金像奬開幕前後
流浪花
香港の春とくれば、今年もやって来ました香港電影金像奬。 取材をさせてもらうのは2回目なので 去年のようなド緊張もなく、 余裕(?)すら見せながらゲストやノミネートされたスター達を迎えることができた。 会場の演芸学院のロビーは、昨年にも増して日本人で溢れかえっていた。 プレスの人もいれば、ファンの人もいるみたい。 でも私のようにプレスとファンの心情に大差ない人もいるんではないかと思ったりして、 おーっと、辺りを眺めている間に一人目の大物、今回の主演男優賞最有力の喬宏がやって来た…。 そろそろ天国への階段、いやエスカレーターを上ってスタンバイするといたしましょう。 やっぱり何と言ったって『女人、四十。』は何か賞を取るはずだから 喬宏には話を聞きたいがしかし、喬宏の回りは家族が取り巻いていてなかなか近寄れない。 奥さんや子供達と記念撮影はするし、一家団欒。ハッキリ言ってこの家族は楽しんでいる。 何とか潜り込んで喬宏に接触。
—— 6月に日本で映画が公開されますがプロモーションでの来日予定や映画の見所について教えて下さい。 「特に今の所予定はないけど、映画を楽しんでくれればいいと考えています。」
—— 老人痴呆の役はどのようにして役作りをしたのですか? 「やっぱり老人ホームに行ったり、医者の話を聞いたりしたけど、簡単だよ、 僕だってもう老人なんだからね!」
通訳の横でカセットを回していた私は思わずシャレたおじさんだと思いクスッと笑ってしまった。 すると喬宏は「えっ?わかるの広東語?」「まあ少しだけ」「へえ日本人なのに珍しいね、 すごいじゃない」と言ってくれた。最後に私が「サンキュー」と言うと、 「どういたしまして」と彼が日本語で答えてくれた、私こそビックリして 「えーっ!どうして日本語?」「だって2年間、日本に住んでいたから。米軍にいた時、 九段下にいたんだよ。」とのこと。 ところで喬宏と奥様はとても仲良く、会場でもその微笑ましい姿が話題となっていた。 やさしい笑顔の小さな奥様が大きな喬宏にいつも寄りそっていた。 喬宏は昔は相当のプレイボーイで奥様を泣かせたそうだが、こんな話がある。 アメリカのハイウェイを夜、車で走っていた喬宏夫妻。実は喬宏はその時心臓病の 持病を持っていた、折しもハイウェイでその発作が起こった。外は暴風雨である。 喬宏は自分が死ぬだろうと思ったが、その時天に祈ったそうだ。 「死ぬのは仕方のないことだ。しかしどうか家に帰ってから死なせてほしい。 こんな誰の助けもない場所で、自分の妻に私の屍を抱かせるのはあまりに可哀相だ。 私は家に着くまではどうしても死ねない」と。 強い精神力と妻への愛で喬宏は無事家に帰り着き、そしてその後大手術を受け成功し、 今に至っているのだ。二人の仲の良さが納得できるエピソードだ。 背が高くて、堂々として、ちょっとおチャメな喬宏。肩入れしてしまいそうである。 今度会ったら、自分の名前が「ひろし」と読むのを知っているかどうか聞いてみたい。 金像奬と言えば、女優達の美の競演も見逃せません。正統派から邪道まで一気にいきます。 まずは常連の葉童、ご主人の陳國熹と相変わらずのおしどり夫婦ぶりで登場。 おでこがピカピカ。カメラを向けると極上の微笑みをくれた。「きれーい!」 指のダイヤも「すっごーい」。 『天使の涙』でのぷっ飛んだ演技に見直して好きになった李嘉欣。 うすいピンクのドレスから真っ白な肌。整ったこれこそ美人だの顔、さすが香港小姐、 「超〜きれい」 新人賞ノミネートの梁詠[王其]。表情は映画と同じく硬いけど、 頭がちっちゃくて顔は「めちゃかわいい」。 同じく新人賞の陳慧琳もスリムで「カッコイィ」。 助演女優賞受賞の莫文蔚は、ステージで歌も披露してくれた。 演技はなまめかしいが、歌声はかわいらしく「初々しい」。 袁詠儀はまたまたすっきりとショートカットで登場。 カメラマンにもサービス満点で相変わらず回りを和やかにする天才。 「超キュート」 腰のくびれがいつも何とも「悩ましー」くて、「うらやましい」葉玉卿。 今回は司会者として登場した。彼女の恋人も姿を現したが、 正直言って美男子とは言えない。知ってはいたが現物を見たときギクッとした。 恵美須大黒のような顔をしている。もちろんお金持ちである。 二人を一緒にすると邪道の方に入れなくっちゃならないかと悩んだ私だった。 正統派「美」の最後はやっぱり蕭芳芳。耳が悪いことから、 いつも少し困った表情に枯れた大人の色気が加わり、うん、渋い「美しい」、 いや「神々しい」。 さて一方、邪道の王道を行き、私たちの目を十分楽しませてくれたのは、彭丹、 宮雪花、そして梅艶芳。 