労が多かったんだと同情した。だが奥様も負けていない。 ヒッチコックに猛然と反論して、いままでの腹にすえかねたこと洗いざらい言う場面には、本当、すっきりした。その時は、さすがのヒッチコックさんも言い返せなかった!
※帰り道にレンタルショップに寄って『サイコ』を探したがなかった。これを機会に過去の作品を並べて上映してほしいものだ。
(美)
2012年/アメリカ/シネマスコープ/99分
配給:20世紀フォックス映画
公式 HP >> http://www.foxmovies.jp/hitchcock/
監督:エマヌエーレ・クリアレーゼ
出演:フィリッポ・プチッロ、ドナテッラ・フィノッキアーロ、ミンモ・クティッキオ、ジュゼッペ・フィオレッロ、ティムニット・T
南イタリア、シチリアからさらに南のリノーサ島。20歳のフィリッポは、代々漁業を営んできたプチッロ家の一人息子。2年前に父を海で亡くし、祖父エルネストと共に海に出ている。観光業に転じた叔父ニーノは船を売って老後を楽しめばいいとエルネストに迫っている。一方、母ジュリエッタは島を見限り本土で再出発しようという。自分の将来について戸惑うフィリッポ。
夏になり、自宅を観光客に貸し、自分たちはガレージに住まうことになる。都会からやってきた自由奔放な若者たちに、フィリッポはちょっぴり感化される。そんなある日、漁に出た海で、アフリカからボートでやってきた難民たちを救う。彼らの中で妊娠中だったサラとその息子をガレージに匿い、サラは無事出産する。エチオピアから先に脱出した夫がいるトリノに行きたいというサラをなんとか島から脱出させようと奔走するフィリッポ。一方、エルネストの船が不法入国を助けた罪で警察に差し押さえられてしまう・・・
漁業が衰退し、自分たちの生き方も考え直さないといけない状況の中、毅然と困っている者を助ける祖父。観光業でイージーに暮らそうとする叔父よりも、フィリッポにとっては祖父の姿が眩しいに違いない。本作の舞台リノーサ島を含むペラージェ諸島は北アフリカのチュニジアやリビアからも程近く、アフリカからの難民がたどり着くことが多いという。ヨーロッパ各国に増え続ける移民。不法でなんとか入り込もうとする難民たちに、各国政府は冷たい。
暗い海で、船影を見つけた難民たちがいっせいに船に向ってくる様が凄い。決死の思いで海を渡って新天地を求めてきた人たちの姿が痛く突き刺さる場面である。誰しも、故郷を捨てたくはないはず。その故郷をあとにしなければならない事情はそれぞれあれど、誰もが皆、幸せに暮らす権利はある。困っている人たちに暖かい世界であってほしいと思う。
難民で満載の船と水着姿の若者たち満載の船の対比も強烈な本作。生まれ落ちた場所で、人生がこんなにも違ってしまうのか人間の運・不運までもを考えてしまった。とりあえず、運がよかったことを神に感謝しないといけないなぁとしみじみ。(咲)
2011年/93分/イタリア=フランス/イタリア語/35ミリ/カラー/シネスコ/Dolby.DTS
2011年ヴェネチア国際映画祭 審査員特別賞
2012年アカデミー賞外国語映画賞 イタリア代表作品
提供:クレストインターナショナル,朝日新聞社
配給:クレストインターナショナル
後援イタリア大使館
公式 HP >> http://umitotairiku.jp/
監督:ジャック・コディヤール
脚本:ジャック・コディヤール&トーマス・ビデガン
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:マリオン・コティヤール(ステファニー)、マティアス・スーナーツ(アリ)、アルマン・ヴェルデュール)、セリーヌ・サレット(ルイーズ)
ステファニー(マリオン・コティヤール)は水族館アミューズメントパークのシャチの調教師。ショウの事故でシャチが驚いた拍子に襲われてしまい、膝から下の両足を失う。
孤独な生活を送るステファニーは、事故以前にちょっとしたことで助けてもらった男・アリ(マティアス・スーナーツ)に電話をかけてみた。
主役は見た目も性格も荒っぽい貧乏男・アリだ。
彼には小さな男の子がいて、姉のアナ(コリンヌ・マシエロ)の住む地アンティーブを目指してゴミ漁りや万引きをしながらやっとたどり着くのだ。姉さん夫婦もメチャ貧乏でスーパーのレジをしていて期限切れの食料品を黙って持ってきて生活している。
狭い部屋でも貧乏でも弟親子を気持ちよく受け入れる様子を見て、ホッとした。この設定、日本ではちょっと出来ない相談だ。長い間会ってなくて、貧乏も染み付いている姉弟だが、情はちゃんと通わせているところがいい。
そんな彼が、調教師の美人トレーナーを酔っ払いに絡まれているところを助けたのだ。この時は彼女は健康な身体だった。
その出会いから恋愛に進み、激しいセックスあり、彼のせいで姉さん一家の経済的打撃ありと、フランスの社会の底辺が描かれている。
そして誰もが「人生」と格闘している姿を赤裸々に見せてくれる。
※去年観たサメに喰われてしまったハワイのサーファー映画『ソウル・サーファー』もそうだったが、体の一部分が無い状態をうまく映している。CG技術の進歩に驚く。
(美)
2012年/フランス、ベルギー/カラー/122分
配給:ブロードメディア・スタジオ
監督:クリス・バトラー、サム・フェル
脚本:クリス・バトラー
撮影:トリスタン・オリヴァー
音楽:ジョン・ブライアン
声の出演:コディ・スミット=マクフィー(ノーマン)、タッカー・アルブリッチ(ニール)、アナ・ケンドリック(コートニー)、ケイシー・アフレック(ミッチ)、ジョン・グッドマン(プレンダーガストおじさん)
舞台は300年前、魔女狩りの現場になったという曰く因縁のある町ブライス・ホロー。
ホラー映画や悪霊の話が好きな少年ノーマン(声 コディ・スミット=マクフィー)は、死者たちと話すことができる能力があったが、その能力のせいで変人扱いされている。
ある日、口も聞いていけないと言われていて、疎遠になっていたプレンダーガストおじさんに道で呼び止められる。おじさんから「300年前に封印された魔女の魂が悪霊を呼びよせ、町を滅ぼそうとしている」と告げられた。
新感覚の映像技術と工夫されたカメラワーク、そして不思議な力を持った少年の冒険とが一体になって楽しませてくれた。
独特な色使いとキャラクター、吹き替え出演者の全身から漲る声(きっと身体を役の振り付け同様に力いっぱいのお声を出していたのだろう、躍動感がそのまま伝わってきた)に満足した。
小さなお子様向けではないが、小学生高学年や中高生、若い二人連れ、元気のない男の方、ちょっと刺激がほしい中高年にピッタリのアニメ!
私の英語力は中学1年1学期レベルだが、字幕に頼らなくても意外と英語が理解できた。
難しい言葉がないのだ。これって英語教材になるんじゃないか?と思った。
試写室の仲良しお兄様は「台詞はかなり説教臭いけど、アニメだから気にならないね」と満足顔だった。
※急いでいても、絶対、劇場が明るくなるまで席を立たないでね。
(美)
2012年/アメリカ/スコープ・サイズ/92分
配給:東宝東和
公式 HP >> http://www.paranorman.jp/
監督:ジョー・ライト
脚本:トム・ストッパード
撮影:シーマス・マッガーヴェイ
美術:サラ・グリーンウッド
衣裳:ジャクリーン・デュラン
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:キーラ・ナイトレイ(アンナ・カレーニナ)、ジュード・ロウ(カレーニン)、アーロン・テイラー=ジョンソン(ヴロンスキー)、ケリー・マクドナルド(ドリー)、マシュー・マクファディン(オブロンスキー)、ドーナル・グリーソン(リョーヴィン)、ルース・ウィルソン(プリンセス・ベッツィ・トヴェルスカヤ)、アリシア・ヴィキャンデル(キティ)、オリヴィア・ウィリアムズ (ヴロンスキー伯爵夫人)、エミリー・ワトソン(リディア・イワノヴナ伯爵夫人)
19世紀後半のロシア。政府高官カレーニンの美貌の妻、アンナ・カレーニナはサンクトペテルブルグ社交界の華。一人息子のセリョージャにも恵まれ、何不自由のない暮らしをしていた。兄夫婦のもめごとを仲裁しようとモスクワを訪ね、行きの車中で出会った若き将校ヴロンスキーに心乱される。ヴロンスキーは一目でアンナに恋していた。
義姉のドリーを慰め浮気性の兄にクギをさしたアンナは、ドリーの妹キティに誘われて舞踏会に出席することになった。キティはヴロンスキーを慕っており求婚を心待ちにしているとドリーに知らされる。舞踏会で再会したヴロンスキーとアンナの尋常でない様子に、二人の思いを察したキティは深く傷つく。逃げるように帰途に着くアンナだったが、ヴロンスキーは彼女の行き先々に現れる。
世界の名作文学に必ず挙げられるロシアの文豪トルストイの「アンナ・カレーニナ」。全部は読まなくとも、作者と書名だけは覚えている方も多いはず。社交界の華とうたわれた人妻アンナと若い軍人の愛の行方が主軸ですが、さまざまな人生が重層的に繰り広げられる長い物語です。華やかなアンナとヴロンスキーの恋と並んで、ヴロンスキーに失恋したキティと、一度はキティを諦めた田舎の青年リョーヴィンとの地道な暮らし、妻に背かれた夫の苦渋の決断、社交界の人々の視線も詳細に描かれています。よく知られた物語を映画化するにあたって、目を見張るような趣向がこらされていました。大劇場の空間を自在に使い、観客を見事に物語へと引き込んでいきます。許されない恋に身を投じてしまったアンナの喜びと苦悩の日々を体現したキーラ・ナイトレイ。着こなす衣裳も素敵です。
絵に描いたようなハンサムのヴロンスキー(金髪の巻き毛に青い目というのがポイント加算)を演じるアーロン・テイラー=ジョンソンは、『ノーウェア・ボーイ』(2009)で主演していますが、なんとこのときの監督、サム・テイラー=ウッド(23歳年上)と結婚してすでに子供をもうけています。『キック・アス』(2010)ではヘタレなヒーローでしたが、今回はスポットライトに輝く堂々の主人公。これからどんな活躍をしていくのか期待大。(白)
2012年/イギリス/カラー/130分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
© 2012 Focus Features LLC. All rights reserved. photography by Eugenio Recuenco,Laurie Sparham
公式 HP >> http://anna.gaga.ne.jp/
監督:土井敏邦(『沈黙を破る』『“私”を生きる』)
チョウチョウソー。1991年、ビルマ(現ミャンマー)軍事政権の弾圧から逃れ、政治難民として来日した民主化運動活動家の青年。数年後、ようやく国に残してきた妻ヌエヌエチョウを日本に呼び寄せることが叶う。二人でビルマ料理店を開業して生活の基盤とする一方、祖国では禁じられた民主化運動を続ける。老いた父とはタイで再開することができたが、その後、父が亡くなった時に祖国に帰ることはできなかった。日本での生活も22年。多くの友人もできたし料理店も順調だが、やはり日本は異国。祖国で暮らしたいという思いが募る・・・
長年パレスチナを追いかけてきた土井敏郎監督。1988年のビルマ民主化デモとその弾圧から10年目の1998年の夏、日本で祖国の民主化の為に闘い続けている青年たちの姿に、イスラエル占領下で解放のために闘うパレスチナの青年たちの姿が重なり、チョウチョウソーを追い始める。2008年の在日ビルマ人によるサイクロン被害者支援運動までの10年間を土井監督が撮影。その後、アシスタントの横井朋広が2010年から2年間、チョウ夫妻と在日ビルマ人たちコミュニティーの活動を追加取材して本作を完成させた。
「自分のためにだけ生きるのはつまらない」と語るチョウさん。家族愛、人間愛に満ちた彼の姿に敬服。試写の折、会場に土井敏邦監督がいらしていて、「ただただ彼の人柄に支えられた映画」と謙遜されていました。それにしても14年間も追い続けた土井監督も凄い。映画を観た私もチョウさんの人間的魅力にぐっと惹かれ、彼の真摯な姿を伝えたいと長年追いかけた監督の気持ちも伝わってきました。それに引き替え、自分のことだけで精一杯の日々を反省!(咲)
土井敏郎監督は、「長年パレスチナを撮ってきたあなたがなぜ、ビルマの青年を撮っているのですか?と聞かれるのですが、<心ならずも故郷を追われ、志を持って生きているところ>が共通点です。チョウさんの人柄に惹かれて撮り続けました」と語っていたが、ほんとにチョウさん始め、在日ビルマ人の人たちの真摯な活動ぶりが伝わってくる作品だった。
なかなか難民認定が出なかったりして自分たちの生活さえ大変なのに、東日本大震災の後、東北に支援に出かけていく姿も描かれ、ビルマの人たちのやさしさに思わず涙した。
アウンサンスーチーさんが4月13日から1週間の予定で来日するとのことで急遽公開されることになったとか。アウンサンスーチーさんの活動が制限なくできていくのか、ビルマ(ミャンマー)の民主化が本物になったのか、まだ見極めができない状態の故国。
望郷の念を抱いているこの方たちが早く本国に戻れることを祈ります。
<心ならずも故郷を追われた人が帰郷を思う>というキーワードということでいえば、5月上旬から新宿K'sシネマで公開される土井敏郎監督の新作『飯舘村 放射能と帰村』のテーマも同じ。こちらも是非皆さん観てくださいね。(暁)
2012年/日本/日本語・ビルマ語・英語/HD/100分
配給:浦安ドキュメンタリーオフィス
公式 HP >> http://www.doi-toshikuni.net/
監督:ポール・シュレットアウネ
脚本:ポール・シュレットアウネ
出演:ノオミ・ラパス(アナ)、クリストファー・ヨーネル(ヘルゲ)、ヴェトレ・オーヴェンニル・ヴァリング(アンデシュ)
ノルウェーのオスロ。夫の暴力から逃れるために、アナと8歳の息子アンデシュは保護プログラムのもとで公営アパートに移り住んだ。
だがアナの不安は消えず、転校先の学校にもついて行き、帰りまでに待つ間、電気店で「チャイルドコール」という監視用の機器を買う。
そのとき親切にしてくれた中年の店員・ヘルゲと知り合う。
ストーリーをちゃんと把握できないと承知できない方にはオススメできないかもしれない。映像どおりにも取れない、これはこうだ!と言い切れない茫洋とした展開に途中で気づく。最後には今までのは何だったのか?と思う。
そこのところが「今までのはなんだったの?」と怪訝に思う方と、「彼女はその痛々しい過去に正面から向き合えない様子がよくわかる」と感じる方の二つの感想が聞けると思う。
後味もあまりよくないし、あとひき度も高い。いい意味でも悪い意味でも「観たこと」を忘れてしまうような作品ではない。救いはノオミ・ラパスと店員の男クリストファー・ヨーネルが見つめあう眼差しがとても温かいことだ。
一ヶ月たった今でも、この作品を思い出しては、彷徨しているノオミ・ラパスを抱きしめてあげたい気持ちでいっぱいになる。
※日常生活の中で「これが本当の出来事」と正確に思い出すことができるだろうか。こうあってほしい、いや、こうあってほしくないが頭をもたげて来て、現実と妄想の中間を行ったり来たりすることはないとは言い切れない。
(美)
2011年/ノルウェー、ドイツ、スウェーデン/カラー/シネマスコープ/96分
配給:ミモザフィルムズ/スティクティングタマゴトーキョー
公式 HP >> http://childcall.jp/
監督:ポール・シュレットアウネ
脚本:ポール・シュレットアウネ
撮影:ヨン・アンドレアス・アンデルセン
音楽:サイモン・ボスウェル
出演:クリストファー・ヨーネル(ヨーン)、セシリア・モスリ(アンネ)、ユリア・シャクト(キム)、アンナ・バッハ=ウィーグ(イングリット)、ミカエル・ニクヴィスト(アーケ)
ヨーンは同棲していた恋人イングリットにふられてしまい落ち込んでいた。
ある日、会社から帰ると「隣人だ」という女性アンネから「部屋の家具を動かしてほしい」と頼まれる。ヨーンは今まで隣人がいたとは気がつきもしなかったが、手伝いに部屋に行くと、セクシーな彼女の妹・キムがいた。
キムはヨーンと別れた恋人の顛末まで知っていて、気味悪く感じ部屋に戻るが、再びアンネに話があるといわれ、隣の部屋に行く。
ミステリー映画好きにはたまらない作品。もう観ていただくしかない!
