女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『サマリア』主演女優来日記者会見

1月20日(木)13:30〜 渋谷東急セルリアンタワー

クァク・チミン、ハン・ヨルム

さる1月20日(木)、渋谷東急セルリアンタワーにて、キム・ギドク監督作品『サマリア』の主演をつとめた若い二人の女優、クァク・チミンとハン・ヨルムが来日し記者会見を行いました。

司会者からの質問

Q 初来日ですが、日本の印象は?

クァク 日本に来てからとにかく皆さんに親切にしていただいています。こちらが戸惑ってしまうほど良くしていただいて感謝しています。ここまで皆さんに歓迎していただけるとは思っていなかったので、とても嬉しいです。そしてこちらに来てからインタビューをして下さる記者の方々が、皆さんしっかりと映画を観て私たちのことを待っていて下さって、非常にありがたく思っています。

Q 記者会見に先駆けて、この状況の印象を一言

ハン 本当に今、緊張しています。この『サマリア』にこれほど多くの関心を寄せてくれていることに感謝しています。

Q キム・ギドク監督からはそれぞれの役についてどの様なアドバイスがありましたか?

クァク 私は演技をするのも、映画に出るのも、主人公を演じるのも全く初めての体験でとても緊張していました。キャラクターを分析する時間や色々な準備をする間もないままに撮影に入ったので、分からないところは監督に何度も聞きました。すると監督は「全て君に任せるから。現役の高校生だから君の方が分かるでしょ」とおっしゃいました。監督には私生活のことなどを聞かれて、そのことについて話しているうちに段々と自分でも疑問点の答えが分かってきました。そんな風に私に答えを見つけさせてくれた監督には感謝していますし、俳優の眼から見てもとても立派な監督さんだと思います。

ハン 私もこの『サマリア』に出演して、初めて演技というものをしました。ですからとても緊張して、きっと監督には沢山のご迷惑をおかけしたと思います。でも監督は普段の私が良く笑う姿を見て、私がチェヨン役に合っていると思って起用して下さったそうです。ですから、監督の方からアドバイスをするということはあまり無かったのですが、居心地の良い現場にするように監督は努力して下さって、演技については自分のスタイルでやりなさいと言って下さいました。

Q 映画の中ではとても仲良しの役でしたが、お互いの印象は?

ハン 初めて(クァク)チミンさんに会ったときの第一印象はとても冷たい感じがして、近寄りがたかったんです。でも撮影期間がとても短かったので、とにかく早く仲良くならなくてはいけないと思って、出来るだけ親しくなるように努力しました。彼女はどんな時にも緊張せずに、落ち着いている人だと思います。私なんか緊張すると突拍子もないことを口から発してしまいますが、彼女はどんな状況に置かれても冷静沈着な人です。その点は見習いたいと思います。

クァク 私は(ハン)ヨルムさんよりも早くにキャスティングが決まって、シナリオも先に読んでいたのですが、私が読んだシナリオの中のチェヨンという女の子は、映画とは違って背も高く、言葉遣いも大人びている、一言で言うとセクシーな女の子というイメージが受け取れたのです。ところが、実際にヨルムさんを見たらとても可愛くて、良く笑う人で、この人がチェヨンをやるんだと少し意外に思いました。でも映画の撮影が始まったら、最初に私がシナリオを読んで抱いていたイメージのチェヨンよりも、やはり彼女が演じる方が合っているのではないかと思いました。映画の中のチェヨンと同じように、いつも本当に良く笑う明るい女性です。今でもとても仲良くしています。

Q 短い撮影期間の中での思い出は?

クァク 私はこの映画の撮影中に大学受験があり、撮影の合間を縫って勉強しようと思って問題集を持ち歩いていました。ところが現場に行ったら、寝る間もご飯を食べる間もないくらいのきついスケジュールで、問題集にさわることさえ出来ませんでした。それが受験に影響してしまったかなと思います。しかし短期間に撮ったからこそ、この演技が出来たんだと思います。同じシーンを何度も練習したり、撮影したりしていると、感情のラインが崩れてしまうので、短期間に撮ってしまって良かったと思いますし、監督も私たちが演じる感情表現を上手くキャッチして取り入れてくれたと思います。

Q ちなみに受験の方は無事に終了したのでしょうか?

クァク 本当でしたら去年、大学生になっていたはずだったんですが、先ほどお話ししたように、なかなか勉強する時間がなかったため、受験には失敗してしまいました。映画を撮った後に、数ヶ月間役柄を引きずってしまい、憂鬱な状態が続いたんです。役柄が憂鬱だったこともあり、しばらくは笑うことも出来ず、外出も出来ず、人が変わったようになってしまったのですが、1年間演技の勉強をし、一所懸命勉強もしたので、今年は大学に受かりました。韓国は入学は3月なのですが、3月から大学生になります。

Q それはおめでとうございます。よかったですね。では、ハン・ヨルムさんの撮影中の思いでは何ですか?

