2001/8/28 ホテルオークラ エメラルド・ルームにて
諸事情から急きょ参加することになった今回のイベント。15000円なんて誰が行くのぉ? と思っていたら!……そんな方々が72人もいたんですね、これが。自分の中の彼の位置付けと他の皆さんとのギャップを思い知った瞬間だったりする。ジャンユー、すごい人気者だ! 恐れ入りました。会場にはおしゃれをした女性客(男性は一人しかいなかったような?)でいっぱい。会場は華やかな雰囲気に包まれている。私はひとりで参加したので、きっとファンの熱狂ぶりをぽつんと見つめる観察者になるんだろうなと覚悟をしていたら、ちらほら知り合いの顔が。ジャンユーが本命でない人も出席しているのは恐れ入る。その内の一人からは「いると思った」と言われてしまう。いや、見送るつもりだったんですけど……。でも、その人たちのおかげで寂しくならずにすんだのでした。周りを見ると、みんな知り合い同士らしくいくつかのグループに分かれて和気あいあい。イベントにはスターに会えるだけでなく、知った顔に会うという楽しみもある。
開始時刻の19:00になり、出席者に飲み物が振る舞われる。司会は、上品にした吉村作治という雰囲気のヤン・エンタープライズの鈴木さん。ジャンユーは前の取材が延びて、化粧直しのために19:20会場入りの予定が30分になるとのこと。それまで飲み物を飲んでお待ち下さいという鈴木氏の言に、「ジャンユーが来たら食事どころじゃないよ〜、その前に食べさせて!」と一緒のテーブルにいたみんなから悲鳴があがる。ジャンユーはその日、13社のインタビューを受けたそう。王様のブランチにも出るらしい。取材陣にも大モテだぞ! 何だかすごいことになっている。これで『ザ・ミッション/非情の掟』が香港映画ファン以外の人に関心を持ってもらえればいいな! 今日のゲームの景品はジャンユーのCDだそうだが、これを会場でかけていいかと聞いたら恥ずかしいからと彼に断られたというエピソードも語られた。
19:30を過ぎ、会場のドアが閉められる。みんなカメラを手に、いつドアが開くか、固唾をのんで見つめる中、ドアが動いた。そこに入ってきたのはドア開け係のウエイトレス。視線が自分に集中しているのに驚き、恥ずかしそうに配置についた。「それでは……」とジャンユーの入場を告げる鈴木氏のアナウンス。が、それを上回る大歓声でかき消される。電気が消え、『ザ・ミッション』のテーマ曲が流れる! 会場の盛り上がりはすでに最高潮に達している。「キャー」「かっこいいー」と絶叫に近いファンの声が飛び交う中、スポットライトを浴びてジャンユー登場。「爆裂ツアー」を思わせるアロハシャツにブリーチの入ったジーンズ、エスニック調の片かけカバン、足下はグレーのスニーカーといういでたち。思わず私も「キャー」と声をあげてしまったほど、やはり本物はかっこいい。思っていたよりも背も高く、骨太でがっしりした体格。マイクを握ると二の腕の筋肉が盛り上がる。今年で40歳になるとはとても思えない。
金屏風がバックの壇上に上がったジャンユーはまず「こんばんわー」と日本語で挨拶。もうそれだけで盛り上がる会場。「Hello……(ちょっと広東語で喋り出してから)My……I don't know how to speak Japanese……I hope」と意外に流暢な英語で 話し始めたジャンユーだが、通訳さんから「広東語で言っていいですよ」と言われ広東語に。「(何で英語で話したかというと)今日は朝からずっと10何時間もインタビューを受けたので、通訳のチェンさんも大変疲れているだろうとこれ以上迷惑をかけたくなかったので、なるべく自分の言葉で語ろうとしています。それから、僕はこんなに大勢の人の前に立つのに慣れてないんです。というのも、(宣伝活動をする)歌手と違って仕事が終わるとすぐ家に帰って寝るのが習慣ですから。本当に緊張しています」「ここに来てくれた皆さんに感謝します。それから『ザ・ミッション』を気に入ってくれてどうもありがとう、嬉しいです。それから、こんなにたくさんの日本の友だちと会える機会を設けてくださった配給会社にもお礼を言いたいと思います(会場より盛大な拍手)」ここでヤン・エンタープライズの女性から注釈が。このヘアースタイルは今朝、ヘアドレッサーに整えてもらったものだそうだ。それとアロハシャツは『ザ・ミッション』の中でも着ているもので、ブランドはポール・スミスとのこと。「皆さん気付いてないでしょうけど、この頭はカツラですよ。(場内爆笑)