観ている者も戸惑い、彷徨い、そして・・・という過程をまるで道連れのように体感させてくれた。
いつもは試写室や映画館で観ているが、今回はDVD観賞。
これ、大画面で観たらどんなんだろう。もっと違う何かを体感できると思うので、劇場でもう一度観る予定だ。
※監督さんを調べてみたら1997年『ジャンク・メール』っていう作品もある。観ていないが日本でも公開されている。これはDVDになっているから探してみよう。
日本未公開の2001年『You Really Got Me』を次回ノーザンライツ映画祭で観たいものだ。
(美)
2005年/ノルウェー、デンマーク、スウェーデン/カラー/75分
配給:ミモザフィルムズ/スティクティングタマゴトーキョー
公式 HP >> http://www.rinjin-nextdoor.jp/
監督:佐々木芽生
出演:ハーバート&ドロシー・ボーゲル、リチャード・タトル、クリスト、ロバート・バリー、パット・ステア、チャールズ・クロフ
約30年の収集で増えすぎた現代美術のコレクションを無事に国立美術館に寄贈したハーブとドロシーだったが、あまりの数の多さに国立美術館もすべては受け入れられなかった。
そこで急遽、アメリカ全州50ヶ所に50作品ずつ寄贈する「50×50プロジェクト」の話が持ち上がる。
二人のコレクションは全米各地でどう受け止められるのかをドキュメントしている。
そして仲の良いご夫婦の別れも近づいていた。
ハーブ氏は車椅子で、とても身体がえらそうだった。
無口で気難しい性格は一層拍車がかかっていたが、展示を指示する場面では的確な言葉を発していた。身体は衰えても自分の分身でもあるコレクションに対する情熱は衰えていない。
かたやドロシーは無口なハーブ氏を補うように、車椅子を押して、受け答えはもっぱら彼女の仕事。その彼女だって、後ろ姿は腰が曲がったお年寄りだ。
後半、お一人になられたドロシーさんは、美術品や資料が片付いていくのを「段々、部屋の壁が見られて嬉しい」とポロッと口をついて出ていたが、このひと言で複雑さを垣間見たように感じた。
※名古屋の名演小劇場では、この上映にあわせて『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』も再上映する企画を進めている。
(美)
2013年/アメリカ/カラー/87分
配給:株式会社ファイン・ライン・メディア・ジャパン
公式 HP >> http://www.herbanddorothy.com/jp/
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:ミハイ・マライメア・JR
音楽:ジョニー・グリーンウッド
出演:ホアキン・フェニックス(フレディ)、フィリップ・シーモア・ホフマン(ランカスター・ドッド)、エイミー・アダムス(ランカスター・ドッドの妻ペギー)
1950年代、第二次世界大戦後。 海軍の帰還兵フレディは日常生活を取り戻していたが、戦地で日常化したアルコール依存で職場で問題を起こしてしまう。
嫌気がさして旅に出た彼だったが、無断で乗り込んだ客船で新興宗教「ザ・コーズ」の教祖ランカスター・ドッドと知り合い、誘われるままに生活や行動を共にするようになった。
ホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンの重厚な演技にみとれた。
戦場の修羅場をくぐって来て傷ついてはいるが、ある意味まっすぐなフレディと、作家で科学者でもある言葉巧みなザ・コーズの指導者ランカスター。
勝負ははじめっからわかっているようなものだ。
苦い汁を啜った経験と、豪華な甘い味の両極端を知ったフレディが、最終的にどちらに向かっていくのか、興味深く描かれていた。
新興宗教という特異な世界だが、そこにうごめいている欲は様々。
※相対する二人は、丸っこいフィリップ・シーモア・ホフマン、痩せて猫背のホアキン・フェニックスと体型も見事に違いをあらわしていた。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/138分
配給:ファントム・フィルム
公式 HP >> http://themastermovie.jp/
監督・脚本:内村光良
原作:鈴木おさむ「芸人交換日記~イエローハーツの物語~」太田出版
撮影:北山善弘
音楽:武部聡志
主題歌:「サヨナラじゃない」FUNKY MONKEY BABYS
出演:伊藤淳史(田中洋平)、小出恵介(甲本孝志)、長澤まさみ(久美)、木村文乃 麻衣子)、川口春奈(サクラ)、佐々木蔵之介(川野)
お笑いコンビ「房総スイマーズ」は結成12年になった。もともと千葉県の高校の水泳部だった二人、積極的な甲本が田中を誘って飛び込んだお笑いの世界だが、30になる今も鳴かず飛ばず。田中は生活のために飲食店で働き、甲本は恋人久美の内助の功で暮らしている。甲本は現状打破のため「交換日記」を提案するが、田中は頑強に抵抗し続ける。本音が書けるようになったころ「笑軍天下一決定戦」出場が決まり、コントの猛練習を開始するのだった。
放送作家の鈴木おさむさんの小説の映画化。「ウッチャンナンチャン」の内村光良さんが『ピーナッツ』以来6年ぶりの監督・脚本にあたりました。「自分もお笑いの世界にいるので勇気が要りました」とのことですが、これまでに見聞き、体験したこともみな生かされているようなリアルな世界を作っています。コンビの芸人を演じる二人はコントは初挑戦、時間外でも自主練習を繰り返したそうで息がぴったりです。以前公園でお笑いの練習中らしい若い男の子二人を見かけたことがあります。人がいてもいなくても真剣に繰り返していて、用事が迫ってなければ、ちょっと立ち止まってひととおり聞きたい気がしました。いつかは認められる日を夢見て、精進している人がたくさんいることでしょう。頂点にたどり着けるのはほんの一握りの人、でも頑張った経験は無駄にはなりません。夢見る人と叶わなかった人にエールを送るやさしい映画。(白)
2013年/日本/カラー/115分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
公式 HP >> http://koukan-nikki.jp/
監督:リッチ・ムーア
製作総指揮:ジョン・ラセター
脚本:ジェニファー・リー、フィル・ジョンストン
音楽:ヘンリー・ジャックマン
挿入歌:AKB48「Sugar Rush」
声の出演:ジョン・C・ライリー(ラルフ)、サラ・シルヴァーマン(ヴァネロペ)、ジャック・マクブレイヤー(フェリックス)、ジェーン・リンチ(カルホーン軍曹)、アラン・テュディック(キャンディ大王)
声の出演(日本語吹替版):山寺宏一(ラルフ)、諸星すみれ(ヴァネロペ)、花輪英司(フェリックス)、田村聖子(カルホーン軍曹)、多田野曜平(キャンディ大王)
「誰だって、ヒーローになりたいんだ…」
子供たちがひとしきり遊んで帰った閉店後、ゲームセンターではもうひとつの世界が始まる。仕事を終えたゲームキャラたちが、やれやれ終わった・・・と三々五々に集っては思い思いの時間をすごすのだ。アクションゲームの悪役キャラのラルフは、心優しい大男。毎日ビルを壊して嫌われるのでなく、みんなに好かれるヒーローになりたい。悪役キャラ仲間に慰められても心は晴れず、ついに自分のゲームから飛び出してしまった。お菓子の国に迷い込み、出会ったのは元気な少女ヴァネロペ。不良プログラムのため、レーサーとしてゲームに出場できず、たった一人隠れ住んでマシンを作っていた。一人ぼっちの二人は仲良くなるが、ラルフがいなくなったゲームの世界は大パニック。開店時間までにラルフが戻らないとたいへんなことになってしまう~~!
ゲームの内側が舞台だなんてワクワク。ラルフが登場するのは昔懐かしい8ビットのゲーム。ビルを壊しまくる悪役ラルフと、直して回るヒーローのフェリックス(ゲームをしている自分)との戦い。全部修理し終わるとフェリックスは住民に感謝されて、たくさんのプレゼントをもらいます。ラルフは屋上から墜落…。30年前、似たようなゲームがたくさんあり、クリアできると「やった!!」と喜びましたが、悪役キャラのその後など想像もしませんでした。この作品はそんな悪役キャラの気持ちを丁寧にすくいとっています。
レトロなゲームから最近の高性能で素晴らしいビジュアルのゲームまで、いろいろなキャラクターが登場します。お菓子の国のカーレースゲーム「シュガー・ラッシュ」は日本製という設定で、登場する可愛い女の子キャラたちのファッションは、日本の少女たちを参考にしているのだとか。友だちを思いやる気持ちはどこの世界でも大切。大人と子供、どちらもおおいに楽しめます。7分のアニメーション『かみひこうき』も同時上映。こちらはシンプルで素敵な絵のロマンチックな作品。(白)
2012年/アメリカ/カラー/1時間48分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
©Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://www.disney.co.jp/sugar-rush/
監督: 大宮浩一(『ただいま それぞれの居場所』『季節、めぐりそれぞれの居場所』)
出演: 長嶺ヤス子
日本のフラメンコの先駆者、長嶺ヤス子さんを追ったドキュメンタリー。
昭和35年、スペインに留学しフラメンコ・ダンサーとして20年滞在。帰国後、日本の伝統を取り入れた創作舞踊で文化庁芸術祭大賞などを受賞。そして、旭日小綬章受章。
捨て猫や犬を見捨てられない長嶺さんの家には100匹以上の猫や犬があふれ、近所から苦情が出て、東京では暮らせなくなり、故郷に近い福島県猪苗代に家を借りて住む。
犬猫を育てながら、油絵を描く日々・・・
長嶺ヤス子さんといえば、日本のフラメンコダンサーの第一人者。でも、本作は、ダンサーとしての長嶺さんよりも、捨て猫や犬に愛情を注ぐ姿により多くの時間を割いている。舞台で見せる情熱がほとばしる表情とは正反対の、穏やかな顔。飼い主でさえ諦めかけていた老いたワンちゃんも、長嶺さんが寄り添うことで生き長らえる。一方、大震災が起こって大騒ぎして被害者の人たちに手を差し伸べることに対しては、「かわいそうな人は震災が起こらなくてもいっぱいいる」と冷ややかだ。実に正直。自分にカメラを向ける監督たちにも、「ほんとの私の姿を撮るっていっても、あなたたちの感じる私。ほんとの私じゃないかもよ」と、的をついた言葉が飛び出る。実に痛快。日本人ダンサーのフラメンコを観に行って、「日本人のフラメンコはつまんない。私も日本人だけど」と、毒舌が続く。毎年個展も開く油絵には、静かな中にも秘めた情熱を感じさせられる。自分の気持ちに正直な人生をおくっていらっしゃる長嶺さんの姿が実に楽しいドキュメンタリー。(咲)
2013/日本/85分/デジタル
配給:東風
公式 HP >> http://www.hadashinoflamenco.com/
監督・脚本:福田雄一
撮影:早坂伸、工藤哲也
美術:松塚隆史
音楽:瀬川英史
主題歌:Sexy Zone「High!! High!! People -movie remix-」
出演:鈴木福(デカ長/大沼茂)、勝地涼(国光信)、マリウス葉(間聖四郎)、本田望結(マイコ/林舞子)、吉瀬美智子(松田凜子)、鏑木海智(ナベさん/渡部稔)、青木勁都(イノさん/下山武雄)、秋元黎(スマート/川島寛太)、相澤侑我(エナメル/野上浩二郎)、竜跳(ブル/今村剛)、上地春奈(武藤千種)、本多力(武藤弘康)、北乃きい(絵里子)
神奈川県警大黒署の特殊捜査課には腕利きの刑事たちが揃っている。犯罪を仲介する組織レッドヴィーナスを一網打尽にするべくふみこんだところで、なんと罠にかかってあろうことかデカ長はじめ全員子供になってしまった。レッドヴィーナスが開発した特殊なガスを吸い込んだため、いまだ大人に戻ることができない。特殊捜査課は新人の国光刑事を新たに加え、子供の姿のまま捜査を続行していた。
レッドヴィーナスから、来日するカゾキスタン大統領の暗殺予告があったが、本庁は特殊捜査課を「子供の出番はない」と外してしまう。メンバーは外見・子供の利点を生かし、独自に聞き込み、張り込み、取調べと奔走する。果たして彼らはレッドヴィーナスを捕らえ、元の姿に戻ることはできるのか??
昨年テレビで放送されていた同名連続ドラマの映画版。かの裕ちゃんこと石原裕次郎の「西部警察」をほうふつさせる(というよりパロディか?)警察モノ。8歳にして主演となった鈴木福くんが「舌足らず」ながら(自分のセリフにもあって笑いました)、スタイルや雰囲気をよく似せています。ほかの子供化してしまった出演者たちも、特注らしきファッションに身を固め、演じる年齢(28~59歳)にあわせて頑張っています。『幸福な食卓』 (2006)で高校生カップルだった勝地涼、北乃きいが共演していて、すごく大人になったなぁと感じましたが、あれからはや6,7年経つのでした。(白)
2013年/日本/カラー/100分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:東宝
公式 HP >> http://kodomokeisatsu.com/
監督: マリク・ベンジェルール
製作:サイモン・チン
撮影監督:カミラ・スカーゲルストロン
出演: ロドリゲス (本名 シクスト・ディアス・ロドリゲス)
製作年: 2012年
製作国: スウェーデン=イギリス
配給: 角川映画
上映時間: 85分
歌の力が奇跡を呼ぶ感動のドキュメンタリー
1960年代末に登場したデトロイト出身のメキシコ系混血のシンガー・ソングライター、ロドリゲス。ボブ・ディランを彷彿とさせるような歌手だった。地元のバーやクラブで歌っていてプロデューサーの目にとまり、1970年にデビュー。2枚のアルバムを出すがまったく売れず、契約を解除されミュージックシーンから姿を消した。
その歌が国と時代を超え、1970年代の南アフリカで奇跡を起こしていく。
反権力のシンボルとして若者たちに愛され、彼の2枚のレコードは南アでいずれも大ヒットし、ロドリゲスはプレスリーやローリングストーンズ、ビートルズと並び称されるポピュラーなミュージシャンになった。美しいメロディと、彼の歌の歌詞にあるメッセージ性に、アバルトヘイトへの抵抗運動に共鳴する南アフリカの白人たちが共感し、アルバムセールス50万枚を超える大ヒットを記録したという。
しかし、忽然とミュージックシーンから姿を消したロドリゲスにその情報は伝わらず、南アフリカの人にも彼の情報が伝わらず、彼がどんな人物であるかを知らずに、ステージ上でガソリンをかけて焼身自殺したとか、ピストルで頭をぶち抜いて自殺したとか、色々な噂が一人歩きしていた。
90年代に入り、南アフリカの熱狂的なファン2人がこの謎のアメリカ人ミュージシャン、ロドリゲスの真実を探るためインターネットで情報を集め出すと、意外な事実がわかった。
結局彼は生きていた。ミュージックシーンから姿を消した後もデトロイトに住んで、お金も名声も求めることなく、肉体労働をしながら暮らしていた。
そして、孤高の吟遊詩人のようにギターを弾き、歌を歌い続けていた。
このドキュメンタリーは、南アフリカのロドリゲスファンが彼の居所を突き止め、そしてついに南アフリカ公演を実現させるという感動的なドキュメンタリーである。
こんな人がいたんだ。こんなことがあったんだ!と、胸がジーンと熱くなる作品だった。
ロドリゲスの歌がとても良かった。観終わった後、メロディが頭から離れず、迷わずサントラ盤を買ってきて、寝る時に毎日聴いている。
後半、本人の出てくるシーンがいい。突然の人気に溺れることもなく、飄々としていて、歌声にも味がある。この人の生き方を見て、思わず高田渡さんのことを考えてしまった。彼も、質素な生活をしながら音楽を続けていた。
ロドリゲスが南アフリカでコンサートしたシーンを見ると白人がほとんどだったが、アパルトヘイト撤回運動をする南アフリカの白人たちがこんなにいたとは驚きだった。
それにしても、50万枚以上売れたというアルバムの売り上げは本人に渡らず、どこへ行ってしまったのだろう。(暁)
★3月16日(土) より角川シネマ有楽町他 全国ロードショー公開中
公式 HP >> http://www.sugarman.jp/
監督・脚本:平松恵美子
企画:田沢連二
プロデューサー:石塚慶生、住田節子
原案:山下由美
撮影:近森眞史
照明:渡邊孝一
録音:岸田和美
美術:西村貴志
装飾:湯澤幸夫
編集:小堀由起子
音楽:寺嶋民哉
音楽プロデューサー:竹中恵子
ドッグトレーナー:宮忠臣
出演 堺雅人(神崎彰司) 中谷美紀(五十嵐美久)でんでん(安岡) 若林正恭(佐々木一也) 吉行和子(神崎琴江)
命の期限は7日間。ぼくたちは奇跡を起こす。ただ、愛の力だけで
5年前、妻を交通事故で亡くし、母の助けを借りて二人の子どもと2匹の犬を育てている保健所職員の神崎彰司(堺雅人)は、犬の保護、捕獲、殺処分を担当している。しかし、捕獲した犬の命を守ろうと、日々、娘の手も借りて、犬の里親探しをしているが、娘は「里親がみつからない犬はどうなるの?」と、父親に問い詰める。
そんな中で、命懸けでわが子を守る母犬を捕獲した。その犬は、老夫婦のもとで大切にされていたが、おばあさんが亡くなり、おじいさんは老人ホームに入るため家を去った。タクシーで去るおじいさんを追いかけたが見失い、野良犬になってしまった犬は、やがて孤独な中で子犬を生み育てていたが、彰司たち保健所の職員に捕まってしまう。
子を守ろうとする母犬は、彰司たちに敵意丸出し。この犬たちの里親が見つからない場合の命の期限は7日。しかし、犬の母子を守ろうと決意し、彰司はそっと、命の期限を延ばした。犬の保護所を訪れた彰司の娘は、母犬に「ひまわり」と名付け、この母犬と子犬を見守る。
20年間、山田洋次監督のもと、共同脚本・助監督を務めてきた平松恵美子のデビュー作。
去年の東京国際女性映画祭で、この作品が上映された時、観に行くことが出来ず気になっていた。この作品を見て感じたことは、人間の身勝手さ。
動物の命を人間の都合でおろそかにしているということ。
母犬の演技の素晴らしさにびっくりした。(暁)
製作 2012年 製作国 日本 配給 松竹 上映時間 117分
★2013年3月16日 新宿ピカデリー ほか全国順次公開
公式 HP >> http://www.himawari-koinu.jp/
監督:トマス・ヴィンターベア
脚本:トビアス・リンホルム
撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン
音楽:ニコライ・イーグルンド
出演:マッツ・ミケルセン(ルーカス)、トマス・ボー・ラーセン(テオ)、アニカ・ビタコプ(クララ)、ラセ・フォーゲルストラム(マルクス)、スーセ・ウォルド(グレテ)
教師だったルーカスは学校が閉鎖になり、職を失った。離婚して一人暮らしだが狩猟仲間と楽しく過ごし、新しい勤め先の幼稚園では子どもにも人気だ。親友テオの娘のクララも懐いていたが、小さな行き違いからルーカスを貶める嘘をついてしまう。クララの言葉を鵜呑みにした園長はルーカスの弁明を受けず警察に届け、保護者にも知らせて騒ぎは大きくなる。狭い街に誤解と悪意の混じった噂が蔓延していき、変質者の烙印を押された彼は、それまでの友情も穏やかな暮らしも全て失って孤立していく。離婚した妻といる息子を引き取る計画も消えてしまった。
監督はルーカスを『ディア・ハンター』でのロバート・デ・ニーロのイメージで書いたのだそうです。だからか原題は〝狩猟〟。鹿狩りの場面が最初と最後に登場します。光と影の美しい森に、撃たれてどうと倒れる鹿が象徴的でぎくりとさせられました。
共同脚本は『光のほうへ』(2010年)でも組んだトビアス・リンホルム。心の弱いところにじわじわと入ってきて、自分ならどうするか?と考えさせられます。緊張の続くストーリーに観客を引き込むマッツ・ミケルセンがうまいのはもちろん、親友と娘との板ばさみになるテオ、無邪気なクララや父を信じ続ける息子マルクスもよかったです。
「子どもは嘘をつかない」なんて自分が子どもだった頃を忘れた大人の願望だよと、半ば憤慨しながら観ていましたが、デンマークには「子どもと酔っ払いは嘘をつかない」という諺があるとか。つきますってば。(白)
2012年/デンマーク/カラー/115分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:キノフィルムズ
© 2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.
