女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
37号 (1996.06)   pp.2--11

特集 第15回香港電影金像奬



第15回香港電影金像奬報告

HAPPY RICE FIELD



 結果的には大方の予想どうり『女人、四十。』のひとり勝ちとなってしまった、 第十五回香港電影金像奨。それでも香港の芸能人が大々的に集う式典は、 そりゃもう派手で大コーフンの連続でした。この号が出る頃にはもう、 読者の皆さんは結果はお分かりでしょうから、このリポートは 間近でスターたちを見られた現場の臨場感を、すこしでも再現という感じで 綴って行きたいと思います。
 今年も会場は、去年と同じ湾仔にある演藝學院での開催(TV放映はATV)でした。 この日、96年4月28日(日)は、昼はリージェントホテルで劉徳華(アンディ・ラウ)、 2時間差で日航ホテルで張學友(ジャッキー・チョン)の記者会見などもあったのに、 両方とも見逃しちゃう運のなさ。(華仔の記者会見は前日にもあったのにそれも見れてない …しくしく)ま、気を取り直して、打ち合わせに向かいます。 6時頃には会場に着いたのですが、まあいるわいるわ、人口で待つ日本の電影迷たち。 ビデオで見た去年の軽く3倍は、いる人数。 会場は、思ってたより地味で小っちゃかったです。受け付けをすませ、 バックステージパスをもらい、自分の中の記者気分を盛り上げます。 それにしても、日本の香港系のマスコミならずミニコミ系の人々が、勢揃いって感じ、 飛び交う日本語。ほかにも漫画家のM田センセイ、評論家のU川センセイ、 ファンタのK沢プロデューサーなどの顔も見えます。 去年は、1階のエスカレーター下のボード前で、到着したスターたちの写真が撮れたのに、 今年は弦楽五重奏のような人たちがその場所で生演奏をしていて、 スターたちはそこには立ち止まることができず、胸に花を付けてもらうと さっさとエスカレーターをあがって行ってしまう段取り。 なので、1階にはひとりだけ残ってもらい、私たちは2階に上がって エスカレーターの上からカメラとビデオを構えることにしました。
 知ってる顔でまず最初に来たのは、喬宏(ロイ・チャオ)、結構声が飛んでます。 (下で待ってる日本のファンと、吹き抜けの2階や3階に演藝學院の生徒さんでしょうか、 ずらっと連なってみている彼らの喚声が人気のバロメーターとなります。) 以後、到着順に目立つところで、金像奨の授賞式で見られるとは思ってもみなかった巫啓賢 (エリック・モウ、ちょっと千昌夫はいってました)、司会の黄子華(ウォン・ジーワー)、 そして許鞍華(アン・ホイ)と爾冬陞(イー・トンシン、うしろ、寝グセが‥) が二人で並んでの登場です。真っ赤なドレスの周嘉玲(チャウ・力ーリン、 なんともいえない妖艶な色気を発散)、江戸紫色のスーツがまぶしい唐李禮(スタンリートン)、 銭嘉樂(チン・カーロ)・銭小豪(チン・シウホウ)ら三兄弟、相変わらずロンゲの陳可辛 (ピーター・チャン)、ケニーB(若い!)、杜可風(クリストファー・ドイル)、 陳慧琳(ケリー・チャン、うわさどうり腰低かった、目すわってたけど)と続きます。 なんか凄い喚声、と思ったら袁詠儀(アニタ・ユン)登場。ばっさりショートカットにして なんだか水前寺清子入ってるけど可愛い。愛想の良い葉童(イップ・トン)と ちょっとおしりの割れ目が見える大胆なドレスの彭丹は一緒でした。 それと薄いオーガンジーのドレスの李嘉欣(ミシェール・リー)は、超キレイ、 本当に美しかったです。(写真を後でみたらけっこう透けてる服なんだけど、 彼女が着るとぜんぜんやらしくみえなかったです)
 そして、下が大騒ぎで、2階・3階からも大歓声と思ったら、周星馳(チャウ・シンチー) のお出まし。割とにこやかでほっとします。2階のサインボード前で許願(クラランス・ホイ) と談笑。(あ、もしかして、その服はゆうばりで見たのと同じ服、お気に入りなのか、 無頓着なのか、彼なりのこだわりがあるのか……。)しかし、ボード前は、今までにない、 カメラマンたちの大賑わいで、もみくちゃになりました。ぜいぜい。それから、 目が大きくてすっごく可愛い梁詠[王其](ジジ・リョン)、普通の人みたいな黄秋生 (アンソニー・ウォン)、大女優の貫禄、蕭芳芳(ジョセフィーヌ・シャオ)は凛々しくて素敵。 (喚声はそうでもないのだけれど、カメラマンたちの群がり度はさすがです) また、髪に一束メッシュの入ったヅラの羅家英(ロー・カーイン)も登場。 背中がぐっとあいたセクシーなドレスの莫文蔚(カレン・マク)はニコニコと感じのいい人で、 日本語をしゃべってくださいという誰かの問いに「どうも、すみません。」 などと答えていました。
