『ゼロ年代全景』としたオムニバス映画のうちの一本。同世代の若手監督三人が時代を切り取ったもの。
★ストーリー★
派遣OLの麻紀は29歳、やる気の出ない単調な仕事にあきあきしている。作家志望の彼氏との長い同棲生活もマンネリ。30歳を目前にして、妊娠しようと決心する。きっと何かが変わるはず? かくして子作り大作戦を開始するが。
― 映画の始まりは?
監督: いつどうして映画を作りたいと思ったか、はっきりしないんです。撮りたいなあとは思いつつ、自分にはそんな才能はないし、できないんじゃないかと思っていました。 これは3年前、堀江慶氏主催の「長編映画を一本作ろう」という1年間のワークショップで作った作品です。一応劇場公開を目指して作りました。監督3人はプロデューサーでもある堀江さんの教え子になります。別々に作った映画なので、共通点を探してみたら「ゼロ年代」というくくりになったということです。
― ストーリーの発端は?
監督: はじめは主人公を男性にしていました。その頃、口ばっかりで行動に移せない男の人が身近に居て、イライラしていて。実は自分も含めてなんですけど。それで、そういう人が無理矢理にでも社会性を持たざるを得ない状況に追い込むのに、ベタですけど彼女が妊娠したというストーリーを考えました。
私が25歳になる年でしたが、この年頃は節目というんでしょうか。バリバリ仕事をしてきた女性が結婚して子どもを産みたいと言ったりして、何か考える年頃なんですね。脚本を書いていく途中で女性を主人公に変えたので、自分が投影されていると思われるのですが、私はそれほど深刻に悩んだりはしていなかったです。自分では違うと思っていたんですけど、親からは私に似ていると言われました。
ストーリーはわりとば~っと書きました。初めはけっこうガチガチに考えていたんですが、いろいろな方に会ううちに「他の人の話も聞いていいんだ」「映画は共同作業なんだ」と思うようになりました。
― 初監督ですが、スタッフにはベテランの方がいらしたんですか?
監督:
撮影と照明は若い人で、録音はプロの方です。私が全部指示を出したというより、みんな脚本を読んで内容をくみ取ってくれて、それぞれが協力して作り上げたという感じです。毎日の進行は、私より若い助監督が仕切ってくれました。基本的にはみな20代です。
初めての監督で、ほんとは緊張していたんですけど、あんまり顔に出ないので、けっこうのらりくらり、飄々とやっているように見えたようです(笑)。
― 映画を作る上で大切にしたことは?
監督: 一番は「自分が伝えたい」ことですね。それから「面白く観てもらいたい」ということ。
主演の麻紀役の吉本菜穂子さんには、出ていただきたいと自分でお願いに行きました。この方の存在がすごく大きいです。自分はもうすこしシリアスな風に考えていたんですが、吉本さんに実際やってもらったらこのくらい面白くしてもいいかなと思えたんです。
― 一生懸命なんだけど、ちょっと抜けているというか、どこか中途半端な感じがよく出ていましたね。大変だったことは?
監督: やはり脚本を書くことです。あとは自分の考えているお芝居をしてもらうのに、どう指示を出したらうまくいくのかということ。難しかったです。慣れだとは思うんですが。
まだ技術がなくて脚本を書き直して、器用にすぐ撮るということができないんです。泣く泣く削ったというところはありません。麻紀が妊娠するためにいろいろ奮闘したところをもっと撮ってあったのですが、あまり面白くなかったうえ、テンポが悪くなってしまったので削りました。
編集はある程度家でやって、みんなと話し合いながら完成させました。後で観ると、このシーンをもっと足しておけばというより、もっと良くできただろうというのがものすごく大きくて。
― それは締め切りや予算のせいでは?
監督: いや~。まだよくわからなかったんですね。自分の演出不足、力不足なところがわかって、あんまり観たくないんです(笑)。もっとこうすればよかったとか思ってしまっていやなんですよ(笑)。
― ロケ場所はどこですか?
監督: 都内、川崎、それに実家のある小田原で撮りました。主人公の実家のシーンは私の祖母の家を借りています。あまり選べる状況でもなかったですが、どこであってもいい話だったので、こだわらなかったです。
― どんなお子さんでしたか?
監督: 特別映画好きだったわけではありません。ただ、子どものころ、実家はお店をやっていたのでいつも両親のどちらかがいて、テレビがついているんですけど、ビデオに録画した『スター・ウォーズ』と『猿の惑星』を繰り返し観ていました。映画館に行った思い出は…母が『赤毛のアン』を観るのに連れて行かれました。私は小さかったので面白くなくて、映画を観ないで遊んでいた記憶があります。映画より映画館の印象が強いんです。
― 書くことはお好きだったんですか?
監督: 子どもの頃何していたのかあんまり覚えていないんですが、本もそんなに読んでなかったし、何していたんだろう(笑)。でも、読書感想文の学校代表に選ばれたりしました。こう書いたら面白いんじゃないかと自分でパターンを考えて、出だしは台詞から始めようとか、小学校のときに(笑)。
― 人をよく観察しますか?
監督: あまり意識していないんですが、「よく観てるね」とは言われます。基本、あげあしとりです(笑)。この人今こう思ってるなとか、すぐ気になってしまうほうです。
― 好きな映画を挙げていただけますか?
監督: キム・ギドクが好きです。一番好きなのは、あんまり知られてないんですが、トッド・ソロンズ監督の『ウェルカム・ドールハウス』(95年製作)です。好きなポイントは、コンプレックスがある人が主人公なところかな。けっこうダメな人っていうのが好きなんです。
ここ最近では『JUNO』が良かったです。出る人たちが自分勝手でコミュニケーションもよくとれていなくて駄目なんだけど描き方に悪意が無くて、気持ちよかった。作品の内容というより描き方にぐっときました。今年観た中でのベストワンは「増村保造特集上映」で観た『赤い天使』(66年)。衝撃でした。
― 次の作品の予定は?
監督: 具体的にはまだないです。ピンク映画の脚本を1本書きました。アイディアをメモってもいるんですが、そのときそう思っても後で見るとよくわからなかったり(笑)。ほんとはもっと飛躍して、そんなのないだろというのもいいなと思うのですが、自分の中から出てくるものなので…。
映画の未来は、明るいと思いたいです。映画だけではないんですけど、世の中の表現で「悪意」がある感じのがしばらくはやったじゃないですか。それは面白いし凄いとは思うんですけど、人のいやなところばかり書くより、善意が基本にあって成立しているものがいい。そういうのを作っていけたらと思います。
28歳の若い星崎監督は、すっぴんでさっぱりした〝男前〟な感じの方でした。
次回作でお目にかかるのを楽しみにしています。
(取材・写真 白石映子)
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