於:2013年9月15日(日) 東京・シネマート六本木
公式サイト:http://coldwar-movie.com/
★2013年10月26日(土)シネマート新宿にて公開
*ストーリー*
香港の繁華街で爆破事件が起こり、その後5人の警官が何者かに拉致された。
香港警察副長官で行動班のリー(梁家輝/レオン・カーファイ)は捜査本部の指揮をとり非常事態を宣言する。だが拉致された警官の中にリーの息子ジョー(彭于晏/エディ・ポン)が含まれていたことから、もう一人の副長官で管理班のラウ(郭富城/アーロン・クォック)はリーのやりかたに疑問を抱き、2人は対立を深める。事件を発端に、警察内部の汚職疑惑、そして複雑な権力闘争が明らかになっていく。
第36回香港電影金像奨で11部門にノミネートされ、過去最多の9部門で受賞した2012年香港映画界最大の話題作がいよいよ日本公開!
シネマジャーナルHP作品紹介
http://www.cinemajournal.net/review/index.html#cold_war
美術スタッフ、助監督として長年映画業界に携り、今回、満を持した初監督&脚本作で香港映画の底力を示した梁楽民(リョン・ロクマン)、陸剣青(サニー・ルク)両監督に話を聞きました。
編集部:アメリカの大統領選に想を得たと伺いましたが、最初から警察内部の抗争ということで物語を作られたのでしょうか?
梁楽民:実は、最初から警察内部の抗争を描こうとは思わず、単なる警察とギャングの映画を撮りたいと思っていました。ところが、そういったテーマの映画はすでに先輩たちに網羅されていて、私たちがやることはないと気づいたのです。それで正直、どうしようかと思っているときに、2008年のアメリカ大統領選があり、香港のテレビはこの選挙に非常に注目して、連日連夜テレビのニュースで報道していました。当時注目されていた候補者は3人いて、1人は黒人(バラク・オバマ)、1人は女性(ヒラリー・クリントン)、もう1人は最年長(ジョン・マケイン)。最終的にはオバマとクリントンに絞られ、私たちもこの2人の弁論が大好きでした。なぜかと言うと、これはある種の知恵比べです。それが面白くて、2人で連日見ては話しあい、これを一つのポストを巡って2人の候補者が争う話、香港には大統領がいないので、たとえば警察の上層部の話にしたら面白いのではないかと思いついて構想をし始めました。
編集部:最初はこのような大きな規模の作品ではなかったとのことですが、どのような経緯があって大作になったのでしょうか?
陸剣青:当初、私たちはそれぞれ仕事をしていたので、合間の時間を使って脚本を書いていました。私たちはそれまでの実績もありませんから、いきなり大きな規模の作品が作れるわけがないと分かっていたので、それなりの規模の作品を書き、この映画のメインの投資者である江志強(ビル・コン)さん、私たちは「社長」と呼んでいますが、社長に見せたら非常に気に入ってくれました。そこからだんだんに大きくなっていきました。最初は予算の規模は決して大きいものではありませんでしたが、その後、社長が、この映画が中国で公開されることができるといいと考えたのです。そして中国側にアプローチし、脚本の審査を受けたら通ったのです。そうしたらまたもうちょっと大きくできることになりました。一方、俳優へのオファーも始まって、大物俳優の参加が決まるとまた大きくなり、撮影した映像を見せると、もっとアクションを加えたらということになり、そうするともっと予算が増え…。こうしてステップ・バイ・ステップで大きくなっていき、最終的にこの規模の映画になりました。
編集部:映画業界に長くいらっしゃったお二人ですから、大物プロデューサーであるビル・コンさんとのつながりがあったのですか?
