記念すべき20回目の節目を迎えた東京フィルメックス。
昨年、特別協賛された木下グループが1年で撤退されましたが、新たにシマフィルムが特別協賛を引き受け、無事開催されました。
2019年11月23日(土・祝)~12月1日(日)
会場:有楽町朝日ホールほか
公式サイト: https://filmex.jp/2019/
11月30日(土) 18時10分より朝日ホールで授賞式が執り行われ、各賞が発表されました。
◆第20回東京フィルメックス コンペティション 受賞結果
【最優秀作品賞】『気球』(中国) 監督:ペマツェテン
【審査員特別賞】『春江水暖』(中国) 監督:グー・シャオガン
【スペシャル・メンション】
『昨夜、あなたが微笑んでいた』(カンボジア、フランス) 監督:ニアン・カヴィッチ
『つつんで、ひらいて』(日本) 監督:広瀬奈々子
◆観客賞『静かな雨』(日本)監督:中川龍太郎
◆学生審査員賞『昨夜、あなたが微笑んでいた』(カンボジア、フランス) 監督:ニアン・カヴィッチ
授賞式と記者会見の模様を、時系列でお届けします。
6日間実施。15名が参加。
メンドゥーサ監督始めとする講師のほか、オリヴィア・アサイヤス監督、アンソニー・チェン監督などの特別講義を実施。
11月28日には公開プレゼンテーションが行われました。
観客賞 発表の前に、市山さんより「この場をお借りして、この度、20回の開催にあたり、シマフィルムさんをはじめとする協賛の方々、サポートしていただいた方々、毎日会場に足を運んでくださった観客の皆さまに感謝申しあげます」の言葉。
東京フィルメックスという学生時代から友人としょっちゅう通っていた映画祭で、観客賞という素晴らしい賞をいただき、ほんとに嬉しく思っています。
一緒に観ていたお客様からも支持いただいたとしたら、これほど光栄なことはございません。
シマフィルム 田中誠一さんより挨拶。
木村翔武さんより発表。
『昨夜、あなたが微笑んでいた』(カンボジア、フランス)
監督:ニアン・カヴィッチ
授賞理由;
1つの場所と1つのカメラさえあれば映画ができます。
さり気なくも計算された監督のカメラは、映画の原点ともいえるその事実を証明してしまいました。
無限だと錯覚した日常が有限だと悟ったとき、私たちはカメラを手に取りそれをやはり永遠のものにできるのです。
映画が終わったとき、私たちはすぐにでも映画を撮りたいと思いました。
ニアン・カヴィッチ監督
選んでくださってありがとうございます。2016年のタレンツ・トーキョーに選んでくださったことに、あらためてお礼申し上げます。作品を持って戻ってくることができたことを光栄に思っております。
*審査員*
審査委員長: トニー・レインズ Tony RAYNS (イギリス、映画批評家、キュレーター、映画作家)
審査員:
べーナズ・ジャファリ Behnaz JAFARI (イラン、女優)
操上和美 KURIGAMI Kazumi (日本、写真家)
サマル・イェスリャーモワ Samal YESLYAMOVA (カザフスタン、女優)
深田晃司 FUKADA Koji (日本、映画監督)
サマル・イェスリャーモワさんは、すでに帰国。深田晃司監督も所要があって欠席。
トニー・レインズ審査委員長、べーナズ・ジャファリさん、操上和美氏の3人で各賞を発表。
一つ目のスペシャル・メンションをべーナズ・ジャファリさんより発表。
『つつんで、ひらいて』(日本) 監督:広瀬奈々子
日本 / 2019 / 94分
配給:マジックアワー
授賞理由;
はじめに言葉ありき。言葉は神と共にあり、言葉は神であった……
本作品は古来から今日に至るまで人類の永遠の友である本の地位に対し称賛と敬意を示しています。
未来の人びとも本の紙を触ったり、匂いを嗅いだり、見たり感じたりし続けることができますよう。本は高貴な友です。私たちがそれを受け継ぐことができますように。
