若き巨匠ポン・ジュノ監督による待望の最新作『母なる証明』が、いよいよ10月31日(土)から日本全国で公開となるのを前に、ポン・ジュノ監督、母親役キム・ヘジャさん、息子トジュン役ウォンビンさんの3人が来日、記者会見と舞台挨拶付きプレミア上映会に登壇しました。映画について熱く語ってくださった模様をたっぷりとご報告します。
>> 記者会見 >> 舞台挨拶
2009年10月27日(火)15:30~
場所:セルリアンタワー東急ホテル
3時半からの記者会見、受付が2時45分からなのをすっかり忘れて、会見1時間前の2時半に到着したら、すでに長蛇の列。ウォンビン約5年ぶりの来日とあって、取材に集まった数も半端でなく、凄い映画との前評判高い『母なる証明』への期待感とも相まって、会見前から熱気に溢れていました。
定刻の3時半を少し過ぎて、司会の襟川クロさんから、まずは『母なる証明』の紹介。
『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』など、次から次へと高い評価を得ているポン・ジュノ監督の3年ぶりの長編作品『母なる証明』。ヒューマンミステリーの最高傑作との声もあがっていまして、本年度カンヌ国際映画祭でも大きな話題となりました。2010年の第82回アカデミー賞外国語映画賞の韓国代表にも選ばれました。また、韓国国内では、権威ある映画賞として知られる<韓国映画評論家協会賞>の「作品賞」「主演女優賞(キム・ヘジャ)」「脚本賞」の3冠を受賞、さらに、釜山国際映画祭開催中に授与される<釜山映画評論家協会賞>でも「作品賞」「主演女優賞」「撮影賞」の3冠に輝くなど、国内外で注目されています。
いよいよ、3人の登壇。最初に現れたポン・ジュノ監督、ますます貫禄がつき、そこはかとなく嬉しそうな笑みが洩れる。次に、キム・ヘジャさん。映画の中で見せる凄みと違って、小柄で可愛らしい。そして、最後に登壇したウォンビンさん。すっきりシャープになった頬に長髪が軽くかかり、落着いた大人の雰囲気は、まさに王子様!
監督:今日はたくさんお越しいただきましてありがとうございます。新作を持って、また来日できたことをとても嬉しく思っています。韓国でもそうですが、日本でも観客の皆さんに作品を観ていただけることが何より嬉しいです。
司会:韓国では公開されて10日で200万人がご覧になって爆発的なヒットを記録したそうです。おめでとうございます。監督、どんなお気持ちですか?
監督:韓国でたくさんの方に観ていただいて嬉しく思っています。母親をテーマにした作品ですが、どこの国にもお母さんはいらっしゃいますので、日本の観客の皆さんにも日本での公開を前に、大変緊張しております。
司会:公式では初めての来日となるキム・ヘジャさんです。
ヘジャ:母親役を演じましたキム・ヘジャです。たくさんの方を前にして緊張しております。
司会:ウォンビンさんと姉弟のようにお若いですね。
ヘジャ:(笑って)大変気分がいいですね。ウォンビンさんは愛すべき後輩で、映画の中では息子。外見も愛らしくて、ほんとに愛すべき人です。
司会:そして、『母なる証明』が待望の映画復帰作となりましたウォンビンさんです!
ビン:こんにちは、ウォンビンです。久しぶりの皆さんの前での挨拶で緊張しています。胸がときめくような思いです。気分がいいのは、監督やキム・ヘジャさんと一緒に挨拶できることです。日本で公開されますが、多くの方に関心を持っていただければと思います。また、多くの方の記憶に残る映画になればと思っています。
司会: よく質問されることについて、代表質問させていただきます。まずは監督に、母親の愛情を描いた究極の物語ですが、現場は緊張感の張り詰めたものだったのでしょうか?
監督:現場では、スタッフ、キャスト全員の息がぴったりでした。全国各地を巡りながら撮影したのですが、カメラが回っている時には極度の緊張感が漂いましたが、オフになると、とても楽しい雰囲気で、いつも旅しているような気分でした。 皆、食べることが大好きで、撮影が終わると、さぁ今日は何を食べようかと、各地の美味しいものを食べ歩いていました。
司会:今回のテーマは、母。それをテーマにしようと思われた理由は?
