今年の東京国際映画祭各部門の各賞発表と授賞式は、例年の最終日のクロージングセレモニーではなく、1日前の2018年11月2日(金)、EXシアター六本木でのアウォードセレモニーで行われました。
東京グランプリは、フランス映画『アマンダ』に輝きました。パリで暮らす青年がテロで姉を失い、残された姪のアマンダの世話をしながら自分を取り戻していく物語。
栄えある各賞を、受賞者の皆さんの喜びの声と共に、発表順にお届けします。
(第31回東京国際映画祭 受賞一覧は、こちら)
映画祭期間中、シネジャのスタッフ4人、それぞれの思いで作品やイベントを選んで、映画祭の会場を駆け巡りました。
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午後3時。各国から集まった映画人や取材人、そして大勢の観客が各賞の発表を待ち構える中、アウォードセレモニーが始まりました。
司会は、フジテレビアナウンサーの笠井信輔さん。
以下、各賞の発表順にお届けします。
東京国際映画祭 ビジョン30 の一つである「映画の未来の開拓」に沿って、昨年新設された賞。宝石の原石(ジェムストーン)を東京で発掘し、世界に輝きを放って貰う一助になることを目的にしたもの。映画祭に出品された全作品の中から、若手俳優数名を映画祭事務局が選出。男女問わない賞ですが、昨年は4人全員女優さん。今年は、男優二人、女優二人が選ばれました。
トロフィーは、東京国際映画祭 フェスティバル・ディレクター 久松猛朗氏より手渡されました。
東京国際映画祭に初めて参加させていただいて、出演した映画が2作品上映されました。作品に関わった皆さんといただいた賞だと思っております。ありがとうございました。
俳優として初めての映画で、名門の東京国際映画祭のコンペに出ることができた上に、このような賞をいただき光栄に思っています。観てくださった皆さま、審査員の皆さま、ありがとうございました。何より、私をここに来させてくれた映画『ソン・ランの響き』に感謝します。
賞を受賞すること自体、初めてで光栄です。審査員の皆さま、選んでくださってありがとうございます。
キラキラして重みのある賞を頂けて光栄です、この重みを自分に課していきたいです。
3年前に、東京国際映画祭に『さようなら』で来た時に、控室で今回の『銃』のプロデューサーの奥山さんがいらしたので「あ、奥山さんですか?」と聞いたのですが、すごいタメ口で言われたと奥山さんはおっしゃってます。僕は普通に言ったつもりだったんですけど。
(確かに、見た目の印象から生意気と思われてしまいそう!)
審査員より、「新設された監督賞を選ぶのにあたり、8本の幅の広さに感心すると共に、低予算で作られた作品と、豊かな資金で作られた作品とでは隔たりがあることに気づきました。また、映画学校を卒業したての新人と、長年やってきた人との間に大きな差を感じました。船出を始めた新人と、ベテランの監督の両方に平等に賞を送りたい」と説明した上で、二人の受賞者が発表されました。
「3年前に『百円の恋』という作品で東京国際映画祭に来た時に、プロデューサーの奥山さんと久し振りにお会いして、ご挨拶しました。その後、まさか一緒に作品を作って、ここに戻ってこられるとは思わなかったです。新しく設けられた監督賞をいただきましたが、これは、一緒に作ったスタッフやキャストを代表しての賞だと思っています。これからもいろんな国で観ていただけるような作品を作っていきたいと思っています」
ここで、司会の笠井信輔アナウンサーが、「作品名を間違えて『鈴木家の嘘』と紹介してしまい申し訳ありませんでした」と、武監督に駆け寄りました。
2年前、プロデューサーで今回の主演でもある皆川暢二さんから、自主映画を作りたいと言われ、プロジェクトが発足しました。出来上がったのが、東京国際映画祭応募締め切りの朝でした。その時にポストに投函したDVDが、まさかここまで連れてきてくれるとは思いませんでした。まだ一般上映が決まってないので、決まれば嬉しいです。
生まれてこの方、読書感想文でも賞をもらったことがありませんので、ほんとに嬉しく思っております。4年前に脚本を書き始めたもので、自分の体験も少し含まれています。インディペント映画で魂をゆさぶるような映画を撮りたいとずっと思っていました。
監督はなるものじゃなくて、ならせてもらうものと、先輩から言われました。まさにそうだと。監督にしてくださったキャスト、スタッフの皆さんの賞だと、ほんとに思っています。審査員の皆さんにも感謝します。
司会の笠井さんより、「先ほど、私のフライングで大変失礼しました。(監督賞で『鈴木家の嘘』の武監督と紹介) 授賞されてほっとしました」と、またまたお詫び。
審査員のピ-ト・テオより講評。
テーマが印象的で、映画の表現力も素晴らしかった。アジアのセンスもきっちりと伝えています。
