女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『オールド・ボーイ』

11月6日(土)よりシネマスクエアとうきゅう、有楽町スバル座ほか全国拡大ロードショー

 今年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した話題の韓国映画『オールド・ボーイ』。今回公開に先立ち、パク・チャヌク監督が来日し記者会見が行われました。『JSA』や『復讐者に憐れみを』(2004年公開予定)などの作品から勝手に抱いていたイメージは硬派で強面。しかし、実際は物腰柔らかく、ユーモアを交えて話す様子はかなりのインテリと感じました。

[物語]

 ごく平凡な生活を送っていた男オ・デスは、ある日突然誘拐され、気がつくとそこは狭い監禁部屋だった。誰が、何の目的で?全く分からぬまま15年間監禁され、自分をこんな目に遭わせた誰かも分からぬ人間への復讐心だけを糧に、彼は生き続け、脱出をはかる。ようやく解放された彼の前に現れたのは謎の男ウジン。彼は五日間で監禁された理由を解き明かせと、お互いの命を賭けたゲームを持ちかける。オ・デスは彼に好意を寄せる若い女ミドの助けを借り、謎を解き始めるが、そこにはウジンによって巧妙な策略が張り巡らされていた。

[記者会見の模様]

9月15日(水) 13:00〜 渋谷セルリアンタワー東急ホテル39F にて
出席者:パク・チャヌク監督 司会:高橋

パク・チャヌク

司会 まずは会場の皆様に一言ご挨拶をお願いします。

パク このように関心を持ってくださってありがとうございます。『JSA』以降2番目に日本で公開される私の作品となります。今後『オールド・ボーイ』の前に撮影した『復讐者に憐れみを』、またオムニバス形式で作られ、日本の池田監督も一緒に作ってくれました『スリー・モンスターズ』も公開される予定です。最近韓国の文化に対して、日本の方々の関心が大変高いと聞いています。今回『オールド・ボーイ』の公開をきっかけに、日本の女性の皆さんに、韓国にはペ・ヨンジュンさん以外にもチェ・ミンシクさん、ユ・ジテさんのように素晴らしい、かっこいい男性がいることを知っていただきたいです。ありがとうございます。

司会 パク・チャヌク監督は日本は何度目ですか?

パク 10回くらいは日本に来たと思うのですが、いつも仕事の関係できているので東京以外の所には行ったことがありません。また東京も渋谷界隈だけで、他の所は行ったことがありません。日本へ来たのは一昨年に東京国際映画祭の審査員として来て以来なので、2年ぶりの来日になります。

司会 いかがですか、日本は?

パク このように暑い時期に来たのは初めてで、昨日は非常に暑くて苦労しましたが、今日は風が吹いているのでだいぶ楽です。こちらへ来る前に昼食を食べ、その後にこの近所にある映画のポスターを扱っている店に立ち寄ったのです。そこで私が大好きな黒澤明監督の『天国と地獄』のポスターを手に入れまして、今非常に気分がいいです。

司会 そんな気分のいい監督に、映画についての質問をさせていただきましょう。この映画は日本の漫画が原作となっていますが、その漫画を読まれたきっかけ、読まれた感想、そして映画化されるに到った経緯をお聞かせ下さい。

パク この映画を作ろうと思おう1年前にポン・ジュノ監督が、実はこういう漫画があるのだけど非常に面白いから是非読んでくださいと勧めてくれました。しかしその作品は入手するのが困難で、ずっと読めない状態でいたのですが、勧められてから1年後、この映画のプロデューサーが正にその漫画を持ってきて、これを映画化してみないかと提案をしてくれました。本当に運命的な出会いだと言えます。この作品を読んでの感想ですが、この二人の主人公の中に隠された二つの秘密があることに非常に驚かされました。彼らが精神的に社会的なアウトサイダーになっていくこと、また孤独な二人の男性が壮絶な闘いをする中でお互いに愛情を持つようになるといった設定に、非常に魅力を感じました。昨晩、この漫画の原作者の方と一緒に食事をしながらお酒を飲んだのですが、彼と話をする内に考え方や世の中の見方が非常に私と似ていると感じました。ですから私が彼の原作を映画化しようと思ったことは非常に自然な成り行きだったのかなと、改めて思いました。

