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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『冷たい熱帯魚』園子温監督インタビュー
2010年9月13日 第35回トロント国際映画祭にて

9月頭に開催されたヴェネチア国際映画祭で大絶賛で上映されました。日本人だからということで私自身もあちこちで作品や監督に関して質問攻めにあいました。作品への期待最高潮でトロントに到着して、わくわくしながら劇場へ乗り込んだら満員で、幸か不幸かそこしか空いていなかった最前列で観てしまいました。…….(しばし空白)……. 確かに 作品が真に伝えたいメッセージは伝わります。そして、凄惨なシーンもブラックユーモアと消化されて毎度会場は大笑い。私も一緒に笑いました。ですが、やはりどうしても目に焼きついてしまった映像に、頭はぼんやり、息をするのも酸素が足りない感じのまま、劇場からよろよろ歩いてやっと約束の場所までたどりつきました。まもなく目の前に現れた監督は、普通に温かい笑顔のお茶目な方で、やっと深呼吸してインタビュー開始です。


<伝えたいのは家族の問題>

記者 :ほんの30分前に劇場から出てきたばかりなので、足もとふらついています。強烈でした。

園監督:そうですよね(笑)。あのいろんな“解体セット”はお金かけてちゃんと作ったんですよ。でも普通のホラー映画にするつもりではないので、カメラをバーンと向けて「凄いだろ~怖いだろ~」という絵は撮ってないんです。傍観する主人公の目線で離れたところから「あ、やってるぞ」という感じにしました。事件の凄さとか猟奇性を表現しようとしたんじゃなくて、全然違うメッセージを伝えたかったので。

記者 :たしかにこちらの観客は、その凄惨な場面をまじめに怖がっている人は少なくて、かえって笑いを取りましたね。でも私にとっては、複雑な親子関係とか人間の欲や弱さのほうがまさにホラーで、いつ普通の人が巻き込まれるかもしれない恐怖が増幅されて感じられました。外国人にも理解されたでしょうか?

園監督:そう言ってもらえると嬉しいですね。 ヴェネチアでバラエティー番組の取材を受けたときにも、「やっぱり家族という問題は世界共通のテーマですよね」と言われたんです。こちらの人にもわかってもらえたと思いますよ。

記者 :何にインスパイアされて、この事件を映画にしようと考えられたのですか?

園監督:もともと20年くらい前に、事件の当事者で、映画の主人公の「社本」と呼ばれている人が実際に書いた懺悔録みたいな本があったんです。劇中で彼は死んでしまいますが、本当は死んでないし、刑期を終えて出て来ているんですよ。それを読んだとき「映画にしたいな」と思ったんですけど、それっきりになっていました。やっと日活のプロデューサーから「やってみないか」って言われて撮りました。その長い年月の間には自分にも変化があって、前は 猟奇性を面白くクローズアップして撮りたかったんだけど、今はそれよりもやはり人間関係を描いたほうが面白いと考えるようになりました。「すごい事件だぞ」というところじゃなくて、人間社会っていうのは、ちょっとでも基盤が崩れてくると、どんどんグラグラ壊れてくるっていう恐怖のほうを主体として描いています。

園監督:僕は原因不明の事件は存在しないと思っている。どんな犯罪の背景にも必ず家族と社会問題があって、それをちゃんと描きたかったんです。恋愛映画ですら家族映画にしたいぐらいですからね。前作で『愛のむきだし』という映画で純愛をとことんやった後なので、今度は反対側に突き抜けるっていうことをやってみたかったんです。そこまでやるのなら、途中で主人公の「社本」に幸せを与えるのではなく、徹底的に許しの無い世界を描いて極めようかなと思ったんです。鬼のように冷酷な突き詰めた映画を撮りたいと思ったんです。


<富士山の意味>

園監督:あと富士山ね。最初の絵として出てくる富士山。 実際の事件は埼玉で起きたんだけど、富士市に舞台を移したんです。富士山って松竹映画みたいにいつもきれいに撮られているけれど、現実には周りは工業地帯で、その向こう側に見える富士山を誰も撮ろうとしない。あれは富士じゃないと思っているかもしれない。日本の嫌なところは撮ろうとしない。なので僕は、最初に工業地帯に囲まれた富士の実景を映すことによって、「見せかけのラブロマンスとか、親子の愛とか情愛とか描いた映画はもううんざりだ。これから日本の本当の社会の醜さをさらけ出して見せるよ」って意味で、わざわざ最初に見せたかった。グロテスクなシーンが多少あるわけですが、怖いシーンはただの道具です。うん、道具。


<日本の観客へのメッセージ>

記者 :ヴェネチアやトロントでのプレミア上映に登壇されて、観客の反応をどう感じられましたか?

園監督:うん、どうなんだろう。期待どおりなのかなあ。日本よりも先に海外の観客の反応が見えてしまうと結構意外だったりもするけれど、日本では受けないこともあるので、いつも「あまり油断できないな」と思っています。

記者 :やはり日本の観客の反応が気になりますか?

園監督:そりゃ、気になりますよ。うん、気になります。単純に生活問題として日本の観客に疎外されると次が撮れない。それだけなんですが(笑)。

園監督:「最近の日本の映画は、どうもナヨナヨしてパンチが効いてないな」と思っている人こそこの作品を見て欲しいですね。日本にもこういう映画があるっていうところで。映画がどんどん現実では日本では醜悪な事件がいっぱい起きているけど、映画はなんだか親子の愛とか男女の愛とか愛が大切みたいな映画ばかりで現実と剥離している。社会を見ないための映画、逃げ場としての映画館みたいになっているので、そんなことで今後生きていけるのかという危惧を感じる。現実を直視しないとダメになると思うので、こういう映画を撮っていかないといけない。ぬるい映画に飽きた日本の観客に、「僕はパンチの効いた映画を作っていますよ」とアピールしたかったんです。


時間が過ぎたとお伝えしても、「いや、いくつかインタビューをやったので話しやすくなっているんで、まだ大丈夫ですよ」と興味深い富士山のお話も追加してくださった監督、長時間ありがとうございました。

映画祭への招聘が続きすぎて、「最近は舞台挨拶とインタビューが終わったらすぐ帰って寝るっていう、ちょっと簡素な感じになっちゃってます」 とおっしゃっていましたが、その夜のAsian Film Nightというイベントでは、舞台に呼ばれる、参加者に囲まれる、と大人気の監督でした。

公開にあたって、各国の紙面やネットに“鬼才”“気鋭”の監督、“衝撃”“問題”“注目”の話題作、という言葉が踊り続けています。このような衝撃的な作品が海外でも日本でも注目を浴び、高く評価されているのは、現代社会がいろいろな意味で病んでいるからだとも思えます。今年は、ノルウェーで作品を撮る予定があるそうですが、次作品はもちろんパンチが効いたものを期待していますが、ぜひあまり血が流れない設定でお願いします。そして女性をあまり乱暴に扱わないでくださり、女性観客も先入観なく気軽に劇場へ出かけて、園ワールドを楽しめるような作品を期待しています。

2010年/日本/カラー/35mm/146分/アメリカンビスタ/DTR-SR 配給:日活 (c)NIKKATSU
2011年1月29日 テアトル新宿ほかにて全国ロードショー

公式 HP >> http://www.coldfish.jp/

>> 作品紹介

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(取材/文 : 祥)
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