 さあそして、さっきの星仔を上回る大歓声は、劉徳華の登場です。やっぱり、 国民的アイドルスターってのをあらためて実感、客の反応も記者の反応も 今回一番だったですもん。ボード前の位置を確保すべく押しくらまんじゅう状態の中、 香港人の女の子とケンカ寸前になりながらたどり着いたのに、途中でフィルムが終わってしまって、 大した枚数がとれなかったのは本当に残念。(もちろん、取り替えるスペースも ゆとりもなし。つくづく、華仔にはついてない…しくしく。) その後、ニンジンジュースのような色のショートカットのマギー・シュウを見送ったのち、 あわてて8時から始まる授賞式のためホールの中に入ります。
 東京グローブ座の様な丸いホールは、あの日本青年館よりも小さくて。 (世紀の祭典がこんなところでいいのかしらん) カメラマン席だった私の座席は、2階席ほぼ中央最前列という絶好のロケーションで、 ステージの上もよく見えるし、1階席にいるスターたちの様子もよくわかります。 ステージの左右の大きなTVモニターに1階席の様子が映るので(CM前に流れる物です)、 みんなの位置を確認します。 前から、4列めの席にマイ・フェイバリット2大スターであるところの周星馳と劉徳華がいるのをチェック。 この列は、なかなか豪華で、ステージを正面に観て、許鞍華、喬宏、喬宏の妻、 爾冬陞、華仔(この二人、隣同士なのに、ほとんど会話なし)、蕭芳芳、蕭芳芳の夫、 爾冬陞の兄二人、星仔、葛民輝(コッ・マンファイ、十円ハゲがたくさん) と固まって座っているのですよ。(そのうえ、星仔の前は成龍)なので、 ステージを見ててもそわそわ4列目も気になる私。 (動きがあるとシャッターを切るのですが、動揺があったせいかほとんど、 クリストファー・ドイル状態の写真ばかりでガックリ) CMの間は、暗くなって、静かになる場内。
 今年の司会は、黄子華(助演男優賞にもノミネート)と、葉玉卿(ヴェロニカ・イップ) と呉君如(サンドラ・ン)の両手に花状態。(しかし、途中から、ヴェロニカいなくなっちゃうし、 サンドラも客席に座りっぱなしで、何だかよく分かりません。) まず、一番最初は、助演女優賞です。 プレゼンターは、昔、懐かしい五福星のメンバーのおじさんたち。 (ただし、サモハンとエリック・ツァン抜き)苗僑偉がやけに若いです。 二つの作品でノミネートされてた、劉冠蘭(去年の受賞者)かなと思っていたのですが、 結果は、『西遊記』の莫文蔚でとってもうれしそう。おじさんたちもうれしそう。 受賞の挨拶で、最後に「多謝!周星馳」と言うのが聞き取れます。ウーム。なんか、 出だしから派手でいいスタートですね。次は、音楽賞の発表。プレゼンターは、 ケニーBと盧冠延(ローウェル・ロー)で『堕落天使』の陳勲奇(フランキー・チャン) と Roel Garcia に決まり。美術賞は、王晶(バリー・ウォン)と朱延平(チューイーピン) という娯楽監督二人のプレゼンターで、受賞は、『夜半歌聲』の馬磐超(エディー・マー)。 そして、服装造形賞は、プレゼンターは、羅家英と周文健で、 なんかとてもおかしいことをいっているらしく、星仔が笑いをこらえてるのが分かります。 結果は、『夜半歌聲』の張叔平(ウィリアム・チョン、去年も受賞)と楊倩玲。 次、撮影賞は、秦沛(ポール・チョン)らがプレゼンターでやはり、 去年に引き続いての受賞、クリストファー・ドイルでした。
 ここで、休憩タイムってわけでしょうか、莫文蔚が、『西遊記』の映像をバックに、 挿入歌を歌います。しっとりした歌声で上手いし情感があって、なかなかよかったです。
 さてまた、授賞式に戻り、今度は新人賞の発表です。プレゼンターは、李麗珍 (ロレッタ・リー)、黄百鳴等4人、ボーっと客席を見ていたら、華仔が振り向いて、 後ろの席の巫さんとおしゃべりする様子が見えました。 もしかしてと思ってカメラを構えると、きたんですよ。ケリー・チャン、ではなくて、 巫さん(巫啓賢)が新人賞受賞。この受賞作『慈雲山十三太保』 は未見だったので思いも寄らなかったんですが。巫さん、なかなか自信満々だったようで、 また映画に出るつもりみたいです。(そういえば、カーレーサーの役をしたCMが、 よく放映されていましたけど、全然似合ってなかったような気がする…しつれい) そして、助演男優賞といきます。プレゼンターは、アニタ・ユンと陳小春 (チャン・シウチョン)の『金枝玉葉』コンビ。 小春くんは、自分もノミネートされてますし去年の壇上の小春くんは、 緊張でガチガチだったらしいけど、今年はトロフィーを掲げて 「多謝!」なんて、冗談かますゆとりあり。 結局受賞は、『女人、四十。』の羅家英で、 またまた、挨拶でたくさん変なこといってるらしくて、場内大爆笑。 (ああ、言葉の壁が……) 次、脚本賞はプレゼンターは、陳友らでまたもや『女人、四十。』の陳文強の受賞でした。 (あ、アンディと羅家英がポッキー状のお菓子のやりとりを。まるで子供みたい。)