司会 この映画にはチェ・ミンシク、ユ・ジテ、カン・へジョンという魅力的な3人がメインキャストとして出演していますが、キャストについてお話お聞かせ下さい。

パク プロデューサーがこの話を持ってきたときに、実はこれはチェ・ミンシクさんがやることになっていますと聞かされました。私は常々彼と仕事をしたいと思っていたので、原作を読むまでもなく是非これはやらないとと、口には出しませんでしたが心の中で既に結論を下していました。一方で同じ頃にプロデューサーはチェ・ミンシクさんにこの作品を持って行って、パク監督がやることになりましたよと嘘を付いていたようです。ですから私とチェ・ミンシクさんの二人は互いに知らないままに、このプロデューサーに騙されて契約書にサインしたことになります。
 次にキャスティングされたのがカン・へジョンさんだったのですが、私は韓国の観客にあまり知られていない人を起用したいと思ったので公開オーディションを行いました。正確に何人の方が参加したかはわかりませんが、数百人の若い女優さんが集まっていました。その際に審査員をしたのが私と、チェ・ミンシクさんとソル・ギョングさんとキム・ジンウ監督でした。そして彼女たちの中でカン・へジョンさんが際だっていたので、我々4人は満場一致で彼女を選びました。当時ソル・ギョングさんとキム・ジンウ監督は非常に忙しかったにもかかわらず、若い女優を選ぶと言ったらすぐに飛んできました。
 イ・ウジン役のキャスティングには時間がかかりました。チェ・ミンシクさんと競演して押されることのない演技力を備えたスターの中からキャスティングをしようと思ったのですが、映画を見ていただくとわかりますがイ・ウジン役は出番が短いですし、チェ・ミンシクさんと競演をして良いことは何もないということで、なかなか手を挙げて下さる人がいなくて非常に厳しかったです。イ・ウジン役にユ・ジテさんを起用してはどうかと提案したのはチェ・ミンシクさんでした。実は我々はユ・ジテさんと非常に親しかったにも関わらず、彼の年齢が若いということで彼をキャスティングしようとは全く思っても見ませんでした。この映画の設定上、オ・デスとイ・ウジンの年齢差は2,3歳なのですが、実際の年齢などそれほど重要ではないのではないかという、発想の転換から彼を起用することにしました。イ・ウジンという役は少年のような人物なので、若い人をキャスティングしても全く問題が無いのではないかとう考えに到り、すぐにユ・ジテさんに脚本を送ったところ、その日の内にOKが出ました。私がこの脚本を書き始めた当初から、チェ・ミンシクさんは自分がイ・ウジン役をやると言って駄々をこねていたのです。ですから、もしユ・ジテさんが起用されなければ彼がイ・ウジン役に起用されていたかもしれませんが、ユ・ジテさんが起用されることによりそのような悲劇は免れることが出来ました。チェ・ミンシクさんがイ・ウジン役をやりたかった理由は、撮影時間は非常に短いのですが、映画を見終わったときに観客が一番魅力を感じるのは間違いなくイ・ウジン役ですので、少しの努力で多くのものを得たかったからだと思います。

司会 撮影中のエピソードなどをお聞かせ下さい。

パク クライマックスのシーンはNGが何度も出ました。時間が迫っていて、セットも全部取り壊して明け渡さなくてはならないのに、なおもNGが出て何度も取り直しをせねばならず、最後の数日間は寝ないで撮影をしていました。チェ・ミンシクさんは非常にエネルギーを必要とする演技をしていたので、数カット撮ると疲れ果ててしまって、どこかの隅っこで眠むりこけてるという状態でした。我々は彼らが寝ている間にスタンバイをし、スタンバイできたら彼らを起こし演技を撮るということを繰り返していました。熟睡している彼らを起こして撮影をするわけですから、こんなに朦朧とした状態でちゃんと出来るのかと心配もしました。しかし彼らはさすがにプロで、いざ撮影が始まると目を見開き、大声を出して演技をしてくれました。それを見て彼らは生まれながらに俳優なんだと、感動しました。
  もう一つ思い浮かんだことは、カン・へジョンさんのベッドシーンです。日本ではどうか知りませんが、韓国では女優さんが服を脱いでシーンを撮る際には、必要最低限のスタッフだけを残して他の人たちには外に出て行ってもらいます。今回カン・へジョンさんは初めてのベッドシーンで非常に緊張していたので、カットの声がかかると衣装を担当している女性が彼女に毛布を掛けて上げる、といった風に撮影をしていました。最初彼女は非常に緊張していたのですが、撮影の雰囲気が非常に良かったのですぐに慣れてしまい、カットが出て衣装の人が彼女に毛布を掛けようとすると、「暑いからいらない。早く撮りましょうよ」と言われてしまって、逆に撮影している私たちや相手の男優の方が戸惑ってしまって、衣装の人に「僕たちの方が戸惑っちゃうから、こっちに毛布を掛けてよ」と言ったことを覚えています。

司会 監督の中で一番気に入っているシーンは有りますか?

