2014年2月8日(土) 銀座ブロッサム中央会館にて
シネマジャーナル本誌90号の最終編集日直前におこなわれた「第87回キネマ旬報ベスト・テン表彰式」。とても行っている余裕はないと思いつつ、インタビューさせていただいた三上智恵監督の『標的の村』が文化映画ベスト・テン1位になったので、やはり行こうと出かけました。
遅くなりましたがレポートします。
授賞式当日は大雪が降り積もっていた。
フジテレビ アナウンサー笠井信輔さんの司会で、「朝から雪で、天は我々を見放した(笑)と思いました。TVであんなに外に出るなと言っている中、たくさんの方がこの授賞式に参加していただき、皆さんこそ真の映画ファンでございます」という挨拶から始まった。ちなみに笠井さんのベストワン作品は『遺体 明日への十日間』だそうです。
「キネマ旬報ベスト・テン」は、日本で最も長い歴史を誇る映画雑誌『キネマ旬報』が1924年(大正13年!)より主催してきた映画賞。今回は87回目ということで、世界的に見ても非常に長い歴史ある賞で、アメリカのアカデミー賞より1回多く開催している。
最初に、キネマ旬報社社長 清水勝之さんや、特別協賛のCS映画専門チャンネル・ムービープラス社長宮田昌紀さんの挨拶があり、「ムービープラスアワード2013」の発表の後、キネマ旬報賞の受賞者に、賞状とトロフィが授与された。プレゼンテーターはキネマ旬報編集長の明智惠子さんが務めた。
日本映画作品賞1位の『ペコロスの母に会いに行く』は森﨑東監督が体調が悪くて参加できず、代理で浜田毅撮影監督が登壇。「荒井さんや石井さんの作品を押さえて1位を獲得したのは最高です。森﨑監督は86歳ですが、思った以上にパワーがあり、まだまだ健在」と語った。
外国映画作品賞1位の『愛、アムール』(ミヒャエル・ハネケ監督)は、 配給のロングライド波多野文郎さんが代理で受賞。「このような名誉な賞をいただきありがとうございます。この映画をご覧いただいた映画ファンの皆さまありがとうございました」
文化映画1位、『標的の村』は三上智恵監督が登場。「TVの世界で20数年。まさかキネマ旬報の賞を獲る日が来るとは思いもよらずびっくりしています。琉球朝日放送で流しているローカルニュースが全国にまったく伝わっていかない。特に基地問題が全国ネットに載らないという中で、世界に伝えていく方法がないかと考え、たどり着いたのが映画でした。沖縄が発するSOSを一番受け止めてくれたのが映画ファンだったということで、感激でいっぱいです。東京を中心とした日本の利益と、沖縄の利益が一致しないことがたくさんあるんですね。それを沖縄に軸足を置いて作ったということで賛否が分かれるのは仕方がないですが、否の方もものすごく肥しになるというのを実感しました」
シネマジャーナルHP 三上智恵監督インタビュー記事
http://www.cinemajournal.net/special/2013/hyoteki/
日本映画監督賞『舟を編む』は読者選出監督賞とダブル受賞。石井裕也監督は「このような賞をいただけたのも、スタッフや役者の方たちのおかげです。ありがとうございました」と挨拶。4作目にしての受賞ですが、すでに5作目の『ぼくたちの家族』が完成しています。映画作りが楽しくなってきているのではないですかという質問に対して、「プレッシャーを感じています」との答え。
外国映画監督賞、アルフォンソ・キュアロン監督『ゼロ・グラビティ』は、ワーナー・ブラザースで宣伝を担当した出目宏さんが代理で受け取り、監督からの手紙を代読。「『ゼロ・グラビティ』は私たち全員の愛情の結晶であり、この映画に関わったスタッフ、キャスト全員の努力と挑戦を認めていただけたのは大変嬉しいことです。日本でこれだけ高く評価されたのは私たちにとってとても意味のあることです」と、メッセージ。
脚本賞は『共喰い』の荒井晴彦さん。プロデューサー、監督、原作者に感謝を述べた後、「映画がわからないのに、口出しする原作者が多い中で、奇跡的に良い原作者でよかったです。原作があるのにやると、人のふんどしで相撲をとると、あまりよく言われませんし、荒井さんは人のパンツを洗って、はいて自分のものにしてしまうと、変態みたいな言い方もされたりしましたが、そういう仕事を認めてくれてありがとうございます」
