このページはJavaScriptが使われています。
女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

第22回東京国際映画祭 アジアの風
『風のささやき』
原題:Sirta La Gal Ba 英題:Whisper with the Wind
(2009年 イラン)
シャフラム・アリーディ監督インタビュー

シャフラム・アリーディ監督

2009年10月20日(火)六本木ヒルズ アカデミーヒルズ49にて

*ストーリー*
イラク北部クルド地域の郵便配達人マム・バルダルは、山あいの村をおんぼろ車で走って、手紙の代わりに録音した声を届けてまわっている。ある日、武装ゲリラのリーダーに「生まれてくる子どもの産声を録音して届けてくれ」と頼まれ、彼の家族が住む山村をめざす。しかし彼が指導者の村を訪れると、子供たちと妊娠中の妻は遠く離れた渓谷へ避難したあとだと知らされる。マム・バルダルは彼らを追って渓谷へと向かう。

●監督インタビュー

音も映像も素晴らしく、クルドの人たちが大変な状況の中でも耐えて、誇り高く生きていることを感じさせてくれる作品でした。風の音がクルドの人たちの魂の叫びのようにも聴こえました。テヘラン大学芸術学部で美術とデザインを学ばれた監督のこだわりが随所に散りばめられているのですが、象徴的な場面に込めた意味などを中心にお話を伺いました。

◆羽根があったなら、自由になれたのに!


シャフラム・アリーディ監督
俳優もしている美男子です

― 鉄条網に引っかかった白い羽根は、平和を乱されたことを象徴しているように感じました。また、マム・バルダルの車の正面に白い鳥の像が付いていますが、白い鳥は何の象徴でしょうか?

監督:カンヌでもこの映画が上映され、いろんな取材を受けたのですが、一度もなかった質問で、待っていた質問です。マム・バルダルという名前自体、マムがおじさん、バルダルは、羽根を持つという意味です。クルドはいろんな民族によって攻撃され人種差別されてきました。1980年代後半にサウジアラビアとヨルダンの国境近くで起こった虐殺のことも、クルドがどういう目にあったかマスコミは映すことができませんでした。逃げることも出来なかったので、彼らに羽根があれば自由になれたのにと思い、自由の象徴として羽根を取り入れています。おばあちゃんたちが、「地面が口を開いてくれれば逃げられたのに」とよく言うのですが、土に戻るのでなく、いつも望みを捨ててはいけない。マム・バルダルも羽根があればいつでも飛べるという思いで、車にも鳥が付いているのです。処刑された人たちのところに羽根を散らすのも、羽根があれば殺されなかっただろうにという思いを込めています。僕は小さい時、いつも鳥を見ていて、無意識にそれを追っていました。鳥は特別な意味を持っています。郵便配達のメッセージを運んでくれるのも鳩です。

― 兵士の靴がぶらさげられていて、裸足の足が並んでいる場面がありましたが、あれは何を象徴しているのでしょう?

監督:兵士の靴には血が滲んでいたと思います。普通に洗濯して干しているのですが、あの土地が血でいっぱいになっていることをいいたかったのです。

― 結婚式をしていた村が爆撃にあい、輪に並べられた白いベンチがめちゃくちゃにされていましたが...

監督:白は羽根の象徴。白は罪がないことも表しています。クルドの人たちは輪になって踊ります。クルド社会を円に例えたりもします。地球も丸いし、体の中でも血が回っています。元に戻るという意味もあります。

◆国は違っても、クルドはクルド


シャフラム・アリーディ監督

― 撮影場所は、イラクのクルディスタンですか? それともイラン側のクルドだったのでしょうか?

監督:撮影は、イラク北部のトルコに近い地区で行いました。イラクのクルドは大変ということはあるのですが、クルドの自治組織が協力してくれました。ほんとはもっと前に作りたかったのですが、5年間許可されませんでした。

― サッダーム・フセインによる大虐殺の後、イランに逃げたクルドの方も多いですが、監督のご家族は元々イランの方ですか?

監督:私はイランのサナンダージの生まれで両親も同じです。イランのクルドもイラクのクルドも、日本の東京と京都というくらいの違いです。親戚の何人かはイラク側のキルクークにいて、イラン側に逃げた人もいると聞いています。クルド人は迫害をあちこちから受けて、持っている森を焼かれても耐えて、新たな木を植えて、どんな困難にも立ち向かって誇り高く生きる人たちです。

◆歴史の影に存在するクルド


シャフラム・アリーディ監督

― おばあさんの語るクルドの人たちがたどってきた運命から、クルドの人たちの苦しみが切々と伝わってきました。

監督:実はこの映画のほんとの主人公は、この歴史を語っているおばあちゃん。テントに映る影だけで顔を映していませんが、それには訳があります。クルドの歴史は、書かれたものが残っていません。諺に、「歴史を書く人たちは勝利者」という言葉があります。クルドはいつも侵略を受けて、歴史は本に書かれず口頭で伝わってきました。歴史そのものがないので、歴史の影にクルドは存在しています。語り部におばあちゃんを選んだのは、女性は母として歴史を産むものだから。クルドの歴史のように影として存在しています。

― 俳優として舞台で活躍されたりしていますが、カメラの前と後ろ、どちらが好きですか?

監督:カメラの後ろで写す方が好きです。でも、自分が知られてないので、製作した作品を見てもらう為に、時にはカメラの前で姿を見せています。平凡な暮らしをしていきたいので、姿を見られたくないのが本心ですが。

― マジッド・マジディ監督の名前がエンドクレジットに出てきましたが、昨年、マジディ監督にお会いした時に同じ質問をしたら、「もう二度と自分の姿をさらしたくない」とおっしゃっていました。

監督:マジディ監督とは古いお付き合いで、よく映画について意見交換をするのですが、次の僕の作品に出演をお願いしたいと思っているのですよ。

― どんな作品になるのか、楽しみにお待ちしています。もっともっとお伺いしたことがあったのですが、時間がきてしまいました。


『風のささやき』10月21日上映後のQ&A
シャフラム・アリーディ監督(左)、通訳の工藤さん

return to top

(取材:景山咲子)
本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。