 さて、主演女優賞の発表です。プレゼンターは、謝賢と藩虹。結果は、当然のごとく、 『女人、四十。』蕭芳芳。 トロフィーを落としてしまうアクシデント有り。 (左耳が聴こえにくそうでした。)
 ここで、張達明の講演みたいなのがあって、コメディについて熱弁をふるって大ウケ。 また、2度目の歌タイム、巫奇(モウ・ケイ、エリック・モウの弟でCDも何枚か出してる歌手。 ATVの夜中の音楽番組の司会をしてました)が、主題歌賞にノミネートされてる曲を ちょっとずつ歌って行きます。(バックに映画の映像付き)巫さんの弟だけあって(?)、 なかなか聴かせます。この賞のプレゼンターは、梅艶芳(アニタ・ムイ) と張學友だったのですが、アニタの格好がキテレツで誰だかその時は、分かりませんでした。 白髪の腰までのカツラにブルーの鳥の羽のようなつけ睫毛で顔が殆ど見えないし、 黒のオーガンジーのワンピースは下着が透けてるのです。何をイメージして、 こんな衣装になったのか。學友もちょっとドギマギ。 受賞は、『和平飯店』の彰玲 (カス・パン、演唱曾で欠席でしたが)。今年は、華仔 自分がとれるのではと 思っていたんじゃないでしょうか、気持ち寂しそうにみえました。そして、 華やかに新人の三人、陳慧琳・梁詠[王其]・莫文蔚らが、プレゼンターなのは編集賞の発表で、 結果はやっときた『烈火戦車』でクォン・チーリョン。
 さてお待ちかねの主演男優賞の発表です。劉嘉玲(カリーナ・ラウ)& 梁朝偉(トニー・レオン)のラブラブカップルがプレゼンター。(トニーは髪が伸びて、 美しさを取り戻してましたが、カリーナは松田聖子メイクでちょっとコワかった) 今回こそは二人のどちらかが無冠の帝王返上なるかというとこで、 一番気になった賞だったのですが、ああ、喬宏さんにトロフィーは贈られたのでした。 (当然ちゃ当然ですが、…)心なしか、またもや寂しそうに見えた、華仔と星仔。
 気分転換でしょうか、このあと動作設計賞にノミネートされた五つの作品のハイライトのアクションショーとなります。 (唐李禮指揮、谷垣健児さんも出演)。トイレに行って帰ってきたかどうかは分かりませんが、 席をはずしてて戻ってきたと思ったら、周星馳がプレゼンターで壇上に上がります。 シリアスな表情で熱く語ります。身振り手振りが派手で、トロフィーを前にしたその姿は、 まるで受賞した人みたい…なんてね、ぶつぶつ。 (ステージ上の姿見られただけでもよしとしなければ) 受賞の結果は、『紅番區』での成龍&唐李禮。 今度、監督賞は、その成龍がプレゼンターで、またもや 『女人、四十。』の許鞍華が受賞。そして最後、 許冠文(マイケル・ホイ、この人の挨拶が、滅法長くって大熱弁。 毎年、そうらしいけど)がプレゼンターの作品賞で、 11時終了の予定がもうとっくに過ぎていている長丁場になり、なし崩し的にきてしまって、 ここらへん記憶喪失気味でよく覚えてないのですが、気がつくと最後には壇上に、 『女人、四十。』組がずらっと勢揃いして、式典は、やっと終わったのでありました。
 会場から出るとき道に迷ってしまい、通路でインタビューされている成龍を 横目で見ながらウロウロと上行ったり下行ったりして、気がつけばステージの上に 上がっていたのです。(げっ、どうして) 足早に歩きながらおしゃべりしている星仔を見つけ、 カメラを構えたまではよかったけど、望遠レンズが着いたままで、 標準にあたふた付け替えてる間にさっさと行かれてしまう有り様。 (次の日の新聞では、そのまま、裏口から帰ってしまった様なことが書かれてました。) 華仔ももういなかったし、あーあ。
 その後のパーティは、受賞してない人は来ないので気楽に行けました。 (気が抜けたというか)もう、何時間も食べてなかったけど、気持ちはハイで あんまり食欲も感じず、会場についてもボーっとしてしまって。なんだかなりゆきで、 クリストファー・ドイル氏(酔っぱらい)に受賞したトロフィーを持たせてもらえたんです。 (ちょっと自慢)持ちやすいけど結構、重かったですよ。ドイル氏は、 トロフィーをヒョイともって、ふらっと帰って行かれました。(そのまま外へ)
 下馬評どおり『女人、四十。』はとっても強力だったけど、 往年の大女優がプレゼンターで大挙した去年に比べれば、地味な受賞作の割には プレゼンターが小春、アニタ・ユン、アニタ・ムイ、星仔、學友、トニー&カリーナなど、 なかなか豪華だったと思います。(ノミネートされてたのに王家偉、周潤發は欠席) 映画の賞も三つに増えたけど、これだけのメンバーが一堂に見られた金像賞は、 やっぱり別格だったなあという感じ。三つの賞の結果を表にしましたので、 比べてみてください。