監督:作品の出発点は、キム・ヘジャ先生でした。彼女は母親を代表する存在です。ヘジャ先生と一緒に映画を撮るためには、どのようなストーリーにすればいいかを考えました。彼女を撮るということは、つまり母を撮ることでした。ぎりぎりに近いところまで追い詰めてみようと思いました。そのためには、息子役にウォンビンさんが必要でした。
司会:ヘジャさん、母親の愛情とは、どういうものだと思いますか?
ヘジャ:母親の愛情とは、無条件の愛情だと思います。この世には、母なくして生まれた人はいません。今現在母親の人、これから母親になる人たちもこの映画を観て色々考えてくださると思います。生まれて最初に覚えるのは、「オンマ(お母さん)」という言葉だと思います。母とはどういうものかを描いた作品だと思います。監督の意図に忠実に演じました。
司会:子供のままの心を持った純粋な青年役を演じたウォンビンさん、難しい役どころですが、演じるときに心がけていたことは?
ビン:今回は自分にとって難しいと同時に、演じる上での楽しさもあったのですが、トジュンという純粋な心を持った人物を演じるのに、うわべだけの純粋さだけでは皆さんにそっぽを向かれてしまうと思いましたので、この純粋さがどこから出てくるのかを考えながら演じました。
― 今回のテーマはお母さん。皆さんにもお母さんがいらっしゃると思います。皆さんのお母さんはどんな方ですか? 作品のお母さんと似た点は?
ヘジャ:母は典型的な韓国の母親だと思います。嫁にきて、お姑さんの下で、お客の多い家で一日に18回も食事を作るような生活でした。父は、明治大学やアメリカのノースウェスト大学に留学して、結婚してまもなくから15年程海外にいましたので、母はずっと一人で家を守っていました。父は留学もして知的な人で、一方母は田舎でずっと暮らしていたので、今は話がちょっと合わなくて可哀想な面もあります。父をひたすら思いながら子供を育てていました。映画の中の母親は夫がいなくて、息子をただただ見つめて、息子を夫のようにも思っています。そういう一途なところが私の母にも通じるところがあるのではないでしょうか。
ビン:実際の私の母と、劇中の母と、それほど違いはないです。私の母もそういう状況に追い込まれたら、なにもかも投げ出すような人です。
監督:たえず不安定であせっていて、心配の多い母です。5月に開かれた試写会で母が観てくれて、どんな風に受け止めてくれるのかと、カンヌ映画祭での上映の時よりも緊張しました。ストーリーについて全く知らない状態で観に来ました。大きなショックを受けたのか、何も言いませんでした。6ヶ月経ったのに、映画について何も会話がありません。(会場:笑) 皆さんも是非お母さんと一緒に観にいらしてください。
― ヘジャさんは、母親の愛情の行き着く先の狂気を、サスペンスのように見せてくださって、韓国の母というヘジャさんのイメージを覆すものでした。極限状態で演じられたと思いますが、役作りと、その時のコンディションについてお聞かせください。
ヘジャ:5年程前に監督から物語のあらすじをお聞きし、どういうものを撮りたいかわかっていました。監督が他の映画を撮っている間にも、この作品の中の母親像について聞いていましたので、撮影に入る頃には、もうすっかり上映まで終えてしまったような気分になっていました。人間の母というより、動物、それも獣の母のように、なんとしても子を守るという壮絶な母という解釈をしていました。私自身、光がほんの一筋も入らない真っ暗な中に置かれているような気分で撮影に臨んでいました。
司会:翌日もその気分を引きずったまま撮影に?