広瀬奈々子監督:昨年スペシャル・メンションをいただいたばかりだったので、全く考えておりませんでした。市山さんにも、今年は賞とかは期待しないでと言われていましたので、ほんとにびっくりしています。授賞理由を聞いて、感動しております。
「装丁」というジャンルに光をあててもらえるのが何より嬉しいです。本の売れない時代に、紙の本のことをあらためて考えなおすことはとても意義のあることだと思っていますので、その思いが一人でも多くの方に届くといいなと思っています。
二つ目は操上和美氏より発表。
『昨夜、あなたが微笑んでいた』 Last Night I Saw You Smiling
監督:ニアン・カヴィッチ(NEANG Kavich)
カンボジア、フランス / 2019 / 77分
授賞理由;
そこにある記憶を慈しむようにカメラと対峙させたこの映画は、決して過去を見つめる映画ではありませんでした。日本企業の買収によって数百の世帯が立ち退きを余儀なくされたホワイト・ビルディング。都市の発展や国や私企業の利益のために破壊される生活。それはやはり暴力なのです。そしてそれは今も再開発の進むあらゆる場所で起きているはずです。その現実をこの映画は静かに私たちに差し出してきました。
操上和美氏が、授賞理由を読み上げ、映画のタイトルを言わないまま、席に戻られてしまいました。
司会の方から、「今の授賞理由で皆さんおわかりになったことと思いますが、あらためて発表お願いします」と促され、『昨夜、あなたが微笑んでいた』のタイトルが発表されました。
ニアン・カヴィッチ監督:また私です。(笑顔)皆さんにお礼を申しあげます。
かつてタレンツ・トーキョーに参加したとき、フライトに乗り損ねるというヘマをやってしまったのですが、参加するチャンスをくださって、お陰で作品をこうして作って戻ってくることができました。
トニー・レイン審査員長より発表。
「シュレッダーでこのメモが失われたかもしれないというハプニングがありました」と切り出し、授賞理由を読み上げました。
『春江水暖』 Dwelling in the Fuchun Mountains
監督:グー・シャオガン(GU Xiaogang)
中国 / 2019 / 154分
副賞として賞金50万円が監督に授与されます。
授賞理由;
この勇敢で野心的な初監督作品は家族の物語と地方文化を正確にそして見事な文体で究めています。中国の古代のそして近代の伝統文化もそのストーリーテリングや映像で描写されそれでいて同時に現代の中国の映画文化の現代的な表現となっています。グー・シャオガンの初監督作品としては驚くべき出来栄えです。
グー・シャオガン監督は、すでに帰国され、ご友人が代理で受け取りました。
グー・シャオガン監督よりビデオメッセージ
皆さーん、こんにちは。私は『春江水暖』の監督のグー・シャオガンです。あのすみません(と、ここまで日本語で)スケジュールの都合で会場で賞を受け取れずごめんなさい。審査員の人たちが『春江水暖』を選んでくださったと知って、とても光栄で嬉しく思いました。まずは出資会社に感謝します。プロデューサー、製作チーム、私の家族、サポートしてくださったすべての方々に感謝します。撮影スタッフの一人一人にはとびっきりの感謝を伝えたいです。春夏秋冬の季節を一緒に歩んでくれてありがとう。私たちは力をあわせて映画を完成させました。みんながいなかったらこの映画は存在しなかったでしょう。だからみんなに感謝します。代表して審査員の皆さんに感謝申しあげます。認めてくれてありがとうございます。最後に市山さんにも感謝します。この映画を日本に連れてきてくださってありがとうございます。
アリガトウゴザイマス。ハイ。
トニー・レインズ審査委員長より発表。
『気球』 Balloon
監督:ペマツェテン(Pema Tseden)
中国 / 2019 / 102分
副賞として賞金100万円が監督に授与されます。
授賞理由;
