このページはJavaScriptが使われています。
女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『キッチン〜3人のレシピ〜』
チュ・ジフン、ホン・ジヨン監督記者会見

チュ・ジフン

5月30日(土)よりシネカノン有楽町2丁目、ヒューマントラストシネマ文化村通り、新宿武蔵野館他、全国ロードショーの『キッチン〜3人のレシピ〜』。ホン・ジヨン監督と主演のチュ・ジフンが来日し記者会見を開きました。

チュ・ジフンは主演作『アンティーク〜西洋骨董洋菓子店〜』の公開も控え、前日にはそちらの記者会見にも登場。実はこの2つの映画、主演が同じチュ・ジフンであるほかに、監督(ミン・ギュドンとホン・ジヨン)がご夫婦なのです。なんともプロモーションには好都合(?!)な状況ですが、たまたま日本での公開時期が重なった結果のようです。

映画は三角関係にある男女の愛を描いていますが、韓国ドラマにありがちなドロドロにはならず、繊細で透明感のある美しい作品になっています。チュ・ジフンのナチュラルなたたずまいが素晴らしく、ファンならずとも必見です。

* * * * *

チュ・ジフン、ホン・ジヨン

挨拶と司会からの質問

ホン・ジヨン(以下、監督):コンニチハ、ハジメマシテ ホン・ジヨンデス。脚本を書き、監督をしましたホン・ジヨンです。来日するのは3度目(プロモーションでは初めて)ですが、毎回日本はわたしにいい印象といいアイデアをくれる国です。また来られて嬉しく思います。

チュ・ジフン(以下、ジフン):こんにちは、チュ・ジフンです。皆様、本日はわざわざ足をお運び下さりありがとうございます。できれは他の主演の2人と一緒に来たかったのですがかなわず残念です。1人でもがんばって日程をこなしたいと思います。

司会:監督、映画化までの経緯をお話いただけますか?

監督:映画化にこぎ着けるのに5年という歳月を要し、キャスティングには1年半をかけました。この映画を一言で言うならば、三角関係の恋愛物語だと言えます。料理をする2人の男性が、一般的には女性の方が多くいるであろうキッチンに入り、そこで織りなされる様々なエピソードを描いています。わたしにとっては長編デビュー作ということもあり、思い入れも多くありましたが、チュ・ジフンさんを初めとする素敵な俳優たちがそれぞれの役柄を一所懸命演じて下さったので、皆さんにとってはもしかすると見慣れない映画かも知れませんが、新しい恋愛の形を具現化できたのではないかと思っています。

司会:『アンティーク〜西洋骨董洋菓子店〜』のオーナー役とこの作品のドゥレ役は全く別人に見えるほど見事に演じ分けていらっしゃいましたが、それぞれの役を演じるにあたって意識していたことなどありましたか?

ジフン:たまたま2作品が日本で同じ時期に公開されるということになりましたが、同時に撮影したわけではないので、何か特別に差別化しなくてはならないとは考えませんでした。シナリオを見て自分が感じたままに、また監督がどういうメッセージを伝えたいと思っているのかといったことを念頭に置いて演じていました。

質疑応答

Q.三角関係というとドロドロしがちですがそうはならず、どちらかというと爽やかに描くためにイメージ通りのキャスティングをするのに苦労されたと思います。その経緯についてと、監督から見たキャスト3人の魅力についてお話し下さい。

