今年の東京国際映画祭は、10月17日(木)から10月25日(金)と、平日に始まり平日に終るというスケジュール。オープニングのグリーンカーペットもけやき坂は使わず、アリーナのみで行われました。取材の案内図をみると、私のカメラではとてもいい写真は撮れないと判断。毎年グリーンカーペット取材を楽しみにしていたのですが、今年は家で中継を観ることに。翌日から連日スケジュールがびっしりだったので、体力温存という目的もありました。18日から24日まで、それこそ合間にゆっくり食事をする時間もないくらい、映画鑑賞、記者会見、Q&A取材、個別取材に明け暮れました。充実の映画祭でした。
詳細はシネマジャーナル本誌89号でお届けしますが、ここでは私が取材した記者会見やQ&Aの写真を中心に私の観た東京国際映画祭をお届けします。 (景山咲子)
うらぶれた海辺のモーテルPalma Real。叔父の入院中、「無関心が大事」と管理を任された17歳の少年セバスチャン。恋人からいつも待ちぼうけを食わされている女性ミランダと親しく話すようになる・・・
特に大きな出来事も起こらないけど、細やかに感情を描いた作品でした。
映画を撮るうちに実際に大人になっていくセバスチャンを描けたことが嬉しかったと監督。
ミランダ役の女優さんの美しさに魅せられましたと、うっすら髭を生やし、ちょっぴり大人っぽくなったクリスティアンさんでした。
海外公演の決まった演劇グループ。主役女優の父親が外国行きを反対して彼女のパスポートを取り上げてしまい・・・という物語。
主演のネダ・ジェブライーリさん、成績が良くて大学で数学を専攻。お父さんはエンジニアになってほしくて女優になったことを反対していたそうです。
アミール・ナデリ監督が、19日に引き続き20日の上映にも駆け付けて激励していました。(来る前に、面白くなかったら殺すぞと言っていたとか・・・)
40歳独身男のサンドロ。親友に誘われネットで知り合った女性とデートするも不発。女子サッカーを応援しにいって知り合った人妻マナナと意気投合。夫の出所を迎える彼女を刑務所に送っていき、成り行きで夫を車に乗せることになる。あげく、夫が妊娠させてしまった女性の相手と間違われてしまう・・・ なんだか情けないサンドラですが、まじめな高校教師で実に人がいい。
演じたアンドロ・サクヴァレリゼさんはプロの俳優ではなく、冴えない人物をと見た目でキャスティングされたそうです。男優賞をあげて欲しかった!
ユーモアたっぷりの物語の背景に流れる切ない音楽・・・、人生は喜劇と悲劇のミックスとレヴァン・コグアシュビリ監督。 『流れ犬パアト』の上映時間が迫り、記者会見は10分で退席。もっとお話を聞きたかった! (という次第で、登壇したレバン・コグアシュビリ監督とプロデューサーのスリコ・ツルキゼさんとオレナ・イェロショバさんの3人の写真は撮れず)
アイスランドの荒涼とした大自然を舞台に、馬の目に写る人間社会がユーモアを交えつつも鋭く描かれた作品。吹雪の時、暖を取るため馬のお腹を切り開いて中に入るシーンにびっくり。馬に寄り添うくらいでは暖を取れない厳しいアイスランドでは、よく知られた手段とか。葬儀の場面が2度。死は人生において避けられない事実であることを突きつけられました。
監督も撮影監督も馬が大好き。ほかのヨーロッパの国では金持ちしか飼えない馬が、アイスランドではたやすく飼えるため、馬好きの人たちが馬と暮らすためにアイスランドの農民と結婚したりするケースもあるそうです。
父が亡くなり落ち込む母。3人の子のうち、唯一働いている長女の肩に責任がのしかかる。重圧から逃れようと、長女は善良だが学歴のない同僚の男性の求婚を受け入れる・・・。初キスしたあと家に帰って必死に歯磨きしている姿は女性監督ならではの場面。
16歳の時に父親を亡くした監督。自身の書いた戯曲を学校で上演した時に家族が誰も観に来てくれなかったことなど、末っ子に思いを反映させたそうです。脚本を手がけてきたデニズさんの初監督にあたって、映画監督である夫が後ろに回って支えてくれたとのこと。15ヶ月の赤ちゃんを置いてきたので寂しいとも。初監督作品とは思えない大胆さもある一方、きめ細やかに感情を描いた作品でした。
『シチリアの裏通り』の上映が16:11に終って、16:30から始まるイベントには、もう入れないかもと思いつつアリーナへ。ムービーカメラ取材位置のすぐ脇に入れてもらうことができ、かえってラッキーでした♪ 奥様を伴って降り立つとアリーナは歓声で包まれました。 ムービー取材に1社1社丁寧に応じながら進まれたので、ばっちり声も聞けました!
