2011年6月24日(金) 朝日ホールにて
国立ルイ・リュミエール大学卒業後、1979 年より監督として多くのテレビ番組の制作を行う。1984 年のCanal+の設立当初より、スポーツ番組の制作と中継を担当し、スポーツ映像に革命をもたらす。86 年のチェルノブイリ原発事故を契機に、地球環境と人間の関係を自らのテーマに掲げ、92 年には自身の制作会社J+B Sequences を設立。2004 年自らが結腸ガンを患ったことを機に、前作『未来の食卓』を製作。フランスでドキュメンタリーとしては異例のヒット作となる。次回作のため、今回の来日時に福島と祝島を訪れている。
福岡県在住、合鴨農法で完全無農薬の有機米を生産する。水田に1400 羽の合鴨を放つことで泥が掻き混ぜられ自然に酸素が取り入れられるうえ、害虫も駆除してくれるため、化学薬品を使用する必要がない。古野は30年近くもこの農法を続け、世界的にも注目を集めており、アジアを中心とした各国からの視察が絶えない。ジョー監督は彼を「今世紀の農業者を象徴する人物」と語る。
2時半よりの上映後、ジャン=ポール・ジョー監督と、本作で紹介されている合鴨農法で著名な古野隆雄さんが登壇し、Q&Aが行われました。司会は、市山尚三さん。今年のフランス映画祭の運営を東京フィルメックスが担当されているのを実感!
監督が「原発絶対反対!」のハチマキをして登壇し、会場がどよめきます。
監督:ここに来ていることが嬉しい理由がいくつかあります。監督として、大都会東京で映画が上映されたこと、古野隆雄さんと同席していること。古野さんは地球にとってとても大切な一人です。お米を自然を尊重して作る有機農法で作っていらっしゃいます。もう一つの意味で光栄で嬉しいのは、世界の一市民として、今、日本で起こった震災後の状況の中にいることです。映画の中で、深刻な問題である原子力について語っています。日本に来ている理由の一つは、原発事故の残した惨状をこの目で見る為でした。シネアスト(映画人)として、大惨事の現状をカメラで証言することは大切なことです。私のカメラは原発だけでなく、津波の被害も収めました。困難が続いている被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。
古野:ここに来たこと、そして、総合芸術の中でも最も高尚な映画に登場させていただいたことをとても光栄に思います。農業も総合的な技術です。映画のタイトルが、“地球のなおし方”となっていますが、地球をおかしくしたのは人間。このタイトルの本質は“人間のなおし方”だと思います。一人一人がライフスタイルを変えることが大切だと思います。一昨年、私のところに監督がいらしたのですが、その時に美浜原発事故なども取材されました。まるで、今回の3.11の事故を予想されたかのようです。
司会:監督が原発絶対反対のハチマキをされていますが、これは?
監督:今回、福島のほか、山口県の祝島にも行ってきました。ほんとうに美しい島です。30年程前に、原発推進の団体が祝島の目の前に原発建設計画を立てました。祝島の当時はお母さん、今はおばあちゃんたちが、30年間、毎週月曜日に反対デモをして、30年経って未だ原発が立っていません。潔いおばあちゃんたちをカメラに収めようと行ってきました。祝島を後にしながら、祝島で買ったハチマキをずっとしていようと決意し、インタビュー中もずっとしています。インタビューで、Webサイトの若い方から「原発事故が起きて、私たち日本人は何をすればいいか?」と聞かれました。「私がハチマキをして表明しています。あなたもすればいかがでしょう?」と言いましたら、彼女は「私がハチマキをしたら会社をクビになるかもしれません」と答えました。「では、私があなたの代わりに必ずハチマキをして公の場に出ましょう」とお約束したのです。
(注:祝島で続いている原発反対運動については、『祝(ほうり)の島』(特別記事:http://www.cinemajournal.net/special/2010/hourinoshima/index.html)や、『ミツバチの羽音と地球の回転』で紹介されています。)
司会:古野さんがヨーロッパの上映に立ち合われた時の状況を教えてください。
古野:パリのユネスコでの試写会に招かれました。1200名位が会場にいたのですが、ほかの出演者の方たちも来ていました。合鴨農法に関心を示してくれました。出演しているのは、評論家などではなく、皆、当事者。お互い当事者どうし、すぐ仲良くなれました。国境は関係ないと思いました。世界で上映することに大きな意味があると思います。
監督:パリでの上映会で、「古野さんどうぞ!」と紹介して登壇された時に、会場の皆さんがスタンディングオベーションで彼を称えました。(監督が立ち上がり、観客も皆、立ち上がって拍手を贈りました。)
― 監督が古野さんを知ったきっかけは?