ヘジャ:確かにずっとそういう気持ちを維持しなくてはいけない一方、撮影が終わると、監督と一緒に何を食べに行こう~と、気分を変えました。5ヶ月の撮影期間がありましたので、夜まで気持ちを引きずると死にそうになりそうでしたので。
― ヘジャさんが草むらで踊る場面では、ラテン風の音楽がかかっているのに、私はなぜだかアリランの曲を感じました。また、作品全体に「恨(ハン)」という感情が流れているようにも思いました。あの踊りのシーンでは、監督はどのように演出されたのでしょうか?またヘジャさんはどんな思いで踊っていたのでしょうか?
監督:音楽はラテン風ですが、韓国でいえばトロット、日本でいえば演歌のようなメロディーに通じるものがあると思います。それらの音楽は母親、そしておばさんたちのものだと思います。実際にあのシーンを撮ったのは、あの音楽の完成前でしたので、サンプル音楽を聴きながら踊っていただきました。冒頭の踊りはミュージカルのように振付が決められたようなものではなく、その場にたたずんでみて感じられたものや、その後の物語をイメージして即興で踊っていただきました。ただ、真昼間にキム・ヘジャ先生お一人で踊るのは恥ずかしいと言われましたので、カメラの後ろでは全スタッフが一緒に踊っていました。プロデューサーや私や助監督が、踊りながら「手を上げてください」とか、「回ってください」という指示も出していました。メーキング映像を観ていただければ、その様子もご覧いただけると思います。踊りの動作は奇妙でもあり、先生には素敵に踊っていただいたのですが、動作よりも表情が重要だと考えていました。真昼間に野原で魂が抜けたようなうつろな表情をして踊っていらっしゃるわけですが、そういう表情をしていただきたいとお願いしました。その踊りや表情は映画全体を予告するようなものであってほしいと思いました。この女性は気がふれているのかもしれない、これから何かが起こるのかもしれないという宣戦布告をその場面でしたかったのです。
ヘジャ:私としては困りました。あの場面を撮り終えるまでは大きな大きな荷物を背負っている気分でした。スタッフの人も一緒に踊ってくださったのですが、いざカメラが回ると目に入りませんでした。今まで経験したことを一生懸命考えて、自然に風に任せて身体を動かそうと思いました。踊っている場面の中で、顔の前に手をかざす場面は、試しにやっているのを見て、監督から必ず入れてくださいといわれました。顔の前に手をかざすというのは、気のふれていくであろう女性の動作だということを監督が意図したものでした。口元は笑っているけれど、目は泣いているという表情で踊りましたが、脚本には、「花柄の服で踊る」と書かれていただけでした。
― ウォンビンさん演じる息子は、作品全体に流れる「恨(ハン)」という世界とまったく縁のない純情な青年でしたが、特に印象的だったのが冒頭で家の前で犬と遊んでいる場面でした。犬に兵隊式の敬礼をさせていましたが、まさにウォンビンさんが兵役を終えて帰ってきましたと挨拶をしているように感じました。ウォンビンさん自らあのように犬に敬礼をさせたのか、それとも監督からの指示だったのでしょうか?
ビン:犬の敬礼の場面は、はっきりと記憶に残っていないのですが、犬が家の前にいつもいて、いつも一緒に戯れているという設定でした。唯一の友人のジンテがいない時は、トジュンはいつも犬と遊んでいます。深く考えたわけでないのですが、個人的に考えたのは、よく子供の頃に「気をつけ!」「礼!」とさせられるようなことがありましたが、あの犬に対してもその時と同じような気持ちでした。あの犬は友達であり弟という位置づけでした。
司会:プロフェッショナルなワンちゃんですか?
監督:近所でキャスティングした犬で、当時妊娠中だったので心配したのですが、その後無事出産しました。
― 母親をここまで突き詰めた映画は初めて観ました。脚本段階で行き着いたのか、それとも製作中に行き着いたのでしょうか?
監督:構想したのは、『グエムル-漢江の怪物-』を準備していた2004年のことでした。2005年にキム・ヘジャ先生にあらすじを説明したのですが、その段階で結末のクライマックスは確固たるものとしてありました。母という存在はどこにでもあるし、誰にでもいる存在です。人間は極端な状況に追い込まれた時、極限状態になると考え、それで殺人というシチュエーションを考えました。2005年の初頭、あるレストランでキム・ヘジャ先生にお会いしてお話したのですが、もしこの物語を好きになって貰えなかったら撮れないので、どうしようと思いましたが、気に入ってくださいました。
― ヘジャさんにお伺いします。母というだけで名前のない役でしたが、固有名詞のない役を演じる上で一番大切にしたことは何ですか?
