女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

SH0RT SHORT FILM FESTIVAL ASIA 2006

『How Does the Blind Dream(盲人はどんな夢をみるか)』

ユ・ジテ監督 来日会見

6月9日(金) 於 全日空ホテル東京

『オールドボーイ』で一躍脚光を浴びた韓国の俳優、ユ・ジテがショートフィルムの監督として来日。翌日のセミナー上映を前に、グループインタビュー形式での会見が行われ、作品について多くを語ってくれました。

作品紹介

 「目に映る景色は私を熱くする」冒頭で視覚障害者である主人公のモノローグから始まるこの『HOW DOES THE BLIND DREAM(盲人はどんな夢を見るか)』は、2年前ショートショート フィルムフェスティバル アジアで上映された『THE BIKE BOY』に次ぐユ・ジテの2作目となる監督作品である。

 ユ・ジテといえば『オールド・ボーイ』で性格俳優としての地位を確立し、韓流には乗らずに我が道をしっかりと歩み、ある意味俳優としては絶好のポジションにいるといっていいだろう。その彼が監督としてどのような作品を撮ったのか。『THE BIKE BOY』は未見だったので期待して観に行ったのだが、いやはや、びっくり、彼の監督としての手腕に完全にノックアウトされたという感じなのである。

特に秀逸なのは映像である。色にも温度があり、視覚障害者も何かを感じて色を識別しているのではないかと考えたというユ・ジテ監督の言葉通り、CGを駆使し赤やオレンジ、黄色などで視覚障害者の見ている(感じる)映像を鮮やかに描き出した。また神経を逆撫でされるように響き渡るゴキブリの羽音、女が着替える時の衣擦れの音、サンバのリズムなどの音響、そしてかなり長めのカットなども演出として成功している。

インタビュー中彼自身何度も繰り返し言っていたことだが、「視覚障害者が持っている性的ファンタジー」であるこの作品は、下手をすると失敗作どころか、非難轟々観るも無残な作品になっしまう危険性スレスレのところで、試験的な映像を散りばめながら視覚障害者を一人の普通の人間として扱っている。とかく健常者は障害者を特別視しがちであるが、それが時として逆差別になっているのかも、と考えさせられてしまった。世の中のことを何も見ていないのは健常者も一緒なのである。最初ゴキブリの意味がわからなかったが、広い宇宙の中、無駄にがさこそ蠢いて、うたかたのダンスに興じている人間なんてゴキブリみたいなものだなあと、(そこまで監督は考えていたかどうかは不明だが)なんだかシックリ馴染んでしまった。もちろん、賛否両論、嫌いな人は絶対的に嫌いだと思う映画だが。

 ユ・ジテ監督は次回作で人間と人間の関係性の中で、人間はどんな本性を出すのか表したいという。彼の感性でどのように仕上げられるのか、今からとても楽しみである。

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(文:よねはらひろこ)

ユ・ジテ監督インタビュー

ユ・ジテ
とってもリラックスした様子で・・
Q:今回の作品は盲目の中年の男性が主人公ですが、なぜそういう方を主人公にされたのですか?そしてオ・ガンノク氏をお選びになったのはなぜでしょうか?

A:私がこの映画を作ろうと思ったきっかけは非常に単純なことだったんです。
 ある日私の後輩と電話で話していた時に、その後輩が盲目の鍼灸師の話をしてくれたんです。この話を聞いた時に、もし視覚障害者の人が何かを想像するとしたらどんな想像をするのだろう? 夢を見るとしたら、そういう人たちはどんな夢をみるのだろう? ファンタジーを頭の中に思い描くとしたらどんなものだろう?・・ということから始まりこの映画を撮ろうと思いました。
 オ・ガンノクさんは元々テンポがゆっくりな方で、ほんわかした雰囲気もあり、話し方も口調もユニークな方で、この役にいいなと思い、是非やって欲しいと出演をお願いしました。

