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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『毎日がアルツハイマー2』
関口祐加監督インタビュー

7月19日[土]よりポレポレ東中野にてロードショー 

関口祐加監督プロフィール(企画、製作、監督、撮影、編集)

(『毎日がアルツハイマー2』HPなど参照)

日本で大学卒業後、オーストラリアに渡り在豪29年。2010年1月、母の介護をしようと決意し、帰国。2009年より母との日々の様子を映像に収め、YouTubeに投稿を始める。2012年、それらをまとめたものを長編動画『毎日がアルツハイマー』として発表。現在に至るまで、日本全国で上映会が開催されている。
オーストラリアで天職である映画監督となり、1989年『戦場の女たち』で監督デビュー。ニューギニア戦線を女性の視点から描いたこの作品は、世界中の映画祭で上映され、数々の賞を受賞した。メルボルン国際映画祭ではグランプリを受賞。
その後、アン・リー監督(『ブロークバック・マウンテン』『ライフ・オブ・パイ』他)にコメディのセンスを絶賛され、コメディを意識した作品を目指すようになる。
2011年3月、製作会社 NY GALS FILMSを渋谷昶子監督とともに起ち上げる。


監督作品

1989年『戦場の女たち』(英題:SENSO DAUGHTERS)
1992年『When Mrs. Hegarty Comes to Japan』(日本未公開)
2007年『THE ダイエット!』(原題:FAT CHANCE)
2012年『毎日がアルツハイマー』
2014年1月『毎日がアルツハイマー2〜関口監督、イギリスへ行く編』

『毎日がアルツハイマー2』作品紹介

母、宏子さんに認知症の症状が現れ始め、娘の関口監督は29年住んだオーストラリアから帰国。母は閉じこもりになっていた。数日前に誕生日を祝ってもらったことも忘れ、入浴を嫌がる。でも、認知症発症後は喜怒哀楽がハッキリして、あけすけな性格になった母はチャーミング。自分のやりたいことをやり、本能のまま生きる母と監督の日々の暮らしを描いたのが前作『毎日がアルツハイマー』。

『毎日がアルツハイマー2』は?
宏子さんの認知症はセカンドステージになり、閉じこもり生活に変化が。デイ・サービスに通えるようになり、嫌がっていた入浴をし、外出もする。その姿は幸せそう。しかし、調子が悪い日は、相変わらず一日中ベッドの上。
そんな母との生活の中で、「パーソン・センタード・ケア(PCC=認知症の本人を尊重するケア)」に出合った関口監督は、最先端の認知症ケアを学ぶため、PCC発祥の地、イギリスへ。認知症の人を中心に考え、人柄、人生、心理状態を探り、一人ひとりに適切なケアを導き出す「PCC」が教えてくれる認知症ケアとは。

『毎日がアルツハイマー2』公式HP http://www.maiaru2.com/


(c)2014NY GALS FILMS



関口祐加監督インタビュー

2014年5月27日

*『毎日がアルツハイマー2』について

  『毎日がアルツハイマー』=『毎アル』

監督:前作『毎日がアルツハイマー』で、年老いた認知症の母親をさらけ出すのはどうなんだという批判がいっぱいありました。でも私は母が年を取ることも、認知症になっていることも、ちっとも恥ずかしいと思っていない。『毎アル』は、アルツハイマーの認識を変えていく革命を起こすんだという意識がありました。認知症ってどういう病気なの? それを知りたいという思いがあり、『毎アル2』では、パーソン・センタード・ケアを学びにイギリスまで行きました。日本にはPCCの概念は10年程前から入っているけれど、本場と同じように実践しているのかどうか分かりませんでした。
 『毎アル2』は、『毎アル』を観てくれた人が、お母さんのその後は? あのイケメン介護士とはどうなりましたか?(笑)っていう要望があったんです。観客の要望から映画を作ることはしたことがなかったのでチャレンジでした。今回は、観てくれた人の希望に答えつつ、監督としてどういう風にストーリーの展開を紡ごうかと苦しみ、編集に6ヶ月もかかりました。


*母との関係

監督:母は、自分が主演していることは認識しています。時々忘れるけれど、観ると「おおっ!」と言って、当たるといいねって。借金があるし、介護費もかかるからと正直に話す。そういうことを言い合える関係になったんですね。それまでは距離があり、避けている関係でした。母には私のことは理解できないと思っていたのに、母が認知症になって非常にいい関係になった。妹は斟酌なく母に反抗したので、嫌われてしまい介護が出来ない。でも妹は賢く、自分の娘をよこします。介護ってそういうことなんだと思いますね。認知症になるといろいろなことが削げ落ちて本性が出てくる。本音で生きるようになると子供でも相性が悪いものは悪いんですよ。
 私がオーストラリアから帰国した時、母は「天の采配」と言ったんです(笑)。『THE ダイエット!』の時に、母は台所のシーンで「帰ってくるのを熱望している」と言ったのですが、こういう風に答える形になるとは夢にも思わなかった。私、猪突猛進だから、こうだって思ったらすぐやっちゃう。ある意味では、今、私が母と一緒にいるということは、29年間好きなことをさせてもらった恩返しと親孝行をしているのでしょうね。