ヘジャ:特定の名前がないことで、誰の母でもない、自分の母でもあり、あなたの母でもあるという存在ですので、より多くの方に共感して貰えるように演じました。今回の役柄は、ヘジャでもなく、ただのお母さん。自分がその立場なら同じことをするだろう、ほかに取る方法がないだろうと思っていただければと思いました。
司会 うわべだけではない純粋な息子を演じたウォンビンさんは、演じる上でどう考えましたか?
ビン:残忍さについては考えていませんでした。考えていたのは、トジュンがどうしたら母をここまで動かせるかということでした。常に母を不安にさせる息子ということを念頭に演じました。
― 監督が撮影現場のオフは楽しい現場だったとおっしゃっていましたが、現場で思い出に残ることをヘジャさんとウォンビンさんにお伺いします。
ヘジャ:監督が、こういう状況に陥ることはなかなかないことで、真理的には理解できるけど、表情を作るのは難しいでしょうから、「焼きごてでドンと突いたらどうでしょう」とか、「ドライバーで差し込んだらどうでしょうね」とおっしゃるのです。そうすると、身体全体が硬直して、悲鳴すら出せない状態になりました。ぞっとする話を、ニコニコした顔でされます。表現する側にとっては、壁にぶつかったことが何度もありました。壁は壊すことも、後戻りすることもできない。やり遂げた時に、監督が「ほんとによかったですよ」と褒めてくださるのがほんとに嬉しかったです。褒めてくださるのは、携帯メールで送ってくださるのですが、撮影に入る前、私は携帯を持っていなくて、監督が買ってくださって、使い方も教えてくださいました。指示も携帯メールで送ってくるのです。撮影中、いつも挫折感を感じさせられる現場でした。監督は気に入ると、私が「もう一度撮りましょう」と言っても、「もう撮りません」と頑固でした。過ぎてしまえば、現場が恋しいものです。監督は新しい服を着せてくださった方と、感謝しています。
ビン:ヘジャさんが楽しい話をしてくださったので、私からは特にないのですが、エピソードというより、監督に驚きの念を持っています。演じる上で難しいシーンでは、気楽に演じるようにしてくださるのです。
司会:今回来日した印象をお聞かせください。
ビン:久しぶりに来日したのですが、遠くにいる私を忘れずにいてくださって、空港で暖かく迎えてくださったことをありがたく思っています。
ヘジャ:朝早く起きて見た東京の夜明けがほんとに美しかったです。
司会:それでは、最後に一言ずつお願いします。
監督:今、全世界がどこでもハリウッド映画を観ている状況です。たくさんのアジアの国々が、お互いの国の映画をどれ位観ているのだろうと思います。アメリカではない国の人々が、お互いの文化を知り合うことのできる日を願っています。
ヘジャ:ほんとうにありがとうございます。お目にかかれて嬉しかったです。今朝、6時5分前ごろの夜明けがとても美しくて、絵葉書のようでした。皆さんが平和に暮らしていけることを願っています。
ビン:今日はほんとうにありがとうございました。映画に関心を持ってきてくださって感謝します。まもなく公開になりますので、どうぞ応援してください。
フォトセッションでは、キム・ヘジャさんがウォンビンさんの腕をそっと取り、息子を思いやる母というよりも、若きボーイフレンドに寄り添っているという雰囲気。壮絶な現場を乗り越えてきた3人の息がぴったりあったところを見せてくれました。ポン・ジュノ監督にお会いするのは、2003年7月の『ほえる犬は噛まない』の記者会見以来でした。腕を組み憮然とした姿が印象的だったのですが、あれから6年、壇上で笑顔を見せ、巨匠の余裕たっぷりでした。また、初めてお会いしたキム・ヘジャさんは、映画の中の狂気はどこへやら、にこやかな顔は、まさにドラマ「宮~Love in Palace」の皇太后パク氏の微笑みでした。そして、ウォンビンさんの貴公子然とした姿には、息を呑むようでした。実は、踊りのシーンと合わせて犬との戯れシーンについて質問したのですが、答える時に、何度も質問者である私の方を向いてくださいました。ハングルがわからないままに頷くしかない私でしたが、幸せなひと時でした。 (景山咲子)
新宿バルト9 19:15~
新宿バルト9の13階シアター9で開かれたプレミア上映会の舞台挨拶には、記者会見に引き続き多くの取材陣が駆けつけました。司会も引き続き襟川クロさん。
司会:本日のプレミア上映会のチケットは、2分間で完売したそうです。ここにいらっしゃる方は、そうとうラッキーな人です! 何万人という悔し涙を流したファンがいることを忘れないで、喜びを噛みしめてくださいね。様々な賞を受賞している『母なる証明』を、10月31日の公開前に観ていただける、今日はお披露目の日です。ゲストの方を迎えて、人生で一番幸せなひと時をどうぞお過ごしください!
