女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『CEO[最高経営責任者]』 記者会見

10月12日(火)1:15〜試写会、3:15〜4:00記者会見
於:銀座ガスホール
ポレポレ東中野にて12月11日より公開 → 作品紹介

チャン・ルエミン、ウー・ティェンミン、ロー・シゥエイン

*来日関係者*(写真左より)
ハイアール集団CEO(Chief Exective Officer):張瑞敏(チャン・ルエミン)
監督:呉天明(ウー・ティェンミン)
脚本家:羅雪蛍(ロー・シゥエイン)

 1985年、当時35歳で倒産寸前の青島冷蔵庫工場の新任工場長となった張瑞敏が、独自の施策で工場を立て直し、今やマンハッタンのビルを買収する程の世界に名を馳せる大企業ハイアール集団の最高経営責任者となった姿をドキュメンタリータッチで描いた映画。

日本での公開を前に、呉天明監督、脚本家 羅雪蛍女史、本作のモデルとなったハイアール集団CEO張瑞敏氏、の3名が来日し、試写の後、記者会見が行われた。
張CEOの元で、彼を支え、現在ハイアールのCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)である柳綿綿(ヤン・ミェンミェン)女史も来日予定であったが、仕事を優先し来日されなかった。映画の中では、李宗華(リー・ツォンホァ)が演じ、国からの融資を得るために体当たりで奔走する姿が印象的だったが、1995年「第4回全国優秀女性企業家」、1997年「米国・国際優秀企業家貢献賞」を受賞、キャリアウーマンとして家庭と仕事を両立させ、新しい時代の中国女性の象徴的存在となっているとのことだ。
3名による記者会見の模様をお届けします



[挨拶]

呉天明監督
今日は雨の中お越しいただきましてありがとうございます。脚本をここにいる羅雪蛍と二人で書いたのですが、この映画ではハイアール集団が創業途中で出会った真実を描いています。CEO張瑞敏と、そのもとで働く職員が一弾となって創業に賭ける意気込みを描きました。これまで、私は経済界産業界について全く知識がありませんでた。ハイアールに2年間入り込んで、実体験をしました。どのような映画に仕上げるか、とても難しかった。映画には起伏が必要です。ラブストーリーでもないと、起伏に富みにくいけれど、ハイアールには、例えば社屋がつぶれるとか、飛び降り自殺する人がいるとか、ストライキといった出来事が何もなくて、どう撮るかがほんとうに難しかったです。だからといって、CEOにまつわる色々な話を作り上げることはしてはいけないので、ハイアールの真実をきちんと描くべきだと思いました。
 密着して真実を描くという点から、ドキュメンタリータッチで描いて、日々の出来事を淡々と素朴な真実に基いた描き方になっていると思います。
 しかし、非常に残念に思うのは、撮り終えてみて、ハイアールの精神を本当のハイアールの奥深さまで描ききってない、CEOの精神がどれほど高邁であるかも、100分の1くらいしか描けてないということです。その主な原因は、私と脚本家がCEOの持っているような思想面にまで到達できなかったこと、また、演じた男優の奥深さが足りなかったのではと。彼はカッコいい俳優で、背丈もあるし、欧米の俳優と一緒にいても絵になるし、英語もCEOと同じ位上手なのですが・・。実は彼は中国語が英語より劣っていました。

脚本家 羅雪蛍(ロー・シゥエイン)
言いたいことは監督が全部言ってくださいました。私たちにとって、企業を映画に撮るのは初めてのことで、真実を描くのにどのようにするか難しかったです。撮ろうと思ったのは、ハイアールと、それを率いるCEOの人格に感動したからです。企業の為の宣伝でもないし、ハイアールから1円も戴いていません。中国人として、中国を
映画を通して知らしめるという使命感を果たすことが目的でした。言いたかったのは、精神面。例えば、日本が戦後の荒廃した時期を乗り切り成長してきたように、ハイアール集団の成長してきた過程です。このハイアールの精神は、中国だけでなく、世界の何事にも通じると思います。私たち自身もハイアールの人たちのように、優秀な人材になりたいと。ぜひこの作品を理解し、気に入っていただけると嬉しいです。

ハイアールCEO張瑞敏氏
こんにちは。監督と羅雪蛍さんがすべて言ってくれましたので、二言だけ追加します。監督と羅雪蛍さんに心から感謝申しあげます。ハイアールで3年近い年月を撮影のために頑張ってくださって、脚本も10回ほど書き換えて下さいました。雨の中観に来てくだったことを感謝します。監督が、男優の英語が私と同じ位上手いと言われましたが、私はもっと下手です。

[Q&A(司会者より)]

司会:映画を作るとき、ハイアールの名を使うことに反対の声があったそうですが・・・

:やはり、企業が映画に撮られることは、あまりいいことでないと思って最初同意しませんでした。監督たちのハイアールの精神に対する理解が深いことに感銘を受けまして、中国人が今、一生懸命頑張らなければということで、同意しました。

司会:実際、ハイアールの社屋を撮影場所に使うことに関しては、どちらから言い出したのでしょう?

