この作品の脚本を書かれることになったのは?
今までアニメを中心にやっていまして、そのご縁で片岡プロデューサーから声をかけていただきました。スケジュールがタイトだったのでちょっと考えていたんです。でも片岡さんから「主演の小西遼生くんがイケメンの役でなく、芝居をしっかりできるような土壌・受け皿を作りたい」と伺いました。それはすごく素敵なことだと賛同しまして、じゃあお手伝いできることがあればと。 小西くんに会ってから決めてもいいんじゃないか、ということで舞台を見せてもらいました。先に原作を読んでいましたので、自分がなんとなく思い描いていたこともあり、この人だったら絶対面白いものができるんじゃないかという直感もありました。舞台の後、引き合わせていただいたときには、もう決めていました。
原作のある場合、できるだけ生かしていくか、大きく脚色していくかがあると思いますが。この作品は?
そのときどきですね。尺とその題材とエッセンスが届く形で、変えるべきものは変えるし、変えないほうが良ければ、殆ど見ている人はそのままじゃない、って思うくらいかもしれないです。
この作品では最初に「ほんっとに台詞少ないですけど、いいですか?」って言いました(笑)。監督と役者さんに多くを委ねるってことだと思うんですけれども、投げっ放しといえば投げっ放しかもしれない(笑)。
委ねてできた結果、映画をご覧になってどうですか?
すごく素敵な映画になったなぁと思います。監督さんと初めてでしたので… 何度もやっている方なら違う形もあったんでしょうけど… わからないので、「ト書き」をすごくいっぱい書きました。もう心情から何から。なのでもしかしたら失礼なホンかも。そこまで書かなくてもわかるってことかも知れないんですけど。何しろボールを投げる相手が見えなかったので、書き込んでしまいまして。
それで小西くんが難しく考え込んでしまうことになってしまいました。すっと思いのままに演じていいのに、ここにこう書いてあるから、と混乱させてしまって難しいホンだったかもしれません。
映画が成り立っていくのには、いろいろな場所でそれぞれが取捨選択していきますよね。
そうですね。
小西くんが電話をかけてきまして、「ここの、この台詞はどういう気持ちなんだろう?」って、早く寝ればいいものを(笑)。「早く寝なさい」と言った2時間後くらいにまたかけてきて、「今度はこっちの意味が…」。すごく緊張していろいろぐるぐる考えてしまったみたいです。
小西くんはすごく真面目な方なんですね。
テニミュ(編集部注:ミュージカル「テニスの王子様」)の子たちはみんなそうですね。みんな真摯に仕事に向き合っているというか。
小西くんなり役者さんたちがそれぞれ自分の取捨選択をして…監督もそうですし…それがうまく転がっていったような気がします。
シナリオはお一人で書かれるんですか?
まずは自分で書ききって、2回3回とディスカッションをします。今回は実写なのでアニメよりいろんな制約がありますので、書いたものを台詞や現場の事情を反映して、いろいろ変更しました。尺もゆったりしたものにしたかった、というのがまずありましたので、描きすぎた分を落とし、落としたことで見えにくくなったところを補っていくという感じです。
クランクインまで時間がなかったそうですが。
脚本もぎりぎりだったんですよ(笑)。(ここで脚本の実物を見せていただく。表紙は作中の花と同じ鮮やかな黄色)ほんとは黄色の花でなく紫色のショカツサイの予定でした。
黄色の花は目に入りやすいですね。ショカツサイの花も綺麗ですが、花が咲いている期間は短いですね。
それですごく慌てて書いていたんです(笑)。原作もショカツサイなんですよ。でも(黄色のキンケイギクは)監督の英断だなぁと思って。季節もずれ込んでしまったし、CGでも描ききれないということで変えようということになったんです。
原作は、映子とユウスケの両方の視点で書かれています。どっちかというとユウスケ寄り。映画は逆に映子視点に変えさせてもらいました。
ユウスケが一歩踏み出すっていうのは拾っているんですけど、悶々と悩むとか吐露するとかそういうところはなるべく抑えて、俯瞰で相対しているような話にしました。存在が映子になにかをもたらす、っていう映子視点で進みたかったんです。
3本のうちこの作品だけにヒロインがいますね。『新宿区歌舞伎町保育園』のほうは男の子ばっかりでストーリーも全く違うテイストなんですね。
女の子も入れ込もうと思ったんですけど、男の子たちの日常のなんでもない会話とかを積んでいるうちにそんなヒマがなくなっちゃって(笑)。歌舞伎町のほうはスケジュールを多目にいただいていたのに、台詞がすごく多いこともあって苦労しました。
男女の書き分けで、女性の方が書きやすいとか、逆に大変だとかありますか?
それはあまりないですね。若い男の子の生態なんかは、その年齢のお友達に聞いて拾ったり、こういう考え方するんだなぁと参考にしたりすることもあります。書いているうちに自分がちょっとミックスされますね。男性でも自分の共感できる部分が入ってくると、もう自分になっちゃったり。コンビニの店員の妄想部分はアニメの影響が強いですね(笑)。
ユウスケが一歩踏み出すのは朝の電車ですが、夜の場面がほとんどです。私の仕事場のマンション1Fにファミリーマートがあるんです。夜中に行くと中国人の女の子がやっぱりいます。夜遅くなった帰り道ご飯食べたいなと思うと、開いてるのが牛丼やさんで、若い男の子が皿洗いザブザブやっている。そういうのジーンと来ちゃうんです。なんか一所懸命生きてるなぁって。そういう匂いを入れたくて。
たまたま25歳の中国人の友達がいたので、「中国人の女の子をこういうふうに描きたいんだけど、これってリアルかな?」とか、「スパッと言うような女の子にしたいんだけど、どうかな?」とか聞いてみました。「言いたいことは言う、一本筋が通ってる」って答えでした。馬場君(コンビニ店員役)も自分の観ている風景だったりしています。
ただ本線はユウスケと映子の花ゲリラなのでなかなかたくさんは入れられません。削った部分もあります。馬場君のシーンではお母さんとアパートに住んでいて、スニーカーの紐かなんか結びながら、「行ってきますは?」って言われて「行ってきます」みたいな、日常のあってもなくてもいいようなシーンもあったんです。
ああ、そういうことありますね。
永山くん(映子の元カレ。サラリーマン)もビデオを夜中に惰性で借りに行って、一回観たのをまた借りちゃう(笑)。くたびれてるのに、淋しいからついビデオ借りて帰ろうみたいな、なんでもない積み重ねがあって、最後張り詰めていたのが切れて泣いてしまうとか。それはストーリーに影響ないので、そういうのが切られているんですけど、俳優さんはその分短いシーンで全部を演じなくてはいけないから、すごく大変だなぁと思います。
ここが気に入っているというシーンは?
原作にもありますが、映子が2度目にユウスケに会うシーン、いっぱいト書きを書いたところなんです。ユウスケが線路にたたずんでいるのがすごく綺麗だったなぁ。
1月24日より公開される『花ゲリラ』の脚本を担当された池田眞美子さんに、インタビューの機会をいただきました。シナリオ学校を卒業して以来、アニメ脚本のお仕事が続いた池田さんの実写作品です。私には初の女性脚本家さんインタビューです。快活でてきぱきと答えてくださる池田さん、30分があっというまに過ぎました。
『花ゲリラ』川野浩司監督インタビューもご覧下さい。