耳のピンと立った犬の後姿に惹かれたのか、チケットはあっという間に売り切れの人気。 飼い主が亡くなり野良犬となったパアトの目を通じて、大都会テヘランに潜む問題が浮き彫りにされる。一時婚(既婚男性の合法な浮気)で妊娠した女性、麻薬所持で捕まりそうになってパアトに飲み込ませる男たち・・・ 客席にいたアミール・ナデリ監督が「全体的に暗いので、今後は映画にリズムを。でも、作品を観てあなたには明るい未来が待っていると確信しました。おめでとう」とコメント。 『ルールを曲げろ』のベーザディ監督も一言述べられ、Q&Aの司会をしていた石坂さん、まるで映画学校の卒業評論のようとおっしゃいました。 二人の先輩のコメントに緊張のアミル・トゥーデルスタ監督でした。
2007年『時間と風』上映時にインタビューした折、毎回違ったリズムで撮りたいとおっしゃっていた監督。今回も、これまでと違ったタイプの作品でした。
一貫しているのは芸術性の追求。続けざまに作った『歌う女たち』と『Jin』もテイストが全く違うのに、どこか相通じるものを感じました。
49階の部屋でインタビューしていたら、窓拭きのゴンドラが窓の外に。面白がって写真を撮る監督。「高所恐怖症なので、僕には無理な仕事です」とおっしゃるので、「『Jin』で山の絶壁で撮った場面は大変でしたね」と言うと、「怖いものが人を惹き付けます。怖いことがなくなるようにと思って挑戦するのです。
『歌う女たち』では、女性たちが「何も怖くない」と言いますが、自分はまだまだ怖いものがあります」と答える監督。「女性が怖いですか?」と問うと、「怖いのは男。女性は希望を与えてくれるものです」とにっこり。
幸せな家族を装って暮らす北朝鮮の工作員たち。ミスを犯せば国にいる本物の家族の命も危ない。かたや隣に住む喧嘩ばかりしている家族。資本主義にどっぷり浸った隣家との対比が強烈。やがて、北の工作員たちにつらい指令が・・・
キム・ギドクが脚本と製作を手がけたとあって、記者会見も満席で熱気に溢れました。
南北統一を願って脚本を書いたと熱く語るキム・ギドク。イ・ジュヒョン監督は、キム・ギドクから脚本を貰って、自信は持てなかったけれど内容が気に入り挑戦。家族愛が生じてイデオロギーが崩れていく姿をどう演出するか苦心したと語る監督に対し、実際に出来た作品は予想以上にいいものだったと褒め称えるキム・ギドクでした。
観客からの「監督はキム・ギドクさんに意見を言えたのでしょうか」との問いに、「怖そうに見えるかもしれませんが、心が開かれていて固定観念に捉われることのない方。撮影に入ったら、私を信じて現場にはいらっしゃいませんでした」と答えるイ・ジュヒョン監督。
キム・ギドクも、「自分が脚本を書いて演出を任せた映画が数本ありますが、自分が演出するより健康的で、より多くの観客に見てもらえるので良い結果になったなと思います」と語りました。
大学に入った女の子の恋と別れ、そして10年後の再会を描いた甘く切ない青春物語。
女優ヴィッキー・チャオの初監督作品。北京電影学院の卒業製作として撮った本作、学校始まって以来の99点の評価を得たそうです。
1990年代初頭の雰囲気を撮れる大学が少なくて、3つの大学で撮影。大学側からは「もっと綺麗な建物があるのに、壊して建て替えようと思っているところばかり使うのか」と言われたとか。寮の部屋の壁にレスリー・チャンの若い頃のポスターがあったり、ハッケン・リーの歌う「紅日」が流れていたり、あの時代を懐かしく思い出しました。
中国で大ヒット中の本作。「私が監督したから観に行ってやろうというのもヒットの小さな理由でしょう。今の中国の人たちの関心が経済に向かっていて、青春時代、恋愛したりしてもっと無駄な時間を過ごせばよかったという思いもあって気に入ってくれるのではないかと思います」とヴィッキー。
「自分の撮った映画が海外で上映されて、討論できるとは予想していませんでした。自分の出演した映画が上映されるより嬉しかった」と、目を輝かせていました。