監督:俳優たちが自然な演技をすることが大切なことで、それによってドラマがスムースに進められていくと思います。わたしがポイントを置いたのは、それぞれの俳優が上手く演技する点よりも、3人の調和でした。それで今回の3人を選んだわけですが、魅力はそれぞれ違っています。
 チュ・ジフンさんはシナリオを読んで、わたしと最初のミーティングをしたとき、このシナリオにあるドゥレの行動や考え方は、自分自身の20代前半のころとそっくりだと言ってくれました。たくさん話し合いましたし、彼からのアイデアももらいました。
 シン・ミナさん自身は、どちらかというと受け身の、まだ若い女優です。ドラマ「魔王」でチュ・ジフンさんと共演していたということもあり、チュ・ジフンさんががんばってリードしてくれたこともあって、話し合いながら撮り進めることができました。
 もう1人のキム・テウさんは経験豊富な俳優です。シナリオをしっかり読み込んで大きな絵を心の中に描いてくれていたので、わたしが細かいことまで多くを語る必要はまったくありませんでした。
 3人ともわたしという共通文法を通じてつながっていました。わたしが重視していたのは、それぞれ2人ずつの組み合わせが上手く紡ぎ合わさって、それが全体として調和をなす形にして描くことでした。結果的にそれが上手くいったと思いますし、この3人を選んだのは最善の選択だったと思っています。

チュ・ジフン
青いジャケットが目立つ

Q.シナリオを読んだとき以前の自分と似ているとおっしゃったそうですが、どういったところでしょう?

ジフン:ぼくも以前はもっとストレートな感情表現をしていました。またドゥレは日常の小さな事にいろいろな楽しみを見つけたり、小さな幸せを見つけることができる人物で、その点も自分と似ていると思いました。またもっとエネルギーが溢れていた点も似ていると思います。シナリオを読んだとき、昔の幸せだったひとときを思い出させてくれるような、とても暖かい印象を受けたんです。この映画で起きている事件は大きな事のように思えるかも知れませんが、小さな日常が描かれていて、幸せは大きなものではなく、小さなところから見つけることができるとあらためて感じる、暖かい作品だと思います。

Q.素敵な歌声も披露されていましたが、その練習や撮影でのエピソードは?

ジフン:最初は本当に戸惑いました。フランス語が全くできないのに監督から歌えと言われて、MP3を渡されたんです。それを聞きながら練習したんですが、これは到底できないと思いました。そこでパリに留学経験のある監督に発音を教えてもらいながらやったんですが、それでもだめだということになり、最終的にフランス語の先生を呼びました。ようやく撮影が無事に終わったと思ったのですが、やっぱりあとでアフレコで録り直しました。アフレコにはフランス語の先生も立ち会ってくれて、1つ1つ発音をチェックしてくれました。それも楽しい思い出です。

Q.美術に強い印象を受けましたが、こだわった部分などは?

監督:この映画のできごとの3分の1以上が家の中で起きています。ですからその姿がとても自然に見えて、映画をご覧になった方が、小物たちを自分の家に持って帰りたくなるようなものにしたいと思いました。
 わたしはこの映画のプリプロダクションのころに、2回目の訪日をしました。その時に表参道や代官山を夜遅く、疲れ果てるまで見てまわったんですが、この映画の家の空間や小物はその時の影響をかなり受けていると思います。その時見たものは、とても自然に受け入れられるものであり、1つ1つに意味づけができる、そんな小物たちでした。そしてこの映画の全体に流れている空気は、静かでゆっくりしたものだと思います。それは韓国でも愛されている日本の映画に通じるところがあるのではないかと思います。わたし自身、ビジュアル世代ですので、映画は物語以上に多くの特別なイメージを与えられものであると思います。ご覧になった方々に好感を持ってもらいたいと願い、美術面にも思い入れがたくさんありました。

Q.天才シェフの役ですが、事前に料理の特訓はされましたか? 得意になった料理などありましたら教えて下さい。

ジフン:どういうわけか、やる役ごとに“天才”の文字が付くんですよ。決してぼくは天才じゃないんですが(笑)。
 フランス料理は簡単に習得できるようなものではありませんよね。料理を習う十分な時間はありませんでした。ですから、特に自分が習ったのは包丁さばきやシェフの手の動きといった基本的なものでした。
 もともと1人暮らしが長くて、結構料理はしていました。とはいえ、料理は手間がかかります。材料を選んだり、いろいろ切ったり。後片付けもあったりするので、どうしても料理を避ける傾向にあります。しかし今回の撮影を通して、包丁さばきはかなり習いましたので、その点は解決されました。問題は後片付けですね。

司会:得意料理はあるんですか?

