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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ロルナの祈り』
タルデンヌ兄弟監督&アルタ・ドブロシ来日会見

タルデンヌ兄弟監督&アルタ・ドブロシ

2008年カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『ロルナの祈り』が2009年新春、恵比寿ガーデンシネマにてロードショーされることになりました。監督のタルデンヌ兄弟は1999年に『ロゼッタ』でカンヌ国際映画祭パルムドール大賞を受賞以来、2002年『息子のまなざし』(主演男優賞&エキュメニック賞特別賞)、2005年『ある子供』で2度目のパルムドール大賞受賞、そしてこの『ロルナの祈り』と4作品連続主要賞受賞という快挙を成し遂げました。彼らの作品は、人の愚かさや厳しい現実を冷徹に描きながらも、決して突き放してはいません。人間性の価値を深く信じていて、慈愛に満ちたまなざしを感じます。今回は主演女優のアルタ・ドブロシさんも一緒に来日し、記者会見を開きました。

ストーリー

ロルナはアルバニアからベルギーへ豊かな暮らしを夢見てやって来た。国籍を獲るために、闇のブローカーを通してベルギー人で麻薬中毒患者の男性クローディと偽装結婚をする。偽りの生活でもクローディはロルナを頼りにし、何とか薬を止めようともがいている。そんな彼を疎ましく思いつつも、必死な姿を見て無視できるロルナではない。クローディを助けてあげたいと思うようになるが、彼女には決して言えない秘密があった。

