1月20日(火)、有楽町朝日ホールにて、『重力ピエロ』の完成披露試写会が開かれ、上映後には森淳一監督、脚本家の相沢知子さんと出演者の加瀬亮、岡田将生、小日向文世、吉高由里子の皆さんによる舞台挨拶が行われました。
原作は伊坂幸太郎氏の大ベストセラー作品。映画化が続く伊坂作品ですが、中でもファンの多いこの作品の映画化は非常に注目をあびています。この日はマスコミの他に、一部抽選で当選した一般のお客さんもいましたが、大変な応募数だったそうです。来場したマスコミ関係者も多く、満席で立ち見が出るほどでした。司会は伊藤さとりさん。
この作品は相沢さんが原作を愛してやまなかったからこそ映画化にこぎ着けることができたと知ったのですが、それだけ好きな本を脚本にするにあたって、特に大切にしたのはどういった点ですか?
相沢: 伊坂幸太郎さんの小説というのは、わたしは物語の骨格よりも、作品が持つ軽やかな空気感が大切だと思っていて、それは伊坂さんの独特なあの文体から生まれるものなのだと思います。それで初めて小説を読んで「わっ、好きだ!」と思って始めてみたものの、いざそれを映像化するとなると、あの軽やかさをどうやって表現したらいいのかが凄く難しくて、大変なものにトライしてしまったと思いました。その空気感を損なわないようにするにはどうしたらいいかを、監督と一番話し合いながら作りました。
印象的な言葉の多い作品で、特にお父さんのセリフは印象的でしたが、言葉についても随分と考えられたんですか?
相沢: そうですね、原作の中でキラキラ光っているセリフと、自分が伝えたいものとが上手くなじむように流れを作っていくのに凄く気を遣いました。
森監督は、映画としては『ランドリー』以来、7年ぶりの作品ですが、今回は人気の伊坂作品を映像化するにあたって、どのようなビジョン、こだわりをお持ちでしたか?
森: 映像化するのに一番大切なのはキャストとスタッフ選びだと、ぼくは思うんですね。キャストとスタッフさえ揃えば映画はできると思っているので、1年くらいかけて優秀な一流の人たちを集めました。それが一番のこだわりですね。
たしかにキャストが絶妙なコラボレーションだったと思うのですが、このキャストだからなしえた空気感というのは現場で監督はどのように感じていらっしゃいましたか?
森: 最初は兄弟のシーンから始まったんですが、男兄弟というのはそうだと思うんですが、なんか微妙な距離感があるんですよね。それで兄弟になっているのか、ぼくは最初よくわからなかったんです。ところが、そこにお父さんが入ってきた瞬間にパッと家族としてまとまって、そうすると2人が兄弟としてできあがっていた、というのがとても面白かったですね。
お兄さん役の加瀬亮さんは、森監督と一緒にお仕事をしてみたかったとおっしゃっていましたが、今回は伊坂幸太郎さん原作の物語で、初めて物語を読んでみたときの率直な感想はどんなものでしたか?
加瀬: エンターテインメント性と内容の深さとが不思議なバランスで成り立っている脚本だなと思ったんですが、監督の今までの作品を考えると、これは面白い作品になるなという直感はありました。
弟役の岡田さん、お父さん役の小日向さんと共演してみて、どんな感想をもちましたか?
加瀬: ぼくが主人公みたいに書かれているんですけれども、脚本を読んだときにぼくは弟とお父さんがこの物語の中心だなと思って、ほとんど2人に寄っかかるようにして今回は過ごしていました。
岡田さん、加瀬さんから今、このようなコメントが出ましたけれども、加瀬さん、小日向さんと共演して色々と刺激を受けたんではないですか?
岡田: 毎回、毎回、どのシーンも勉強させていただきました。・・・ も、もっとですか? 嘘じゃないです、本当に(会場笑)
色々と教えてもらうことが多かったんですか?
岡田: 一緒に芝居ができるということだけで、勉強になるんで。ほんとです。(妙におどおどしていて、会場笑)
岡田さんはこの作品に出演が決まる前から小説を読んでいたんですよね。その作品に自分が出ると決まったときはどう思われたんですか?
岡田: ぼくも原作が凄く好きだったんで、原作のあるものが映画化されると、すごいがっかりするじゃないですか。(会場大笑) ぼくも読んでいるときにこれ映画化されたらいやだなと思っていたんですけど、ぼく(が弟役)になっちゃったんで、自分で壊すか・・・(会場爆笑) ごめんなさいって思いながらも、でも一生懸命にやりました。
演じるにあたって、どんなところを意識されましたか?
岡田: それがいまだによくわからないというか、つかみどころのない役だったんで、悩んで・・・死にそうでした。
吉高さんは、今回、ご覧になった皆さんもびっくりされたかと思いますが、夏子さんという役を演じていらっしゃいますが、演技の面で意識した点はありますか?
吉高: いくら外見を変えても夏子さんは変わらない、自信が無くてオドオドした感じを作っていましたね。
森監督とのお仕事はどうでしたか?
