女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

<没後十周年記念・ドキュメンタリー2部作>
マザー・テレサ メモリアル
没後十周年・記念上映会 座談会報告

日時:2007年9月5日(水) マザー・テレサ十周忌命日
場所:東京都写真美術館ホール

第一部:ドキュメンタリー映画『マザー・テレサとその世界』
  (監督:千葉茂樹、上映時間:55分)

第二部:座談会「実践する愛:マザー・テレサの言葉を継ぐ」

第三部:ドキュメンタリー映画『マザー・テレサ:母なるひとの言葉』
  (製作・監督:アン・ペトリ、ジャネット・ペトリ)
   *9月15日公開の2作品のうちの1本     → 作品紹介
千葉茂樹監督、アグネス・チャン、山本雅基

1997年9月5日に天に召されたマザー・テレサ。9月15日より公開される「没後十周年記念・ドキュメンタリー2部作 マザー・テレサ メモリアル」に先駆け、十周忌にあたる日に記念上映会が行われた。マザー・テレサを描いた2本の映画の上映をはさんで、「実践する愛」をテーマに開かれた座談会の模様をお届けする。

【座談会登壇者】
◆アグネス・チャンさん
歌手・教育学博士・日本ユニセフ協会大使
著書「しあわせを見つけるマザー・テレサ 26の愛の言葉」を、主婦と生活社より、2007年8月24日に発刊。


◆千葉茂樹監督
『マザー・テレサとその世界』(1979年)を製作・監督。
撮影を通じ、マザー・テレサご自身に深く接する機会に恵まれた数少ない日本人のひとり。


◆山本雅基さん
マザー・テレサの「死を待つ人々の家」日本版ともいえる、末期の病に侵された身寄りのない人を支えるホスピスケア施設「きぼうのいえ」を東京・山谷地区に設立、施設長として活動を続ける。


司会:伊藤さとりさん

司会:十周年にあたる命日の今日、マザー・テレサにゆかりのある3人の方をお招きしました。まずは、ご挨拶をお願いします。

アグネス・チャン

アグネス:こんばんは。今日はよろしくお願いします。マザーを記念する会に出席できることを光栄に思います。マザーが日本に来たとき、母校の上智大学で講演会が開かれて、私はもう卒業していましたが、若い格好をして聴きにいきました。そのときに聴いた言葉や、去っていくときの背中を、辛いときに思い出して励みにしています。マザーの言葉の中から26の言葉を選んで、今日の日本社会と照らし合わせて、自分の経験を元に本を書きました。もしかして、マザーの本名が私と同じアグネスだから、この話が来たのかと、縁があるように感じています。自分が迷ったとき、どう人に説明していいかわからないとき、マザーの言葉は、暗闇の光、永久への導きとなります。私にとってマザーはエンジェルです。きっと皆さんにとってもエンジェルだと思います。

千葉茂樹

千葉:10年はあっという間。10年前のこの日のことを思い出します。1976年に初めてマザーにお会いしました。映画を作ったのが30年前。10年前、夜中の3時頃、共同通信のニュースで亡くなられたのを知りました。どこへ行けばいいかと思い、足立区にある教会に駆けつけました。祭壇の下には、マザーがよく語っていた"5本の指(5つの単語)"「You did it to me」の言葉が掲げられていました。マザー・テレサの言葉をどのように継ぐかが今日のテーマだと思います。

山本雅基

山本:山谷の「きぼうのいえ」で、32人の病を抱えた人たちと共に寝起きしています。1986年、日航機が墜落したニュースを見ていたときに、一人の男性が婚約者が亡くなったことを実家に電話している場面を見ていて、ふつふつと得もいえぬエネルギーが沸いてきて、地獄の底に蹴落とされた人々と生きようと思いました。その頃、自分は20歳過ぎで、人生に悩みを抱える哲学青年だったのですが、このことが原動力となって、何度かつまづきながら、これまでに50人ほどの人を看取りました。マザーの「あなたの中のカルカッタ(現コルカタ)を探しなさい」という言葉に、山谷を見つけました。

