8/29 新宿武蔵野館 21:30〜
舞台挨拶は午後9時半からなのに8時半に劇場に着くと、エレベーターにスムーズに乗れないほどお客さんが集まってきていた。「えー、ジャンユーってこんなに人気あったっけ?」とまずびっくり。ほとんどが落ち着いた大人の女性(でも熱い!)で、男性は1割もいないかな。聞くところによると、整理券は配付開始後1時間ほどでなくなったそうだ。劇場の両側の壁際には立ち見のお客さんもズラリ。しかしお客さんだけでなく、報道陣の数もすごい。香港人俳優ひとりの舞台挨拶なのに(レスリーは除く)、この注目の高さは何なんだと驚いたが、それだけ業界内で、この映画、および彼に対する評価が高いのだろう。
司会は香港カルチャーライターの水田菜穂さん、通訳はキュートな汪さん。「それでは、私が長々と喋っていても仕方ないので、フランシス・ンさん、ン・ジャンユーさんをお呼びしたいと思います。呉鎮宇先生〜!」とジャンユーの登場を告げる水田さんと、拍手するお客さん。しかし、なかなか現れない。歓声がざわざわとしたどよめきに変わる中、『ザ・ミッション』のテーマ曲が流れ出した! それでも会場入りしない。映画にあてはめるなら、スタッフのクレジットロールが最後の1枚に変わるかもというタイミングで、ようやくジャンユーが入ってきた。
さあお待ちかねの主役登場に歓声がとぶ。じらされた分だけ、ファンは熱狂というほかない歓迎ぶり。この日のジャンユーのファッションは、薄ーいグリーンのシャツ(前面にひとすじプリントあり)にカーキ色のズボンに黒の革靴。首にはペンダントをふたつ下げて、左手にはじゅず状のブレスレットをぐるぐる巻いている。思っていたより顔がシャープで、目がぱっちりと大きく、ハンサムである。
「コンバンワー」と元気よくファンに挨拶したジャンユーは、まず少し遅れてしまったことを英語でおわびとともにしゃべりだした。合図の音楽が聞こえなかったらしい。英語が得意なようだ。が、広東語の通訳さんが来ているので広東語で話し始めた。「まず初めに、今晩僕はひとりしか来られなかったことを、みなさんにお詫びしなければなりません。5人の出演者がいますが、みんな忙しく、僕だけヒマなのでひとりで来てしまいました。香港のスタッフや出演者に代わってご挨拶したいと思います。そして、ジョニー・トー監督にも代わって、この映画を応援してくださるみなさんにお礼を言いたいです。この作品は僕にとって特別な作品となり、香港やそれ以外のところでも高い評価を受けていますし、いろいろ賞もとりました。僕も金馬賞の最優秀主演男優賞をもらいましたが、強調しなければならないのは自分ひとりではなく、他の4人も主役ということです。そういう意味では自分がこの賞に選ばれたことは非常に名誉なことだと思っています」「それから……今日は女性が多くてビックリしました。この映画はジャッキー(ロイ)以外はハンサムでないのに不思議だね。香港でも、僕のファンはトラックの運転手とかイレズミした人とか、夏上半身ハダカで街を歩いているような人ばかりだから嬉しいです(会場大拍手)。他の4人を代表して皆さんの拍手に改めて感謝したいと思います」と、他の4人のことをすごく気遣っているのがよくわかる。けっこう気を遣う人だ。
ここで司会の水田さんからの質問タイム。
ー この映画でのジャンユーさんの役どころを教えて下さい。
(それしか言い様がないとでもいうように笑いながら)黒社会の組員です。僕とジャッキーは現役の黒社会の人間で、他の3人は引退した黒社会の組員です。
ー ジョニー・トウ監督とは初めてだったと思いますが、いかがでしたか。
彼の要求は……(劇場後方を見つめて)アンソニー・ウォンに似ている人がいる。アンソニー・ウォンですか? (大ウケするジャンユーと観客)Sorry,sorry…… 監督が僕たち俳優に求めていることは非常に変わっていて、この映画は脚本がなかったんです。監督から大体のストーリーを説明されて、あとはそれぞれの俳優が理解したストーリーに基づいて即興で演じました。まずリハーサルをやるんですが、そこで監督からOKが出れば、生かしたいセリフとかを全部取り入れてもう一度本番に望むというような撮影方法でした。こういう撮り方は監督にとっても初めてだし、自分にとっても初めてでした。
ー この作品で、ここを観て欲しいというシーンはありますか。
全部観て欲しいところだけど、特別なところは僕たち5人がいないときに撮ったレストランのオーナーが殺されるシーンかな。どういうシーンになるか、僕たちは事前に知らなかったので、できあがったものを見て本当にびっくりしました。すばらしいなと思います。
ー 会場から「カワイイー」という声がとんでいますが、意味わかってます?(と意味を説明する)
(おおげさにびっくりして)僕がー? カワイイと思ったことなんて1度もないよ。
だいたいイヤラシイとかずるがしこいとか言われているのに。(素直に)Anyway、多謝。
ー ぜひ日本では、ン・ジャンユーさんを「かわいい」俳優さんとして認識したいと思います(笑) それでは、今後の予定は?