公式 HP >> http://itsuwarinaki-movie.com/
監督:ジェームズ・マーシュ
脚本:トム・ブラッドビー
原作:トム・ブラッドビー「哀しみの密告者」(扶桑社刊)
撮影:ロブ・ハーディ
出演:アンドレア・ライズボロー(コレット・マクビー)、クライブ・オーウェン(マック)、ジリアン・アンダーソン(ケイト・フレッチャー)、エイダン・ギレン(ドーナル・グリーソン)
1970年代北アイルランド。自分の幼い弟を失ったコレットは、IRAのメンバーとして活動していった。1993年、コレットはロンドンでの爆破未遂事件の容疑者として逮捕される。シングルマザーである彼女は、IRAと敵対するMI5(イギリス諜報局保安部)の捜査官マックに究極の選択を迫られる。それは、スパイとして情報を提供していくか、または幼い息子と離れ25年にもわたり拘留されることだった。息子との生活を選んだ彼女は、IRA内部の厳しい目に追い詰められながら、スパイ活動を続けていた。一方マックは、MI5の上司であるケイト・フレッチャーが隠しているコードネーム“シャドー・ダンサー”の秘密にせまっていく。
原作者のトム・ブラッドビーが脚本を手がけ、制作にもあたっています。調査の上で書かれているフィクションなのでしょうが「そんな選択をさせるなんて汚い!ずるい!」と怒りたくなります。そんな人生を選ばされてしまったコレットの苦しみと、職務上とはいえ、しかけたマックのつかのまの交流に胸が痛くなります。国家間の紛争に踏みにじられるのは、個人のささやかな幸せ。スパイ活動など想像するしかありませんが、今も似たような辛苦を背負う人がいたら、一日も早く解き離れますようにと祈ります。コレットを演じるのは『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』で主演したアンドレア・ライズボロー、薄幸な美女役が続いています。寂しげな顔立ちなので似合うし、上手だと思いますが、全く違うハッピーな役も観たいものです。(白)
2011/アイルランド・イギリス合作/カラー/101分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:コムストック・グループ
©Shadow Dancer Rights Limited / BBC / The British Film Institute / Wild Bunch 2012
公式 HP >> http://shadow-dancer.com/
監督:ファラー・カーン
出演:シャー・ルク・カーン(オーム・プラカージュ・マッキージャ/オーム・カプール)、ディーピカー・パードゥコーン(シャンティプリヤ/サンディ)、アルジュン・ラームパール(ムケーシュ)、シュレーヤス・タラプデー(パップー)、キラン・ケール(オームの母)、ジャーベード・シェイク(オーム・カプールの父)
1970年代、エキストラ俳優のオームは人気女優のシャンティに恋をしている。もちろん高嶺の花なので、遠くから熱いまなざしを送っているだけ。しかし、シャンティの撮影現場の火災事故で彼女を救い出しことから急速に親しくなった。告白しようとした矢先、シャンティは大物プロデューサーのムケーシュと結婚、妊娠もしていることを知ってしまった。ムケーシュはシャンティの存在を公表しないばかりか、疎ましく思っていた。ある日、シャンティはムケーシュに騙されてセットに閉じ込められた上、火を放たれる。気づいたオームは必死に助けようとするが、爆風に吹き飛ばされて、通りかかった映画スターのカブールの車にはねられる。妻の出産で急いでいたカブールはオームも病院に運び込むが、怪我がひどく息を引き取ってしまった。そのとき妻に元気な男の子が生まれた。
30年後、オームと同じ名前をつけられたカブール夫妻の赤ん坊はスター俳優となっていた。事件後ハリウッドへわたっていたムケーシュが帰国し、彼に出会ったとたんオームの前世の記憶が蘇る。
話に聞いていたボリウッド一番人気の作品をやっと観ることができました。169分と普通の映画の2本分の長さがありますが、試写の前に「面白い作品なので長く感じないと思います」と、配給の方が言われたとおりでした。映画業界を舞台にして、笑いあり涙あり、ダンスシーンもたっぷり、もう何でもありの映画です。ことに山場となる後半、本物のスターが次々と登場しては歌い踊るパーティシーンが圧巻。41人が集合してくれたそうです。シャー・ルクもシャツをはだけて鍛えられた綺麗な筋肉美を披露。地元インドではさぞ盛り上がったことでしょう。
シャンティ役のディーピカー・パードゥコーンはこの作品で大ブレイク。目鼻立ちくっきりのインド美人ですが、多岐川裕美さんの若いころにも似ていて親近感わきます。最初のスタジオ内シーンで、シャー・ルクとスターの上着を取りっこする女性がファラー・カーン監督です。エンドロールに関わったスタッフが登場し、プロデューサーがすごく美人で驚きましたが、シャー・ルクの奥様でした。お見逃しなく。(白)
2007/インド/カラー/169分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:アップリンク
公式 HP >> http://www.uplink.co.jp/oso/
監督:シド・ベネット
出演:マット・ケイン、リチャード・ディレーン、ナターシャ・ローリング、ピーター・ブルック
アフリカ大陸コンゴ奥地。伝説の未確認生物“モケーレ・ムベンベ”探索のために飛び立った英国未確認生物学会調査隊一行を乗せたヘリコプターが消息を絶った。その後、川に流されてきたバッグの中に恐竜の姿を記録した映像が見つかる・・・
映像は、ヘリコプターにこっそり乗り込んだ隊長の息子ルークが、恐竜に付けた小型カメラが記録したものという設定。恐竜目線で太古の世界が残るアフリカ奥地を見せるという手法。あえてドキュメンタリータッチで描いたのは、BBC他、ディスカバリーチャンネル、アニマルプラネットなどネイチャー系TVチャンネルでの番組作りをしてきたシド・ベネット監督。
動物学者で探検家の父親の姿をいつも見ていて冒険心をくすぐられた息子が、ちょっとしたいたずら心から調査に付いていってしまい・・・というストーリーに、きっと自分も探検に出かけたいと思う子どもたちがいることでしょう。もしかしたら、ほんとにどこかで恐竜が今も生き続けているかもしれないと想像するのも楽しい。(咲)
2012年/イギリス/83分/カラー/シネマスコープ/デジタル
配給:シンカ
公式 HP >> http://www.dinosaurproject.jp/
製作・監督・脚本:クリスティアン・ムンジウ(『4ヶ月、3週と2日』)
原案:タティアナ・ニクレスク・ブラン
出演:コスミナ・ストラタン、クリスティナ・フルトゥル、ヴァレリウ・アンドリウツァ、ダナ・タパラガ
同じ孤児院で育ったアリーナとヴォイキツァ。国を離れドイツで働いているアリーナがヴォイキツァに会いにルーマニアに帰ってくる。駅で喜びの再会を果たしたヴォイキツァはアリーナを自分の暮らす郊外の修道院に案内する。電気もない質素な暮らしだが、神父を父と崇め、修道女たちは満ち足りた顔をしている。
一方、アリーナはヴォイキツァとドイツで一緒に暮らしたいと思い、ドイツへの移民手続きをしようとするがなかなか進まない。そんなある夜、お祈りの席でアリーナは突然興奮状態に陥る。ヴォイキツァは彼女を病院に運ぶが、数日後、もう入院している必要はないと統合失調症の薬を処方される。ほかにアテもなく修道院に連れ帰るが、アリーナの言動は異常をきたしていく。ヴォイキツァは、修道女長から神父に悪魔祓いの儀式をしてもらってはとアドバイスを受ける・・・
『4ヶ月、3週と2日』でチャウシェスク独裁政権時代のぴりぴりした空気感を描いたムンジウ監督。本作は、2005年に実際に修道院で起きた「悪魔憑き事件」を元に描いた物語。東欧民主化の波の中で自由を得たはずのルーマニアでの出来事だ。
修道院という場所だけ見ると、それはまるで中世の世界のようだ。監督は、さりげなく警官たちの会話に「殺した母親の写真をネットにアップしている」と言った言葉を入れて、これが現代であることを観る者に知らしめている。
だが、仕事でドイツに行き、自由な空気を吸ってきたアリーナにとって、修道院での生活はまさに中世そのもの。親友が宗教に傾倒している姿は奇異に映ったに違いない。閉塞感の中で狂っていったのだろう。かたや、ヴォイキツァは、「心に神がいないと孤独なの」と、信仰が人生のすべてになってしまったようだ。いろいろな事情で心のよりどころを宗教に求める人たちがいるのは理解できる。
ヴォイキツァのいる修道院の敷地の入口で「異教徒立ち入り禁止」の張り紙がアップで写し出される。そこが他者を拒絶している場所であることを明確に示したものである。宗教は本来、寛容な心をめざすものではないのか?
だが、こうした他者に対する不寛容は宗教だけにいえるものではない。自分のいる社会での常識を基準にし、他者を受け入れなかったり、主義主張を押し付けたりする行為は、大なり小なりどこにでも見られるものである。お互いの文化や主張を敬いあう世界であってほしいと映画を観て強く思った。(咲)
何ひとつ無駄のない芸術的カメラと修道院のミステリアスな設定が、観ている側を揺さぶり続けた2時間半。まるで私たちは閉ざされた修道院の一員になった感覚がした。時折映る一般社会をみて「やっぱり隔絶された世界にいるのだ」と唖然とさせられた。そんな中で行われる数々のことはそこでは「神聖」で、かつ「なすべき神への行動」なのだ。一概に「異常」と言えない、「自分」もそこにいる・・・そんな異様な感覚で観終わった。
彼女たち二人の関係も修道院内部の人間関係も一つはっきりしないが、それは言葉にしないだけのこと。言葉なんかいらない。必要なのは、教会の「信仰に結びついた行動」と、二人には「愛情で結びついた」共有する時間だけ。その限られた空間の中だけに聴こえてくる子守唄が印象深い。
最後の幕切れが見事だった。そこからどう動き出すのか、どう考えればいいのか、人間の心という謎の領域に入り込んだ私は身動きできなかった。(美)
2012年/ルーマニア・フランス・ベルギー/ルーマニア語/カラー/152分
第65回カンヌ国際映画祭 女優賞&脚本賞 W受賞
配給:マジックアワー
協力:コムストック・グループ/後援:ルーマニア大使館
公式 HP >> http://www.kegarenaki.com/
監督・脚本:イ・ユンギ(『素晴らしい一日』『アドリブ・ナイト』『チャーミング・ガール』)
原作:井上荒野「帰れない猫」(ハルキ文庫「ナナイロノコイ」収録)
出演:ヒョンビン(「私の名前はキム・サムスン」「シークレット・ガーデン」『レイト・オータム』)、イム・スジョン(『サイボーグでも大丈夫』、『チョコレート・ファイター』『箪笥』『アメノナカノ青空』『サッド・ムービー』『角砂糖』『あなたの初恋探します』)、キム・ジス、キム・ジュンギ、キム・ヘオク(母の声)、ハ・ジョンウ(新しい男の声)
車の中。
男「スタジオを家に移すよ。遠くて不便だから」
女「私、出ていく」
一瞬戸惑う男。
女「大丈夫?」
男「大丈夫だと思う」
結婚して5年目の夫婦。妻はほかに好きな男が出来て、家を出ていくというのだ。
いよいよ妻が出ていく日。朝から雨が降っている。荷造りをする妻を、甲斐甲斐しく手伝う夫。夜には、思い出のレストランに予約まで入れて。
冷蔵庫にマフィンがあったはずと探す妻。「出しておいた」と夫に差し出されたマフィンを美味しそうにほおばる。「せっかくの夕食が入らなくなるよ」と言いながらコーヒーを入れてあげる夫。
あくまで優しい夫に、ついに「なぜ怒らないの?」と妻。
雨が激しくなる。庭に迷い込んできたずぶぬれの子猫を家に入れるが、どこかに迷い込んで見えなくなる。子猫の飼い主の夫婦が子猫を探してやってくる。子猫はなかなか見つからない。「見つけたら連絡ください」と立ち去り、また夫と妻の二人になる。振り続ける雨・・・
5年連れ添った夫婦が別れる日が淡々と綴られる。
「ケンチャナ(大丈夫)」と答えるヒョンビン演じる夫が、ほんとは大丈夫じゃないのに、ぐっとこらえている様が切ない。ふっとした表情に、やりきれない思いを感じさせてくれる。出ていく妻を演じたイム・スジョンさんは、『アメノナカノ青空』 (2003)でキム・レオン相手に演じた瑞々しい高校生や、『角砂糖』(2006年)での初々しい女性騎士などが印象深い女優さん。本作では、さりげなく別れを告げる大人の女性。語尾の上げ方がなんとも可愛くて、こんな風に言われたら、もう「ケンチャナ」というしかないなぁと。
昨年12月に除隊したヒョンビンが、除隊の挨拶で、兵役中、後輩たちが演技する姿を観て、ただただ演じたかったと語ったのが印象的だった。海兵隊に入る前に撮影した作品が、除隊後初の日本公開作として登場。演技にしばらく別れを告げる気持ちも「ケンチャナ」の言葉に籠らせたのかなとふっと思った。(咲)
~ヒョンビンからの映画に寄せたコメント~
この映画のテーマである“別れ”は、友達や恋人、夫婦などいろいろなケースがあるかと思いますが、誰もが一度は経験したことがあるものです。だからこそ、誰にでも共感できる部分があると思うし、そういう気持ちで映画を観て頂くと楽しめると思います。ぜひ劇場でご覧ください。
2011年/韓国/105分/アメリカン・ビスタ/ドルビーSRD
配給:ポニーキャニオン
『愛してる、愛してない』 第二弾特典付き前売り鑑賞券1300円
■発売日 1月27日(日) 下記劇場にて発売開始(各上映劇場の開場時より)
東京:新宿武蔵野館 北海道:ディノスシネマズ札幌劇場 名古屋:センチュリーシネマ
大阪:梅田ガーデンシネマ 福岡:KBCシネマ 京都:京都シネマ 静岡:シネ・ギャラリー
■特典 ヒョンビンの特別映像が満載!!スペシャル映像入りDVD ※数量限定
公式 HP >> http://aisiteru-aisitenai.com/
監督:港健二郎
原案:港健二郎、佐藤美奈子
脚本:港健二郎、谷進一
音楽:HANNA
題字:紫舟
出演:瞳梨音、安藤匡史、桐生シーナ、辻井江実子、Peter Golightly、結城市朗、稲盛誠、東康平、要冷蔵
ミュージカル女優をめざしていたが父の死を期に夢を捨てた手術室の新人看護婦、真央。先輩に誘われて市民ミュージカル劇団に顔を出すうち封印していた歌やダンスの楽しさが蘇ってくる。看護学校学費を出してくれた頑固な伯父は大反対。夢を捨てず、劇団の先輩で町工場の跡取り本間にかすかな恋心を秘めながら看護師に、ミュージカルに頑張る真央とその仲間たちの話し。庶民の町、道頓堀を舞台に口は悪いが優しい心根の大阪人の喜び悲しみ、笑いが一杯詰まった元気がでる映画。関西の市民による手作り映画として、大手スポンサーに頼らず、製作協力券などによって製作を進め、完成にこぎつけた。松竹新喜劇の座長・渋谷天外、アーティスト嘉門達夫さんもゲスト出演。関西の劇団で活躍する若手実力派俳優多数出演。スタッフも関西でかためている。
監督は50年以上前の三井三池争議とデジタル化が迫るテレビ局内の問題を取り上げた劇映画『ひだるか』の港健二郎。今度は、一転、底抜けに明るい関西発看護師と町の人の群像映画を作った。東京に実在したアマチュアのミュージカル集団をモデルに映画化。これといって大事件はないが、道頓堀という町の雰囲気やそこに暮らす人々の心が伝わってくる。それに身近だがお世話になるときはいつも病気のときで、つい気がつかない看護師さんの生活もかいま見れる。3月18日(月)より大阪シネ・ヌーヴォにてロードショウ一般公開(海)
2013年/日本/カラー/90分/デジタル
企画・製作:有限責任事業組合 あし天映画製作委員会(港健二郎・吉田悦夫・ 松井守)
公開日:2013年3月18日(月)より2週間 大阪 九条シネ・ヌーヴォ 初公開、その後順次全国ロードショー
作品ブログ:http://www.ashiten.net/
監督ブログ:http://ameblo.jp/minaken3/
監督:サム・ライミ
脚本:ミッチェル・カプナー、デヴィッド・リンゼイ=アベアー
撮影:ピーター・デミング
音楽:ダニー・エルフマン
出演:ジェームズ・フランコ(オズ)、ミラ・クニス(セオドラ)、レイチェル・ワイズ(エヴァノラ)、ミシェル・ウィリアムズ(グリンダ)、ビル・コッブス(マスター・ティンカー)、トニー・コックス(ナック)
声の出演:ザック・ブラフ(フィンリー)、ジョーイ・キング(陶器の少女)
オズは、カンザスのサーカスで公演中のマジシャン。いつか偉大な男になってやると今日も口先三寸で観客をわかせていた。とつぜんやってきた巨大な竜巻に巻き込まれ、着いたのは同じ名前の魔法の国オズ。西の魔女セオドラはオズを伝説の偉大な魔法使いと誤解し、エメラルドシティに案内する。セオドラの姉、東の魔女のエヴァノラに引き合わせるが、オズはただのマジシャンだと打ち明けそびれてしまった。悪い魔女からこの国を救うよう頼まれたオズは、翼のある猿のフィンリーをお供に魔女征伐へと出かけることになった。
“オズの魔法使い”前日談をディズニーが映画化。サム・ライミ監督というのがちょっと意外でしたが、スタッフは『アリス・イン・ワンダーランド』の面々。ユーモアをまぶしたアクション・ファンタジーに仕上がりました。
しがない手品師のオズのストーリーは、白黒の小さな画面で展開します。竜巻に運ばれて不思議な魔法の国に到着したところから、画面はワイドになり、目の覚めるような極彩色に変わります。調子のいいオズは、財宝に目がくらんで偉大な魔法使いのふりをし続けるはめになってしまい、このへんのやりとりがなかなかおかしいです。美しい魔女たちはいずれも主役の張れる3人。大掛かりな魔法合戦と、女の子なら一度は着てみたくなるような衣裳もみどころ。(白)
2013年/アメリカ/カラー/131分/シネマスコープドルビーデジタル
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
©2013 Disney Enterprises,Inc. All Rights Reserved.
監督・脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
原作:フョードル・ドストエフスキー、「分身」/「二重人格」
撮影:ウーゴ・ピッチョーネ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ピエール・クレマンティ(ジャコブ)、ステファニア・サンドレッリ(クララ)、セルジョ・トファーノ(ペトルーシュカ)、ティナ・オーモン
ジャコブは大学で教鞭をとっているが普段は孤独な青年。教授の娘のクララに好意を持っている。呼ばれてもいないのに彼女の誕生日パーティに押しかけ、奇矯な行動につまみだされてしまう。帰り道でジャコブの前に巨大な影が出現、その日からもう一人の自分と奇妙な共同生活をおくるはめになった。
夢なのか、妄想なのか、判然としないまま、この奇妙な物語に引き込まれていきました。これまでにも「もう一人の自分」が出てくる作品を何本か観ましたが、必ず自分とは違ったタイプ、おとなしい主人公の前には凶暴なもう一人の自分が現れます。いつもは抑制されている「本当はこうしたい」という願望がムクムクと大きくなって(ジャコブの影のように)、出てくるのでしょうか。同じ人間は二人いらないので、強いほうが残ろうとするのも共通。ベルトルッチ監督27歳ころの作品で、日本での正式公開は初めて。長編監督デビュー50周年企画、ベルトルッチ初期傑作選の1本。ほかに『殺し』(1962)、『革命前夜』(1964)もデジタルリマスター版にて同時上映されます。(白)
1968年/イタリア/カラー/105分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ザジフィルムズ
©1968 Red films Produced by Giovanni Bertolucci
公式 HP >> http://www.zaziefilms.com/bunshin/
監督・脚本:キム・グエン
出演:ラシェル・ムワンザ、セルジュ・カニンダ、アラン・バスティアン、ラルフ・プロスペール、ミジンガ・グウィンザ
「私はコモナ。14 歳」身籠った子に、「なぜ、私が反政府軍の兵士になったのか。私はあなたを愛する自信がない」「魔女と呼ばれたママのすべてを話したい」と語りかける少女。12歳の時、少女の住む村が突然反政府軍に襲われる。村でたった一人生き残った少女は反政府軍の兵士として連れ去られる。死んだはずの人たちに導かれ、次々にゲリラ戦で勝利し、亡霊が見える魔女として崇められるようになる。そんな中でマジシャンと呼ばれる少年兵との間に恋が芽生える。それも束の間、二人は引き裂かれ、少女は部隊長の女にされる・・・
村を襲われた時、少女は両親を殺せと命じられる。兵士としての度胸をつけるためと、帰還する場所をなくすための常とう手段だという。両親も、我が子を生かしたいため、自分たちを殺せというのだ。後に夫となった少年も、自分を殺してお前は生きろという。
子どもが兵士にされるという悲しい現実を描いた映画は、これまでにもいくつか観てきた。本作は、悲惨な中でも希望を見いだせるかのような描き方をしているけれど、実際にはどうだろう。反政府軍の部隊長の子を宿してしまったコモナ。地獄を見てしまった少女の心にも、母性が優先するのだろうか・・・
本作は、ベトナム人を父親に、カナダ人を母親にもつキム・グエン監督が、アフリカの子ども兵士問題に衝撃を受け、10年間取材を重ね、未だ紛争の絶えないコンゴ民主共和国で撮影したもの。現実と幻想が交錯する映像詩。本作で遠いアフリカの過酷な現実を知らしめることはできても、解決策を見いだせないのが悲しい。(咲)
2012 年/カナダ映画/フランス語・リンガラ語/ 90 分/アメリカンビスタ/デジタル作品 [R-15]
提供・配給:彩プロ
後援:ケベック州政府在日事務所 協賛:英治出版
公式 HP >> http://majo.ayapro.ne.jp/
あっというまに3月を迎え、桜の季節ももうすぐです。そして、今年も4月1日が巡ってきます。決して忘れられない、レスリー・チャンが旅立ちを決意した日・・・
「エイプリル・フールの嘘じゃないのよ」と、追っかけ仲間から電話を貰った時の衝撃をつい昨日のことのように思い出します。レスリーも観たことのある千鳥ヶ淵の桜の下で、共に笑い共に走った友たちと肩を寄せ合ってレスリーの冥福を祈ったものでした。
もうあれから10年・・・ 私たちは確実に10歳老けましたが、レスリー・チャンの姿はいつまでも美しい青年のまま。そして、レスリーが亡くなって10年となる今年、地元香港でも盛大に追悼の催しが開かれますが、日本でも様々な企画が聴こえてきます。
ここでは、映画の中のレスリーを再び大きなスクリーンで懐かしむことのできる企画をご紹介します。 東京で合計13本、大阪で10本。観たい作品は、まだまだありますが、贅沢はいえません。特集上映に感謝です。
なお、ささやかですが、この度発行しました87号にレスリーを偲ぶ記事を掲載しております。また、6月発行の88号では、4月1日の香港の報告記事を掲載予定です。(咲)
上映劇場:シネマート六本木
上映日程:3/9(土) ~ 3/31(日)
料金:1,300円均一
◆『花の影』
監督:チェン・カイコー 撮影:クリストファー・ドイル 製作:シュー・フォン
出演:レスリー・チャン コン・リー リン・チェンホア デヴィッド・ウー ジョウ・シュン
1996/128分/アスミック・エース
上映期間:3/9(土)~3/15(金)
◆『さらば、わが愛~覇王別姫』
監督:チェン・カイコ- 撮影:クー・チャンウェイ 製作:シュー・フォン
出演:レスリー・チャン チャン・フォンイー コン・リー グォ・ヨウ
1993/172分/アスミック・エース
上映期間: 3/16(土)~3/22(金)
◆『夢翔る人 色情男女』 ※権利切れ最終上映
監督:イー・トンシン ロー・チーリョン
出演:レスリー・チャン カレン・モク スー・チー ロー・ガーイン ラウ・チンワン チョイ・カムコン
1996/99分/キングレコード ※R15+
上映期間: 3/23(土)~3/31(日)
その他詳細は下記サイトで確認ください。
http://www.cinemart.co.jp/theater/special/leslie-cheung/
●レスリー・チャン・メモリアル
もう一度あなたに会いたい。永遠のスター、レスリー・チャンがスクリーンに帰ってくる。
あの時のままの、あなたがいる
上映日程:2013年3月30日~
上映劇場:(東京)シネマート六本木、(大阪)シネマート心斎橋
料金:1,300円均一
3週間ほど前、シネマート六本木の入口を入ろうとして、心臓が止まりそうになりました。ガラス越しに見えたのは、まぎれもないレスリー・チャンのうつむき加減の顔。美しい・・・
それが、このポスターです。
監督:ドリュー・ゴダート
脚本:ジョス・ウェドン&ドリュー・ゴダート
撮影:ピーター・デミング
出演:クリステン・コノリー(ディナ)、クリス・ヘムズワース(カート)、アンナ・ハッチソン(ジユールス)、リチャード・ジェンキンス(シッターソン)
男女5人の大学生が山奥に建つ古ぼけた小さな別荘にバカンスにやって来た。
その夜、5人は地下室への入り口を見つけると、さっそく中に入り古いノートを発見する。
それは身の毛もよだつ殺人鬼が綴った日記だった。
面白がった5人は、調子に乗って、そこに書かれていた復活の呪文を唱えてしまう。
怖いものなら、私にとまわって来た試写状。うれしい!