主演女優賞は、『さよなら渓谷』『そして父になる』『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』の真木よう子さん。「『さよなら渓谷』のかなこはとても難しい役で、周りの方たちの支えがなければ乗り越えられなかった役なので、その方たちと一緒にいただいた賞と感じています」
対象となっている3作品でまったく違った役を演じていますが、撮影中は役に引きづられたりはしないのですかという質問に、きっぱりと「しないです。現場に入って、衣装を着て、メイクをして、相手の方と対面して、そこからという感じです」と答えた。思い出深い作品はという問には「どれも思い出深い作品ですが、種類の違う思い出深いですね。『さよなら渓谷』が芝居をするという面では現実を捨てた作品なのではないかと思います。『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』はすごく変化のある役でした。女性3人がいい距離感でいられたので、心地よい現場でした」
主演男優賞は、『舟を編む』の松田龍平さん。「主演男優賞をいただき、とても嬉しいです。自分でもぎ取った感じがしなくて、気づいたらいただいていたという感じ。僕をキャスティングしてくれた方、スタッフ、キャストのみなさんのお陰で、この場所に立っています。とても静かな辞書を作る映画ですが、撮影現場はエキサイティングでした。僕のやれることをぶつけさせていただいた。石井裕也監督も、日本映画監督賞と読者選出日本映画監督賞のふたつを獲って、これ以上うれしいことはないです」と、淡々と語った。
司会者から、この映画賞では「新人賞を獲ると、その後、主演男優賞を獲れない」というジンクスがあるけど、それを初めて破ったと聞かされ、「やってやったぞ!」と照れながらも静かに喜んだ。松田さんは、14年前(1999年)に『御法度』(大島渚監督)でキネマ旬報新人男優賞を受賞している。
助演女優賞は、『共喰い』『はじまりのみち』で 田中裕子さん。「映画をたくさんの人に観てもらうのは、なかなか難しいことだと思っていますが、こうやって受賞させてもらうと、ほんとに観てくれた人がいるんだなという実感を感じ嬉しいです。『共喰い』『はじまりのみち』の監督やスタッフの皆さん、ありがとうございました」。
「田中さんはキネマ旬報賞は3度目の受賞ですが、最初は1983年の『天城越え』で主演女優賞を受賞しています。その時の主演男優賞は『家族ゲーム』の松田優作さんで、キネマ旬報の表紙で二人並んでいました」と、キネマ旬報の表紙が登場。「そして、今日は息子さんの龍平さんと並んでいる。親子2代、隣りにいるというのは、とても素晴らしいことです」と司会の笠井さん。それに対して、田中さんは「超うれしいです!」と答え、会場は大爆笑。
助演男優賞は、『凶悪』『そして父になる』のリリー・フランキーさん。「大雪の中、銀座を通ったら、銀座がすすき野みたいになっていた。そしてタキシードを着たのはカンヌ映画祭以来です。今年2本だけ出させてもらった作品で賞をもらえて、運が良かったなと思っています。20代からずっと映画に関する原稿を雑誌に書いていて、いつかキネマ旬報の映画の原稿を書きたいなと思ってきましたが、今日に至るまで一度も書かせていただいていません(笑)。そんな僕が20年後に、出演の方で評価していただき賞をもらうとは想像もできなかったので本当に嬉しい。だからこそ、今回の賞だけはピエール瀧にだけは獲られたくなかった」と語り、会場は大笑い。
両極端の人物を演じていましたが、公開はほとんど同時でした。「そうなんです。『凶悪』を観にいった人が、その後『そして父になる』を観にいくと、電気屋のお父さんがいつか人を殺すんじゃないかと思ったと言っていました」
今回、『凶悪』『そして父になる』のどちらの演技の方が選者の皆さんは評価していたと思いますか?という問いに対しては、リリーさんは答えなかったが、同数だったと聞いて、「どっちか言わなくてよかった」と答え、またまた会場は大爆笑。授賞式で一番盛り上がった場面だった。
