女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ヴォイス・オブ・ヘドウィグ』
キャサリン・リントン監督インタビュー

2007年8月21日(火)
渋谷 UPLINKにて 2誌合同


キャサリン・リントン監督

9月22日(土)より、渋谷のライズXほか全国順次公開されるのを機に、キャサリン・リントン監督が緊急来日されると聞き、大慌てで前日に試写を観にいきました。ハーベイ・ミルク・ハイスクールで学ぶ、ゲイやレズビアンの生徒たちが自分を見つけて夢に向かっている様子や、ジョン・キャメロン・ミッチェルやオノ・ヨーコをはじめとするアーティストの人たちの輝いている姿に感銘を受け、是非監督にお話を伺いたいと願ったところ、幸運にもインタビューの時間をいただくことができました。 手振り身振り交えて精力的に語ってくださった様子をお伝えします。


    >>> 作品紹介

—Welcome to Japan!  日本の第1印象は?

監督: 暑いですね! 人が多くて、ニューヨークが村のように感じるわ。渋谷界隈しか知らないけれど、タイムズスクエアの3倍くらいね!

(若い記者の方) ネットでレポートを初めて経験します。

監督:OK アリガトー

◆長年のテレビ番組での経験、そして、4人の生徒との幸運な出会い

—これまで、プロデュースや脚本でゲイやジェンダーと関わっていらっしゃいましたが、きっかけは?

監督:テレビのニュースマガジン 「IN THE LIFE」というレズビアンとゲイのための番組の司会(ホスト)役を募集していたので、オーディションを受けたの。カメラの前で9年。その後、プロデューサーが辞めたので、私がカメラの後ろに回りました。主に、レズビアンやゲイについて扱っていました。プロデューサーとしては5年関わりました。今は他の番組もありますが、当時テレビ番組でそういう問題を扱っているのは、私たちの番組だけでした。

—テレビ番組の制作をしてきて、映画を作ろうと思った経緯は?

監督:今まで制作してきたものはドキュメンタリーとしてテレビで放映してきました。映画祭に出品したのはこれが初めて。体系としては変わらないけれど、不特定多数の大勢の観客がテレビの前にいるのとちがって、映画祭での上映というのは、実際の観客を目の前にするという点が違います。出演した4人の生徒たちと一緒に観るというのは、素晴らしい体験でした。

—出演したメイ、エンジェル、ラファエル、テナジャ、4人それぞれが生き生きと自分らしく生きている姿に感動しました。ハーベイ・ミルク・ハイスクールでは、ほかにも何人か取材されて、結果的に4人に絞られたのですか?

監督:私はほんとに幸運だったの。学校側から撮影に使ってほしいといわれたけど、学校に来るのは放課後にしてくれと言われて、授業の終る頃に学校に行ったの。まず、学校の門のところで授業が終って出てきたエンジェルに出会って、いろいろ話したら、是非映画に出てみたいって。それで、電話番号を聞きました。次に中に入ったら、ラファエルが踊ってたの。で、彼からも電話番号貰ったの。3分間写真を撮るブースからメイが出てきて、話してみたら、彼女もOK。彼女の友達が、タナジャ。ほかにも何人か候補がいたけど、両親の了解が得られなかったの。音楽に合うかどうかも、その時にはわからなかったけど、彼らと出会えてラッキーでした。

◆ニューヨークは、自分が自分らしく生きていける町

—『ヘドウィッグ・アンド・アングリーインチ』を2回観ました、この作品を観て、感動がよみがえってきました。ジョンの今までの苦しみと、4人の生徒たちとの世代を超えて助け合う思いが感じられて、とてもいいドキュメンタリーでした。ニューヨークだからこそ公立高校として成立するけれど、逆に、反論する人たちもいるという両極端が描かれているのが素晴らしいと思いました。

監督:ニューヨークにやってきてくる人たちは、自分らしくあろうとするの。自分を発見し、自分らしく生きていける町。私もジョンも、ほかからニューヨークにやってきて、この町に惹きつけられたの。地下鉄に乗ると、多種多様な人たちがいる。厳格なユダヤ教徒、ビジネスマン、ドラッグクィーン… どんな人をも受け入れざるをえない町。

—賛否両論のある中で上映されて、観客の反応は? また、日本人が観たら、どう思うと思いますか?

監督:リアクションはとてもよかったの。私の兄は、共和党支持の保守的な人なのだけど、観てくれて、とても感動してくれたの。トランスジェンダーの子供たちの親が、子供たちの人生を否定する状況は許せないと言っていました。映画の中で、ゲイがいいとも悪いとも言っていない。描いている4人の生き方は、自分探し。若いときに誰もが立ち向かう問題。けれど、右翼の人が観に来るかというと、観には来ません。日本でも、オープンマインドで観ていただけることを期待します。ミュージッシャンたちがよく知られているので、受け入れて貰えるのではないかと思います。


◆オノ・ヨーコには、監督も感激

—私たち日本人にとっては、オノ・ヨーコさんの登場はとても嬉しく、誇りにも思いました。彼女を起用したのは、どなたですか?

監督:クリスがすべてのミュージッシャンを選んだのですが、ジョンがオノ・ヨーコの大ファンだったので、彼も一緒になって彼女に声をかけました。

—オノ・ヨーコさんの声は東洋的な響きがあり、感動しました。

キャサリン・リントン監督 監督:ブースはとても狭くて、目の前にオノ・ヨーコがいて、そのそばにジョンもいて…。英語の歌詞は長くて、第1言語の人にとっても大変。彼女はすごく頑張ってくれました。入るところが難しくて、ジョンが背中を叩くところが画面にも出ていましたが、カバーソングを歌わない人がやってくれて、ほんとに彼女は素晴らしい人。感激でした。

—監督自身、一番お気に入りの歌は? プライベートに好きな歌手は?

