毎年9月、愛知県の主催で行われる「あいち国際女性映画祭」は、今年で22回目を数えました。
この映画祭で上映された『わたしたち』(2016/韓国)は、9月23日公開。
監督のユン・ガウンさんにインタビューができましたので、その記事をお楽しみください。
なお、「あいち国際女性映画祭2017」のレポートは下記からアクセスください。
あいち国際女性映画祭2017
http://www.cinemajournal.net/special/2017/aichi/index.html
『わたしたち』は、少女たちが「いじめという泥沼」からどう抜け出していくのかを描いた映画だ。昨年の東京フィルメックスで観客賞などを受けるなど、評価の高かった作品で、9月~10月にかけて一般公開が決まっている。
小学生のソンは「仲間外れ」といういじめにあっていて、教室ではいつも独りぼっち。そんなソンが、転校生のジアと出会い、休みの間に仲良くなり友情が生まれる。しかし新学期が始まると、ジアはソンを仲間外れにしているボラと親しくなり、ソンを無視するようになる。ソンはなんとかジアとの友情を回復しようとするが…
たった10歳の女の子たちが、嫉妬や裏切り、攻撃などの暗い感情に翻弄され、戸惑ったり悩んだりする様子がリアルでつらい。しかし親子の愛情や確かにある友情などがきらりと光って見え、救いになっている。幼い子の単純な言葉の中にある真実や、傷つきながらも、そこから少しずつ立ち直っていこうとする子どもたちの柔らかい魂が、みごとに描かれた傑作だ。
監督・脚本:ユン・ガウン
企画:イ・チャンドン
出演:チェ・スイン、ソル・へイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン、チャン・ヘジン
製作:チョン・テソン
プロデューサー:キム・スンモ
撮影:ミン・ジュンウォン、キム・ジヒョン
2015年|韓国映画|カラー|94分|1.85:1|DCP 日本語字幕:根本理恵
9月23日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
『わたしたち』公式サイト http://www.watashitachi-movie.com/
提供:マンシーズエンターテインメント
配給:マジックアワー、マンシーズエンターテインメント
1982年生まれ。西江大学で、歴史と宗教学を専攻の後、舞台や美術の仕事を経て、ソウル総合芸術学校映像院へ。ソウルの中学、高校の映画クラブで講義や映画博物館で、メディアについて子供たちに教えながら、映像院在学中に短編映画を演出。
フィルモグラフィ
2009年 『シルビアの味(原題)』
2011年 『Guest』
2013年 『Sprout(原題:豆もやし)』
2016年 『わたしたち』
髙野史枝
ユン監督は、1982年生まれの35歳。まだ女子大生のような素朴で飾らない人柄を感じさせ、子役の子たちとスムーズに溶け込めそうな優しい雰囲気の女性だ。
―この映画を作りたいと思った理由は何ですか。
監督: 私の個人的な経験です。小学校6年生の時、友だちと深い友情を結んでいたのに、それが離れていきました。その時の体験がずっと心に残っていて、いつか映画にしたいと思っていました。ソンもジアも私です。対照的な主人公のようですが、両方の気持ちは1人の人の中にあるのだと思います。
―今、いじめは日本でも大きな問題になっていますが、韓国でもそうなんですか。
監督: はい。表立っての報道には出てきませんが、いじめは学校での大きな問題になっています。子供たちの感情のもつれだけではなく、学校の中の順位(スクールカースト)や、家庭環境でお金持ちか貧乏かという事までが影響している社会問題でもあります。
―シナリオのご苦労があったようですが・・・
監督: 書くこと自体が大変でした(笑)。途中経過もですが、最後にソンとジアがどういう結末を迎えるのかという点で、ずいぶん悩みました。
―『オアシス』や『ペパーミント・キャンディー』の監督として日本でも有名な、イ・チャンドンさんが企画で入っています。彼からはどんなアドバイスを受けたんでしょうか。
監督: 実は、最初に書いたシナリオと出来上がった作品とは大きく違っています。最初はもっとドラマティックで派手な物語だったんです。それをイ・チャンドン先生は『もっと自然に』といい、細かいところよりも、『本当の話、真実が伝わる話に』という指導を受けました。
―キャスティングが素晴らしかったですね。子役たちはどうやって選んだのですか。
監督: 3ヶ月近くかかって100人以上の子役のオーディションをしました。選ぶ基準になったのは経験とかセリフのうまさではなく、重要なのは映画で自分の置かれる状況を説明した時、どんな反応を示すか・・・という点でした。
主人公の、いじめを受けるソン役の子は、実際にもおとなしくて落ち着いた子です。でもよく考えて行動できる頭のいい子。ジアは、ソンと正反対の性格なので、キャスティングもそれを意識しました。魅力的でクールな女の子です。4歳のユン役の子は実際には7歳ですが、小柄で幼い子。途中まではセリフがなくてただ遊んでいればいいという役なんですが、最後に一言だけ印象的な決めゼリフを言わなくてはなりません。それを何度も練習させたので、すごいストレスだったらしく、最後にはすっかり嫌われてしまいました(笑)
―そのほかの演技指導で大変だったのは?
監督: ラスト近くで、ソンとジアがつかみ合いの大ゲンカをするシーンです。実は二人とも大の仲良しなので、ほんとのケンカのように髪を引っ張ったりさせると泣きだしてしまって撮影がストップするんです。仕方ないので私がスタッフとケンカの実演をして見せて(笑)やってもらいました。
―韓国国内での反応はいかがでしたか。
監督: インディーズ映画なので、大ヒットというわけにはいきませんでしたが、それでも多くの方に見ていただけ、『感動した』『よかった』と言っていただけ、嬉しかったです
―ここからユン監督ご自身のことをお聞きします。映画監督を目指したのはいつごろ、 どんなことがキッカケだったんですか。
監督: 監督になろうと決心したのは中学3年生の時です。自然にそう考えていましたね。 人間関係や家族の問題で疲弊した時、いつも映画で癒されていました。映画は人に癒しを与える力を持っていると感じました。私は是枝裕和、小津安二郎監督のファンで、部屋にはお二人の写真が貼ってあります。
―韓国は、女性監督が活躍している国という印象がありますが、その分競争が激しいのでは・・・
監督: それほど女性監督が多いという感じはしないですね・・・。ただ、毎年新人の女性監督は沢山出てきているので(映画学校が多いので、その卒業生も多い)その分、女性監督は沢山誕生しているのかもしれません。
―ユン監督は独身。それは家庭を持つと仕事がしにくくなるからなんですか。
監督: 職業を持っている女性が、家庭生活まであると大変なのはどこの国でも同じでしょう。でも、新しい経験(結婚)とか、子どもたちの親になるという経験はとてもいいのではないかと思います。
―『わたしたち』は、もうすぐ日本でも公開されます。日本の観客には、この映画をどんなふうに見てもらいたいですか。
監督: 文化や状況が違っても、感情は同じではないかと思います。主人公のソンの気持ちになって見ていただけたら…と思います。