普通のホラー映画と思いきや、裏に国の秘密大組織が・・・。あ、あ、あ、ここまでしか書けない。
その組織でちょうど必要だったのが若い○。(○の字は予想して!)だから目をつけられたのだが、なんでグループを狙う?と疑問に思う。
だってグループで消えれば世間的に知れ渡る!親だって団結して捜索に来るかも。
私が組織の長なら個別チョイスするがな。
ある意味、残虐だけど怖いシーンはなし!って私が思うだけかもしれないが、大組織のカルト的設定の斬新さは妄想を掻き立ててくれた。
(美)
2012年/アメリカ/シネマスコープ/95分
配給:クロックワークス
公式 HP >> http://cabin-movie.jp/
監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ジョン・ゲイティンズ
撮影:ドン・バージェス
音楽:アラン・シルヴェストリ
衣装:ルイーズ・フログリー
美術:ネルソン・コーツ
出演:デンゼル・ワシントン(ウィトカー機長)、ドン・チードル(ヒュー・ラング)、ケリー・ライリー(ニコール・マッゲン)、ジョン・グッドマン(ハーリン・メイズ)
マイアミ発アトランタ行きの飛行機が急降下を始めた。機体の故障に悪天候という不運のなか、ウィトカー機長(デンゼル・ワシントン)は草原に緊急着陸させた。
死亡者は出たが多くの乗客の命を救ったウィトカーは英雄扱いされ、時の人となる。が、彼の血液からアルコールが検出されたことから・・・。
危機一髪の飛行機操縦でハラハラ、法廷戦略にハラハラ、酒絶ち出来ないアル中・ウィトカーにハラハラ・・・。
嘘つき名人(「酒は一滴も呑んでいません」と大きな目を見開いて真剣に見つめられちゃ私も騙される)のウィトカーも、生真面目(嘘を承知で弁護するが)弁護士のヒュー・ラング(ドン・チーゲル)のコンビ、なかなかいい味出している。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/138分
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパンbr/>
公式 HP >> http://www.flight-movie.jp/
2011年~2012年に公開されてヒットした作品3本が一挙公開されます。
公式 HP >> http://k-selection2013.com/
監督:御法川修(みのりかわ おさむ)
脚本:田中幸子
原作:益田ミリ「すーちゃん」シリーズ(幻冬舎刊)
撮影:小林元
音楽:河野伸
出演:柴咲コウ(すーちゃん)、真木よう子(まいちゃん)、寺島しのぶ(さわ子さん)、染谷将太(千葉恒輔)、井浦新 中田誠一郎)、木野花(カフェのオーナー:木庭葉子)、銀粉蝶(さわ子さんの母)、風見章子(さわ子さんの祖母)、佐藤めぐみ(すーちゃんの同僚:岩井美香)、上間美緒(カフェのアルバイト:竹田ちか)、吉倉あおい(木庭オーナーの娘:木庭みなみ)、高部あい(まいちゃんの後輩:前田千草)
=結婚しなくていいですか。=
すーちゃん、まいちゃん、さわ子さん3人は10数年前のバイト仲間。今もときどき会っては鍋を囲んだり愚痴をこぼしたり、友情は続いている。料理好きのすーちゃん(柴咲コウ)はカフェで働き、独身マネージャーが気になっているけれど恋愛未満。まいちゃんは大手メーカー勤務の営業職。セクハラ発言にも負けず、仕事もできるが、不毛な恋愛中。少し年上のさわ子さんはウェブデザイナーとして在宅勤務、母と二人で祖母の介護をしている。出会いのないのを寂しく感じていたら中学の同級生と再会。ちょっぴりときめいている。
独身女性がそれぞれの暮らしの中から生まれる小さな悩みや不安をつぶやいてコマを進める原作。シンプルで控えめな絵柄です。試写を観た後、気になって何冊も読みました。同世代の女性なら「そうそう」「あるある」と同感すること必至。嫌いな相手とも職場ではつきあっていかなくちゃと、「いい人」になっちゃう自分がいや。「おひとり様」の人生がこれからも続くの? これまでの自分の選択は間違っていたの? 不安や疑問はいくらでも湧いてきます。人気・実力兼ね備えた3人が競演して、共感度を上げています。心配しても立ち入りすぎず、黙って泣かせてくれる女友達って大事。男性の出番はちょっぴりだけど、井浦新の自信なさげなマネージャーほか、これまた実際にいそうなキャラばかりです。「ライフ・イズ・ちょこっと・ビューティフル。傷つくものに、幸あり」のキャッチにうんうんとうなずいてしまいました。
御法川修監督は、昨年9月に『人生、いろどり』を送り出し、農村の幼馴染のおばあちゃん3人(吉行和子、富司純子、中尾ミエ)の友情と、いくつになっても挑戦する勇気を描きました。どちらもいつしか癒されて、人に薦めたくなる映画です。(白)
2012年/日本/カラー/106分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:スールキートス
©2012 映画『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』製作委員会
公式 HP >> http://sumasa-movie.com/
監督・脚本:トッド・ソロンズ
撮影:アンドリー・パレーク
出演:ジョーダン・ゲルバー(エイブ)、セルマ・ブレア(ミランダ)、ミア・ファロー(エイブの母)、クリストファー・ウォーケン(エイブの父)、ジャスティン・バーサ、ドナ・マーフィ
一人息子で両親に甘やかされて育ったエイブ、父親の会社で働いているがパソコンでアクセスしているのは、フィギュアのサイト。30を過ぎて彼女なし、スキルなし、髪の毛も後退。あるのは体重と大いなる勘違い。自分はダークホース、いつか大成すると妙な自信を持ち続けているのだった。パーティで同じテーブルになったミランダに一目ぼれ、強引にアタックするのだが彼女は簡単には落とせない。
そばにいたら鬱陶しいことこのうえないダメ男。甘い母親は少しも成長に役立たず、根拠のない自信を持たせただけ。こうしてダメな男を増やしてるのね、と母である私も心がちくちくと痛みましたが、いやうちの息子たちは断然ましです(と親ばか)! 勘違い男のデイブには腹立つものの、両親役のクリストファー・ウォーケンとミア・ファーローがいいのと、秘密ありげなミランダとどーなるの?という興味で観続けました。監督もダメすぎ!とのレッテルは貼らず、どこか暖かく描いているので、同世代男性諸氏には共感できるキャラなんでしょうね?(白)
2011年/アメリカ/カラー/84分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:トランスフォーマー
公式 HP >> http://darkhorse-movie.com/
監督・編集:四ノ宮浩
制作プロデューサー:佐久間肇、遠藤久夫
撮影:柿木喜久男
音楽協力:鈴木雅明(バッハ・コレギウム・ジャパン)
―つよく生きる。今はそれだけ。―
東日本大震災の後4月下旬から福島での撮影を始めたドキュメンタリー。飯館村から避難した家族、その妻の知り合いの酪農家、警戒区域でいまも牛を飼い続けている畜産家を追った。2012年12月までカメラを回し続け、映画の完成後も監督は福島に居続けている。
震災後多くの映像を目にしてきました。すでに映画となって送り出された作品もいくつもありますが、もう1本観てほしい作品が加わりました。『わすれられた子供たち スカベンジャー』の四之宮監督が、静かな映像で淡々と福島に生きる人たちを映し出します。
大切に育ててきた牛を殺処分することになり、自殺した酪農家は妻の故郷フィリピンへ帰国していた妻子へあてて、厩舎の板壁に「ごめんなさい」と書きのこしていました。大きく報道されたので、鮮明に記憶しています。無人となったほかの厩舎では、柵から首を伸ばした格好で餓死した牛の屍骸が累々と続いています。自然災害の後にやってきた原発事故によって、これまでの生活を根こそぎ奪われてしまったこの人たちに、また、明るい未来を描けなくなってしまった子供たちに、事故の関係者・政治家たちはなんと申し開きをするのでしょうか。(白)
2012年/日本/カラー/110分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:オフィスフォー/トラヴィス
公式 HP >> http://wasurenai-fukushima.com/
監督:クラーチェ・クラインズ
出演:アントン・コービン、アーケイド・ファイア、ボノ(U2)、メタリカ、ルー・リード、マーティン・ゴア(デペッシュ・モード)、ジョージ・クルーニー
世界最高のアーティストに愛されるオランダ人写真家 アントン・コービン。
彼の被写体となったのはザ・ローリング・ストーンズ、U2、デペッシュ・モード、メタリカ、ジョイ・ディヴィジョン、ニルヴァーナ、コールドプレイなど、世界最強のロック・ミュージッシャンたち。アーティストたちからの絶大な信頼を受けたアントンの活躍は単なる写真撮影に留まらず、アルバムのアート・ディレクション、ステージ・デザイン、PV制作にもおよぶ。さらに、ジョージ・クルーニーを主演に迎えた『ラスト・ターゲット』でハリウッド進出も果たしている。
1955年、オランダで牧師の息子として生まれた彼が世界的なロック・フォトグラファーになった軌跡、さらには成功を手にしてからの心の動きを4年間彼に密着して詩情あふれる1篇に仕上げたのは、同じくオランダ出身の女性監督クラーチェ・クイラインズ。
U2のボノが、「アントンの撮った写真のような人物になりたい」と語る。ぞくっとするようなモノクロ写真。「父が撮りたいのは人間の本質を伝える写真」とアントンの息子。人物がぐいぐい画面から迫ってくる。本作を観るまで、アントン・コービンの存在を知らなかった。一気に彼の魅力に惹かれた。旅先のホテルの窓から撮った写真も、その土地その土地の趣を端的に捉えている。いつも旅をしているので、荷造り上手と笑う姿も素敵だ。(咲)
2012年/オランダ・ドイツ。イタリア・イギリス・スウェーデン/英語・オランダ語/84分/ヴィスタ
ベルリン映画祭正式出品作品
配給:シンカ
公式 HP >> http://www.antoncorbijn-movie.jp/
監督・脚本・戯曲原作:レスリー・ヘッドランド
撮影:ダグ・エメット
衣装デザイン:アンナ・ビンジマン
音楽:アンドリュー・フェルテンスタイン
出演:キルステン・ダンスト(レーガン)、アイラ・フィッシャー(ケイティ)、リジー・キャプラン(ジェナ)、レベル・ウィルソン(ベッキー)、ジェームズ・マースデン(トレヴァー)
高校時代はモテモテだったレーガン、ケイティ、ジェナの3人組、いまや売れ残り状態で結婚への道は遠い。な、なのにおデブ非モテ女子のベッキーが先にゴールインですとっ!?しかも相手はイケメンのお金持ち。悔しい本音は口に出さず、レーガンはブライズメイズとしてパーティから式までを完璧にやりとげる、はずだった。
元カレに再会して動揺するジェナ、飲みすぎて正体をなくすケイティ、真夜中についはじけすぎた3人は、ベッキーのウエディングドレスを破ってしまった!酔いも吹き飛んで真っ青になるレーガン、式は無事に始まるのだろうか??
レスリー・ヘッドランド監督は、オフ・ブロードウェイで劇作家として活躍していました。舞台で大当たりしたこの脚本の映画化が決まり、ついでに監督もすることになったのだそうです。テンポの良さは初監督作とは思えません。個性的なキャラのリアルなセリフに、同年代の女子は激しく同感するはず。しかし、〔非モテ女子〕とレッテルを貼られているベッキー、ぽっちゃり系というにはかなり膨らんではいるものの、性格がいいし顔立ちも可愛いんです。キルスティン・ダンストってスタイルはいいけど、美人とは・・・。むかついてる顔がとっても怖い~。(白)
2012年/アメリカ/カラー/88分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
©2012 Strategic Motion Ventures, LLC
公式 HP >> http://bachelorette.gaga.ne.jp/
監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル
原作:マシュー・クイック「世界にひとつのプレイブック」集英社刊
撮影:マサノブ・タカヤナギ
音楽:ダニー・エルフマン
出演:ブラッドリー・クーパー(パット)、ジェニファー・ローレンス(ティファニー)、ロバート・デ・ニーロ (パット・シニア)、ジャッキー・ウィーヴァー(パット母:ドロレス)、クリス・タッカー(ダニー)
教師だったパットは妻の浮気が原因で心のバランスが崩れ、怒りがコントロールできなくなった。治療している間に妻も職場もなくし、実家で両親と暮らしている。パットは社会復帰ができれば妻の愛情も取り戻せると希望を捨てないでいるが、妻の気持ちは違っていた。近所に住むティファニーと知り合うが、彼女は外見に似合わない過激な発言と、とっぴな行動でパットを振り回す。ティファニーもまた愛する夫が急死して、心の穴を埋められずにいたのだった。
心が壊れちゃった男女のラブ・ストーリー。一筋縄ではいかない二人にこちらもハラハラさせられます。ダンス選手権に出場する、とティファニーが言い出してから山場まで、無理だろと思いながらいつしか応援してしまいました。『ウインターズ・ボーン』の健気なお姉ちゃんが、こんなにセクシーな大人の女性になっていたとは!また、デ・ニーロとジャッキー・ウィーヴァーの夫婦が楽しくて、こんな両親ならもう少し違った息子になりそうな気もしました。デ・ニーロが参加したことで、原作から大きく変えているそうなのです。ともかくこのベテラン二人が、ストーリーに余裕とユーモアを加えていました。
原作の映画化権を手に入れたのは、故シドニー・ポラック監督と故アンソニー・ミンゲラ監督なのだとか。ラッセル監督は5年前に原作を薦められて脚色にとりかかりましたが、お二人は2008年に相次いで亡くなってしまいました。今回映画化されて好評を博していることを、きっと喜ばれていることでしょう。(白)
2012年/アメリカ/カラー/122分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
© 2012 SLPTWC Films, LLC. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://playbook.gaga.ne.jp/
監督:沖田修一
原作:吉田修一
脚本:前田司郎、沖田修一
出演:高良健吾(世之介)、吉高由里子(祥子)、池松壮亮(一平)、伊藤歩(千春)、綾野剛(雄介)、
長崎県の漁村で生まれた横道世之介(高良健吾)は、大学進学のために上京した18歳。
彼の嫌味のない人の良さで、アパートの住民、バイト先、大学での友人、そして超お嬢様のガールフレンド(吉高由里子)等々、いろんな人と出会う青春そのものの人生だった。が、世之介35歳で・・・。
沖田監督4作品目の映画だ。私は1作品目の『このすばらしきせかい』が1番好きだが、この作品を観て、ひょっとしてこれが1番になるかもしれないなぁと思った。
世之介35歳で遭遇するある事故は実際に起きたことで、当時ある面だけ大きく報道された。パソコンで調べてみたら確かにもう一人男の方がおられたのだ。
ここで私は、この男の方のご遺族に、この作品を見ていただいても「悲しい思い出だが、こうして生きてきたと仮定されても悪い気持ちにはならない」だろうと感じた。
沖田監督さんの4作品目。名前は可笑しいが、清々しい青春ものになっている。
若い方には「今を大切にしなきゃ」と思わせるだろうし、とっくの昔に青春が終った方には「いろんな人とであったなぁ、今どうしているのだろう・・・」と懐かしくなる作品だと思う。
※携帯以前・携帯普及の間をうまく映像表現できていた。
※吉高由里子の「世之介さ~ん」の少し鼻にかかった声がとてもよかった。彼女はその古めかしい名前が意外にも気に入って、好意を持ったのかもしれない。
※監督の守護神のように毎回でられていた古舘寛治さんがいないのが不満。アパートの住民でただ通るだけでもいれてほしかった。
(美)
2012年/日本/カラー/160分
配給:ショウゲート
公式 HP >> http://yonosuke-movie.com/
監督:ショーン・ダーキン
脚本:ショーン・ダーキン
撮影:ジョディ・リー・ライプス
衣装:デヴィッド・タバート
出演:エリザベス・オルセン(マーサ)、ジョン・ホークス(パトリック)、サラ・ポールソン(ルーシー)
両親を幼いときに亡くし、叔母に育てられたマーサ(エリザベス・オルセン)は、あるカルト集団に家族の愛を求め入信した。そのとき貰った名前が「マーシー・メイ」だった。
新しい名前で2年間の共同生活を送っていたが、20歳の夏、彼女はひとりでカルト集団から脱走。唯一の家族である姉夫婦の湖畔の貸し別荘に身を隠すが・・・。
姉夫婦の休暇の2週間の出来事だが、ここの生活とカルト集団のことが交互に出てくる。
当然、時間はそんなにたっていないから、身体はここにいても気持ちや習慣はカルトのまま。
姉も夫も常識的で優しい夫婦だが、今まで行方不明だった妹が、不意に電話をかけてきておびえている様子を見て、ある意味「覚悟」しなきゃいけないのに、いたって楽観的?で「生きていて良かった」とあれこれ世話をやく。
だが、妹が突飛で想定外の行動や考えをいうと途端に問題視して叱り付ける。
そこで「今までどんな生活だったか」考えてほしいのに・・・。
カルトから肉体も精神も抜け出す難しさが、サスペンス要素をたっぷりまぶしてある作品だった。エリザベス・オルセンはこの作品でうんと成長している。
(美)
2011年/アメリカ/カラー/スコープサイズ/102分
配給:エスピーオー
監督:神田裕司
脚本:村木藤志郎、土田真巳、神田裕司
原作:うわの空・藤志郎一座
音楽:神尾健一
出演:ノゾエ征爾(立花亭ピカッチ)、南沢奈央(大田ユリ)、安達祐実(席亭)、小松政夫(立花亭圓志)、有坂来瞳、黒田福美、伊藤克信、池田鉄洋、ラサール石井、でんでん、石井正則、中村昌也、平沼紀久、山田清貴、佐藤栞菜、村木藤志郎、里見要次郎、泉堅太郎、金原亭世之介、夕霧、白須慶子、三谷昇、真野響子
立花亭ピカッチは大御所立花亭圓志に入門してから9年と5ヶ月。いまだ前座どまりで、後輩にどんどん追い越されていく。 女性雑誌の記者が取材にやってきたある日、一人がなかなかやってこない。あわや高座に穴があきそうになる。そんなときに手腕を発揮するのが前座。ピカッチはこの難局を乗り切ることができるのか?
