映画への出演は自分の新たな一面を知ることができて面白いと言いますが、スクリーンに映し出された自分を観て、驚いたこととかありますか?
Pete:初めて自分の歌声を聞いた時と同じだよ。うわぁ、ひどいなぁ〜って。今は2年経って、慣れたけど、最初は慣れなくて。俳優として演じている時は、3割は自分でも7割は自分自身じゃないでしょ。だから「なんでこんななんだ?」って思ったよ。
俳優をやってみてわかったことは?
Pete:演じるのは難しい。次のプロジェクトではもうちょっと進歩したいね。もう一つは、上手く演じるためには、自分をクールにみせようなんて考えては駄目だということ。ちょっとでもそんな考えがあったら、うまくいかない。歌手は習慣的に自分をクールに見せようとする。だからそこを打ち破らないと俳優としてはうまくいかない。ジェームス・リー(李添興)の映画に出演してそのことは学んだ。ジェームスは僕に「これは全くクールじゃない役だから、人気歌手の君にとってはいいと思う」と言うんだ。やってみて、僕もそう思った。自意識があるとできない。それじゃ嘘になる。
歌手とは全然違うんですね。
Pete:うーん、歌手は写真を撮るときは自意識があるけれど、歌を歌っているときは無いよ。格好良く見せようなんて思っていたら、まともに歌えない。
ジェームス・リー監督はどんな演出をするんですか?
Pete:ジェームスはすごく的確に取り仕切る。撮り始める前にすべてが彼の中で決まっている。全く狂いがない。
じゃあ、あなたは言われたとおりにやるんですね。
Pete:そう。役者が自分で考えて広げる空間はとても小さい。だから、彼の映画は特に自分を良く見せようなんてことはできない。自尊心は一切無し。動作ひとつ、表情ひとつとっても、彼は自分でその意味づけをしている。俳優は彼の言うとおりに動かなくてはならない。ジェームス・リーの映画で演じるのが一番難しいよ。
ホー・ユーハン(何宇恆)はどう?
Pete:役者にとっての空間は大きい、その上、大概その場で決める。状況をよく見て、こうしようと決める。
全く違うんですね。
Pete:正反対だよ。ユーハンはセリフでさえその場で変える。とても長いモノローグをだよ、撮影5分前に「やって」って言うんだ。「冗談だろ、どうやって覚えるんだよ!」。でも彼は感情の部分について全くブレがないんだ。俳優に対してジェームスほど的確な指示はしないけれどね。ユーハンはリハーサルが全くない。台本もくれない。撮影3日前にくれるけど、当日になると変えるし。彼は俳優があまりしっかり準備してこない方が好きなんだ。不確かな状態の方がいいから台本を渡さない。現在、ジェームス・リー監督の次回作を準備をしているそうですね。
左からヤスミン・アハマド、ホー・ユーハン、ピート・テオ |
脚本はもうもらっているんですか?
Pete:いやまだ。
自分の役柄はわかっているんですか?
Pete:まだ彼は言ってくれてない。まあ、いい友達だからね。彼の描く人物は創造物なんだ。試作品ともいうかな。リハーサルでは監督と俳優たち、そして基本的な台本がある。そこで俳優が演じてみて「いや、このキャラクターはこんな風には言わない。変えよう」といった具合に、みんなで考えるんだ。
ホー・ユーハンのやり方はウォン・カーワイ(王家衛)に似てますね。
Pete:そうだね。環境を見て、随時変えていく。
彼はウォン・カーワイ作品が好きなんですか?
Pete:いや、それほどでもない。彼が好きなのはホウ・シャオシエン(侯孝賢)。二人は友達なんだよ。ホウ・シャオシエンがとてもユーハンを気に入っていて、一緒に酒を飲んだりしている。
ピート・テオ自身はどんな映画が好きなんだろうかと思って聞くと、「小津!黒沢!」と即答してきた。さらに、
Pete:最近では山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』。もう、これはナンバーワンだね。最初観たとき、3回続けて観たよ。素晴らしい!
ちょっと興奮気味だった。日本のミュージシャンで好きな人はと聞くと、今度は即座に「ワタル タカダ」と返ってきた。これにはこちらが驚いた。なぜなら、高田渡さんとシネジャは多少縁があった。スタッフの一人が高田渡さんと同じアパートに住んでいて、ご近所づきあいをしていた。ドキュメンタリー映画『タカダワタル的』のタナダユキ監督にはインタビューも行っている。そのことをピートに告げた。
Pete:え〜!! 世界は狭い・・・ どうやって彼を知ったかっていうと、ネットサーフをしていて、ワタルさんが歌っているストリーミング・ビデオを見つけたんだ。全然彼のことは知らなかった。でも、観た瞬間、引き込まれてしまった。(フリーズして目を見張るピートの様子がその驚きをよく表していた)実にピュアだった。
『タカダワタル的』は観ましたか?
Pete:観た。DVDを何度も観て、いいなぁ、いいなぁ。でも、もう亡くなっているんだよなって。あの作品は本当に好きなんだ。
彼の最新アルバム「TELEVISION」には高田渡さんの息子である高田漣さんが参加している。今回のライブにも高田漣さんが聞きにきていた。縁はちゃんと繋がって、新たな音楽を生み出している。
結局2時間半近くわたしたちは話をしていた。こんなに長い時間を割いて、わかりやすい言葉を選んで話してくれたピート・テオに心から感謝する。次に彼に会えるのは映画? ライブ? それとも新しいアルバムでだろうか。いずれにしても楽しみに待っていよう。
おわり