このページはJavaScriptが使われています。
女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

三大映画祭週間2011全9作品鑑賞レポート

第61回ベルリン国際映画祭・国際審査委員たち
シネマジャーナル82号記事より(撮影:松山文子さん)
[記事本文と直接関係はありません]

ビッグサイト・コミケの疲れが出ぬ前に、気になっていた <三大映画祭(カンヌ・ベルリン・ヴェネツィア)受賞の9作品>を観にいった。

8月13日から2週間、2011年度三大映画祭が東京渋谷で開催されている。 これは三大映画祭で受賞した作品でさえ、日本で紹介されることが減ったため、新しい試みとして企画されたもの。東京の後、横浜、名古屋(シネマスコーレ)、静岡、大阪、京都、神戸、岡山、沖縄など全国で開催される。




★『終わりなき叫び』マハマト=サン・ハルーン監督/フランス、ベルギー、チャド
チャド内戦時代を舞台に、プールの監視員をしている60歳代の男アダムが「息子を兵士にせよ」と町の有力者から強要されるが…。
○チャドの国や内乱を調べてみた。

チャド共和国
1960年にフランスより独立、人口約53万人、国土面積は日本の3倍以上。
スーダン、リビア、ニジェール、ナイジェリア、カメルーン、中央アフリカ共和国に囲まれている。
労働人口の8割は自給的な農場。綿花、落花生、トウモロコシを栽培。
地下資源は石油、ウラン、金が少量発見されているが、内戦のため未開発。
内戦の原因はフランスから独立したものの、トルパルバイ大統領のフランス依存の国家経営と、野党の結成禁止と反対勢力の粛清を行った。内戦は1969年から2008年に至るまで続いている。
現在も不穏な状態にある。

○賄賂を持っていけば兵士に行かなくてもいいような含みもあり、お金もない男は迷っているうちに、息子は軍隊に拉致され連れ去られて行く。 苦しく救いようのないアフリカ内戦に翻弄された父親の勇気ある行動が胸を打った。

※コミケの後に観にいったのでちょっと眠ってしまったが、解説には「アダムに戦争に参加するように」とかいてあるが、平均寿命が55歳ぐらいのこの国だから、「息子を兵士にせよ」と強要されたと理解したが・・・間違っていたら、すみません。

『第63回カンヌ国際映画祭』審査員賞受賞作品
©2010 Pili Films – GoÏ-Goï Productions - Entre Chien et Loup


★『唇を閉ざせ』ギョーム・カネ監督/フランス
8年前に何者かによって殺された妻が忘れられない医師のアレックスは、 妻が殺害された同じ湖で、また死体があがったことで、警察は8年前の妻の事件から再捜査することになった。そんな時、驚愕するメールが飛び込んで来た。アレックスの元に死んだはずの妻からメール着信があった…。
○サスペンスは大好きだが、ちょっと解りづらい。観ていて退屈はしないし、最後に謎解きを映像で説明するのでわかるが、なぜかすっきりとは納得できなかった。

特別上映『第33回セザール賞』最優秀監督賞、最優秀男優賞受賞作品
© 2006 – Les Productions du Trésor – EuropaCorp – Caneo Films – M6 Films


★『中国娘』グオ・シャオルー監督/イギリス、フランス、ドイツ
なんにもない中国のど田舎。つまらない日常に嫌気がさした女の子メイは、都会に憧れ、重慶に来たが、雇われた縫製工場では不良品を出したため、即、首になる。 次は美容院。だが美容院とは名ばかりで、裏では売春もする。そこでヤクザ風の男スパイキーと出会うが、彼は抗争に巻き込まれ、突然死んでしまう。そこからメイはロンドンに渡り、マッサージ店で知り合った年金生活者の老人ハントと結婚する…。
○田舎に住んでいる時からのメイの行動や、重慶の工場で不良品を出す、などを見ていると、悪いけど「面立ちはすっきりした美人だか、あんた、ちょっとトロイわぁ」と言いたくなった。手近な男と愛しあったり、結婚するが、その男たちも悪者じゃないが、イマイチ負け犬っぽい。この先どうなっちゃうのか、おばさんとしては、心配だけが残った。
この場当たり的な行動で今後どうなるんだろう…と娘を中国と置き換えるなんて、頭に浮かんで来たが…深読みしずぎかな。