監督:6年前、「地球上で重要な役割をした80人」を紹介する本で知りました。著者は二人の若いフランス人です。その本を読んだ時に、日本に行く機会があったら、ぜひ古野さんに会ってみようと思っていました。2年前、フランス映画祭で日本に来る機会があって、古野さんに会いに妻と一緒に行きました。次回作の重要な登場人物になると確信しました。
司会:監督から話があった時に、どのように思われましたか?
古野:フランスのテレビ局も2回ほど取材に来たことがあって、フランス人は合鴨が好きなのかなぁと思いました。本は、「未来を変える80人」というタイトルで日経BP社から翻訳本が出ています。
(「未来を変える80人 僕らが出会った社会起業家」シルヴァン・ダルニル、マチュー・ルルー著永田千奈 訳)
― 最後のシーンは、「人間は踏み出さなくてはいけない」で終わっていました。日本人で中国の砂漠化を防いで成果をあげている人がいます。次の映画で取り上げていただければと思います。今回、ゴミの話が出ていませんでした。人間の出しているゴミが地球を汚しているのではと思います。ぜひこれも映画で取り上げることを検討してみてください。
監督:まだ環境をテーマにした映画の製作は少ないです。『不都合な真実』(2006年・アメリカ・監督:デイビス・グッゲンハイム、主演:アル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領)以降、少しずつ作られるようになりました。世界には深刻な環境問題が山のようにあります。最近公開された『Plastic Planet』(2009年・オーストリア/ドイツ・監督:Werner Boote)が日本でも公開されることを願っています。
― 鯨は日本の昔からの食文化です。鯨がすべて上手に利用されてきました。今、鯨が増えすぎて生態系が変わったとも言われています。羊がOKで、鯨がダメということをどのように考えておられますか?
監督:捕鯨問題は専門ではないのですが、減っているのであれば賛成できない。保護する為、リスペクトする為、海を守る為であれば捕鯨はNG。でも、もし鯨の数が増えているのであれば、捕鯨禁止を見直す必要もあるかもしれませんね。この会場の誰もが、福島の大惨事による太平洋の汚染の解決方法を見出せないと思います。鯨だけでなく、太平洋の生態系に与えた影響は誰にも計り知れません。日本人の方々の捕鯨をストップさせているのは福島に怪物を作った人たちでしょう。(と、力強く発言する監督)
― ここから歩いて数分のところに東京電力の本社があるのですが、行かれましたか?
監督:まだ伺っていません。最もプライオリティが高いのは現場です。そこで起こっていること、そこにいる人たちがどう思っているかを知ることです。その人たちの困憊は、東京電力の人たちの無知がもたらしたもの。“無能”は、どこの国にも存在します。日本には素晴らしい技術者がいます。再生可能なエネルギーを開発することに力を注げば、日本がその先進国として認められると思います。
フランス映画祭というより、東京フィルメックスという雰囲気の舞台挨拶が終わり、引き続き、11階で監督のサイン会が開かれました。サイン会は、横浜時代から続くフランス映画祭の名物。長蛇の列ができ、1時間以上にわたって、監督と観客の皆さんとの交流が続いていました。
監督にお会いするのは、『未来の食卓』公開前に来日された2009年6月以来のこと。とてもダンディな印象が残っています。
(特別記事『未来の食卓』ジャン=ポール・ジョー監督 来日記者会見:http://www.cinemajournal.net/special/2009/shokutaku/)
舞台挨拶の前に、アップリンクの担当者の方から、「以前にいらした時と変わらずダンディですけど、きっとあっと驚かれますよ」と言われていました。それが、ハチマキ姿だった次第でした。冷房はダメ、窓の開かないホテルはダメとエコにこだわられているとのこと。なかなか実行できないことですが、一人一人が、地球を大切にしようと心がけることが、地球の未来を救うことになるのだと監督の姿から感じました。
作品紹介:http://www.cinemajournal.net/review/index.html#severn
映画公式HP:http://www.uplink.co.jp/severn/
★6 月25 日(土)より、東京都写真美術館ホール、渋谷アップリンクほか全国順次公開