今朝美容院に行ったら、どんなヘアースタイルがよろしいですかと聞かれたので、起き抜けのような、まだ寝癖が残っているような雰囲気がいいとお願いしました」「こんなにたくさんの人の前に立つのは本当に慣れてないんですが、僕はどちらかというと老け役を演じることが多いから、ここで本来の若い姿を見せてしまうと映画の中での役が信じてもらえなくなるかも」
「今着ているこのシャツは何の服か、誰かわかる人はいませんか?」(何をどう答えていいのかとまどう参加者)「実は服をあんまりもっていなくて、これはその1枚です。撮影にもその映画の宣伝にも役立つというわけです。これは7年前に買ったものなんです。『ザ・ミッション』のロケに行く前に、洋服はなるべく自分で用意しろと監督に言われて、ヤクザだからと真っ黒なスーツを用意したんです。でも、それだけじゃ毎回カタいんじゃないか、イメージチェンジをと思ってこれを持っていったわけです。このシャツは幸運をもたらしてくれるシャツだと思っています。7年間、本当によく貢献してくれました」
ここで乾杯タイム。ジャンユーの音頭で杯をあげた。最初に配られたお酒はすっかり飲み干していたため、慌ててもらう私。「(英語で)日本語では『カンパイ』って言うの? 北京語の『カンペイ』とよく似ているね。OK、カンパイ!」乾杯をした後、ようやく食事タイム。「僕もお腹がすいてるから、みんな一緒に食べようよ」ということでジャンユーも食事を取りに行く。彼に気を取られてファンは食事どころではないのでは……と思っていたが、さしたる混乱はなく、みんな思い思いに皿に料理を盛る。食事および歓談をしていると、会場が急に湧いた。会場のすみっこにいたはずのジャンユーが、いつのまにか、ひとりトークショーのため設けられた壇上のテーブルについてご飯を食べている。当然ファンのカメラが向くが、落ち着いて食事もできずこれはかわいそう。結局すぐ壁ぎわの席に戻り、こちらもホッとした。
ひとしきり時間が過ぎ、次はトークショーへ。インタビュアーは映画評論家の大和晶さん。
大和: 今日は御会いできて光栄です。今朝髪の毛を切ったとうかがいましたけど、ずっと短い髪型でしたよね。作品が多すぎて髪型を変える暇がなかったと聞いてますが、本当でしょうか。
ジャンユー: 以前は映画を撮るたびにヘアースタイルを変えていたんですが、ただ作品が増えるにつれ、その度ごとに髪型を変えるのが物理的に困難になってきて、それで考え直しました。役者というのは外見だけで皆さんに受け入れられることはないと思います。おととしは1年くらい、同じ髪型で同じ格好でいろいろな映画に出ようと。でもそれぞれに演技が違うという点で認められたいなと、坊主頭に近い髪型で通しました。それで自分なりに自信も勇気もつきました。
大和: 『ザ・ミッション』と『ジュリエット・イン・ラブ』と『公元2000』の撮影が同時進行だったそうですが、現場を間違ったり脚本を間違えて持っていったりしたことはないんですか?
ジャンユー: ありません。どうしてかというと、 そのうち2本は脚本がなく、あとの1本はセリフがなかった作品ですから。
大和: 脚本がなかったというのは『ジュリエット・イン・ラブ』と……
ジャンユー: 『ザ・ミッション』と『ジュリエット・イン・ラブ』です。
大和: 『公元2000』はほとんどセリフがなかったんですか?
ジャンユー: 『公元2000』は脚本があった作品ですが、出番は少ないものでした。年をとった役なので、家にいるときはいつも、脚本よりもいかに髪を白くするかにトレーニングばかりしていました。しかし、やっぱり3本同時進行すると頭がおかしくなりますね。
大和: 実は今日のために、昨日、眠い目をこすりながら『公元2000』を見直したんですが、確かに髪の毛白かったです。短いのに白いというのも大変だと思うのですが。
ジャンユー: あれは染めたんじゃなくて、サインに使う白いペンキみたいなもので1本ずつ白くしたんです。 深く線を入れると落とすのが大変ですから、気をつけてちょっとずつやって、メイクするのに片側だけで1時間、両側あわせて2時間かかりました。最初はしわも描いてくれと監督に頼まれたんですが、先ほども言いましたように、あんまりメイクに頼りたくなかったので「任せてください。ある程度はメイクに頼らなくてはいけませんが、あとは演技で勝負します」と監督を強引に納得させたんですよね。それで賞をとりました(笑)
大和: このアロハシャツは自前で『ザ・ミッション』の衣装にしたと先ほどうかがいましたけど、ふつう香港映画では自前なんですか?