  第2回 香港電影評論学会大奨(2/4) 第1回 金紫荊奨(4/21) 第15回香港電影金像奨(4/28)
作品賞 「女人、四十。」 「女人、四十。」 「女人、四十。」
監督賞 爾冬陞「烈火戦車」 許鞍華「女人、四十。」 許鞍華「女人、四十。」
脚本賞 枝安「西遊記」 陳文強「女人、四十。」 陳文強「女人、四十。」
最佳男主角 周星馳「西遊記」 周星馳「西遊記」・喬宏「女人、四十。」 喬宏「女人、四十。」
最佳女主角 蕭芳芳「女人、四十。」・
斯琴高娃「息子の告発」
蕭芳芳「女人、四十。」 蕭芳芳「女人、四十。」
新人賞     巫啓賢「慈雲山十三太保」
最佳男配角   銭嘉樂「烈火戦車」 羅家英「女人、四十。」
最佳女配角   莫文蔚「堕落天使」 莫文蔚「堕落天使」
撮影賞   杜可風「堕落天使」 杜可風「堕落天使」
美術賞     馬磐超「夜半歌聲」
服装造形賞     張叔平・楊情玲「夜半歌聲」
編集賞     クォン・チーリョン「烈火戦車」
動作設計賞     唐李禮・成龍「紅番區」
音楽賞     陳勲奇・R.Garcia「堕落天使」
主題歌賞     彭羚《完全因称》「和平飯店」
その他 95年度推薦作品
「西遊記」「息子の告発」
「烈火戦車」「堕落天使」
「二月三十」「刀」
「月黒風高」「終生大事」
第1回金紫荊奨終生就奨
「石堅」
欧米茄最富創意奨
「二月三十」
 