Q:監督としてご自身の作品の中で是非使ってみたい俳優さんがいましたら教えて下さい。また、その中で特に若手で注目されている方がいれば教えて下さい。

A:私がこの人を起用したいと言うのはすごく生意気な感じになってしまいますので、誰かを起用したいということよりも、一度なにか一緒に作業をしてみて、その人が魅力的だなということを感じられれば使いたいと思います。

Q:盲人の方が主人公なので「見えないものを見ようとする」ことを表現なさっていたと思います。それを特に音響や音にいろいろと感じとれたのですが、その辺はどういう風に意識して監督されましたか?

ユ・ジテ
カメラに向かい自分でも指でフレームを作って・・
A:この映画には視覚障害者の方が登場しますが、私たちは目の見えない人は何も見えていないと、どうしても錯覚をしてしまいますし、どうせ見えないだろうと偏見を持ってしまうかと思うのですが、映画の中では視覚障害者の方も視覚があるんだと言うことを描きたかったのです。
 頭の中に、彼ら、彼女たちが思い描いている、彼らなりの視覚を持っている、ということを言いたかったのです。それは私が実際に目の見えない方とインタビューをさせて頂いたり、いろんな本を読んでもそのように感じました。それと、視覚障害者の方たちに何か特徴があるとしたら、五感の中の視覚がないので、他の部分が発達しているということがあり、この映画でもそういった部分を見せるために、おっしゃったように音響など音の部分にかなり気を使いました。

Q:撮影の時に難しかったことと、次回作品を撮るとしたらどういう作品を撮りたいですか?

A:映画作りの難しさをあげたらきりがないくらいほんとに難しい点ばかりです。今回も監督というのは誰にでも出来ることではないなと思いながら映画を撮っていました。
 映画作りを通して感じたのは、フィルムとデジタルの違いです。それぞれに長所と短所があるのですがデジタルで言えることは、どうしても克服できない解像度というのがあり、鮮明に映せるかどうかが難しかったです。サウンドについても五感の視覚がないというところで、聴覚、音の部分をかなり見せたかったのですが、6ミリのデジタルというのは媒体的に2チャンネル、ステレオの音しか出せず、フィルムだったら5.1チャンネルも可能なのですが、2チャンネルしか使えなかったのが残念でした。
 でもデジタルの長所を生かすことも出来ました。CGをたくさん使え、モーションキャプチャーなどが使えるという点、そういう利点は今回使いました。
 次に撮るとしたらフィルムで撮りたいです。解像度の高い視覚的にクオリティの高いものを撮りたいです。内容については人間と人間の関係性の中で、人はどんな本性を見せるのか、ということを描いてみたいと思います。タイトルは直訳すると「親しい振りをするな」「馴れ馴れしくするな」(笑)を考えています。

Q:目の見えない方を主人公にした映画ですので、当然目の見えない方にインタビューなどをしたと思うのですが、そういう方は映画というものをどう思っているのでしょうか? また、目の見えない方を主人公にした映画について、その方たちはどんな共感を感じられたのでしょうか?

A:最初は、視覚障障害者の方たちが気に入るような映画を作りたいと思ってスタートしました。しかしやっていくうちに内容的な部分で、彼らが持っている性的なファンタジーの部分を描こうと考えましたので、視覚障害者の方が観た時に、もしかしたら不愉快な思いを抱くかもしれないと途中で考えるようになりました。でもその方たちは映像は視覚的には見えないのだから、思い切り自分の撮りたいものを撮ろうと自分自身を慰めて映画を撮っていました。
 この映画を視覚障害者の方たちの偏見を描いたとしたら不愉快に思うかもしれませんがが、この映画はあくまでもファンタジーですので、ファンタジーとしてみなさんに観ていただければ、視覚障害者の方たちもこんな描き方もあるんだな思ってくれるのではないかと思います。

Q:俳優として監督ユ・ジテをどう思われますか?