ファンや取材陣が今か今かと待ち構える中、ポン・ジュノ監督、キム・ヘジャさんに続き、ウォンビンさんが登壇すると、ファンからウワァ~っと声があがります。白いふわっとした襟が、またまた王子様の風情です。
監督:大勢お越しいただきありがとうございます。『母なる証明』をご覧いただけることになって、嬉しく思っております。キム・ヘジャさんという大女優と、日本の皆さんに愛していただいているウォンビンさんの出ている作品です。アリガトウゴジャイマシタ。
ヘジャ:(マイクがオンになってなかったらしく、ウォンビンさんがさっと手助け)
すべて、うちの息子がしてくれます。(頷くウォンビンさん) 皆さんにお目にかかれて嬉しいです。皆さんの目に私の第一印象がどのように映るのか気になっています。(公式には初来日) 『母なる証明』を楽しんでご覧になっていただければと思います。
司会:ウォンビンさんは、公式には5年ぶりの来日とお聞きしました。
ビン:ネー(はい)。 (場内から歓声があがります。方や、監督は舞台から熱狂するウォンビンさんのファンの姿をデジカメに収めます。余裕!) お会いできて嬉しいです。久しぶりに挨拶できることになりました。素晴らしい作品で皆さんに会えることになって、気分をよくしています。「母」という単語から、たくさんのことを感じて貰えると思います。楽しんでいただければ嬉しいです。
司会:監督、ヘジャさんというベテランの大女優、そしてウォンビンさんというお二人をキャスティングされた一番大きな理由をお聞かせください。
監督:ヘジャさんに関しては、キャスティングというより、とにかくヘジャさんと一緒に映画を撮りたくて、ヘジャさんと撮るには、どうしたらいいかが始まりでした。ヘジャさんが母親役として狂気の暴走をするとなると、息子を誰にすれば暴走できるかを考えたら、ウォンビンさんしかいませんでした。監督として、二人の素晴らしい俳優と一緒に仕事ができたことは、ほんとに光栄でした。今、たおやかに立たれているヘジャさんと、美しい姿のウォンビンさんですが、映画では、まるで暴走する猛獣のような姿をご覧いただけることと思います。
司会:母役として、ウォンビンさんと共演されて、撮影中はどう呼んでいたのですか?
ヘジャ:トジュナーと、役名で呼んでいました。
司会:トジュンさんは? あ、ウォンビンさんは、ヘジャさんをなんと呼んでらしたのですか?
ビン:劇中で「オンマ(お母さん)」と呼ぶので、撮影中はずっとオンマと呼んでました。
司会:お二人並んでいると、ウォンビンさんが若いボーイフレンドのようですね。
ヘジャ:カムサムニダァ(と、満面の笑みのヘジャさん)。
司会:親子という雰囲気もありますが、ウォンビンさんは鏡を見て、ヘジャさんと似ていると思うところはありますか?