金像奬開幕前後

流浪花



 香港の春とくれば、今年もやって来ました香港電影金像奬。 取材をさせてもらうのは2回目なので 去年のようなド緊張もなく、 余裕(?)すら見せながらゲストやノミネートされたスター達を迎えることができた。 会場の演芸学院のロビーは、昨年にも増して日本人で溢れかえっていた。 プレスの人もいれば、ファンの人もいるみたい。 でも私のようにプレスとファンの心情に大差ない人もいるんではないかと思ったりして、 おーっと、辺りを眺めている間に一人目の大物、今回の主演男優賞最有力の喬宏がやって来た…。 そろそろ天国への階段、いやエスカレーターを上ってスタンバイするといたしましょう。
 やっぱり何と言ったって『女人、四十。』は何か賞を取るはずだから 喬宏には話を聞きたいがしかし、喬宏の回りは家族が取り巻いていてなかなか近寄れない。 奥さんや子供達と記念撮影はするし、一家団欒。ハッキリ言ってこの家族は楽しんでいる。 何とか潜り込んで喬宏に接触。

—— 6月に日本で映画が公開されますがプロモーションでの来日予定や映画の見所について教えて下さい。
「特に今の所予定はないけど、映画を楽しんでくれればいいと考えています。」

—— 老人痴呆の役はどのようにして役作りをしたのですか?
「やっぱり老人ホームに行ったり、医者の話を聞いたりしたけど、簡単だよ、 僕だってもう老人なんだからね!」