アクション物とかコメディとかいくつか決まっているのはあるけど、他の4人は自分よりずっと忙しいので、もしかしたら僕の今後の予定は『ザ・ミッション』のプロモーションで各地を回ることかもしれないね。
ー わかりました。皆さん、この後彼が『ザ・ミッション』のプロモーションで各地を回るときには必ずついていきましょうね。ツアーを組みましょうか(笑)
この後、花束贈呈。ジャンユーは欧米式にほほにキス(というかほほをくっつける)したので、花束を用意した素早いファンが2、3人、前に来て花束を渡してキスされていたが、ジャンユーは照れて赤くなっておりました。満場の拍手に送られ、ジャンユーは退場。
さて、映画の上映中に15分ほど囲み取材が行われた。プレスだけでなく、後方にはジャンユーに熱い視線を送るファンの姿も。取材前にマネージャーさん(どっしりした若い女性)から手渡されたティッシュで額の汗をぬぐうジャンユー。
ー 公開が決まった感想をお願いします。
配給のヤン・エンタープライズに感謝します。いい映画を作ればこうやって海外でも公開できることがわかって嬉しいです。
ー この映画のストーリーとジャンユーさんの役どころは?
黒社会を皮肉る目で見ている映画です。(役柄は前述)
ー 撮影時の面白いエピソードは?
現場に男が5人いたら、女性が5人いるよりうるさかったよ。ジャッキーとロイは通っているジムの話をよくしました。時々彼らの鍛えた胸を触らせてもらいました。
それと僕がきれいに焼けているので、日焼けサロンやクリームの話もよく聞かれました。アンソニーとはプライベートの話や、彼が最近覚えたカンフーの技を見せてくれたりしました。ラム・シューは役柄上ピーナッツをよく食べていて、おまけに彼は寝ないので、そのせいで口が臭かった。彼を避けていても、向こうは面白がって追いかけてくるんだよ。こんな感じで現場は楽しい雰囲気でした。
ー またこの5人で共演したいですか。
実現するまで内緒にしておこうと思ったけど、来日して受けたインタビューですでに一部の媒体に話してしまったので言います。僕たちはもともと女性の目から見た、女性が求める愛情とは何かというテーマを撮りたかったんです。話していくうちに『ザ・ミッション』の5人がホストになって、彼らを通して女性たちが求めている愛情は何かを描くというアイデアを思いつきました。『ザ・ミッション』ホスト編というところでしょうか。面白いかどうか、90分ものになるかどうかは香港に戻ってから台本を読んだ上で判断したいと思います。(えー、ラム・シューもホストかい?)
ー 日本の俳優で、好きな人、共演したい人はいますか。
役所広司さん、山口智子さん、田中裕子さん。(なかなか渋い趣味ですね)
これにて取材は終了。ジャンユーは汗をいっぱいかいて背中がびしょぬれ。マネージャーさんに手をつながれて帰っていったのでした。私のすぐ横を通ったが、結構背が高かった。178cmぐらいあるかな。気づいた人がいなかったけど、ジャンユーが囲み取材の前に飲んだ紙コップの水がポツンと残されていて、ジャンユー旋風が吹き荒れた2日間の終焉を寂し気に告げていたのでした。