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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『築城せよ!』

古波津陽監督、益田祐美子プロデューサー インタビュー

古波津陽、益田祐美子

 6月20日(土)より新宿ピカデリー他全国公開の『築城せよ!』は、400年前の武将が現代に蘇り段ボールで城を造ってしまうという、奇想天外なストーリーの痛快エンターテインメント。観る前は昨今の城ブームを当て込んだきわもの的な映画を想像したのですが、これがなかなかどうして、社会風刺精神旺盛で、映像的なシュールさやツボを心得た役者の演技に楽しく笑え、かつものを作る熱気にワクワクする作品だったのです。監督は長編映画はこれが初となる古波津陽(こはつ よう)さん。そしてプロデューサーは『風の絨毯』『蘇る玉虫厨子 時空を越えた「技」の継承』の益田祐美子さん。

 古波津監督は、ほぼ独学で自主製作映画を作ってきた方ですが、製作資金を集める方法が知りたくて手に取った本が益田プロデューサーの著書「私、映画のために1億5千万円集めました。―右手にロマン、左手にソロバン! 主婦の映画製作物語」でした。ノウハウを伝授してもらいたいと思って、本人に会いに行ったところが、あれよあれよという間に、監督がすでに短編映画として製作していた『築城せよ。』を長編作品としてリメイクする話が決まってしまったと言います。映画界の既定路線にははまらない2人が出会って、規格外な面白さと熱気をもった映画が生まれました。インタビューはそのいきさつをうかがうところから始まりました。

◆ 築城し終わったと思ったら、もう1回築城してみなさいって

— 益田プロデューサーからリメイクの話を聞いたときはどう思いました?

古波津:やっぱり「えぇ〜っ」て思いましたよ。それまで2、3年越しで、製作して、海外の映画祭(サンフェルナンドヴァレー国際映画祭)に出して、賞もいただいて(最優秀賞外国語映画賞)、DVD配給も終わって、やっと一区切り着いて、さあ次は何やろうかなと思っていたところで、「もう1回築城してみなさい」って言われたんですから。

— リメイクして良かったと思うこともありますよね

古波津:それはもちろんです。途中からもう新作を作る気持ちに切り替わっていましたしね。物作りを中心テーマにすえるであるとか、愛知工業大学(以下、愛工大)と一緒にお城を造るであるとかいった、前作にはなかった要素が沢山入ったので、新作としてフレッシュな気持ちで臨めたんです。同時に1度作ったテーマなので初の長編監督といってもプレッシャーが少なくて良かった。何をやりたいかが、はっきりしていましたから。初の長編映画をプロデューサーの側から提案されたんですから、新人監督にしたらジャパニーズ・ドリーム・カム・トゥルーですよ。これを逃す手はないし、面白くなりそうだと思ったので、スタートしたんです。

— 益田プロデューサーはなぜこの映画に関わろうと決めたのですか?

益田:初めて古波津監督と会ったときに、彼と彼と一緒にきたメンバーの目がキラキラ輝いていたの。それを見て「これは若かりし日のわたしだ〜」って思って。そしてDVDを観せていただいたら、最後まで一気に観られたんですよ。多少不出来な部分はあるとはいえどもね。これはもったいない、脚本を2時間にして、劇場公開作品にしたら今までにない映画ができるという、ひらめきみたいなものがあって、1分で決めました。

古波津陽、益田祐美子  『築城せよ!』バッジ
監督をつい「古波津くん」と呼んでしまい訂正する益田P  『築城せよ!』バッジをつけて見せてくれる監督

古波津:初めて会ったときに、ぼくはDVDも見せずに、ただそういう映画を作ったんですよって言った瞬間に、益田さんは「それ多分面白いから上映しましょうよ」って言ったんです。そしてその場で凱旋上映を決めてくれました。3回目に会ったときはもう凱旋上映。それから何回か凱旋上映をしたんですが、その間に益田さんは愛工大が50周年イベントの企画を探しているというのを見つけてきて、ぼくらの映画の製作とくっつけちゃいました。

益田:それは需要と供給をくっつけたの。監督は新人で長編1本撮らないと男として認められない(笑)。大学はすでに予算があるけれど良い企画がない。映画製作というのは究極のもの作りなんだから、もの作りの大学にはぴったりじゃないですか。みんなで作って、みんなで観て、後世に残る。そして映画は作るときはお金がかかるけれど、維持費がかからないんですよ。意外に皆さん、この点に気づいていないですけれど。だから、うまくすれば息の長いビジネスになるんです。
 今回は大学生と一緒につくりあげるので、監督が大御所でドンとしているよりは、学生と同じ位置にまで降りてこられる古波津監督のような人がよかったということもありました。