ユーモアのセンス、鋭い知性はまれであり、今後もサポートする価値があると判断しました。この賞を渡すことによって、さらに監督の持っている間違いのない潜在能力を伸ばすことになると確信しています。全員一致で決定いたしました。今後の彼の仕事に期待したいと思います。
発表は、審査員ジェレミー・スゲより。
国際交流基金理事長より、ホアン・ホアン監督にトロフィー授与。
審査員の三人にお礼の握手をするホアン・ホアン監督。
ホアン・ホアン監督:ミナサマ、コンニチワ。ワタシハ ホアン・ホアン デス。
これしか日本語はしゃべれません。東京国際映画祭、審査員の皆さまに感謝します。そして、スタッフ、キャスト、製作してくださった会社に感謝します。アジアの未来が、もしかしたら僕自身がアジアの過去になってしまうかもしれません。今回のことは素晴らしい思い出になると思います。Thank you、アリガトー、謝謝。
審査員ピート・テオ 講評:
今年のアジアの未来部門は、ジェンダーや文化的アイデンティティを扱った作品が多かったです。すべての作品が、思いやりや心の優しさに描かれていましたが、受賞作品は、複雑なテーマでありながら、美しく正直なほどにシンプルに描かれていました。センチメンタルになり過ぎないように、現実の世界でありながら、詩的に描かれていました。審査員として観ていたのですが、それを忘れさせてくれる巧みな技術に魔法をかけられたように惹きこまれていきました。全員一致で決定しました。
審査員ジェレミー・スゲより、『はじめての別れ』と発表されると、中国陣より大きな歓声があがりました。
審査員 山下敦弘監督より、リナ・ワン監督にトロフィー授与。
リナ・ワン監督:
この作品がTIFFで上映された時、主役の女の子から電話があって、駆けっこで賞が取れなかったと嘆いていました。これが賞になりました。スタッフ、プロデューサー、脚本家、音楽の方・・・ すべての方に感謝します。あなた方がいなければ、この作品はできませんでした。あなた方のお陰で完成しました。ほんとにありがとうございました。
109の国と地域から応募された1829本中から選ばれた16作品が正式出品され、賞を競いました。まずは、観客賞が司会の笠井さんから発表されました。
「これはちょっと不意打ちで・・・。親父の遺言でスピーチは短くといわれています。たくさんの方が観てくださって、投票してくださったことに感謝します。皆で祝います。ありがとうございました」と、ほんとに短く受賞の歓びを語りました。
イェスパー・クリステンセンより、ビデオ・メッセージ
「嬉しく、光栄です。映画大国・日本で受賞できたことが大変嬉しいです。審査員の皆さま、私を選んでくださってありがとうございます。プロデューサー、スタッフの皆さま、ありがとうございます。特に監督の勇気と着想に感謝いたします。皆さま、素敵な夜をお過ごしください。私は素敵な夜にします」
審査員・南果歩さんより発表。
妹さんの結婚式参列のため、一足早く帰国。夫でもあるエドアルド・デ・アンジェリス監督が代理で受け取りました。
ピーナ・トゥルコより、ビデオ・メッセージ
「光栄。監督にも感謝。妹の結婚式に出ることになっていて帰国しました。東京が大好き、TIFFが大好き。映画も大大大好き!」
エドアルド・デ・アンジェリス監督
「いろいろな人の背景を描き、生と死を見つめています。もう幸せになれないのだろうかと思った時に、あらたな人生が見えてくるという物語です。ピーナがいたから、素晴らしい宝物を発掘することができました。皆さんにこの映画を愛していただくことが、一番の賞だと思っています。
笠井さんから「監督は妹さんの結婚式に出なくてもいいんですか?」と聞かれ、「家族で手分けしてますから」と答えるアンジェリス監督。
「夫婦で受賞することは、31回のTIFFの歴史の中でもなかなかないのではないでしょうか」と笠井さん。
審査員ブラインアン・パークより発表。
「6日間で、16本を鑑賞するという素敵な仕事をいただきました。その中から賞を選ぶのは容易なことではありませんでした。審査員特別賞については、全員一致で決まりました。
マイケル・ノアー監督
「俳優たちが即興で演じるのは好きなのですが、私自身が即興でスピーチを行うとは予想していませんでした。スタッフ、キャスト全員にお礼を申し上げたいと思います。特に、男優賞をとりました のためにあてがきした脚本でした。父が4ヶ月前に、この作品を観ないで亡くなりました。父から多くを学び、自分が父になった時、登場人物のようなお父さんになろうと思いました。東京は魔法のような町。魔法のような時をありがとうございました。アリガトウゴザイマス」