ビン:その点については、監督が一番よくご存知だと思います。
司会:その点について、監督、深くお話ください。
監督:キャスティング直後に写真を撮ったら、目が似ていると思いました。日本の少女漫画で、目に星が4つ5つありますが、まるで星があるようでした。
司会:母という役を貰った時、どんな風に思いましたか?
ヘジャ:私が大好きな監督から一緒に仕事したいと言われて、女優としてすごく幸せでした。
司会:お仕事を終えて、いかがですか?
ヘジャ:撮影している時は、愛憎まみれた気分でした。(隣で頷くウォンビンさん) 女優として惨憺たる気分になったりしましたが、監督がメールで褒めてくれたりして気分のいい時もありました。今はただ美しい思い出として残っています。
司会:ウォンビンさん、撮影中の美しい思い出は?
ビン:監督とヘジャ先生のお二人と同じ作品に参加できたこと自体、光栄でした。久々の出演作で美しい思い出ばかりです。
司会:映画の中で、よく食べていたものがありましたよね?
ビン:(笑いながら)劇中では、身体を気遣って漢方薬を飲ませてくれたり、一緒に鶏を食べるシーンがありました。鶏は8羽くらい、鶏の足は16本くらい食べました。漢方薬を飲みすぎて気持ち悪くなったりしたこともありました。
司会:それでは最後の質問です。 (会場から、えぇ~ の声) 監督は、この「えぇ~」 という声を聴いていかがですか?
監督:私は立ち去り、ウォンビンくんをこの場に残すようにしましょう。
ヘジャ:私も去ることにしましょう。
司会:ウォンビンさんは、5年ぶりの映画復帰。来日も5年ぶりです。この中に空港に出迎えにいらした方は?(会場のあちこちから手が挙がる)ほら、こんなに大勢いらっしゃいますよ。
ウォンビン:(笑い崩れる。よほど嬉しかったようですね。) カムサムニダァ。
監督:韓国の俳優をたくさん愛してくださり、映画をご覧くださってありがとうございます。いつまでも記憶に残る映画になると嬉しいです。
司会:ここで終わりませんよ。監督の作品に出演し、監督と大の仲良しの香川照之さんから花束贈呈です! (ハグする監督と香川さん) ラブ、ラブですね。香川さんは、ほんとに演技派。映画はご覧になりましたか? どんな感想ですか?
香川:2007年に一緒に『Shaking Tokyo』(『TOKYO!』のオムニバス作品)を撮影した時に、(ここで、監督はじめ3人それぞれに通訳さんがウィスパリングしているのを見て)すごい同時通訳状態ですね。まるで首脳会議のようですねぇ・・・ (気を取り直して)その撮影していた時に、「母」をテーマに撮ると聞いていましたが、こんな凄い驚愕の作品を準備されているとは思ってもみませんでした。今年、自分も出演作がありますが、悔しいですが、これがNo.1の映画ではないかと思います。
司会:監督の魅力は?
香川:人物をこれだけクローズアップして写していながら、目が空虚で空っぽのように見えるところが凄いですね。雨が降っているシーンが多くて、画面が濡れている感じがします。ほんとに素晴らしい監督です。私が出る役ないかなぁ~と、観ていたのですが、この役なんかダメだったのかなぁ~などと思っていました。
司会:もうお一人、スペシャルゲストをお呼びしましょう! 日本のファーストレディ、内閣総理大臣夫人、鳩山幸さんです。(ヘジャさんと抱き合う幸夫人。ウォンビンさんとは、さすがに握手でした!)