昨年の「したまちコメディ映画祭」のオープニング上映作品でした。立花亭ピカッチを演じるノゾエ征爾さんは、「劇団はえぎわ」主宰の劇作家・演出家・俳優という様々な顔を持っています。たくさんのゲストと一緒に登壇しましたが、髪型とめがねのせいか映画祭プロデューサーのいとうせいこうさんによく似ていて、並んだときとてもウケていました。
寄席の楽屋だけで繰り広げられる一日の騒動。ふだん見ることのできない寄席の裏側を活写して楽しい作品でした。寄席に行きたくなります。出演者がとても多い中、大衆演劇の里見要次郎座長が女形の衣裳のまま、差し入れに来る場面があったのにはびっくり。(白)
2012年/日本/カラー/102分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:アイエスフィールド
公式 HP >> http://tokyo-teyandei.com/
監督:マチュー・ロイ 共同監督:ハロルド・クルックス
プロデューサー:ダニエル・ルイ、デニース・ロバート、ゲリー・フライブ
原作:ハロルド・クルックス、マシュー・ロイ
エグゼクティブ・プロデューサー:マーティン・スコセッシ、マーク・アクバー、ベッツィー・カーソン、エマ・ティリンガー・コスコフ、シルヴァ・バスマジアン
出演: マーガレット・アトウッド、コリン・ビーバン、チェン・ミン、ジェーン・グッドール、スティーブン・ホーキンス、マイケル・ハドソン、サイモン・ジョンソン、ゲイリー・マーカス、ダニエル・ポヴィネリ、マリナ・シルヴァ、デイビッド・スズキ、ロバート・ライト、ロナルド・ライトほか
進歩とは?
人類はどこへいくのか?
目覚しい科学技術の発展の渦中で暮らす私たち21世紀の人類。資本主義優先の技術革新の一方には、環境破壊や大量消費社会がもたらす弊害など、多くの問題を抱えている。
本作の土台となったのは、ロナルド・ライトの著書でベストセラーとなった『暴走する文明「進歩の罠」に落ちた 人類のゆくえ』。ロナルド・ライトがナビゲーターとなり、人類の歴史を振り返る。目先の利益のために将来を犠牲にする「進歩の罠」によって、これまでの文明が繰り返し破壊されてきたことを指摘し、 現在、人類が文明の崩壊の瀬戸際にあると警告する。
マーティン・スコセッシ製作総指揮作品
5万年もの間、人類の外見はさほど変わっていない。頭脳もアップグレードされていない。という現実に、人類は日々進歩してきたと錯覚して過ごしていることに気づかされる。
進歩は変化を伴うもの。良い方への変化もあれば、悪い方への変化もある。ある国が力をつけて他国を攻撃した結果、経済基盤が破壊され、砂漠化してきたという文明の繰り返しだという。
なんだか凄いことを警告されたという思いは残っているけれど、正直いって、内容を一度観ただけでは咀嚼できないでいる。もう一度、ゆっくり噛みしめながら観てみたいと思う。
2月15日(金)、特別試写会での上映後、SUGIZOさん(ミュージシャン)、 谷崎テトラさん(構成作家)x 関根健次さん(ユナイテッドピープル代表)による対談が行われた。
人類5万年の歴史という大きなスケールで捉えた本作。これから人類はどうすべきなのか、長期的視野に立って対策を立てなければならないと、7月の参議院選挙を前に本作を公開する理由を語る関根さん。
SUGIZOさんは、この2~300年、資本主義が優先されてきた結果の歪を指摘している本作には、生き残るためのヒントや警告が満載で、多くの人に経験してほしいと語る。
テトラさんは、地球が次の世紀まで生き残れない理由は、100以上。大きくわけて、生態系、社会、経済の3つの理由があるが、それぞれが結びついたものだという。
人類の歴史は5万年。だが、地球全体を観れるようになってから、まだ50年経っていないとテトラさん。その話を聞いて、人類5万年の歴史の中で、それは凄い進化だと思う一方、自分の存在は宇宙に浮かぶ地球の、ほんの点にもならないと思った。それでもエネルギーは消費しているし、地球に負担をかけている存在には違いないと考えると、やっぱり一人一人の行動が地球を救うのだと思う。(咲)
2011年/カナダ/86分/カラー/英語
配給:ユナイテッドピープル
公式 HP >> http://survivingprogress.net/
監督脚本:ロドリゴ・コルテス
撮影:シャビ・ヒメネス
プロダクションデザイン:アントン・ラグーナ
音楽:ビクトル・レイェス
出演:ロバート・デ・ニーロ(サイモン・シルバー)、キリアン・マーフィ(トム・バックリー)、シガーニー・ウィーヴァー (マーガレット・マシスン)、トビー・ジョーンズ(ポール・シャクルトン)、エリザベス・オルセン(サリー・オーウェン)
物理学教授のマーガレット・マシスン博士と助手のトムは、これまであらゆる超常現象を調査し、そのペテンとまやかしを見抜いてきた。しかし、強力な敵が登場する。60~70年代にかけて大きな話題となった超能力者サイモン・シルバーが復帰したのだ。トムは対決しようと意気込むが、マーガレットは「彼は危険だ」と珍しく及び腰になる。かつてテレビ番組で、彼の超能力に完敗した苦い経験があったのだ。
ロバート・デニーロがある時期に大人気だった超能力者に扮します。それまで超常現象も超能力者も一刀両断にしてきたマーガレットには「おお~」と見入っていたので、トムならずとも対決・看破・論破してよと思ってしまいます。彼女なりの理由がありますが、シガニー・ウィーバーはもっと強くあってほしいです。物事には裏もそのまた裏もあるんですが。
超能力者というとスプーン曲げで一躍「時の人」となったユリ・ゲラー。70年代後半から80年代日本でも数々のテレビ番組で特集されましたっけ。特に暮らしに役立つわけでもないのに、なぜあんな熱狂したのか?そんなことを思い出した作品でした。(白)
2012年/アメリカ、スペイン/カラー/113分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:プレシディオ
©2011 VERSUS PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS S.L. (NOSTROMO PICTURES) / VS ENTERTAINMENT LLC
公式 HP >> http://gacchi.jp/movies/red-light/
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
撮影:グリーグ・フレイザー
プロダクションデザイン:ジェレミー・ヒンデル
音楽:アレクサンドル・デプラ
出演:ジェシカ・チャステイン(マヤ)、ジェイソン・クラーク(ダニエル)、ジョエル・エドガートン(パトリック)、ジェニファー・イーリー(ジェシカ)、エドガー・ラミレス(ラリー)、ジェームズ・ガンドルフィーニ(CIA長官)
ビンラディンを追い詰めたのは、
ひとりの女性だった――
<9.11>から10年。CIAビンラディン捜索チームは、巨額の資金をつぎこみながら、いまだ居所もつかめないでいた。そんな中ワシントンからひとりの女性分析官が送られてきた。まだ若いマヤをチームはあやぶむが、華奢な体に似合わず強固な意志を持っていた。イスラマバード基地に重要な情報がもたらされることになり、マヤの同僚のジェシカは「これで子どもに会える日が近づいた」と喜ぶ。それは情報提供を装った自爆テロで、ジェシカは爆発に巻き込まれてしまう。
まだ記憶に新しいこの事件を関係者の証言を元に忠実に再現した作品。見てすぐは、その迫力、俳優の熱演(ジェシカ・チャスティン見違えました)、たたみかける構成などに圧倒されていました。が、落ち着くとこれは実際にあったことだ、という重みがずっしりと胸にのしかかってきました。数百年前の江戸の昔の仇討ちならば、いかにも極悪非道奴を非力な女子どもが討ち果たすならば、喝采を叫んだかもしれません。この作品の緻密な作戦、大掛かりに投入される狙撃隊・・・アメリカは戦争中なのでした。「ゼロ・ダーク・サーティ」は軍事用語で「0 dark 30=午前0時30分」のこと。(白)
2012年/アメリカ/カラー/158分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ
公式 HP >> http://zdt.gaga.ne.jp/
監督:フィリップ・カデルバッハ
脚本:ヨハネス・W・ベッツほか
撮影:ダーヴィット・スラマ
音楽:ディルク・ロイポルツ
出演:マキシミリアン・ジモニシェック(マーテン・クルーガー)、ローレン・リー・スミス(ジェニファー・ヴァンザント)、グレタ・スカッキ(ヘレン・ヴァンザント)、クリスティアーネ・パウル(アンナ・ケルナー)、ハイナー・ラウターバッハ(フーゴ・エッケナー)、ウルリッヒ・ヌーテン(レーマン)、ステイシー・キーチ(エドワード・ヴァンザント)、ヒンネルク・シェーネマン(アルフレート)
1937年、フランクフルト。ツェッペリン飛行船会社の技師マーテンはグライダーを操縦していて湖に墜落。たまたまいあわせた女性に救助される。一目ぼれしてしまったマーテンは、幸運にもその夜のパーティで再会する。彼女はアメリカの石油会社社長令嬢、ジェニファー・ヴァンザントですでにドイツ貴族の婚約者がいるとわかった。アメリカからヴァンザント社長が倒れたとの知らせが入り、ジェニファーと母親は急遽ヒンデンブルグ号で帰国することになった。
当時のヒンデンブルグ号は浮揚するために水素を使用していましたが、大変引火しやすく爆発の危険がありました。大西洋を横断してアメリカ・ニュージャージー州の海軍基地で着陸寸前に爆発炎上したのは史実です。その原因については諸説あり、空飛ぶ豪華客船とも呼ばれた飛行船は万全の安全策がとられていたはず。ではなぜ?というところをフィクションで補い、歴史ミステリーにしあげています。ニュース映像で観たことのあるヒンデンブルグ号が忠実に再現されて、豪華な内部やアクション舞台となる躯体部分も見られるのも嬉しいです。(白)
2011年/ドイツ/カラー/110分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:東映
©teamWorx2011
公式 HP >> http://hindenburg.toeiad.co.jp/
監督:チュ・チャンミン (『マバド』『拝啓、愛しています』)
脚本: ファン・ジョユン(『オールド・ボーイ』)
出演:イ・ビョンホン、リュ・スンリョン、ハン・ヒョジュ、キム・イングォン、シム・ウンギョン
朝鮮王朝15代・光海君8年(1616年)。毒殺の危険を感じた王は、忠臣ホ・ギュンに身代わりを探せと命じる。白羽の矢を立てられたのは王に瓜二つの道化師ハソン。やがて、王が病に倒れ、回復するまでの15日間、ハソンは王座につくことになる。立ち居振る舞いから国政まで決して偽者だと悟られてはならない。そんな中、15歳の毒見係の女官サウォルの身の上話を聞き、理不尽な政治の実態に、民を思う王命を下し始める・・・
イ・ビョンホンが初めて挑んだ時代劇。しかも王様とその身代わりとなった道化師の2役。冷たい目の暴君、情けない目をした道化師と、目の表情一つとっても、演じ分けが見事。さらに、後ろ姿を見ても、王様なのか影武者なのかがわかるという素晴らしさ。 王様の身体を知り尽くした王妃をなんとか避けようと必死になるハソンには大笑い。それが、いざ王座に座ると、王様になりきって民を思う王命を下すのです。2役の上にさらに影武者が演じる王様という3役を演じ分けたビョンホン。ご立派!(咲)
2012年/韓国/131分/カラー/5.1chサラウンド
配給:CJ Entertainment Japan 製作:リアルライズピクチャーズ
公式 HP >> http://becameking.jp/
監督:ピート・トラヴィス
脚本:アレックス・ガーランド
撮影:アンソニー・ドッド・マントル
プロダクションデザイン:マーク・ディグビー
出演:カール・アーバン(ジャッジ・ドレッド)、レナ・ヘディ(ママ)、オリヴィア・サールビー(カサンドラ・アンダーソン)、ウッド・ハリス(カイ)、ドーナル・グリーソン(クラン・テッキー)
核戦争により荒廃しきった近未来のアメリカ。東海岸のメガシティには超高層ビルが林立し、8億人の市民が住んでいた。凶悪犯罪が多発した街で秩序を維持しているのは「ジャッジ」と呼ばれるエリート司法官。彼らは警察と司法機構を合わせた裁判所に属し、一人で刑まで執行できる権限を与えられていた。その中で頂点に立つのはジャッジ・ドレッド。ある日、彼は新人の女性ジャッジ、アンダーソンの適性を審査することになり、実地訓練に連れ出す。
昨年公開されたインドネシア映画『ザ・レイド』が、戦い方こそ違うものの隔絶されたビルの中での似たストーリーだったので、これがアメリカのリメイク?と思ってしまいました。ところが『ジャッジ・ドレッド』は、イギリスの人気コミックスが原作で、すでに1995年に同名で映画化されていました(シルべスター・スタローン主演)。当時よりいろいろな技術が進んだ分非常に派手になっています。主演のカール・アーバンは『ロード・オブ・ザ・リング』の2、3作目にローハンの騎士団長エオメル役で。『スター・トレック』にも出演しています。なかなか精悍な風貌ですが、この作品ではマスク姿が多いのでよく見えません。適性審査というにはあまりに過酷な試練を受ける新人のアンダーソンを演じるのはオリヴィア・サールビー。『ダーケストアワー 消滅』のヒロインでした。アクション系に進むのかな。(白)
2012年/イギリス、南アフリカ/カラー/95分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ブロードメディア・スタジオ
©Rena Films (PTY) Ltd. and Peach Tree Films Ltd.
公式 HP >> http://judge-dredd.jp/
監督・脚本:中野量太
撮影:平野晋吾
音楽:渡邊崇
出演:柳英里紗(東村葉月)、松原菜野花(東村呼春)、渡辺真起子(母・東村佐和)、滝藤賢一(叔父・西森徹二)、二階堂智(父・西森正高)、小林海人(西森千尋)
フリーターの姉、葉月、妹の呼春は高校生。ある日母の佐和が「お父さんが死にそうなんだって。会いに行って写真撮ってきて」と言う。父は14年前女の人を作って出て行ってしまった。父の記憶はほとんどないし、二人には母だけで十分だったし、いやいやながら「お使い」に出かけた二人。電車を乗り継いで着いたところは小さな田舎の駅。腹違いの弟だという小学生が迎えにきて、父はすでに亡くなって葬儀の準備が進められていたのを知る。
SKIP国際Dシネマ映画祭2012で長編映画コンペの監督賞(日本人初)とSKIPシティアワードをW受賞した作品。中野監督には初の劇場公開作品となりました。短いながら家族の愛情や人生を描いて、ちょっとしんみり+ほっこりさせる作品。キャスティングがぴたりで、じめじめしない姉妹と母のつながりが良い!渡辺真起子さんの母に乾杯です。タイトルは「父」でなく「チチ」の字、劇中でも「チチ」を二度言うんです。なんだか駄洒落っぽいですが、そこはかとなくおかしさも漂います。(白)
2012年/日本/カラー/74分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:デジタルSKIPステーション
©2012ピクチャーズネットワーク/日吉ヶ丘ピクチャーズ
公式 HP >> http://chichitori.com/
監督:池谷薫
プロデューサー:権 洋子
撮影:福居正治
池谷薫監督は震災から一月後、岩手県陸前高田市で一人の老人と運命的に出会った。長い間、この土地で農林業を営んできた佐藤直志さん77歳。家は大津波で流され、消防団員だった長男は人助けに戻って大波にのまれてしまった。誰もが無力感にさいなまれる中、佐藤さんはきこりの腕を生かして自宅を建て直そうと決意した。仮設住宅に移るのを断固として断り、不自由な暮らしの中黙々と働き続ける。
『延安の娘』『蟻の兵隊』の池谷監督が、また頑固だけど魅力的なおじいちゃんにスポットをあてました。冒頭、佐藤さんは毎朝目の前に広がる風景に向かって「おはようございま~す!今日も一日がんばりましょう~!」と拡声器で呼びかけます。どこからか返事が返って、観ているこちらもほっと笑顔になります。長年連れ添った奥様は仮設住宅に移ってしまい、一人になっても弱音など吐かず、邪気のない笑顔を見せています。お宅は山を背にした高台にあり、土地には大きな爪あとが残っています。そんな中でも「夢を持って生きなくちゃ」という佐藤さんに背中をポンと叩かれた気がしました。(白)
2012年/日本/カラー/118分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:蓮ユニバース
© Photo by Hiroko Masuike
公式 HP >> http://senzoninaru.com/
期間:2013年2月9日(土)〜2月15日(金)
場所:ユーロスペース
チケット:前売り 1回券 1300円 3回券 3600円
当日 1回券 1500円 1回券(学生・シニア・ユーロスペース会員 1200円 3回券 3900円
今年は新しい感覚の映画、監督の作品が集まりました。北欧映画12本とバルト三国にスポットを当て、エストニアのアニメ[マッティ•キュット短編集(4本)]と駐リトアニアの領事代理『杉原千畝の決断』を上映します。
近年、北欧雑貨やファッションがトレンドとなっていますが、北欧はそれだけじゃありません。素敵な映画もありますよ。真冬の寒さの中、映画を観てどっぷり北欧世界にはまっちゃってください。
公式 HP >> http://www.tnlf.jp/
監督:マーク・ネヴェルダイン、ブライアン・テイラー
脚本:スコット・ギンブル、セス・ホフマン
撮影:ブランドン・トゥルスト
音楽:デヴィッド・サーディ
出演:ニコラス・ケイジ(ジョニー・ブレイズ)、イドリス・エルバ(僧侶モロー)、キアラン・ハインズ(ロアーク)フォーガス・リオーダン(ダニー少年)
父親を死から救うために、冥界の魔王との契約で悪魔を宿してしまったサーカスのスタントマン・ジョニー・ブレイズ(ニコラス・ケイジ)は、災いを避けるように静かに暮らしていたが、そこに僧侶のモロー(イドリス・エルバ)が訪ねて来る。
モローは、彼に悪魔の化身ロアーク(キアラン・ハインズ)が、新たに取り憑こうとしている少年(フォーガス・リオーダン/少年だが大人の眼差しがある)を助けてほしいと頼む。だが、そのロアークこそ、ジョニーが契約を結んだ魔王メフィストだった。
最初の5分!すごい迫力とスピードで圧倒された。工夫された面白い見せ場もあって、前作『ゴーストライダー』より確実にパワーアップしている!
