「イラン映画祭2004」が、6月4日(金)より赤坂・国際交流基金フォーラムで始まりました。
4日6時からの開会式で、マジェディ駐日イラン大使が 「他者の価値を認めて尊敬すると同時に、 自分たちの文化を誇りに思い紹介していくことが必要でしょう」 と語られたのが印象的でした。大使は各回のQ&Aでも積極的に質問をされていて、 今回の映画祭への思い入れを感じさせてくれます。
会場入口には、イラン風のチャーイ・ハーネも出現。 上映会場手前には立派なペルシア絨毯が飾られていて、 はるかな国イランへと誘ってくれます。
今回は、日本初上映作品も6本。巨匠の大作や、 イラン人気質がたっぷり味わえるコメディなど盛りだくさん。 試写や福岡で観た作品の中からいくつかご紹介しますので、 足を運ぶ参考にしていただければ幸いです。
→ 作品紹介
監督:バフマン・ファルマナーラ
出演:バフマン・ファルマナーラ、レザ・キヤニアン
主人公ファルジャミは、もう20年映画を撮っていない映画監督。 現在は日本のテレビ番組用に、イランのお葬式に関するドキュメンタリーを撮っている。 妻を5年前に亡くし、友人もあいついで逝ってしまい、死を身近に感じる日々だ。 妻の墓参りの道中、赤子を抱えた女を車に乗せるが、 彼女は昨日死産で生まれたという赤子を後部座席に置き去りにしていく。 一方、妻の墓の隣に確保していた自分用の墓地には手違いで他人がすでに埋葬されていた・・・。
合間に葬儀のしきたりが語られ興味深いが、 この映画はむろんイランの葬儀を紹介するのが目的ではない。 クスノキは死体を洗うのに使うため、死のイメージ。 一方、ジャスミンは樟脳の匂いを消す効能があり、 ジャスミンを愛する母が生の象徴として描かれている。
イスラム革命後、芸術家が思うように表現をできなくなったことは、 それは死んだのも同然のこと。そんな思いがこの映画の原点だという。 テーマは真剣なものだが、ウィットの利いた言葉も随所に出てきて笑わせてくれる。
木立に囲まれたゆったりとした家は、テヘラン山の手らしい風情。 おしゃれな家具やレースのカーテンも等身大のイランの中流家庭のもの。
監督:モフセン・マフマルバフ
主演:マジッド・マジディ
『運動靴と赤い金魚』で知られるマジッド・マジディ監督が、 人のいい若き革命活動家を演じている。銃撃戦あり、監獄のリアルなシーンあり、 マジディ演じる活動家と奥さんとのほろっとする場面あり・・・ 社会派ながら楽しめる要素のある作品。舞台は王政時代。撮影はイスラム革命後なので、 派手な女の人が表紙の雑誌や、 ベリーダンスを踊る女性の映画看板などで王政時代の雰囲気を出している。 新婚の頃の場面では、シーラーズの詩人のお墓や庭園、バーザールが出てきて、 イランに行ったことのある人には懐かしい風景。
監督:ナセール・タグヴァイ
主演:ダリウシュ・アールジュマンド
ロケ地はペルシア湾岸のバンダル・レンゲ。 このあたり独特のアラブ風の風俗や島の風景が興味深い。
密輸で稼いでいたホルシード船長は、 密輸品のたばこを島の有力者ハージェに焼かれて破産してしまう。 船長に残されたのは1隻の船だけ。家族の為、なんとか金を稼ごうと、 政治犯の人たちを密出国させることに・・・
これまた銃撃戦あり、奥さんとの心の通い合いありの大作。
監督:マスード・キミヤイー
主演:ハディ・エスラミ
1948年イスラエルが建国され、 イランに住んでいたユダヤ人もこぞってイスラエルを目指した頃が舞台。 若いユダヤ人夫妻が新天地への移住を希望するが、夫は虫歯、 妻はチフスを口実にビザを発給してもらえない。 実は叔父が反シオニズム活動をしていたのが拒否の理由らしい。 夫妻はシオニスト組織が叔父を殺害する現場に居合わせ、 向かいの家に住むイスラム教徒のミルザに助けを求めるが、 そのためにミルザは殺人の疑いをかけられてしまう。 若きユダヤ人夫妻はその場から逃げて、裏ルートでイスラエルへの出国を試みるが、 ミルザの無罪を証明できる彼らをミルザの弟ヌーリーは必死に捜し求める。
イランに定着していたユダヤ人にとって、イスラエルは果たして新天地なのか・・・。 「イランはあなたたちにとって故郷だろう」という言葉が心に残りました。
見終わったとき、監督がその場にいるわけじゃないのに、 思わず大きな拍手を贈りたくなりました。
監督:エブラヒム・ハタミキア
出演:ハミッド・ファロクネジャード、レイラ・ハタミ
国境の町アバダンはイラン・イラク戦争の時、 イラクに占領されたこともある廃墟と化した町。 ガセムは海外への脱出を夢見てハイジャックを企てる。 小さな飛行機の乗客はすべてガセムの親類縁者達。 バンダル・アッバースの外資系企業に出稼ぎ先を見つけたと、ガセムが誘ったのだ。 警備員の銃を奪いハイジャックに成功するが、状況はくるくる変わる・・・ それぞれが語る言葉には世相を反映する皮肉もたっぷり。 また、饒舌に自己主張する様にイラン人気質が感じられて面白い。 ガセムの義理の母親の迫力もすごい。そして何よりこの映画をささえているのは、 気丈な妻ナルゲス役のレイラ・ハタミの清楚な魅力。
ちなみに、ガセムが機長からマイクを奪い取ってドバイの管制塔にあせりながら叫ぶ言葉はアラビア語。 (あ、沈着冷静な機長も素敵です!)
★チラシにはアクション映画とあるけれど、言葉の妙を楽しむコメディという感じです。
監督:モハマド・ホセイン・ラティフィ
出演:ファテメ・モタメダリア、イラジ・ターマシブ
ジャーナリストとして活躍するミナは、会社役員の夫とはすれ違いの生活。 離婚を決意して役所に出向いた二人は、 そこで無理矢理結婚させようと連れてこられた若い娘ミナと出会う。 結婚をいやがる若いミナを救おうと、 キャリアウーマンのミナは四駆でテヘランの町をカーチェイス。 男たちを巻いて、友人の女性弁護士のところに駆け込む。
女性が抱える様々な問題を、さらっと笑い飛ばしてくれて痛快。
2年前のアジアフォーカス・福岡映画祭で観て、 やっとこんな楽しいコメディが日本でも観れた!と、感激した作品。
イランの女性はスカーフを被らされていて、 虐げられているというイメージがあるかもしれないけれど、なかなかどうして、 イラン女性はこの映画のミナや弁護士のように、強い!
『テヘラン悪ガキ日記』のファテメ・モタメダリアが、地じゃないのかと思うほど、 実に楽しそうに飛ばしてます。
ご主人役のイラジ・ターマシブも、 子供たちの人気番組にファテメさんと共演している超有名スターで、 おおいに笑わせてくれます。
※注)人名等の表記は、「イラン映画祭2004」パンフレットにあわせました。