梁楽民:業界で働いている時、ビル・コンさんの存在は非常に遠いものでした。顔は見ていますが挨拶できるような状況ではありませんでした。
陸剣青:実は僕たちの友人の一人に「マシュー」という名の男性がいて、彼はビル・コンさんの会社のプロデューサーの一人です。マシューとは親しかったので、書いた脚本を彼に見せました。私たちとしては、自分たちの書いた脚本を誰が投資してくれるのかわからないので、いろいろなプロデューサーに見てもらって、投資をしてくれるかどうかではなく、書いた内容にコメントをしてもらえるだけで嬉しく、今後の改善につながるとの思いだったのです。たまたまビル・コンさんが北京から香港に帰った日、マシューが彼に脚本を見せたところ、ちょうどやることもないしいいよと言うので渡したら読んでくれることになり、すぐ次の日、マシューから電話がかかってきました。ビルが2人に会いたいと言っているから、明日時間あいている?と。そこから始まったんです。
編集部:ラッキーですね。
陸剣青:ほんとにラッキーです。
編集部:後半から汚職捜査機関である廉政公署(ICAC)がからんでくる点が大変新鮮だと思いましたが、それは最初からあった構想でしょうか。
陸剣青:当初からありました。
ただ、このICACを描くための情報と資料の収集にたいへんに苦労しました。
梁楽民:このICACの介入については、脚本の段階で計算しています。私たちは、脚本の書き方について学校でも勉強しました。基本的にはこれは教科書通りの作りなのです。
一つの物語は第一幕、第二幕、第三幕の3つのパートをつないでいくのですが、ここでは行動班の話が第一幕から第二幕で行きづまります。すると観客は、この先はどうするのだろうと心配で観たくてたまらなくなるのですね、それで、第三幕の部分が非常に重要になってくる。このように設計をしました。
この映画のメインの部分は一つの制度を描いていて、この制度がいかに完備されるかによって治安の問題、人をどう配置しどう使うかの問題に関わってくるのです。そうしたなかで行動班が第二幕の段階で失敗し、第三幕になってICACが入ってきます。ICACの人々が登場することで、さあ、どうなる?と、映画全体の展開がワクワクするものになり、観客は常に緊迫したテンポが続いていく。そういうことを計算しながら書いていました。
編集部:冒頭のシーンを始めとして、空から俯瞰するシーンが多いのが印象的だったのですが、それを多用をした理由は何でしょうか?やはり、予算が多く使えるようになっていったことと関係があるのでしょうか?
陸剣青:バジェットはそれほど大きくなってはいません。むしろ予算内で撮りました。
梁楽民:撮影期間は合計46日間です。45日間でいったん終えたのですが、オープニングシーンだけ1日追加して撮りました。
編集部:空から街を見下ろすシーンは今までもありますが、斜め下を見るというシーンが多いと思います。でもこの作品では真下を見下ろすシーン、俯瞰のシーンが多く、それが印象的でした。オープニングから引き込まれました。
梁楽民:実はオープニングのショットは、最初はなかったのです。
撮影が終わり編集も終わって、いくつかの編集したバージョンを社長に見せたところ、社長は観ていてどうも不満らしく、何か足りない、もうちょっと何か撮りたいとのことでした。
翌日、呼ばれて会社に行ったのですが、すでにクランクアップしていて、俳優もみんな別の仕事に入ってしまい、ヘアスタイルも変わっていてもう撮れません。それならば、西洋映画でよくあるこういう(空からの)ショットを撮らせてくれますかと訊いたらOKが出て、1日で撮りました。
陸剣青:それだけではなく、ヘリコプターで撮ることについて、社長はとても具体的に手配してくれました。数日後、私たちは社長から、お茶を飲もうとペニンシュラホテルに呼び出されました。実際はお茶ではなく、ペニンシュラの屋上にあるヘリポートから一緒にヘリに乗り、一周するからよく見て撮りたいスポットをマークしておくようにと言われました。
それから社長は自らアメリカに行って、SPACE CAM(スペース・カム)というカメラを調達してきてくれたのです。このカメラはヘッドの部分がいろんな角度に動かすことができて、垂直も横も撮れます。それを使って撮りました。
* 携帯で写した、SPACE CAM(スペース・カム)本体の画像も見せてくれました!
編集部:レオン・カーファイとアーロン・クォックは最初からキャスティングにイメージしていたそうですが、ほかの役はいかがでしょうか?
梁楽民:実際、主役の2人は確かに最初から話し、これはOKになりました。そのほかのキャスティングについては、脚本が出来上がった段階でプロデューサーや現場のスタッフと会議をして、リストを作りました。
陸剣青:劉徳華(アンディ・ラウ)のキャスティングも社長がしてきたのです。
編集部:先ほどICACを描くのが大変苦労したとおっしゃいましたが、ICAC保安局長役を演じ最年長で新人賞を受賞された徐家杰(アレックス・ツイ)をキャスティングされたのは、やはりその過程でなのでしょうか?
陸剣青:実はアレックスは、先ほどお話ししたビル・コンの会社のプロデューサー、マシューの友人なのです。アレックス本人がICACを退任された方です。
梁楽民:キャスティング、特に官僚の部分をどうするかで私たちも大変悩んでいました。
おかしな話ですが、官僚っぽい顔ってありますよね。ところが俳優にはそういう顔がいないのです。それをマシューに話したら、アレックスを連れてきて、ならば本物でやってもらおうと提案したのです。
陸剣青:返還前の香港で本当にICACの高官だった人です。
梁楽民:私たちの創作チームのチームワークのおかげでこういう人を見つけることができました。
編集部:だから彼の役名が「マシュー」なのですか?
