昨年の大阪アジアン映画祭で行われたジョニー・トー監督へのインタビュー。シネマジャーナル本誌88号( 2013年 夏発行 )に掲載されましたが、『ドラッグ・ウォー 毒戦』が2014年1月11日に公開されるのを記念して、本誌に載せられなかった部分を加えてHPでも掲載します。
1955年香港生まれ。香港のテレビ局TVBに入社し、多くのTVドラマを演出。1980年代末より映画製作。『過ぎゆく時の中で』『ワンダー・ガールズ 東方三侠』 『ザ・ミッション 非情の掟』『暗戦 デッドエンド 』『Needing You』 『PTU』『エレクション』『エグザイル/絆』『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』など。『ドラッグ・ウォー 毒戦』は50作目。ロマンティックコメディやラブストーリーもの、アクション、ノワールものまで多彩な作品を作り、香港を代表する監督に。
最近の作品としては、『単身男女』『高海抜の恋』『奪命金』『名探偵ゴッド・アイ』などがある。
中国大陸を舞台に、麻薬製造密売グループと麻薬を取り締まる捜査官との駆け引きを描いている。麻薬ディーラー役に香港の人気俳優ルイス・クー(テンミン役)、覆面捜査官役に中国の演技派俳優スン・ホンレイ(ジャン刑事)が扮する。
麻薬製造工場の爆発のため逃げ出し逮捕されたテンミンが、死刑を逃れるために捜査協力を願い出て、二人で組んで麻薬組織の摘発に奔走する。
騙し騙されの末、麻薬取引を牛耳っている人物がわかり、杜琪峰監督お得意の激しい銃撃戦が展開される。
監督は「大陸版の杜琪峰映画として観ていただきたい」と語っていたが、大陸で撮ったとはいえ、やはり杜琪峰印の作品だった。そして最後は、お決まりの銃撃戦。全編中国大陸での撮影。
来日した杜琪峰監督にグループインタビュー(大阪アジアン映画祭事務局他)できたので、そのレポートを。
Q(映画祭スタッフ) この映画祭に4年連続最新作を出品していただきありがとうございます。この映画祭に出品していただけるのはなぜでしょう。この映画祭の魅力は?
杜琪峰監督 会社として年に少なくとも1本は映画を撮るというポリシーがあるのですが、今のところ年に1本半くらいのペースで撮っています。ワイ・ガーファイという脚本家のパートナーがいるのですが、彼が脚本を書いてくれている間に私が映画を撮るというというパターンでやっています。
ベネチア、カンヌなど大きな映画祭には60年以上の歴史があり、ヨーロッパはそういう映画祭があるから盛り上がる。映画祭が推進力になっている。特にカンヌの場合は芸術性と市場性を持つものだなと思います。それぞれの映画祭が特色を持っている。どの映画祭が良くて、どの映画祭が悪いということはまったくないです。
映画に関する理解、奥深さで考えると、ヨーロッパの中ではフランスが一番いろいろなことを取り込むのにアグレッシブで、いろいろな文化をどんどん取り入れていると思う。それゆえにカンヌは世界から注目されている。
大阪に関していうと、世界の映画祭と較べるとアジアの映画に特化しているのでインターナショナルとは言い切れない。アジアだけにフォーカスするのではなく広げてゆくのは観客の力にかかっている。アジアの映画を大阪アジアンで上映することによって市場とか上映の機会が広がるのであれば、大阪アジアンの特色になって売りになってゆくと思う。アジアだけでなく、いろいろな文化にオープンになっていくことで、大阪アジアン映画祭の地位が上がっていくと思う。大阪はアジアの、映画を楽しむ中心になってほしい。大阪アジアは8回目と、まだ若い映画祭です。皆さんがこの映画祭を盛り上げて行こうとしている形が続けられればもっともっと大きくなっていくと思う。
Q 上映前のスピーチで「大陸版のジョニー・トー映画として観ていただきたい」とおっしゃっていましたが、まー、今までと同じジョニー・トー監督らしい作品だと思いました。随所に笑うところはあるが、今までの映画に較べて哀愁のようなものは薄いかなと思い、少しハードな感じを受けました。大陸の検閲の影響などがあるのですか?
