2017年1月23日(月) @渋谷
『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』が、2月11日(土・祝)より、109シネマズ二子玉川他全国にて公開されるのを前に、ファイト・ヘルマー監督が来日。
消費者調査のターゲットになったドイツの美しい村に住む子どもたちが、大企業の陰謀に立ち向かう痛快な物語を作った思いをお伺いしました。
*ストーリー*
ドイツの美しい村ボラースドルフ。
4歳の子どもたち、リーケ、マックス、レネ、ポール、スーゼ、ベンの6人はアカハナグマのクアッチと一緒にいつも楽しく遊んでいました。
ある日、消費者調査会社“銀色団”が、ドイツのど真ん中にある、この村を新商品のモニター村にしようと乗り込んできます。市長はじめ大人たちは皆、その申し出に大喜び。
村の老人たちは、さまざまな分野で初めてのことを成し遂げてきた、特別で、ちょっと変わった人ばかりでした。でも、平凡で平均的な村での調査を目指していた銀色団には、そんな老人たちは邪魔な存在です。彼らを老人ホームに追いやってしまいます。
「大好きなおじいちゃんやおばあちゃんを救え!」
6人の子どもたちは幼稚園を脱走して、大親友のクアッチと一緒に“ハナグマ・ギャング団”を結成し、救出作戦を開始します。
「この村はフツー過ぎてモニター村にされちゃった。村を特別にすれば、おじいちゃんやおばあちゃんが帰ってくる!」
そう考えた子どもたちは、あの手この手で村から世界新記録を出そうとがんばります。なかなかうまくいかなくて、あきらめかけたとき、天才クアッチが、画期的なアイディアを思いつきます。それは、“世界でいちばんのイチゴミルク”を作ること!
作品紹介 http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/446661111.html
― 子どもたちが、権力に立ち向かう姿が痛快でした。
監督:おじいちゃん、おばあちゃんと一緒にね! 子どもたちは、まだこんなことはしてはいけないと言われる年齢。一方。おじいちゃんたちは、もうこんなことはしてはいけないと言われる年齢です。
― 老人ホームに入れられてしまったおじいちゃんやおばあちゃんと結託して、巨大企業の陰謀に立ち向かうという物語で、テーマは、世界のあちこちに通じますね。子どもたちが主人公の物語ですが、大人にも共感してもらえると思いました。どんな思いで、この物語を作られたのでしょうか? 何か、きっかけになる事件があったのでしょうか?
監督: 大企業は人々を消費者として見ています。人間の質によっては、消費者として大企業から小さく見られてしまう。ドイツだけでなく、ヨーロッパで大企業に対する懐疑的な見方が広まっています。自分のデータを企業に与えないようにしようという傾向があります。何を買って、何を消費しているのか、カードで購入することで、企業側にデータを与えてしまっていますから。
映画で描いたような小さな村が、企業の調査の為に平均的な村として選ばれます。買い物カードを使って購入させることによって、製品を作っているメーカーは、400ページ位の膨大な資料を貰って、どんな年齢層の人が買ったかを一目瞭然に把握することができます。例えば、青汁コーンフレークはアフリカからの移民が多く買っているとか、子どもの多くいる家族はあまり好きじゃないとか。村だけの為に作った特別なCMを流して、それがテレビで流れた翌日、特に年配の人が買ったなどの情報が全部企業側に伝えられます。これはフィクションではなくて、実際に市場開発の為に行われていることです。ドイツだけでなく、ヨーロッパ各国で行われています。
日本市場に商品を出そうと思うとき、いきなり日本全体でCMを流して、あまり売れなかったら、投入した莫大な費用が無駄になってしまいます。でも、小さな町で、まず試しに、その町の為だけの特別のCMを作って流せば、費用は少なくて済みます。既存の製品の味の違うものや、サイズの違うものを出す時にも、このような手を使っています。
― それを、子どもたちと老人たちの物語に仕立て上げたのは?
監督:ちょっとしたトリックです。 モデルとする村は、平均的じゃないといけない。平均的であることを維持するために、平均年齢も維持しないといけません。日本だけでなくヨーロッパでも少子化が進んでいます。若い年齢層が少ないので、平均年齢がどんどん高くなってしまいますので、一定に保つために高齢者を老人ホームにおくって数に入れないようにするのです。子どもたちはおじいちゃんやおばあちゃんが好きなので、老人ホームから救い出そうと頑張るのです。
― 幼い子どもたちは、初めての演技だったとのこと。とても自然でしたが、どのように演出をされたのでしょうか?
監督:子どもたちに演技を教えることはできません。演じることができるかできないかだけです。こちらから子どもを探したのではなく、オーディションの広告を出して、応募してきた約1000人の中から選びました。どこかしらに才能のある子がいるものです。子どもの親にお願いするようなことはしたくなかったのです。オーディションをするから来てくださいという広告を見て来てくれる人は、映画作りに参加することに興味があるということ。10週間の撮影期間中、親は毎日、子どもを送り迎えする必要があります。応募するということは、それが出来るということです。最終的に、一番腕白な子どもたち6人を選びました。
― ほんとに楽しい子どもたちでしたが、撮影中、困ったことはありましたか?
監督:ドイツでは困ったことより、何かチャレンジングなことはありましたか?と聞かれました。問題がなければつまらないです。ポジティブに考えます。
― やんちゃ過ぎて困ったことは?という意味でした。
監督:そりゃもう色々あったけど、過ぎてしまえば、いい思い出としてしか残っていません。素晴らしい時間でした。
― 監督のお子さんは出たいと言わなかったですか?