新人女優賞は、『舟を編む』『シャニダールの花』『草原の椅子』『まほろ駅前番外地』『くじけないで』の黒木華さん。良い作品にめぐまれた黒木さん。監督やスタッフに感謝の言葉を述べ、「これからも精進していきたい」と語った。どんな役がやってみたいですか?という問いには「着ぐるみの役」と答えた黒木さん。
この後、行われたベルリン映画祭で、山田洋次監督の『小さいおうち』で、主演女優賞を受賞している。
新人男優賞は『少年H』の吉岡竜輝君。13歳で賞を獲ったのはキネ旬ベストテン史上、初めてとのこと。緊張しつつ「初めて出た作品で受賞できて嬉しい。松田龍平さんを超えて、今度は主演男優賞、助演男優賞を獲りたい」と、受賞の喜びを語った。「初めてついでに言うと、東京が雪国になったのも初めて見ました。緊張してキョンシーのようになってしまった」と、語り、会場を沸かせていた。歌舞伎役者を目指しているのですか?との質問に「いわば派遣社員のようなものです」と語り、再度会場に大うけ。将来楽しみです。
読者賞は「百年の闇 キネマの幻」の荒俣宏さん。13歳の吉岡君に続き、67歳の荒俣さんの登場。「今までずっと、私は小説の賞を与える方をやってきました。与えるばかりでもらったことはないので、羨ましいなと思っていました。今回はとても嬉しく思います。今日はこの大雪で、この世では恵まれないと思いましたが、今日一番嬉しかったのは、会場にたどり着いてみたら、こんなにたくさんの人が来ていたことです。思わず、皆さんの幸福を祈らざるを得なくなり、心から祈りました。残念なことに来られなかった人には、思いっきり不幸になるように祈っています。これでバランスが取れると思います。
映画は子供の頃からたくさん観てきました。家がたばこ屋だったので、周りの映画館のポスターを壁に貼り、その代わりに映画を観させてもらいました。たぶん観た映画はものすごい数だと思います。自慢は、昔の映画館は一回入ると動ける余地がないくらいの大繁盛で、小さい子は舞台に上がって銀幕を下から観ていたこと。したがってどういう映画かまったくわかりませんでした。トイレに行けないので広い舞台、銀幕に向かい自由にしていました。こういう体験を持っていたので、今回キネ旬に連載するにあたり、映画の楽しさ、面白さというのは、画面を観れなくても何かあるんじゃないかということで、的確なコラムというよりは、変なコラムを心がけてきました。まさか、読者の人は選んでくれないだろうと思いましたが、選んでいただき心から喜んでいます。最大の理由は、淀川長治さんが獲ったのと同じ賞、しかも読者の人からの選出。なんと言っても売り上げに繋がるんです。それが最大の喜びであります。ありがとうございました」。キネ旬の連載は、他の連載と何か違ったものはありますかという問いには、「違ったものはそんなにないのですが、映画だけは、自分も長いこと観ていますから、映画を観るお客の立場で書くことができました。それとTVと違う映画の素晴らし世界を伝えたいというのが大きかったです。わざと闇という言葉を使ったのは、そのせいです」
さすがに、荒俣さんのうんちくには脱帽でした。新人女優賞を受賞した黒木華さんの作品、『舟を編む』『シャニダールの花』『くじけないで』は観ていなくて、『小さいおうち』で初めて彼女のことを知りました。これを観た時、こんなレトロな感覚の女優さんがいるんだと思ったのですが、登場した黒木さんは、やっぱり現代女性でした。彼女が出演した作品を、機会があったら観てみたいと思います。
吉岡竜輝君は歌舞伎役者を目指しているとか。将来が楽しみです。
そして、なんと言っても『標的の村』の三上智恵監督が受賞したのが一番嬉しかった。でも、こういう映画が認められるのは嬉しいけど、現実は逆で、オスプレイはどんどん配備されていっているし、辺野古の基地建設は、どんどん進んでいきそうなのが虚しい。それにしても、去年は日本のドキュメンタリー作品に素晴らしい作品が多かったと思う。
司会の笠井さんが、『遺体 明日への十日間』が、自分のベストワンと言った時、シネマジャーナルのベストテンで、その作品を入れ忘れたと思った。シネマジャーナル90号もスタッフと読者のベストテン特集号です。こちらもどうぞよろしく。連絡先は下記に掲載しています。(暁)
(なお、2月より順次、全国劇場にて「2013年 第87回キネマ旬報ベスト・テン特集上映」が行われています)