 通訳の横でカセットを回していた私は思わずシャレたおじさんだと思いクスッと笑ってしまった。 すると喬宏は「えっ?わかるの広東語?」「まあ少しだけ」「へえ日本人なのに珍しいね、 すごいじゃない」と言ってくれた。最後に私が「サンキュー」と言うと、 「どういたしまして」と彼が日本語で答えてくれた、私こそビックリして 「えーっ!どうして日本語?」「だって2年間、日本に住んでいたから。米軍にいた時、 九段下にいたんだよ。」とのこと。
 ところで喬宏と奥様はとても仲良く、会場でもその微笑ましい姿が話題となっていた。 やさしい笑顔の小さな奥様が大きな喬宏にいつも寄りそっていた。 喬宏は昔は相当のプレイボーイで奥様を泣かせたそうだが、こんな話がある。
 アメリカのハイウェイを夜、車で走っていた喬宏夫妻。実は喬宏はその時心臓病の 持病を持っていた、折しもハイウェイでその発作が起こった。外は暴風雨である。 喬宏は自分が死ぬだろうと思ったが、その時天に祈ったそうだ。 「死ぬのは仕方のないことだ。しかしどうか家に帰ってから死なせてほしい。 こんな誰の助けもない場所で、自分の妻に私の屍を抱かせるのはあまりに可哀相だ。 私は家に着くまではどうしても死ねない」と。 強い精神力と妻への愛で喬宏は無事家に帰り着き、そしてその後大手術を受け成功し、 今に至っているのだ。二人の仲の良さが納得できるエピソードだ。 背が高くて、堂々として、ちょっとおチャメな喬宏。肩入れしてしまいそうである。 今度会ったら、自分の名前が「ひろし」と読むのを知っているかどうか聞いてみたい。
 金像奬と言えば、女優達の美の競演も見逃せません。正統派から邪道まで一気にいきます。 まずは常連の葉童、ご主人の陳國熹と相変わらずのおしどり夫婦ぶりで登場。 おでこがピカピカ。カメラを向けると極上の微笑みをくれた。「きれーい!」 指のダイヤも「すっごーい」。
 『天使の涙』でのぷっ飛んだ演技に見直して好きになった李嘉欣。 うすいピンクのドレスから真っ白な肌。整ったこれこそ美人だの顔、さすが香港小姐、 「超〜きれい」
 新人賞ノミネートの梁詠[王其]。表情は映画と同じく硬いけど、 頭がちっちゃくて顔は「めちゃかわいい」。
 同じく新人賞の陳慧琳もスリムで「カッコイィ」。
 助演女優賞受賞の莫文蔚は、ステージで歌も披露してくれた。 演技はなまめかしいが、歌声はかわいらしく「初々しい」。
 袁詠儀はまたまたすっきりとショートカットで登場。 カメラマンにもサービス満点で相変わらず回りを和やかにする天才。 「超キュート」
 腰のくびれがいつも何とも「悩ましー」くて、「うらやましい」葉玉卿。 今回は司会者として登場した。彼女の恋人も姿を現したが、 正直言って美男子とは言えない。知ってはいたが現物を見たときギクッとした。 恵美須大黒のような顔をしている。もちろんお金持ちである。 二人を一緒にすると邪道の方に入れなくっちゃならないかと悩んだ私だった。
 正統派「美」の最後はやっぱり蕭芳芳。耳が悪いことから、 いつも少し困った表情に枯れた大人の色気が加わり、うん、渋い「美しい」、 いや「神々しい」。
 さて一方、邪道の王道を行き、私たちの目を十分楽しませてくれたのは、彭丹、 宮雪花、そして梅艶芳。
 彭丹は大陸から来た女優で、お色気ムンムンで売っている、背中の開いたドレスから、 なんとお尻の割れ目が見えている。後ろからカメラを向ける勇気なし。 彼女は体が柔らかく、「一字馬」と言って足をベターっと百八十度開くのが得意なので 私達は彼女を「一字馬」と呼んでいる。この「一字馬」に対抗するのは自称48才の宮雪花。 去年の亜州小姐で超有名になった。こちらは羽がビラビラで端迷惑なデッカイ帽子だ。 この二人距離を保ちながらカメラの前で火花を散らしている。さてどちらが怖いか、 いや美しいか。近寄って見た私の判定は、技ありで宮雪花の勝ち。確かに化粧は濃い。 でも肌が白くてきれいで、整形はしたかもしれないが、元々美人としか考えられない。 「帽子が椅麓ですね、」と話しかけた私に「ふん!あんた私を失望させるわね。 帽子だけきれいなんてさっ。」と返してきた花花姐、失礼しました。 私はあなたに完全に脱帽です。
