女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

こんどの石井ワールドは、まったり映画『茶の味』だ!!

『茶の味』ポスター

2004年カンヌ映画祭監督週間オープニング作品の舞台挨拶で、石井克人監督は確か「アニメとテクノロジーの国、日本からやってきました」と自らを紹介していたと思うが、今回試写を観て、そのわけがよく分った。 実写の中に、アニメやCGを上手く融合させ、独特な作品に仕上がっていたからだ。 その映像は度肝を抜く−。

 主人公は、山間の田舎町に住んでいる「春野一家」。 しかしこの家族たちが、どこにでもいそうで、ちょっとおかしな人たちなのだ。 高校生のハジメ(佐藤貴広)は、好きな女の子に告白することも出来ず、 モヤモヤを抱えている。そのうちにその女の子は転校してしまう。 ハジメの妹の幸子(坂野真弥)は、小学校に入学したばかりだが、 巨大な自分がそこかしこに見えてしょうがない。それが消えてくれるのは、 お母さんの弟アヤノ叔父さん(浅野忠信)の言うように、 逆上がりが出来た時なのかもしれないと思う。催眠治療士の父ノブオ(三浦友和)は、 なぜか帰りの電車の中でいつもワンカップを飲んでいるし・・・(アブネー!)、 母の美子(手塚理美)は子育てが一段落し、 昔のようにアニメーターへの復帰を試みて奮闘中。そして少々ボケてはいるが、 昔はアニメの神様とまで言われた伝説のアニメーターだったおじいちゃん(我修院達也)。
 そんな春野さん家の日常を、それこそ縁側でお茶をすすりながら観るような、なんとも“まったり”した映画だ。

 しかし前作『PARTY7』に続く、石井監督の“日常の中の非日常” を捉えるセンスはここに来て、より加速を増したといえるのではないか? それは例えてみれば、『少林サッカー』の中に出てきた、耳の大きなくりくり頭の少年がいきなりミュージカルを踊りだすというシーンの連続ー と言ったら、分ってもらえるだろうか?

 中でも圧巻なのは、浅野忠信演じるアヤノ叔父さんの話す、子供の頃の“呪いの森”での出来事。
 浅野がボソボソと(本当にフツーのつぶやきのように)その思い出を語ると、試写室の中は爆笑の渦に包まれた。 石井ワールドの真骨頂はこのボソボソギャグにあると言えよう。
 掛け合い漫才のように相手が居るわけではなく、 一人でボソボソとそれこそ独り言のようにしゃべって一人でオチをつける、 このボソボソギャグが全体にちりばめられていて、楽しめること間違いなし!だ。

 しかし“日常の中の非日常”は、悲しくもある。 例えばアニメのコスプレをしている青年達が、電車の中で(何故か!?) カッコよくポーズを決めている。 そしてそれを撮るカメラマンの青年も(何故か!?)ポーズを決めている。しかし、彼らがひとたび電車を降りれば、そこには日常が待っているのだ。 そのギャップがおかしくもあり、また悲しくもあるのだ。
 監督は日常の中のヘンな人たちを探し出す嗅覚に優れていると思うが、 同時にその悲しさも肌で感じてよく知っているのであろう。その視線は優しい・・・。 (だからこそ“ 笑いもの”にできるのであろう。)

 主人公の春野ハジメを演じた佐藤貴広クンは、ほんとの田舎の高校生のように、 りんごのほっぺ(死語?)に純朴そうなにこにこ顔。 その邪気のない様子が観る者の心をホッとなごませる。 こんな日常なら、ずっと続いてもいいかなあ・・・と思ってしまう。

 ただ、上映時間143分は少々長すぎか?
 まったり感を出したかったのは分るが、充分まったりしているので、 後半部分を少しツマんでも良かったかなぁ・・・と思う。

 しかし、存分にギャグを楽しめ、映像に驚かされ、 最後は胸が熱くなる映画であることは間違いない!

この夏映画館で、泣いて笑ってそして、すこーし“まったり”してみるのも良いかもしれない。

*7月17日(土)より シネマライズにて公開予定
公式ホームページ http://www.chanoaji.jp/

return to top

(文:ナカエ イチミ)
本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。