女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
グローバル化を考える その2

『女工哀歌(エレジー)』
マイケル・ペレド監督 インタビュー

マイケル・ペレド監督

マイケル・ペレド監督 マイケル・ペレド(監督・撮影・製作)

1952年 スイス・ヴヴェイ生まれ
イスラエルで育つ。様々な職業を転々とするが、映画を作る夢は捨てがたく、ドキュメンタリー監督となる。『Will My Mother Go Back to Berlin?』(93)はハワイ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。
2001年からグローバリゼーションをテーマにした三部作の制作を続けている。第1作目『STORE WARS: When Wal-Mart Comes to Town」(01)はサンフランシスコ国際映画祭ゴールデンゲート賞を受賞。今回日本公開される『女工哀歌(エレジー)』(05)は第2作目となる。現在三部作の最終作品『Seeds』を制作中。

--- まず中国でこの撮影ができたということに驚きました。なかなか作れないのではと思います。

中国では検閲があるのでやはり難しいです。中国の作家さんたちが作らないとは思っていませんよ。ただ、インデペンデントのドキュメンタリーというのは、まだまだ新しい分野だと思います。私の映画の中で一番批判をしているのは、世界経済のグローバリゼーションのシステムです。中国を批判しているのではありません。これは西洋の多国籍企業が作り出しているのです。中国は賢くこのグローバリゼーションという「大きな虎」に乗っかっているのです。

--- これは2005年の作品ですね。どのくらいの時間をかけて撮ったのですか?

ほとんど2回撮らなくてはいけなかったので、3年かかっています。初め1年半かけて別の主人公で撮ったものが没収されたり、主役の女の子がおりたりしたので、もういちど別の主役で撮り直しました。中国には6回行きました。

--- グローバリゼーションの映画は多いですが、ドキュメンタリーとして撮るのと、フィクションとして撮るのと二つの方法があります。監督がドキュメンタリーという手法を選んだ意味はなんですか?

ドキュメンタリーが好きだから。現実ほど面白いものはないと思っています。

これがフィクションだったら、僕はカリフォルニアを出なくてもよかったんですよ。200人の中国人を集めて芝居をさせてできるわけですから。でもそれをこの映画と同じくらいに興味を持って観てくださいますか? やはりこれが実話だから興味をもってくださるんじゃないでしょうか?

--- 実は私はさっき別の方のインタビューをしてきたところです。その方はメキシコの工場で働く女の子たちの話をフィクションにしたのです。彼はドラマの持つ力を信じていたと。

僕は異論があるわけではありません。ドキュメンタリーに劣らない真実がフィクションにあることもあります。アーティストは、自分が望むジャンルで仕事をすべきなんじゃないでしょうか。成否はないです。いい映画と悪い映画はあると思いますが。

--- 最初に彼女たちのことを知ったときどう思われましたか?

ショックを受けたことはいっぱいありました。工場のシステムのことも知らなかったですし。たとえばトイレですが、朝のシフトのとき、夜のシフトのときそれぞれ1回と決まっています。それ以外に行くと罰金です。労働時間が長いので、みんなほんとに疲れてしまってまぶたが下がってくるのを、洗濯バサミでとめて目をつぶらないようにするのです。たかがジーンズ1本のために、夜通しあんなことしなくちゃいけないんですよ。普通の人なら寝かせてあげて後一日遅くてもいい、と言いたいですよね。何も緊急のことなんかないんですから。

--- これを観た後は「1円でも安いものを探そう」という気がなくなりました。なんだか悪いことをしているような気がして。

ジーンズを買う人は一番安いものを買う人ばかりではないでしょう。すごく高いものもありますよね。日本で一番安いジーンズってどのくらいですか? 3000円くらい?

--- 1000円のもありますよ。

じゃあ、その1000円のジーンズと10,000円のジーンズの違いはなんでしょう? ただファッションですよね。10,000円どころかもっと出す人もいますね。売るときに「これを着るともっとファッショナブルですよ」と言うのではなくて、「これを着ると世界からもっと悲惨なことが少なくなりますよ」と言うこともできる。ファッションを通じてみんなに覚醒を促すというのはおかしい話だけれどね。

--- 労働に見合った賃金をもらいたいというのは当たり前の要求だと思いますが、それが全然かなえられずに寝ないで働いている子どもたちがあんなにいるというのにショックを受けました。どうしたら変えていけるんでしょうね。この映画をたくさんの人に観てもらうというのも、ひとつの方法ではありますが。いつもなにかできないかなと思いつつ無力を感じています。

ほかの国でNGOが主催をしてくれて、2週間毎日違うところで映画を見せていたことがありました。NGOの人たちが何かできることはないかと言うので、ポストカードを作りました。お店に「私たちはここでは買いません」というカードを渡したこともあったのです。消費者ができることは様々あると思います。ボイコットを喜ぶ業者の人はいませんから。フェアトレードのお店に行くということもできます。日本にもありますか? 

--- あります。

ただ品物が少なかったりするんですよね。もっとたくさんの人が行くようになれば数もセレクションも増えます。自分で工場を持つのはいかがですか?(笑) 

--- 監督が知らせる映画を作ってくださったら、私たちが今度は書いて知らせて行きます。とりあえず自分たちができることをしていけばいいんですよね。

はい。

--- 映画の最後に彼女たちがどうしているか出てきますが、2005年時点のことですよね。今現在どうしているのかご存知ですか?

僕たちはいっさい彼女たちとコンタクトを取れなくなっているんです。政府に僕たちとの接触を禁止されましたから。ほかの国からときどき映画についてのEメールはもらうのです。ポーランドのワルシャワからは「ジャスミンがお正月に帰る旅費にカンパしたい」というのも届きました。

--- ジーンズのポケットにお手紙が入ってくるエピソードがとても好きなんですが、ほんとにあったことですか?

どう思います?

--- そうだったらいいなぁと思います。

僕は言わないでおきます。一つのポケットだけに入っているのではなく、どのジーンズのポケットにも彼女からの手紙が入っている、そんなイメージにしたかったのです。

--- 今度からジーンズを買ったらポケットを確かめます(笑)。

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(インタビュー:白石・宮崎・梅木 まとめ:白石 写真:梅木)
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