古波津:監督という立場を離れると学生とあんまり変わりませんから(笑)。

益田:でも撮影が進むにつれて監督として威風堂々としてきましたよ。彼が凄いのは、CG制作や美術制作といった部分でも、自分が欲しいものがはっきりとわかっていて、お任せではなく細部に至るまで指示できるというところ。

古波津:それは自主製作ではお金がなくて全部自分でやっていたからですよ。ところが劇場映画製作では各プロフェッショナルが待っていてくれて、やりたいことを全部細かく指示できるんです。いくら細かく言っても全部やってくれるんで、面白くなっちゃって(笑)。どこまで大丈夫かな?て、いろんな事言いましたけど、本当に全部やってくれましたね。感動的な初体験でした。

益田:三國連太郎さんが「役者を育てるのは良い作品に出会うこと」とおっしゃっていました。それは職人にも言えて、良い仕事に出会わなければ職人は育たない。監督もしかりで、きちんとした長編劇映画を撮らないと監督として育っていかないと思うのね。この映画は監督、撮影監督、ヒロインと新人の集まりだけれど、彼らが育っていく過程が観られる作品になっていると思います。そして彼らを支えるベテランによるいぶし銀の仕事が光っています。美術の磯見敏裕さんは素晴らしい。

— できあがった城を観たときに、これは凄い、美術は誰かと思わず資料を見ました。

古波津:磯見さんはもの作りの神髄をわかっていらっしゃる方だし、ぼくらの企画の意図も的確に汲んで下さったので、あの城をただ造ればいいというわけではなく、どう造るかに力点を置いて下さったんです。その過程で学生がどれだけ参加するか、そのための回り道を用意し、学生をナビゲートして、最終的には期日までに目的のものを造り上げるといったことを、本当によく考えて下さいました。

◆ 大満足なキャスティングなので褒められると嬉しい

古波津陽  益田祐美子

— キャスティングについてうかがいたいのですが、まず、主演の片岡愛之助さんはどうやって口説いたんですか?

古波津:殿様役は歌舞伎役者さんにお願いしようというのは、ぼくらの中でははじめから決まっていました。芯のある本物の役者さんにお願いしたかった。

益田:この殿様は過去からいきなり蘇って民衆を扇動しなくてはいけないわけ。それだけの影響力を発揮できる、存在感のある役者さんは、そんじょそこらにいませんよ。所作、言葉1つ1つが身に染みついたものでなければ、にじみ出てこないから、どうしても歌舞伎役者さんでなくてはと思っていました。

古波津:着物の裾をさばく所作1つとっても、ぼくの演出できる範囲ではなくて、逆に教えてもらえるくらいの人でないと2時間の映像を持たせられないと思ったんです。

益田:それに過去から蘇った殿様だから違和感があるのね。歌舞伎役者も現代人からみると違和感があるでしょ。そこが狙いだった。

古波津:愛之助さんに初めてお会いしたときに、普通に気さくな会話をしているのに、所作がなんか古典的で美しいんですよ。あぁ、これだ。これが欲しいって思いました。

— すぐに興味を持ってもらえましたか?

古波津:愛之助さんは映画の主演ということにとても積極的でしたし、実はオカルト好きで、UFOとか大好きなんですよ。そういう点でもすんなり入ってもらえました。

『築城せよ!』場面写真 『築城せよ!』場面写真
©2009「築城せよ!」製作委員会

— ヒロインの海老瀬はなさんは、最初の方はあんまりパッとしないのに、後半めざましい変化を見せますよね。あれは演出ですか? それとも本人の実際の成長が映っているのでしょうか?

古波津:それはご本人が変わったのが一番大きいですね。ほぼ順撮りだったので、その変化が出ています。阿藤快さんも「ほんっと、綺麗になったよなぁ」って。本人に面と向かっては言いませんがね。周囲の人たちも、ぼくもその変化は感じました。

— 他の役者さんは芸達者なベテラン揃いですね。希望通りのキャスティングですか?

古波津:色々な提案をいただいて、1人1人の出演作を観て、漫画的なテーマなので漫画的なビジュアルと、そこに生きているリアリティを出せるハイブリッドな役者さんという基準で選びました。凄く満足のいくキャスティングができたので、ぼくとしてはそこを褒められると嬉しいです。

— 江守徹さんとふせえりさんのやりとりなんか傑作でしたけど、あの辺の演出はどうされました?

古波津:もうお任せです(笑)。江守さんには「ここはこのくらいの怒りですから」、ふせさんには「ここは面白いことやって下さい」って言って、それで一発でできちゃうんですから、観ていて面白かった。

— ところで監督はこれまでにドキュメンタリーも撮っていますが、この映画の城造りの部分をドキュメンタリー的に撮るという方法は考えませんでしたか?