監督:音楽については、私に聞かないで! ミュージッシャンの名前も覚えられないの。映画に出てきた曲は、基本的に皆好き。あえていえば、ブリーダース。ヘドウィッグのサントラはほんとに難しいの。プライベートに好きな歌手…、私はふだんそんなに意識してなくて、友達が iPod に入れてくれた曲を聴いているの。

—影響を受けた映画監督や気に入りの作品はありますか?

監督:名前が覚えられなくて…  ジョン・キャメロン・ミッチェルには影響を受けました。監督としても、ライターとしても、パフォーマーとしても、とても才能のある人なので!

◆ハーベイ・ミルク・ハイスクールへの賛否両論

—編集で苦労されたと思うのですが…

監督:ほんとに大変な作業! レコーディングの部分は撮影してくれた人たちの能力でワンテイク。子供たちのビデオライブラリーはたくさんあって、特にメイの部分はほんとに何時間もあって、とても大変でした。

—このドキュメンタリーを生徒たちの親は観たのですか?

監督: ノー! 残念ながら観たくないようです。せっかく大きなスクリーンに出てくるのに。唯一、エンジェルのおばあさんがみてくれました。

—アメリカの人たちはLGBTQの人たちに対して、もっと寛容かと思ったのですが、そうでもないのですね。
ところで、ハーベイ・ミルク・ハイスクールが正式な高校として認められたのは、「ウィッグ・イン・ア・ボックス」のCD制作や、この映画の製作が大きなきっかけになったのでしょうか?

監督:正式な学校になったことには、そんなにかかわっていません。元々あった動きです。映画やCDで注目は集まりましたが。逆に、映画撮影でカメラが入ることには神経質になっていました。ひどいことを書いているプレスもあって。けれど、ゲイのコミュニティの中で、私自身が知られていたので、安心感を持ってもらえました。

—ハーベイ・ミルク・ハイスクールが公立高校として成立したことに対する賛否両論の主な論点は?

監督:人がなかなか理解できないのは、わざわざ特別に分けなければいけないのかということ。けれども、彼らは他に行く場がないのです。ドロップアウトしてしまう。ホームレスの子供の40%がゲイ。その子たちに唯一残された場所といえます。

—そういう子供たちを持った親をケアする場もあるのですか?

監督:学校の中でカウンセリングする状況はあります。サポートグループも外部にあります。ピーフラッグという全国規模のサポートグループなど。親同士がカミングアウトした時に、どう対処するかを相談する場もあります。

◆自分探しがヘドウィグのメッセージ

—この映画は特殊な子供たちを描いているけれど、自分自身の人生を見据えるという点では、普遍的な話ですね。

監督:それがヘドウィグのメッセージです。 Find yourself! 思春期を迎え、親から押し付けられたものでない自分を探すということ。この映画に登場した子供たちも犠牲者ではなく、自分を強く持っています。

—学校で上映するのにいいなと思います。

監督:どこの国にかかわらず、学校で上映してほしいですね。

—日本でもレズビアン&ゲイ映画祭があって、日本の監督作品の中にも素晴らしいものがあります。女性監督としての映画祭もありますし、そのような映画祭に出品されることは?

監督:この作品に関していえば、世界中の映画祭を回って、アップリンクが配給してくれることになりました。映画祭に出すには、テープを作って送らなくてはいけなくて、この映画も途中から世界のあちこちから出品してくれと言われて、お金もかかって大変でした。

—クリスさんも、自分の家も抵当に入れてレコーディングスタジオを確保されたとのこと、監督自身もかなりの私財をこの映画のために使ったのでしょうか?

監督:撮影をはじめてしばらくはそうでした。製作会社に撮影中はお金は入らなかったです

◆次回作は、保守的な人たちと共に製作中!

—今後の予定は?

キャサリン・リントン監督

監督:テレビでゲイ関係の二つのシリーズが秋から始まります。 映画は、この映画と同様、インディペンデントでやっている状況です。ゲイに反対する右寄りの人と映画をつくる話が出ていて、ゲイを嫌っている人たちの中に身を置いてやっているので、居心地が悪いけれど、学ぶことも多いです。フロリダに住んでいる人なのですが、アメリカの政情も色濃く扱っているので、皆さんに興味を持ってもらえるかどうか…

—次回作も是非日本で公開されて、また来日していただけるのを楽しみにしています。 ありがとうございました。

**********************

この日、夜8時からUPLIK1階のレストラン「Tabela」で、監督来日記念パーティが開かれました。大勢の参加者の方たちが、次から次へと話しかける中、やっと私たちも昼間のお礼を兼ねて、話しかけることができました。インタビューの時に、テーブルの上に東京のガイドブックがあったのを思い出し、「東京見物はされましたか?」とお聞きしたら、「ずっとインタビューで、この周りしか知らないの!」と、ちょっと残念そうなお顔。でも、日本のメディアや観客とたっぷり話せる機会に、満足のご様子。

自分探しのきっかけとしても、ミュージックドキュメンタリーとしても、素晴らしい本作。是非、大勢の方に観ていただきたい作品です。

取材: 白井美紀子、景山咲子(まとめ・写真)

本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。