ジャンユー: 製作費の少ないのに高級ブランドを用意しなくてはならないときは監督に言われるんです。「自分が持っている服の中でいいものはないですか」と。それで持っていったりするんですが、ただ、今回はブランドというよりもイメージチェンジをしたかったんです。ヤクザは必ずしも黒い衣装に身を固めている必要はなく、いろいろなタイプ人がいると思うんですよね。この映画は製作費が少なく、服を持ってきてくださいと言われたんですけど、黒いスーツとこのシャツの両方をわざと持っていったんですよ。監督はこっちを選ぶしかないことはわかっていましたから。
大和: 映画の中の登場シーンは、このアロハによって非常に●●ですね。(●印不明、スミマセン)
ジャンユー: 最初のシーンだけだったので、映画に貸してもいいと思ったんです。最後までこれを着ていたら銃撃戦で穴だらけになってしまいます(笑)
大和: もしかしたら今日着てこられなかったというわけですね。
ジャンユー: これは7年前に買った服なんですが、ファッションには一種のサイクルがあると思うんです。当時はアロハシャツが非常に流行っていました。しかし、そのうちに誰もアロハのことを言わなくなり、最近また流行ってきたんですね。ですから皆さんにアドバイスしたいのは、古い服はとっておいたほうがいいということです。
大和: いいことを聞きました(笑) この映画の中で、ボスをオフィスで待つ間に5人が丸めた紙くずでサッカーをするシーンが私はすごく好きなんですね。あのシーンはどこでどういうふうに出てきたアイディアなんでしょうか?
ジャンユー: 脚本がないから監督は何も考えていないわけじゃなくて、ストーリーや流れは彼の頭の中にあります。あのシーンは監督のアイディアでした。香港映画は脚本がなくてぶっつけ本番で現場に行って撮影するとよく言われますけど、それは監督ひとりじゃなくて役者やスタッフの意見を生かすのに非常に有効な手段だと思います。欧米でも脚本があっても現場でいろいろ意見を取り入れたりしますが、香港ではその脚本を省いているんです。
大和: ジャンユーさんも暇なとき、紙くずでサッカーをするような経験があったんでしょうか?
ジャンユー: あれは監督が設定したシーンですから、自分だったら何もやることがなくてつまらないときは多分寝てるでしょう。寝るのが大好きですから。
大和: 立ったままでも寝ますか?
ジャンユー: それは無理ですよ…… 少なくとも家に帰ってからですね。
大和: 『ザ・ミッション』では死なないんですが、『公元2000』『ジュリエット・イン・ラブ』『OVER SUMMER』などジャンユーさんは映画の中で死んでしまう役が多いですね。『公元2000』ではアーロンに指示をしながら目を開けて死んでいったり、『OVER SUMMER』では自動販売機の前で息を引き取り、『ジュリエット・イン・ラブ』では本当に犬死になんですけど(会場爆笑)、最後にはちゃんと思いが届くという素晴らしいラストシーンなんですが、そういう死に方の研究はされているんでしょうか?
ジャンユー: 死は誰もが経験することですから、私もそのチャンスが先に何回も与えられている、映画の中で体験できるというのは非常に面白いことだと思っています。自分がその場にたったとき、どういう行動に出るか本当にわからないんです。例えば仏教では、話によると、お坊さんたちが毎日亡くなった人の顔を見て、自分が亡くなるときのための修行を日ごろからしているそうです。僕も映画の中で同じような修行を今していると思います。
大和: 例えば『OVER SUMMER』で自動販売機でジュースを出しながら死んでいきますよね。ああいう死に方をジャンユーさんはどう思われますか? 非常に日常の延長線上に彼の死があるという感じで非常に感動したんですが。
ジャンユー: あの死に方というのは●●な死に方とは思ってないんですけど、私自身、動物が死んでいくとか人間が救急車で運ばれるところを見たことがあります。苦しそうだなと思ったのは完全に息をひきとらない死に方で、あとは撃たれて死んだり刺されて死んだりといろいろあるわけですが、なるべく普通の死に方がいいですね。(またしても●印不明、スミマセン)
大和: 『ザ・ミッション』では男たちの物語なんですが、『OVER SUMMER』や『ジュリエット・イン・ラブ』は繊細な女性への愛を描いてますよね。俳優として演じる場合に、どちらのほうが演じやすいでしょうか?
