監督: ジャック・ネオ、陳佩然、梁智強
キャスト: ジャック・ネオ、シィアン・ユン、リチャード・ラウ、梁智強、向雲
映画本編が始まる前から「拍手を!」「もっと大きく」などなど字幕が出て、 要求のまま拍手する私。これが映画の前奏曲だったりするのだ。あなどれないぞ、 シンガポール映画(これが初体験)。
文福、國彬とテリー、3人の小学生が主人公。成績別のクラス分けで最下位のEM3になる。周りからの蔑視、圧力と戦いつつ成長していく話なのだが、とりまく大人たちも夫々の環境の中で苦労している。現在のシンガポールの話題や問題を織り込みながら、笑わせ、泣かせとてんこ盛りの映画だった。日本でもぜひ公開してほしい。
何も予習しないままティーチ・インを待っていたら、ニコニコと登場した監督は、映画の中で広告代理店勤務のお父さん役だった人。あら、俳優さんだったのね。中華系のシンガポーリアンで、コメディアン歴35年だそうです。若く見えますが、デビューはいつだったのかしら? 監督としては2作目。この作品は公開以来、爆発的にヒットしたのですって。映画の中では英語が苦手と中国語を話していましたが、舞台でのお話は英語でした。以下録音でなく、メモを頼りに書きましたので、違っている個所があったら教えてくださいね。
Q:「乾し肉味のガム」は本当にあるのですか?
A:ありません。シンガポールではチューインガムが禁止されていて、今ないのです。 懐かしいので創作しました。
乾し肉のことを「ちゅーろんがん(猪肉乾かな?)」と言います。「ちゅーろんがん、チューインガム。音が近いでしょ?」中国人はみんな祝いの席であの乾し肉を食べます。
Q:EM3というクラスが出てきましたが、シンガポールの教育システムを簡単に教えてください。学歴信仰は強まっていくのか、それともだんだん変るのでしょうか?
A:学歴尊重は続くでしょう。シンガポールは小さな国です。何事も効率的にしようとします。EM1からEM3とあって、早くから能力別に仕分けしてしまいます。ただ、この映画の成功で、その弊害について論議を呼びました。
Q:この少年達を見て『スタンド・バイ.ミー』を想い起こしました。
A:映画を作る前には知りませんでした。友人が似てるよ、と言うので観てみました。少年達の成長物語という点では似てるかもしれませんが、こちらの方が大人との関わりが多いです。
シンガポールの国民性というのも描かれています。最もよく現れているのが、テリーです。長いものには巻かれろ、という性格です。よく言われてるセリフが「これは貴方のため」です。私も子供のころ、母によくそういわれました(笑)。「親と子」の関係を「政府と国民」の関係にも見せて、お話が2層になっているとも言えます。みんなが笑っているのが、明らかに政府を揶揄しているところだったりしました。たくさん笑って、その後ろにあるメッセージを読み取ってください。
Q:中国語を話す人、英語を話す人、世代の違いなど出てきました。シングリッシュの例を。
A:シンガポールでは中国語、台湾語、広東語、マレー語、英語、 それにシングリッシュと呼ばれるシンガポール独特の英語が使われています。中国人のルーツは中国語にありますが、疎かになって深刻な問題です。今や海外の人が中国語を学びに行っているというのに。政府は必死になってまともな英語を話すようにと言っています。
シングリッシュとは、ストレートで短いです。英語に中国語、それも方言や、マレー語などをミックスしています。とにかく忙しいので、文法も気にせず手短かに話せるように。例えば「XXXXXX(早くて聞き取れず)」、シングリッシュはシンガポール人の共通の言葉であり、アイデンティテイでもあります。
Q:大陸からの労働者が出てきました。社会的弱者を通して社会を描くという構想は?
A:シンガポールに来て、異文化の中で苦労している人たち、そういう人が見下されている現実も出したかったのです。次回作は、イランの映画の権利を買いました(注*参照)ので、マレー半島を舞台にしたものを作る予定です。
Q:子ども達がとても可愛かったですが、どんな風に選んだのですか?
A:シンガポールでは太っていること自体、頭がよくないというイメージです。 あんまり太った子がいないので、テリー役の子が見つからず、結局台湾から連れてきました。賢くない役ですが、演技は賢くなければできません。賢いけど、賢く見えないように(笑)。
もう1本の『Money not enough』の宣伝(監督・脚本)もしつつ、「出口にいるよー」と舞台から降りた監督は、ほんとに出口でせっせとサインや握手に応じていました。うーん、良い人だ。
注* リメイク権を買ったイラン映画は、マジッド・マジディの Children of Heaven 日本公開名 『運動靴と赤い金魚』
http://www.asmik-ace.com/ChildrenOfHeaven/Intro.html