ハン 今回の撮影は11日間行われたのですが、その中で私の出番があったのは5日間だったんです。その5日の内の最初の3日は訳も分からず、あっという間に終わってしまって、残りの2日で演技というのはどういうものなのかを知ろうと思ったのですが、その2日もあっという間に過ぎてしまいました。この映画に出て何より嬉しかったのが、監督がベルリン映画祭でこの映画で監督賞を獲ったことです。あまりに嬉しくて、気絶しそうなほどでした。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 


チェヨン役のハン・ヨルム(21歳)

 

 

 

 

 

 

 

 


二人仲良しです

 

 

 

 

 

 

 

 


ムービーのカメラマンに手を振る二人

 

 

 

 

記者からの質問

Q 先ほどクァクさんの答えの中で、解らないことは監督と私生活の話をしながら答えを見つけていったとありました。しかしそうは言っても今回は二人とも凄い役どころで、ハンさんの方は援助交際をしていて、その相手に恋をしてしまい、一方クァクさんはそんな彼女に恋愛に近い感情を持って、その後凄い行動に出て行くわけです。そんなことはもちろん実生活では経験されていないと思うのですが、そういう彼女たちの感情の動きや、そういった行為に及ぶことをどの様に理解して演じたのですか?

クァク 実は今回日本に来て、二人の女子高生の間に恋愛感情的なものが有ったのではないかというご意見を聞いて、とても驚きました。私たちは監督も含めて、ヨジンとチェヨンの間に恋愛感情があるとは全く思っていなくて、同性愛的な見方というのは映画を撮っている間、想像もしていませんでした。そういう見方も有るんですね。ヨジンは母親がいない、父と二人だけの家庭で育ちましたので、父親の次に大切なのが友達のチェヨンなのです。ですからチェヨンは人生の一部とも言えるわけです。そんな親友に対する深い思いが映画の中に現れていたのではないかと思います。
それから、監督とのやりとりの中で私生活について聞かれたと言いましたが、主に聞かれたのは、何歳の頃にはどんなことがあったのか、これまでの人生において悲しい思い出、楽しい思い出についてでした。そういう事を一つ一つ思い出していく内に、自然にヨジンの気持ちが解るようになりました。そして、「ヨジンはこうだから、この時にこんな風に思ったのかな」と私が答えを見つけると、監督は言わなくても分かったようで、「じゃあ、撮影に入ろうか」と言ってくれて、私の気持ちを読むと言う点で、監督は凄い方だと思いました。

ハン チミンさんは映画の中のヨジンととても似たところが有るんです。先ほどのインタビューでお互いの考えの違いがはっきりと分かったのですが、チミンさんは割と保守的で、援助交際は何があっても絶対に駄目という考え方なんです。私の方は映画の中のチェヨンと似ていて、確かに援助交際は悪い事だと思うけれど、援助交際をしてしまうということもあり得るという考えなんです。なぜ援助交際をするに至ったのか、その過程に眼を向けたいと思うのです。援助交際はお金を出して性を売り買いするものですが、なぜその女性がお金が必要なのかを考えたいのです。只単に、お小遣いが欲しいからとは思えなくて、家が貧しいからとか、親の入院費が必要だからとか、自分に叶えたい夢があるけどお金が無くて叶えられないとか。若くして稼げるとなると、援助交際しか方法が無いのかなと。そういう意味では援助交際というのは有るかもしれないという考えです。もちろん、悪いという事は十分に解っていますが、頭ごなしに駄目だとも言えないのではないかと思います。

クァク でも、映画の中のチェヨンは旅行に行きたくて援助交際をしていたのよね。

Q 日本の俳優で好きな人がいますか?

クァク 私が好きなのは松嶋菜々子さんです。でも韓国で人気があるのは木村拓哉さんです。木村拓哉さんが出演されているドラマが沢山紹介されていますし、ウォン・ビンさんに似ているという事もありますし、出演しているコマーシャルが韓国で放映されている事もあって、韓国ではとても人気があります。

ハン 私は最近、『花とアリス』という映画を観たのですが、最後の方に出てくるバレエのシーンがとても印象的で、アリス役だった蒼井優さんが大好きになりました。

Q 今回主演を張ってみて、女優としての成長、手応えを感じていますか?

