2018年3月9日から18日まで9日間に渡って開催された第13回大阪アジアン映画祭。アジア映画の最新作や、現地でもまだ上映されていない作品を観ることができる貴重な映画祭です。
今回、ベトナムのファン・ザー・ニャット・リン監督(『昨日からの少女』)、韓国のキム・ジョンウン監督(『夜間勤務』)、マレーシア出身大阪在住のリム・カーワイ監督(『どこでもない、ここしかない』)がコンペティション部門の国際審査委員を務めました。
グランプリ(最優秀作品賞)を獲得したのはデレク・チウ監督がメガホンを取った『中英街一号』(香港)。来るべき才能賞は、フィリピンを舞台とする『ネオマニラ』を監督したミカイル・レッドに贈られた。最優秀女優賞は『東京不穏詩』で、東京のクラブホステスとして働きながら女優を目指す30歳の女性を演じた飯島珠奈が受賞。また『私を月に連れてって』(シェ・チュンイー監督作)がABC賞、フィリピン映画「ミスターとミセス・クルス」に出演したライザ・セノンが薬師真珠賞、速水萌巴監督の『クシナ』が、日本映画を対象に、エキサイティングかつ独創性に溢れると評価した作品に授与されるJAPAN CUTS Award賞、金井純一監督の『CYCLE-CYCLE』が60分未満の作品に贈られる芳泉短編賞に輝いた。
中英街とは、香港特別行政区と広東省深圳(シンセン)市が共同管理する沙頭角地区に実在する境界の地域。英国統治時代の1967年に起こった香港暴動の際、英国が沙頭角地区を辺境禁区として封鎖して以来、沙頭角住民は香港への往来が制限され、香港市民でありながら香港への出入りに「禁区紙」と言われる通行証が必要であるという状況に置かれた。そして2019年。1967年の香港暴動に参加して中国へ強制送還された後、再度沙頭角地区に密入国した老人と雨傘運動に参加した3人の若者とのつながりが描かれる。
1967年の香港暴動と2014年の雨傘運動が類似していると思ったデレク・チウ監督は、香港の歴史上重要な二つの運動を元に本作を製作した。
本作は、香港ではまだ公開されておらず、大阪が初上映。
デレク・チウ監督と共に、主演のロー・ジャンイップさん、昨年、来るべき才能賞受賞のフィッシュ・リウさんも登壇。デレク・チウ監督は「今まで18本の作品を手掛けてきて受賞も初めてではありませんが、今までの映画人生の中で最も重要な賞です。大阪アジアン映画祭に感謝いたします。この受賞がきっかけで、香港でも公開されたらと思います。皆さん、引き続き香港映画を応援してください。この作品は8年かけて作り、様々な困難に直面しました。今、会場にいらっしゃる出資者の方、役者の皆さん、そして無報酬で働いてくれたスタッフの皆さんにも感謝します。皆さんがいなければこの映画はできあがりませんでした。そして、映画を観てくださった皆さんにも感謝いたします。世界初上映に来ていただいた観客の方々は一生懸命観て、上映後もたくさんの質問をしていただきました。本当にありがとうございました」と語りました。
審査員評「ミカイル・レッド監督は、これまでの犯罪映画にはなかった新しいタイプの人物像を登場させ、残酷で救いのない世界を生きる彼らの人生が思いがけない方向へ進んでいく様子を描くことで、このジャンルを新鮮な切り口で再構築。アジア映画の未来を担う映画人の一人であることを証明しました」
ミカイル・レッド監督は新作撮影のため先に帰国され、主演のユーラ・バルデスさんが代理で登壇されました。
審査員評「飯島珠奈さんの力強く、しかも繊細な演技には、審査委員全員が強い印象を受けました。魂のこもった演技、特に極限状態の中での抑制のきいた感情表現を、高く評価します」
飯島珠奈さん「今回の作品は私の人生の中で一番思い出の強い作品です。一番のありがとうをアンシュル・チョウハン監督に伝えたいと思います。そして一緒に作ったクルーの皆がいなければこの賞はいただけなかったので、皆で喜びを分かち合いたいと思います。これからも人生を賭けることができるもの、愛に溢れた映画が日本から、海外から作られていくことを願っています。本当にありがとうございます」
新作映画を対象にしたABC賞。2019年2月ごろ朝日放送(関西圏)で放送されます。
シェ・チュンイー監督「私の映画を上映していただいた大阪アジアン映画祭に感謝致します。映画に参加してくださったスタッフ、キャストの皆さんにもお礼申し上げます。この賞はとても励みになりました。また、新しい作品を携えこの映画祭に参加したいと思います」最も輝きを放っている俳優に授与される薬師真珠賞は、『ミスターとミセス・クルス』(フィリピン)の主演女優ライザ・セノンさんが受賞。ライザ・セノンさんには、副賞として薬師真珠提供の真珠のネックレスが授与されました。
ライザ・セノンさん「本当にありがとうございました。シーグリッド監督、皆さんに感謝します」と微笑みをうかべ挨拶しました。
《インディ・フォーラム部門》の日本映画を対象に、エキサイティングかつ独創性に溢れると評価した作品に授与されるJAPAN CUTS Award。
選定理由「今年のインディ・フォーラム部門の作品はいずれもすばらしく受賞作品を選ぶのに苦労しました。3、4の賞を出せればよかったのですが、議論を重ね、最も大胆で最も新鮮な視点を示し、そして日本映画の将来に対し私たちの期待をかきたてた作品を選びました。美しいけれども危険をはらむ異世界をテーマに私たちのイマジネーションに挑戦した作品です」
