女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『悪い男』キム・ギドク監督&チョ・ジェヒョン 共同インタビュー

キム・ギドク監督 共同インタビュー

キム・ギドク

 「魚と寝る女」や「受取人不明」といったパワフルな話題作で国際的評価を急速に確立した鬼才キム・ギドク。 高学歴の若手監督たちがひしめく現在の韓国映画界にあって、工場勤務や軍隊生活を経て30歳のときフランスに渡り、 帰国後にシナリオを書き始めたという経歴はきわだって異色である。

「小学校を出ただけで工場に就職し、文化的生活とは無縁でした。 映画は91年にパリで「羊たちの沈黙」と「ポンヌフの恋人たち」を観たのが最初です。 シナリオを書き始めたのは、これまで自分が生きてきたありさまを具体的に表現したいと思ったからです」

 まもなく日本公開となる「悪い男」は、ヤクザの男にむりやり娼婦にさせられた女子大生の絶望と転落、 そして極限的状況の中から昇華した純愛を描く。衝撃的なストーリーは、国内外で賛否両論を巻き起こした。

「韓国でもベルリン映画祭でも多くの論争になり、人権蹂躙と批判されたり、ベルリンに住むある韓国人には「同じ韓国人がこんな映画を撮ったなんて恥ずかしい」とさえ言われました。でも一方では、いろいろな映画祭から招待を受けました。私は人権に関するものを作ろうとしたのではなく、映画作品として問題提起をしたかったのです」

 “悪い男”役には、キム・ギドク映画の常連俳優チョ・ジェヒョン。その圧倒的なまでの怪演に一歩も引けをとらない体当たり演技で、転落と再生をみごとに表現しきったのは「魚と寝る女」で映画デビューした期待の若手女優ソ・ウォンである。

「チョ・ジェヒョンとは長い付き合いです。当初は、別の俳優で今回はいこうと思い、 チェ・ミンシク(「シュリ」「クワイエット・ファミリー」など)の起用を考えていました。ですが結果的には実現せず、チョ・ジェヒョンに演じてもらいました。ソ・ ウォンは白紙のような女性というイメージがあり、女子大生がヤクザにだまされていく過程がリアルになると思って彼女を選びました」

キム・ギドク

 容赦なく観る者の生理的感覚に訴えかけてくる強烈な作風とはうらはらに、控えめな語り口で終始訥々と質問に答えていた監督。インタビューが終わって撮影タイムに入るとようやくリラックスしたようなシャイな笑顔に変わり、ポスターをさかさまに持ったりして茶目っ気をちらりと見せてくれた。

チョ・ジェヒョン 共同インタビュー

チョ・ジェヒョン

 キム・ギドク監督とはデビュー作からすでに5本の映画で組んできた、監督の分身的存在。「悪い男」では、ヒロインの唇をいきなり奪う冒頭シーンからもうぞっとするほどのインパクトを放つケダモノのような男である。ところがインタビュー会場に現れたチョ・ジェヒョンは、別人のようにもの静かなインテリタイプ。 映画だと筋肉モリモリな体型に見えたが実際は華奢な感じなのにも驚いた。
 韓国映画界有数の演技派として活躍中だが、役者として15年のキャリアを持つ中ではば広い知名度が出たのは5年くらい前だという。

「長らく助演俳優で、その間はコミカルな演技が主でした。キム・ギドク監督にキャスティングされて、私の別な面が引き出されました。監督と出会ったことで、俳優として開放されたと感じています。ただし今の位置に安住したくはない、どこに飛んでいくか分からないラグビーボールのような、自由な、毎日成長する俳優でありたいと思っています」

 「悪い男」の主人公ハンギは、野蛮で狂気的であると同時に幼児性を感じさせるピュアなキャラクター。 映画の準備段階から関わってきたチョ・ジェヒョン自身、役柄を把握しきれない面があったそうだが、 説得力のある演技と存在感はすごかった。

「監督と人物像の分析や話し合ったことはほとんどなく、ハンギってこういう人? というのをロケハンの合間にちょっと聞いたくらいです。むりやり理解しなくても、7〜8割がた理解できた時点で撮影に入ってもいいのではないかと考えました。 だいたいあらすじ通りに撮影したのが自分にとって役にたちました。 彼と共に行動していったことで、彼に同化したような感覚になった瞬間もありました。
 自分がどういう人間かさえも分からないのにハンギを完全に理解することはできませんが、共通点があるとしたら、ものごとに執着するという点でしょうか」

チョ・ジェヒョン

 この問題作が各地で論争を引き起こしたことは監督のインタビューでも確認したが、特に批判されたのはラストシーンだという。(どんな終結かは映画でご覧いただきたい。私自身は一種のファンタジーというか、ある種の潜在願望の映画的解決のように感じたのだが、いかがだろうか)

「この映画はとても独特の世界を持っています。衝撃的なラストですが、道徳的な価値観より、あくまで映画として判断してほしいですね。もしかすると100年後に観たら衝撃的でないかもしれない。その意味で、理解を超えた、先取的な映画といえるかもしれません」

『悪い男』は東京・新宿武蔵野館にて2月下旬よりロードショー公開予定です。

公式サイト: http://www.kimki-duk.jp/badguy/index2.html
新宿武蔵野館: http://www.musashino-k.co.jp/

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(文・写真:浦川とめ)
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