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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ぼくのおばあちゃん』榊英雄監督インタビュー

榊英雄(さかきひでお)監督

12月6日(土)より公開される『ぼくのおばあちゃん』は、なかむらみつるさん原作の絵本小説をもとに作られた映画です。主人公の智宏は家族を守ろうと働いているはずなのに、仕事につい没頭して家族を顧みなくなってしまっています。そんな中、ある顧客との出会いで、子どもの頃のおばあちゃんとの日々を思い出します。病気のお父さんの看病でお母さんも不在がちな中、いつも優しく見守ってくれたのがおばあちゃんでした。しかし智宏が成長する一方で、大好きなおばあちゃんはしだいに年老いていくのでした。愛する家族と共に過ごす時間がかけがえのないものであることを思い出させてくれる作品です。

榊英雄監督は俳優としても活躍されている方で、ダンサーの経験を生かしたキレのあるアクションを披露している映画作品もあります。監督デビュー作『GROWー愚郎ー』は、この『ぼくのおばあちゃん』とは全く違うタイプの作品ですが大変好評を博しました。多彩な顔を持っているようなので、どんな方かと楽しみにインタビューへと向かいました。

榊英雄監督
<プロフィール>
1970年 長崎県五島市出身
1995年 『この窓は君のもの』で映画俳優デビュー
1998年 自主制作映画監督作『“R”unch Time』が第一回インディーズムービー・フェスティバル入選
2007年 『GROW -愚郎-』で映画監督デビュー
*主な出演映画*
2001年 『VERSUS -ヴァーサス-』
2002年 『突入せよ! あさま山荘事件』
2003年 『ALIVE』
2005年 『北の零年』ほか

◆ 作品を撮るきっかけ

ー 前作の『GROW-愚郎-』と『ぼくのおばあちゃん』では大変作風が違うので驚いたのですが、なぜこの『ぼくのおばあちゃん』を撮ることになったのでしょうか?

公開の順番は『GROW-愚郎-』が先になりましたが、『ぼくのおばあちゃん』の方が先に映画化にむけて動いていました。なかむらみつるさんとは以前から面識があって、もちろん原作も知っていて好きな作品でした。3年半くらい前に龜石太夏匡(プロデューサー兼脚本)と一緒に、たまたまみつるさんと久しぶりに会ったんです。そのとき、

「あの作品、誰か映画撮るの?」と聞いたら、
「いや、誰からも話し来ないんですよね・・・」
「なんだ、もったいねえなぁ。じゃ、俺にくれ、タダでな(笑)」
「わかりました」
「じゃ、龜さんやろうね」

ってなったんです。それからずっとぼくのデビュー作にしようと動いていたんですが、紆余曲折がありまして、その間に『GROW-愚郎-』の話が現れました。『GROW-愚郎-』は別の方が脚本を書いて、制作スタッフもぼくとは別のところで動いていたんですが、「映画撮りたいのならば、どうですか?」って話が来たんです。それで脚本を読んでみたらとても面白かったんですよ。じゃあ、先に撮ってしまいましょうと言うことになったんです。自分の作風というのをまだ決めてはいないですが、これまで撮ってきた自主映画や自分の好きな映画作品の部類からすると、『ぼくのおばあちゃん』の方がぼくの撮りたいものにかなり近いですね。

ー 原作はこの映画にどのくらい生かされているのでしょう?

原作は過去の話。映画の現在の話はぼくと龜石さんが考えました。原作にも大きくなったともちゃんが久々におばあちゃんの墓参りに行くというのはあるんですが、住宅メーカーの社員であるとかいった話は全然ありません。あと、柳葉敏郎さん扮するお父さんも、原作ではすでに亡くなっているところから始まっています。絵本小説なので点描なんです。それだけではどうしてももたないので、オーソドックスですけど現在と過去の話をカットバックでやっていこうと決めました。

◆ ぼくもおばあちゃん子だった

ー ご自身のおばあちゃんの思い出は?