特別上映『第62回ロカルノ国際映画祭』金豹賞受賞作品


★『宇宙飛行士の医者』アレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督/ロシア
フルスタリョフ、車を!』のアレクセイ・ゲルマンの息子の作品。
1961年、カザフスタン。 ダニエルはソ連初の有人宇宙飛行計画に従事する医者。 彼は国家のために若者たちの命が犠牲になることが、納得できなかった。 ある日、ついに友人の士官が死に、ダニエルは神経衰弱になってしまう。

○建物内部の侘しさ、小道具の陳腐さ、泥まみれの道…当時のロシアを彷彿とさせる映像の中、会話だけが何か意味深な気分を与えてくれた……が、半分以上寝てしまった。ちゃんと観た方が、「ガガーリンの役の方もいたし、あんな犠牲をはらって成功させたんだね」と教えてくれた。名古屋スコーレでもう一度観よう。

『第65回ヴェネツィア国際映画祭』銀獅子賞(監督賞)受賞作品


★『夏の終止符』アレクセイ・ポポグレブスキー監督/ロシア
ロシアの北極圏の島の気象観測所で、二人の男が働いている。定期的に気象や周囲の放射能を測定し、本国にデータを通信する。ここで働く年配者のセルゲイは、この仕事に使命感を持っていて忠実に作業を行うが(といっても、若者に言い含めて内緒でます釣りに行ってしまう)、新人助手のパベルは、夏だけ観測所で過ごしたいと申請してきた若者だった。
そんなある日、セルゲイがます釣りに行って若者一人の時に、意外なニュースが飛び込んできた。タイミングが悪く、釣りから帰ってきたセルゲイに伝えられないでいた……。

○ほとんど二人だけで、こんなに緊張感が続くなんて…。9作品観て、はっきり言ってこれが一番私好み。 ただ一つ、解らないことがあった。 島の観測は放射能測定の目的でもあったが、放射能を発している装置(見るからにお粗末なものだったが)あった。この装置自体、映画の重要な小道具なのだ。 北極にどんだけ放射能の影響がきているか測定に来ているのに、なぜにそれを発する装置がある?・・・と不思議でしようがない。

『第60回ベルリン国際映画祭』銀熊賞(男優賞、芸術貢献賞)受賞作品
©Koktebel Film


★『恋愛社会学のススメ』マーレン・アーデ監督/ドイツ
サルディニアの避暑地にあるクリスの別荘に来たギッティ。二人は理想的なカップルに見えるが、建築家のクリスは自分の才能に自信がなく、ギッティは個性的だが少々お調子者で、バンドのマネージャーをやっている。 そんな避暑地に彼の友人夫婦と偶然出会い食事に招かれるが、自分たちより何もかもがランクが上。自分たちが理想カップルと思っていたが、上をみたらがっくり…どうすればいいのか解らなくなった二人は…。
○ぎゃあぎゃあ楽しそうに騒いでいると思えば、ちょっとしたことで二人は喧嘩したり、別行動をとったりで、目まぐるしい二人。自分より何もかもレベルが上のカップルに自信をなくすが、「人がどんなに幸せな生活してたって、幸運に恵まれていたって、あなたたち一人ひとりの幸せが目減りするわけじゃないのよ!」と意見したくなった。
だがこの二人、いかにも自分たちより下だわ、と思う相手には嘘ついてまで付き合わない…特にクリスはその点はっきりしている。ギッティはともかくもクリスは嫌い、大嫌いな男のタイプ。
ずっと愛し合うって、そう簡単ではなく、いい時なんてすぐ終わってしまう…と思う。 長続きする第一の基本は、車間距離ならぬ「人間距離」じゃないかな。 ただ、ドイツ映画でここまできっちり男女関係に焦点をあてたのはなかったと思うので、そういう点で期待した作品。ギッティの心の動きに万国共通なものを感じた。