彭丹は大陸から来た女優で、お色気ムンムンで売っている、背中の開いたドレスから、 なんとお尻の割れ目が見えている。後ろからカメラを向ける勇気なし。 彼女は体が柔らかく、「一字馬」と言って足をベターっと百八十度開くのが得意なので 私達は彼女を「一字馬」と呼んでいる。この「一字馬」に対抗するのは自称48才の宮雪花。 去年の亜州小姐で超有名になった。こちらは羽がビラビラで端迷惑なデッカイ帽子だ。 この二人距離を保ちながらカメラの前で火花を散らしている。さてどちらが怖いか、 いや美しいか。近寄って見た私の判定は、技ありで宮雪花の勝ち。確かに化粧は濃い。 でも肌が白くてきれいで、整形はしたかもしれないが、元々美人としか考えられない。 「帽子が椅麓ですね、」と話しかけた私に「ふん!あんた私を失望させるわね。 帽子だけきれいなんてさっ。」と返してきた花花姐、失礼しました。 私はあなたに完全に脱帽です。 さてさて御大梅艶芳、これや立派な白髪魔女伝である。水色のモアモアの睫もすごい。 原創電影歌曲(主題歌賞)のプレゼンターに立った時は、パートナーの張學友も 「今日は何のプレゼンターに来たんだー」と繰り返す。アニタ曰く、 「あんたが結婚したから、一晩で白髪になったのよ!」には場内大喝采だった。 男性陣にもユニークな面々が登場。 羅家英は本当に笑わせてくれる。プレゼンターの時も、 助演男優賞を取った時のインタビューまでサービス満点、それがまた真面目な顔して さらっと言うからすごいんだ。最近のコメディ映画には欠かせないバイプレイヤーだ。 恋人(?)の汪明[くさかんむり/全]に向って「僕はやったよ!」とキザなところも 見せてくれた。しかし、普通のカツラの中に白いつけ毛をしているのも、 もうギャグを越えている。 巫賢は新人賞に輝いた。とてもうれしそうで、 インタビューをしても「この賞は本当に励みになります。」 と謙虚でいいお兄さんという感じ。 歌の方に話を向けるとEMIから日本デビューの話が出ているらしい。 うまくいけば来年は日本で劉徳華のように日本語の曲が聞けるかも! さて忍者三人組をご紹介します。劉徳華、周星馳、成龍の主演男優賞ノミネートの三人組。 疾風のように現れて、疾風のように何時帰ったのかわからない状態。 こんな豪華な顔が揃っているというのにまるで忍者のように帰ってしまうとは。 誰か早くこの三人に主演男優賞をやってくれ!今年こそはと、成龍なんて オーストラリアから飛んで帰って来て、次の日また戻ったってのに。 『レッド・ブロンクス』で取れなかったらいつ取れるんだ〜!とは外野の声、関係ないけど、 この3人はタキシードではなく、共に中国風の詰襟を着ていた。 襟を正して臨んだってのに残念無念。 さて、結果的には作品賞、監督賞、主演女優、男優、助演男優、脚本と主要な賞を 総ナメにした『女人、四十。』。確かにこの映画はいい映画だ。この、 実は重いテーマの映画が、ここまで香港人に受けたというのは、喜劇性を盛り込んだこと、 俳優達のしっかりした演技もさることながら、やはり監督の許鞍華の力も見逃せない。 彼女はこの映画をとても愛している風で、 「とにかく(日本の)みんなが気に入ってくれればうれしい」とのこと。 さてその許鞍華、相当のヘビースモーカーらしい。CMの間に受賞式会場から 爾冬陞と脱兎のごとく飛び出して来た。何をするかと思えば灰ザラの横で スパスパとタバコを吸い出した。それを記者に嗅ぎつけられ、タバコを消し、 きまり悪そうに二人は照れていた。厳つい爾冬陞もこの時ばかりは非常にかわいらしかった。
いかがでした第15回香港電影金像奨幕前幕後レポート。 ちょっぴりコメディ仕立てにしたつもり。 何故なら今回の金像奨は香港喜劇50年がテーマだから。 司会もプレゼンターも特に喜劇人を配していた。 だが実は香港の喜劇界は大きな曲がり角に来ているようだ。 90年代の初め周星馳というビックスターが生まれた。 「無厘頭」というナンセンスなギャグに観衆は熱中した。 97年問題が身に迫った香港人にはバカ笑いさせてくれる救世主が必要だったのだ。 しかしその周星馳以降スターが出てこない。 映画館を満員にしてくれるスターがいないのだ。 喜劇のみならず映画界全体が低調である。 映画人は今みんな危機感を持ってこれを乗り越えようと努力している最中だ。 広東語のわからぬ私が、満員の映画館で『逃學威龍』を見て、 香港人と一緒に涙を流しながら腹を抱えて笑えた。 あんな興奮を早くもう一度味わいたいと心から願いつつ。では来年まで再見!
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