監督:ハイアールという名を使わないと、非常に撮りにくいということがありました。名前を使うことになかなか同意してくれませんでしたが、名前を使えないとなると、看板を変える為に、予定している製作費と同じ位の費用がかかるかもしれないという位でした。実名を使うことを無理矢理同意を取り、電影局に審査の申請をしました。
ハイアールの社名はいいけれど、CEO自身の実名を使うことには、なかなか同意をしていただけませんでしたので、役名としては変えてあります。

司会:どうしても実名を使われたくなかったのは?

:これは映画ですので、ハイアールを題材にしてはいますが、実際と全く同じではないですので、実名を使うことには同意しませんでした。

司会:冷蔵庫をハンマーで壊す場面は、実話として有名ですね。

監督:実際にCEOがハンマーで壊したのは、76台。撮影にも、76台を古いものを新しく塗りなおしたりして使いました。

[Q&A(会場より)]

Q:CEOに伺います。組織で仕事をするのは、中国では難しいと言われています。個人を大事にしながら会社を率いるコツをお聞かせください。

:現在4万人の職員がいます。最初は600人位の企業でした。ほかの中国の会社とかなり違った企業管理をしています。人事関係も透明です。人と人との関係がガラス張りです。能力を発揮させる点でも、一人一人が競馬の一頭の馬になって、勝てば上に上がり、負ければ淘汰されるという仕組みです。4人の副総裁がいますが、40歳前後の若い人たちで、農村出身などでツテがあって入社したのでなく、自分の能力で入り、実力で上にあがった人たちです。

監督:人事が実に透明であるというのは、ハイアールに行って驚いた点の一つです。競馬のコマの一つ一つになって、勝負を賭けるという形で会社を盛りたてていくという、透明な企業管理です。上司におもねったり、付け届けをしなくてはいけないようなことは、全く行われていません。でも、中国では、これまでコネを重視してきました。ハイアールではコネが必要でなく、その点に目を見張りました。

Q:監督に伺います。資金調達が難しいと聞きますが、どのように解決したのでしょう?

監督:投資額は730万元、約1億円です。 中国電影公司などから出してもらいましたが、投資額が少なかったので、製作は非常に困難でした。ハイアールが撮影場所を無償で提供してくださるなど、CEOが配慮してくだいました。

Q:CEOに伺います。ハイアールは国営?民営?

:ハイアールは現在、国営でもなく、民間でもありません。中国特有の形態で集団企業です。国営は国が資金を投資し、利益は国に所属しますが、集団企業の場合、利益は国にあげなくてもよく、集団に利益は所属します。

Q:CEOに伺います。昨年銀座に大きな看板を出されましたが、いい宣伝になる映画に名前を出すのをしぶられたのはなぜですか?

:表面的にはハイアールの名を使うのは効果的だと思います。しかし、急速に成長している企業にとり、映画にされるのはマイナスな面もあります。映画に頼ることなく、企業自身の力で発展したいという気持ちもあります。

監督:恐らくCEOから言い難いのだと思いますが、中国には色々な諺や格言があり、「出る杭は打たれる」に相当するものもたくさんあります。そういったことを考えて実名を使うことに同意しなかったのだと思います。

Q:実際映画ができて、ダメージを受けたことはありますか?

監督:今のところ悪い話は聞いていません。CEOが多分、ろくな映画にならないという懸念があったのだと思います。非常に満点というわけではありませんが、まずまずだと思います。上映されて、中国にはまだまだ希望があるという感想を持ってくれた人がいると聞き、嬉しく思っています。



 映画では、素敵な俳優さんがCEOを颯爽と演じていたが、張瑞敏氏ご本人は、どこにそんなパワーがあるのかと思うほど、いたって地味な方だった。だが、翌週、もう一度映画を観てみたら、ご本人の姿が重なって見えてきたから不思議だ。内に秘めた情熱を監督がちゃんと汲み取って描いていたということだろうか。
「戦略の核心は、一つは対応のスピード、もう一つはユーザーの個性化要求を満たすことだ」「人が簡単だと思うことを毎日こつこつやり続けていく」「われわれが唯一おそれているのは、われわれ自身の怠慢である」など、張瑞敏語録には、凡人の私にも心すべきものが多かった。
エンディングの歌は、もしやハイアールの社歌?とも思えるものだったが、この映画の為に作られたもの。まさに中国が世界に邁進しようとも聴こえる勇壮な歌で、この映画が単にハイアールの出世物語でなく、中国の国家としての威信を監督が描きたかったのではないかと思わせられた。

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(取材:景山咲子(まとめ)、水間かおり(写真))
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