司会:皆さんそれぞれのマザーとの出会いをお聞かせください。

アグネス:テレビなどでキリストの教えを実践している方と知っていました。神様にお金を差し上げたりするのでなく、貧しい中でも一番貧しい方たちに愛を注いだ方。印象に残っているのは、上智大学の女子学生が、「こんなに平和で豊かな日本では、やることがないですよね」と質問したら、「何が豊かか、精神的に飢えている人がいるかもしれない。まずは自分の屋根の下、両親や兄弟を愛することから始めなさい。そうすれば、学校や職場でも人を愛することができるでしょう」とおっしゃいました。退場するとき、背中が丸くて小さいのに偉大で、できるだけマザーに近づきたいと思うようになりました。その頃、少しずつボランティアを始めていたのですが、1985年にエチオピアに行って、飢餓で骨と皮になってバタバタ倒れる人たちを見て人生観が変わりました。日本ユニセフ協会が一緒に活動をしましょうと言って、大使に任命されました。インドのムンバイに行き、スラムにも住めなくて道端で死んでいく人たちを目の当たりにしました。マザーの気持ちがわかるようになってきました。

司会:マザー・テレサは多くの素晴らしい言葉を残されていますが、今日はボードに言葉を用意しました。

マザー・テレサの言葉
 人々は忙しすぎます
 何かに夢中で時間がありません
 互いに微笑みを交わす暇さえないのです
 
 貧困を作り出すのは神ではなく
 私たち人間です
 私たちが、分け合わないからです
 ・・・・(以下省略)
							

司会:千葉監督は実際にお会いになって、心に残る言葉は?

千葉:山ほどあって、一晩あっても足りないくらいです。映画を作った当時、ある日本人が「私はインドに生まれなくてよかった」という感想を寄せました。マザーは、1981年、82年、84年の3回来日されました。強調されたのは、「日本は豊かというけれど、お腹の中の子を中絶している日本が、果たして豊かかな国ですか?」ということでした。

千葉茂樹、アグネス・チャン、山本雅基

司会:山本さんはいかがですか?

山本:日本には昼からアルコールに依存している人たちがいますが、「愛して欲しい」という声にならないメッセージだと受け止めてています。山谷という場所には、物質的貧困とともに、愛されないことの苦しみがあります。「できることをやっていこう、量ではなく質」というマザーの言葉を私の人生に生かしていきたいと思います。

アグネス:ユニセフは、皆さんの助けで成り立っています。インドに行って帰ってきて、皆さんに訴えると、皆さんは応えてくれる。募金もたくさん集まります。1999年から、日本のユニセフの募金の額は世界一です。自分のできる第一歩から実践すればいいと思います。

司会:最後に、「実践してこそ愛」ということを、一言ずつお願いします。

アグネス・チャン、山本雅基

アグネス:マザーが偉大すぎて、まとめられない! 私は歌手ですので、歌って伝えます。
♪できることから、一歩ずつ・・・・

千葉:私は監督ですから、生誕百年に向けて、映画を作ります。マザー・テレサの教会に「我は渇く」という言葉が掲げてあります。渇き・・・日本では、最大の敵は無関心。神の声に耳を傾けることから実践してみたいと思います。

山本:「実践する愛」とは、物理的にアクションを起こさないとダメだと思っていましたが、それは誤解。まずは関心を持つことから始めよう。救われている姿の強いイメージを持つこと、あなたが大事であると思うことが強烈な力になると思います。



この世には、貧しい人たちの為に尽くしている人は大勢いるのに、その中にあって、マザー・テレサがこれほどまでに崇められているのは、なぜだろうか・・・
もちろん、1950年「神の愛の宣教者会」設立以来の功績は膨大なものである。マザー・テレサが象徴的に語られ、それが、ボランティア精神に火をつけるのだろうか。映像で見る彼女の語り口は、実に穏やかで説得力がある。けれども、「中絶がまかり通っている日本が豊かな国か?」という発言には、異論もあることを忘れてはならないと思う。
何はともあれ、自分を愛することに精一杯になりがちな昨今、「人の心の貧困は、飢えよりも深刻」という言葉には、耳を傾けたいと思う。そのことを強く感じさせてくれた座談会だった。

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(取材:景山咲子)
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