東京フィルメックスは過去にこの監督の傑作を評価していますが、この新作は彼の作品の中でも映画表現の新しいレベルに達しています。オープニングの遊びの視点から侯孝賢へのオマージュとなる美しいクロージング・シーンまで、本作品はチベットの特殊な難問を幅広い、洗練された観点で描いています。つまり仏教的信心と国の政策と個人の心理的要因のぶつかり合いを通して今日のチベット人の生活について多くを語っています。2019年のフィルメックス最優秀作品賞はペマツェテン監督の「気球」です。
主演俳優ジンパさんが深々とお辞儀して、操上さんから賞状を受け取りました。
ジンパさん
今回初めて日本を訪れ、映画祭にも初めて参加しました。私が出演した映画がグランプリをいただき、大変光栄です。ペマツェテン監督はほかの用事で別の場所にいて、フィルメックスに来ることができませんでした。メッセージが届いていますので、お届けします。
来日出来なかったペマツェテン監督のメッセージをスマホを見ながら読み上げました。
「皆様、こんばんは。東京フィルメックスに出品するたびに賞をいただけるとは、思ってもおりませんでした。ほんとうにご縁としかいいようがありません。映画祭に参加するたびに、この上ない感謝の気持ちを覚えております。映画祭の組織委員会の皆さまには、私の最新映画『気球』を日本に連れてきてくださり、熱心な日本の観客に届けてくださったことをありがたく思っております。審査員の皆さま、この映画に大きな栄誉を与えてくださったことを感謝しております。最後に皆さまにタシデレ、必勝あれ!」
とても難しいことなのですが、今回我々は10作品を観て審査しました。多様性に富んでいまして、ドキュメンタリーもあれば、現実的なフィクション、非現実的なフィクション、哲学的な作品などいろいろな作品がありました。一つ共通点があるとすれば、市山さんの選択眼が特殊なものであったということだと思います。私自身、大きな映画祭で審査させていただいているのですが、すべての作品がこれほどまでに終始一貫同じレベルを持った映画祭はなかなかありません。東京都はフィルメックスのような映画祭を抱えていてラッキーだと思いますし、我々審査員もこんな映画祭を審査できたことを光栄に思っています。
今、新宿御苑の桜を観る会が話題になっていますので、桜を交えたジョークを一発入れようと思ったのですが、桜のシーズンじゃないので諦めました。安倍晋三首相のもとの日本では、皆が一つの方向に同調してしまいます。そんな場所なので、少し心配していました。審査員の顔ぶれをみますと、今日は3人しかいませんが、5人は多種多様。日本から二人。カザフスタン、イランとイギリスから一人ずつ。かなりのいいミックスだったと思います。でも、同意できるのかどうか。全員が日本人でもないし、安倍晋三のファンでもないし、ディスカッションが難航するのではないかと思っていたのですが、幸せな報告ができるのは、『気球』は100%皆の同意で決まったということです。ただ、ペマツェテン監督はこれまでにも受賞されているので、受賞歴のない監督の作品がいいのではという思いも一瞬ありました。『気球』はクオリティがすごく高く、強い力がありますので、やはり『気球』にということになりました。審査員として参加して、素晴らしい体験をさせていただいただけでなく、幸せな時を過ごすことができました。
2011年 最優秀作品賞 『オールド・ドッグ』
2015年 最優秀作品賞 『タルロ(原題)』
2018年 審査員特別賞 『轢き殺された羊』
これまで、授賞式の前に行われてきた記者会見。今年は、授賞式直後に行われました。
受賞者で、この日登壇された4人が早々に記者会見場に出揃いました。
審査員の方たちが到着しないまま、市山さんが記者会見を開始。審査員の不在に遠慮して、誰も質問の手を挙げないでいたら、「質問がなければ記者会見を終わります」と市山さん。
審査員の3人が着席し、あらためて記者会見が始まりました。
― ニアン・カヴィッチ監督(『昨夜、あなたが微笑んでいた』)にお伺いします。タレンツ・トーキョーに参加されて学んだことはたくさんあると思いますが、一番大きかったことは?
