この作品は、仏教的な輪廻の考えの中に、「因果応報」「業(カルマ)」といったテーマを織り込み、難しいテーマながらエンターティメントの作品に仕上げている。
アンディ・ラウ演じる元武僧のビッグガイ(大隻イ老)は、大切な人の死をきっかけに、死を迎える人の前世での「業」を見、その人の死を予知する能力を持ってしまう。因果の非情さを悟ったビッグガイは武僧をやめ、今はストリッパーとして享楽的な生活を送っている。
ストリップ劇場の客として来ていた刑事リ・フンイー(セシリア・チョン)による摘発で、わいせつ罪で逮捕されたビッグガイ。その逃走劇の途中で、彼女の後ろに日本兵の虐殺シーンの霊が現れ、彼女の前世の業とその報いゆえに彼女に過酷な運命が待ち受けてることを知った。その後、フンイーと親しくなったビッグガイは、彼女が背負った業(カルマ)を断ち切るため闘うことを決意する。
しかし、自分が背負った業から逃れられないことを知ったフンイーは、ビッグガイが僧衣を脱ぐきっかけとなった未解決の殺人事件を解決するため、ビッグガイが修行をしていた山に分け入った。そのことを知ったビッグガイは、彼女の後を追う。
果たして、彼はフンイーの因果応報の環を断ち切ることができるのか?
香港ではアンディの冒頭でのストリップシーンや、約20Kgといわれるマッチョマン筋肉ボディスーツをつけての演技、それに僧侶を演じるため実際に剃髪したことが話題になった本作。そのかいあってか、この作品は数々の賞に輝き、アンディに二度目の金像奨主演男優賞受賞をもたらした。
アンディが主演男優賞を獲った作品ではあるが、この作品の映画チラシの宣伝コピーにある「アンディ・ラウ最高傑作」というのはどうかな? やはり、賞を獲った『暗戦』でも「老人」や「女性」に扮しているし、アンディ本来の姿ではなく、いわば異形のものに扮しての受賞は、アンディファンの私としては納得がいかない。やはり、アンディ本人の姿で、もっと演技を認められた上での受賞を期待したい。もっとも、今までの金像奨もそうだけど、賞なんていうのは、けっこう「なんで、これが?」というのが多いから、期待するほうが無駄なのか。でもやっぱり受賞は励みになるしね…。
しかし、アンディ・ラウという人は、中華圏での評価はともかく、日本での認知度が低いのが残念である。『ラバーズ』に出ることを知った時には、これで、やっとアンディの日本での認知度が高まるかと期待したのに、金城武も出演すると知って、日本での宣伝は金城武中心になるなあとは思ったけど、これほどまでに金城武中心の宣伝になるとは思わなかった。「中華圏の大スターに対して、とても失礼なんじゃない」と、がっかりした。
日本での認知度が低いのは、香港では受けても、日本で受ける作品に恵まれていないというのが原因だと思うけど、この作品もそれにあたると思う。今月号のTVたろうを見たら、アジア映画特集で、この作品のことも紹介されているだろうと期待して見たら、ウォン・カーワイの『2046』のことが中心で、この作品と同じジョニー・トウ、ワイ・カーファイ監督の『ターンレフト・ターンライト』は紹介されていたのに、『マッスルモンク』のことには全然触れていなかった。他の雑誌でもほとんど見かけないし、日本の映画評論家好みの作品じゃないんでしょうね。
しかし、なんだって日本ではウォン・カーワイが受けるんだろう。私は香港人テイストなのか、全然ウォン・カーワイの作品には期待していないけどね。この『マッスルモンク』を監督したジョニー・トウ、ワイ・カーファイの作品は、今年2月、『フルタイム・キラー』が公開され、『マッスルモンク』、『ターンレフト・ターンライト』と、3本も公開されるし、東京国際映画祭でも『大事件/ブレイキング・ニュース』が上映されるのに、1年に4本も日本で上映されると騒いでいるのは、香港映画のファンサイトだけで、一般マスコミにはそのことは登場していない。
それにしてもこの作品、日本で受けるのか。受けてほしいような、受けてほしくないような、微妙なファン心(笑)。
原題:『大隻イ老』 Running On Karma
監督:ジョニー・トー、ワイ・カーファイ
アクション監督:ユエン・ブン
特殊メイク:Edge EFX (スパイダーマン2、メン・イン・ブラック)
出演:アンディ・ラウ、セシリア・チャン
配給:アット エンタテインメント
2003年香港電影評論学会大賞 主演男優賞・主演女優賞
第23回香港電影金像奨 主演男優賞・最優秀作品賞・最優秀脚本賞
華語電影傳媒大奨 主演男優賞