ジフン:韓国料理だったら大体のものは作れます。ちょっと化学調味料は使ってしまいますけど(笑)。

Q.チュ・ジフンからアイデアが出されたということですが、具体的にはどんなものがありましたか? また出されたアイデアに驚いたものはありましたか?

監督:ドゥレという人物は幼いころ病気のためにフランスに養子に出されたという、わたしにとっても普段見慣れない人物で、どう描くかは難しいものでした。それでチュ・ジフンさんを中心としたチームがたくさんの提案をしてくれました。その中からわたしはベストだと思われるものを選びさえすれば良かったのです。また、チュ・ジフンさんは元々とても細やかな感覚を持っている方で、セリフの語尾の上げ下げにいたるまで考えて、わたしにたくさんの選択肢を与えてくれました。シナリオの中でもとても難しいシーンだったのは、駐車場で歌を歌うシーンだったのですが、とても上手く演じてくれて、彼だったからこそとても自然に見えましたし、わたしとしても彼のいいところを引き出せたのではないかと思います。

Q.チュ・ジフンさんがドゥレに一番共感できたシーンは?

ジフン:ドゥレはある程度許される人物だったと思います。最初は知らないで彼女に出会ってしまったわけですし。もちろんこれはドゥレの立場からですが。人の心が動くのは理由はないし、仕方がないことだと思います。自分で自然に演技ができたと思うシーンは、まだ自分の演技をどうこうと言うことはできないので、ちょっと違った答えになってしまいますが、お話ししたいと思います。
 監督との話し合いで重点が置かれたことはドゥレという人物は罪の意識を持ってはいけないということでした。本当に純粋な人物であることを前面に押し出すことで、このキャラクターの正当性は得られるのではないかと監督がおっしゃられて、ぼくもそうだなと思いました。またこの映画の中で自分なりに努力した点は、できる限り演技しないで演じるということでした。どう見えるかは観客の皆さんの評価にお任せしたいと思います。

監督:監督の立場からちょっと付け加えさせていただきます。ドゥレのシーンでわたしがとても気に入っているシーンが4つあります。
 まず1つ目が情事のシーンです。(チュ・ジフン、大笑い) 2つ目が先ほど出た駐車場でセレナーデを歌うシーン。そして3つ目がわたしがとても大切に思っているシーンですが、モレが寝ていて、サンミとドゥレが話をしているとても平和で穏やかなシーン。このシーンをチュ・ジフンさんは本当に自然に演じてくれたと思います。4つ目のシーンは最後の方でドゥレが飛行機の中で1人むせび泣く姿です。わたしは大好きなチュ・ジフンさんをどこか遠くに手放してしまったような気持ちになりましたし、このシーンは何度観ても泣きそうになります。

チュ・ジフン、ホン・ジヨン チュ・ジフン、ホン・ジヨン チュ・ジフン、ホン・ジヨン
ちょっとお茶目をして見せて、監督と笑いあう姿が印象的

皆さんへのメッセージ

ジフン:5月30日(土)に公開と聞いていますが、ちょうとその頃は季候のいい時期ですし、どこかへ遊びに行きたいと思ったり、楽しいことはないかと探している時期ではないかと思います。そんな時期にこの『キッチン〜3人のレシピ〜』を観ていただけたら、自分たちが生きている小さな事が輝いて見えるのではないかと思います。人の日常は些細なことでも美しいと感じていただけると思います。

監督:わたしは短い間でしたがフランスに留学し、その滞在期間中に日本の友だちが何人かできました。その時彼らは、わたしをその辺の日本人よりよっぽど日本的だと言いました。そのときはそれがどういう意味かよくわかりませんでした。結局、韓国だろうと日本だろうと愛に対する正直な気持ちは変わらないということではないかと思います。日本の皆さんにも、この映画が静かに流れていく、そして輝かしい大切なものとして伝わってくれるのではないかと思います。

作品紹介記事はこちら

return to top

(取材:景山、梅木 まとめ・写真:梅木)
本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。