吉高: 森さんは結構ストイックな方だと思うんですけど、ピリピリしたものを一切出さなくて、ほんわかと包んでくれる、優しいけど締まっているという感じでしたね。凄いワンカット、ワンカットにこだわっています。
家族のムードメイカーであり、とても素敵な言葉をはくお父さんでしたが、小日向さんがこの役を演じるにあたって大切にしたことは何でしたか?
小日向: 息子役の加瀬君と岡田君とぼくの3人が親子であるというのを、どうやったらセリフも含めてリアリティを持たせられるんだろうと考えました。やっぱりそれは現場で岡田君、加瀬君と心が通じ合うのが一番だと思ったんで、2人の目を見て、伝わるかなと思いながらやってました。でも2人ともすごく返してくれるんで、ぼくは実際に息子が2人いるんですが、重ね合わせて見ることができたというか、成長した息子2人を目の前にしている感じでした。伊坂さんの世界が本当に素晴らしくて、ぼくはこの父親役をやらせてもらえて本当に幸せでした。
あと、ご覧になるとわかると思うのですが、子どもたちが幼いときにぼくは若返らなければいけないんです。いろんな微妙に形を変えたヅラをかぶって、結構それにこだわっていたというか。(会場大笑) 監督も何度もテストでヅラが本当にリアルに見えるかって。いや、要するに見るからにヅラをかぶってるって見えたら、そこでしらけちゃうじゃないですか。そのことが本当に気になっていて。55歳が若い時をやっているって見えないように、手術用のテープでしわを引っ張ったんですね。そしたら、あぁ、いけるじゃないかって。映画ができあがるまで心配だったんですけど、京香さんと出会う二人のシーンを観て「若いな俺!」って。いやぁ、随分とヅラには助けられましたね。(会場大笑)
脚本の相沢さんに質問です。原作は最初の1行で読者を掴み、あれを映像化するのはものすごく大変なことだと思います。そういったことを含めて、原作を映画化するにあたり、4年間のどこかに突破口があったのではないかと思うのですが、それはどこでしたか?
相沢: 最初は迷ったりしたのですが、森監督と一緒に作業を始めたときに、原作も映画も回想形式で進むのですが、一度1から年代順に、時系列通りの脚本を作ってみようじゃないかというチャレンジがありました。その作業が実は一番大変だったと思うのですが、長い時間をかけて作ったんですね。結果、他の方の意見も、自分たちでもこれは空気感が違ってしまうということになって、原作と同じ形式に戻したのですが、そうやって家族の歴史を一度追って、次のステップに行くときに何かが見えた気がしました。
大ベストセラーの映画化で、原作のファンも多いと思いますが、役を演じるにあたって、原作にはないような、ひと味加えたようなことはありましたか?
加瀬: ぼくは撮影に入る前に原作を読んでいません。今まで、原作のある映画に出させてもらって、原作に対する自分の勝手な解釈が邪魔になることが多かったので、今回は読まずにやりました。
司会:岡田さんは原作は読んでいらして、ファンのイメージを壊さないように気をつけたところとかありましたか?
岡田: ぼくは左利きにしました。
司会:原作が好きだとそのイメージにとらわれてしまいそうですが、どう克服しましたか?
岡田: まあ原作を読んだのがだいぶん前だったので、脚本をすごい読み込みました。
司会:吉高さんはいかがでしたか?
吉高: わたしは皆さんの持つ夏子さんのイメージを壊してしまったんではないかと思うのですけど。凄く不安で、夏子さんの謎だなっていう雰囲気を出すために、監督と現場で話し合って、一緒に作っていきました。
司会:具体的にはどんな話をしたんですか?
森: 挙動不審な感じをどう表現しようかと、ちょっとコミカルに見えるかも知れませんが、まじめに語り合って作りあげました。まじめにやってます。(答えにつまった吉高さんを監督がフォロー。まじめにを強調する監督に会場笑)
司会:ありがとうございます。小日向さんいかがでしょうか。
小日向: ぼくは原作を読んでいなかったんですけど、とにかく2人の息子が子どもの時に、正直どれだけ若返られるかが、ほんとにねぇ、ヅラが気になって。(会場爆笑) ずっと鏡観てました。
司会:小日向さん、そのまま行くと今回のこの見出しがヅラになっちゃいそうな気がしますけど。
小日向: そうですね。ヅラっていうとダメですよねぇ。んとぉ〜、、、メイク・・・?
司会:ありがとうございました(笑)
「本当に深刻なことは、陽気に伝えられるべきなんだよ」という劇中の言葉に象徴されるように、重苦しいテーマをはらみながらも軽やかで、日常的な風景の中でさらりと流れていくのだけれど、その裏側にある心の葛藤を思うと胸が痛くなる、原作の世界観が丁寧に映像化されていると思います。わたしはすでに原作を読んでいたので、謎解きのドキドキを感じることはできなかったのですが、生身の人間が演じることによって生まれる情感、特に父子3人の醸し出す空気が良くて、満足することができました。
是非、原作のファンの方も、まだ読んでいない方もご覧になってみてください。
★4月25日(土)より宮城先行ロードショー
★5月23日(土)よりシネカノン有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
配給:アスミック・エース