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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『お姉ちゃん、弟といく』吉田浩太監督インタビュー

吉田浩太

ー エロモラスの原点『お姉ちゃん、弟といく』を撮ろうと思ったきっかけを教えて下さい。

助監督時代、道をボーっと歩いていたらヒラヒラとミニスカートで歩く若い女性がいました。その女性を見て、ハッと「あの子がノーパンだったらいいな…」と思ったんです。さらに何故かノーパンでボーリングしたらさぞかしハラハラするだろう…と思考が発展していきました。怒られてしまうかもしれないけど、そこがアイデアの根本です。
ノーパンでボウリングをしようと思ったそのアイデアを脚本化する際に、心がけようと思ったのがエロスとスリルでした。エロくてハラハラする。そんな気持ちを登場人物たちにも持たせたい。そこから姉弟の物語を構築していきました。姉弟という視点で物語を構築していった先に行き着いたテーマ(というかいつもそこにいってしまうのだけど…)は、関係性の崩壊と再生というテーマでした。

ー 2008年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター部門審査員特別賞の受賞が決定し、その受賞式直前に若年性脳梗塞で倒られ、その後動脈瘤で大手術をされたとのことですが、その時のお気持ちを教えてください。

ちょうどゆうばりで入選が決まって、「よし、これからやってやるぞ!」というポジティブな中だったので、正直こたえました。自主映画をやっている身からもゆうばり映画祭は憧れの映画祭でしたが、映画祭開催中も自宅に篭りインターネットなどで情報を得るしかない自分が情けなかったです。何とか早く社会復帰したいと思いつつも、今まで感じたことの無い病気の症状に苛まされ、映画は無理だろうな…とへこむ毎日でした。脳梗塞だけでも辛い中、さらに脳動脈瘤が発見されたときはまさに泣きっ面に蜂状態でした。ゆうばり映画祭入選など人生を謳歌するはずが一気に転落した気持ちになりました。しかしこうなったのも自分の普段の行いが悪いからだ、と無理に意味不明な精神状態に持っていったのを覚えています。何かしら自分が置かれた状況に理由付けでもしなければ納得がいかない気持ちだったのだと思います。

ー 復帰するまでには、どのようなご苦労がお有りでしたか。

吐き気や、痺れ、耳鳴り、頭がボーっとして気絶しそうになる…といった今まで感じたことが無い症状に苛まされ続けました。一番苦労したのが他人とのコミュニケーションでした。約一年間自宅に篭りっぱなしということもあって、他人とコミュニケーションをとることがあまり出来なくなっていて、他人が怖いと思うことすらありました。そんな状況の中、映画を作るということはおそらく無理なことのように思われました。しかし、一方、映画を作りたいという気持ちが純化されていたのを感じました。映画を作りたい、その純粋な気持ちだけで復帰するまでの気持ちを支えていたと思います。

ー 闘病されてからは、映画作りへの想いはどのように変わりましたか。

今までは、少なからず「監督になりたい」という気持ちがあったと思います。けど今は「映画を作りたい」という気持ちしかありません。「監督」なんていうものは肩書きに過ぎなく、自分を着飾っているものでしかない。そういった着飾るもの一切が、病気を経て無意味なものだと気づかされました。

ー 復帰作の『ユリ子のアロマ』でも江口のりこさんを起用され、処女作の本作でも主演に起用されていますが、そのこだわりは何でしょうか。

江口のりこさんは非常に独自な女優です。自分の映画は性的なものがテーマとなり、演じる女優さんが誰であるかによって作品のテイストが決定的に決まります。江口さんに演じてもらうと、エロティックさがありながら嫌なエロさにならない。これはおそらく江口さんも計算しているものではなく、肩肘張らずにやっている結果、そうなってしまう。それが江口さんの魅力であり凄いところだと思います。また江口さんファンに女性が意外に多いことも知りました。江口さんの誰にも媚びない凛とした姿が、現代的女性の理想像に近いのではないかと推測しています。

ー 観客の皆さんへのメッセージ

僕はこの『お姉ちゃん、弟といく』をより多くの方々に観てもらいたく劇場公開することを夢見続け、4年間悶々とし続けてきました。この4年間は病気のことなども含め、色々とありました。僕の新作「ユリ子のアロマ」も、この『お姉ちゃん、弟といく』をより多くの人に見せたいという気持ちから始まったといっても過言ではありません。僕はいつも映画は映画館で観て初めて完成すると思っています。そういった視点から考えると、4年もの間『お姉ちゃん、弟といく』は未完成のままだったと言えます。より多くの方々に観られることで、映画はより有機的なより芳醇なものへと変化していきます。是非皆さんの力で、『お姉ちゃん、弟といく』を完成させて欲しいと思います。

『お姉ちゃん、弟といく』場面写真
©シャイカー

『お姉ちゃん、弟といく』作品紹介

お姉ちゃんのなお(江口のりこ)と、同居人の沙希(菜葉菜)、そこへ家出してきたなおの弟の康太郎(中村邦晃)、3人の思いが交錯する1泊2日の物語。実家にいたころは仲良し姉弟だったんだろうと思える2人。う~ん、そうきちゃいますか、な展開にドキドキする。この子たちの親だったら困るよなあぁ。「ヘンタイ!」となじられたとて本人たちもどうにも止められない。洗濯物やプレゼント、下着に託して小出しにされるその想いと、3人の表情がいい。スレンダーでクールななおがだんだんとエロチックな表情になっていくのに注目。江口のりこさんは『月とチェリー』(04年)の舞台挨拶でタナダユキ監督と並んで登壇していた。ボーイッシュでそっけない感じなのに、目がひきつけられる女優さんだった。

これは吉田浩太監督のデビュー作、2008年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、オフシアター部門審査員特別賞を受賞している。製作から4年たって待望の劇場公開となった。
2本目の作品『ユリ子のアロマ』は先に公開され、こちらも江口のりこ主演。匂いフェチなアロマセラピストを演じている。こちらのキャッチは「…変態じゃ、いけませんか!?」。そ、それは個人の好みだから、迷惑をかけない範囲でお願いします、と言いたい。しかし、エッチやらフェチやら一生懸命であるほど、どこか滑稽で物悲しく見えるのはなぜだろう。

『お姉ちゃん、弟といく』と同時上映の『象の涙』では、恋人に「子どもができたかも」と告げられて慌てふためく男性が、情けないやらおかしいやら。どちらもしめっぽくも重くもなりすぎず、さらりと軽目。(白)

『お姉ちゃん、弟といく』チラシ

脚本・監督:吉田浩太
プロデューサー:後藤剛
配給:ゼアリズエンタープライズ 配給協力:マコトヤ
宣伝:フリーマン・オフィス
2006年|日本|カラー|ミニDV|4:3(LB)|ステレオ|42分|©シャイカー
★6月19日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次ロードショー

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(インタビュー・写真:フリーマン・オフィス提供)
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