先日、「中国映画祭」で チャン・ウェンリー(蒋[雨/文]麗)さん(『ザ・トリートメント』に主演)の共同取材がありました。シネマジャーナルも取材を行いましたのでその記事を楽しみにしてお待ち下さい。さて、チャン・ウェンリーさんは2年前にも、「第3回彩の国さいたま中国映画祭」で、『女コーチ』の舞台挨拶のため来日しています。シネマジャーナルではこのとき舞台挨拶の取材・戚健(チー・チエン)監督のインタビュー・共同記者会見の取材を行いましたが、残念なことに種々の事情で本誌への記事掲載ができませんでした。そこで今回の中国映画祭に合わせて、監督インタビュー部分のみWeb版特別記事として掲載します。インタビューは通訳をはさんで20分と短かかったですが、監督さんはとっても話し好きで、いろんなエピソードを語ってくれました。
監督:戚健(チー・チエン)
1999年/35ミリ/カラー/90分
女子バスケットの元中国代表選手が男子バスケットチームのコーチに就任。落ちこぼれチームをAリーグに昇格させるが、1年後突然解雇に…。有名な実話をもとに作られたヒット作。女コーチを演じるのは中国でも好感度抜群の人気女優蒋[雨/文]麗。
[2000.11.25](浦和・埼玉会館、通訳は森川和代さん)
ー この映画を撮ろうと思った動機を教えて下さい。
まずですね、中国ではあらゆるものが1日1日すごい早さで発展しています。例えば、北京などは私が1,2ヶ月離れていて帰ってくると、もう全然違っていたりして、非常に大きな変化がある……そういう時代なんです。そういう社会の変化の中で、スポーツというものもどんどん変わってきていて、もちろんもともと中国はスポーツは色んな面で盛んでしたが、バスケットボールにしてもその他の球技にしても、例えば北京なら北京の中だけの試合とか競争とかいうことではなくて国際的になってきているし、アマチュアだけではなくて職業的な選手も増えてきています。
そして、経済的な発展の中でスポーツも市場経済の中にはいり、この映画の中で、バスケットのクラブのオーナーがビジネスのために八百長試合をさせようとするエピソードがありましたが、マーケットにはいったら、単なるスポーツの競技ではなくなってくる、そういう状況がでてきてるわけです。それがこの映画を作る動機になっています。スポーツ界だけではなく、文化その他の領域でもすべて市場を念頭においてやっていかなければならなくなっている状況の中で、市場経済に対する考え方、それをこの映画ではスポーツの世界で表現したかったんです。
それともうひとつ、中国ではバスケットボールは観客・一般の人に愛されているスポーツなんです。というのは、例えば非常に広い場所を必要とするサッカーなどと違って、バスケットボールはあまり広い場所でなくても、また少々でこぼこした場所でも、ともかく ゴールさえあれば楽しむことができる、ということがあります。
ですから、結局、バスケットボールの大衆性というか多くの方がほんとに日常的にやっているということ、それから市場経済ということを念頭にやっていかなければならないということ、そのふたつが動機といえるでしょう。
ー 撮影中のエピソード・苦労された点などを教えて下さい。
まず、監督として主演を探すのが1番困難でした。というのが最初は本当の選手を採用しようと思ったのですが、非常にいい選手であっても演技ができないとか、主演だから容姿がよくなくてはいけない。バスケットボールの選手とバレーボールの選手をいろいろ探しましたが、最終的にこのチャン・ウェンリーという女優さんになったんです。
まず私はチャン・ウェンリーさんを訪ねてこの役をやってもらえないかと話しました。でもその時はあまり受けてくれるかどうかの自信はなかったんです。というのも彼女は伝統的な中国女性のいい面をもっている人なんです。だからこのスポーツという激しいものが、彼女に合うかな?というのが心配でした。
ところが脚本を読んだチャン・ウェンリーさんは、これはなかなかいいと興味を持ってくれました。それで、背の高さを尋ねたら1m72cmといわれたんですよ。ああ、1m72cmならぎりぎりかな、と思ってあとで計ってみたら、1m70cmなんです。2cm多くいってたんですよね(笑)。
チャン・ウェンリーさんは小さいときに体操を習っていたそうです。バスケットボールの経験はなかったようなのですが、そういう平均台の上を歩いたりというような経験があるので少し練習をすれば大丈夫かなと思いました。
八一という軍のチームがあります。宿舎に泊まり込みでやっているチームなんですが、そこに体験参加してもらい、バスケットボールのほんとの基礎の基礎から勉強してもらいました。大体私の予測では半月ぐらいそこで一緒に寝起きして一緒に食事をしたら少しはバスケットボールのことを会得できるかなと思っていました。それで半月後見に行ったんです。どうかなと思って見せてくれといったら、全然駄目で…… ちゃんとボールをシュートするなんて考えられない程度の状態でした。
だから毎日ちゃんとしっかり練習してないんでしょう、と言ったんですね。彼女はまあ自分で運転できるんで、一緒に生活するのが辛くて車で家に帰ったりしてるんじゃないか、と聞きました。ところが、彼女は非常に真面目で1度も家に帰っていないんですね。それじゃあ練習以外に毎日なにをしていたかというと、八一チームには有名な女性のコーチがいるんですが、そういうコーチの人たちと色んな四方山話をしたり、接触して話を聴いて、バスケットボールのコーチはどんな生活をして、どんな感情を持っているのかを会得したかったと言いました。そういう話をきいて、あぁ、ホントに彼女はこの役に真面目に取り組んでいるんだなということがわかりました。
あまりにもできないのでこれはミスキャストかなと最初思ったんだけれど、彼女の話をきいて、これなら大丈夫だなと思ったし、彼女も少し自信を持ってきて、女コーチがどういうものかわかって来ましたと言ったんです。それで私も監督として間違いなかったかなと思いました。
チャン・ウェンリーさんという人は非常に真面目で、例えば色んな所でバスケットの試合があると聞くと、例えば北京から山東省まで、これは相当時間がかかるんですが、彼女はこれを見に行くと言うんです。助監督が女性だったんですが、その助監督が一緒に付いて、その試合を見に行って、着いたのが夜中の2時か3時ということもありました。そんな夜中にやって来て試合を見たいなんていうと怪しまれただろうと思われるかもしれませんが、この映画を撮る前にテレビドラマの「牽手」(NHK「中国語講座」で『絆』の題でダイジェストを放映) というのがすっごく評判になり、その主演ということで、皆さんがテレビを見ていましたから、顔を知っているわけですよ、だからそれは大丈夫ということだったわけですね。で見に行ったのはいいんですが、コーチの座っている椅子の真ん中にでんと座っていたら、悪いけれど観客席に行って貰えないかと言われてしまったというようなこともありました。