監督: 息子は出演した子どもたちと同じ年代なのですが、当時パリに引っ越してしまって、会えなくて寂しくて、仕事が手に付かないほどでした。彼の為に映画を撮るというアイディアが私を助けてくれました。 実は、脚本家として息子の名前もクレジットされています。各地の映画祭にも一緒に行きました。
― 脚本家としてということは、息子さんがアイディアを出してくれた部分があるのですか?
監督: 大部分! (笑) 消防車が出てるといいなに始まってね!
― いろんなものを壊したりする場面など特に息子さんの希望ですか?
(注:子どもたちが清掃車の高い運転台に乗り込んで道路を暴走するうちに横転。トラクター、汽車、蒸気船、消防車・・・と、連鎖的に事故を起こして村のインフラも建物も破壊してしまいます。)
監督:あれは壊すというネガティブな言い方よりも、事故を起こすというアイディアです。子どもが一人しか出ないのであれば、息子を使うことも可能だったのですが、複数の子どもが出るとなると難しい。私の息子は他の子より監督である私から愛されることを望むし、愛される権利もあります。撮影中は、6人に同じように愛を注がないといけません。皆、褒めてもらいたいと思っています。でも、時には厳しく注意しないといけないこともあります。そんなことをしたら私の息子は耐えられなかったと思います。
― 息子さんを映画祭に一緒に連れていった時には喜んでいたでしょうね。
監督:そりゃもう! あちこちの国でレゴを買うのが楽しみでした。ほんとにレゴが好き。父親である私よりも好きみたいです。
― 演じた子どもたち自身、映画を観て、どのような反応を示しましたか?
監督: それはもう、観てすぐ、もう1回観たいと言うくらい気に入ってくれました。
でも、10週間の撮影中は、撮ったものを途中で観せることはしませんでした。何らかのイメージを持ってしまいますので。最初のラッシュが出来た時に、100分位のものを観せました。親たちは100分は長いので、子どもたちが全部観てくれないのではと心配していたのですが、ずっと座って観てくれて、終ったらすぐ、もう1回観たいと言いました。
― 子どもたちは、特にどの場面がお気に入りですか?
監督:ハナグマが出てくるところですね。
― ハナグマの名前「クワッチ」が、この映画の題にも入っていますが、どんな意味ですか?
監督:馬鹿なこと、“ナンセンス”なことという意味です。子どもが行儀悪いと、「クワッチなことをするな!」と注意したりします。悪ふざけするなという感じですね。
― ドイツの人は、タイトルを見て、どんなイメージを持ちますか?
監督:楽しそうな映画だなと思ってくれると思います。子どものための楽しい映画だろうなと。
― ドイツでは、子どもの為の映画はどれくらい作られているのですか? 例えば、イランでは青少年知育協会があって、そこで子どもの為の映画をたくさん作っています。
監督:ドイツにも児童映画を国が奨励する協会があります。でも、既存の児童文学の映画化が多くて、オリジナルの脚本で作るのは難しいです。特に配給会社にとって、皆が知っているタイトルのものは取り上げやすいのですが、知られていないものはリスクがありますので。
― 本作のドイツでの反響はいかがでしたか?
監督:長い期間上映してもらいました。午後の時間帯だと、競合する映画がなくて、よかったようです。例えば学校や幼稚園の授業の一環として皆で観にいったりもしてくれました。映画を観るだけでなく、映画を作ることも、映画を観て学んでもらえるといいなと思いました。
フランスでは、子どもたちが自分で映画を作る場を設けているのですが、この映画の一番最後のところでも、子どもたちが映画を作っている場面を入れています。
iPhoneなどでも、今は簡単に映画を観ることができます。それが、どのように作られているのかを学べればいいなと思いました。
― 監督の『ゲート・トゥ・ヘヴン』を観たのは、もうずいぶん前ですが、移民の多いドイツを反映する物語で、とても印象に残っています。初の長編『ツバル』はブルガリアで撮影。その後、アゼルバイジャンやカザフスタンを舞台にした作品も撮られています。実は、私はイランやトルコ、中央アジアやコーカサス地域にとても興味がありますので、監督のご経歴を観て、ぜひお会いしたいと思いました。
監督:僕はイラン映画が大好きです。イランは検閲がすごく厳しくて、映画を作るのが難しいのに、イランの監督たちはイランについて微妙なことをシンプルに表現する感覚を持っていると思います。でも、自分がイランで映画を撮るとなると状況はとても難しいと思います。
『Absurdistan』のカメラマンはイランの方でした。アゼルバイジャンはイランの隣の国ですし、アゼルバイジャンの方はイランにもたくさんいらっしゃいますよね。
― “Absurdistan”自体、ペルシア語と同じですね。ab 水、surd 冷たい、stan 国や土地という意味です。
監督:曲は日本人の方がつけています。日本ではまだ上映されてないし、DVDも売られてないのですが。
― ネットで買えますので! 次の作品は、どこで撮る予定ですか?
監督:二つのプロジェクトを考えていて、一つはドイツで、もう一つはまたアゼルバイジャンで撮ろうと思っています。まだまだ初期段階で、何もお伝えできないのですが。
― グローバルな目線で映画を作られているので、今後も楽しみにしています。
監督:ありがとうございます。まずは、この『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』を最初の週末に観に行ってくださいと、宣伝よろしくお願いします!
最後に写真を撮らせていただきました。
飛行機や消防車の模型を掲げてくださったり、イチゴの入ったバスケットを抱えてくださったりと大サービス。イチゴを一粒くださいました。とっても楽しい取材でした。テーブルには、イチゴミルクのキャンディとジュース。美味しい取材でもありました♪