クァク この映画に出た事によって、私はとても成長したと思っています。端役などを経ずにいきなりの主役で、全ての映画の流れが私に掛かっていると言う点でとてもプレッシャーを感じていたのです。キム・ギドク監督の映画って出ると凄く苦労するよとも言われていましたので、それを一つ乗り切れたなという手応えも感じています。また考え方の面でも大分変化がありました。以前はどうしても親に頼っていましたが、この映画に出た事がきっかけとなって、自分で責任を持って、自分なりの考えで色々な事を決められるようになりました。また女優としては、出来るだけ可愛く映る役ばかりを夢見ていたのですが、この映画に出た事によって、女優として演技力の方で認めて欲しいという欲も出ましたし、これからも良い役をどんどんやっていきたいという気持ちを持つ事が出来ました。

ハン 私もこの映画に出演した事によって、内面的に大分成長したと思います。考え方もとても自由になった気がします。以前は人の眼を随分と気にしましたが、今は人にどう思われようとあまり気にならなくなりましたし、自分に自信が持てるようになりました。それに以前は特に目標が有ったわけではなかったのですが、この映画に出た事がきっかけとなって、本当に良い女優になりたいと思いますし、独特な個性のある魅力的な女優になりたいという欲も持てるようになりました。

Q 同じ韓国の俳優で目標にしている人、また共演したい人はいますか?

クァク 日本でも公開されると聞いていますが『大統領の理髪師』に出演しているムン・ソリさんを目標にしています。彼女はとても演技力があると韓国でも認められています。普通女優というのは、自分の決まったイメージにどうしてもこだわってしまい、似たような役をやる事が多いのですが、彼女は自分の殻を常に打ち破って様々な役柄を演じられる女優だと思います。私もそのように色々な役を演じられる女優になりたいと思っています。そして共演してみたいと思っているのは、ヤン・ドングンさんと私よりはかなり年上ですがソン・ガンホさんです。ソン・ガンホさんだったら、父娘の役がいいかなと思っています。

ハン 私は特に目標にしている人はいないのですが、挙げるとしたらチョン・ドヨンさんが好きです。彼女はとても個性的で、色々な魅力のある姿を女優として見せてくれると思います。でも好きな俳優が多すぎるので、そういった人たちから少しずつ魅力を自分に取り入れて、私なりの独特な魅力のある女優にこれからなっていきたいと思っています。共演したい人も特には無くて、好きな俳優が沢山いるのでその人たちと一人ずつ徐々に共演できたらいいと思います。

Q ホテルの窓から飛び降りる場面でも笑っていましたが、あのような場面でも笑っているのは監督の指示だったのか、それとも自分の判断だったのか?

ハン この映画を撮り終えて一番沢山受けた質問が、「なぜあなたは映画の中でそんなにいつも笑っていたの?」というものでした。私も演じていて、そろそろ笑うのやめても良いんじゃないかなと思う事もあったんです。でも監督からはチェヨンはいつも笑っていた方が良いという指示が有りました。私もやはり彼女は笑っているべきだと思ったんです。その理由は、彼女が笑っているのは幸せだからではなかったからです。彼女の笑いはこの時代を生きている大人たちへの警告なんだと思っていました。

Q 父親役のイ・オルさんとの共演について感想やエピソードが有れば教えて下さい。

クァク イ・オルさんは私よりもずっと年上ですし、立派な経歴のあるベテランで、私から見れば先生にあたる方なので、初めはとても戸惑って緊張していたのですが、実際に一緒に演技をしてみたら、本当に父だと思えるほど暖かい感じの方でした。それによって私の緊張もほぐす事が出来ました。見た目や雰囲気も私の実の父に似ていたので、益々親近感を覚えました。イ・オルさんは映画の中の姿と同じように本当に優しい方で、そしてまたタフな面をも持っていてとても素敵な俳優さんだと思います。今でも時々お会いするのですが、お会いすると「お父さん」と呼んでいます。



会見場は大入り満員。未だ韓流ブームで韓国映画への関心が高い事を伺わせます。彼女たちは初来日で、大勢の記者を前にした会見は初めてらしく、初めのうちはかなり緊張した様子。それでも質問にはハキハキと答え、20歳そこそこなのにしっかりしてるなぁと感心しました。(いや、日本の女優がしっかりしなさ過ぎなのか、、、)映画の中ではまだ少女の顔だった二人が、撮影から1年半を経て随分と大人になり、綺麗になった印象です。カメラマンたちの食いつき方が凄かった。ファッションセンスがちょっと?でしたが、これからどんどん磨かれてもっと綺麗になって、良い女優に成長していくのが楽しみな二人です。

『サマリア』は陽春、恵比寿ガーデンシネマにて公開。作品紹介はこちらをご覧下さい。

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(まとめ・写真:梅木 直子)
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