カヴィッチ監督:自分にとって大きかったのは、参加者の方たちと友情をはぐくめたこと、プロジェクトを分かち合えたこと、とてもオープンな形で交流できたことではないかと思います。自分の企画だけでなく、ほかの参加者の方たちの企画に触れることができ、その後、お互い顔を合わせなくても、進捗状況を報告しあったりすることもできました。関係性が続いていくというのが、プログラムの素晴らしいところだと思います。フィルムメーカーとして役立ちましたし、チャンスを与えてくださったと思います。
― 審査員の方にお伺いします。『気球』は満場一致とのことですが、スペシャルメンションが2作品あり、かなりもめたのではないかと思います。最終決定までの経緯は? 4作品以外に候補にあがった作品は?
トニー・レインズ審査委員長: 審査員室の秘密は出してはいけないので、お話するのは難しいのですが、ちょっと別の話をします。 ある映画祭に審査員として参加した時に、ある作品が候補にあがって、自分の人生最悪の映画でしたので、この作品に授賞するなら、私は授賞式に審査員として並びたくないから欠席すると発言しました。その当の監督から、映画祭の帰りに声をかけられて、「僕はそれほど悪い人間じゃない」と言われました。本来、守秘義務のある密室の話が漏れてしまったので、ショックを受けました。あってはならないことだと思います。
ですので、ほかに何が候補にあがったかについては、伏せておきます。
先程、『気球』が全員一致というのはほんとうです。
『春江水暖』については、4人が候補にあげました。残った一人も、ディスカッション後には、自分も支持するとおっしゃっていただきました。
スペシャルメンションについては、よりディスカッションがありました。不公平になるので具体的には言いませんが、4本候補にあがりました。審査員がより支持した映画に授賞することに決まりました。すべての参加作品に授賞したいと思うのですが、そういうわけにもいきませんので、大人の会話をして、リーズナブルな結果を生んだという次第です。
べーナズ・ジャファリ:
審査員長のトニーさんのおっしゃった通り、私たちはとても穏やかなミーティングをしました。素晴らしい映画祭で、出品した方たちは、フィルメックスで上映できたことだけで満足されているかもしれません。私たちは観た作品がすべてよかったので、すべての作品に賞をあげたい気持ちです。 いろいろな映画のシーンが頭に残っています。世界を一周したような気持ちです。操上和美: いろいろな価値観、国の違い、すべてが違って、決めていいのかという位、審査は難しい。好き嫌いは人によってあるけれど、審査となると、好き嫌いの感情をできるだけ出さないようにして、映画としてどうかということをこころがけました。素晴らしい作品に出会えました。
― 広瀬監督にお伺いします。劇映画とドキュメンタリーを1本ずつ作られて、今後のご自身の方向は?
広瀬監督: 作る上で、そんなに区別していなくて、世界を知るということで、フィクションでもいろいろなことを調べながら作っています。基本的には、フィクションでやっていきたいと思っています。相当な忍耐力と時間が必要になると思います。今回、ほんとに素晴らしい出会いがあったのですが、今後、そういうチャンスがあるかどうかわかりません。
最後に、市山さんより、授賞式でシマフィルムの田中さんから発表のあったニューディレクターアワードの新設については、以前の新人監督賞と同様、脚本を公募して、賞を出し、場合によっては映画を製作するというものです。要綱は、来年1月頃に発表予定であることが補足説明されました。
受賞者の皆さんの前に、べーナズ・ジャファリさんがちょこんと座りました。
事務局の方が椅子を差し出したのですが、「これでいいの!」と陽気なベーナズさんでした。