ニコラス・ケイジは「ジョニー・ブレイズと自らの身体に宿した悪魔ザラソスの二役」で、キアラン・ハインズは「ロアークと魔界の王メフィストの二役」それが一体化しているから、ニコラス・ケイジ様が急にメラメラと燃えだしたり、全身炭化する手前で悪魔に変身しながらユラユラしたり・・・。
いいわぁ~、この感じ!メラメラ・ケイジもユラユラ・ケイジも素敵?だった。
CGの使いかたがとにかくすごい。細かい映像テクニックや燃えながら走るバイクシーンは必見。
(美)
2011年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/95分
配給:松竹=ポニーキャニオン
公式 HP >> http://www.gr2.jp/index.html
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ
撮影:ロバート・イェーマン(ASC)
音楽:アレクサンドル・デスプラ
衣装:カシア・ワリッカ=メイモン
出演:ブルース・ウィルス(シャープ警部)、エドワード・ノートン(ウォード隊長)、ビル・マーレイ(ミスター・ビショップ)、ティルダ・スウィントン(福祉局員)、ジャレット・ギルマン(サム)、カーラ・ヘイワード(スージー)
1965年。ここはアメリカ・ニューイングランド沖にある小さな小さな島。
養子であることを寂しく思いつつ、周りの友達とは少し違う自分に、いつも違和感を感じながらボーイスカウトで生活をするサムと、厳格で口うるさい両親のもと、いつも本ばかり読んでいる少女・スージーの恋の物語。
1年前の劇がきっかけでひと目で惹かれあった2人は密かに文通を始め、「駆け落ち」をするまでに・・・。
素敵な絵本を見ているような作品だった。それでいて現実的に納得できるストーリー展開。
少年少女役も嫌みなマセ方をしていないので好感が持てた。
2人の駆け落ち騒動でまわりの大人たちの右往左往ぶりもユニーク。
まるで「子どもの心をわすれてしまった大人たち」へのお伽話のようだった。
※音楽が秀逸!音楽的細工にも工夫あった。
(美)
2012年/アメリカ/カラー/94分/PG-12
配給:ファントム・フィルム
公式 HP >> http://moonrisekingdom.jp/
監督:ミハル・ボガニム
出演:オルガ・キュリレンコ(『007/慰めの報酬』)、イリヤ・イオシフォフ、アンジェイ・ヒラ、ヴャチェスラフ・スランコ
チェルノブイリの隣町プリピャチ。1986年4月26日、結婚式を挙げレーニン像の前で写真を撮る幸せ一杯のアーニャとピョートル。披露宴の最中、自衛消防団のピョートルは火災発生で出動し、人間原子炉と化して逝ってしまう。10年後、チェルノブイリ見学ツアーのガイドとして町にとどまっているアーニャ。フランス人の恋人からパリで暮らそうと誘われているが迷っている・・・
2011年の東京国際映画祭で『失われた大地』のタイトルで上映された折に、感銘を受け、日本での公開を待ち望んでいた作品。
ミハル・ボガニム監督はイスラエルのハイファで生まれ育ち、7歳の時にレバノンとの戦争のために突如一家で故郷を離れパリに移住する。災害や戦争で愛着のある土地を去らざるをえなかった者にとっては、災害や戦争自体よりも、故郷を追われたというトラウマの方が大きいのではないかと、自身の経験から感じるという。
「百万本のバラ」の歌が切なく響き、身体への悪影響を承知で故郷を離れられない人々の気持ちがずっしり伝わる作品。日本人にとっては福島の現実が重なるだろう。(咲)
ミハル・ボガニム監督インタビューをシネマジャーナル86号に掲載しています。
2011/仏・ウクライナ・ポーランド・独/フランス語・ロシア語・ウクライナ語/108分/ドルビーSR
提供・配給:彩プロ
(c) CCC Filmkunst/Julia Terjung
公式 HP >> http://kokyouyo.ayapro.ne.jp/
監督:セドリック・カーン
脚本:カトリーヌ・パイエ/セドリック・カーン
出演:ギョーム・カネ、レイラ・ベクティ、スリマン・ケタビ、ブリジット・シイ
学食の調理人ヤンは、ちゃんとしたシェフとしての職を探して訪れたレストランで、ウエイトレスのナディアに一目惚れ。仕事の終わる深夜3時にデートの約束を取り付ける。たちまち恋に落ち一夜を共にする二人。翌朝、ナディアはシングルマザーだと打ち明ける。休日、ナディアの9歳の息子スリマンも誘って湖畔に出かけたヤンは廃屋を見つけ、そこをレストランにしようと思い立つ。そうはいっても手持ち資金は頭金にも満たない。消費者金融で頭金を捻出し、廃屋を手に入れるが、改装資金を節約して必要な設備まで省いたため消防署から営業許可がおりない。多重債務に陥ったヤンを少しでも助けようと、ナディアはより高い報酬を得られるカナダに行く決心をする。息子と住む部屋が借りられるようになる1ヵ月後には呼び寄せると約束して、スリマンをヤンに預けて旅立つナディア。借金地獄から抜け出せないヤンは融資屋が用意した郊外の移民が多いぼろアパートでスリマンと暮らし始める。カナダに行ったナディアからは、1ヶ月以上経っても、呼び寄せるという連絡がこない。それどころか、手紙も途絶えてしまう・・・
2011年東京国際映画祭で、ナディアというアラビア女性の名前が紹介文に載っていて興味を持って観た作品。ナディアはレバノンからの移民。来日した監督は、恋に落ちた彼女がフランスで頼る人のいないことが重要だったとおっしゃっていた。 私の記憶に残っていた主人公は、自分のレストランを持ちたいと夢見るどうしようもない多重債務男。今回、もう一度観てみたら、愛する女性の息子を、なんとか母親の元に届けようとする健気な男。もっとも成り行きで預かってしまった血の繋がってない子を一人で育てるわけにもいかないから、必死にもなる? でも、その子のいい父親にすらなろうとする姿に、人間捨てたもんじゃないと、すがすがしい思いがした。一方、ナディアは、息子を男に押し付けて、カナダで一人気ままに暮らしているのかと思いきや、困っている移民を食い物にする輩の餌食になっていたことが判明する。底辺からなかなか這い上がれない社会の歪を感じさせられる物語でもある。その切なさを、息子スリマン演じるスリマン・ケタビの無邪気な笑顔に救われる。(咲)
2011年/フランス・カナダ/35mm・デジタル/カラー/111分
後援 フランス大使館
配給 パンドラ
公式 HP >> http://yoriyoki.net/
監督:瀧本智行
原作:首藤瓜於「脳男」(講談社文庫刊)
脚本:真辺克彦、成島出
撮影:栗田豊通
音楽:今堀垣雄
衣装:宮本まさ江
美術:丸尾知行
出演:生田斗真(入陶大威)、松雪泰子(鶯谷真梨子)、江口洋介(茶屋刑事)、二階堂ふみ(緑川紀子)
都内近郊で頻繁に起こる無差別殺人事件で、今度は路線バスが爆破された。
舌を切られた女性が爆弾とともに縛られていたのだ。
乗客は全員死亡、手口の異様さ、不明な動機で捜査は難航するが、刑事・茶屋は遺留品からアジトに踏み込むが・・・。
「変な題名!」と思ったが、チラシがいい!ゾクッとするチラシ。
深いトラウマを抱えながら「脳男」のカウンセラーをする精神科医。
「脳男」を追い続ける刑事。
心に底知れぬ闇を持つ連続爆弾魔。
予測不能のバイオレンスミステリーだ。
監督さんも好きな方!終半に現実的でない爆弾騒ぎシーンが残念だけど、久しぶりの2時間越え作品を短い!と感じた。主演の生田斗真が研ぎ澄まされたサイコパスを見事に演じていた。
(美)
2012年/カラー/ビスタビジョン/125分/PG-12
配給:東宝
公式 HP >> http://www.no-otoko.com/
監督: マルクス・O・ローゼンミュラー
出演者: エリン・コレフ、イーモゲン・ブレル、マティルダ・アダミック、カイ・ヴィージンガー、カテリーナ・フレミング、グドルン・ランドグレーベ、コンスタンティン・ヴェッカー
1941年春、当時ソ連支配下にあったウクライナのポルタヴァ。ユダヤ人の少年アブラーシャはバイオリンの名手。同じくユダヤ人の天才ピアニストの少女ラリッサと共にソ連各地を巡り、スターリンやソ連幹部の前でも演奏する機会を与えられ、神童と呼ばれていた。バイオリンが上手なドイツ人の少女ハンナは、そんな二人に憧れ、彼らの師であるイリーナ先生の指導を一緒に受けたいと願う。最初はハンナを警戒したアブラーシャたちも、「友情の曲」を作って打ち解けていく。カーネギー・ホールでの演奏も企画されていた頃、ヒトラーが独ソ不可侵条約を破り、ドイツ軍がソ連に侵攻してくる。これまで共存していたドイツ人たちは敵となり、身を潜めなくてはならなくなる。アブラーシャたちユダヤ人家族がハンナ一家を匿う。そのうちポルタヴァにもドイツ軍が侵攻し、ユダヤ人の強制収用が始まる。カーネギー・ホールは夢と消える。一方でヒムラーの誕生祝賀会で完璧な演奏を行えば、アブラーシャとラリッサの2人は強制収容を免除してやるといわれる。演奏会の日、ハンナは息を殺して二人をじっと見守る・・・
楽器が演奏できたお陰で命拾いしたユダヤ人がいたことを知ったのは、映画を通じてだった。本作では、神童と呼ばれた二人が演奏に「完璧」を求められ、ドイツ軍の幹部たちに命をもてあそばれる。バイオリンとピアノの研ぎ澄ました音が悲しく心に染みわたる。
複数の人種が共存して暮らしていたのが、ひとたび戦争状態になると、末端の庶民までもが対立関係になるという理不尽。そんな中で、権力に屈せず、人種を越えて助け合う人たちがいたことに、あらためて思いを馳せた。現ウクライナのリヴィウ (当時、ポーランド領ルヴフ)を舞台にした『ソハの地下水道』を思い起こした。
ユダヤ人強制収用の過程も興味深かった。まず、50歳以上のユダヤ人に対して、駅に集合するよう命令がくだされる。50歳って、どういう基準? もう働き手としては役に立たない年齢? 美しいイリーナ先生が、「こうみえても50歳を越えてるの」と連行されていく。あまりに悲しい歴史。ホロコーストをテーマにした映画は、これまでにも数多く作られてきたが、忘れ去らないように、こうしてまた新しい映画が作られる必要があるのだと思う。そして、本作は、なにより子供たち3人が素晴らしい。アブラーシャ役のエリン・コレフは、12歳の時にカーネギー・ホールでバイオリニストとしてデビューした天才バイオリニスト。カーネギー・ホールでの夢が叶わなかったアブラーシャに感情移入しての迫真の演技だ。(咲)
2011年/ドイツ/カラー/ドルビーSRD/100分
配給:ウォーカーピクチャーズ
公式 HP >> http://inochi-violin.com/
監督・脚本:クリストファー・マッカリー
原作:リー・チャイルド「アウトロー」(講談社刊)
撮影:キャレブ・デシャネル
音楽:ジョー・クレイマー
出演:トム・クルーズ(ジャック・リーチャー)、ロザムンド・パイク(ヘレン)、リチャード・ジェンキンス(ロディン)、デヴィッド・オイェロウォ(エマーソン)、ジェイ・コートニー(チャーリー)、ジョセフ・シコラ(バー)、ロバート・デュヴァル(キャッシュ)
ピッツバーグの河畔で白昼6発の銃声が響き、5人が倒れた。警察は無差別殺人として、現場に残された証拠から元軍人のバーを連行する。厳しい尋問にも口を開かない彼が示したのは一枚のメモ。そこには「ジャック・リーチャーを呼べ」と書かれていた。何者か、と色めき立つ捜査陣の前にリーチャー本人が現れるまでそう時間はかからなかった。彼は元陸軍の秘密捜査官、かつて関わりを持ったバーが逮捕されたと知ってやってきたのだった。リーチャーは現場に赴き、あまりにもそろいすぎた証拠に違和感を抱く。
「ミッション・インポッシブル」シリーズのイーサン・ハントとは全く違うタイプのヒーローが誕生しました。自分の信念と正義感に基づいて行動し、ときには法をはみだすこともいとわないワイルドな主人公です。このデジタル時代に生きながら、携帯電話もパソコンも使うことなく自分の頭脳と肉体のみが頼り。余分なモノを一切持たずにただ一人で動く一匹狼です。あまりのシンプルさに感動すら覚えます。豪快なカーチェイスやアクションに加えて、なんだかクスリと笑えるシーンもある天然(?)なリーチャー。この原作は大人気のベストセラー(著者のリー・チャイルドもワンシーンに出演)で、映画ももちろんシリーズ化されるようです。心配なのはあんなに派手に高級車を壊しまくって、次の制作費は大丈夫なのか?ということ。クリストファー・マッカリー監督、トム・クルーズ(製作も)、ロザムンド・パイクの来日記者会見のようすはスタッフブログに掲載しました。こちらもどうぞご覧ください。(白)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/312586122.html
2012年/アメリカ/カラー/130分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:パラマウント
©2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
公式 HP >> http://www.outlaw-movie.jp/
監督:窪岡俊之
脚本:大河内一楼
原作:三浦建太郎
アニメーション制作:STUDIO4℃
総作画監督・キャラクターデザイン:恩田尚之
音楽:鷺巣詩郎
主題曲:平沢進「Aria」
エンディング・テーマ:川畑要「声の出演:岩永洋昭(ガッツ)、櫻井孝宏(グリフィス)、行成とあ(キャスカ)、梶裕貴(ジュドー)寿美菜子(リッケルト)、藤原貴弘(ピピン)
ガッツが鷹の団を離れていった後、グリフィスは手のひらを返したミッドランド王に反逆罪を問われ、囚われの身となってしまう。残された鷹の団は、追っ手の目をかいくぐりながらグリフィス奪還の機会をうかがっていた。シラットが率いる暗殺団に襲われ、キャスカの命が危うくなったときガッツが戻ってくる。窮状を知らずにいたガッツをせめるキャスカだったが、ガッツの前で初めて一人の女となって身も心も結ばれる。王女シャルロットの手助けで、鷹の団はグリフィスが幽閉された牢獄へ近づくが、変わり果てた姿に言葉を失う。
黄金時代篇3部作の最終章。ついにここまできてしまいました。バイオレンスもエロスも今までで一番過激。R15+のアニメーションってあまりないのではないでしょうか?グリフィスはあんなことになってしまうし、ひどく辛い展開です。ま、まさかこれで終わりではありませんよね?! 原作のシリーズはものすごく長いのです。納得できるラストを迎えるまで、継続を切に希望するものです。(白)
2012年/日本/カラー/113分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:ワーナー・ブラザース
©三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS
公式 HP >> http://www.berserkfilm.com/
監督:ジョン・マッデン
原作:デボラ・モガー
出演:ジュディ・デンチ、 ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、マギー・スミス、デヴ・パテル
「神秘の国インドの高級ホテルで、穏やかで心地よい日々を」のうたい文句に惹かれて、イギリスからジャイプールのホテルを目指す年老いた男女7人。夫が亡くなり膨大な借金が判明して家を売る羽目になったイヴリン。突然判事を辞め、数十年前に住んでいたインドに会いたい人を探しに行くグレアム。イギリスの病院で股関節の手術が半年待ちと言われ、すぐに手術が受けられるインドに嫌々行く白人至上主義者のミュリエル。イギリスで家を買うはずが、退職金を貸した娘が事業に失敗、予算の都合でインドを選んだ心優しいダグラスとヒステリックなジーンの夫妻。結婚と離婚を繰り返し、孫もいるというのに、お金持ちの男との再婚を夢見るマッジ。かたや、最後のロマンス捜しに異国の地に行く独り者の伊達男ノーマン。こんな7人がたどり着いたマリーゴールド・ホテルは、うたい文句を書いたオーナーの青年ソニーがいつか高級になるといいなと夢見るおんぼろホテル。なにごともイギリスとは勝手の違うインドでの暮らしが始まる・・・
イギリスからニューデリーに到着するも、ジャイプール行きのフライトは欠航。これって、私も経験している。早朝着いたら霧で欠航。霧深い道をバスで向かったら、3車線のはずの道路が5車線くらいになって、牛もその合間をのそのそ歩いているから、ジャイプールにたどり着いたのは夕方だった。
高級ホテルのはずのマリーゴールド・ホテルで、壊れた蛇口を自分で直す英国紳士。そう、インドでは何があっても自分で対処しないと生きていけない。ジャイサルメールの新築ホテルで、トイレの水は勢いよく流れるのに、洗面台もお風呂も一滴も出なかったことがあったのを思い出した。私なら人生の終焉を体力気力勝負のインドで過ごそうなどとは、絶対思わない。でも、これは映画。イギリスの老人たちが織り成す人間模様が実に楽しい。老いらくの恋も芽生えてしまうのだ。
さて、本作では、迎え撃つインド側の人たちの人生も描かれる。ホテルのオーナーの青年ソニーを演じているのは、『スラムドッグ$ミリオネア』 (2008)で主役を演じたデヴ・パテル。成長して、大人の恋のできる年頃に。恋人のスナイナは、コールセンターで働く活発な女性。ソニーの母親は、自分のお眼鏡に叶った女性との結婚を望んでいる。さてはて、ソニーとスナイナの恋の行方は?と、こちらも楽しめる。インドを西欧からの変な色眼鏡で見ないで描いているところも好感が持てる。もっとも、あれっ?と思う箇所もあるけれど、許容範囲。インド好きの方の気持ちも裏切らないと思う。(咲)
2011年/イギリス=アメリカ=アラブ首長国連邦/英語、ヒンディー語/124分/カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:20世紀フォックス映画
公式 HP >> http://www.foxmovies.jp/marigold/
製作・監督・撮影:デヴィッド・ゲルブ
編集:ブランドン・ドリスコル=ルットリンガー
製作:ケヴィン・イワシナ/トム・ペレグリーニ
出演:小野二郎、小野禎一、小野隆士、山本益博
6年連続ミシュランガイド三つ星に輝く「すきやばし次郎」の鮨職人、小野二郎。ビルの地下にある10人程しか入れない小さな店。87歳になる二郎は、今も板場に立ち、息子や弟子たちにその技を見せる。魚や米への細やかなこだわり。一人3万円からというお任せコースだが、かなり先まで予約がいっぱい。客たちは満足そうに鮨を口に運ぶ。
夜明けから夜更けまで、3ヶ月間にわたり二郎に密着して本作を撮ったのは、アメリカ人のデヴィッド・ゲルブ監督。子どもの頃から何度も家族旅行で訪れた日本で食べた鮨が忘れられず、最高のショーマンである鮨職人をテーマに撮ろうと思ったそうだ。(両親が連れて行ってくれたのは回転寿司じゃなかったのですねぇ!)料理研究家の山本益博氏と一緒に東京であちこちの鮨屋を巡り、たどり着いたのが「すきやばし次郎」。 キッと一文字に結んだ口元からは、鮨一筋に生きてきた二郎の信念を感じさせられる。息子も弟子も、ぴりぴりとした空気の中で、二郎が築いてきた技を受け継ごうとしている様子が見える。それにしても、お一人様3万円! バブルの時代に会社の経費でずいぶん銀座の鮨屋でもご馳走になったけど、いまや私はお高い鮨の夢をみる! 芸術品のような鮨には手がでない・・・(咲)
2011年/アメリカ/英語字幕/カラー/82分/HD
第61回ベルリン国際映画祭カリナリ・シネマ部門正式出品作品
配給:トランスフォーマー
公式 HP >> http://www.jiro-movie.com
監督・製作 アン・リー(李安)
脚本 デヴィッド・マギー
原作 ヤン・マーテル 「パイの物語」
製作 ギル・ネッター デヴィッド・ウォマーク
製作総指揮 ディーン・ジョーガリス
音楽 マイケル・ダナ
撮影 クラウディオ・ミランダ
編集 ティム・スクワイアズ
出演者
スラージ・シャルマ(パイ・パテル 少年時代)
イルファーン・カーン(パイ・パテル 成人)
レイフ・スポール (カナダ人ライター)
タブー(パイの母親 ジータ・パテル役)
ジェラール・トパルデュー(コック)
カナダ人作家ヤン・マーテルが2001年に発表し、イギリスの文学賞ブッカー賞を受賞したベストセラー小説「パイの物語」を、『ウェディング・バンケット』『グリーン・デスティニー』『ブロークバック・マウンテン』『ウッドストックがやってくる!』 などのアン・リー監督が映画化。どう猛なトラと一緒に救命ボートで大海原を漂流することになった16歳の少年のサバイバルを描く。
インド・ポンディシェリに住む少年パイは、父親が経営する動物園で、動物と触れあいながら育った。パイが16歳になったとき、両親はカナダに移住することを決め、動物たちも一緒に貨物船で出航する。
ところが、太平洋を航行中嵐に遭い、船が難破。一人生き残ったパイが命からがら乗り込んだ救命ボートには、シマウマ、ハイエナ、オランウータン、ベンガルトラが乗っていた。ほどなくシマウマ、ハイエナ、オランウータンは死んでしまい、ボートには腹をすかせたトラだけが残った。
トラと共存するため、いろいろ知恵を絞るパイだが、しだいにトラと運命共同体の体をなしてゆく。
どのようにトラと共存する方法を考え、いかにして227日間という漂流生活を送ることができたのか、映画を観てのお楽しみ。
子供の頃、漂流記ものが大好きで、「ロビンソン漂流記」や「家族ロビンソン」などの本をよく読んだ。でもこの原作「パイの物語」のことは、この映画を見るまで全然知らなかった。実際の漂流例を参考にして、作り出された物語だという。それにしてもトラと一緒に227日も漂流するという物語を考え出した作家の発想がすごい。
CGを駆使しているそうだが、本物のトラと漂流しているようで、これがCGとはわからないくらいよくできていた。トラのモデルは何匹もいたそう。インドと台湾で撮影したとのこと。
クジラが出てきたり、飛魚の大群も出てくる。もちろんサメも。
とてもスケールの大きい作品だった。
アン・リー監督作品は、一作目の『推手』から観ているが、今やすっかりハリウッドの監督になってしまったなと思う。最近ではウッドストックを描いた作品も撮っているし、ほんとにいろいろなジャンルの作品を撮っているなとも思う。かつて、「一番好きな監督は?」と聞かれたらアン・リーと答えていた時代があった。でもアン・リーの作品で一番好きなのは最初の3部作『推手』『ウェディング・バンケット』『恋人たちの食卓』。もう一度原点に戻った作品を観てみたい。
なおシネマジャーナルでは28号(1994年発行)で、『ウェディング・バンケット』公開時、スタッフでトークを行っている。その記事は下記で読むことができる。
http://www.cinemajournal.net/bn/28/talk.html#02
配給:20世紀フォックス映画 3D作品
★1月25日(金) TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
公式 HP >> http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/
監督:ケン・スコット
脚本:ケン・スコット、マルタン・プティ
製作:アンドレ・ルーロー
出演:パトリック・ユアール(ダビッド・ウォズニアック)、アントワーヌ・ベルトラン(ダビッドの弁護士)、ジュリー・ルブレトン(ヴァレリー)
ダビッドは42歳独身。警察官のヴァレリーが恋人だが、家族で経営する精肉店の配達係で借金とりに追われる毎日。結婚は遠い。ある日弁護士がやってきて、ダビッドには遺伝子上の子どもが533人いて、そのうち142人が父親の身元開示を求めて訴訟を起こす予定だと知らされる。身に覚えが・・・あった。若いときにアルバイト感覚で精子提供を693回行っていたのだ。身元を明かすつもりはないダビッドが友人の弁護士に相談すると、子どもの資料を手渡された。一枚抜き取って見ると、なんとひいきのサッカーチームのスター選手だった。「自分の息子だったのか・・・」それまでなかった感情がダビッドにわいてくる。
カナダの小さな町が舞台です。いくら優秀な精子だからといって、狭い地域でそんなに使ってしまっては、後で問題がおきてしまうんじゃないの?と心配になりました。昔々友和&百恵でヒットした「赤い~」シリーズ、遺伝子上の兄妹と知らずに恋してしまうというあれですが、この作品はそういう深刻な方向へは行きませんでした。成長した「息子・娘」たちがみんな幸せで問題ないわけではなく、ダビッドがそれとなく近づいては何かと役に立ってしまうというほのぼのストーリーとなっています。子沢山の弁護士やダビッドの家族たちがまたいい味を出していて、悪意のひとかけらもない幸せな作品です。ダビッドが使った「スターバックス」という仮名は、カフェでなくカナダの優秀な種牛の名前だそうです。(白)
2011年/カナダ/カラー/110分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
配給:クロックワークス=コムストック・グループ
©2011 PCF STARBUCK LE FILM INC.