*何事にも理由がある

監督:上映会の質疑応答で「徘徊して困る」と言われた時は、「どうして徘徊すると思う?」と、必ず徘徊の理由を聞きます。そうすると「そう言えば主人は人生で一番良かった時代の家に帰ろうとします」と、答えてくれる。それを、厚労省は「今の家が一番いい」なんていうんですから。もうひとつの徘徊の理由は「私から逃げたいんだと思います」(笑)。そういうことを知りたい。困っていることのルーツが何かわからないと問題は解決しないですよね。
 すべては、言われている人間の問題なんです。記憶は残らないけれど感情は残る。すべての行動には理由があるんです。その理由をみつけられるかどうかで、認知症の介護がつらくなるかどうかのわかれ道になります。つらい介護になっているのにも、全部理由があるんです。


*認知症は初期がつらい

監督:認知症の人にとって初期はつらい。なぜかというと、まだらボケ状態で自分ができなくなっていることが認識できるからなんですね。
 『毎アル2』の母はそれが終わってセカンドステージになり、恥ずかしいと思っている自分が終わった。だから外に出られるようになったんだと思うんです。認知症の早期発見はいいとして、初期に薬をガンガン飲ませて、運動をさせることは、人によっては、一番辛い時期に長くいろということ。母にとっては、認知症が進行して、世界が広がったんです。初期で苦しんでいた母よりも、今の母の方が本人にとってはいいじゃないですか。
 今、『毎アル3』を撮っていますが、大きな課題は、母の命を私が預からなくてはならないという重い責任ですね。初期の問題はハウツーだけ。どうやって医者や介護保険に繋げるか。でもセカンドステージの母の命を預かる私は、どういう風に母をこれから見守ればいいのか、その手立てが日本にはなかったんですね。
 ところで私、6月に手術をするので初めて4週間母と離れますがオプションが少ない。今ショートステイに入れたら廃人になって帰ってくる。これってどんな介護?って思います。結局昼間デイケアがあって泊りができるお泊りデイケアサービスにしたんですが、そうしたら、私が払う介護費はひと月に10万円越える。これじゃやっていけない。今後、全共闘世代に認知症の介護が必要になってくる。800万人認知症時代どうするの? 角材振り回して闘う?(笑)


*パーソン・センタード・ケアへの期待

監督:私の理想はとにかくPCCのプロが育ってほしい。日本の介護は家族への押し付け。でも認知症の介護というのは高度な技術が必要なんです。PCCのコンセプトを考えたのは心理学者の故トム・キットウッド教授です。イギリスの認知症ケア・アカデミーではPCCを教えているというので行ってきました。母の最終ステージのケアのあり方をPCC発祥の地であるイギリスで勉強して、転ばぬ先の杖にしようと思いました。
 私の中ではPCCは唯一無二な認知症の介護の方法なんですね。

*虐待を闇から出したい

監督:『毎アル』は、アルツハイマーを大きな闇から出してきて、皆でオープンに語ろうということでしたけれど、『毎アル2』はPCCのことを紹介しつつ、人はなぜ虐待をするのかという話ことを話したい。虐待は殴ることだけでなく言葉の暴力もあります。できないことにイライラして虐待をしてしまう。今回は、虐待を闇からひっぱり出したい。それは、子育て中の親子関係も同じですよね。認知症を語っていますが、実はユニバーサル。PCCが出来れば、介護を受けている人の心の安定が得られるんですね。できなければ心の安定は得られない。


*『毎アル3』はどういうコンセプト?

監督:認知症は現在進行形です。最終章に向っていく母の状況をしっかり撮っていこう。私が手術をして、母と4週間離れている間、私の息子もオーストラリアから帰ってきて、母にとって相性の良い、妹の娘と二人が面倒を見るんです。その様子を撮るということ。
 『毎アル3』で言いたいのは、家族ではなく、介護のプロに頑張ってほしい。家族は難しい。PCC専門のプロが育ってほしい。PCCは日本では難しいかなと思いつつ、プロが育っていかないと、これから認知症800万人と言われている時に、厚労省は「家で、家で」と。何を言っているんだと思いますね。この映画と一緒に、そういうことを語っていければいいなと思います。


関口祐加監督

シネマジャーナル91号掲載記事を転載しています)


インタビューを終えて

私はデイケアサービスやリハビリ施設なども含めた、リハビリ機器を扱う会社に勤めていたので、「介護は一人で背負わない。家族だけで背負わない」ということは、耳にたこができるぐらい聞かされてきたけど、世間ではまだまだ介護は家族が担うものという社会的通念に縛られている。この『毎日がアルツハイマー』映画2本が公開されることで、人々のアルツハイマーへの考え方がもっとオープンになったり、介護に携わっている家族の考え方が変わっていけばと思う。
アルツハイマー800万人時代に備えて、「パーソン・センタード・ケア」の概念だけでな く、実践が日本でもぜひ広がればと思います。(取材・写真:宮崎 暁美)


*7月19日(土)よりポレポレ東中野ほかにて公開。以降全国順次公開。
上映時間:12:30、13:40(平日のみ)、16:50
14:40からは『毎日がアルツハマー』(93分)のアンコール上映もあり
また、ポレポレ東中野では土日祝にケアを巡るトークイベントも
問い合わせ シグロ=03-5343-3101(平日のみ)


シネマジャーナルでは、『戦場の女たち』と『毎日がアルツハイマー』でも、関口監督にインタビューしています。それらの記事は下記参照

『戦場の女たち』シネマジャーナル12号掲載(1989.08掲載)
http://www.cinemajournal.net/bn/12/senjo.html

『毎日がアルツハイマー』2012.6.20
http://www.cinemajournal.net/special/2012/maiaru/

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