笠井さんより「男優さんが受賞されたときに、自分でしゃべらなくていいという気持ちだったのでは?」と聞かれ、「普通、カメラの後にいるので即興でスピーチするのは上手くないです。イェスパーがここにいたらお礼をいいたいです。父をモデルにしていることを、イェスパーに一度も言ったことがないので、そのことを伝えたい。素晴らしい役者であり、親友です。現代にも通じる話だと思います。
(左から)東京都 多羅尾光睦副知事、審査委員長 ブリランテ・メンドーサ監督、ローラン・ピック駐日フランス大使、セイコー 金川宏美氏
ローラン・ピック駐日フランス大使
「アース監督は、残念ながら授賞式に出席できませんでした。このような素晴らしい賞をいただけたことを感謝申しあげます。アース監督は、フランスの若手監督のなかで最も日本人らしいと言われています」
ミカエル・アース監督よりビデオ・メッセージ
「二つも賞をありがとうございます。真摯な気持ちで今後も映画を作っていきたいと思います。陰で映画作りを支えてくださっている多くの方すべてに感謝しています。また東京に戻って、皆さんと議論できる日が待ちきれません。映画祭中、私たちを暖かくもてなしてくださっていたボランティアの皆さんにも感謝申しあげます」
最後に、東京国際映画祭 フェスティバル・ディレクター 久松猛朗氏より挨拶。
「31回東京国際映画祭 各賞受賞された皆さま、ほんとうにおめでとうございます。これからの映画製作活動にお役に立てれば嬉しいです。この9日間、審査の労を取ってくださった皆さま、ありがとうございました。惜しくも賞を逃した皆さま、さすがに多くの作品の中から選ばれただけあって、どれも素晴らしいものでした。毎日会場を歩きまわり、観客の皆さまの表情の中に、映画を観る喜びをしっかりと確認することができました。上映後のQ&Aや交流会などを通して、映画ファンと製作者、そして製作者どうしの輪が確実に広がっていくことを感じました。映画祭にとって、もっとも重要な成果であったと思います。
コンペティション部門の受賞作で、観ていたのは観客賞の『半世界』だけでした。
つまり、審査員の選んだ作品は、すべて観ていませんでした。どれもがヨーロッパの作品で、私の優先順位では、中東、アジアの次がヨーロッパ。たまたま時間が悪くて観られなかったという事情もあります。
受賞者がすでに帰国していた賞も多く、実のところ、ちょっと寂しい授賞式でした。
今年は、イランの女優タラネ・アリドゥスティさんや、香港のスタンリー・クワン監督がコンペの審査員だったので、授賞式の後の記者会見も覗いてみました。
思えば、5人の審査員のうち、4人がアジアの出身。記者から、「ヨーロッパ作品の受賞が多かったことについて議論はありましたか?」という質問が出ました。
メンドーサ監督が、タラネ・アリドゥスティさんに答えるよう促して、タラネさんが代表して答えました。「そのことに関する会話は、もちろんありました。ここはアジアですし、私もアジア出身、たくさんのアジア作品が出品されています。ですが、私たちが(映画祭冒頭の審査員記者会見で)約束したのは、作品の情報を事前に何も見ないで鑑賞するということでした。どこの国の作品なのか、作品の内容、監督が男性なのか女性なのかといった情報もすべてみないで、まっさらな状態で映画を鑑賞しました。さらに、どこの国の映画祭に参加しているのかも忘れて、審査にあたりました。私たちとは別の5名の方が審査員を務めていたら、全く別の結果になったかもしれません。ですが、今回は私たちの意見が一致して、この結果となりました」
また、コンペの7つの賞のうち、ダブル受賞の作品もあり、受賞したのは4作品という結果だったことについても質問が出ました。
このことについては、スタンリー・クワン監督が答えました。
「16本の中から5~6本の良いと思う作品を選び、その中でグランプリ作品は全員一致で決まりました。他の賞については、どの作品がふさわしいかという視点で選出しました」
今後、受賞作が公開されて、観る機会があることを期待したいです。
ちなみに、コンペ作品で私が観た中でベスト3は、『詩人』『テルアビブ・オン・ファイア』『シレンズ・コ―ル』。 台詞なしで描いた『ブラ物語』には、芸術貢献賞がくるかなとも思っていたのですが、無冠で残念!(咲)
今回の映画祭は、観たかった作品がいくつも観ることができなかった残念な映画祭になりました。私は中華系の作品が好きなのですが、受賞した『はじめての別れ』も『武術の孤児』も見逃してしまったし、『トレイシー』『海だけが知っている』も観ることができませんでした。オープニングで撮影した写真整理に時間を取られてしまったためなのですが本末転倒でした。来年は作品を観るのに集中したいと思います。今回観た中では、『ソン・ランの響き』『世界はリズムで満ちている』『家族のレシピ』『カンボジアの失われたロックンロール』『輝ける日々に(『サニー』ベトナム版)』が印象に残りました。今回、観ることができなかった作品、ぜひ公開されるといいなあ。(暁)