公式 HP >> http://jinseibravo.com/
監督:及川善弘
脚本:大城貞俊、
撮影:前田米造
音楽:山谷知明
主題歌:Civilian Skunk「ひまわり」
出演:長塚京三(山城良太)、須賀健太(石嶺琉一)、能年玲奈(城間加奈)、福田沙紀(石川聡子)
鈴木裕樹(儀間和樹)ほか
2004年8月13日、訓練中のアメリカ軍大型ヘリが沖縄国際大学に墜落した。事故を孫の琉一とともに目撃した山城良太は、決して忘れることのできないあの日を思い出す。1959年、沖縄県石川市(現うるま市)宮森小学校の生徒だった良太は、友だちと楽しい日々をすごしていた。6月30日、米軍ジェット機が学校に墜落するまでは・・・。ちょうどミルク給食の時間で教室にいた良太たちは、民家をなぎたおして学校に向かってくるジェット機の存在など知る由もなかった。良太は生き残るが、仲良しの腕白な一平、同級生の広子ら友だちが何人も死んでしまった。
52年後の今、良太は娘家族と静かな老後を過ごしている。沖縄国際大学生となった琉一は大学のゼミで宮森小事件の調査を始めた。良太に当時のようすを尋ねても頑なに口を開かず、祖父の抱える傷の大きさを琉一はいまさらながら理解する。
第2次大戦では唯一米軍が上陸した激戦地となり、戦後はアメリカが統治、基地とともに問題も抱えてしまった沖縄。本土の防波堤とされた沖縄にこういう事件があったことを知っている人がどれだけいるでしょう。宮森小事件のころは私も小学生、ニュースを見たかもしれませんが記憶がありません。当事者の口の重さは、それだけ傷が深いことを示しています。今もなお基地と暮らさねばならない沖縄の今とこれからを考えて、と観客をゆさぶる作品でした。
12月14日の完成披露試写会で登壇したスタッフ、出演者のコメントを紹介します。
及川監督:映画に関わるまでこの宮森小事件を知らなかったのですが、この映画を作ることで沖縄の方々に会い、沖縄の痛みを感じました。基地の問題をみなさんの問題として考えていただければと思います。
長塚京三:短い撮影期間でしたが、事故のあった小学校を訪ねたり、お話を伺ったりしました。人や風景、音楽にふれてじわじわと沖縄の人になれたかな、と思います。多くの人にこの映画を広めてください。
須賀健太:この作品のお話をいただくまで、事故があったことも知りませんでした。とても勉強になりましたし、僕のような世代にこのことを伝えていけたらと思いました。
福田沙紀:小学校の先生役でしたが、休憩時間も子どもたちからいろんな質問をされて、本当の先生と生徒のようでした。この映画では若い人たちがいろいろな形で一つのことに取り組んでいくところに共感できます。
主題歌「ひまわり」を歌う沖縄のバンドCivilian Skunkのメンバーも「沖縄に住む僕たちがしっかりとこの事件や問題を見つめていくことが大事」と挨拶しました。全国で100万人動員をめざしているというこの作品、たくさんの方に観ていただきたいものです。
(白)[写真:(暁)]
現在、日本にある米軍基地の75%が沖縄にあるそうです。そんな中、沖縄県民の猛反対にも関わらず沖縄にオスプレイが配備され、低空飛行訓練が頻繁に行われるようになって、墜落事故が心配されています。
そんな時期に公開されるこの作品は、実際に起こった2件の米軍機墜落事件を元に製作され、基地問題を問いかけるタイムリーな作品です。
2つの墜落事件のうち、2004年8月13日、沖縄国際大学に米軍大型輸送ヘリが墜落した事件は知っていたけど、1959年6月30日、米軍ジェット戦闘機が石川市(現うるま市)へ墜落した事件のことは知らなかった。住民6名、学童11名の尊い命を一瞬に奪い、重軽傷者210名という大惨事になったという、この事件のことを知らせてくれたということだけでも、この作品の意味はある。このことは決して忘れてはならないと思う。
12月には『ラブ沖縄@辺野古・高江・普天間』という、基地撤廃運動を続ける沖縄の人たちを追ったドキュメンタリーも公開されるなど、基地問題は、本土の人も、もっと考えなくてはいけない課題。
その『ラブ沖縄@辺野古・高江・普天間』が、今、アンコール上映されています。
1/12(土)~2/1(土) 毎日 16:40~ ポレポレ東中野 http://www.mmjp.or.jp/pole2/
*土・日は藤本/影山監督も劇場に来場されるそうです。
皆さん、こちらにもぜひ足を運んでみてください。(暁)
2012年/日本/カラー/110分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:映画センター全国連絡会議、ゴーゴービジュアル企画
公式 HP >> http://www.ggvp.net/himawari/
監督・脚本・編集:ドロタ・ケンジェジャフスカ(『木洩れ日の家で』)
製作・撮影監督・編集:アルトゥル・ラインハルト(『木洩れ日の家で』『トリスタンとイゾルデ』)
共同製作:丹羽高史、ズビグニェフ・クラ、チャレク・リソフスキ
出演:オレグ・ルィバ、エウゲヌィ・ルィバ、アフメド・サルダロフ
ポーランドと国境を接するロシアの貧しい村。身寄りのない10歳のヴァーシャと6歳の弟ペチャは、友達のリャパと3人で鉄道の駅舎で物乞いや盗みをしながら暮らしている。列車を眺めながら、外国に行けばここよりいい暮らしが出来ると憧れる日々。ある日、3人は国境を越える決意をする。貨物列車に乗り込み、国境手前で降りた3人は高圧電流の流れる鉄条網を潜り抜けてポーランドの田舎町にたどり着く・・・
ポーランドが世界に誇る女性監督の一人であるドロタ・ケンジェジャフスカの『木洩れ日の家で』に次ぐ4年ぶりの作品。美しい映像とうらはらに、あまりにやるせない少年たちの運命。なぜこんな目に・・・。無邪気なペチャの笑顔に、きっといつか幸せを手にすることができると信じるしかない。最後に流れるロシアの人気歌手アルカディ・セヴェルヌィ(1939~1980年)の歌う「鶴は翔んでゆく」がすがすがしい。なにがあっても希望は捨てないで!と言われたような気がする。(咲)
2010年/ポーランド・日本合作/カラー/35mm/ドルビーデジタル/118分
第61回ベルリン国際映画祭 ジェネレーション部門グランプリ
配給:パイオニア映画シネマデスク
公式 HP >> http://www.pioniwa.com/ashitanosora/
監督・脚本:パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
出演:コジモ・レーガ、サルヴァトーレ・ストリアーノ、ジョヴァンニ・アルクーリ、アントニオ・フラスカ、ファン・ダリオ・ボネッティ、ヴィンチェンツォ・ガッロ、ロザリオ・マイオラナ
舞台で繰り広げられるシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」が終演を迎え、挨拶する全キャストに惜しみない拍手が送られる。観客が帰り、照明が消え、俳優たちが引き上げていく。ここは、イタリア、ローマ郊外にあるレビッビア刑務所内の劇場。演じていたのは、重警備棟の囚人たちだ。本作は、毎年行われている受刑者たちによる演劇実習に密着した半ドキュメンタリータッチの作品。監督のタヴィアーニ兄弟は、友人から芝居を観て数年ぶりに涙を流したと聞かされ、刑務所の劇場に赴き、彼らもまたその芝居に揺り動かされて映画化を決意。製作は、イタリアの女性プロデューサーのパイオニアであるグラツィア・ヴォルピが務めている。
上演の6ヶ月前に行われる出演者のオーディション光景が実に面白い。氏名、誕生日、出生地、父親の名前を二通りの言い方で言わせる。一つは、国境で奥さんに泣いて別れを惜しみながら悲しみを込めて。もう一つは、強制的に言わせられて怒りをあらわに。出身地の方言を使っての表現が、実に迫力があって本物の俳優顔負けである。実際、出所後にプロの俳優となって、戻ってきて上演に参加している者もいる。組織犯罪や麻薬売買で長期刑や殺人で終身刑の男たちと思うと凄みを感じてしまうが、彼らとて、人間には変わりない。配役が決まり、所内のあちこちで稽古が繰り返される。それぞれの役に成りきっていく姿に、人間の可能性の素晴らしさを感じさせられた。(咲)
2012年/イタリア/白黒&カラー/76分/ヴィスタ
2012年第62回ベルリン国際映画祭金熊賞<グランプリ>受賞
2013年第85回アカデミー外国語映画賞イタリア代表作品
配給:スターサンズ
公式 HP >> http://heinonakano-c.com/
監督:ロドリコ・ガルシア
脚本:ガブリエラ・プレコップ、ジョン・バンヴィル、グレン・クローズ
撮影:マイケル・マクドノー
衣装:ピエール=イヴ・ゲロー
出演:グレン・クローズ(アルバート・ノッブス)、ジャネット・マクティア(ヒューバート・ペイジ)、ミア・ワシコウスカ(ヘレン・ドウス)、アーロン・ジョンソン(ジョー・マキンズ)、ブレンダン・グリーソン(ホランド医師)、ポーリーン・コリンズ(ベイカー夫人/モリソンズホテルの女主人)
19世紀のアイルランド。女性が結婚せずに自立するには、男性として生きなければならなかった。人付き合いを避け生活する内気な執事のアルバートは、長年、重大な秘密を隠してきた。
アルバートは貧しく孤独な生活から逃れるため、10代の時から男性として生きてきた女性だった。
そんなある日、ハンサムなペンキ屋のヒューバートがアルバートの働くホテルにやってくる。アルバートは彼に影響され、アルバートは自ら築き上げてきた偽りの人生を崩したいと思うようになる・・・。
公開が待たれた作品。2011年の東京国際映画祭で大評判だった。
切ない映画だが、ホテルのみんなから「ミスター・アルバート」と呼ばれ、泊り客からも信頼の厚く、もらった給料も小銭のチップも床下に大切そうにしまい、本当に嬉しそうにお金の束を眺めていた。
だが、この人の老後はどうなるのだろう、ずっとそのまま男性でいけるだろうか、はたして伴侶に求める「性」はどちらなんだ?と・・・他人事ながら心配になった。
結末は観てのお楽しみだ。「けっして後味は悪くない」とだけ、お教えしよう。
※2011年の東京国際映画祭で最優秀主演女優賞を獲得したグレン・クローズはもちろんのことだが、ヘレン役のミア・ワシコウスカの演技にも注目してほしい。パンフレットを読むと、映画化を、長年願っていたのは主演のグレン・クローズさんご本人。
(美)
2011年の東京国際映画祭での上映を見逃したのだが、評判が良くて是非観たいと思っていた作品。映画祭では『アルバート・ノッブス』の原題で上映され、ピンとこなかったが、『アルバート氏の人生』という公開タイトルは絶妙。男として生きなくてはならなかった時代を感じさせてくれる。控えめな紳士を演じたグレン・クローズも素晴らしかったが、“ハンサムな”塗装職人ヒューバートを演じたジャネット・マクティアの迫力に圧倒された。アルバートとヒューバートの二人が、ふりふりのドレスを身にまとって出かける場面がある。いかにも男性が女装しましたというぎこちなさが見事だった。独身の女性が男として生きていかなければならないほど厳しかった時代があったことに、呑気に独身生活をおくっている自分の幸せを噛みしめた。(咲)
2011年/アイルランド/カラー/113分/シネスコ
配給:トランスフォーマー
公式 HP >> http://albert-movie.com/
監督:モンテ・ヘルマン
製作:ロジャー・コーマン
原作・脚本:チャールズ・ウィルフォード
出演:ウォーレン・オーツ、ハリー・ディーン・スタントン、ローリー・バード、トロイ・ドナヒュー
闘鶏トレーナーの中年男フランクは、ライバルのジャックとの私的な賭け試合で絶対勝つと自信たっぷりに宣言するも大負けする。悔しさのあまり自分の鶏が全国チャンピオンになるまで一切口をきかないと誓いをたてる。フランクは若い恋人ドディとトレーラーに載せたモバイルホームで暮らしながら各地の闘鶏試合に挑戦するが、さらに負け込み、トレーラーも恋人も宿敵ジャックに取られてしまう。フランクは再起を賭けて、最強の鶏“白い稲妻”を手に入れるため、弟夫婦の家を勝手に売り払う。さて、白い稲妻はチャンピオンになれるのだろうか・・・
低予算B級映画の帝王ロジャー・コーマンが製作した数多くの作品の中で、たった2本しかない赤字作品の1本と聞いて、俄然興味を持った。血生臭い闘鶏はちょっといやだなと思いながら、観てみたら、これがなかなか面白い! ウォーレン・オーツ演じる“勝つまで口を聞かない”中年男フランクがなんとも魅力的。男は黙って・・・に限る!