作品紹介記事はこちら

Q:
映画を撮影する際にこだわる点は?
リュック:
リュック・タルデンヌ(弟)
重視するのは映画を作る仕事の方法です。まず友人や近しい人と仕事をします。撮影は必ずシナリオ通りの順撮りで行います。クランクイン初日に撮るのはファーストシーンのファーストショット、そして順に撮っていって、最終日に撮るのはラストシーンのラストショットです。俳優との仕事も重視しています。その人のキャリア、プロ、アマチュアといった区別は全く関係ありません。この役にはこの人であって、他の誰であってもならないとわたしたちが感じた人たちと撮影をします。次に予算に関して、すべて自分たちがコントロールできる予算を取ること。わたしたちは幸い自分たちで映画の製作をしています。もちろん共同プロデューサーが入ることもありますが、わたしたち自身がこのショットは撮り直すか、撮り直さないか、撮影期間を延長するのかしないのかを決めることができます。これはとても重要なことです。もう1つ、わたしたちが原則としていることは、映画のための予算はすべて映画を撮るための時間に使うということです。映画を作るときに重要なことは、映画を作るための時間を十分にかけることだと思います。つまり俳優や技術者のスケジュールといった無用なものの圧力がかからないことがとても重要です。アルタのようにわたしたちの映画に出演をしてくれる俳優は、撮影期間中ずっとわたしたちと共にいます。今回の場合、撮影が始まる2か月前から来てもらい、ずっとリハーサルをしてもらいました。撮影が始まると、たとえ彼女の出ないシーンであっても、必ず撮影現場にいてもらいました。映画そのものの進行をよりよく感じ取ってもらうためです。そうして初めて良い演技ができるのだと思います。時間をとることは大切です。
Q:
初めて参加したタルデンヌ監督たちの撮影現場はどんな雰囲気でしたか? また監督の演出方法はどういうものでしょう?
アルタ:
落ち着いて、家にいるようにリラックスして仕事のできる素晴らしい雰囲気でした。監督たちはわたしたち俳優の言うことによく耳を傾けてくれるのです。こんな事を言ったらバカみたいで笑われるのではといった心配はなくて、思ったことをなんでも言うことができました。それが段々と自信につながっていって、女優としてはこれ以上ない環境で仕事ができたと思います。リハーサルが1ヶ月半ありましたが、様々なシーンのリハーサルを何度も行いました。そこで監督たちが素晴らしいのは、この映画はこうあるべきだ、絶対こうでしかないという言い方は決してしないということです。絶対にこうだと言われてしまっては、そこで話が終わってしまいます。「ぼくたちはこう思うけれど、君はどう思う? 他の方法もあるかも知れないね」といった話し方をしてくれるのです。それでみんなで話し合いながらそのシーンのベストを探していくわけです。そうやっていると、わたしはもっともっとリハーサルしたいという気持ちになり、みんなで最高のものを追求していくことに大きな喜びを感じました。そして撮影は3か月かけてすべて順撮りで行われましたから、これも俳優にとっては非常にやりやすかったと思います。順撮りであることで、毎日毎日撮影が終わるとホテルに帰って寝て、また朝になると撮影するという生活で、どっぷりとロルナの人生に浸って仕事をすることができました。
Q:
かつてコソボの難民キャンプで働いていた経験があるそうですが、役作りに生かしたことはありますか? どのように役作りをしましたか?
アルタ:
わたしが難民キャンプで仕事をしていたのはマケドニアです。戦争が起きたコソボからマケドニアに逃れてきた難民のためのキャンプでした。そのときには組織の中で通訳から雑用から色々なことをしました。そうした経験が役作りに役立ったかは、よくわかりません。そういう考え方をしたことがなかったからです。もちろん演じるときには、自分のこれまでの人生の中で獲得したものの中から必要なものを引き出して演技をするわけですが、今回わたしにとって一番大切だったのは、ロルナのこれまでの人生を思い描いてみることでした。つまり彼女の人生の年譜を作ってみるのです。それからリハーサルの時には、監督たちから様々なアドバイスをいただきました。ロルナは非常に動きが多いのです。監督たちは人物の動きを大切に考えています。例えばロルナがコップを手に取る、コップを置くといった単純な動きでも大切にします。撮影に入る前までは色々と考えたのですが、撮影の時はロルナの過去も未来も考えず、その瞬間に集中することができました。もう1つ心がけたことは、5ヶ月間、なるべく1人でいるということでした。外出をして人と飲みに行くといったことは一切しませんでした。ロルナにはふさわしくないと思ったからです。
Q:
ハリウッド映画についてはどのように感じていますか?
ジャン:
ハリウッド映画もいいと思います。視覚的な効果を重視したり、SFXを多用したりするハリウッド映画も良いものがあると思います。映画は多様なものとして存在し続けてきました。映画に1つの真理だけがあるとは思いません。危険なのは映画の多様性が失われて、画一化してしまうことです。
Q:
数々の受賞歴がありますが、賞というものは意識しますか? どの点を評価されていると思いますか?
ジャン:
ジャン=ピエール・タルデンヌ(兄)
なぜ受賞するかは審査員が決めていることですから、彼らに聞いてもらわなくてはなりません。賞をもらうことは、もちろん嬉しいことです。なぜならば、我々スタッフ、俳優すべての人たちの仕事が認められたということだからです。映画は絶えず共同の作業です。もちろん、ある局面ではわたしと弟が決定を下さなければならないこともありますが、あくまでも映画は共同作業でできあがるもので、受賞はすべての人々の仕事が認められたのだと受けとめています。わたしたちに関して言えば、1作が終わると次の作品を作るときはまたゼロからのスタートになります。しかし、前の作品で重要な賞を受賞している場合、資金調達の可能性が広がります。
Q:
愛という目に見えないものを、映画という目で見るものに表現するとき何を苦労しますか?
リュック:
