出海 悦子
ここ数年のスペイン映画の話題といえば、接戦の末アカデミー外国作品賞を 獲得した「オールアバウトマイマザー」でしょう。 赤を基調とした素晴らしい映像もさることながら、あの展開のスゴサ。いろいろな女性 (ゲイもレズビアンも含め)が長い、楽しい事ばかりではない人生を助け合い、連帯し、力強く生きていく。それを支えているのは愛、愛、愛。 「オールアバウトマイマザー」って、見終わったあと、思わす自分のマザーへありがとうといいたくなるところが素晴らしいです。
私がスペイン映画恐るべしと感じたのは、97か8年だったか東京国際映画祭で見た 「オープンユアアイズ」。家柄、金、美貌すべてに恵まれたプレイボーイ(スペインの貴公子ノリエガ)が自動車事故で顔に大怪我を負い、人生がひっくり返る話。元恋人が仕組んだ無理心中だった。プレイボーイは事故を境に夢と現実、自分と自分でない自分の世界を彷徨し、ついに…!なんて稚拙な文章でかくと興ざめですが、みずみずしい映像と構成のしっかりした脚本、シャープな演出力にすごい衝撃を受けた。それにもっと驚いたのは、監督のアルハンドロ・アメナーバルがたった25歳だったこと。それから、テレビのBSで彼の名前を発見! 彼が23歳で作った初監督作品「テシス・次に私が殺される」だ。これが面白いのなんのって!「8mm」と同じスナッフ(本物の殺人を撮影した映像)を扱ったもので「映像における暴力」を真正面から思考している。舞台はなんと大学キャンパス。リアルな学園生活と誰が犯人か最後までわからないサスペンス! その恐怖たるや、家事も忘れてアメナーバル世界ヘ引きこまれてしまった。このとき彼は本当の大学生だった。主役の女子大生は、懐かしい 「ミツバチのささやき」のアナ・トレントです。
それから、昨年の東京国際映画祭で見た「ノウバディ・ノウズ・エニバディ」。今度「パズル」というタイトルで封切られるが、この監督こそ「オープン…」 と「テシス・次に私が…」の共同脚本だったマテオ・ヒル。主演は同じノリエガ。それで音楽監督がアメナーバルというから多才な若者が交代で自由に映画をとりまくっている状態なのかな。
「パズル」は、ノリエガふんする売れない作家がアルバイトで新聞のクロスワードパズルをつくっているうち、現実とパズルの世界が一緒になってテロ事件につながっていた…。これもよく計算された脚本で犯人探しが面白い。 セビリアの有名なお祭りをバックに、白く幾何学的な画面が不思議な世界を作り出している。ものすごく怖いとか、悲しいとかはないけれど、バーチャルな世界でゲームを解くのが好きな若者たちには受けそうだ。
「オープンユアアイズ」はハリウッドでトムクルーズによるリメークが決定している。 「パズル」も争奪戦がはじまっているらしい。アメナーバル監督もハリウッドデビューをはたし、 作品が来年あたり封切られるようだ。スペインの血は熱く、すごいパワーを感じる。
池畑美穂
「オープンユアアイズ」のスタッフが製作した映画ということでわくわくしながら観ました。しかしながら、また異なった趣で最後までハラハラドキドキしっぱなしでた。SF映画というとどうしてもハリウッド映画を連想しがちですが、そのような固定観念を根底から覆してくれました。