どういうところに検閲というか規制のようなものが入ったのでしょうか。
監督 公安に関するストーリーに関しては、二つの審査を通らないとならない。まず公安の人が観てOKをもらう必要がある。公安に対して不正確なことを言っていないか。イメージを壊すようなことがないかをチェック。そういう事情があるので、今まで大陸で警察に関する映画は撮ってこなかった。10年くらい前、黒澤明監督の自伝映画を観たのですが、この作品も大陸の映検とかなりケンカして、やっと作ったらしい。
時代というのはぐるぐる回ってくるものなのですが、今回のターニングポイントになったのは、公安が自分たちのことをテーマにした映画をそろそろ作らないといけないという機運が出てきたこと。というところで、一昨年(2011年)「撮っていいよ」という批准をもらった。その時に他にも何本か批准をもらったのですが、そこからが始まりです。
今までの警察ものと何が違うかというと、公安が撮ってほしいといって作り始めたこと。作り始める時にどうしたらうまいこと通るかということを考えると、自分たちの脚本でこういうのがほしいというのがあるのですが、それより先に公安がこれを見てどう思うか、これを通してくれるかということを考えつつ、それにそって脚本を変えている。脚本の設計というのを今回しました。公安の希望が先にありきです。
何を注意しなくてはいけないかというポイントですが、まず、あまり人が死んではいけない(エーッ、あんなにたくさん死んでいるのに!と参加者大笑い)。これでもかなり減らしました(監督、笑いながら)。公安としては、自分たちの仕事がそんなに危ない仕事だと思われると公安になる人がいなくなるので、あまり人を殺すなと言われた。又、銃撃戦のシーンを多くするなと言われ、撮ったものをかなりカットしました(あんなにあったのにと、参加者、再度エーッという声)。
Q 『単身男女』『高海抜の恋』など、古天楽(ルイス・クー)主演の作品が続いていますが、古天楽を起用した決め手は? また、林家棟(ラム・カートン)、林雪(ラム・シュ)、ロー・ホイパンなどジョニー・トー印の常連俳優が出てきますが、これは必ず出すというような決まりごとでもあるのですか?
監督 なぜ古天楽かということは良く聞かれます。キャスティングに割く時間がもったいないというのがまずあります。また、彼は何回も私の作品に出演していて、私のやること、イメージを信頼しているので、時間があったら必ず来てくれるのでやりやすい。古天楽は中国国内で人気があるので、彼を出しておくと売り上げがいいというのもひとつの選択です。
常連俳優のことですが、自分のチームにしているわけではないけど、いつも一緒にやっているので、お互いに信頼ができている。彼らが人間としてとても良い人だということもあってやりやすい。ずっとやってきているので、いろいろなことをいちいち言わなくても僕のやり方をわかっている。
映画っていうのは、監督がこうやってほしいと言ったら、その通り動いてほしい。俳優がごちゃごちゃ言うのではなくて、その役をちゃんとやってくれればいいのであって、僕が言うとおりに動いてくれる俳優の方がやりやすい。それもあって、僕のやり方をわかってくれていて、ごちゃごちゃ言わない人を使いたい。黒澤明監督もそうだと思います。というのは黒澤監督の映画も、ほとんど同じ俳優が出演しています。僕と同じような考え方だったのではないかと思います。
参加者 常連の俳優たちが出てくると「ニヤリ」とするんですよね。「出た。ジョニー・トー印って思うんです」(笑)
Q 映画の中で日本のヤクザの名前が出てきますが、日本語字幕では「山王組」となっていたのですが、英語字幕では「山口組」と出ていました。どちらが正解なのですか?
監督 ほんとうは、山王組でも山口組でもない(エッーとの声)。大きな組織ではなくて、少人数の何組かの組織、たとえば7人組みたいのがいくつもあって、細かい組織がドラッグを扱っているという構想なんです。
Q 次回作ですが、『黒社会3』の企画を進めていると聞きました。それは『黒社会2(エレクション 死の報復)』の最後が大陸の黒社会との繋がりを描いていたので、今回の経験が影響しているのですか?
監督 次は『黒社会』ではなく、『単身男女2』です。その後は歌が入っているものを計画しています。『黒社会3』については、多かれ少なかれ、今回の経験が影響しています。今、考えている内容というのは、非常にデリケートな内容なので、そう簡単に撮れるとは思っていません。10年後くらいにと言っていましたが、もう少し遅くなるのではないかと思います。自分が撮りたいと思うものを撮れなかったら無意味なので、撮れる時期に撮りたいと思います。いつできるかは、今はまだわからないけど、撮れるのは、大陸の言論の自由がもっと広がった時だと思っています。
杜琪峰監督にインタビューするのは10数年ぶり。2000年頃の香港電影金像奨の時以来だ。朝、早かったにも関わらずちゃんと時間に来てくれて、トレードマークの葉巻を手に質問に答えてくれた。マニアックな質問(笑)にも答えてくれた。「大阪アジアン映画祭では4年連続で新作を上映しているが、次回はぜひ、アンディ・ラウ&サミー・チェンの『盲探』を上映してほしい!」と、シネマジャーナル本誌88号には書いたが、今、この作品は『名探偵ゴッド・アイ』という日本タイトルで公開されている。こちらもぜひごらんください。
http://www.cinemart.co.jp/theater/special/hongkong-winter2013/lineup_01.html
(宮崎 暁美)