 さてさて御大梅艶芳、これや立派な白髪魔女伝である。水色のモアモアの睫もすごい。 原創電影歌曲(主題歌賞)のプレゼンターに立った時は、パートナーの張學友も 「今日は何のプレゼンターに来たんだー」と繰り返す。アニタ曰く、 「あんたが結婚したから、一晩で白髪になったのよ!」には場内大喝采だった。
 男性陣にもユニークな面々が登場。
 羅家英は本当に笑わせてくれる。プレゼンターの時も、 助演男優賞を取った時のインタビューまでサービス満点、それがまた真面目な顔して さらっと言うからすごいんだ。最近のコメディ映画には欠かせないバイプレイヤーだ。 恋人(?)の汪明[くさかんむり/全]に向って「僕はやったよ!」とキザなところも 見せてくれた。しかし、普通のカツラの中に白いつけ毛をしているのも、 もうギャグを越えている。
 巫啓賢は新人賞に輝いた。とてもうれしそうで、 インタビューをしても「この賞は本当に励みになります。」 と謙虚でいいお兄さんという感じ。 歌の方に話を向けるとEMIから日本デビューの話が出ているらしい。 うまくいけば来年は日本で劉徳華のように日本語の曲が聞けるかも!
 さて忍者三人組をご紹介します。劉徳華、周星馳、成龍の主演男優賞ノミネートの三人組。 疾風のように現れて、疾風のように何時帰ったのかわからない状態。 こんな豪華な顔が揃っているというのにまるで忍者のように帰ってしまうとは。 誰か早くこの三人に主演男優賞をやってくれ!今年こそはと、成龍なんて オーストラリアから飛んで帰って来て、次の日また戻ったってのに。 『レッド・ブロンクス』で取れなかったらいつ取れるんだ〜!とは外野の声、関係ないけど、 この3人はタキシードではなく、共に中国風の詰襟を着ていた。 襟を正して臨んだってのに残念無念。
 さて、結果的には作品賞、監督賞、主演女優、男優、助演男優、脚本と主要な賞を 総ナメにした『女人、四十。』。確かにこの映画はいい映画だ。この、 実は重いテーマの映画が、ここまで香港人に受けたというのは、喜劇性を盛り込んだこと、 俳優達のしっかりした演技もさることながら、やはり監督の許鞍華の力も見逃せない。 彼女はこの映画をとても愛している風で、 「とにかく(日本の)みんなが気に入ってくれればうれしい」とのこと。 さてその許鞍華、相当のヘビースモーカーらしい。CMの間に受賞式会場から 爾冬陞と脱兎のごとく飛び出して来た。何をするかと思えば灰ザラの横で スパスパとタバコを吸い出した。それを記者に嗅ぎつけられ、タバコを消し、 きまり悪そうに二人は照れていた。厳つい爾冬陞もこの時ばかりは非常にかわいらしかった。

 いかがでした第15回香港電影金像奨幕前幕後レポート。 ちょっぴりコメディ仕立てにしたつもり。 何故なら今回の金像奨は香港喜劇50年がテーマだから。 司会もプレゼンターも特に喜劇人を配していた。 だが実は香港の喜劇界は大きな曲がり角に来ているようだ。 90年代の初め周星馳というビックスターが生まれた。 「無厘頭」というナンセンスなギャグに観衆は熱中した。 97年問題が身に迫った香港人にはバカ笑いさせてくれる救世主が必要だったのだ。 しかしその周星馳以降スターが出てこない。 映画館を満員にしてくれるスターがいないのだ。 喜劇のみならず映画界全体が低調である。 映画人は今みんな危機感を持ってこれを乗り越えようと努力している最中だ。
 広東語のわからぬ私が、満員の映画館で『逃學威龍』を見て、 香港人と一緒に涙を流しながら腹を抱えて笑えた。 あんな興奮を早くもう一度味わいたいと心から願いつつ。では来年まで再見!

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