金沢の小さな町を舞台に、郵便配達員をしている大森恒一(古谷一行)、 妻早穂子(風吹ジュン)、元郵便局長の父源司(小林桂樹)らの家族を中心に、 周りの人々のドラマが描かれている。ロケ地となった二俣町の自然も美しい。
恒一はなにより手紙を届ける仕事が好きで、局長職を継ぎもせず配達員を30年間も続けていた。 配達前に丁寧にメモを取ってから家々を回り、一度の事故も起こしたことがない。 山間の家に一人住まいの老人達は、恒一の来訪を心待ちにしている。手紙ばかりでなく、 薬の受け取りやちょっとしたお使いをこなしてもらえるからだ。
配達する手紙のひとつひとつには、見えない愛情や物語が込められている。 がんこな助産婦泉すぎ乃(菅井きん)は、息子からの手紙が届くと相好を崩して 拝まんばかり。すぎ乃を「村八分」と喧嘩の絶えない隣家の慶三(長門裕之)も、 なにやら手紙が気がかりなようす。口数の少ない陶芸家黒沢万作(辰巳琢郎)は、 妻千恵美(川上麻衣子)あてにいつも書留めの手紙を出している。 妻は家を出ているというのに…。腑に落ちないことも 「届けるのが仕事、それから先は仕事ではない」と心にしまって勤めを果たしているが、 そうともいえず関わっていくことになってしまう。
人情に厚く、仕事熱心な恒一が家では不器用で、息子とうまく意思疎通ができない。 衝突するたび、息子には継母になる早穂子にたしなめられている。家庭内のもめごとや、 郵便の事故を織り込みつつ、映画が進んで行く。生活は人との関わりのくり返しである。 少しずつ進んだり、戻ったり…そんな中で手紙は人をつなぐ役割をしている。
歌が上手い子が出ている、と思ったらイルカさんの息子の冬馬くんだった。 主演の古谷一行はこの映画にプロデューサーとしても参加、彼の息子 (Dragon・Ash 降谷建志)も出演。初の親子共演となったそうだ。
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一昔前とは伝達の手段がすっかり様変わりしてしまった。パソコンはもとより、 携帯電話のメールをやりとりする人のなんと多いことだろう。 電車の座席にすわったとたん、歩きながらでさえ小さな画面を覗き込んでいる。 この映画の中にはメールは出てこない、ことさら触れなかったのかもしれない。
手から手へと届く手紙は、封筒、宛名、便箋、書かれた文字、使う言葉のくせなどなど 丸ごとがその人になる。行ったり来たりの時間さえ楽しく思えるときがある。 メールは便利なかわり、抜け落ちるものがある。 それでも伝えたい心がこめられている限り、受け取って嬉しいのに変りはない。 これからの世代は感覚も変っていくのかもしれないけど、時がたっても変らないもの、 残しておきたいものがある。
という私は手紙もメールも大好き。 観た人が「手紙を書こう」と思ったら、この映画成功だよね。
(阿媽)