母親メル(ホリー・ハンター)と仲が良く、 シャイな女の子トレーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)は、 ハイスクールに進学するがダサイとからかわれる。 トレーシーは学園の女王様的存在のエヴィ(ニッキー・リード)のようになりたいと願い、 メイクやファッション、ふるまいまで彼女のまねを始め、エヴィとは親友になり、全く別人のようになってしまうのだった…。
Q:エヴィ役のニッキーが13歳の時の経験談ということですが、 共同で脚本を手がけるようになった経緯を教えて下さい。
A:実は、ニッキーの事は、彼女が5歳の時から知っているんです。 だから彼女の成長を見て来たのですが、私が映画の撮影で5ヶ月留守にして帰ってきたら、 彼女が全然違う人物になっていたのです。
学校に行く前に3時間ぐらいヘアメイクをして、 ファッションマガジンのモデルのような外見で、お母さんや家族に反抗していた。 でも私の事はまだ友人だと思ってくれていたみたいでした。 これは彼女の内面に何かあったに違いないと思い、なんとかしなきゃと思いました。 彼女の両親は私の友人ですから彼らも助けたかったし、 ニッキーの問題に立ち向かってみようと思いました。 それで、彼女の興味が違う方向に行くように、いろんな事を一緒にやりました。 友人としてね。
その結果、彼女が俳優業に興味を持ち始めました。それなら彼女が主役で、 私が監督をしようと盛りあがり、それが私達の夢になったのです。 彼女や彼女の友人と過ごしたなかで、彼女のいろんな気持ちが現れてきて、 実際に脚本を書き始めると、「私ならこう言う」「私ならこうする」と演じてみたりして、 徐々に出来あがっていきました。
Q:何もかもに反抗的だったニッキーが、 なぜ監督には反抗しなかったのでしょう?
A:ニッキーが会いたくなったら会うような間柄だし、 私がとんでもない思いつきをするのが、おもしろかったんじゃないかな。 急にロッククライミングにいったり、派手なかっこをしてふざけたりするから。
Q:主役は二人の少女ですが、 その側面で母親のストーリーでもありますね。
A:トライアングルな関係よね。 母親と仲がいい娘だったのに、そこにエヴィが入ってきて…。 買い物にいっても「ママは来なくていい」なんて、母親は拒絶されるの。 演じたホリー・ハンターは、素晴らしく勇敢な演技をしてくれたと思います。 実際にニッキーの母親とも話していましたが、ニッキーの母親のコピーではなく、 ホリーの考え方で演じてくれました。
Q:母親の痛みもすごく感じました。
A:仕事して家事をして一生懸命生きているのに、 娘がぐれてしまって。でも毅然として立ち向かおうとする。 彼女は困った友人をほっとけなかったり、心が広いのよね。
Q:エヴィは、一緒に住んでいる人を、 親戚だと言っていましたが、本当はお母さんだったのですよね?
A:すごく複雑な関係というか…。 エヴィを引き取りたくないのね。そんな環境で育ってきたエヴィは、 つかめるものはつかんで自分一人で生きてきたような子だから、 どこかで誰かにしがみつきたい。愛情をかけてくれるメルといたい。 そのためにいろいろウソのような事も平気で言う。メルもかわいそうだとは思っているけど、 自分の娘に悪影響を与える子をそばに置いておきたくない、 でもエヴィと娘を引き離すと、娘にはどんどん拒絶されてしまう…。
Q:エヴィの母親が整形手術に失敗しますが、 そのシーンを入れたのは?
A:この映画のテーマのひとつとして、 外見の美しさにとらわれるというのがあります。 それをつきつめると、大人までそういう考えにとらわれているというのを見せたかった。 あのブルックという女性はドラッグの問題もある。 メルがエヴィをちゃんと世話してくれる人に返したくても、 そういう状態の人しかいないという、つらい現実も表している。 実は私の友人が本当に整形手術で耳を切られて(!)びっくりしたことがあったんです。 恐ろしいなあと思ったわ。
Q:プロダクションデザイナーから、 監督に転身したのは何故ですか?
A:この作品をやる前から、 ずっと脚本を書いたりして監督になりたかったが、なかなか実現しなかったのです。 でもこの作品に関しては絶対やらなければと思いました。 こういう作品ならそんなにお金がかからないのもわかっていたし、 最悪の場合はデジタルカメラで撮ってでも完成させようと…。
Q:(資料によると)撮影が26日間というのはハードでしたね。
A:主役の女優二人が未成年なので、 一日に働く時間が制限されていたんです。とても大変でした。 秒単位のスケジュールで、着替えてメイクして撮影して…。せかすのが私の仕事でした(笑)。 俳優達が才能あふれる人達だったのでラッキーでした。 ある日など、エヴァンは8時間半(一日に働ける制限時間)の間に13シーン撮りました。 8回洋服を替えて…。あどけない優等生の時から、不良娘まで。 でもほぼ1テイクか2テイクで決めてくれました。素晴らしかったです。
大作になると待ち時間が長くてエネルギーが続かなかったりするけど、 この作品ではいつも何かしてなくちゃならないから、どんどんエネルギーが高まって、 だらだらする時間なんて全くない状態だった。 10代の子のエネルギッシュな生活と一緒だったの。 それは映画にも表れていると思います。
Q:スタッフに女性が多かったと聞きましたが、 男性スタッフが多い現場との違いってありますか。
A:女性が多いと、 現場がとてもエモーショナルです。最後のシーンを撮った時なんて、 みんなが泣いちゃうもんだから、抱きしめてあげないといけなかったわ。 若い主役の二人にとっては、「私もこのぐらいの時はこうだったわ」と励ましてもらったり、 アドバイスされたり、良かったんじゃないでしょうか。
Q:ラストの方でざらついたような画面になるのは?
A:画面の色の構成やキメは ストーリーの流れによって変えています。最初はあまり明るくないけど、少し華やかになって、 だんだんギラつくような感じになって、また色が消えてきて、 最後のグレイッシュな感じになるんです。でも太陽がちょっと照らすの。
Q:それがその後のトレーシーに希望が持てるという感じで良かったです。 実際のニッキーは俳優業に興味を持って、この作品の後どうですか。
A:すごいですよ。 その後3作に出て大きいエージェントもついたの。 彼女は今16歳だけど、すごく大人だと思う。実は彼女、今私の家に泊まって、 うちのネコの世話をしてくれているのよ。私の次の作品にも出ています。
(2004年秋 東京国際女性映画祭にて上映、来日時のインタビュー。
シネマジャーナル本誌63号に掲載)