古波津:この映画はあくまでもファンタジーなんです。撮影中に現場が現実に盛り上がってきたんですが、ファンタジーとして成り立たせるには微妙なさじ加減が必要で、現実のことのように見せるけれど生々しくしてはいけない。城の構造がどうこうといったところを突っ込むよりは、あくまでも主人公・恩大寺の気持ちがどうなのかを中心に描いていくべきだと思ったので、あまりドキュメンタリー的手法にはこだわりませんでした。ただ、臨場感にはこだわりたかったので、手持ちカメラで動き回って撮ることはしています。

— 本当に段ボールで城を建てようと思ったら、難しいですよね?

古波津:難しいですね。でも、いいところまでいくと思いますよ。撮影では25mの城を絶対に建てなくてはならなかったので、すべて段ボールというわけではありません。しかし愛工大の学生たちが、撮影の前に段ボールだけで4mの城を造る実験をして、これはできそうだということを実証し、ぼくはそれを脚本に反映させました。撮影の後、今度は名古屋市から注文が来て、彼らは5mの段ボール名古屋城を造ったんですよ。とても話題になっています。

『築城せよ!』場面写真 『築城せよ!』場面写真
©2009「築城せよ!」製作委員会

◆ 長編初監督は幸せだったけど、予想外なことも多くて

— 子どもの頃の秘密基地が段ボール城の発想の源だったそうですが、どのようにその発想の種が映画へと成長したんでしょうか?

古波津:子どもの頃から紙工作が好きでした。それと小学生の頃、家のテレビが壊れて観られなかったんです。それで映画館へ行くようになりました。お小遣いを持って電車に乗って池袋の文芸座へ行くんです。小学生にとっては結構な大冒険ですよ。そして680円で1本じゃもったいないから、2本立てを、1、2と観た後にもう1回1本目と合計3本観て帰っていました。そうやって小学生くらいから映画への憧れと、ものを作りたいという意欲がありました。大人が何とかごっこの延長を、職業にして合法的にやっているのが映画だと思ったんですよ。ああいう仕事を将来楽しんでやれたらいいなぁと思って、今に至ります。

— しかし、映画学校へ行ったりはしていないようですが?

古波津:本を読んで勉強していましたね。実は学校も行ったんですが、そこがあまりにももの作りとはかけ離れた場所だったので、辞めてしまったんです。その後、自主製作映画やWEB番組にドキュメンタリーの企画を出して製作するといったことをしてきました。

— 今回初めての長編映画監督をしてみて、いかがでしたか?

古波津:ものすごく幸せです。監督をするということに集中できるので、これまでの自主製作とはぜんぜん違います。アイデアをみんなと話し合って詰めていくという根本的な作業は変わらないので、戸惑うこともない。ただ、規模が大きくなった分、計算できない部分が沢山あったのも確かです。例えば山奥での撮影だったのでスタッフ・キャスト、エキストラの移動だけでも予想以上に時間がかかったり、段ボールの城が雨にさらされたり、細かい点でいっぱい予想外のことがありました。

益田:ほかの映画会社に脚本を見せたときに、これは10億円かかるよと言われたの。それを3分の1に抑えたのね。まず役者のギャラを抑えて、宿泊は愛工大の寮にしてもらった。イランの映画を作ったときに、イランの役者が「役者というのはただ芝居をする者であって特別扱いされるような者ではない」とおっしゃっていたのね。日本は特別扱いしすぎるの。今回は役者も一緒になって映画を作るという意識でないとできなかったから、こちらが出せる条件以上のホテルに泊まる場合、その差額は自己負担でお願いして、それが受け入れられない方はこの映画には合わないと思っていたんですよ。そうしたら全員OKでした。
 撮影途中でスタッフを追加しなくてはいけなくなって、おかげで弁当代も増えて(苦笑)。途中で警察には呼び出されるし。それは城を建てた場所が国定公園で、実は建物を建てちゃいけなかったのよ。始末書書いて、壊して下さいって言われたから翌日壊しました。丁度、最後のシーンの撮影だったから良かった(笑)。

— 監督は今後どんな映画を撮っていきたいですか?

古波津陽

古波津:日本の文化を輸出できるような映画を撮りたいんです。外国人が観て、日本て面白いな、行ってみたいなと思えるような映画。今回は、日本人が田舎のコミュニティで本来持っている暖かい絆や、持ち寄る精神を再現しようとしました。外国の人が観て好きそうなネタを散りばめながらも、それをきちんと昇華して、日本の美しいものを伝えられる映画を作っていきたいです。

取材後記

 斬新なアイデアがあって、なんか面白いことをやってやろうという若いスタッフの情熱と、それを受けとめ支えるベテランが出会うというのは、おもしろい映画が生まれる重要な条件です。監督とプロデューサーのお話を聞きながら、この映画はそんな幸せな出会いがあったのだと感じました。

作品紹介はこちら

『築城せよ!』公式HP

6月20日(土)より新宿ピカデリー他にてロードショー!!

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(取材:景山、梅木、まとめ・写真:梅木)

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