A:初めてのご質問です。一度も考えたことのないことだったのですが、、、 私が映画を作っている時に思うことがあるのですが、映画は100年くらいの歴史を持っています。その中で立派な監督さんたくさんいますので、私が映画を作る時は真心をこめて映画を作ってゆきたいと思っています。

ユ・ジテ
偉そうな監督のポーズで、の注文があり・・
が、迫力不足・・
ユ・ジテ
椅子に座って、腕、足を組んでと、カメラマンさんの演技指導の成果!?

Q:監督としていままで自分が演じてきた作品が役に立つことはありましたか? その中で一番影響を受けた出演作は何でしょうか?

A:もちろん影響は受けていると思います。私が出演した作品の監督さんというのは、私が素晴らしい監督さんと思って選んでその作品に出ているわけですから、一緒に映画を作っていく中でその監督さんたちからいろいろなことを学んで、いろいろなことを感じてきました。自分の作品の中になんらかの影響として入っているのではないかと思います。ただ、自分で映画を作る以上、自分なりのカラーを見つけるということも大切ですのでそれを真似しようということではなく、あくまでも刺激を受けている、という気持ちです。

Q:字幕があちこちに飛んで現れるのですがその意図と、CGを使った人間が踊っているのはご本人ですか?

A:外国映画を観ると字幕が下に出てくるわけですが、もっと字幕を映画の中に利用してもいいのではないかと思い、今回の映画の中でも字幕を映画における一つの道具として使えないかと試みてみました。以前にも、読むための字幕ではなく字幕を小道具として利用した作品があり、トニー・スコットの『MAN ON FIRE(邦題:マイ・ボディガード)』という映画ですが、面白い字幕の利用法が取り入れられていますし、面白い映画ですので是非観てみてください。 字幕も映画の中のコンセプトと合うのであれば利用する価値があると思いあのように色々と試してみました。
 モーションキャプチャーの技法を使ってCGを作り映画の中に取り入れたのが踊っているシーンです。あれは映画では多くの人が踊っているように見えますが、実は男女一人ずつにシーンごとに踊って頂いたのをコピーして、どんどん人数を増やす形にして、ああいう映像を作っていきました。
 実は、私は以前モダンダンスをやっていて、それが非常に面白かったので、そういったモダンダンス的な動きになっているのですが、踊っているのは私ではありません。

Q:映画の中に在米韓国人の方が出てくるのですが、その方を使った理由は? また、最後にラップも踊っていますが、この映画自体がファンタジーという側面があるので、それとラップが合うということも理由のひとつですか?

ユ・ジテ
短編映画の監督なのにこんなに来てくれてと嬉しそうでした

A:映画を作った後に弁解するのはよくないことだと思うのですが、実はこの映画は最初もっと長いものを撮りたいと始めたのです。ロマンスをもっと増やして、女性が男性とのロマンスを話すことによって、鍼灸師の男性が頭の中で一人色々なことを想像することをもっとたくさん入れたり、ファンタジーをもっと強くしたかったのです。近くに住んでいる女の子に卑猥な冗談言ったり、サンバをファンタジーの中に取り入れたり、もっと膨らませたかったのですが、思っていたよりも短く中編くらいの長さになってしまいましたので、充分には入れられませんでした。女性にはちょっと外国志向のところがあって、男性の好みも国内の人よりは外国の男性を好むような、そういうキャラクターとして登場させたかったので、在米の人をキャスティングしました。
 ラップについては最初からラップを入れるつもりでしたので、ラップがうまい人ということを念頭において友人を通して彼を見つけました。ずっとアメリカに住んでいた方で韓国に来て日が浅かったので、韓国語の発音を聴いたら、あまりにもつたないと思ったのですが、でも映画を観終わった後に、なぜ彼の発音が韓国語として聴いたときにつたないかというのもわかると思い、そのまま彼を起用しました。

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(写真・まとめ:日向夏)
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