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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
Sept. 6, 2001

『反則王』

 この映画を観るのは3回目である。そして今回が1番面白かった! 考えてみれば公開前に映画祭で2度も観られるというのもすごいが、それだけ韓国映画、及びこの作品が注目されているということ。シネマ・ジャーナル49号で、私もキム・ジウン監督にインタビューさせてもらったけれど、すっかり監督もビッグな存在になってしまった。今、インタビューを申込んでも無理だろうなあ……。

 香港で最初にこの作品を観たとき、正直に言って期待はずれと感じた。それは私が『クワイエット・ファミリー』のどこか冷めたシニカルな視点が好きで、それを再び求めていたからなのだが、ソン・ガンホ演じるデホが対戦相手のレスラー、ユ・ビホに、宿敵の上司に向かっていく姿は、切なくなりはしても笑いはない。前半の軽妙なタッチを引きずっていると、置いてけぼりをくらってしまう。十分面白いけど、満足できない。そんな感想を持っていた。

 しかし3度目に観たら素直に面白いと感じることができた。49号でのインタビューを見てもわかるように、監督は細かいところまできちんと考えておくタイプ。それを採用するかは現場での判断になるようだが、今回改めて観てみて、監督が隅々まで目が行き届かせているのもよくわかった。上司のヘアスタイルやサスペンダー、眼鏡といった小道具もパンチが効いている。それに、どう見てもデホより優秀そうな同僚のドゥシクが、デホとビリを争うほどのダメ行員という設定も共感を呼びそうである。また、ラストの自信を取りかえしたような晴々としたデホの表情も、きっと韓国の観客を元気づけるものだったのだろう。上司との対決の結末は明かされなくても、上司に逆らうことのできなかった人間が立ち向かえるようになる。これだけで十分だ。私はキム・ジウン作品という意識が強すぎて失敗してしまったけれど、本来、素直に楽しめばよい作品であったのだ。

 それにしてもソン・ガンホは素晴らしい。私が初めて彼をスクリーンで見たのは『シュリ』だったが、彼の演技を見て韓国映画俳優の層の厚さを思い知った。キャラクターをきちんと押さえていながら、かといって主役のハン・ソッキュに対して目立ち過ぎることもない。すごくスマートな俳優だなという印象を持った。だから『反則王』での演技くらいでは驚かないが、ため息がでる。もうこれは芸である。何も考えず、ぽかんと口を開けてスクリーンを眺めていればよい。『JSA』よりこちらの演技で主演男優賞をもらってほしかった。

 タイトルは『反則王』だが、中身は正攻法。キム・ジウン監督&ソン・ガンホの強力タッグが知恵と汗をしぼって、お客さんを笑わせます、泣かせます。ハッタリ、こけおどしは一切なし。きちんと入場料を支払って観るべき作品とは、こういうことを言うのだと思った。

『反則王』は9/14まで銀座シネ・ラ・セットで公開中。まだご覧でない方はお早めに!

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(文:まつした)
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