闘鶏という斬新なテーマに大ヒット間違いなしと製作したものの、闘鶏の盛んなジョージア州での公開も惨敗。製作費を回収するべく、ロジャー・コーマンは別の作品の場面を入れて再編集も試みたそうだ。1974年に製作された本作、39年の時を経て、35mmニュープリントでの日本初公開。
闘鶏に命を賭けるフランクには、実は婚約を交わしたメアリー・エリザベスという幼馴染の女性がいる。生まれ故郷の町で再会するも、一向に結婚しようとしないフランクに対する彼女の駆け引きが、これまた楽しい。(咲)
1974年/アメリカ/ 84分/ヴィスタサイズ/35mm/カラー
提供:キングレコード 配給:boid
公式 HP >> http://www.cock-f.com/
監督:クリスティアン・ペッツォルト
脚本:クリスティアン・ペッツォルト
撮影:ハンス・フロム
音楽:シュテファン・ヴィル
出演:ニーナ・ホス(バルバラ)、ロナルト・ツェアフェルト(アンドレ)、ライナー・ポック(シュルツ)、
1980年、東ドイツ。女医バルバラは西側への移住を希望したが、はねつけられ田舎町の病院に左遷された。そこでも日常を秘密警察に監視されている。
そんな彼女には西側で暮らす恋人がいて、密かに逢瀬を重ねていたが、同僚の医師アンドレと仕事上の付き合いをするうちに、次第に離れがたい感情がわいてくるのだった。
(美)
2012年/ドイツ/カラー/ビスタサイズ/105分
配給:アルバトロス・フィルム
公式 HP >> http://www.barbara.jp/
監督・脚本:ヤヌス・メッツ
撮影:ラース・スクリー
出演:デンマークの若い兵士たち メス、ダニエル、ラスムス、キム、小隊長ラスムス
アフガニスタン南部ヘルマンド州。アルマジロ基地は、NATOが統率する国際治安支援部隊(ISAF)の一つでイギリス軍とデンマーク軍が駐留している。本作は、国際平和活動(PSO)という名の下に派兵されたデンマークの若い兵士たちに7ヶ月密着撮影したドキュメンタリー。
出発前、女性たちと羽目をはずし、平和なデンマークでの日常に別れを告げる兵士たち。「なぜ行くの?」と心配する家族に、「サッカーと同じ。試合に出れば色々学べる。チャレンジだよ」と語る若者。前線基地での任務は、敵であるタリバンの動きを探る偵察活動である。何も起こらない毎日に、「早く実戦がしたい」「何か実績をあげないと国に帰って恥ずかしい」とうずうずする兵士たち。民族服の地元の男たちが皆、タリバンに見えてしまう。そんな中で、村の女の子が自分の誤った指示で撃ち殺されてしまい落ち込む兵士。だが、いよいよタリバンとの交戦となると、本領発揮と銃を向ける。
タリバンと平和維持軍とのはざまで、何も言えず怯えながら暮らす村の人々。家族皆のための日々のミルクを供給していた牛を殺され、嘆く老人の目がうつろだ。
制服の兵士がいる限り、平和は訪れないことをずっしりと感じさせられた。監督の狙いもそこにあるのだろう。平和な世界に生きる人々に、「国際平和活動」が決して美談でないことを突き付けているのだ。それにしても、どうして、男ってこうも好戦的なのだろう。自分の使命は、アフガニスタンに平和をもたらすことのはずなのに・・・ ほんとに悲しい。(咲)
デンマーク/2010/デンマーク語、英語/カラー/HD/105分
配給・宣伝:アップリンク
公式 HP >> http://www.uplink.co.jp/armadillo/
製作・監督・脚本:ツイ・ハーク
アクション監督:ユエン・ブン:
撮影:チョイ・スンファイ
美術:イー・チュンマン
音楽:ウー・ワイラップ
出演:ジェット・リー(ジャオ)、ジョウ・シュン(リン)、チェン・クン(ユー/フォン)、グイ・ルンメイ(チャン)、リー・ユーチュン(グー)、メイヴィス・ファン(スー)、ルイス・ファン()、ゴードン・リュウ()
(特別出演)シェン・チェン、リュー・チャーフィー
権力者による弾圧や不正が横行する明の時代。官女のスーが身重の身体で都を抜け出し、諜報機関の“西廠”に追われているところを女侠客のリンに救われる。“西廠”の督主、冷酷非情な宦官ユーは皇帝の子を身ごもっているスーの命を狙っていたのだ。一方、孤高の義士ジャオは船上のユーと一線交えて辛くも脱出する。
辺境の砂漠では、60年に一度の砂嵐が財宝の眠る古代都市を出現させると噂があった。砂漠にぽつんと建つ宿屋「龍門」には財宝を狙う盗賊集団が待ち構え、 “西廠”の先遣隊、剣客や情報屋らが次々と集まってくる。
デビュー30周年を迎えたジェット・リー、ファン待望の武侠アクション。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地風雲』以来、ツイ・ハーク監督とのコンビ復活は14年ぶり。過剰なまでのアクション、元気な香港映画再び!とファンには嬉しい作品。ワイヤーアクションが3D効果で飛び出しまくり。モノが飛んでくると思わずよけようと身体が動いてしまって、一人照れてしまいました。3D監修に『アバター』のチャック・コミスキー。
今年50代になるジェット・リーの美しいアクションに、二役のチェン・クン。ジョウ・シュン、グイ・ルンメイ、リー・ユーチュンら凛々しい女性軍も必見です。『少林寺三十六房』のリュー・チャーフィーが特別出演。この撮影の後なのか、「転倒して車椅子生活」という記事を読み、回復を切に祈る次第。(白)
2011年/中国/カラー/121分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
配給:ショウゲート
©2011Bona Entertainment Company
公式 HP >> http://dragongate-movie.jp/
監督・脚本:ライアン・ジョンソン
撮影:スティーヴ・イェドリン
プロダクションデザイン:エド・ヴァリュー
音楽:ネイサン・ジョンソン
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット(ヤング・ジョー)、ブルース・ウィリス(オールド・ジョー)、エミリー・ブラント(サラ)、ノア・セガン(キッド・ブルー)、パイパー・ペラーボ(スージー)、ジェフ・ダニエルズ(エイブ)
近未来のアメリカ。人の身体にはマイクロチップが埋め込まれ、開発されたタイムマシンは使用禁止となり、犯罪組織のみが暗殺のために使用していた。彼らは暗殺したい人物を30年前に転送し、ルーパーと呼ばれる暗殺人に殺させていた。ルーパーは時間通り決まった場所に現れるターゲットを無表情に始末し、報酬の金塊を組織に届けている。失敗したときは自分が組織に始末されるリスクがあったが、すご腕のジョーは一度たりとも失敗したことはなかった。30年後の自分がターゲットとして現れるまでは・・・。
「ジョセフ・ゴードン=レヴィットが30年後にブルース・ウィリスになるの~!?」などと異議は唱えず、今まで類のなかったタイムトラベルの物語を楽しみましょう。二人が同一人物であると見えるように、ジョセフのほうが特殊メイクを施し、表情や声の出し方など工夫しているようです。ライアン・ジョンソン監督とジョセフは『BRICK ブリック』(2005年)以来の合作。早くからジョセフを主役に脚本を作り、10年を経て映画化されました。製作総指揮にもジョセフの名が並んでいます。時間をかけた甲斐のある出来上がりです。
自分が確かめようもない未来を扱った映画は、地球が滅亡しかかっていたり、世界は荒廃して犯罪が蔓延していたりで、あんまり明るくないのが多いですね。これも背景はそうなのですが、ラブロマンスの側面もちゃんとあります。後半登場する子役の目力に驚き!(白)
2012年/アメリカ/カラー/118分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
配給:ギャガ、ポニーキャニオン
© 2012 LOOPER DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
公式 HP >> http://looper.gaga.ne.jp/
監督:ジェシー・テレロ
脚本:L・フィリップ・カシアス
撮影:イゴール・マルティノヴィッチ
音楽:スタンリー・クラーク
出演:カーティス・“50 Cent”・ジャクソン(ジョナス、通称マロ)、ロバート・デ・ニーロ(サルコーネ)、フォレスト・ウィテカー(ラルー)、マルコム・グッドウィン(A.D.)、ライアン・オナン(ルーカス)
ストリートギャングだったマロことジョナスは更正し、亡き父と同じニューヨーク市警(NYPD)の警官になった。新人はそれぞれベテラン警官とコンビを組み、指導を受けることになっていた。彼らが目の当たりにしたのは、正義とは程遠い汚れきった警察の内部。ジョナスは父の元相棒だったサルコーネに目をかけられるが、サルコーネは金と女とドラッグで新人警官を飼いならしていく極悪刑事だった。
カーティス・“50 Cent”・ジャクソンが製作・主演を努めるクライム・アクション。05年のデビュー作『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』(ジム・シェリダン監督)は、壮絶な生い立ちからヒップホップのスターとなるまでを描いた自身の自伝的映画であり、本人のままそこにいるという感じでしたが、これまでに何本もの出演を経て、俳優の顔になってきたようです。毎回ベテランの俳優陣に囲まれて育てられてきたのでしょう。本作ではオスカー俳優のロバート・デ・ニーロ、フォレスト・ウィテカーががっちりと支えています。(白)
2011年/アメリカ/カラー/96分/
配給・宣伝:日活
©2011 GEORGIA FILM FUND THREE, LLC
公式 HP >> http://freelancer-movie.com/
監督:マサイアス・ヘイニー
脚本:ジェームズ・モラン、ルーカス・ローチ
撮影:ダニエル・ブロンクス
プロダクションデザイン:マシュー・バトン
出演:ハリー・トレッダウェイ(アンディ)、ラスムス・ハーディカー(テリー)、アラン・フォード(祖父レイ)、オナー・ブラックマン(ペギー)、ミシェル・ライアン(いとこのケティ)
アンディとテリー兄弟が敬愛するレイお爺ちゃんの住む老人ホームが、長い不況の影響で閉鎖されることになった。なんとかしたいが二人にはお金がない。考えた挙句、お金のあるところから回してもらおうと、銀行強盗をすることにした(おいおい)。穴だらけの計画にポンコツ自動車で出発するが、しっかり者のいとこのケティが仲間になって少し光が見えてくる。しかし同じころ、老人ホームにはゾンビの集団が近づいていた!建設現場で掘り当てたあやしい洞窟が古い墓場だったのだ。眠りを醒まされた死者たちがあふれて、ロンドンの街は阿鼻叫喚の地獄となる。
原題の「COCKNEY」はロンドンのイーストエンドの人たちをさすようです。日本でいえば「生粋の江戸っ子」みたいなものでしょうか。人々の気質や使われる言葉が独特なのでしょう。情にもろくて、そそっかしくて喧嘩っ早い江戸っ子と通じるところがあります。イギリスのゾンビ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』が好きな人には特におすすめ。ゾンビとの血みどろの戦いはあるものの笑えるコメディです。
老人ホームのお爺ちゃんお婆ちゃんは、知る人ぞ知るベテラン俳優さんたち。祖父のガールフレンドのお婆ちゃんは、『007 ゴールドフィンガー』(1964年)のボンドガールとして人気の高いオナー・ブラックマン。(白)
2012年/イギリス/カラー/88分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:彩プロ
©Bishop Rock Films Limited / Cockneys vs Zombies Limited 2012
公式 HP >> http://londonzombie.ayapro.ne.jp/
監督:新城卓
企画・原作:石原慎太郎(文藝春秋「生死刻々」所収)
脚本:水口マイク、新城卓
撮影:岩淵弘
音楽:寺嶋民哉
出演:勝野洋(松村雄大)、前田亜季(加納純子)、矢柴俊博(滝本道夫)、田中伸一(大前進)、ゴリ(カッちゃん)、二木てるみ(春子先生)、左とん平(トミさん)、渋谷天外(紙問屋番頭)、津川雅彦(住職)
青木ヶ原樹海のそばでペンションを経営する松村雄大(勝野洋)は、樹海の捜索ボランティアで、自殺した幽霊にとりつかれてしまう。
どうも幽霊(矢柴俊博)は彼に頼みごとがあるようだ。これも不思議な縁と感じた松村は、警察関係の友人の助けを借りて、幽霊のために一肌脱ぐが・・・。
この作品は元都知事・石原慎太郎氏の原作・企画。
題名からして、もっと怖い不気味な作品とおもいきや「純愛+現代の風潮」が描かれていた。
幽霊や亡くなった方の魂にとりつかれる方は、あまり恐がらない人で親切な方に多いそうだ。そんな役どころを勝野洋が丁寧に演じていた。
脚本に難しい言葉が使われていないので映画慣れしていない方にもわかりやすい。
それに名脇役ぞろい!!!(3本も打っちゃった)。左とん平、二木てるみ、渋谷天外らがこの作品に重みをあたえていた。突っ込みどころもあるが、私なんか二木てるみさんが出られていただけで、感動してしまった。
(美)
2012年/日本/カラー/ヴィスタサイズ/104分
配給:アークエンタテインメント
公式 HP >> http://aokigahara-movie.jp/
監督:クロード・ガニオン
脚本:クロード・ガニオン
撮影:ミシェル・サン=マルタン
オリジナル音楽:新良幸人
衣装:荒井ゆう子
出演:ガブリエル・アルカン(ピエール)、工藤夕貴(純子)、富田めぐみ(明美)、あったゆういち(健一)、
気功の合宿クラスでカナダのケベックから沖縄に来た元大学教授ピエールは、旅の残りの数日を島でのんびり過ごそうと考えていた。
そんな時、偶然出会った留学経験のある主婦・純子(工藤夕貴)と意気投合する。
翌日、夫に暴力を受けた純子が、ピエールのホテルを突然訪ねて来て、一緒に旅をしたいという・・・。
「男の気持ち」
せっかく沖縄に来てのんびりしたいのに、こんな女につかまってしまい・・・と嘆き半分、アバンチュール半分で旅をするが、後半はまんざらでもない。
「女の気持ち」
暴力夫から逃げ出せない子持ちの私でも、やるときは家出でも浮気でもなんだってやる!今がいいチャンス!優しそうな男だし、英語がさび付いていなくて良かった。
と、思っているのだろうか・・・。
女は可哀相な境遇と思う反面、とっても図々しい面もあって、生身の女っていう感じをとってもうまく出していた。
工藤夕貴のむっちりとした体型とちょっとかすれた声が◎。
この監督さんは普通にどこにでもいる主婦を主人公にしていて、工藤夕貴を美しく撮ろうとは少しも思っていない「あっぱれさ」がよかった。
2012年モントリオール世界映画祭で「世界に開かれた視点賞」と「観客賞」を受賞している。
※「カラカラ」とは沖縄特産の蒸留酒・泡盛を入れる酒器。昔、焼いた時に陶器の破片が入り、酒がなくなると「カラカラ」と音を出すところから名前がついたそうだ。
※沖縄の風景も芭蕉布工房もたくさん見せてくれたが、二人の成り行きに目が奪われてしまった。もう一度じっくり観たいと思う。
(美)
2012年/日本、カナダ/カラー/デジタル/104分
配給:ククルビジョン、ビターズ・エンドbr/>
公式 HP >> http://www.bitters.co.jp/karakara/
監督:武重邦夫、近藤正典
撮影:松根宏隆
音楽:丸山朋文
ナレーター:岩崎聡子
出演:田島征三、黒柳赫、高畑郁子、朝倉摂、正義の娘・倫子
個性的な発想で、戦後の日本画界でユニークな作品を発表した反骨の画家・中村正義の人生を追ったドキュメンタリー。
22歳で日展に初入選を果たすが、画壇の体質に反発し、日展を脱退する若き画家の一生を、彼の娘の中村倫子が生前父が描いた風景画の実際の場所や、交流のあった人を訪ねて辿っていく。
52歳という若さでお亡くなりになったが、その数日前まで全速力で生き切った様子が絵を通して訴えかけてきた。
作風が、彼自身の経験した事柄とリンクするようにガラリと変わるのを目の当たりにして、「描く」ことによって迸った感情が、「絵」に見ることができた。
また、いろんな映画に美術で関わっていた時代もあり、絵画のお好きな方はもちろん、映画好きな方にもオススメ。
※出身が豊橋と聞いて、同じ愛知県なので彼の反骨精神が豊橋の地で育ったと誇りに思った。今は違うが、その当時、愛知県では「上に逆らう」という反骨精神は、特に育ちにくかった県だったと思うからだ。でも景色は山あり川ありで静かで良いところだ。
夫の姓が(私の姓でもあるが)いっぱいあるところで、冠婚葬祭の時しか行かないが、今年2月まである豊橋の企画展に是非行って見たい。
(美)
2012年日本/カラー/102分
監督:デレク・クォック(郭子健)、クレメント・チェン(鄭思傑)
アクション監督:ユン・タク(元徳)
プロデューサー:ラム・カートン(林家棟) 製作総指揮 アンディ・ラウ(劉徳華)
出演:ブルース・リャン(梁小龍)、チェン・クァンタイ(陳観泰)、ロー・マン(羅奔)、チャーリー・チャン(陳 惠敏)、スーザン・ショウ(邵音音)、ウォン・ヤウナム(黄又南)、ジア・シャオチェン(賈曉晨)、ジン・アウヨン(歐陽靖)
プロデューサーはラム・カートン、製作総指揮はアンディ・ラウ
クンフー映画への大オマージュ作品日本上陸!
1970年代、ブルース・リーの登場とともに世界中で一大ブームとなったクンフー映画。香港が世界に誇るアクション・ジャンルとして現在まで数々の作品が製作されてきました。
そして今、この70年代クンフー映画に敬意を込めた1本の作品が登場しました。70年代当時、クンフー映画で活躍していた、御年平均60数歳の「じじい」に差し掛かった懐かしのクンフースターたちがアクションで大活躍する『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』です。
『帰ってきたドラゴン』『カンフーハッスル』のブルース・リャン、『嵐を呼ぶドラゴン』『処刑剣 14BLADES』』のチェン・クァンタイ、『五毒拳』『イップ・マン葉問』のロー・マン、『怒れ!タイガー 必殺空手拳』『ドラゴンロード』のチャーリー・チャンや、作曲家、俳優として活躍する『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』のテディ・ロビンです。テディ・ロビンはこの作品で香港金像奨助演男優賞と音楽賞を受賞しました。そして、この作品で助演女優賞を受賞したスーザン・ショウ(邵音音)。彼女はデレク・クォック監督の前作『野。良犬』でも助演女優賞を受賞しています(第27回香港電影金像奨)。
若手では、『殺人犯』『イップ・マン 序章』のウォン・ヤウナム、『イザベラ』『奪命金』のジア・シャオチェン、歌手として活躍するジン・アウヨンが共演しています。
1970年代に活躍したクンフー映画のスターたちが、再び顔を揃えて大活躍するアクション・コメディ。ぜひご覧ください。
不動産会社の冴えない社員チョン(ウォン・ヤウナム)は都市開発の為、ある辺鄙な村にあるさびれた茶楼(喫茶店)の立ち退き承諾書を取って来るよう命じられていた。その村でチョンは地元のチンピラに絡まれ、闘っている時、通りかかった老人(ブルース・リャン)に助けられる。
その老人に弟子入りしたいと行ったところが、なんと立ち退き承認書を取ってくるように言われた店だった。その茶楼は、ソン(ブルース・リャン)とセン(チェン・クァンタイ)、二人の武術家が経営していた。そこはかつて彼らの師匠ロー(テディ・ロビン)が指導していた武道場「羅新門」だったのだ。
ローはその茶楼の2階で30年もの間、眠り続け、二人は師匠の看病をしていた。しかし、ふとしたきっかけで昏睡状態から目覚めたローは、当初30年の経過が分からず、チェンを昔の生徒と思いこみ、なりゆきからチョンはローの弟子として武術大会目指して特訓をすることになる。
コメディタッチな作品ながら最後は泣ける、かつてのカンフースターたちへオマージュを捧げた作品。
年を取ったとはいえ、ブルース・リャン、チェン・クァンタイたちのアクション、さすがでした。特にブルース・リャンの年齢を感じさせない足技にびっくり。
それにテディ・ロビンのおかしくもチャーミングな演技。小さな身体から早口で連射される言葉の数々。熱いエネルギーを感じます。
第24回(2011年)東京国際映画祭で上映された時は『ギャランツ~シニアドラゴン龍虎激闘/打擂台』というタイトルだったけど、公開タイトルは『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』。これって、ファンの心を掴むタイトルですね。映画祭の時に行けなくて、とても残念に思っていましたが、日本公開されることを知り嬉しいです。
クンフー映画ファンでもない私が観ても、古きよきクンフー映画に捧げる気持ちが溢れていると感じる作品なんだから、クンフー映画ファンが観たら、ほんとに涙ものの作品だと思います。(暁)
2010年/中国(香港) Focus Film Limited/広東語/カラー/ヴィスタサイズ/ドルビー/Blu-ray上映/上映時間96分
★2013年1月5日(土)よりシネマート六本木、シネマート心斎橋にてロードショー!
シネマジャーナルスタッフによる「第30回香港電影金像奨授賞式レポート」は下記に掲載されています。ぜひご覧ください。
http://www.cinemajournal.net/special/2011/hkfa/index.html
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
デジタルシネマ監督:渡部武彦
アクション監督:川原正嗣
音楽:岡崎司
出演:小栗旬(捨之介)、森山未來(天魔王)、早乙女太一(無界屋蘭兵衛)、小池栄子(極楽太夫)、勝地涼(兵庫)、仲里依紗(沙霧)、高田聖子(贋鉄斎)
本能寺の変の8年後。まだ秀吉の力の及ばない関東を跋扈していたのは仮面の男「天魔王」が率いる関東髑髏党。追われていた少女沙霧を助けた捨之介(すてのすけ)は、狸穴二郎衛門(まみあなじろうえもん)とともに、無界屋蘭兵衛(むかいやらんべえ)が営む隠れ里の色町「無界の里」へ向かう。捨之介、蘭兵衛は天魔王とは因縁の間柄であった。追ってきた髑髏党を迎え撃ち、無鉄砲な兵庫、遊女たちも巻き込んでの対決が始まる。
2004年春の公開『髑髏城の七人~アカドクロ』から本作で10作目となったゲキ×シネ。若いキャストを迎え、リニューアルされました。大人気の劇団☆新感線の舞台をチケット争奪戦なしで、ゆったり観ることができます。一方向からの定点撮影ではなく、何台ものカメラを駆使し、カメラならではのアップや引きの映像を一番いい見せ方で編集し、迫真の舞台をより身近に感じさせます。その采配をどうしているのか興味津々。
豪放磊落な捨之介の小栗旬は、着流しの裾を翻し太もも見せての殺陣に色気全開。妖気漂う天魔王の森山未來、汗だくの二人に対し、いかにも涼しい顔で舞うような剣さばきを見せる早乙女太一の蘭兵衛。子どものころからの舞台経験が生きているのでしょう。小池栄子の極楽太夫が華やかさを添え、ハイな勝地涼と劇団のベテラン組が笑いどころを抑えてパワフルで楽しい舞台となっています。
201年/日本/カラー/179分/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ヴィレッヂ=ティ・ジョイ、プレシディオ
公式 HP >> http://dokuro-jo.com/