梁楽民:そのとおりです(笑)。
編集部:昔から香港映画を観てきて、かつてのアンディやアーロンはチンピラのような役が多く、今回は局長や副長官役で、時代の流れを感じて感慨深いものがありました。
陸剣青:彼らも成長して、いまの彼らの年齢にふさわしい役をやるようになりました。
梁楽民:中国国内で、アンディのフィルモグラフィーについて調べて対比表が作られたのです。『欲望の翼』では平の警官だったのが、どんどん出世して『インファナル・アフェア』では刑事、2012年には局長になったという表が作られて、それがすごく面白くて(笑)
編集部:『金鶏』では香港特別行政区行政長官になっていますね(笑)
編集部:最近の香港映画は中国との合作が多くて、中国で撮影したり中国を舞台にした時代劇作品が多いと思うのですが、今回の作品はよい意味でとても香港ローカルだと思います。その映画が中国でも受け入れられたというのはやはりキャスティングでしょうか?
陸剣青:キャスティングは一番大事なポイントだと思います。
梁楽民:中国の観客にとって、中国の警察やギャングの物語、つまり現代ものだと、いろんな制限があって、そのような映画は中国では撮れないのです。
陸剣青:私自身が助監督の出身ですので、韓国や日本などいろいろな外国のクルーと仕事をしてきました。その現場でみなさんに、どういう香港映画が好きかと尋ねると、80年代の作品、呉宇森(ジョン・ウー)、成龍(ジャッキー・チェン)などの答えが返ってきます。そこにある種のヒントがありました。私も映画ファンとしてはスピルバーグ監督のファンなのですが、やはり次の作品は何なのか関心を持って待っています。
そうして香港映画界を振り返ってみると、この何年間か香港らしい映画が無く、いつも低予算で海外市場に通じないようなものばかりで、有名な監督の多くは中国で合作と撮っている。でもそういった映画は香港の地元の観客にとってはあまり受けがよくない。それならば香港らしい、本当に香港を舞台にした映画を撮ろうと、脚本の段階から2人でそういう考えを固めていました。
編集部:ありがとうございました。
開口一番、お二人は、「香港映画を応援してくださってありがとうございます」とおっしゃいました。
そして、これまで、香港では映画の内容ではなく出演俳優のプライベートを知りたがるインタビューが多かった中、単に紹介するだけでなく、ちゃんと作品を見て詳細にリサーチし資料を集めて質問する日本の取材の姿勢がとても好きだと言ってくださいました。
細かいところまで突っ込みすぎて、「好Maniac!(すごくマニアック)」と言われてしまいましたけれど…(^^ゞ
終わってから、ヤボは百も承知で「○○のシーンで電話をかけてきたのは誰ですか?」と尋ねてみたところ、リョン・ロクマン監督が「それは続編を見てください(笑)」
ああ、絶対そうおっしゃると思いましたと言うと、今度はサニー・ルク監督が「実は、高倉健さんです」と大ボラを吹いてくださいました(大笑)。
帰る私たちをエレベーターまで送ってきてくれた監督は初めてです。
もっと長い時間、お酒でも飲みながら、もっとマニアックに香港映画について語り合いたいと思いました。(城田)
最初の香港の街を俯瞰したシーンから、今までの香港映画にない映像表現だなと思い、一気に引き込まれました。間にも印象的な空撮シーンがあり、インタビューで、これらの空撮を撮ったエピソードを聞けてラッキーでした。登場人物も多く、話の展開も速いし、ひとつ場面を見逃すと、どうなっているの?という感じになってしまうので、再度見直さないと、後で?になります。
また、レオン・カーファイの存在感はすごい! 香港電影金像奨で主演男優賞を受賞したのも納得。それに童顔だったアーロン・クォックがすっかり中年役をしていたのも感慨深かった。また、新旧の俳優を配してあるのも心憎く、これからの香港映画に期待できるのでは?と感じさせてくれた。
それにしても、映画の現場で働きながら書いた脚本が、運よくビル・コンプロデューサーの目に留まって、監督デビューをした二人の監督の幸運。香港映画界の新星監督の登場を嬉しく思います。(宮崎)
取材:記録、まとめ 城田美砂緒 写真:宮崎暁美