2004年の"ブラザーフッド"で'1000万'(1174万人)の観客を動員したカン・ジェギュ監督は7年ぶりのこの新作で、"韓国映画歴代最高の製作費(280億ウォン、約20億円)、過去最大規模の物量"を投入し、興行成績(市場の反応)と作品の評価(作品内容)の両面で新たな挑戦に出ました。チャン・ドンゴン、オダギリジョー、ファン・ビンビンなど、アジア各国のトップスターが出演します。さすがに大金が投入されている映画で、セットのスケールや緻密さもすごいし、スタッフも国際的で話題作の経験者揃いと、贅沢です。「韓流」のはしりとも言える、『シュリ』から10年ほどで、こういう世界的なスケールの大作が撮れるようになったことに驚きました。さすが、国策としての映画産業に手厚い保護や援助がある国です。個人的には、韓国映画はあの奇抜なストーリー展開や、かなりサディスティックな生身のハードボイルド感や、冷たさと残酷さの中に光る絵画的な美術映像など、「マニアック」のままでいて欲しい気もしますが、こういう流れに飲みこまれていくしかないのでしょうか?
韓国では12月22日に既に公開されており、僅か三日間で100万人以上の観客動員中を記録しているにもかかわらず、オダギリジョーとチャン・ドンゴンは年末年始も舞台挨拶のプロモーション活動を継続し、さらに、1月4日にはVIPと映画関係者向けの試写会ものようなものも開催されました。「ハリウッドなどのどんな映画とも比較対象になりうる真の韓流の始まりだ」「技術力とスケール、映像に感心した」などと評価されています。ベルリン映画祭にも招待されることがきまりましたので、海外への配給も期待されます。どこまでやるつもりなのでしょう? いやもう既にしっかり元は取ったかもしれませんね(笑)。
韓国、日本、中国などのアジア3大映画市場を狙って、それぞれのトップスターを主演にして、投資を誘致したことはわかります。確かに、ひねりの無い正統派の銀幕スター、チャン・ドンゴンは『ブラザーフッド』のようなこういう大規模な映画には違和感無くぴったりはまりますが、アンニュイな雰囲気のオダギリさんが、こういうビッグスケールの戦争映画に出演することは、全く想像したこともなかったので驚きました。
作品は「大掛かりな撮影で再現した激しい戦闘シーンにどうしても目が行ってしまいますが、監督が、戦争そのものを語りたかったのではなくて、戦争の渦中にいる人々の感情を描いた。そこをぜひ見て欲しい」とおっしゃっていました。これが実話だということから、実際にその道程をたどった方の体験に思いを馳せると胸が詰まるし、映画を観た後には、どんな過酷な状況にあっても生きることを諦めないで頑張らなくては、という気持ちになります。
日本のプロモーションにも相当気合が入っています。既に3回も監督&キャストが来日しています。
このうち、11月21日と12月19日のイベントと記者会見に参加しましたので、報告します。
監督 :ノルマンディーで見つかった東洋人のドキュメンタリーを見て衝撃を受けこれを題材にした映画を撮りたいと思いました。ノルマンディーは今までもいろいろな映画の題材になってきましたが、その中にいたアジアの青年の感情を描くことで新しい視点で撮影できたと思います。
オダギリ:こういう映画は自分のスタンスに絶対合わないので断りましたが、監督が暖かく情熱的に働きかけてくださった気持ちが有難かった。シナリオまでに意見を反映してくださった。また、こんな激しい撮影は34才の今しかできなくて、この先はありえないと思って、本当に戦争に送られるような境地で出演を決めました。
監督 :スタッフにも熱狂的なオダギリファンがいて、編集で少しでもカットしようものなら怒られる始末でした。
オダギリ:一刻一刻に大金がかかっている、スタッフが5・6時間かけて準備することもあるので僕がちょっと転んでNGを出したらまたその繰り返しをさせる訳にはいかないですし…そういう意味で、シーンの重みをかみしめながら撮影に臨んだ。また、合作であることの意味を考え、あくまでも韓国映画の中での日本人であることを貫いて演技をした。
このイベントのメインである、‘ノルマンディー上陸’クライマックス 20分間のフッテージ映像の上映がありました。もしかしたら、今まで見た映画の中でも、最も激しい戦闘シーンだったかもしれません。攻め込まれたドイツ軍目線での撮影では、クローズアップなので、CGではなく生身の人間が吹き飛ぶシーンとかが満載で、このあたりにやはり韓国映画の醍醐味を見せつけられました。
会場で一緒にこのフッテージ映像を観たオダギリさんは、後で、「トラウマで手が震える」と壮絶な撮影がよみがえったと話していましたが、観客もスクリーンから十分その恐怖を共有することができました。
カン・ジェギュ監督、オダギリジョー、チャン・ドンゴン、ファン・ビンビンが勢ぞろいしました。
キャストが口を揃えて、寒くて、きつくて、危険で、と何度も何度も話していたとおり、それはそれは 過酷な撮影現場だったようです。
チャンドンゴン:戦争映画は『ブラザーフッド』の経験が役に立つとタカをくくっていたが、全くそうではなかった。冷下17度で演技をするのは想像を絶する状況でした。
ファン・ビンビン:(この世のものとは思えないほど白くて艶やかな方です)中国で射撃の訓練を受け、現場では女であってはいけなかったです。銃をかかえて全速力で走ったり、氷水の中へも入っていきました。
記者の「どのシーンを一番見て欲しいですか?」の質問には、
オダギリジョー :「記者の方たちは、見どころなんて書かなくていいです。とにかく全部見てください」と会場を沸かせ。
チャン・ドンゴン:「そのとおりです」と日本語で強調。
ファン・ビンビン:「2時間20分はあっという間の時間に感じられます」
と全員が大変な苦労をしたすべてのシーンを漏らさず観てもらいたいとの切実な気持ちが伝わりました。
キャスティングについて、カン・ジェギュ監督は、アジアが世界に誇る映画の主演としてふさわしいのはこの二人だ、と直感で選んだと話しました。チャン・ドンゴンの「遠くまで来てしまった」という感情表現、オダギリジョーの繊細で丁寧な演技に期待したそうです。ファン・ビンビンについては、「早く死にすぎて、残念だった」と。
そして会見が終わり 登場したのは"マイウェイアース"
クライマックスのノルマンディー上陸作戦のシーンを探す為 に移動した距離はなんと地球一周分の本作。そして、 映画の中で辰雄とジュンシクが移動したのは、アジアからフランス、ノルマンディーの12,000キロ。さらに第二次世界大戦を舞台に描いていますが、戦争をテーマにしながらも、人間ドラマとして描く事で日本、韓国、中国と3つの国が力を 合わせて作り上げた作品を世界に発信していきたいという意味を込め、地球をモチーフにした"マイウェイアース"の点灯式が行われました。
取材: 景山咲子(写真)・滝沢祥(写真・文)
今年は、韓国の映画監督のメジャーどころがこぞって海外で作品を撮っています。キム・ジウン『ラストスタンド』、パク・チャヌク『ストーカー』、ポン・ジュノ『雪国列車』リュ・スンワン『ベルリン』など、いずれも大規模作品です。マニアック系からメジャー系への韓国映画陣の挑戦が、世界の映画市場からどういう評価となるか、目が離せない年となります!
それぞれ違う国が暮らす観客が共有し、感情を引き出すことのできる作品として記憶されれば良いと思います。 また、巨額の制作費+α"の利益を出すことができる市場の拡大のための戦略が成功すれば、これからも国境を超えた「合作」の制作システムに発展することでしょう。
(取材・文:滝沢祥)