『第59回ベルリン国際映画祭』銀熊賞(女優賞、審査員賞)受賞作品
©Komplizen Film


★『キナタイ・マニラ・アンダーグラウンド』ブリランテ・メンドーサ監督/仏・フィリピン
ペッピングは若い恋人にかわいい赤ん坊が産まれたのを区切りに、結婚式を挙げて、貧しいながらも仲良く親子3人で暮らし始めた。だが、彼は貧乏な警察学校の生徒で、生活費を稼ぐために麻薬の売買をしていた。そんなある日、汚職に関係していた友人から、魅力的な儲け話があり、簡単に引き受けてしまう…。
○メンドーサ監督だ! 去年の福岡アジアフォーカス映画祭で『ばあさん』が上映された。 フィリピン・マニラの下町で殺人事件の加害者もお金で釈放されるので、必死にお金の工面をする「ばあさん」の姿を思い出す。(シネジャ80号 P.24に記事掲載) そのとき、この国の警察っていったいどうなってるの?と疑問におもったが、『キナタイ~』では警察に限らず、闇社会は汚職、賄賂、掟でがんじがらめ。フィリピン版『冷たい熱帯魚』で現実味にかけてはフィリピンが数段上。残酷な箇所をうまく撮っている。

2009年カンヌ国際映画祭監督賞受賞作品
(C)Swift Productions 2009


★『ハッピー・ゴー・ラッキー』マイク・リー監督/イギリス
ポピー・クロスは30歳。楽天的な女性で小学校の教師をしている。 もう長い間、親友のゾエと一緒に暮らしている。最近では、気難しいインストラクターに運転を習い、夜は情熱的なフラメンコの講習も受けている。彼女の誰へだてない開けっ広げな性格は、何かと誤解を生むが…はたして彼女は幸せな出会いがあるだろうか。
○マイク・リー作品『秘密と嘘』『人生は、時々晴れ』『ヴェラドレイク』・・・これらの作品で、痛みのわかる一人前の大人にしていただいた。
この『ハッピー・ゴー・ラッキー』、これは今までと反対だ。何が反対か? マイク・リー作品の脇役と主役の入れ替えだ。 元来、主役は気難しい自動車インストラクターであり、わけのわからないことを口走るフラメンコ先生であり、ホームレスの得体のわからない男であり、暴力を振るわれているいじめっ子少年の家庭なのだ。(と思う…) そう思ってみると、このポピー・クロスは、今までのマイク・リー主役たちに「人生、なんとかなるよ。私もいろんなことあるけど、自分の気持ちをどんどん前に出して、明るく生きていくわよ」とはっぱをかけているような作品だった。

『第58回ベルリン国際映画祭』銀熊賞(女優賞)受賞作品
©2007 Untitled 06 Distribution Limited, Channel4 Television Corporation and UK Film Council. All Rights Reserved.


★『我らが愛にゆれる時』ワン・シャオシュアイ監督/中国
メイ・チューは娘ハーハーの骨髄移植のため、ハーハーの父シアオ・ルーに連絡を取る。いまは別れてそれぞれ別の相手と結婚しているが、娘の病のために適合検査を受けるのだ。だが結果はだめだった。諦めきれないメイ・チューが次に考えたことは…。
○この作品は二年前、福岡アジアフォーカス映画祭で原題『愛を信ず』で観た。メイ・チューは一番適合する元旦那の精子をもらい兄弟を産みたい!とお願いに行き、承諾されたが失敗。まだまだあきらめられないメイ・チューは…。
中国の一人っ子政策がここではネックになり、双方のつれあいも当然黙っているわけにはいかなくなるのだ。 『私の中のあなた』と同じような設定だが、『我らが~』の方が人情を感じる作品。この監督さんの『重慶ブルース』も◎。公開されるのを期待している。

第58回ベルリン国際映画祭』銀熊賞(脚本賞)受賞作品




全作品みたが、やはり見応えがあり満足した。渋谷の劇場は少ない時でも半分は入っていた。時々試写でお見かけする方や映画友達にもお会いした。映画好きには応えられない企画。ずっと続けてほしいものだ。

配給:熱帯美術館 配給協力:グアパ・グアポ
(c) 2011 sandaifestival All Rights Reserved.

★8月13日(土)~8月26日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー

その他の映画館情報に関しては公式サイトをご覧ください。

公式 HP >> http://sandaifestival.jp/

取材:(美)
本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。