ジャンユー: 演じやすさというよりも、ロケが始まる前の待ち時間が非常に楽しかったです。『ザ・ミッション』は男だけに囲まれていたんですけれど、男同士の集まりは女同士の集まりと変わりません。お喋りが好きで。今どういうものが流行っているとか、アンソニー・ウォンは自分の家族の悩みを話したり、ジャッキー・ロイとロイ・チョンはいつも筋肉がどうとか、どこのクラブがサービスがいいとか、そういうお喋りばかりしているので、監督に「もうやめなさい」と怒られました。『ジュリエット・イン・ラブ』は、目の前に赤ちゃんと(相手役の)サンドラ・ンしかいない…… 実は彼女とは撮影のときにはほとんど喋らなかったんです。まあ、彼女とはラジオ番組で対談番組をやっていたから、映画のときまであえて喋ろうとは思わなかったんですけど。この2つは非常に雰囲気が違います。
大和: そうですか…… ちょっと短かったようですけど、お時間だということで。ン・ジャンユーさん、ありがとうございました。
この後しばし休憩……の前に、鈴木氏がジャンユーに、CDを流していいか許可を求めた。さかんに拍手をする参加者。椅子の背に手を置いてちょっとうつむきながら、OKを出した(出すしかない)ジャンユー。会場に流れた曲はやけに女性コーラスが印象的なおちゃめな歌だ。タイトルは「愛在今天」で、ロックレコードから出ているコンピレーションアルバム。お願い猫のようなポーズをするジャンユーのジャケットがかわいい。歌唱力は……うーむ、どうなんだろう。会場で聴いただけでは判断しかねます(笑)。
そして参加者が喉から手が出るほどほしいCD争奪ゲーム。香港イベントの定番、ジャンユーとじゃんけんゲームをして勝った人4名にサイン入り「愛在今天」がプレゼントされる。「このCD、プレゼントじゃなくて、ここで売ったらたぶん全員買うね」とみんなで囁きあう。案の定私はすぐに負け、早くもかやの外。羨望の視線を浴びる勝者の4人はジャンユーからCDを手渡ししてもらい、とても嬉しそうだ。拍手をしていると司会者から「それではフランシスさん、退場のお時間となりました。ご挨拶をお願いします」の声。あらかじめ20:45になったら他の予定があるため退場とは聞いていたけど、いったいこんな時間からどこへ行くのかジャンユー。
「バイバイ、さよなら。皆さん、本当に私をサポートしてくださるのなら、ぜひこのヤン・エンタープライズの社長さんにもぜひたくさん映画をかけてくださいとお願いしてください」とジャンユーに壇上にひっぱりだされた社長さんは「フランシス・ンと一緒に映画を作ってまいりますので……」と予想外の大胆発言。『シュリ』『燃ゆる月』パーティーでのアミューズの会長さんのようだ。やっぱり上に立つ人はスケールが大きいなあと、突然の告白に驚きながらも感心した。盛大な拍手に包まれて退場するジャンユー。ちなみに退場するときの音楽も『ザ・ミッション』だ。
会場についてくれたホテルオークラの人たちの視線がちょっぴり痛かったが、とっても楽しいひとときだった。ジャンユーも、こんなに自分が人気者だなんて驚いたのではなかろうか。これがきっかけで来日する機会が増えたり、今回のイベントが彼の励みになってくれると嬉しいな。会場には名残惜しい雰囲気が充満し、みんな今日の感想でも言い合っているのだろうか、いくつも輪ができている。かくいう私も、こともあろうにヤン社長の妹さんをつかまえて、ニコニコ聞いてくれているのをいいことに「どれか1本香港映画を選べと言われたら、私は『ザ・ミッション』を選ぶ!」などと力説。お酒が入っているとはいえ…… これではからみ酒そのもの。私も相当、晩餐会で興奮していたみたいです。後片付けで忙しいのに邪魔をしてしまって…… ああ、穴があったら入りたい。大いなる反省をもって、この「フランシス・ンとの晩餐会」レポートを終わりにしたいと思います。みなさんも、いい男×お酒の組み合わせには十分ご注意を。
※本稿でも、名前だけ書くときには呼びづらいのでジャンユーと表記させてもらいましたが、英語名だとフランシス・ン、広東語の発音だとン・ジャンユー。間違える人はあまりいないと思うけど、同一人物です。念のため。
「シネマ・ジャーナル」バックナンバーにちょっとだけですが ン・ジャンユー&ジャンユー出演作関連記事が載っています。 ご興味のある方はぜひ……
なお、ン・ジャンユー晩餐会&舞台挨拶の模様は、次号シネマ・ジャーナル54号でも別バージョンで掲載する予定です。お楽しみに!