ぼくが東京へ来て役者になることを後押ししてくれたのは、母方の祖母なんです。映画のおばあちゃんの役名”みさお”は、ぼくのおばあちゃんの名前です。ぼくと両親は長崎の市内に住み、おばあちゃんは五島列島に住んでいたんです。夏休みや冬休み以外にも、両親がケンカすると母はぼくを連れて実家に帰るんです。まあ、3日もすると父が迎えに来るんですが、その時にぼくも連れて帰ればいいものを、なぜかぼくだけ置いて若い夫婦は帰るんですよ。それが習慣になって、1年の半分以上はおばあちゃんの家にいるようになったんです。親とはちょっと違う無条件の愛があるじゃないですか。ぼくは茶碗蒸しが好きで、おばあちゃんはぼくの分をどんぶりで作ってくれるんですよ。しかも、その中に餅が入っている。スペシャル・テイストな感じでね。他にもたくさん思い出がありますね。

◆ ありがたかった制作環境

ー 凄くたくさんの俳優さんが出演してますよね。このキャスティングは監督が選ばれたんですか?

主演の菅井きんさんと岡本健一さんに関しては製作会社としての意志もあって、当然ちゃんとしたオファーをしました。他の柳葉敏郎さんとか寺島進さん、船越英一郎さん、津田寛治さん、桐谷健太さんとかはぼくの電話から始まりましてですね・・・

「あのぉ、約束覚えてますか?」
「おぉ、映画撮るときには出るって言ったよな」
「近々やるんですけど」
「おまえ、早く言えよ〜」

とか言いながらスケジュールを調整して出て下さったんです。撮りたかった方に出ていただけて、本当に良かったです。阿部サダヲさんなんて売れっ子ですよね。以前『北の零年』という映画の縁で仲良くなって、「映画撮るなら出るよ」って言ってた約束を守って、彼の事務所の方も大協力して下さって出てくれました。それこそよく皆さんのスケジュールをぬって撮影できたなと思います。奇跡ですよ。

ー 阿部さんは今までにない大人しいキャラクターでしたね。

そういうキャラだったのでやって欲しいと思っていたんです。ハイテンションな役は得意中の得意ですけれど、こういう地味な役はどうかなと思って。さらりとやってくれましたね。清水美沙さんは逆にエキセントリックな役の方が面白いと思っていたんです。

ー 尺の制限で泣く泣く切ったシーンとかはありましたか

ないですね。ほぼ希望通りです。初め126分あったのを123分にしたんですが、それはシーンとシーンの間をつめる形でできたので、シーンとして切ってしまったのはないです。この作品はぼくと龜石さんとの個人的な思いから起ち上がった企画なので、ぼくらの意志をできるだけ尊重していただけた、奇跡的な現場でした。

ぼくのおばあちゃん 場面写真  ぼくのおばあちゃん 場面写真  ぼくのおばあちゃん 場面写真
© 2008「ぼくのおばあちゃん」製作委員会

◆ 役者をしながら監督をするメリット

ー 監督はこれまでたくさん役者をやってきていらっしゃるから、その人脈はかなり役立っているようですね

そうですね。3本目くらいまでは、その手を使わない手はないじゃないですか。そういうことを津川雅彦さんや奥田瑛二さんが言ってたんです。3本目までは新人監督のふりをして皆に協力してもらえばいい。ただし4本目からはしっかりしなきゃダメだよって。津川さんは新人監督の作品に出るときにはノーギャラで出るんですって。それでぼくが「3本目までは新人なら、次の作品出ていただくときにはノーギャラですね」って言ったら、一瞬絶句してましたけど(笑)。

ー では榊さんがもっと若い監督の作品に出るときにはノーギャラで出るんですね。実際、若い監督とのお仕事が多いですよね。

そうですね。ワンシーン出たりとか。ほかにも出演以外のところで、スタッフを紹介したりといった協力は多いです。低予算の映画の世界で自分ができることはいろいろやってますね。そういうバトンタッチも大事なことだと思うんです。

ー 役者をやっているときにはわからなくて、監督になって初めてわかったことってありますか?

最初は全く無知でした。でも、自主映画を撮り始めて面白くなってきたんです。役者として現場に入っても、カメラマンの人と仲良くなって、覗かせてもらったり、機材の話をしたりしていると、色々な技術的なことなんかを話してくれるんですよ。そうやって現場で学んでいましたね。この作品はフィルムで撮れたのですが、おかげでフィルムの面白さ、難しさ、レンズの奥深さといったものを勉強することができました。

ー 監督は「よーい、スタート」を何ておっしゃっているんですか?