速水監督「この映画祭に招いていただきありがとうございます。この映画は<可能性>だったことを<可能>にした映画です。皆さんに観ていただき、この賞につなげられ本当に感謝しています。また『クシナ』より、もっと面白い作品を持って、この映画祭に帰ってくることができるように頑張りたい」
日本初上映の作品を対象に最も高い評価を得た作品に授与される芳泉短編賞。
新設された記念すべき第1回受賞作品は、金井純一監督の『CYCLE-CYCLE』(日本)。60分未満の作品が対象。
【オーサカ Asia スター★アワード】は、日本を含むアジア映画界に多大な貢献をし、今後のさらなる活躍を期待されるスター性ある映画人を1名選出。
今回の受賞者は、俳優、監督、プロデューサーとマルチな才能を発揮し、常に新しい事に挑戦し続ける香港の俳優、チャップマン・トーさんに決定し、授賞式およびトークイベントが行われた。
今回、大阪アジアン映画祭で賞を受賞するため、初めて大阪に来ることができて大変嬉しく思います。香港人にとって「大阪に来る」ということは、一般的に「心斎橋で買い物をする」という意味であって、「受賞するため」に来ることはないのでとても面白く感じています。
私は1993年に俳優になり、2015年に監督を始めました。80本以上の作品に出演し、8本以上を製作しましたが、監督としては活動を始めたばかりです。私は香港映画界にとって良きことよりも害を与えてきたと思っています。もし大阪アジアン映画祭が私を賞に価する存在であると考えてくださっていることが何かの勘違いだったとしても、私は大変嬉しく思います。この賞は、監督を始めたばかりの一人の演技者に対して、映画界にとって害にならず、良い行いをもっとしていくべきと思わせてくれる後押しとなりました。ありがとうございました。今、香港映画界は従来の姿が“破壊”されつつある状況だと危惧しています。私はそれを再生しなければならないと思っており、現状を打開しようとしています。
★今年の大阪アジアン映画祭、9日~18日まで、全日程にチャレンジしようと思っていたら、中国映画祭「電影2018」と重なっていたので、東京での中国映画祭日程10日までいて、11日から大阪に出かけた。最初はバッティングしていて困ったなと思ったけど、東京で中国映画祭の作品を見損なってしまっていたので、大阪に行ってから見逃した作品を観て、それから大阪アジアン映画祭の作品に集中ということに。大阪アジアン映画祭のオープニングを観ることができなかったのは残念だけど、8日間いたことでたくさんの作品を観ることができた。今回は、取材なしで作品だけの鑑賞。今回観た中で一番印象に残ったのは『仕立て屋 サイゴンを生きる』だった。作品紹介は、後ほど映画祭報告ブログにて(暁)。
★大阪には7日間いたが、中国の映画祭とドッキングしていたりで観逃したのも多かった。受賞作品が発表されたが、その中で観た作品は「たった一つ」。気落ちしたが、こればかりは時の運、チョイス運任せだ。以下は観た作品の感想や大阪滞在日記。(美)
大阪アジアン映画祭 (1)『パンツ泥棒』『ニュートン』
9日、いよいよ大阪アジアン映画祭のオープニングセレモニーが始まった。会場の阪急うめだホールは超満員。「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」を旗印に、アジア各国の映画、日本初上映の作品、シンポジウム、交流イベントなどがおこなわれる『大阪アジアン映画祭』。
実行委員長・上倉庸敬氏の「映画祭をとおしてあたたかいアジアの交流がますます活発になりますよう、スタッフ一同、心から願っています」とのべられた。
ゲスト登壇では『どこでもない、ここしかない』の監督、リム・カーワイさんが代表で挨拶された。「今、私は大阪に住んでいます。自分の作った6作品のうち、5作品もこのアジアンで上映されました。この地、大阪から日本、そして世界に羽ばたきたいと願っています」と流暢な日本語で話された。
ゲストの中でひときわ大きな拍手で迎えられた 『朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキスト』の金子文子を演じるチェ・ヒソさんは「私は韓国の俳優ですが、小学生の頃大阪で暮らしたことがあるので、日本語が話せます。
イ・ジュンイク監督は、最初はこわいお父さんみたいな感じでしたが、今では一緒に仕事をしたい監督ナンバーワンです。相手役のイ・ジェフンさんは大ファンで、恋人であり同志の文子役が決まった時は、叫び声をあげてしまいました」と教えてくれた。
『朴烈(パクヨル)植民地からのアナキスト』
イ・ジュンイク監督/韓国/128分/日本初上映
1923年。関東大震災の直後にでっち上げられた噂で、関東近郊に住む多くの朝鮮人が殺害された。事態を沈静化するために日本政府は社会主義活動をしていた朝鮮人青年・朴烈と彼の恋人・金子文子とともに逮捕された。 日本政府の策略に気付いた朴烈と文子は皇太子暗殺計画を自白。大逆罪で起訴された二人は歴史的な裁判へと進んでいく。
映画の始まりは車夫をする朴烈を日本人の男が満足に代金も払わず足蹴にしたり散々暴力をふるうシーンで身が縮まったが、文子の明るさ、利発さに、そんな気持ちも吹っ飛んだ。二人は会ったその日に文子の「一緒に住みましょう! 」というセリフに会場はドッと笑い声が上がった。
当時の日本における朝鮮人に対する差別はもっとすごかったとおもうが、彼らの周りには、助けてくれたり親身になってくれた日本人も描かれていた。とにかく脚本がよくできていてわかりやすく、当時の状況を知らない方々に観ていただきたい作品だった。