パク 二つありまして、まず導入部のパワフルなシーン。私は以前から映画の導入部をただ序論のように状況説明や人物紹介をダラダラするのではなく、ドラマチックなシーンから始まる映画を作ってみたかったのですが、この映画を通してそれを撮ることが出来ました。もう一つは、ベッドシーンの後のシーンが、台詞が一つもないにもかかわらず超現実的に撮れたと思い気に入っています。

司会 この映画は15年間監禁される男の物語ですが、もし監督が15年間も監禁されるとしたら、どんな理由が考えられますか?

パク 映画の中でオ・デスが、自分を監禁した男として思い当たる人間の名前を羅列するシーンがあります。そこで出てくる名前は、実は今まで私の助監督をしてくれた人たちの名前なのです。私は今まで一緒に仕事をしてきた助監督やスタッフの人たちを傷つけたことがあるのではないかと思って、彼らの名前を使ったのです。万一私が拉致、監禁されるようなことがあるとすれば、きっとそちらの方面から起こると思います。

司会 ではここからは、皆様からご質問を受けたいと思います。ご質問のある方は挙手をお願いします。

  前作に引き続き「復讐」をテーマにしていますが、どちらからも社会に対する怒りを感じました。現代の社会に対する監督の考え方が映画にはどのように反映されているのでしょうか?

パク 私は以前から占いというものを信じていなくて、占いを見て回る人たちを見て、何て馬鹿らしいんだろうと思っていました。しかしある日、私の生年月日を見た占星術者に、私の運命は正義のために戦争を起こすか、そうでなければ復讐に執着する人間だろうと言われました。それで私は占いというものを信じるようになりました。世の中の動きを探ってみたり、身近な人の関係、あるいは私の家族の関係を見ていると、暴力的な要素が介入していることが多いと感じます。この世の中や人々を動かしている動力というのは暴力的なものだ、といったことをよく感じるので、私は暴力的なシーンを良く撮っているのです。暴力的描写が好きだからとか、楽しいからではありません。それが私が世の中に対する見方なのです。

  ハリウッドでリメイクする場合、希望のキャスティングがあれば教えて下さい。また以前、監督自身がハリウッドへ行くのはイヤだとおっしゃっていましたが、韓国でハリウッドの俳優を使うというアイデアはどうでしょう?ニコラス・ケイジとウェズリー・スナイプが最近韓国の女性と結婚しました。ほとんど手中に入ったと同じだと思いますが、それを使うというのはどうでしょう。冗談半分ですが。

パク 私とチェ・ミンシクさんとユ・ジテさんで意見が一致したことがあるのですが、もしこの作品をハリウッドでリメイクするのであれば、オ・デス役にはショーン・ペンさん、イ・ウジン役にはエドワード・ノートンさんが良いのではないかと話していました。そういったことを想像してみると、非常に面白いし、見たくなるような映画が出来上がるのではないかと思います。またハリウッドへの進出ですが、具体的に計画されたものは無いのですが、もしも素晴らしい脚本が提供されるのであれば出来る可能性もあると思います。しかしその際には韓国では絶対出来ないような映画であるべきだと思います。韓国で撮れるような映画であれば、わざわざハリウッドまで行く必要がありません。ですから西部劇あるいは非常に規模の大きい且つ真剣な内容のSF映画だったらいいかな、というお話をしたことがあります。ウェズリー・スナイプについては考えていません。

パク・チャヌク パク・チャヌク 
写真:白石

  カンヌでロマン・ポランスキー監督と会って大変感激されたという話を聞いたのですが、ロマン・ポランスキー監督の魅力や、他に影響を受けたアーティスト、映画監督などいらっしゃいますか?

パク ロマン・ポランスキー監督と会って興奮したと言いましたが、お会いして興奮していたのは私だけで、ロマン・ポランスキー監督の方は特に誠意を持って接してくれていたわけではないのです。彼が興味を持っていたのは、私と一緒にいた韓国の映画会社の女性社員の方で、私はただその横に立っていただけのような感じでした。私が好きなのは、彼の初期の作品です。黒澤明監督や成瀬巳喜男、鈴木清順、阪本順治といった監督の作品が好きです。

  昨日会われた原作の土屋ガロンさんの第一印象と話をした感想をもう少し詳しくお聞きしたいと思います。また近々作画の嶺岸信明さんにインタビューをするのですが、もし聞きたいことが有れば代わりに聞いてきますので仰って下さい。