ぼくは「よーい、あっ」ですね。これはね、黒木和雄監督のドキュメントを見たときに、監督が「よーい・・・・・・・・・」え、言わないの? ってくらい間を開けて静かに「アッ」って言って、カチンコがカチンッ!ってなるんです。カットも「ア”ット!」なんですよ。
実は石橋蓮司さんに「おまえ、監督ならかけ声くらいオリジナリティがなきゃダメだ!」って言われてね。「どうしたらいいですか」って聞いたら、「三隅研次って知ってるか? 凄かったぞぉ」って2時間話してくれたんですよ。三隅監督はカットを、「キャット!」って言うんですよ。それも「キャット!キャット!キャ〜ット!」って3連呼するんですって。それでぼくのブログのタイトルは「Cut! Cut!! Cut!!!」にしたんですが、さすがにそこまでマネできる勢いもなかったし、現場のオリジナリティにもそぐわないかなと思って。現場で子役の子が「監督のマネしま〜す。”よーい、あ"」ってやってましたよ。

ー 監督は何テイクも出す方ですか?

シーンには勝つべきシーンと引き分けでいいシーンとがあると思って、それを決めて撮っているんですよ。つまりドラマの中でここは重要なポイントだからしっかり撮っておかなくてはいけないシーンと、あえてグルーブを重視して1カットでいったりするシーンとがあるんです。全体としてイーブンになれば編集でプラスになると思っています。ここは勝ちだと思ったら、多少時間が押してでも引かずに撮ります。そうすることで撮影全体のリズムが作られていくんです。

榊英雄監督

ー そういう監督としての勝ち、引き分けの感覚は、役者をしているときにもいかされますか?

今がどういうシーンなのかわかりますね。「これって引き分けでしょ」って。そういうときは役者次第です。特にテレビドラマでは割本みたいなものがあって、自分が映るか映らないかわかるわけですよ。そうすると、テレビに慣れた人は「ここわたしはいらないですよね」って立っていく人もいる。でもそうすると効率的ではあるけれど、芝居がつまらないですよね。映画でもだいぶんそういう風になってきてますけど、無駄なようでいて、とても役に立つことってあるんですよ。特にキャリアの浅い若い子なんかは、そこに先輩がいると最初は緊張しますが、そのことにだんだん慣れてきて、芝居が面白くなってくると、今度はその人がいると安心するんです。ぼくはそういう経験をしています。映っていないところでも絶対手を抜かない相手だと、こっちのリアクションも変わりますよね。それで一発OKになったりするんですから、いいですよね。そういうことが愛情交換でもあるんです。最近では今度テレビでOAされる「おみやさん」(テレビ朝日 12月4日(木)放送予定)に出演しましたが、主役の渡瀬恒彦さんも全く油断しない方です。良い意味で緊張感があって、みんなワンテイクで芝居が決まるから、撮り終わるのもとっても早かったですよ。

ー 次の作品のご予定は?

今、東映太秦の方たちのドキュメントを撮る準備をしています。来年、最低半年はかかるかなと思います。今年はこれから『死ぬまでにしたい10のこと』のイザベル・コイシェ監督の作品に役者として参加するので、違う国の人たちに会えることや、その現場を眺められるのが楽しみです。

ー 監督の勉強もできますね、ギャラもらいながら(笑)

できますね。なおかつスカウトもできる。でも、スペイン語とフランス語は全くできませんからね。「ジュテーム!ジュテーム!」って、それしか言えません(笑)。

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監督の話しぶりを見ていると、映画にかける熱い思いが伝わってきます。1歳の娘さんのお父さんでもある監督。子煩悩ぶりはブログをご覧になるとよくわかります。お仕事でもプライベートでも、しっかり次へとつなぐ役目をにないつつ、自分の撮りたい映画に邁進し続けている姿は、頼もしく感じました。

なお、インタビュー記事は監督のおばあちゃんとの思い出話を中心に本誌75号にも掲載されています。

12月6日(土)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー  作品紹介はこちら

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(取材:白石・梅木、まとめ・写真:梅木)
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