ある意味、日本で一番有名な母親ですね。
鳩山幸:(まずはハングルで挨拶)韓国のドラマも映画も大好きで、先日大統領とお会いした時にも、その話で盛り上がりました。近くて近い国になるように努力していきたいと思います。映画はもう拝見しました。凄い映画です。すごく考えちゃうんです。すごく重いんです。でも、母ってこういうものだろうと思います。皆様もじっくりご覧になってください。
司会:お二人からメッセージをいただきましたので、もう一度、皆さんからメッセージをお願いします。
監督:今日は香川さん、鳩山幸さんにもいらしていただきまして、ありがとうございます。映画については自慢したいことがいっぱいあります。特に、ヘジャさんと、そしてヘジャさんに負けないくらいすごい演技を見せてくれたウォンビンさん。ウォンビンさんはアイドルを脱皮して、演技派としての姿を確立されました。
舞台挨拶が終り、最後のフォトセッション。
ウォンビンさんを見上げて、微笑む幸夫人。ウォンビンさんが観客席に向って手を振ると、ファンの皆さんも手を振り、歓声があがります。監督、ウォンビン人気に親指を立てて、嬉しそうです。ヘジャさんも嬉しそうに胸元で手を可愛く振っています。
久々の取材、しかもウォンビ~ン♥♥ とくる。私情は挟むまい!と思いながらも、心はこの日に向けてカウントダウォンビンっ♥ 初めて彼の存在を知った日韓合作ドラマ「フレンズ」(2002年)で、彼に逢いたい!と願って、足かけ8年。さて、そのウォンビンが目の前にいる。しかも、ビギナーズラック? 彼の側に陣取ることができた。ポン・ジュノ監督、キム・ヘジャさんに続き、待ちに待ったウリ、ビン君が登壇! 会場一杯に歓声と狂喜の悲鳴があがる。ひたすらシャッターを切った。始終笑顔でほんわかオーラ満載の監督は、ファインダーにもそれが溢れ、どれもソフトフォーカスがかかった写真に(笑)。また、同じく満面の笑みをたたえたヘジャさんは、その2日前に68歳を迎えたとは思えぬキュートで愛くるしい少女のよう! 歳を重ねることの素敵さを体現し、瞳だけではなく、写真にも☆がキラキラ溢れている。それは、御時の人、鳩山幸さんにも言えていた。2人ともオンマ(母)というよりかオンニ(お姉さん)。可愛らしい。そして、愛しのビン君は、本当に美しく、構図を選ばないというのに、何故か今回カメラのシャッターが切れないことがしばしば。こんなことは滅多になく、そういえば、かつて聖地と言われるところで、その象徴にカメラを向けたときに同じことがあったと思い出した。なんとか撮った写真を現像してみたら、象徴だけが忽然と消えた神霊写真に! 今回も同じことが起こったら・・・と不安に思いながら、ひたすらシャッターを切った。私の動揺など知る由もなく、涼しげな顔で佇むビン君がまた悩ましい。
それにしてもビン君、舞台挨拶という華やいだ場所にありながら、彼を撮っていてちょっと不思議な感覚に包まれたのだ。なぜか私は、東山魁夷の絵画(深々とした森の中、静寂な水をたたえた湖のほとりに白馬が佇んでいるモチーフ)の中にいるという姿が浮かんでしまったのだ。きっと、彼の魂は、あの瞬間、自分の故郷の野山を駆け巡っていたのではないかと思う。
そして、除隊後の時間は彼にとって瞑想にも等しき時間で、その眠りは彼の中で実によい発酵がなされ、欲も何も全て払拭させ、そこにあるのはウォンビンそのものというビンテージに昇天させたのかしらとまで思いながら、シャッターをカシャカシャ。ファインダー越しの彼は、どこから見ても王子様の風貌でありながらも、何故か高僧オーラを放っているんだもの。だから、シャッターが切れなかったんだ!!(笑)
そんなこんなで、あ~~~っという間の舞台挨拶。子鹿の瞳にピュアオーラ満載のビン君は、風のように来たりて、再び風のようにどこかに旅立ち、夢うつつで過ぎた。これは、公開早々に映画を観て、ビン君を実感しなくては! (小泉薗子)
【取材】
記者会見: 景山咲子(撮影・文)
舞台挨拶: 小泉薗子(撮影)・景山咲子(文)
上映情報 → こちら
★ シネスイッチ銀座および新宿バルト9で『母なる証明』上映期間中、シネマジャーナル77号を販売しております。特典として10月27日の『母なる証明』記者会見・舞台挨拶報告記事が付録としてつきます。どうぞご利用ください。