パク 私の原作家の方の印象は、一つの道を孤独に歩んできた人の姿を見るような感じを受けました。彼の言うことは簡単で簡潔なことなのですが、その中に非常に深い考えや洞察力があるのです。彼に対して記者が、「何故予測の出来ないような物語を書くのですか」と質問したところ、彼は「自分自身書いていながら次がどうなるのか解らない状態で書いているので、読者の方はますます解らないのではないでしょうか」と答えていました。その話を聞いて私と非常に似ていると思いました。私もシナリオを書く際に全体のストーリーを考えた上で書き上げるのでなく、ワンシーンずつ、一行ずつ書いていくのです。そのような私の仕事を見てプロデューサー等は、あらかじめストーリーを決めてから書いてくれませんかと抗議をするのですが、今後は「私自身がどうなるか解らないからこそ、観客も先が読めなくて気になるのではないですか」と言い返してやろうと思っています。結論から言いますと、原作者の方に会った感想は、数年来の知り合いの先輩に会っているような感じでした。
 作画の方についてですが、もしも彼の書いた他の作品で私が映画化したいものがあったら、安く譲って下さいとお伝え下さい。

  この映画の魅力は二重性にあると思うのですが、監督は復讐劇に興味があると仰いましたが、それ以上にこの二重性に一層惹かれるのはなぜでしょうか?また、白い天使の羽を使った理由は?

パク 人の精神的なものや現代社会というのは、商業映画や大衆文化と違って非常に複雑なものだと思います。そういった複雑性を表現するにはこの二重性は非常に適切な方法ではないかと思います。
 天使の羽を使った理由は、人は生きている内に知らず知らず様々な罪を犯していきます。その罪を犯してしまったことに対して、罪の意識にさいなまれ、その罪から逃れようとし、救いを求めるのです。そのような悶える姿を、天使の羽を通して描こうとしました。

  日本での最近の韓国ブームについてどう思われますか。また、韓国ブームに乗ってハングル学習者が増えているのですが、そういったハングル学習者にメッセージをいただきたいと思います。

パク 日本の方々が韓国の文化に興味を持って下さるのは大変ありがたく思います。またその事によって韓国の映画を観て下さると、私が食べていく上で非常に役立ちますので本当にありがたい限りです。今後は韓国にはもっと素晴らしい作品が有りますので、より優れた、素晴らしい作品がもっと紹介されるようになればいいなと思います。ハングルを勉強していらっしゃる方たちへのメッセージとしては、チョナン・カンさんがお書きになった「チョンマルブック」が非常に良いですのでお薦めします。

  映画で使われている衣装や小道具などに非常にシンボリズムを感じます。色遣いにしても赤・紫・緑といった色が多く見られるのですが、これらを選ばれた理由をお聞かせ下さい。

パク 元々私はこのような類のものは好きではないのですが、例えば前作の『復讐者に憐れみを』を観ていただければわかるように、私はミニマルスティック、シンプルなものを好むのですが、この映画ではその反対のスタイルでやってみる価値があるのではないかと思いました。それはチェ・ミンシクという俳優が持っている情熱的な、熱い演技を見て、そのように思いました。私は映画を作る際に、常に主演が誰なのかによって全てが始まると思っています。今回の主演はチェ・ミンシクさんで彼にはこのスタイルが合うのではないかと考えて決定しました。ですからこの映画では、全ての要素が非常に強烈で、全てに意味があるようにしました。例えばオ・デスのヘアスタイルは彼の怒りや狂気を表しています。また様々な空間の壁紙のパターンは、監禁から解かれてもなお監禁されているような印象を与えるために使っています。またイ・ユジンに対しては紫色や破片的なパターンを繰り返し使うことにより、彼の病的な固執する性格を表現しようと思いました。今回の映画では現在の現実の衣装や美術にはこだわらないようにしていました。美術や衣装の人たちは「過激じゃないですか?やりすぎじゃないですか?」と聞いてきましたが、私はいつももっとやれと言っていて、結果出来たものが今回の作品です。私はこの映画の中で、夢を見ているような、超現実的な雰囲気、これ自体が大きなファンタジーといったものを描こうとしましたので、こういった視覚的なスタイルは私の考え方を完成させてくれたと思います。

司会 大変興味深い、また面白いお話を沢山お聞かせいただきましたが、そろそろお時間がまいりました。ありがとうございました。

『オールド・ボーイ』公式HP http://www.oldboy-movie.jp/

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(まとめ・写真:梅木)
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