現実において果たして愛は目に見えないものでしょうか? 愛とは信じるものです。信じるためには証拠が必要であって、その愛の証拠は見えるものではないでしょうか。その点、愛は現実においても映画においても同じです。誰かのその人に対する見方、触れ方、話し方にはっきりと愛は見え、聞こえます。それらが愛の痕跡なのです。そして愛というのはそれらの痕跡よりも遙かに広い感情です。特にこの作品においては、愛を語るために過剰な言葉を尽くしたり、感傷的にその感情をみせるやりかたに陥ってしまってはいけないと思い、気をつけました。控えめに、一部は隠して、はっきりと見せないで伝えるということを心がけました。その方が観客は愛をより強く感じてくれると思っているからです。愛のために激しく泣いてみたり、SEXシーンを入れることで愛が伝わるとは思いません。良いタイミングで、あるものだけを見せることで、初めて伝わるのだと思います。そのようにわたしたちはこの映画のラストシーンを感じています。
Q:
この役の一番共感できる部分は?
アルタ・ドブロシ
アルタ:
最初に脚本を読んで惹きつけられたのは、ロルナに対して断罪することはできないと感じた点です。彼女は生き残ろうとして必死なのだと感じました。映画の中でロルナはどんどんと変化していきます。非常に強い部分もあれば、弱い部分も持っている複雑な人物です。こういう人物を演じられるのは女優として幸福以外のなにものでもありません。監督たちからは毎日アドバイスをもらって、少しずつ修正していきましたが、あまりにも世界の中にどっぷりと入り込んでしまっていたので、一つ一つのことを意識することさえありませんでした。演じるときにはどんな人物にでも何かしら共感する部分は見つかるものだと思います。ただロルナに関しては、どこがどうというのは難しいですね。ただ、強い面とか弱い面の両方を持っているのは、わたしと似た部分かもしれません。
Q:
この映画を作ろうと思った原動力は何でしょう? 人々に感じてもらいたいことは?
ジャン:
2つのことが出発点にあります。1つには弟と共に以前から大人の女性を主役にした映画を撮ってみたいと考えていました。今まで撮ったことが無く、そろそろやってみたいと思っていました。もう1つは『息子のまなざし』を撮り終えた後、ブリュッセルで出会った1人の若い女性から聞いた偽装結婚にまつわる、麻薬中毒患者も関わった実話です。それがこの映画の出発点の状況にかなり似ています。また、人々に対して何を意識してもらいたいかといった問題については、わたしたちは謙虚であるべきだと考えています。この映画では1人の女性が2つの方向へ引き裂かれそうな状況にあります。一方ではベルギーに住みついて、スナックバーを開くという夢を実現する欲望。もう一方で、彼女の傍らには一人の男性がおり、彼の今後の運命について彼女は知っています。この状況にあってどのように生きていくかという彼女の物語を語りたいと、わたしたちは考えました。また、この作品は同時に美しい愛の物語だと思います。しかしこの愛の物語は、愛の主体が消滅して初めて愛の対象になるという、きわめて逆説的なものです。そういった物語をわたしたちは語ったつもりです。もし語り終えていたとしたら幸いですが、まだ語り終えていない部分があるとしたら、そこを埋めて下さるのは観客の方々です。
Q:
いつから兄弟で映画を撮り始めたのでしょうか? 兄弟で監督をすることのメリット、デメリットは? ケンカになったようなエピソードはありますか?
リュック:
(質問がスポーツ紙の記者からでたことに対して)スポーツ新聞の記者は普通競争だとかライバル関係といった話が好きです。なぜならスポーツも1つの競争であるからです。わたしたちは2人で一緒に仕事をして、どちらが勝って、どちらが負けるといったことは一切ありません。重要なのは2人が同じ考えで同じ映画を作っているということです。ですから、撮影の前にはお互いが何をしたいのかをはっきりと感じ取れるようになるように、多くの議論を重ねます。そういう時期が何ヶ月も続きます。例えば一方が1つのアイデアを出したときに、もう片方はその考えをさらに発展させ伸ばしていきます。決してそのアイデアを否定して、こっちの方がいいというようなことにはなりません。そういう考えもある、もっとこうしたらどうだろうと、常に建設的な意見を出し合い議論を進めます。初めに統一が取れていれば、たとえそれはダメだと言ったとしても、本当のケンカにはなりません。たとえ口論になっても、今日はどこのレストランで食べるか、あっちよりこっちの方がいいんじゃないか、といった程度の諍いにしかなりません。いつから兄弟で撮り始めたかですが・・・
ジャン:
100年前からだ(笑)
リュック:
1974年からだから、32年? いや34年になりますね。
ジャン:
スポーツ新聞の方なので付け加えさせてもらいますが、2人ともサッカーファンなんです。ベルギー、リエージュのスタンダールというチームのサポーターです。ベルギー1部リーグの去年のチャンピオンで、今年もそうなることを願っています。おそらくUEFAに参加できるのではないかと期待しています。日曜日には3対1で勝っています。(会場笑)
司会:
スポーツ新聞の方のおかげでベルギーのサッカー事情まで知ることができましたね。今日はアルタさんもいらっしゃいますから、ご兄弟の仲の良さについて、実際のところどうなのか証言していただきましょうか。
アルタ:
確かにレストランのチョイスではよくケンカしていたかしら(笑)。このお2人はあまりにも一心同体なので、2人の人間であることを忘れてしまいそうになるほどです。実際には2人であるということは、とても良いことだと思います。というのは、1人の人物を作り上げていく際に、ジャン=ピエールとリュックと俳優との3人で作っていくことができるからです。ちなみに、わたしもスタンダールのサポーターです(笑)
記者会見写真
タルデンヌ兄弟&アルタ・ドブロシ タルデンヌ兄弟&アルタ・ドブロシ

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(文・写真:梅木)
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